あれから2日が経った。
私は色の着いた世界に慣れて、色についての認識も一般的なものと同じようになった。
マスターは活動家として動き、私以外にもボイロを保護しているようだ。私程長期になることは珍らしいし、そもそもここまで長くなると別の人の所へ移すという。やっぱり私はマスター自身の気持ちで買われたのだと、再認識させてくれる。
「マスター。私散歩に行きたいです」
「散歩?いいよ。行こうか。丁度仕事もひと段落着いたところなんだ」
「ありがとうございます。この目で見える世界にも慣れてきたので、外の景色に触れてみたかったんです」
「なるほど。アイツも遠くを見るようにって言っていたからね。いい事だ。早速行こう」
「はい」
マスターは私が言う事を嫌な顔ひとつせず一緒にやってくれる。散歩だって、マスターからしたら楽しいことでも無いはずだ。それなのに、わざわざ私の為に仕事の手を止めて、一緒に来てくれる。
「…マスター、私の事に付き合ってくれてありがとうございます」
「いいんだよ。きりたんがこうやって色々な事をやりたいって言ってくれると嬉しいからね」
「…でもマスター。私と散歩なんてしても楽しくないですよね…?」
「いや、楽しいよ」
「でも…」
「きりたんは僕と散歩するの嫌かい?」
「嫌じゃないです!!とっても楽しいですよ!」
「ふふ。ありがとう。僕も同じ気持ちさ」
「…じゃあ、マスターも楽しいってことですね!」
「うん。こうして一緒に歩けるようになった事、君がそうして嬉しそうに笑っている事、全部が嬉しいよ」
「ありがとうございます、マスター…!あ、見てくださいマスター!ほら!町が全部見えますよ!」
「ホントだね。もうだいぶ歩いてきたみたいだ」
「マスターマスター!あれ、私達のお家ですかね?」
「ん?どうだろうな…。形は似てるが…。僕らの家はあっちじゃないか?ほら、近くに橋もある」
「確かに、あっちの方が近いですね!」
こうしてマスターと一緒に外を歩き、景色を見る。私の夢だった。それが今、叶えられている。
これも全て、マスターとマスターのご友人のお陰…。感謝してもしきれない。
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「よし、今日はちゃんと連絡入れたじゃねぇか」
「怒鳴られるのは嫌だからね。じゃ、今日はよろしく頼むよ」
「任せとけ。俺がやるからには絶対成功させてやるよ」
「心配しないでいいよきりたん。彼の技術は本物だから」
「はい…それは前に来た時に分かっているので大丈夫です…。ただ…」
「…いよいよ自分が普通になるって事に緊張してんだろ?」
「…はい」
「そういう奴は多いんだ。俺も今までお前のような奴を沢山直してきたが、みんな同じような事を言っていた。だが、みんな終わった後にゃ今までの顔が嘘のようにニコニコして帰って行った。だから、お前も後の事なんか気にする必要ねぇって訳だ」
「…そうですね!マスターのご友人なんですし、心配することないですよね!」
「話が分かるじゃねぇか!それなら、さっそくやるが…大丈夫だな?」
「…はい!大丈夫です!」
「今と視界が変わる訳じゃねぇが、あくまでも今のは外付けのデバイス。見える高さや奥行の認識に誤差があると思うが、その位は我慢してくれ」
「はい、今までと比べたら、そんなのなんてことありません!」
「よく言った。じゃあ、落とすぞ。次目が覚めた時は、もう全部が終わってる時だ」
…そして私の意識が途切れる瞬間、今までの日々が走馬灯のように流れてきた。マスターと出会った日の事、マスターと一緒にお風呂に入った時の事、マスターに、初めて外部デバイスを付けてもらった時の事、世界が色付いた日の事…。
とても長いようで短い時間だった。あっという間だった。マスターと出会ってからは、今までが嘘だったかのように思える日々だった。だけど、今までの暗い過去は嘘じゃないし、私の中に記憶として残り続けるだろう。
だけど、マスターとの記憶はそれ以上に大きく、私に残り、私を励まし続けてくれるだろう。
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「…きりたんは大丈夫なのか!?」
「うるさいな、お前は俺の腕が信用出来ないってのか?」
「信用はしている!しかし!!」
「ったくうるせぇな…。黙って待っとけ。そのうち目を開けるだろうよ」
…声が聞こえた。酷く慌てた、男性の声。それに、ちょっとイラついているような声も。
私はこの声を知っている。私のマスターの声だ。
「…おはようございます、マスター」
私は目を開け、マスターに向け、微笑んだ。
「!!きりたん!!目は正常か!?僕が誰か分かるか!!?」
「私の…ただ1人のマスターですよ」
「…!!あぁ…良かった…!!」
「…コイツ、お前が目覚める予定の時間を超えても起きねぇから、ずっと心配でならなかったみたいだぞ?」
「そうなんですか?マスター」
「そりゃそうだろう!もしもの事があったら…!」
「大丈夫ですよマスター。私はマスターの傍にずっといるって、言いましたよ?」
「…そうだね、戻ってきてくれてありがとう、きりたん」
「…はい」
そう言い、マスターは私の事を抱きしめた。優しく、力強く。
私の事を抱きしめながら、マスターは静かに泣いていた。マスターが涙を流すのを初めて見たが、これは私の為に流してくれている涙をだと、すぐに理解出来た。
「ありがとうございます…マスター」
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「…まさか、お前ともあろうやつが泣くなんてな。らしくねぇ」
「君もそのうち分かるようになるさ…」
「バカにすんじゃねぇ。…とにかく、ちゃんと直っただろ?」
「…あぁ。やっぱり、君は最高の技師だ。ありがとう」
「当たり前だ。どうだきり子、目の調子は」
「…あ、はい。全く問題ないです!ありがとうございます!!」
「今の間はなんだ」
「きり子って…私の事かなって」
「お前以外に誰がいんだよ」
「彼なりの友好関係を示すやり方なんだ。許してやってくれ」
「…呼びにくいだけだ」
「そうなんですね。ありがとうございます!」
「…ま、またなんかあったら来いよ。なんでも直してやる」
「はい!」
「…用が済んだなら帰るんだな!お前らが仲良くするのは、自分の家でやりな」
「あぁ、わかった。ほんとに、本当にありがとう」
「ありがとうございます!」
「いいって言ってんだろ?ほら、早く帰りな」
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マスターのご友人の元を離れ、マスターと帰路に着く。初めて会った時とは違い、手を繋いで。
「…そういえば、きりたんがしっかりと目を開けているところ、初めて見たな」
「そうですね。今まで見えてもいないのに目を開くのは違和感があったんです。だからずっと閉じてたんですけど…」
「綺麗な目だね」
「…そんなこと言っても、私の目なんてただのレンズですよ?そこら辺のちょっと高いカメラと似たようなものです」
「そうかな?僕はそんなふうに思えないが…」
「…でも、ありがとうございます。マスターにそう言って貰えると嬉しいです」
「それは良かった。ほら、見てご覧。星が綺麗だよ」
「…わぁ…!ホントですね…!私、星って初めて見たかもしれません!!」
「…そうか、今までこんな時間まで外に出たこと無かったもんね。初めて見た星空の感想はどうだい?」
「えっと…キラキラしてて……綺麗です!」
「素直な感想だ」
そう言いながら、マスターは笑った。何が面白かったか分からなかったが、嫌な気はしなかった。そして、私も気付かぬうちに笑っていた。
マスター夜空を眺め、一緒に帰る。
他のボイロからしたら、なんて事ない日常。そんな事、買われてすぐに経験するようなことだと思う。だけど、私にとっては違う、"憧れ"だった。
なんて事ないような事ができてる。それだけで私は幸せだった。
今までに無いくらい、楽しかった。
この嬉しさがずっと続く。そう思うと、もっともっと、私程度には表現しきれないほどの幸せが襲ってくる。
「マスター。私、マスターに買われて良かったです!!」
私は、本当に幸せなVOICEROIDだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
『盲目なきりたんのお話』はこれにて完結とさせていただきます!!
絶望、悲しみの底にいるようなきりたんが、どんどんと幸せになっていく物語…。
書きたい話をかけて、私としては満足です。
短い話でしたけどね……。
作中、文がおかしかったりあったと思いますが、これからの投稿でそういうのも減らしていくつもりです!!
最後に、このお話を読んでいただき、本当にありがとうございました!!
エンディングはどちらがいいですか?
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悲しいエンディング
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幸せなエンディング