盲目なきりたんのお話【完結】   作:ずんたんぽ。

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2話

「おはようございます。マスター。あの…昨日はありがとうございます」

「おはようきりたん。大丈夫だよ。それより、ちゃんと寝れた?」

「えっと…はい。しっかり寝れました」

「それはよかった」

 

この人はきっと優しい人だ。喋り方もそうだし、私が怖がったりしないようにがんばってくれているのがとても伝わってくる…。だったら私はこの人の為に少しでもなにかしてあげないと……。

 

「あの…マスター。私にも何か出来ることはないでしょうか…?」

「出来ることか…。そうだな。何もしなくて良いよ」

 

何もしなくていい…。それは私が盲目だから、何も出来ない事を気遣っての言葉でしょうか…?

 

「いえ、目が見えなくても、出来ることはあるかもしれません…!だからその…色々と言ってくれると…私も嬉しいです…」

「そうか…う〜んそうだな…。じゃあ、僕のマッサージでもして貰おうかな」

「へ…?」

「昨日色々と運んだからね。少し体が痛いんだ。どこかに肩を叩いてくれる子でも居たら嬉しいんだけど…」

「わ、私がやります!マスター!!」

「本当か。じゃあお願いするよ」

「痛かったら言ってくださいね…?ここら辺ですか…?」

「あぁそこらだ。うん。上手いよ。ありがとうきりたん」

「いえ…このくらいの事は私でも…」

 

やっぱりこの人は優しい。わざわざ私にも出来る事を分かりやすく要求してくれた。この人は、きっと信用しても大丈夫…。あの時のそんな気持ちは、思い違いじゃないと思う。だって、こんなにも私に良くしてくれているんだから。

今までのマスターの事は…忘れる。私にとってのマスターはこの人が初めて…。そう思うようにしよう。

 

「マスター…」

「ん?どうしたの?」

「私を買ってくれて、ほんとにありがとうございます…。目が見えないのを分かった上で…」

「良いんだよ。あんなお店に1人じゃ、寂しいだろ?それに僕も一人暮らしはそろそろ嫌だったんだ。きっとあのお店に行く前にも色々あったんだろうけど…それは聞かないでおくよ」

「ありがとうございます…」

「うんうん。ほらきりたん。肩叩きの力が弱くなってるよ?もっと強く叩いて欲しいな」

「このくらいですか…?」

「そうそう。そのくらい」

「マスター、ほんとに鍛えてるんですね。肩たたいてても分かります」

「1人じゃ暇だからね、他にやることがないんだ。あ、僕が筋トレしてた部屋、あの部屋は色々ころがってて危ないから近づかない方がいいからね。怪我しちゃ良くないから」

「…ありがとうございます」

「…さて、そろそろ僕も仕事に出かけないと」

「あ…もう良いんですか?」

「本当はもっとずっとこうしていたいけど…仕事には行かなきゃ行けないからね」

「そうですよね…ごめんなさい」

「いいんだよ。今日はなるべく早く帰ってくるようにするから、待っていてね」

「…はい。お仕事、頑張ってください」

「ありがとう。…大丈夫だよ。ちゃんと帰ってくるから」

「えっ…?」

「目は瞑ってても、不安そうな顔してることくらいは分かるよ?大丈夫。僕は絶対帰ってくるから」

「…っ!ありがとう…ございます…」

「じゃあ、行ってくるね。留守番、よろしくね」

「…はい、任せてください。行ってらっしゃい、マスター」

 

初めて、頭を撫でられた。というか、初めて人の役にたてた。マスターは喜んでいた。私が来たことに対して。マスターも、ずっと1人だった…?じゃあ、私と同じ…。だったら、私がマスターを寂しくしないようにしないと…!

大丈夫…。あの人は、あのマスターは帰ってきてくれる。どうしてもそのまま置いてかれてしまうんじゃないかって心配になるけど…あの人は絶対に帰ってきてくれる。現に、私の電源を落とさずに行ってくれた。

前のマスターは仕事に行くと言って、私の電源を落とし、そのまま売りに出してしまった。電源を落とされれば音も聞こえないし、意識もない。だからどこで何をされてるか全く分からない…。それを利用して、私は売られてしまった。

でも今は違う。しっかりと意識もあるし、音も聞こえる。だから、あの人は本当にお仕事に出かけたのだろう。そして、私に次の仕事、"留守番"を任せて行ってくれた。

私は目が見えないけど、私の頭を撫で、優しい声で留守番を頼んだその時のマスターの顔は、きっと微笑んでいたに違いない。何故か、それは確信できる…。

 

「静か…」

 

マスターが居ない空間は、とても静かだった。

暗くて静かな時間は、私を不安な気持ちにさせる。昨日ものを運んだ時に教えてくれた、ラジオでも付けよう。

そうでもしないと、不安な気持ちになってしまう。そんな気持ち、抱く必要も無いのに。

多くのニュースがラジオから放送される中、ひとつ、気になる言葉が耳に入った。

 

《2035年の世界情勢は…》

「20…35年…?」

 

今私がいる世界は、私が認識してる2025年の世界では無く…10年後の、2035年らしい…。

どうやら、起動と終了を繰り返しているうち、かなりの時間が経っていたようだ。もしくは、私が気付かぬうちに電源が落ちて、そのまま10年程経っていたか…。

どちらにせよ、今の世界は、私の知る世界ではないということ…。

 

「マスター…早く帰ってこないかな…」

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