ちょっと自分では納得のいっていない部分がありますが、楽しんでいただけたら幸いです。
……わ、気が付けば評価バーに色が。評価してくださった方々、ありがとうございます。期待に沿えるよう努力します。
――――
――
突如として始まったデザイアグランプリ第4回戦。
戦いの最中、ツムリから緊急のブリーフィングが行われていた。
『――事前にお呼び出しできなかったのは、今回のジャマトが“ラスボス”だからです』
「ラスボス……! じゃあ、このゲームに勝てば……!」
タイクーンは建物の陰に隠れながら雑魚ジャマトを狙撃する。
『それではデザイアグランプリ最終戦――“缶蹴りゲーム”を開始しますっ!』
ツムリの宣言と共にルールが開示される。
ラスボスはエリア中央に見える巨大なサボテンジャマト。
本当は小人のような小さな姿だったというが、襲った人々を吸収することで巨大化、現在のサイズへと“成長”してしまったのだ。
ここまで巨大化してしまえば普通サイズの人間では太刀打ちが難しい。巨大なヒーローと言えばMt.レディが有名だが、彼女でなければまともにプロレスもできないだろう。
そんなサボテンジャマトにも弱点が存在する。
それは――足元に設置された缶。
吸収した人々の活力を蓄えているそれをエリア外まで蹴り飛ばすことで、ジャマトを枯らして勝利することが可能なのだという。
(つまり――缶を蹴飛ばした人が、優勝になるっ!)
タイクーンはサボテンジャマトの足元に到着する。
同時にナーゴ、バッファ、ギーツもまた、足元に到着。各々が缶を蹴るタイミングをうかがっている。
「……っ!」
缶の大きさは一般的なエナジードリンクと同程度。変身後の脚力であれば余裕をもってエリア外まで蹴り飛ばすことが可能だろう。
しかしそんな状況だからこそ、お互いに見合ってしまう。
蹴り飛ばした者がデザイアグランプリ優勝となる。ここまでくれば相手の妨害をしようが最後に缶を蹴ったものが勝者、一番先に飛び出してしまうと不利になりかねない。
「――まどろっこしい!」
そんなお見合いの状況にしびれを切らしたのはバッファ。いの一番に飛び出していく。
「わっ! 私だって――」
それに続くナーゴ。
タイクーンとギーツは遠距離武器持ち。虎視眈々とその時が来るのを待っている。
『ツガポキョラサ……』
サボテンジャマトが不可解な言葉をつぶやくと、その体表からぽろぽろと種のようなものをまき散らす。
種は地面に落下すると、むくむくと成長し雑魚ジャマトを生み出していく。
「っ!」
突如として振ってきた雑魚ジャマトを前にバッファは足止めを喰らう。
缶まではあと数歩の所、次から次へと生まれ出る雑魚ジャマトを前に、バッファは苛立ったようにゾンビブレーカーを振るう。
「や~ん! 近づけ、ないっ!」
ナーゴもまた、ハンマーを振り回しつつ応戦している。
「っやっぱ、そう簡単に蹴らせちゃくれないか!」
「ふふ。そういうことだね」
タイクーン、ギーツもまた物陰から援護射撃を行う。
隙を伺い缶を撃ち抜こうとするも、雑魚ジャマトがひしめき合っているため思うように狙いが定まらなかった。
「――このっ! いい加減」
――TACTICAL BREAK!
バッファはゾンビブレーカーを操作、必殺技を放つ。
「吹っ飛べっ!」
雑魚ジャマトが吹き飛び缶への道筋が完成する。
しかし即座に走り出したバッファの頭上に影が差す。
『チャリー!』
「あぐっ!?」
サボテンジャマトは羽虫を掃うかのようにバッファを弾き飛ばす。飛ばされたバッファは壁にめり込み変身が解除される。
「そんな……」
後を続いていたナーゴはあっさりやられてしまったバッファを見て戦慄する。
サボテンジャマトは指先で缶を掴み、爪の先で缶を開く。勢いよく噴き出した中身を飲み干し、大きくげっぷをする。
『ロットアーブ!』
サボテンジャマトは謎の声と共に姿を消した。
残されたプレーヤーたちは、ラスボスにふさわしい強さの相手を前に立ち尽くすしかなかった。
――――
――
ラスボスが逃亡したため、参加者たちは一時撤退。サロンで休息していた。
「ったた……」
牛込は先ほどの攻撃で受けた傷に包帯を巻いている。
「あんな敵……本当に勝てるのかな……?」
缶に触れられることもなく終わってしまったため、葉隠は弱気になっていた。
無数に生み出される雑魚ジャマト、缶に到達しようとすれば即座に気づかれ体格差を生かした防御。巨大ゆえに足元は疎かと思われていたが、十分な反応速度だった。
「……これは聞いた話だけど」
コーヒーを飲んでいたエースは、狐耳を立てながら話し始める。
「かつて、ライダーが全滅して幕を閉じたデザイアグランプリがあったとか」
「「「っ!?」」」
ライダーに変身したプレーヤーは無敵ではない。
一定のダメージを受ければ変身が解除されてしまうし、当たりどころが悪ければ命を落とすことだってある。
「その時に現れたジャマトは、エリア内にいる人々を全て殺しつくして姿を消した」
ジャマトから街の防衛をしているプレーヤーが全滅したとなれば、後はジャマトの思うがままである。
「当然、そのエリアは消滅してなかったことにされた……他の人々が平和に過ごすためにね」
「そんな……っ」
緑谷は人知れず消えていった人々の事を思い、歯を食いしばる。
「もしかして、その時のジャマトって」
「――今回同様、缶蹴りゲームのジャマトだったと聞いております」
話に割って入ってくるのはギロリ。彼は目を伏せつつ洗い終わった食器を拭いている。
「まあ、私が参加し始める前の話さ。安心しなよ、私が居れば問題ないからさ♪」
「……呑気に言ってる場合かよっ!」
余裕を見せているエースに対し、緑谷は怒りの声を上げる。
「僕たちが失敗したら……大勢の人の命が奪われるんだぞッ! もっと真剣に戦わなきゃ……っ!」
「忘れたのかい? これはゲームなんだ。世界を救うのは、ゲームで勝利して願いを叶えるついでに過ぎない」
エースはコーヒーを飲み終えると、背を向ける。狐の尾は不安な感情を表すかのように揺れ動いている。
「君と一緒にするなよッ! 少なくとも僕は……僕は……っ!」
緑谷は啖呵を切ろうとするも、純粋に人助けのためだけに参加していたのかと言えば嘘になるため言葉に詰まってしまう。
拳を振り上げるも、自分も間違っていることに気づき振り下ろせなくなってしまっていた。
「理想の世界を叶えられるのは勝者だけ。綺麗ごとを言っている暇があったら勝つ作戦を考えるんだね」
エースの尻尾が左右に揺れている。
緑谷は拳をぎゅっと握り締め、彼(?)の背中を睨み付ける。
「作戦なら、ある……っ!」
「えっ?」
「っ!」
その発言に驚いたのは葉隠と牛込。
期待と疑念のこもったまなざしを緑谷へ向ける。
「僕が囮になる。僕が奴の注意をひきつけるから、その隙にみんなが缶を蹴ればいい」
自分の勝ちを勘定に入れていない作戦だった。
その上、失敗すれば命も失いかねない危険な作戦だ。緑谷の持つアローバックルの性能では、到底缶を蹴るまで持ちこたえられるとは思えなかった。
「正気? 囮になるってことは、君は絶対に缶は蹴れない。勝ちを捨てるってこと?」
エースが振り返る。中性的なその顔には心底呆れたような表情が浮かんでいた。
常に飄々と笑みを浮かべている彼(?)でも呆れてしまうほどの無謀な策だった。
「捨てたくは、ないさ……でも、これしか方法が」
「君、もしかして自分の命に価値があると思っているのかい? 傲慢だね」
エースは緑谷へ歩み寄り、その胸倉をつかむ。
「君の命は
「……っ!」
緑谷は傷ついたように顔をゆがめる。
ほんの小一時間前、人生で二度目の大きな挫折を味わってきたばかりの彼には酷な言葉だった。
「自分を一番大事にできるのは自分だけだよ。だからそう簡単に捨てようとしない方がいい……誰も、他人の命なんて路傍の石なんだ」
エースはかつてないほどに優しい声色だった。
言葉尻は強く貶すような物言いだったが、“安易な自己犠牲はするな”、と言っているようなものだった。
「……エースさん、本当素直じゃないなぁ」
葉隠はからかうようにエースを肘でつつく。表情は見えなかったが、存分にからかおうという意思が透けて見えていた。
「っいや、これは……」
「――“タイクーンには脱落してほしくない”、って素直に言ったら?」
牛込もまた、エースの意図に気づいたのかニヤニヤしながらからかっている。
「ぅ……別に、それは」
エースは頬を赤くしつつそっぽをむく。
狐耳は動揺するかのように揺れ動き、尻尾は股の下へしまい込まれるように垂れていた。
「じゃ、じゃあ一体……どうすれば」
「……あたしがやる」
牛込はブーストバックルを取り出し、ニヤりと笑う。
「っ君が持っていたのか……」
意中のバックルを見せられ、エースは悔しそうにため息をつく。
「お生憎様。神経衰弱で使わずに温存しておいた甲斐があったわね」
神経衰弱ゲーム。
彼女はあえて最後、ブーストを使わずゾンビバックルで戦い抜いた。
ブーストバックルを使って“ブーストタイム”を使えるのはたった一度きり。ギミックだけの雑魚敵に使うのではなく、ここぞという時のために取っておくのが定石なのだ。
「ブーストの力があれば、ラスボスに見つかっても振り切って缶を蹴れる。チャンスくらいは分けてあげてもいいけど?」
「残念だけど勝つのは私だよ?」
挑発的な牛込の態度に、エースも乗せられるように微笑む。
「わ、私だって!」
葉隠も負けじと主張する。
「っ僕も――負けない!」
皆が勝利のために覚悟を決めたところだった。
サロンに備え付けられた電話が鳴り響く。
ラスボスが再び姿を現したのだ。
――――
――
どこかの遊園地。
本来なら人々で賑わっているはずのそこは、サボテンジャマトによって壊滅されていた。
ジャマトの傍らには大きなサボテンのようなオブジェが出現しており、そこには吸収される間際の人々が拘束されていた。
そして足元の缶はサボテンジャマトにふさわしい大きさまで巨大化。狙いやすくなったが、同時にエリア外まで蹴飛ばす難易度は跳ね上がっていた。
「もうこんなに――」
サボテンジャマトは更に巨大化、雲に手が届くのではないかと思うほどの大きさとなっていた。
その体表からは次々に雑魚ジャマトの種子が放出されており、サボテンジャマトの足元に集結していたプレーヤーたちを苦しめていた。
「ふん! 雑魚は蹴散らすまでよっ!」
――SET
バッファはブーストバックルを装填、起動する。
――ZOMBIE... & BOOST!!
下半身にブーストの装甲を装着。即座に駆けだすと、装甲のマフラーが火を噴く。
『ジャ?』
サボテンジャマトは迫りくるバッファを前に大きく腕を振るう。
「んっ!」
バッファはそれを跳躍して回避、近くにあったジェットコースターのレールへと飛び乗る。
サボテンジャマトはビームを放つことでバッファをけん制、距離を突き放そうとするも、ブースト状態のバッファは走力で攻撃を振り切る。
「もらっ――たぁっ!」
レールから缶の目の前へ飛び降り、右足を思い切り振り抜く。
バッファの蹴りはブーストバックルのおかげで大幅に強化されており、巨大化した缶でも十分にエリア外まで飛ばせる威力を秘めていた。
『――ジャ』
「なっ」
蹴り飛ばされた缶は、ラスボスがあっさりとキャッチしてしまう。巨大すぎるがゆえに、缶が飛んでいったとて手を伸ばせば届いてしまうのである。
『ジャァ~』
サボテンジャマトの巨大な拳がバッファを襲う。
「――っ!」
バッファの体は大きく宙を舞い、観覧車の中心に叩きつけられ、地面に落下した。
『ロットアーブ!』
サボテンジャマトは再び缶の中身を飲み干すと、姿を消す。
それに伴い、暴れていた雑魚ジャマト達も消えていく。
「そんな……ブーストの力でも、無理なのか……?」
タイクーンはバッファが簡単にあしらわれてしまったことに驚嘆、その場で立ち尽くしてしまうのだった。
――――
――
サボテンジャマトは再び行方をくらました。
バッファは幸運にも一命はとりとめており、神殿の診療所で治療を受けていた。
「……っ!」
葉隠は肌が粟立っていることのを感じる。
圧倒的な力を見せつけたサボテンジャマト。缶を蹴ってエリア外まで飛ばすことができれば枯らすことができ、ゲームはクリアできる――たったそれだけのことができず、二度も敗れている。
それも接戦と言うことは無く、軽くあしらわれるかのような、圧倒的な力の差を前に敗れてしまっていた。
「本当に……勝てるの……?」
彼女は震える体を必死で押さえつける。
その表情は見えないが、恐怖に染まっていることは言うまでもない。
「っ……」
「葉隠、さん……?」
サロンで一人震えていると、緑谷が姿を現す。
「……牛込さんの、具合は?」
「重傷だったけど、命に関わる怪我じゃないみたい。でも……これ以上の続行は、厳しいかも」
緑谷の表情は暗かった。
彼もまた、バッファが軽くあしらわれてしまったことに思うところがあるのだろう。
「……っ本当に、勝てるのかな……?」
葉隠はゾンビサバイバルゲームでブーストバックルを使った経験から、その力を存分に理解していた。
身体能力が大幅に上昇し、本当に何でもできるのではないか、勝利できてしまうのではないかと感じるほどの全能感。増強系個性の感覚を疑似的に体感していた。
そのブーストバックルと、更にレアバックルのゾンビバックルを重ね合わせてもなお太刀打ちができない。それは彼女を絶望させるに十分な要素だった。
「私たちも……全滅しちゃう、のかな……?」
心のどこかで勝利できるのではないかと楽観的に考えていた。
前回巻き込まれたときのように、きっと最後には誰かが――もしくは自分が華麗に勝利し幕を閉じるのだと。
そう、間違っても自分の命が危ういかもしれないなど、考えたこともなかった。
「だって勝てっこないよ……っ! ブースト使っても、あんな簡単に」
「だっ大丈夫!」
緑谷は励まそうとしているも、その声は上ずっていた。
「大丈夫……っ! 大丈夫……だよッ!」
「…………」
壊れたレコーダーのように大丈夫と連呼する緑谷を見ても、葉隠の不安はぬぐえなかった。
「大丈夫……っ僕だって、戦ったら世界を変えられた……! 詳しくは言えないけど、変われるきっかけを、掴めたんだから……!」
「……オールマイトから、個性をもらえるって話?」
葉隠に問いかけられ緑谷は目を見開いて動揺し始める。
「どっどこでそれを……っ! もしかして独り言で」
「ごめん、実は盗み聞きしてたんだ」
そんな彼の様子を見て、葉隠はクスっと笑う。不安な気持ちが少しだけ紛れたように感じた。
「すごいじゃん! オールマイトに認めてもらってさ……! もしかしたら、もう戦う理由はないかも、だけどさ」
「え……っ?」
「だって、叶えたい理想って個性の事じゃないの? デザイアカードに、個性を持っている世界にしてほしい、って書いたんでしょ?」
緑谷は静かに首を振った。
「ううん。それも書こうと思ったけど、違うよ」
「じゃ、じゃあなんて書いたの?」
彼は少しだけ躊躇うように口を開き、きつく閉じる。
ゆっくりと息を吐き出し、ようやく語り始める。
「“僕がヒーローになれる世界”」
何を言っているのか理解ができなかった。
ヒーローになる、そんなことはこの超常社会ではとても簡単で子供でも分かることだった。
免許を取得し、プロヒーローとしてデビューする。それだけの事だ。
誰もがヒーローになれる資格があり、その機会がある。
わざわざ叶えなきゃいけないほど、貴重な願いだとは思えなかった。
「僕さ、ずっとヒーローになりたいって思ってた。でも個性が出なくって、母さんに謝られたことがある」
「あっ……」
その時、彼女は理解した。
この世界で“個性を持っていない”と言うことが何を意味するのかを。
どうして彼が“ヒーローになれる世界”を望んだのかを。
「いつかヒーローになってやるって、ずっと頑張ってヒーローの分析してきたけど……心のどこかで無理だって思ってて。“お前にヒーローなんてなれっこない”って、ずっと誰かに言われている気がしたんだ」
個性がない、それは身体能力の一つが欠けているに等しい。
目が見えない、耳が聞こえない、体の一部が無い、そして誰もが当たり前に持っている個性がない。
そんな五体不満足な人間がヒーローを目指すと言えば、なんと答えるだろうか?
無理だ、無茶だ、無謀だ。
全力で止めにかかることだろう。
「だから、葉隠さんがヒーローになれるって言ってくれて、すごく嬉しかった。僕の
「じゃあ……なんで、戦って」
「なりたいんだ。オールマイトみたいな、“みんなを笑顔で助けちゃう”ヒーローに。だから僕は戦ってる……リタイアして記憶を失いたくない、ってものあるけど」
緑谷は照れくさそうに笑っている。
葉隠はその姿を見て鳥肌が立った。同い年のはずなのに、覚悟が違った。自分の願いのために戦い、命の危険が見えて怖気づいていた自分とはまるで違う。
同じヒーロー志望と語るのがおこがましく感じるほど、違っていた。
「そうだよね……! 自分のためじゃなくて、みんなのために……! っ私たちで、みんなを助けよう! 理想の世界を、叶えるついでに」
「そうだね。理想の世界を、叶えるついでに!」
体の震えは気が付けば止まっていた。
葉隠は緑谷共に、サボテンジャマトの攻略法について考え合うのだった。
――――
――
――こんな個性なら、ない方がよかった。
牛込 茜は、個性が発現して以降ずっとその思いを胸に抱いていた。
可愛さの欠片のない牛の角、ちょっとしたことが癇に障る不安定な感情。
普通の人のように過ごせるよう医者から処方された薬を飲めば、途方もないけだるさが体に襲い掛かる。
『――これ、かわいくない?』
薬のせいで、同年代のような純粋で繊細な感情の変化すら許されなかった。
友人に問われても、何が可愛いのか理解できなかった。
『――え~なにそれ、チョームカつく』
怒らないように薬を飲んでいるから、同級生の親子喧嘩の話を聞いても、何に怒っているのかよくわからなかった。
『――すごーい! 牛込さんの個性、すっごいヒーロー向きだね!』
表面上しか見えないから、どれだけ苦しんでいるのか知らないから、何の裏表もない称賛の言葉がかけられる。とても煩わしかった。
どれだけ苦しいか、どれだけ嫌悪しているか、そんな葛藤も知らずに他人は
こんな個性なんてなければよかった。
こんな個性がなければ、普通の女の子のように世界を豊かに感受し、些細なことに笑ったり、怒ったり、自然に過ごすことができるのに。
『――ありがとう……茜』
それでも、唯一よかったと思えたのは、幼馴染を守れる力があったこと。
幼馴染を助けるために戦っているときが、守るために力を振るえているときだけ、こんな使い勝手の悪い個性を持っていてよかったと思える。
(ああ……そっか、あたし……)
個性なんてなければよかった。
毎晩、人知れず枕を濡らし続けた苦い思い出。
(こんな個性でもよかったって、思いたくて)
誰かを助け、守ることのできる
決して持っていてよかった思いたくもない
(なんだ……あたし、
あの日、幼馴染から投げかけられた罵倒。
優秀な個性をひけらかして、凡百な個性を見下して悦に浸っているのだという言いがかり。
もう誰も見下したくなくて、誰かを見下す自分がどうしようもなく嫌で、閉ざしてしまった夢。
『結局自分勝手な理由じゃないか』
幼馴染の声が聞こえた気がした。
(知ってる。あたしは、そういう女だよ)
牛込は開き直っていた。
結局、自分を肯定的に見たいがために人助けをしていた。コンプレックスの塊の個性で人を助ければ、少なくともその瞬間はこの個性でよかったと自己肯定できる。
それでも――
――――
目を開くと、目の前に狐の尾があった。
「……人の物、盗るなよ」
牛込は半開きの瞳で下手人を睨み付ける。
「ふふ。タフだね。もう目が覚めたのかい?」
下手人――エースは動揺するように狐耳を揺らしている。
「……ブーストバックル、使うつもり?」
「ああ。ボロボロの君が使うより、私が使った方が有意義でしょう?」
エースは見せつけるようにブーストバックルを掲げる。
逆転の切り札、ブーストバックル。
既に体力を消耗しきっている牛込が使うよりも、ほとんど万全に近いエースが使う方が、確かに勝算は高いだろう。
「……その根拠のない自信はどこから来るのよ。いいから返して」
牛込が手を伸ばすも、エースはひょいとそれを躱す。
「君こそ、そんな怪我で戦えば危険だろう? 負傷だって度が過ぎれば強制リタイアだ」
「……っ」
彼女は体中に巻かれた包帯に触れる。確かに、これ以上戦えば致命傷になりかねない。
「上等よッ!」
しかし彼女は臆することなくブーストバックルを奪い取る。
「こんなとこで大人しく寝ているくらいだったら、戦って死んでやるよッ!」
「……本気?」
エースは困惑していた。狐耳は垂れ下がり、尻尾は所在なさげに揺れ動く。
「マジ、よ。死ぬかもって、ここで何もしなかったら――あたしは一生あたしを嫌いになる」
牛込は額の角に触れる。右の角は折れてしまっていた。
コンプレックスの象徴ともいえる個性が傷ついた。その事実がたまらなく愉快だった。
「あたしはあたしを好きでいるために戦うのよ。だからあんたは――ちゃんと守られてなさい」
彼女は上着を羽織ると顔を顰める。傷が痛んで仕方ないのだろう。
「別に、あんたたちのために命張るんじゃないの。勘違いしないでよね」
困り果て、呆れたような表情のエースをブーストバックルで示しつつ、牛込は念を押すように言った。
あくまで自己犠牲じゃない、自分勝手な都合で戦うのだから、決して止めるなと。
(あの日も……このくらい開き直れてたら、何か違ったのかしら)
幼馴染と決裂したあの日、彼女は自分を顧みて夢を閉ざしてしまった。
もし、開き直っていれば――自分勝手に幼馴染を助けたいのだと、余計なお節介は承知の上で助けたいのだと開き直れていれば。
きっと、この場に牛込 茜はいなかっただろう。
「勘違いしないで、今回だけだから。
牛込は複数回デザイアグランプリに参加していた。
次の世界、もしくはその次の世界で再び参加者として選ばれれば、まだ彼女の望みが叶うチャンスは見込める。
「ふふ。どうかな? 次も勝つのは私さ」
エースは
――――
――
三度サボテンジャマトが姿を現す。
捕獲した人々は傍らのオブジェに捕らえられ、その活力をじわじわと吸い取られている。
『ジャァ……』
サボテンジャマトは缶に足をかけ、これを蹴飛ばそうとする不届きものがいないか油断なく監視していた。
「――おいラスボスっ!」
バッファはゾンビブレーカーのカバーをスライドさせつつサボテンジャマトの気を引く。
『ジャ?』
「これでも――」
――POISON CHARGE
「くらいなっ!」
――TACTICAL BREAK!
必殺技がジャマトの脛に命中する。
『ジャァ~!』
サボテンジャマトは手痛い一撃を喰らい、よろめくようにオブジェへぶつかる。
その隙を逃さずバッファは突撃、大きく跳びあがるとサボテンジャマトの脳天を叩く。
「ほらっ! 悔しかったら斃してみなっ!」
ジャマトが五体満足では、誰も缶を蹴れない。蹴ったとしてもエリア外に出る前にキャッチされてしまい水の泡となる。
ならば五体満足で失くせばいい。
誰かがサボテンジャマトを攻撃し続け、缶を守れないようにしてしまえばいい。
斃せないにしても、缶をエリア外まで飛ばす隙を作ってやればいい。
『クルクテウ~!』
サボテンジャマトはバッファの目論見通り、頭に血が上り目の前の敵を斃そうと躍起になっている。
――SET
バッファはすかさずブーストバックルを装填、起動させる。
――ZOMBIE... & BOOST!!
「ほ~ら、鬼さんこっち♪」
――READY FIGHT!!
『ピアーブ!!』
オブジェから光の矢が放たれる。バッファはゾンビブレーカーでそれを弾きつつ、距離を詰めていく。
『オダダダ!!』
一際大きい矢が生成される。
「っ!」
――REVOLVE ON
バッファはそれを変形しつつ回避し、再びバックルを起動させる。
――BOOST TIME!!
ブーストライカーが姿を現し、牛モードへ変形する。
背中へ飛び乗り、サボテンジャマトへ駆けていく。
『チャッ』
「折れろッッ!」
バッファはサボテンジャマトの胸くらいの高さまで跳躍、そしてみぞおち付近へ右ストレートを叩きこむ。
『チャリッ』
「フンッ!」
――ZOMBIE BOOST GRAND VICTORY!!
倒れまいと踏ん張るサボテンジャマト。バッファの右ひじに装着されたマフラーが火を噴き、推進力を増加する。
「オラァァッ!!」
競り勝ったのはバッファ。拳を振り抜き、その背後のオブジェもろとも地面に叩きつける。
衝撃は傍らの缶にまで伝わり、それを小刻みに震わせた。
「――今よッ!」
バッファの合図で隠れていたギーツ、タイクーン、ナーゴが姿を現す。
「もらっ――おわぁっ!」
「あっごめんごめん♪」
タイクーンはいの一番に缶を蹴ろうとするも、ギーツが蹴り飛ばしたのに巻き込まれ一緒に飛ばされていく。
「いっけぇっ!」
――HAMMER STRIKE!
ダメ押しと言わんばかりにナーゴがハンマーで缶を殴り飛ばす。
缶はエリアの壁に接触し、宙でとどまっている。
「っとっとと――飛んでけっ!」
――ARROW STRIKE!
ギーツに巻き込まれていたタイクーンは、缶がエリアの内側にとどまっていることに気づき、援護射撃を行う。
矢は缶へと命中、それはエリアの壁を突き破って外へと飛んでいくのだった。
――――
――
断末魔(?)の叫びをあげてサボテンジャマトが姿を消す。
「ってて……これ、誰が勝ち?」
着地を失敗したタイクーン――緑谷は腰をさすりながら皆の下へ戻る。
「最初に蹴ったのは私」
ギーツ――エースは変身を解除しつつ、世界の再構築が始まらないことに疑問を抱く。
「で、私が壁の所まで吹っ飛ばして……」
ナーゴ、葉隠は誰が勝者なのかわからず、ドキドキしながら結果発表を待っていた。
「――まったく、人が体張ったってのに、締まらない最後ね」
バッファ――牛込の変身が強制的に解除され、彼女は近くの建物の壁を背にへたり込む。ベルトからブーストバックルが放出され、緑谷を軽く小突くとどこかへ飛んでいく。
「――牛込 茜様」
どこからかツムリが姿を現す。
彼女の表情は暗く、険しい物だった。
「これ以上の活動は危険なため、貴女はここでリタイア――仮面ライダー失格となります」
「あっそ!」
牛込は悔しそうにため息をつきつつも、その表情は満足げだった。
「タイクーン……
彼女はベルトからゾンビバックルを抜き取り、緑谷を呼びつける。
「へっ、ぼ、僕……?」
「これ、あんたが使いなよ」
戸惑う緑谷に、彼女はゾンビバックルを押し付けるようにして渡す。
「勝つなら、あんたがいいの。受け取りなさいよ」
「……っ!」
牛込は力なく微笑み、その腕がだらりと落ちる。
「ツムリ……あたし、また参加できる?」
「それは、審査の結果次第です♪」
ツムリはあくまで事務的に、機械的な笑顔で答えた。
「そ……」
答えに満足したのか、牛込は静かに瞳を閉じた。
――RETIRE...
――――
――
バッファの犠牲で缶蹴りゲームはクリアしたかに見えた。
「――どうやらジャマトが進化してしまったようなのです……」
神殿へ戻ったプレーヤーたちは、モニターに表示されたジャマトの映像を見ていた。
サボテンジャマトはエリアを急速に拡大させ、飛んでいった缶を回収。
そして飲み込んでしまう。
「……飲み込んじゃいました」
「そんな! これじゃ缶蹴れないよ!」
葉隠は映像を見て狼狽えている。
「蹴れないなら……中から破壊すればいいんじゃないかな?」
「でも、缶蹴りゲームなのに缶を破壊するのは」
エースの提案に対し、緑谷は否定的に構えている。
確かに缶蹴り中に缶を破壊するのはゲームの否定である。
『いいや、彼の言う通り缶を破壊するしかない』
「っゲームマスター!」
神殿に姿を現したのは白いスーツの男。
仮面にフードをかぶっており、その人相は定かではなかった。
「ふふ。元締めのお出ましとは……そちらとしても想定外なのかな?」
『我々の目的はジャマトの殲滅。そこで君たちには緊急ミッションを課す』
エースの問いに答えず。ゲームマスターは指を鳴らす。
するとどこからともなく三つの卵が出現した。
『君たちにはこの卵を成長させ、ラスボスを討伐するためのアイテムを生み出してほしい』
脱落したのはバッファでした。
そしてニンジャも出てきませんでした。いったいいつ出てくるんでしょうねぇ……
次回、デクくんのデザグラ1週目ラスト(予定)です。
ギーツ最新話に追いついちゃったけどどうしよう……(焦り)
オサレなサブタイについて
-
欲しい!
-
硬派なサブタイなしスタイルで!
-
原作の焼き増しならない方がいい!