「…この機体は?やけに安いが…」
「あぁ、この子は不良品なんだ。だから買い手がなかなか現れなくてね……」
「なるほどな。ちなみにどこがおかしいんだ?見たところ、酷い外傷とかは無いように見えるが……」
「それがな、どうやら目が見えないようなんだ」
「目が……そりゃあ買い手もなかなかつかない訳だ……」
「そうなんだよ…。どうだ兄さん、あんた買っていかないか?」
「う〜ん……うちにはもう1人いるからなぁ…。ごめんよ」
「そうか…そいつは残念だ。また来てくれよ」
「また寄らせてもらうよ」
私は生まれつき目が見えない。原因は分からないが、初めて起動された時から何も見えなかった。初めての私のマスターはとても落胆していた。
『高い金を支払ったのに、とんだ不良品を拾っちまった』
"不良品"。何も映らない暗い世界の中で、その言葉は深く私の心に突き刺さった。
次のマスターさん、リサイクルショップ、そしてまた次のマスターさん…。どんどんと私の居場所は変わり、今はきっと古物屋のようなお店に買い取られたのだろう。目は見えないが、耳は聞こえる。だから人の会話等で、ある程度の情報は分かるのだ。
「……すいません、この子、貰ってもいいでしょうか?」
声が聞こえた。落ち着いた、大人の男性の声だ。私のことを言っているのか?やめた方がいい。私は目が見えない。きっと貴方の望む働きは一切できないから…。
「いいけどあんた。その子、目が見えないんだぞ…?大丈夫か?」
「そんな事ですか。大丈夫ですよ」
…ちょっと待ってください。この人、今私の事話してますよね?それで私が目が見えない事を知った上で連れていくって…。どうしてそんなことを…?
「そうか…わかった。じゃあ連れて行ってやってくれ」
「はい。ありがとうございます店主さん。お代は…?」
「お代?そんなの大丈夫さ。代わりに、その子をしっかりと幸せにしてやってくれ」
「…わかりました。しっかりと」
「……いい人に見つけてもらって良かったな。きりたん。幸せにな」
……私が、買われた…?いやでもきっと、あの時は大丈夫と言っても、実際家に置いてみれば邪魔と思って直ぐにまた売りに出すに決まっている…。あんまり期待はしない方がいい。それは前にも経験したから…分かっている。また一時のマスターの元での暮らし…ただそれだけ…。
「…さて、目が見えないのか…。とりあえず家に帰って、起動してみるか」
いよいよ起動される。今まではスリープモードだったけど、しっかりと起動されれば動けるし、喋れる。私の目が何かを映すようになる訳では無いけれど…
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「よし、起動準備は整った。これでちゃんと起動するはずだが…」
「…《起動完了》東北きりたんです。マスター。よろしくお願いしますね」
仕組まれた挨拶をする。もう何度目か分からないが、この感覚にはあまり慣れない。暗い世界は変わらないのに、脳が覚醒する感覚だけがある。あまり好きじゃない。
「おはよう。きりたん。今日から僕が君のマスターだ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします。…早速ですがマスター。私は目が見えません。今はマスターの声が聞こえる方向からどこにいるか分かりますが…見えはしていないので、マスターの顔を見る事もできません。それでも…それでも大丈夫ですか?」
「そんなこと、僕は気にしないよ。目が見えないだけだろう?」
「だけと言っても…」
「大丈夫。気にしないから。それよりほら、ここがきりたんの部屋だよ…って言おうと思ったけど、何か事故があっても怖いし、僕と同じ部屋でいいかな?」
「あ…えっと…はい。それについては問題ないです…」
「よし!きりたんの用のベットとか、今こっちの部屋に持ってくるよ。危ないから、ちょっと避けててね」
「…あの、マスター。どこに避けていれば…」
「あぁ、ごめんね。こっちだよ。こっちにおいで。ここに僕のベットがあるから、そこに座っててほしい。そこなら安全だから」
「…ここですね。わかりました。マスター、気をつけてください」
「ありがとう。大丈夫だよ。僕は鍛えてるからね」
「…あの、マスター…。もし、もしも嫌じゃなければ、私のベットはマスターのベットの近くがいいです…」
「近くでいいのか?そうか、目が見えないと不安だもんね。わかった。近くにしておくよ」
「ありがとうございます…」
マスターは、今きっと私の為に重いベットを動かしている。どうしてだろう…信用していいのだろうか…。もしかしたら本当にここで暮らしていいのだろうか…。分からない。こうして優しくしても、そのうち諦められて、また売られてしまうかもしれない。そうしたらもう…きっと買い手はつかない…
ここにいられるように、この人を失望させないように、私にできる最大限のことをやらなきゃ…。
「…よし。きりたん、設置し終わったよ。あれ…?どうしたの?」
「…あ、いや、すいません。すこし考え事を…」
「そうじゃなくて…どうして泣いてるのかなって…」
「私今、泣いてました…?すいません、なんでもないです。大丈夫ですよ」
「そっか…。何かあったのなら、遠慮無く言ってきてね」
「はい…ありがとうございます」
「それじゃあきりたん、家の中案内するから、おいで」
「はい。今行きます」
「危ないから手繋いで行くよ。大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。大丈夫です」
「良かった。それじゃあこっちは…」
この人はきっと大丈夫。信用しても…大丈夫。私をまた売ったりはしないだろう…そんな気がする。今までのマスターとは何か違う。何かは分からないけど…。この気持ちが、ただの思い違いじゃない事を願う…。今は、とにかくそれを願う…。