U.N.オーエン英吉利魔法界異変   作:喚く ドードー

3 / 3
列車、組み分け、授業

 

九月一日。

私は、ロンドン駅に来ていた。

 

「可愛い子には旅させよ、か。楽しんで来るといい、フラン」

「思っても無いことを言わなくていいのよ、お姉様」

「何を言う。私からしてみればいつだってフランは可愛い妹さ」

 

飄々と笑うお姉様は、実際そんなこと思っていないのだろう。見送りに来たのだって面白半分で、現に私の事より駅の内部の方が気になるようだった。

 

「妹様、何かあればご連絡をください。直ぐに美鈴を向かわせますので」

「大丈夫よ。美鈴より私の方が強いもの」

「その点は全くもってその通りですね」

 

美鈴が居たらそんなぁ、なんて情けない声をあげてそうだが、生憎今日は留守番だ。ここに居るのはお姉様と咲夜、アリスだけ。魔理沙は残念ながらこちらの世界に来る事は叶わなかった。代わりに、私だと思って大事にしろよ、なんて冗談と共にリボンをプレゼントしてくれたが。

 

「同行者って、やっぱりアリスだったのね」

「私じゃ不満かしら?」

「そんな事ないけど、同行者って何するの?」

「ホグワーツに行ったら寮生活だからそんなに直接的には関わらないと思うけど、基本的にはフランの生活のサポートね。こっちの常識に関する質問とかもそうだし、元ホグワーツ生だからホグワーツの生活についてもアドバイスできるわよ」

「それは確かに助かるわ」

 

成程、やはりアリス以外に適役は居ないだろう。幻想郷でホグワーツ生なのはアリスとパチュリーだけだし、パチュリーは一応紅魔館の防衛役。幻想郷に大体的な権力争いは存在しないが、所々で対立している場面もある。今は均衡を保っている勢力が、そのうちの一つである紅魔館から二人も戦力が抜ければ均衡が危うくなる可能性だってあるだろう。

その点、アリスはどの勢力にも属さない。強いて言うならば魔理沙や霊夢が属する人里側に近いが、それでもバランスを崩すほど係わっている訳でも無い。更に言ってしまえば、魔女なのだからそう簡単には死なない。これほど条件が揃っている人材を八雲紫が使わない筈が無い。

 

「ああ、そろそろ行かないと。私は別の方法で魔法界まで行くから、また向こうで会いましょう!と言っても直接は難しいかもしれないけど…」

「いや、十分よ。ありがとう」

「なんだアリス、もう行くのか。先日も言った通り、フランを宜しく頼むぞ」

「分かってるわ。それじゃあね!」

 

先日、というのは多分お姉様と咲夜が珍しくパチュリーを連れて外出した日のことだろうか。成程、アリスに会っていたのか。背を向けるアリスを見送ると、お姉様はこちらへ向き直った。

 

「ところでフラン、どこから列車に乗るんだ?まさか魔法学校に行く為の列車が普通の世界…ああ、こっちではマグル界だったか。ともかくマグル界から出る訳がないだろう?」

「えっと、確か切符が……九と四分の三番線?」

「そんなもの、存在しない筈なんですが…。普通に考えて番線に分数は使いませんよ。表記ミスか、何かの謎掛けなのか…」

「普通に考えて有り得ないのなら、普通に考えなければいいだろう?とりあえず九番線の方へ向かえば何か分かるんじゃないか?」

「そうね…ってああ、隣が九番線か」

「私達がいるのは十番線…つまり、この間に何かしら魔法界へ向かう為の手順があるのでしょうか?」

「…ここだ」

 

一般人でごった返す十番線と九番線の間で、突然お姉様が止まった。こんなに大勢の人間が集まっているところを見るのは初めてだから私にとっては些か苦痛なのだが、姉は特に何も感じていないようだ。

 

「この柵に向かって真っ直ぐ進むといい。きっと列車に辿り着くさ。…私達の館と同じような、紅色のね」

「!列車の色まで…どうして分かったんですか?」

「答えは簡単。ここに強力な魔法が掛けられているのは見れば分かる。列車の色は、パチェに聞いただけ。」

「ああ、成程。じゃあ私はもう行くわ。見送りありがとう」

「あまり怪我はしないようにな。それから友でも作ってくるといい。お前の友人は魔理沙くらいしか居ないだろう?」

「さあ?友達なんて出来るのかしら。別に必要無いけどね」

「そうか?案外気にいる人間がいるかもしれないぞ。…行ってらっしゃい、フラン。気を付けるんだぞ。…それから、ここが嫌になったらいつでも帰ってくるといい。迎えに行ってやるから」

「行ってらっしゃいませ、妹様」

「……行ってきます」

 

 

まさかこの姉に行ってらっしゃい、なんて言われる日が来るとは。

後ろで手を振っているであろう姉の顔がなぜだか見たくなくて、まっすぐ柵の方へ走った。瞬間、予言通り紅色の列車が止まるプラットホームに出る。きっと前方の車両は人で埋まっているだろうから、最後尾の方へ向かう。読みが当たったようで、最後尾の方にはまだあまり人が居なかった。騒がしいのは嫌だし、出口からなるべく遠いコンパートメントに入る。そういえば使い魔はどうなったんだっけと辺りを見渡すと、自分の影からワン!と鳴き声がした。…妖精犬の癖に鳴き声は普通の犬と変わらないのか。

窓側の席に座り、トランクを足元に置く。外を眺めるのも良いが、まだ駅から離れていないのだから大した景色は見れないだろう。魔理沙に貸してもらった…いや、正確にはパチュリーの物なのだが。魔導書を流し読みしながら、発車の時刻を待つ。すると、コンパートメントの扉がトントンと叩かれた。

 

「どうぞ」

 

一言言うと、扉が勢いよく開く。どうやら思ったより扉が軽かったらしく、扉を開いた少女は一瞬驚いた顔をしていた。だが直ぐに切り替え声を掛けてくる。

 

「こんにちは、相席いいかしら?」

「…構わないわ」

「ありがとう!助かったわ、もう前の方はどこも一杯で…あっ、名乗るのを忘れていたわね!私はハマイオニー・グレンジャー。みんなからはハーマイオニーって呼ばれることが多いわ。何でかは分からないけどね。貴方の名前は?」

「フランドール・スカーレット。好きに呼んで」

 

聞いてもいないことを良く喋る少女だと思ったが、魔理沙も初めて私と出会った時は格好付けた口上を名乗っていた。人間は皆そんなものなのだろうかと考えて、いやそんな訳がないと考え直す。咲夜や霊夢は最低限の挨拶しかしないし、やっぱり自己主張が激しい人種とそうでない者に別れるのだろう。当然、彼女は前者だ。

 

「スカーレット?貴方、あのレミリア・スカーレットと同じ家名なのね!あ、レミリア・スカーレットって知ってる?占い学の天才なの。今まで予言を外したことがなくて、ああでも数年前から姿を現さなくなったらしいけど…。羨ましいわ、もしかして貴方も占い学の才があるのかしら?今読んでいるのもとても高度な魔術理論よね?私と同い年でそんな本を読めるなんて、余程努力してきたのね!素晴らしいわ!」

 

呆れた。いや、呆れを通り越してもうなんと言えばいいか分からない、と言った方が正しい。何をしているのだろうか、あの姉は。占い学は分かる。こちらの世界の魔術や魔法は一通りパチュリーに伝授してもらったし、私も一応できる。まあ、相性は悪いのだが…。その点姉はあの能力もあってそれはもう占い学に関しては天才になりうるだろう。だが、よもやその力を使ってこちらの世界で名を馳せているなんて思わない。杖の件もそうだが、私は姉の愉快犯で思いつきのまま動くところを過小評価していたのかもしれない。

 

「私は占い学と相性が悪いから、そんなに百発百中なんて事は出来ないわ。それに、この本だって友人のだからほとんど理解できていないし…」

 

嘘だ。本について追求されるのは面倒だし、あまり優秀だと思われても困る。こちらの世界の常識は結局殆ど分からなかったし、彼女は多分自己評価が凄まじく高いタイプ。それから知識に貪欲。なら、私が既にこちらの世界のプロ以上の魔法使いだと知られるのは都合が悪い。…アイツも、こっちの世界で名を馳せている位なら少しくらい何か情報をくれてもいいと思うが。まあただ適当に人間の運命を見ていただけで、周りに興味が無かったから純粋に知らない、というのがオチだろう。ハーマイオニーが何か返答をする前に、また扉が叩かれた。ハーマイオニーが扉を開けると、顔を出したのはオドオドとしていて鈍臭そうな少年。

 

「こ、こんにちは…席空いてる?良かったら相席いいかな、あ、ダメだったら全然大丈夫なんだけど…」

「私は構わないわ。フランドール、あなたは大丈夫?」

「別に誰が来ても気にしないわ、興味も無いし」

「そ、そう?貴方って意外と…いや、なんでもないわ」

「ありがとう…えっと、僕はネビル、ネビル・ロングボトム。宜しくね」

「私はハーマイオニー・グレンジャーよ。ハーマイオニーって呼んで。それでこっちの金髪の子がフランドール・スカーレット」

 

チラリと彼の方へ視線を向けるが、オドオドとして居心地が悪そうにしている少年に興味を失い本へと関心を戻す。多分ハーマイオニーは意外と冷たい、だとか言おうとしたんだろうけど、失礼だと思い直して止めたのだろう。魔理沙なら言ってたな、それももっと早く。なんて唯一の友人の無遠慮さに思いを馳せていると、列車が動き出した。初めて行ったロンドンも大して観光しなかったな、と思いながら羊や牛がいる牧場や野原、流れていく面白味もない景色を眺める。このままボーっとしていてもハーマイオニーの蘊蓄話に付き合わされるだけだろうから、狸寝入りでもしようかと考えて目を瞑った。…予想通りハーマイオニーはネビル相手に魔法について熱く語りだし、私のことは完全に寝たものと思っているようだ。

 

十二時を少し過ぎた頃、ネビルが騒ぎ出した。どうやらペットのカエルが居なくなったらしい。こんな人前で無防備に眠るなんてことはしないが、二人は起こすのも悪いと思ったのか私を置いてカエル探しに行ったようだ。

 

「…ようやく行ったみたいね。とりあえず制服に着替えないと。コンパートメントで着替える訳にもいかないし、外に着替える場所があるのかしら」

 

多分、ホグワーツについてから着替える時間は無い。私服で入学式に出るはずがないし、列車のどこかに制服に着替える為のスペースがあるはずだ。コンパートメントの外に出て、談笑する声が聞こえる方に向かった。列車は揺れる上狭くて歩きにくいが、少し離れたところに金髪の細身な少年と大柄な2人の少年を見つけた。ちょうどいい、彼等に教えてもらおう。そう思って近付くと、私が声を掛けるより先に向こうが声を掛けてきた。

 

「やあこんにちは。僕に何か用かい?」

「制服に着替えたいんだけど、何処に行けばいいか分からなくて。あなた達も新入生でしょう?教えて貰えたら有難いんだけど」

「成程、君も新入生なのか。僕らの席から前の方に四つほど離れたコンパートメントが着替える為の部屋になってるのさ。ああ、もちろん鍵が掛けられる仕様になってるから安心していいよ。左が女性用だ、間違えないように気を付けて」

「ああ、男女兼用かと思っていたわ。意外とそういうところは分別されているのね…教えてくれてありがとう」

「構わないさ。そうだ、君さえ良かったらこの後僕らのコンパートメントに来ないかい?実は君があのマグルと同じコンパートメントから出てくる所を見たんだ。あ、わざとではないからね。僕は女性のコンパートメントを覗き見するなんて悪趣味な事はしない。彼女は僕らのところにもヒキガエルを探しに来たけど、純血と言えど使い魔がヒキガエルの落ちこぼれと、マグルの組み合わせなんて…実に下等な奴だったからね。見たところ君は純血だろう?」

「ジュンケツ?私は確かに処女だけど?」

「んな、っ…!?」

 

成程、どうやら純潔かどうかを問うてきた訳では無いらしい。まあ英国紳士を気取っているのであろう彼らの態度を見れば何となく分かっていたけれど。少し揶揄っただけでこんなに顔を真っ赤にさせるのだからよほどウブなんだろう、まあこの位の年齢の少年なら当然だけど。

 

「冗談よ。ところでジュンケツって何?」

「あ、ああ…両親は魔法使いなのか?ってことさ」

「それなら知らないわ。死んでるから」

 

実を言うと、本当に死んでいるのかどうかは知らない。けど親の記憶が無いから、私が産まれた時には既に居なかったのか、それとも幼少期の記憶を私が忘失してるだけなのか。

 

「そ、そうなのか…すまない。けどきっと君は純血だと思うよ、ヤツらとは比べ物にならないくらい素敵だから」

「そう?人間と関わることが少ないから実際どうなのかは知らないけど、ありがと」

 

それじゃお言葉に甘えて着替えたらここにお邪魔するわ、とだけ言って着替え用のコンパートメントに向かう。パチュリーに教えて貰った着替え魔法を使おうとした瞬間、はたと気付く。

 

「そうだ、着替え魔法があるならわざわざ移動しなくても着替えられたじゃない…」

 

外に出たせいで疲れたのか?そんなことも思い付かなかったなんて。溜息を吐いて着替え魔法を行使し、少年達の方へ戻る。元々居たコンパートメントに置いてきた荷物は降りる時にでも取ってくればいいだろう。

 

それから少年達と自己紹介をした。大柄な2人はクラッブとゴイル、英国紳士気取りの少年がドラコ・マルフォイと言うらしい。魔法界の常識などについても色々と聞けたし、中々良い時間だった。別にハーマイオニー達に聞いても良かったのだが、ハーマイオニーはネビルとの話を聞いている限りマグル界出身らしい。なら魔法界についての常識なんかはあまり知らなさそうだし、ネビルは頼りにならない。マルフォイはそれなりに高貴な家の出身らしい(本人の少々過剰で大袈裟な自己紹介より前に所作で何となく分かった)し、魔法界について詳しいだろうと踏んで彼等の誘いに乗ったが思惑通りだったようだ。マルフォイは少々差別的な思想を持っているが、フランからしてみれば別にどうでも良い事。起きているとバレていたらネビルのカエル探しに付き合わされただろうから、それよりずっと意味のある時間だろう。

 

「私、こういうお菓子ってあんまり食べた事ないのよね。案外美味しいわ」

「へえ、そうなのかい?やっぱり君って高貴な家の出身だったりする?」

「さあ?お姉様なら知ってるかもしれないけど、私自分の家の事って殆ど知らないの」

「けど自分の姉のことをお姉様、なんて呼ぶのは多分それなりに位が高い家だけだと思うよ。それに口調からして貴いからね」

 

口調でそういう事が分かるものなのだろうか。確かに、姉も外面の時は私と同じ様な喋り方をする。むしろ、私が姉のそちらの面に影響されて今の口調になったのだ。マルフォイとの談笑中、突然扉がバン、と開かれた。

 

「フランドール!こんな所にいたのね、探したわ!」

「あ、グレンジャー。起きたら居なかったから驚いたわ、どこに行っていたの?」

「ネビルのカエルが居なくなっちゃったのよ!それで今まで探していたの」

「へえ、それで結局見つかったの?」

「残念だけど見つからなかったの。それよりどうしてこんなところに?さっき運転手に聞いてきたんだけど、着くらしいから荷物の方へ戻った方がいいわよ」

「そうなのね。それじゃ、そろそろ戻ることにするわ。色々ありがとねマルフォイ」

「構わないさ、君のような高貴で純血の女性なら大歓迎だ。同じ寮に入れることを願ってるよ。それと言おうか迷ってたんだけど、僕のことはドラコでいいよ」

「そう?じゃあ私もフランでいいわ、それじゃあね」

 

ハーマイオニーと共にコンパートメントに戻る。やはりハーマイオニーは自分の知識の話をしたがるので、ホグワーツに着くまではハーマイオニーの話に付き合うことになるだろう。どうやらこちらの世界で有名人らしいハリー・ポッターに会ったらしく、ただでさえ興奮していたハーマイオニーは私もマグル生まれなのだと知ると更に大興奮してマシンガントークを繰り出した。だが私が両親と死別済みだと知ると少し居心地が悪そうにし、謝ってきた。マルフォイもハーマイオニーも、性格に多少難があるが人の事を思いやれるいい子だと思う。二人共相性自体は良さそうなものだが。お互い完璧主義のように思えるし。けれどマルフォイは純血主義だから、マグル──マルフォイで言う「穢れた血」のハーマイオニーは実際に仲良くなることは叶わないだろう。まあ、ハーマイオニーは自分が下に見られるのが確実に気に入らないタイプ、それもそういう目で見られたら激情して反撃をするタイプだろうから大喧嘩になるかもしれない。

 

ハーマイオニーのマシンガントークを聞き流しながらありもしないだろうハーマイオニーとマルフォイの邂逅を想像していたら、車内に響き渡る声が聞こえた。

 

「あと5分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」

 

そういうサービスが行われているならコンパートメントに戻らなくても良かったかもしれない。汽車はどんどん速度を落とし、完全に停車した。生徒達の波を上手く躱しながら列車の外に出ると、小さな、暗いプラットホームだった。まさか夜に入学式が行われるとは思っていなかったが、フランにとってはそっちの方が好都合だ。魔理沙が来るようになってからはなるべく昼も起きるようにしているが、紅魔館は基本昼夜逆転生活を送っている。吸血鬼である姉と自分に生活リズムを合わせるためだ。

 

ゆらゆらと近付いてくるランプと共に、野太い声が響いた。

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!さあ、ついてこいよ───あとイッチ年生は居ないかな?足元に気を付けろ、いいか!イッチ年生、ついてこい!」

 

独特なリズムで言葉を発する大男が現れる。学校までの引率だろうか。教師は人里の半人半妖のワーハクタクくらいしか知らないが、おおよそこういう人間は普通教師に採用しないものだと思う。険しく狭い小道を抜けると、大きな黒い湖のほとりに出た。向こう岸に高い山が聳え、その頂上に壮大な城が見える。大小様々な塔が立ち並び、見た目だけの大きさなら紅魔館に匹敵、いやそれ以上かもしれない。紅魔館は咲夜の能力によって内部が拡張されているから、内部なら紅魔館の方が広いかもしれない。

 

それにしても城というのはどこも湖の近くにあると相場が決まっているのだろうか?と我が家を思い出しつつ、湖を越え岩を登り石段に辿り着き、ようやく城の中に入る事が出来た。

 

「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」

 

大男が報告した。

 

「ご苦労さま、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」

 

大男の名前はハグリッドというのか。広すぎる気がしないでもない玄関ホールから、今度は窮屈な小部屋に押し込まれる。すると、隣から声をかけられた。マルフォイだ。

 

「やあ、また会ったね。それにしてもこんなに狭い小部屋に僕達のような者を押し込めるなんて、ホグワーツって意外と大したことないんだな」

「それに関しては同感ね。いくらなんでも狭すぎる、生徒の扱いが雑じゃないかしら」

「全くだ。ところでフランはどうやって寮分けをするか知っているかい?」

「知らないわ。魔法界のことだってつい最近知ったんだもの」

「そっか、確かにそうだね。それじゃ、僕が教えてあげるよ。ホグワーツでは──」

 

マルフォイが寮分けの仕方を説明をし始める前に、悲鳴が起こった。周りの生徒が息を呑むのが分かる。マルフォイなんて、三十センチも飛び上がった。白い、人?いやこれはゴーストだろう。パチュリーに写真を見せてもらったっけ。ゴーストが写真に写るのかと少し驚いたが、半人半霊の半身が写真に写るんだから、当然と言えば当然かと納得したのを覚えている。

 

「もう許して忘れなされ。彼にもう一度だけチャンスを与えましょうぞ」

「修道士さん。ピーブズには、あいつにとって十分過ぎるくらいのチャンスをやったじゃないか。我々の面汚しですよ。しかも、ご存知のように、やつは本当のゴーストじゃない――おや、君たち、ここで何してるんだい」

 

ひだがある襟のついた服を着て、タイツをはいたゴーストが、急に一年生たちに気づいて声をかけた。

 

「組み分けされるのを待ってるの。けど、この部屋はちょっと狭すぎるわね」

「なるほど、確かにそうかもしれないね」

 

誰も何も言わないので仕方なく私が答えると、太った修道士が一年生にほほえみかけた。新入生達の視線が此方に集まるのを感じる。しくじったか、ゴーストは怖がるものだったっけ。幻想郷には魑魅魍魎が跋扈しているせいで少し感覚がおかしいのかもしれない。

 

「ハッフルパフで会えるとよいな。わしはそこの卒業生じゃからの」

 

修道士が言うと、扉が開いた。

 

「さあ行きますよ」

 

厳しい声がした。

 

「組分け儀式がまもなく始まります」

 

マクゴナガルが戻ってきたのだ。ゴーストが一人ずつ壁を抜けてフワフワ出ていった。 壁を抜けられるのは便利だな、あの半人半霊の半霊部分は普通に壁にぶつかっていたが…。個人差なのか、それとも完全なゴーストじゃないと無理なのか、こちらの世界特有か。まだゴーストが消えて行った方を見つめているマルフォイを置いて、扉の方へ向かった。

 

「さあ、一列になって。ついてきてください」

 

マクゴナガルに着いていくと大広間に出る。ハーマイオニーの蘊蓄話が聞こえる。本物の星がどうとか、誰に話しているのだろうか?ネビルだとは思うが、彼女の話に出てきたロンという少年の方かもしれない。それはそうと、彼女は些か声が大きすぎる気がする。

 

広間が静寂に包まれたのに、遅れて気付いた。自分は何かを考えていると──何も考えていない時もだが──周りに起こっていることがどうでも良く、言うなれば少しマイペース過ぎるところがある。それに関しては魔理沙や美鈴に何度か言われたし、自覚もしている。辺りに目を向けると、どうやら新入生達は薄汚い帽子に注目しているらしい。魔理沙のはフリルが着いていて可愛らしいが、この帽子はいっそ雑巾にでも作りかえた方がいいんじゃないだろうか?

 

突如、つばの縁の破れ目が、まるで口のように開いて歌い出した。

 

 

私はきれいじゃないけれど

人は見かけによらぬもの

私をしのぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ

 

シルクハットはすらりと高い

私はホグワーツ組分け帽子

私は彼らの上を行く 君の頭に隠れたものを

組分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう 君が行くべき寮の名を

 

グリフィンドールに行くならば

勇気ある者が住う寮

勇猛果敢な騎士道で

他とは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに行くならば

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレイブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

ここで必ず得るだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても

目的遂げる狡猾さ

 

かぶってごらん! 

恐れずに!

興奮せずに、お任せを!

君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)

だって私は考える帽子!

 

 

歌が終わると、広間は拍手に包まれる。成程、この帽子で寮分けを行うのか。それにしても今の歌を聞く限り私はどの寮にも入れない気がする。強いて言うならスリザリンだろうか。知識はあれど意欲なんて全くないし、レイブンクローは除外。パチュリーやアリス辺りはレイブンクローだろうか?忠実と言うなら咲夜はハッフルパフか、お姉様はスリザリンかグリフィンドールだろうし、魔理沙や霊夢もグリフィンドールな気がする。果たしてあの巫女達に騎士道精神何てものがあるかは知らないが。

考え事をしていたが、いつのまにか私の名前が呼ばれていたようだ。何回か呼ばれたことに気づかず考え事に耽っていた私へ教師達からのあまり良いものとはいえない視線を感じ、小走りで椅子へ向かう。これでどこの寮にも選ばれなかったらどうするのだろう?家へ帰らされるのか、それとも選ばれなかった者の寮にでも行くのか。

 

「ふーむ、これは面白い子が来た。頭が良い、レイブンクローが良いかもしれない。才能もあるし、何より偉大な魔法使いの素質が存分にある。スリザリンでもいいかもしれない。…うーん、そうだな、」

 

頭上でウンウンと唸る帽子。周りのざわめきは次第に大きくなっていって、五分が経過した頃誰かが叫ぶ声が聞こえた。

 

「五分が過ぎたぞ!」

振り分け困難者(ハットストール)だ!」

 

その言葉を皮切りにか、ようやく帽子が喋りだした。

 

「君は憧れている人がいるね?」

「は?居ないわ、そんな人間」

「憧れている…その人に認められたい…そんな思いの人が居るはずだ」

「だから居ないって言ってるでしょう?あんまり巫山戯たこと言わないでもらえるかしら」

「ふむ、まだ自分の本心に気付いていないのか、知らないふりをしているのか。君はスリザリンかと思ったが、きっとグリフィンドールの方が望む方へ成長出来る。私が保証しよう。──グリフィンドールッッ!!」

 

左端の机から歓声が聞こえる。意味不明な判断基準と言葉を羅列する帽子に少しイラつきながら、寮生の席に向かった。

 

───後で、本当にずっと後の事だが、あの帽子は生徒の経歴というか過去というか思考というか、ともかくそう言うものを読み取っているんだと、ほわんほわんと笑いながらアリスは言ったものだ。

 

ハーマイオニーに教えて貰った英雄、ハリー・ポッターもグリフィンドールに選ばれたらしく、割れるような歓声の後こちらの席へ来た。同じくハーマイオニーが話していたロンという少年もグリフィンドールに選ばれたらしい。

組み分けの後、校長の適当な挨拶の終了と共に机に豪勢な料理が並んだ。私は手を付けなかったが。別に空腹という訳でもないし、人間の食事をそれなりに好んでいる姉とは違い、フランは咲夜が加工した人間を食すことがほとんどだ。

ハーマイオニーの方へ行こうか一瞬悩んだが、別に話すこともない。誰かと仲良くするつもりないし、特に話しかけることも話しかけられることも無く入学式は終わった。訳の分からない校歌を最後に歌わされた、とも言っておこう。当然、フランは無言を貫いたが。

 

 

監督生に連れられ、寮へ向かう。各寮に入るには肖像画に合言葉を言わなければいけないらしく、グリフィンドールは太った婦人の肖像画だった。女子寮に入ると5人部屋に振り分けられ、部屋に入るとハーマイオニーが話しかけてきた。どうやら彼女もグリフィンドールに選ばれ、しかも同室のようだ。

 

「フランドール、貴方もグリフィンドールなのね!嬉しいわ!」

「グレンジャーがグリフィンドールなのは意外だったわ。あなたはレイブンクローだと思ってたもの」

「私もレイブンクローに行くのかと思ってたけど、アレってどういう基準で選ばれているのかしらね?」

「さあ?私もスリザリンに行くと思ってたから、私達が測れないところを見てるんじゃない?」

 

適当に会話を打ち切って、就寝準備をする。とは言っても夜行性の私には当然眠気など無く、明日から始まる授業について考えていた。この世界の常識などについてはマルフォイに教えて貰ったし、魔法や知識についてはパチュリーに叩き込まれた。私はそういう事を学ぶのは嫌いじゃないからなんとか入学までに全課程を修めることができた。まあ、使う事はあまり無さそうだが。特に攻撃系の魔法だったり、その辺に関しては。

 

「こんにちは、フラン。聞こえてる?」

 

突然声がした。振り向くと、一体のぬいぐるみがトランクから抜け出している。寮にひとりじゃ寂しいでしょうから、なんて言って美鈴がいつの間にか私のトランクに忍ばせていたディフォルメされた虎のぬいぐるみだ。

 

「アリス?」

「そうよ。夜だから目が覚めているんじゃないかと思って、寝る前に連絡したの。このぬいぐるみ可愛いでしょ?私が作ったのよ」

「そうなんだ、道理で少し魔力が感じられるのね」

「まあ私は人形を使って魔法を使うのが中心だしね。そっちは大丈夫そう?友達は出来た?」

「作る気ないわよ、そんなもの。話せる人は居るけど気が合うって訳でも無いし」

「そう、まあまだ一日目だもの。そのうち友達になりたい子が現れるかも。とりあえず問題がないなら良かった、また連絡するわ!貴方の方からも話し掛けてくれれば連絡が取れるから。おやすみなさい、いい夢を」

「うん、おやすみ」

 

嵐のように去っていった。動かなくなった虎のぬいぐるみを見下ろすと、トランクに戻すのもな、と思いベッドに入れる。眠れないだろうが自分もベッドに入って目を閉じ、再度これからの授業について考えることにした。

 

 

 

 

授業が始まり、ハーマイオニーに誘われて一緒にクラスへ向かうのが通例になった。別に一緒に行く必要は無いと思うのだが、人間、特に女子は群れて行動するのが好きなようだし断る理由もない。

授業については、パチュリーから聞いていた内容と大して変わらなかった。まあ、詳しい部分はあまり聞かなかった為それなりに新鮮ではあったが。

水曜日には真夜中に行う授業があった為、夜行性のフランには大分助かった。普段なら本を読んだりして時間を潰すのだが、咲夜から貰った空間拡張バッグにもそこまで本は入れて来ていない。質量は変わらないから、あまり重くなるのは避けたかったのだ。それ故に星を勉強する授業はフランの暇潰しに小さな革命を起こした。

薬草学では魔法のキノコや薬草についてだった。魔理沙が居たら大興奮してそうだ。今度帰った時に教えてあげてもいいかもしれない。

けれど基本的に退屈で、特に魔法史なんかは全くもって興味が湧かなかった。既に内容は覚えているからだ。ゴーストが教えているというのは少し面白いが、それにだって別にそこまで興味が惹かれるわけでもない。

妖精の呪文、という授業に関しては教師が小さいこと以外に特徴はなく、強いて言うなら私の中の妖精のイメージは屋敷のメイド妖精が主流な為、馬鹿な妖精でも教師になれるのかと思ったことだけだ。まあ、こちらの妖精と幻想郷の妖精はかなり違うようだが。

 

変身術の授業になると、ハーマイオニーは案の定大興奮していた。マクゴナガルが机を豚に変えた時など顔を真っ赤にして真っ先に甲高い歓声をあげていたものだ。その後恥ずかしそうにしていたが。周りの生徒が苦い顔をしながらとっている複雑なノートも黒板に穴が開くんじゃないかと言うほど見つめ、興奮冷めやらぬといった風に頷きながらノートをとっていた。何がそんなに楽しいのか分からないが、彼女にとって魔法というのは大層新鮮なものなのだろう。マグル界出身だと言っていたし。

 

どうやら今回の授業ではマッチ棒を針に変えるらしい。初歩の初歩もいいところだ。この程度なら目を瞑って逆立ちしたって出来る。勘違いされやすいのだが、別にフランは戦闘狂という訳でも知能が低いわけでも、技術的なことが苦手な訳でもない。自身と相対する敵はありとあらゆるものを破壊する程度の能力に目がいきがちだが、実際は力押しではなく魔法を主流にした技術的な弾幕を使うのだから、この程度の魔法は出来なければ話にならない。むしろ力押しは姉の専売特許だろう。

まあ、私は別に理論を理解して魔法をつかっている訳では無い。

パワーこそ魔法、弾幕だと考えるのが魔理沙。

ブレインこそ魔法、弾幕だと考えるのがアリス。

アリスの考えが理論的に考えるという点においては近いのかもしれないが、最も理論的に魔法を使うのはパチュリーだろう。本を読み、理解をし、その莫大な魔力量を持って魔法を行使する。それがパチュリーのやり方だ。その根底にはホグワーツでの学びがあるのだろうか?先程ハーマイオニーが必死にとっていたものは理論で魔法を考えるやり方だった。けれど、私は魔法はイマジネーションだと思っている。重要なのは想像力、それを再現する魔法力。マッチ棒が針に変化する映像を思い浮かべる。魔力を込めようとして、止めた。杖を使わないといけないことに気付いたのだ。こちらの世界において杖を使わず魔法を行使するなんて異端も異端なのだから。

 

「えーっと…こうかしら」

 

明確なイメージをもって杖を振る。すると、一度で成功した。変化した針を手に持つ。フランは針の現物を見たことがないから、質感までは再現が出来ない。鋼が原材料ということは知識で知っているが、針を見たことがないのに鋼なんて更に見た事がある訳ないのだ。…いや、確かうちの食器は鋼製だったか?

その事を思い出し、再度杖を振る。今度は手触りまで再現出来た。

 

「フランドール、もう成功したの!?良かったら()()を教えて欲しいんだけど…。何回やっても尖った銀色の木の棒にしかならなくて、ちゃんとした針にならないの」

「コツ?私はアドバイスなんて出来ないわよ。魔法はイマジネーション、ただマッチ棒が針に変化する映像をイメージしただけだもの」

「ええっ、さっきのマクゴナガル先生の理論を全く使ってないってこと!?」

「まあそういうことになるのかしら?けど、グレンジャーだって暗記はしてても理論は理解しようとしてないんじゃない?だから理論ってあんまり役に立たないと思うわ」

 

パチュリーに聞かれたら怒られそうだ。納得はして無さげなハーマイオニーにとりあえず試してみるわ、ありがとうと礼を言われた。やはり素直だと思う。そういう点は褒められるべきだろう。

 

結局、マクゴナガルの授業でマッチ棒を針に変身させることができたのはハーマイオニーと私だけだった。ハーマイオニーは大喜びしていて、マクゴナガルに褒められた事で更に有頂天に。周りの生徒も最初は尊敬した眼差しを向けていたがそれを見て若干引いていた。私から見ても浮かれ過ぎでは?と言いたくなるほどだったので、仕方ないかもしれないが。

 

クラスの少年達が楽しみだと噂していた闇の魔術に対する防衛術は、一言で言えば「最悪」だ。担当のクィレルがニンニクの強烈な匂いをさせていたため、というのが最もな要因である。別に吸血鬼だからといって苦手な訳では無いが、純粋に匂いが濃すぎるのだ。吸血鬼であるフランに効果が無いんだから、そんなもの匂わせていても意味ないだろうに。

結局、この授業はクィレルの授業の声より彼への愚痴の声の方が大きい、といった時間に終わった。

 

 

 

 

金曜日。特に事件のようなものは無く、毎晩アリスに何を学んだか、異変の前兆は今のところ特にない、と言った様なことを報告するだけの生活を送っていたが、この日はスリザリンとの合同授業らしい。グリフィンドール生とスリザリン生はいがみ合っているらしいが大丈夫なのだろうか?

 

───まあ大丈夫な訳が無く。

スリザリン生どころかスリザリン寮寮監のスネイプが真っ先にちょっかいをかけていた。それもどうやらこの世界で英雄視されているらしいハリー・ポッターに。

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

スリザリン生の嘲笑やグリフィンドール生の愚痴で騒がしかったクラスが静まる。

 

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である――ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

 

スネイプが話を一区切りすると、私のちょうど後ろの席に座っていたマルフォイが話しかけてきた。

 

「やあフラン、久しぶりだね。スネイプ先生は僕らをご贔屓にしてくださる。この授業じゃグリフィンドールは大分減点されると思うが、君のことはスネイプ先生に話しているから安心していいよ」

「久しぶり、ドラコ。まだ少ししか話したことがないのにそんな事までしてくれるなんて、優しいのね」

「そんな事ないさ、君は純血だからね。仲間に優しくするのは当然だろう?」

「そういうこと」

 

スネイプが突然、「ポッター!」と叫んだ。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

 「わかりません」

 

ハリー・ポッターが答えた。そりゃそうだろう、聞く限り彼もこれまで魔法の存在なんて知らない、ただのマグルだったらしい。──いや、噂を聞く限りマグル界でも何かやらかしていたらしいが──ともかく、突然そんな事を言われても普通答えられないだろう。当然、それは英雄少年だって例外じゃない。

 

「チッ、チッ、チ――有名なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」

 

ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばしているのが見える。どうせ無視されるんだろうから、諦めればいいのに。まあここに来てからは行動を共にしているので、ハーマイオニーがそんな事で諦めるようなプライドじゃないことは知っているのだが。

マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っている。いやはや、何が面白いのか全くもって分からない。人間はよく分からないことばかりだな、と改めて思う。

 

「わかりません」

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター、え?」

 

嬉しそうにせせら笑うスネイプ。随分と楽しそうだ。

 

「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

 

この質問でとうとうハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。

 

「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

 

そこかしこで笑い声が起こる。しかし、スネイプは不快そうだった。

 

「座りなさい」

 

スネイプがピシャリとハーマイオニーに言った。

 

「教えてやろう、ポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。あまりに強力なため、『生ける屍の水薬』と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、たいていの薬に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名をアコナイトとも言うが、とりかぶとのことだ。どうだ? 諸君、なぜいまのを全部ノートに書き取らんのだ?」

 

生徒達が、いっせいに羽根ペンと羊皮紙を取り出す。書かなくても覚えているし、書いているフリだけしよう。何か言われても面倒だ。

 

「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」

 

その後も魔法薬の授業中、グリフィンドールの状況は悪化の一途を辿るばかり。スネイプは生徒を二人組にして、おできを治す簡単な薬を調合させた。長い黒マントを翻しながら、スネイプは生徒たちが干イラクサを計り、ヘビの牙を砕くのを見回った。お気に入りであるマルフォイとそのマルフォイに気に入られているらしい私を除いて、ほとんど全員が注意を受けた。マルフォイが角ナメクジを完璧に茹でた(実際に茹でたのは私なのだが、マルフォイは私の手柄とは言わなかった。まあ、フランの力があったからですよ、とは言っていたが。)から皆見るように、とスネイプが言った時、地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、シューシューという大きな音が広がった。ネビルがグリフィンドール生の大鍋を割ったらしい。たちまちクラス中の生徒が椅子の上に避難したが、ネビルは大鍋が割れた時にグッショリ薬をかぶってしまい、腕や足のそこら中に真っ赤なおできが容赦なく噴き出し、痛いのだろう、呻き声をあげていた。

 

「バカ者!」

 

スネイプが怒鳴り、魔法の杖を一振りして、こぼれた薬を取り除いた。

 

「おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたんだな?」

 

ネビルは鼻までおできが広がり、泣き出した。

スネイプはネビルに医務室へ行くよう指示すると、今度はネビルの隣で作業をしていたハリーとロンに鉾先を向けた。

 

「君、ポッター、針を入れてはいけないとなぜ言わなかった?彼が間違えば、自分の方がよく見えると考えたな?グリフィンドールはもう一点減点」

 

フランとペアを組んでいたマルフォイが笑う。憎きグリフィンドール、それも何故か敵対視しているらしいハリー・ポッターが理不尽な裁きを受けているのがどうにも面白いらしい。私はネビルに薬をプレゼントすることも、ハリー・ポッターに助け舟を出すことも出来たが、やはり私にとってはどうでも良いことなのでやらなかった。アリスが居たら「そういう時は助けてあげるものよ」なんて言っただろうか、美鈴でもそう言うかもしれない。咲夜やお姉様は言わないだろうな。魔理沙はどうだろう。

…私は、案外幻想郷が好きなのだろうか。なぜだかこちらに来てから幻想郷の皆ならどう考えるか、なんて普段なら考えないようなことを考えてしまう。

 

私の眼前では、スネイプがマルフォイの作った薬がどんなに素晴らしいかを語っている。誇らしげにしつつも私がほとんど作ったことを自覚しているからか、気を遣うようにこちらをチラチラと見てくる。なんだかマルフォイに気を遣われる度にハーマイオニーを除くグリフィンドール生からの視線が痛くなってくるのは気の所為だろうか。

ハーマイオニーの場合は敵意というよりも、苛立ちの方が強い。グリフィンドール生もスリザリン生もお互いの事を嫌いすぎじゃないか?

 

授業が終わり、マルフォイと別れる。ハーマイオニーがいかにも私は不機嫌です、とでも言うようなオーラで近付いてきた。

 

「ちょっとフラン、貴方だってマルフォイのあの性格の悪さ見たでしょ?まだ付き合ってたの?」

「アレで性格が悪いって言うなら私の周りは性悪パラダイスね、私も含めて」

「貴方はあんな奴とは違うわよ!貴方、ハリー達にまで嫌われてるのよ?グリフィンドールの裏切り者だって」

「私がいつ仲間になったって?私はグリフィンドールのこともスリザリンのことも仲間だと思ったことなんて一度もないわ」

 

私の言葉のあまりの潔さに唖然とするハーマイオニーを置いて、私は次の授業へと向かった。

 




お久しぶりです。意図せず内容が段々長くなっていきます。
誤字脱字報告ありがとうございます、助かります……。一応確認してから投稿しているのですが、やはり自分で確認するのと人に見てもらうのでは全然違いますね。それから感想もありがとうございます!モチベーションが格段に上がります。

2月になったらまた投稿全然無くなると思いますが、ネタ自体は溜まっているので早く形にしていきたいですね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。