盲目なきりたんのお話【完結】   作:ずんたんぽ。

4 / 8
4話

「…えっと、マスター。は、入りますよ…」

「どうぞ。そんなに気にする事ないよ」

「…目は見えなくても、恥ずかしいものは恥ずかしいんですよ…?」

「そうかそうか。そこ、椅子置いてあるから危ないよ。気をつけてね」

「…ま、マスター…どこですか…?声が反響して場所がわかんないですマスター…」

「はいよ、手掴んで」

「ありがとうございます…」

 

結局、一緒にお風呂に入ってしまった。緊張する。

マスターの声も、いつもより優しく聞こえる気がする。気のせいかな…。

 

「きりたん。そこにイスとかあるから…。場所わかる?」

「えっと…これですか?」

「そうそれ。シャンプーとかは、きりたんから見て左前に置いてあるよ」

「ここですね。ありがとうございます」

 

マスターは分かりやすく説明してくれる。最初は恥ずかしかったけど、今はもう大丈夫だ。緊張や恥ずかしさよりも、心地良さが大きい。今までこんな事、経験したこと無かったから。

 

「マスター、お背中流しますよ」

「ほんとか?ありがとう。頼むよ」

「任せてください」

 

マスターの背中はとても大きかった。鍛えていると言ったけど、それ以上に、大きく感じた。声だけでは、そこそこの歳を迎えた感じの大人の男性に感じたけど、いざ触れてみると、思ったよりも若いかもしれない。

目が見えない分、変なことに目が映らなくて良い…。この目が見えない体にも、少しだけ、いい所はあるのかもしれない。

いや、目が見えなかったら、そもそもこのマスターと出会うこともなかっただろうか…。

でも、もし叶うのなら…。いつか、マスターのお顔を見てみたい…。そう思ってしまう。

 

「きりたん、ありがとう。体が冷えるだろ。お湯に浸かっておきな」

「ありがとうございます」

 

マスターはどんな顔をしているのか。もし、目が見えるようになったのなら、一緒に色んな場所にお出かけもできるのだろうか。

想像するだけで、少し、にやけてしまう。

 

「…ふふっ」

「どうしたの?」

「あっいや…なんでもないです」

「そうか…。僕は先に出ているよ。お風呂上がったら、正面にかけてあるタオル使ってね」

「ありがとうございます、マスター。もうちょっと浸かってからでもいいですか?」

「いいよ。ゆっくりしておいで」

 

足音が離れていく。急に耳が聞こえるようになる。

水滴の落ちる音、湯船からお湯が溢れる音、お風呂特有の、空気が揺れる様な音…。マスターが居ないだけで、とても静かに感じる。

 

「…あ〜…」

 

声もとても反響する。さっきまでも同じように喋っていたはずなのに、さっきよりよく響き、すぐに消えてしまう気がする。

ある程度暖まったら、上がろう。そう思った。

 

「お、きりたん上がったんだね。そうそう。プレゼントだ。そこの椅子に座って待ってて」

「…はい、分かりました」

「ふふ。きりたん喜んでくれるかな」

「マスターに貰ったものなら、なんでも嬉しいですよ」

 

実際、私に何かをプレゼントしよう。その気持ちだけで十分なくらいに嬉しかった。

 

「きりたん、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」

「痛いのは慣れてますから」

「良しって言ったら、目を開けてみて」

「…?分かりました」

 

「…よし、良いよ」

「……っ!!」

「どうかな?部品が売っていたからもしかしたらと思って繋いでみたんだけど…」

「マスター…!!」

「良かった。その反応から見るに、成功したみたいだね」

「マスターの顔が…見える……!ありがとう…ございます…!!」

「ちゃんと繋がってよかったよ。とりあえずでの部品だけど…ちゃんと見える?」

「はい…!とても良く見えます…!本当にありがとうございます!マスター!」

「よかったよ。きりたんが嬉しそうで何よりだ」

 

マスターが私にくれたもの。それは他のVOICEROIDの部品だった。

マスターはそこそこ機械系には強いらしく、部品販売されているお店を見つけ、わざわざ私の為に買ってきてくれたのだ。

 

「ただ、ごめんよ。僕の技術不足のせいで、まだ色は無いはずだ」

「色なんて…そんなのいりません…!私はこうしてマスターのお顔を見ることができただけでも…それだけでも幸せです!!」

「いつか、いつかきっと。しっかりと見えるようにしてあげるからね」

「…!ありがとうございます!!」

 

マスターは優しい。この部品も、きっと高かっただろう。VOICEROIDは機体はもちろん。部品すらかなり高額の品ばかりだ。

それを気にかけさせないために私に言わず、ただ私が感動しているのを見て笑っている…。マスターの優しさが強く伝わってくる。

 

「マスター…これからは、なんでも言ってくださいね。視界を貰ったからには、しっかりとマスターの為に働きますから!」

「ありがとう。でも、きりたんには僕の傍にずっと居てくれるだけで十分だよ」

「でも…」

「いいんだよきりたん。その目だって、僕が勝手な判断でつけた、ただのお節介とでも思っていてくれ」

「…そうですか…」

「そんな残念そうな顔をしないでくれよ。僕はきりたんが嬉しいのなら、それで十分なんだよ」

「分かりました…!」

 

マスターの傍に、ずっといる。

それがマスターの望むことなら…私はいつでも、マスターの傍にいる。

この目を貰った事に誓って。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。