何もしてないのにヒロインが壊れた!   作:未練

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何もしてないのにエウルアが壊れた!

私が彼と出会ったのは偶然だったと思う。

週に一度の昼、この時間だけは厳しい家の教育を忘れてゆっくり休む事ができる。

 

風たちの地の大きな木の下、七天神像の前で祭礼の舞を踊る。

このダンスを踊ると心が落ち着く。

ローレンス家の教育は無駄なものも多いが自分の力になるものもある。

私には力がいる。復讐をできるだけの力が。

 

近くの茂みが不自然に揺れた気がした。

誰かが私を見ている?

 

「だれ?」

 

「えっと、覗き見してたわけじゃないぞ?」

 

そう言いながら茂みから出てきた男の子はモンドでは珍しい黒い髪をしていた。

私と同じ位の歳の子どもと喋るのは初めてだ。

モンドで嫌悪されているローレンス家の私と話をしたがる物好きはいなかった。

 

「モンドでは見ない顔だね。名前は?」

 

ただの気まぐれだったのかもしれない。

つまらない環境で刺激が欲しかっただけなのかもしれない。

 

「エウルアよ、あなたは?」

 

ローレンスとは言わなかった。

 

「ミレン。よろしくエウルアちゃん」

 

彼との奇妙な関係はここから始まった。

 

「次、ちゃんをつけて呼んだら許さないから」

 

 

昔と少し変わった週に一度の昼休み。

私が唯一楽しみにしている時間。

 

「待った?」

 

少し変わった事といえば話し相手ができたことだ。

 

「今来たところよ。その本は何?」

 

別に次に会う約束をした訳でもないのに、彼との奇妙で曖昧な関係は続いていた。

 

「誕生日占いの本。図書館で借りてきたんだ」

 

もし私がローレンス家の人間だと言ったら。

 

「占ってあげるよ。エウルアの誕生日っていつ?」

 

彼はどんな顔をするんだろうか。

 

「このパイむっちゃうまい!エウルアは料理の天才だな!」

 

彼と会う度に私の中の罪悪感が大きくなっていく。

 

「今日はトランプ持ってきた」

 

彼の事はよく知っている。でも彼は私の事をほとんど知らないだろう。

 

いつかは言わないといけない。

もしかしたら彼なら罪人の私を受け入れてくれるのではないか。

 

「エウルア誕生日おめでとう!はい、プレゼント」

 

こんなに贅沢をしてもいいのだろうか。

もう少し、もう少しだけこの時間を過ごしたい。

 

 

 

時間が過ぎるのは早いものだ。彼と出会ってから半年経った。

もうすぐミレンの誕生日だ。

 

モンド城の門番に睨まれながら門を通る。

感じる複数の嫌悪の視線。それを無視して歩く。

今日はミレンの誕生日プレゼントを買いにきた。

何か欲しい物はないかと聞いたのだが私が選んだ物が欲しいらしい。

 

「だから騎士になるつもりはないって」

 

ミレンの声が聞こえた。まさかこんな所で会うなんて...いや、モンド城に住んでいるんだからおかしい事はないか。

反射的に広場の噴水の裏に隠れてしまった。

なんで私は隠れているのよ。

 

別に悪い事は何もしてないんだし。

そうだ、偶然を装って彼に話しかけよう。

あ、だめだ。私と仲良く話している所を周りに見られたら彼に迷惑が掛かる。

誕生日プレゼントを渡すような仲なのに話しかける事もできないこの現状に笑えてくる。

 

「まだそんなことを...お前は騎士に向いている、一緒にモンドを守ろう」

 

知らない声だ。その声を聞いた瞬間、私の体は凍りつきピクリとも動かなくなった。

 

「俺のどこを見たらそんな感想が湧いてくるんだよ」

 

当たり前の事だ。彼は私と会っていない時もモンドの人々と関わっている。

そこに私の居場所はない。罪人の私が彼と一緒に居る資格は...な...い。

 

「はぁ...能力はあるのに志が低すぎるぞ」

 

しばらく体が動かなかった。

 

誕生日プレゼントは買えなかった。

モンドの店は私に物を売ってくれなかった。

何も変わってない。モンド人から見える私は憎き罪人の末裔から変わってない。

 

ミレンが私に優しくしてくれるから何か勘違いしたのかもしれない。

 

私は罪人でミレンはモンド人それは変わらない。

 

「明日、俺の誕生日パーティーをするんだけどエウルアも来ないか?」

 

今ならまだ戻れるはずだ。あの時に私に。

 

「大丈夫。みんな優しい人達ばっかりだし」

 

心を凍らせる。

 

「私、ローレンス家の人間なの」

 

「え......そうだったのか!...あぁ確かにエウルアはダンスが得意だしな!そういうのも貴族の嗜みってやつか?大丈夫!そんなどうでも...」

 

「もう私達、会うのやめましょう」

 

顔を見れない。沈黙が続く。彼は何を思っているのだろうか。

 

「......どうして?」

 

「私が罪人だからよ。あなたと私じゃ立場が違うの」

 

もし私がローレンス家の罪を償えたら。

もう一度、話が出来るだろうか。

 

「......エウルアが何か悪い事をしたのか?」

 

「私に罪人の血が流れているからよ。ごめんなさい、この髪飾り返すわ」

 

質問の答えになってない。

頭が真っ白だ。

ここから今すぐ離れたい。

 

全力で走る。後ろから聞こえる声を聞きながら私は逃げ出した。

 

 

 

あれから1ヶ月経った。

頭からミレンの声が離れない。

 

「ずっとここで待ってる!」

 

あぁ私は馬鹿だ。あれから1ヶ月経ったのよ。

居る訳ないのに。

これはただの確認だ。あんな酷い事をして今更、何を都合の良い事を考えているんだろうか。

 

「な...なんで...もしかしてあれからずっと?」

 

居た。なんで?なんで。

 

「いやいや、流石に夜は家に帰って寝てたよ」

 

夜は?昼はずっとここに...?

 

「あれからずっと考えてたんだ」

 

ミレンの手に木刀が握られていた。

あぁそうか。いや、当たり前だ。

彼の心を傷つけたんだ。

これは罪人に対する罰だ。

 

「西風教会が大事にしている七天神像。これを壊したら俺は神に逆らった異端者だよな?つまりは罪人だ」

 

言っている意味が分からない。

彼は私ではなく七天神像に向かい、手を掛けよじ登っていく。

 

「羽の先っちょ辺りなら俺の力でも壊せる」

 

静かな空間に木刀で岩を叩く音がする。8回の音でその行為は終わった。

 

「これで同じ立場だな。同じ罪人どうし仲良くやっていこうぜ!」

 

彼は笑って言った。

声が出ない。

私はなんて事をしてしまったんだ。

彼になんて事をさせてしまったんだ。

 

「......あ」

 

私の中で何かが壊れた音が聞こえた。

何が壊れたかは分からないがそんなことどうでもいい。

 

私は幸せだ。

ローレンスとか復讐とかどうでもいい。

私の為にここまでしてくれるんだ。私とミレンも同じ気持ちだろう。

あぁ嬉しい。楽しい。まず何をしよう。

 

「俺と友達になってくれ」

『俺と結婚してくれ』

 

良かった!

やっぱり私と気持ちは同じだった!

 

「喜んで!まず...そうね。あなたのお父様とお母様様に挨拶に行かないとね。私の親は気難しい所があるからまずは貴族の礼儀作法から覚えないとね。大丈夫、私がちゃんと教えるから。あ!そうだ!まずは私達の将来について話合わないとね!時間は沢山あるんだからゆっくり考えましょう」

 

「エ...エウルア?」

 

なんて私は幸せ者なんだろう。

 

 

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