温度差がひどくて風邪引きそう。
ちゅー。チュー?誅?天誅?頭が全然回らない。
聞き間違いだろうか。
「…ごめんハル。もう一回言ってくれる?」
「シルとちゅーしたい」
「ありがとう。聞き間違いじゃなかったね」
私は深く後悔した。どうして私は今日朝にチキンソテーなんて物を作ってしまったのだろう。絶対鶏肉の匂いする。歯もっと磨けばよかった。
違う、そうじゃない。何故もうする事になってる。
取り敢えず理由を聞き出さなければ。
「なんでその…私とキスしたいの?」
「えっと…あんかだから」
「あんか?なにそれ」
「スレ民がやらなきゃいけないことだって」
スレミン。前にハルが言っていたなと思い出す。
確かハルに色々教えてくれている存在だと聞いたけど…
「そのスレミンって人間なの?」
「???…あったことないからわかんない」
「ならどうやって教えてもらってるの?」
「えっとね。あたまのなかにね。けいじばんがあるの」
「ケージバン?」
ケージバンとは一体なんだろうか。
装備品?でも頭の中と言っているから違うような気もする。
「ぼくがみたいなーっておもうとみれるよ。もじがいっぱい。」
「文字…?」
「それでね。ぼくがおしえていうと、みんなおしえてくれるよ」
…もしかして精霊付きの事を言ってるのだろうか。
精霊に気に入られた者はその精霊に力や知恵を貸すと聞いたことあるけど…スレミンもそんな感じなのかもしれない。
となるとそんなスレミンがハルは私とキスしなきゃいけないと言う事は…まさか。
魔精毒…?!
魔精毒は魔法を受けた者が発症する症状だ。魔法は魔精を破裂させる事で発現するが、その際の魔精の残骸は基本的に魔法を受けた者が浴びる事になる。
本来であれば特に問題ないが、極稀に魔精の中に毒を孕んだ個体がいる。
その個体は人族が入ることの出来ない、所謂極地と呼ばれる場所で生まれた魔精だ。そんな場所で生まれた以上、その土地の生命力を吸って生きている。
そして、極地と呼ばれる場所の生命力と言うものは総じて人族にとっては猛毒だ。
ハルは水精の樹海で何度も魔法を受けていた。その中に毒を含んだ個体が居たとすれば…。
ハルの様子を伺う。特に目立った症状は無さそうだがそれはシャドービーストだから症状が出るのが遅いだけなのかもしれない。
魔精毒はとても危険なものだ。一度受けると歩行困難になり、そのまま放置すれば呼吸困難で死に至るほどだ。
だが魔精毒を緩和する方法がある。それが接吻…キスだ。
魔精毒は元は生命力故に生きている者と触れるとある程度他者に流れる。そうして体内の魔精毒を他者と共有すれば魔精毒の症状を抑えることが出来る。受け取った側もそれほどの量で無ければ大した事にはならない。
実際は粘膜だったらどこでもいいらしいが…いや今はそれはいい。
ハルは水精の樹海で何度も魔法を受けていた。もしかしたらそれで運悪く魔精毒を受けてしまったのかもしれない。
スレミンが精霊だと仮定すると、ハルが受けてしまった魔精毒を何とかしようとしているのかもしれない。
───なんて様だ。
ハルと共に居れるからと言って、ハルと共に生きていけるからと言って、腑抜けるにも程がある。
その間、彼は苦しんでいたのに…。
「ハル…ごめんなさい。私弛んでた」
「なにが?」
「私が浮かれている間も、1人で耐えてたんだね…」
「なにを?」
覚悟を決めてハルの左腕を掴み、座らせる。
「ハル、私とキスしよう」
「? うん」
「大丈夫、私は丈夫だしある程度ではあるけど極地で行動も出来る。多く流れ込んできても耐えれるよ」
「なにがながれるの?」
「…ハルとの初めてがこんな形なのはちょっとあれだけど。そんなことも言ってられない。私は決めたよ。ハル。」
「シル。ぼくのこえきこえてる?」
「聞こえてるよ。ずっと聞いていたい…だからこそ、すぐにキスしないと!」
「どうしてそんなにいそいでるの?」
「貴方と一緒に居たいからだよ」
「いまいっしょにいるよ?」
「じゃあ…行くよ。ハル」
「どこにいくの?りらねしあ?」
ハルの顔に両手を当て、そのまま顔を近づける。
そしてそのまま硬直する。
…キスってどうやるんだろう。やった事ないから知らない。
取り敢えず口をくっ付ければいいのだろうか。
恐る恐るハルの口に近づく。ハルの口は人族で例えるなら龍人族に似ていて、まるで大型爬虫類のような形だ。
ハルと目が合った。ここまで近くでハルの目を見たのは初めてだ。
赤い瞳の中に柔らかな黒い光がある。
あと少しで触れるところで気恥ずかしさに耐えかねて、私は目を閉じた。
───。自分以外の温もりを唇から感じる。
少し硬くて、でも暖かくて。
こんな形じゃなかったら、もっとよかったのに。
10秒ほどの時間が何倍にも感じた。
ゆっくりとハルから離れる。…魔精毒ってこんなに弱いのだろうか。
もしかしたら極地は極地でも危険度の低い場所だったのかもしれない。
まるで違和感を感じない。
目を開けてハルの様子を伺う。
するとハルは─。
「…ハル?」
「…え?」
「どうしたの?ボーッとして」
「えっと。…わ、わかんない」
「? そっか。気分は悪くない?」
「う、うん。わるくない。よ?」
「なんで疑問系?」
何故か私の方を見てボーッとしているハルに不思議に思いながら、心を撫で下ろす。
どうやら魔精毒は何とかなったようだ。これからはハルの近くであまり魔法を使うのは辞めておこう。万が一が怖いし。
「そろそろお昼だし、少し休もうか」
「う、うん。おなかすいた」
「そっか。じゃあすぐ作るからね」
料理の準備に取り掛かる。昼食は何にしようか。ハルには色んな食事を試してもらいたいし…悩みどころだ。
料理を悩んでいる間も何故かハルは私の方をずっと眺めていた。
◇
「…こ、れは…」
麻呂達は先程スレでアホを晒した馬鹿どもをしばく為に、スレ民で集まり突撃をしていた。
運良くどいつもこいつも転移魔法を覚えていた上にアホ共の居る国がそこそこ発展している国だからか、すぐに集合できた。
探知魔法でアホ共の場所を探すと2人共同じ場所に居た。リアルでも知り合いだったのか?と疑問に思いつつもスレ民達と共に突撃した。
奴らが居ると思われる一軒家に殴り込みを仕掛けるとそこには─。
赤。赤。赤。
部屋一面の赤色。
一体何をどうすればこんなに撒き散らせるのだろうかと思うほどの有様だった。
全て血だった。
スレ民達と動揺しながらも中に入って行くが、はっきり言って後悔した。
居間のテーブルに2つの首があった。
まるでマネキンかのように置かれていた。
だが自分自身の目が「これは本物だ」と喚いていた。
スレ民の何人かが吐いた。そりゃそうだ。麻呂も吐きたい。
死体自体はすでに見慣れておるが、こんな状態で見せられるのは初めてだった。
スレ民の1人が首に近づき、切られた部分から流れていたであろう血を触った。
「…何だこれは。
「なんだと…?」
乾いている?先ほどまで奴らは掲示板に書き込みをしていたではないか。だがよく首を見てみると既に血は流れていない。部屋を見てみても全ての血が乾いている。
「こ、これって…もしかしなくても。殺されてから【1週間】は立ってますよね…?」
若い女のスレ民が怯えながら言う。違いない。こいつらは殺されてから1週間経っている。
「…じゃあさ。もうみんな思ってる事だろうけど…」
特定ニキが2人の首を見ながら、こう言った。
「さっき書き込みしてた奴。誰だ…?」
◇
いせかい。てんせい。かみさま。てんせいしゃ。ちーと。えいゆう。しゃどーびーすと。
よくわからない…。なにかしってそうだったからきいてみて、おままごともしてみたけど。
「どうすればいいんだろう…?」
しらないばしょにいて、しらないふしぎなちからをてにいれて、へんないきものがいっぱいいる。
「どうすればあえるかな…?」
でもわたしなかないよ。やくそくしたもん。ずっといっしょって。
だからきっとこのしらないばしょのどこかにいるよね?
およめさんにしてくれるっていったもんね?
きっとまたあえるよね?
「はやくあいたいなぁ…」
どこにいるのかな
縺薙%縺ゥ縺難シくん。
善人しか居ませんよ。ちゃんと神に選ばれた転生者は。ええ。