書くと決意してからあっという間でした。
この話でギーツの原作に追いついてしまったので、今までのような数日に一度の更新は無くなると思います。ギーツを追っかけつつ更新していくので、気長にお付き合いください。
あと、サブタイについてですが、割と好意的な意見が多かったのでつけようと思います。思いつき次第更新していくのでしばしお待ちを・・・
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これは遥か昔。
まだ中国で“光る赤子”が生まれるよりももっと前。まだ日本で戦国武将がしのぎを削っていた時代の話だ。
『――おっ生まれ――っひぃぃぃっ!』
とある村。一人の女性が出産をしており、それを産婆が取り上げる。
ごくごく普通の出産となるはずだった。
『な、なんてことじゃ……っ!』
生まれてきた赤子に人の耳がなかった。その代わり、狐のような耳がついていた。
赤子の腰、本来は何もついて無いはずのそこからは狐のような尾が生えていた。
まさしく狐人間。
『きっ狐の祟りじゃぁぁあぁっ!』
産婆は驚愕のあまり意識を失った。
当時、信心深かった人々は狐のように生まれてきた赤子を祟りだと忌嫌い、その赤子を生んだ母親を呪われた女だと迫害するのだった。
――――
狐人間は周囲の期待とは相反し、すくすくと育っていった。
母親は迫害の結果亡くなっており、彼(?)は天涯孤独の身となっていた。
『化け狐めっ!』
親の残した畑は、気が付けば誰かによって奪われていた。
手入れの仕方も誰も教えてくれず、土地を奪ったことについてもなんの罪悪感も抱いていないようだった。
気が付けば住んでいた家も誰かに奪われ、村の離れにある朽ち果てた小屋が狐人間の住処だった。
腹が減ったとて、誰も食事の面倒は見てくれない。その辺に生えている雑草を口にして飢えをしのぐか、どこかの家の残飯を漁るしかなかった。
『気味が悪いっ! お前にやる飯なんかねぇよッ!』
時折、耳と尻尾を隠して近くの城下町まで足を運んだが、彼(?)が狐のような耳と尻尾を持っていることがばれるとすぐさま追い立てられてしまった。
『おいっ! これはてめえのための井戸じゃねえんだよっ!』
渇きをうるおそうと井戸に手を出そうものなら、思い切り棒でひっぱたかれた。
ろくに飲むものも手に入れさせてくれなかった。
そんな冷たい村人たちを罰するかのように、村では彼(?)が生まれてから不作が続いていた。
野菜はろくに生らず、気が付けば病気で枯れてしまい、種を植えてもわずかしか芽吹かない。
『あいつが生まれてから不作続きだ……疫病神め』
村人はより一層狐人間を責め立てた。
ろくに食えないのはこいつのせいだ、こいつさえ生まれなかったらみんな幸せだった。
狐人間は謂れのない恨みを一身に受け、人間への恨みを募らせていた。
『おい、都にゃ腕のいい坊さんがいるらしいぜ! なんでも、あやかしを自由自在に封じ込めちまうんだとよ!』
どこから仕入れてきたのか、誰かがそんなことを言った。
その僧侶は偶然、村の近くに来ており、村人たちは祟りの原因である狐人間を封印してもらおうと彼を呼びつけた。
『ははは……この“化け狐”を』
『へえ。こいつが生まれてから村は不作続き、殺そうとしたら余計に祟られそうで怖くて』
狐人間は縄で縛られ、余計なことを口走らないよう猿轡をかまされた状態で僧侶に引き合わされていた。
『うむ。それは難儀であったな。どれ、この化け狐が改心しないか対話をしてみようか。そこのお堂を貸してはくれまいか?』
僧侶は狐人間と二人きり、お堂の中で向かい合う。彼は村人が一切近づかないよう人払いをかけていた。
『……お前も、私と
『ん……っ?』
狐人間は僧侶の人のよさそうな笑顔に鳥肌が立った。
『わしもな、不思議な妖術が使えるのだ。物を何かへ閉じ込めておく妖術だ。これでどこぞのお武家様の嫡男を、許嫁をいくつ封じ込め、殺してきたか』
『んッ!』
殺す。狐人間は殆ど言葉を教わってこなかったが、それがよくない意味を持っていることを十分知っていた。
命を奪われる。この男は封印と称して自分を殺そうとしているのだ。
『安心せい。わしは直接手を下したりはせん。どこかに閉じ込め、ひもじさに怯えながら死んでいくだけ……ふむ、やはり気色悪い』
僧侶は狐人間の顔を覗き込み、顔を顰める。
『少しは
こうして僧侶の手によって狐人間はどこかの洞穴に封じられ、その入り口には大きな岩で塞がれてしまった。
だが狐人間の体は恐るべき生命力を発揮した。
封じられて間もなく、体が休眠状態となり水も食料も殆ど不要となったのである。
彼(?)は封じられながら、長い眠りについたのであった。
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――
時は現在に戻る。
デザイアグランプリ最終戦――缶蹴りゲーム。
ジャマトの進化によって缶をエリア外まで蹴り飛ばしても討伐が不可能となってしまったため、緊急ミッションが発生。ゲームマスターによって授けられた卵を孵化させ、キーアイテムを生み出すこととなっていた。
「これが……っ! 最終決戦でやることかよっ……!」
緑谷――タイクーンは卵を片手にジャマトと戦う。バッファ――牛込より引き継いだゾンビバックルを用い、近接戦を主体に戦っていた。
「っ! アローなんかより使いやすいな」
タイクーンはゾンビブレーカーをしみじみと見つめている。
「ってあれ? 卵がないっ!?」
が、見とれている隙に卵をジャマトに奪われてしまっていた。
「ラサツーム……テテウ?」
ジャマトは不思議そうに卵をつついていた。
「っ返せ!」
タイクーンが過保護気味に卵を育てる中、葉隠――ナーゴはその辺の植え込みの上に卵を放置、上着をかけて置いていた。
「寝る子は育つ!」
ナーゴの育成方針は“放置”だった。
卵が狙われないよう最小限の注意を払いつつもジャマトと戦っている。
「――ごらん」
一方、エース――ギーツは遠くで闊歩するサボテンジャマトを卵に見せている。
「あれが私たちの斃すラスボスだ。よーく、その身に焼き付けるんだ」
「えっ英才教育!?」
まさしくその通りだった。生まれる前からその目的を刷り込み、来るべき日に備える。
ギーツは余裕に構えながら、卵に教育を施していた。
「さて、教え込むのここまでとして――」
「わーちょちょちょっ!」
ギーツは卵を上空に放り投げてサボテンジャマトへ銃撃し始める。タイクーンは放り上げられた卵を指差しギーツの肩を揺らしている。
「……ちょっと、揺れる」
マグナムシューターをライフルモードにし、サボテンジャマトの首筋へ照準を定める。
そこは脈打つように波打っており、その下に何かが埋まっていそうだった。
「ふふ。缶はあそこか――はっ!」
狙撃するも、ジャマトの皮膚は弾を通すことは無かった。
「残念。やっぱこの距離じゃ威力が足りないね――ちょ邪魔」
ギーツはタイクーンを押しのけて落下してきた卵をキャッチする。
――SECRET MISSION CLEAR!!
ギーツのスパイダーフォンが鳴動し、ボックスが降ってくる。
蓋を開けると中身はブーストバックル。
「……遅かったね」
彼(?)はそれをいとおしそうに撫でながら回収する。
そうこうしているうちにサボテンジャマトは次の場所へと移動してしまっていた。
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――
「つっっっかれたぁ……」
卵を全力で保護しながら戦っていた緑谷は精も根も尽き果てていた。
「さすがに過保護過ぎない? もう少し自由にさせてあげてもいい気がするけどなぁ!」
「ん、んなことしたら僕の心臓が持たないよ……」
緑谷は母親譲りの心配性を発揮してしまい、卵を後生大事そうに抱えていた。
そんな中、葉隠の持っていた卵に罅が入る。
「っ来た!」
卵が孵化し、中からプロペラのようなバックルが姿を現す。
「これって……」
「――おめでとうございます。プロペラ、バックルのようですね」
ギロリがトレイ片手にやってくる。
「プロペラ……どうやって攻略すれば」ブツブツブツ
緑谷が考察をしていると、卵は滑り落ちてしまう。
「どわぁっ! しまった! 大丈夫!? 割れてな――割れたぁっ!」
「ドリルバックル、のようですね」
卵は落ちた衝撃で孵っていた。緑谷はほっとしながらドリルバックルを手に取る。
ギロリは割れた卵の殻を回収すると下がっていく。
「いいんじゃない? ドリルもプロペラも、うまくやればラスボスを斃せるかもね」
エースはコーヒーをしきりにかき混ぜている。
傍らの卵はうんともすんとも言わなかった。
「エースさんのは音沙汰なし、なんだ」
「ふふ。この子は大器晩成型なのかな?」
エースは卵を持ち上げる。
彼(?)の狐耳は不安な感情を表すように揺れ動く。
「大丈夫。私は勝つさ……勝って、こんな世界を忘れさせてあげるよ」
緑谷と葉隠は手に入れたばかりのバックルを握り締める。
今回ばかりは、二人だけでどうにかしなければならない。そんな予感が二人を襲っていた。
「安心しなよ。最後は私が勝って世界を作り変える。だから……無理しない程度に戦うことだね」
エースの尻尾は、自信がなさそうに揺れていた。
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――
太陽が徐々に姿を現し始めていた。
エースは傍らに卵を置き、精神統一していた。
その周囲には狐火のようなものが漂っており、妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「そろそろ、目覚めてくれてもいいんじゃない?」
ちらり、と薄目を開けて卵を確認するも、卵は相変わらず静かなままだ。
「……どうして、ダメなんだい?」
彼(?)の狐耳は悲しそうに垂れさがっている。
緑谷も葉隠も卵を孵していた。何が違うのかはわからない。想いの強さで変わるというのなら、とっくに孵っていてもいいと思っていた。
「……こんなとき、君ならどうするんだい?」
彼(?)は懐から古びたオールマイトカードを取り出す。
封印を解かれ、衰弱しきっていた自分を助けてくれた恩人。名前も知らない一人の少年。
彼の優しそうな声と、その手の感触をいまだに忘れない。
かつて、狐のような容姿をしているというだけで迫害してきた村人たち。人間の悪意を受け続け、呪い殺してやりたいと思うほどの怒りを抱いた過去。
封印を解かれてもなお、追い立てる者がいれば、彼(?)は間違いなく人類の敵となっていただろう。
人々に恨みを晴らし続ける“化け狐”になり果てていたことだろう。
そうならずに済んだのは、偏に“僕”のおかげだ。
何の悪意も打算もない、純粋なやさしさ。自分と異なる容姿を持っていても受け入れる寛大な心。
せめて、彼には平穏に過ごしていて欲しい。
そしてもう一度会ってお礼を言いたい。
“助けてくれてありがとう”、と。
「タイクーン……君なのかな? 私を助けてくれた少年は」
あれから時は過ぎている。
もし彼が真っ当に成長していれば、丁度緑谷と同い年くらいの事だろう。
「安心して。君の世界は……私が絶対に守るから」
自分のためではない、自分を助けてくれた恩人のために世界を守る。
ジャマトに蹂躙された記憶を消し、何事もない平和な世界を永遠に維持し続ける。
それこそが、彼(?)にできる唯一の恩返しだった。
故に、勝たねばならない。
他の誰にも
「だから……起きてくれよ……っ!」
無機質な卵は、エースの叫びを受けてもなお、変化を起こさないのだった。
――――
――
翌朝。
成長しきったサボテンジャマトによって街は破壊の限りを尽くされていた。
「くそっ! 近づけない――!」
新たなバックルを手に防衛にあたるタイクーンとナーゴ。しかし肝心のボスへとたどり着くこともできず、雑魚ジャマトの物量作戦に押し負ける寸前だった。
「うぅ~これで!」
――PROPELLER STRIKE!
ナーゴはプロペラを回転させ突撃、サボテンジャマトへ肉薄する。
「くっ……まっすぐ!」
――DRILL ZOMBIE VICTORY
タイクーンもまた、ドリルの穿孔力とゾンビの膂力を生かして突撃、サボテンジャマトの胸元へと突撃していく。
『ジャッ』
「「っ!?」」
まるで羽虫を掃うかのような、何気ない動作で追い払われてしまう。
二人は建物をの天井を貫き、地面へと叩きつけられる。
「ジャー」「ジャー」「ジャー」「ジャー」
動けない二人の下へ雑魚ジャマト達が近づいてくる。
「くそっ……まだっ……動けッ!」
ナーゴは攻撃の余波で気を失ってしまっていたが、タイクーンは辛うじて動くことができており、何とか上体を起こそうと必死で体を動かしている。
「ジャ!」
「――はっ!」
乱入してきたのはギーツ。ブーストフォームで雑魚ジャマトを蹴散らしていく。
卵はたすき掛けのようにして抱えている。
「なんて無茶なことを……っ! ゲームで命を落とせば後はないッ! 私が勝つんだから――ちゃんと待ってなよ!」
「……待って、られるかよ!」
――REVOLVE ON
タイクーンは上下を反転させ着地する。
タヌキのようなマスクとゾンビのアーマーは何ともミスマッチなデザインだった。
「襲われている人たちは、
ゾンビブレーカーを杖のようにつき、到底戦える状態ではないにも関わらずタイクーンは立ち向かう。
「悠長に、君の事なんて待ってらんないんだよっ!」
ギーツはピタり、と立ち止まる。
「……そうだね」
そして袈裟懸けに持っていた卵を手に取る。
『オボリチャ! ピアーブ!』
サボテンジャマトが手を振り下ろす。一堂に会しているプレーヤーたちを一網打尽にしてしまうつもりなのだろう。
「くっ……!」
「――はっ!」
それを何とか受け止めようとするタイクーンだが、割って入ってきたギーツによって攻撃が受け止められる。その手には一向に割れる気配のない卵が握りこまれていた。
「ふふ。私は何を日和っていたんだろう? 君の言う通り、悠長に構えてたら世界が終わっちゃう♪」
卵は攻撃を受け、徐々に罅が入っていく。
「さ、とっとと起きるんだ! 寝坊助は――叩き起こされるって相場が決まっているよっ!」
卵が弾け、サボテンジャマトを押し返す。
ギーツの手にはたった今誕生したバックル――モンスターバックルが握りこまれていた。
――SET
すかさずそれを装填。怪物のいびきのようなものが響く。
「さ、ここからが――」
バックルが起動される。
「――ハイライトさ!」
――MONSTER!!
青い、メリケンサックのような武器の付いたアーマーが装着される。
――READY FIGHT!!
ギーツは群がってきた雑魚ジャマトを殴り飛ばし、空の彼方の星に変えていく。
まさにそのパワーは
「よくもここまで粘ってくれたね」
残すはサボテンジャマトの本体のみ。ギーツは発見していた缶の位置に狙いを定め、拳を構える。
――MONSTER STRIKE!
拳に星が集約し、サボテンジャマトへと放たれる。
それはジャマトの体内に潜んでいた缶を破壊し、その余波で巨体をエリアの壁まで吹き飛ばしていった。
――――
――
「――流石はデザ神サマ。僕の出番はなかったか」
運営側のライダー、パンクジャックはクナイと手裏剣の付いたバックル――ニンジャバックルを外して変身を解除する。
デザイアグランプリの参加者が身にまとうサバイバルスーツ姿。七三分けの金髪に嫌味ったらしい表情が特徴的な少年だ。
「やはり彼は主役を張れる強い人間。僕はただの
ニンジャバックルはサボテンジャマトの単独討伐には欠かせないキーアイテム。
彼は万が一プレーヤーが全滅してしまったときに備え、バックアップ要因として待機していたのだ。
「でも、時に
パンクジャックはそうつぶやくと、どこへともなく消えていった。
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――
デザイアグランプリ最終戦、勝者ギーツ――エース。
すなわち、彼(?)は再び“デザ神”となったのだ。
「終わっちゃった、か……」
自動的に、敗者は脱落となり仮面ライダー失格となる。
意識を失っていたナーゴ――葉隠はリタイア処理がされその体を消滅させていた。
「ふふ。だから言っただろう? 私が勝つって」
エースはモンスターバックルを見つめる。
活躍を終えたそれは、すっかり眠りについていた。
「やっぱり、僕には無理だったか……そうだよな。一人しか勝ち残れないんだしな」
「そんなことないさ」
落ち込んでいる緑谷に対し、エースは励ましの言葉を投げかける。
「さっき、君の言葉がなければ私は飛び出せなかった。君がいたから、私は勝つことが出来た――君のヒーロー精神が、私を勝利に導いたんだ」
「はは……敵に塩を送っちゃった、かな」
緑谷は力なく笑っていたが、後悔はしていないようだった。
「……ねえ」
エースは意を決し、懐から古びたオールマイトカードを取り出す。
「あっそれって」
「これ、もしかして――」
目を伏せつつ問いかけるも、既に緑谷の姿はなかった。
足元に落ちていたバックルを拾い、エースは深くため息をついた。
「……大丈夫、また会える。そんな気がするよ」
鐘の音が鳴り響く。
破壊された世界が逆再生のように元へ戻っていく。
デザイアグランプリの勝者は、その望みのままに世界を作り変え、人々の記憶はリセットされる。
こうして世界は救われたのだ。
――――
――
「――んがっ!?」
緑谷は自室のベッドの上で目を覚ます。
なにか夢を見ていたような気がしたが、よく思い出すことができなかった。
「出久っ! 来てるっ! 雄英からっ!」
「来てるって何が……」
「合格発表!」
母から手渡された封筒を見ても、彼は今一つピンと来ていなかったが、おぼろげに思い出し始める。
「……無理だよ。実技壊滅だったし」
部屋に取り残された緑谷は封筒を開けると、映像投影用のデバイスが入っていた。
それを机の上に置くと再生を始める。
『私が投影された!』
始まるのはオールマイトによる試験結果の講評。
筆記試験は合格水準に達していたが、実技試験はヴィラン撃破がたったの4pt。これだけでは不合格は目に見えている。
『――だが見ていたのはヴィランptのみにあらず!』
「へ……?」
追加で開示されたのは陰ながら審査されていた
『――まぁ、ぶっちゃけ評価割れたけどね。緑谷少年、もう少し表情柔らかくね』
「あっ……」
緑谷はキャプチャされた試験中の映像に赤面する。オイルまみれの汚れまみれ、緊張やらなにやらが入り混じった顔は、どこぞの凶悪犯を思わせる邪悪さだった。
さらに、試験の時助けた丸顔女子の直談判やらなにやらの要因が重なり、緑谷の救助ptは60pt――これは上位10人に位置する高得点だった。
『――来いよ。緑谷少年!
「やっ……!」
声にならなかった。
変わろうと思って約一年。その努力がようやく実を結んだのだ。
「――おめでとうございます!」
「とぁぁっ!?」
喜びのガッツポーズを決めようとしていた緑谷の背後から、
白と黒を基調とした服を身にまとい、髪をポニーテールにまとめた女性――ツムリ。
「だ、誰っ!? 不法しんにゅ」
ツムリはテンパって叫びそうになった緑谷の手を取り、手にしていたボックスの中のIDコアに触れさせる。
――その瞬間、彼の脳内にあふれ出す“前の世界の記憶”。
前回のデザグラで失われた命、与えられた言葉、卑劣な悪人たち――それらの記憶が一気に思いだされた。
「……っ! なんで、忘れてたんだ……こんなことッ!」
それは、念願の夢が叶ったことも忘れてしまうほどの衝撃だった。
――――
――
「――じいちゃん、空手教えてよ」
角の生えた帽子をかぶった目つきの悪い少年――出水 洸汰は祖父に教えを乞うていた。
「こら、おじいちゃん困らせないの!」
「いいんじゃよ、信乃ちゃん」
彼の付添出来ていたマンダレイ――本名、送崎 信乃は従甥の我儘をとがめるも、当事者の祖父はにこやかに微笑んでいる。
「でも……この間またぎっくり腰だって」
「なに、素振りくらいはできるわい」
洸汰の祖父――出水
「ほぉ~わたぁ~」
聖拳は気の抜けた掛け声と共に拳を振り下ろす。
瓦には罅一つは言っていなかった。
「……帰る」
「こらっ……おじさん、また来るね!」
馬鹿にされたと感じたのか、洸汰は家を飛び出し、マンダレイもそれを追いかけていく。
「ほっほっほっ。また来なさい」
聖拳は庭から部屋に上がると窓を閉める。
その瞬間、庭に置かれていた瓦が音を立てて崩れ去った。
「やれやれ……あんなかわいい子を置いて、なんでお前は先に逝ったんじゃ……っ!」
彼は仏壇の前に座り込む。
仏壇に飾られた写真にはマリンスーツのようなコスチュームを纏ったヒーロー――ウォーターホースが映っていた。
見れば、仏壇の近くには新聞記事の切り抜き――“血狂い”マスキュラ―の行方に関する記事が供えられている
「……奴は、まだ捕まっておらんそうじゃ。せめて、腰さえやっていなければ……っ!」
出水 聖拳。彼に個性はなかった。
しかしながら、若き日に血の滲むような鍛錬を積み重ねた結果、その拳は並みの個性持ちを凌駕するに至った。
だが、そんな彼も老いてしまった。
数年前にぎっくり腰を発症して以降、腰に爆弾を抱えることとなり、かつての拳を振るうことは叶わなかった。
もし全盛期の肉体を取り戻していれば――
「むっ!?」
不意に、気配を感じ背後へ裏拳を放つ。
「――おめでとうございます!」
裏拳を華麗に躱すのは白と黒の衣装を身にまとった女性――ツムリ。
彼女は聖拳の前にデザイアドライバーとIDコアの収められたボックスを置く。さながら、賄賂を渡す時代劇の悪役のような所作だった。
「厳正なる審査の結果、貴方は選ばれました!」
ツムリはボックスの蓋を外し、中身を示す。
IDコアにはフクロウを思わせるアイコンが描かれていた。
「今日からあなたは仮面ライダーです!」
聖拳は恐る恐るIDコアに触れる。
その瞬間、彼の脳内に“前の世界”の記憶があふれ出す。
――――
孫息子と共に食事をした時だった。
「……なんじゃ、今日はご機嫌ななめか?」
「フン!」
そんな態度をとっている洸汰にマンダレイは済まなそうに頭を下げている。
「……じいちゃん、ヴィジランテだったんだな」
「! どこでそれを」
「ごめん、おじさん……洸汰の同級生のお父さんが
聖拳はかつてヴィジランテとして活動していた。
個性がないため警察にもヒーローにもグレーゾーンとして扱われており、何事もなければ若気の至りで済まされていたことだろう。
だが彼はとあるヴィランの悪行に激昂し抑えが効かなくなり、その拳で殺めてしまった。結果、彼は殺人の容疑で逮捕。ヴィジランテ行為が悪影響となり執行猶予の付かない懲役を受けていた過去があった。
「ほほほ。まあ今更知られて困るようなもんじゃないわい」
「…………」
しかし洸汰の表情は硬かった。
自分の祖父が犯罪を犯していたことに思うところがあるのだろう。
「ふぅむ。こんな状況で飯食っても楽しくないか。また日を改め」
「ジャァ~」
そんな彼らの下へジャマトが出現する。
「っ! ぁっ……!」
即座に個性を発動し避難を呼びかけようとしたマンダレイだったが、ジャマトの剣で腹を貫かれてしまう。
「信乃ちゃん!? おのれぇッ!」
「おじさ……だめ」
聖拳は即座に戦闘態勢へ移行、腰を落とし拳を構える。マンダレイは致命傷を受けながらも、叔父が再び過ちを犯してしまわぬよう制止する。
「ハァッ!」
正拳突きが放たれる。
「ジャ?」
しかしジャマトは何も起こらないことに首をかしげている。
「ジ!」
が、その直後ジャマトは何かに撥ねられたかのように飛んでいく。
「洸汰! 逃げなさいっ!」
「じ、じいちゃ」
「逃げなさいっ!」
聖拳は得意の空手でジャマト達を退けていく。
普段のおどけた祖父の姿しか見たことのなかった洸汰は恐怖のあまり腰を抜かしていた。
「貴様ら! このワシの目が黒いうちは――孫には指一本触れさせんぞっ!」
――――
「……あれは、夢ではなかったか」
全てを思い出した聖拳は深くため息をつく。そしてボックス内に同梱されていた説明書の“理想の世界が叶う”という文字に目が奪われる。
「……もし、ワシが“全盛の肉体”を願えば、それを叶えてくれるのか?」
「ええ。それがあなたの理想であれば……」
ツムリは一礼をすると窓を開け外へと飛び出していく。
「そうか……理想を叶えれば……あいつを、この手で……」
もし腰をやる前の――それよりもっと前、若い日の万全な肉体を手に入れたとすれば――
息子の敵を取れるかもしれない。
聖拳の瞳には悲愴な覚悟が宿っていた。
――――
――
「――やれやれ、今回もどうにか世界は救われたか」
無人のサロン。
ゲームマスターは仮面を外し、そのフードを取り払う。
その下から現れたのはサロンのコンシェルジュ、ギロリの顔。
ゲームマスターの正体はギロリだったのである。
「ジャマトも進化している以上、こちらの審査もより厳正にしなくてはならないか」
ギロリはモニターに映し出されている映像をソファに腰かけながら見つめる。
そこには
「
――――
「これも運命、なのかな?」
エースはどこかのビルの屋上で一人佇んでいた。
デザイアカードに書いた願い、それは『私が雄英高校に通っている世界』
あの日助けてくれた恩人、それが緑谷かどうか確認できないまま前の世界は終わってしまった。
だが、偶然か必然か。
緑谷は雄英高校への進学を決め、エースもまた理想の世界で雄英高校の生徒となっていた。
前よりももっと近くで、緑谷と接することができる。
本当に探し求めていたのが、彼なのかどうか。
「見極めさせてもらうよ。君が、本当に私の探していた人なのかどうか」
狐耳は、楽しそうに揺れているのだった。
従甥っていとこの子供のことらしいですね。ちょっとオリキャラ作ろうと決意してその関係の複雑さに頭パニックでした。間違ってたら修正するのでこっそり教えてください・・・
区切りがよく折角なので、ここまでで登場したオリキャラの名前の由来を書いておきます。
・伴野 優太
苗字は“万能”の響きから。名前はモンハンの害悪プレーヤーとして有名な“ゆうた”から。
・黄金 誠三
黄金製造→おうごんせいぞうの響きから。
錬金術が個性なのでこの名前がいいかと思いました。
・牛込 茜
バッファの代わりだったので牛を思わせる苗字。闘牛と言えば赤が思い浮かぶので、赤にちなんだ名前にしました。
・後藤 睦月
苗字と名前の頭文字は“ご”と“む”→ゴム から名付け。
本当は“自分をルフィと信じてやまない少年が最高のヒーローになるまで”みたいな感じのSSの主人公にと思って温めていましたが、書く機会がなさそうなのでここで放出しました。
ってな感じで名付けています。ヒロアカネームって難しいですね!
では、近いうちにまたお会いしましょう!
オサレなサブタイについて
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欲しい!
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硬派なサブタイなしスタイルで!
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原作の焼き増しならない方がいい!