「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
大の男2人でまるで生娘みたいな声で悲鳴をあげる。
だが仕方ないと思う。だって目の前にワールドエネミーが居るんだし。
「わわっ。びっくりした。おっきなこえだね」
シャドービーストは本当に驚いたような素振りをしている。
…殺す前に俺たちで遊ぼうってか!?
「あ、あ、あに、あに、あにあにあにき」
「ど、どう、どど、どどどーどどーどどうした…」
「俺遺書書いてなかった…」
「俺もだ…」
あれか。盗賊団なんて目指したのがいけなかったのだろうか。
まだ何も盗んで無いけど、結成して1日目だけど。
「悪いことしたら報いがあるんすね…」
「まだ未遂だったけどな…」
「やっぱ人間、真っ当に生きなきゃダメなんすね…」
「でもあまりにも稼ぎがなぁ…」
死が目の前にある俺たちは逆に落ち着いていた。
所謂諦観というやつになっていた。
「わるいことしたの?」
「いや、やろうとしてた。まだやってねぇ」
「そっか。じゃあかせぎってなに?」
「稼ぎ?そりゃお前金だよ金。最近冒険者は不況なのさ」
「まぁ不況なのは俺たちみたいな中途半端な奴らだけですけどね…」
「上の連中は問題ないくらいには仕事があるらしいからな」
何もかもがどうでも良くなった俺たちは何故かシャドービーストに愚痴を吐いていた。つーか殺すなら早よ殺せや。
「おかねほしいの?」
「あぁ、欲しい…いや欲しかったなぁ」
「もう無理ですけどね」
「なんでむりなの?」
「そりゃお前、今から俺たちは死ぬからだよ」
鼻をほじりながらヤケクソになってそう言うと
「ええ!?なんで?しんじゃうの!?しんじゃだめ!」
「いや死んじゃダメって…お前が殺すんだろ」
「ころす?」
「アンタのせいで俺たちは死ぬってことっすよ」
弟分がそう言うとシャドービーストは少し固まった後─。
「ぼ、ぼくのせい…?」
「ぼくのせいでしんじゃうの…?」
「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
「ごめんなさぁぁぁぁい!!!」
泣き始めた。…泣き始めた!?
「ハァ!?何言ってんだお前!?つーか何で泣いてんだよ!」
「だってぼくのせいでぇ…」
「いやいやいや、あんたシャドービーストじゃないすか。なんで人間が死ぬくらいで泣くんすか」
「やだぁ…しんじゃやだぁ…」
「ちょ…待て!わかった!わかったから!死なない!死なないから!」
「ほんと…?」
「ホントだ!嘘つかねぇ!だから泣くのやめろ!マジで!」
そう言うと大泣きすることはやめて啜り泣きになった。
訳わからん。一体何が起きてやがる。
「何でしょう兄貴。俺ら別に真っ当な反応しただけなのにめちゃめちゃ悪いことした気分です。例えるならちっさい子供泣かした感覚」
「言い得て妙だな。マジでそんな感じだ」
最高に気分が悪い。何だこの状況は。
だが鼻を啜りながらぐずるシャドービーストを見ると何故か恐怖が薄れてきた。
冒険者として多少なり生きてきた以上敵意の有無くらいは分かる。
だがこいつには敵意がまるでない。それどころか警戒心すらない。
ぱっと見俺たちなんかそこらのゴロツキと大して変わらない見た目をしているのに。
どうしたもんかと上着のポケットに手を突っ込んだら手に硬い何かが当たる感触がする。取り出してみると禁煙する為に買っておいた飴が入っていた。
少し考えた後、泣いているシャドービーストに近づく。
「おら。これやるから泣くのやめろ」
「グス…これなあに?」
「飴だよ飴。知らねぇのか?菓子だよ」
「おかし?」
「あぁ、手出しな」
俺の言う通りに手を出してきたシャドービーストの手の平に包みから出した飴を置く。
「ほら、食いな」
「うん…いただきます」
そう言って口に飴を入れる。少し口の中で転がした後にシャドービーストは─。
「んふふ…あまくておいしい」
涙目のまま、幸せそうに笑った。
「…あの、兄貴」
「…なんだ」
「俺頭おかしくなったかもしれません。めちゃめちゃ見た目邪悪なシャドービーストなのに少し可愛いと思っちまいました」
「奇遇だな。俺もだ」
口の中で飴を転がしてるコイツを見てるとビビってる俺たちが馬鹿らしくなってきた。
緊張の糸が切れたからか弟分と共に座り込む。シャドービーストの隣に。
「…おい、お前」
「なあに?」
「…名前とか、無いのか」
「ぼくの?ぼくのなまえはハルだよ」
「そうか…ハルか…」
もう一つ飴を取り出して自分の口に放り込む。
少し舐めて、迷った後に─。
「俺は…ツルパゲ。ツルパゲだ」
「あ、俺はツブローです」
自己紹介をしてみた。コイツだけに名前を名乗らせるのはなんか狡い気がしたからだ。
シャドービースト…ハルはキョトンとしたような様子をした後に
「うん。よろしくね!」
まるで友人が出来て嬉しいみたいな声色で、笑っていた。
◇
「はぁ。この辺で盗賊団が。」
「はい、どうやらそうみたいで…【聖人】様ともあろうお方にこのような事を頼むのは失礼だと理解しておりますが…」
「いやいや、いいんですよ。困っている善人がいるなら手を貸すのが我らの掟。いくらでも頼ってください」
シルさんを探す途中に立ち寄った村で情報収集していたら村長から盗賊団が出たとの話を聞いた。まぁ別に急ぎじゃないしこれくらいだったら構わないだろう。
「被害はどのくらいですか?」
「はい。家畜が数十頭、金品がいくつかと言ったところです」
「家畜。牛ですか?」
「はい。食肉用のものです」
ふむ。と言うことは金メインというよりは食糧メインの強奪と言ったところでしょうか。
「わかりました。家畜が無事かまでは保証出来ませんが任せてください。終わったらまたここにきますね」
「あぁ、ありがとうございます【聖人】様!」
…【聖人】と呼ばれるのは嫌だが、一般人にまで名前呼びをさせる気もない。仕方ないかと諦めながら村を出る。
さて。ちゃっちゃと終わらせますか。
◇
「ハル。お前ここで何してんだよ」
「ぼく?おるすばん」
「留守番すか?」
俺たちはハルと適当にダベっていた。いやまぁ座り込んでから立ち上がる体力が無かっただけではあるが。
「留守番って…誰の帰りを待ってんだよ」
「シル」
「シル…?どっかで聞いたような…」
「何でしょう。めちゃめちゃ有名だった気がするんすけど思い出せない」
「ツルパゲとツブローはどこからきたの?」
「俺らは城塞都市ギラテルからだよ。居たのはもう何ヶ月も前だけどな」
「一応、俺らの故郷っすよ」
「こきょう?」
「生まれた場所ってことだ」
「そうなんだ」
「ハルさんはどこで生まれたんすか?」
「えっとね、もり」
「ここも森みたいなもんだが…」
「ここじゃないところだよ」
「別の場所から来たんすね。なんでっすか?」
「おうち!あたらしいおうちさがすの!」
「家だぁ?前までの家はどうしたんだよ」
「なんかね、シルがあそこじゃだめだって。ぼくとにてるひとたちがいっぱいわるいことしたから、ぼくもおこられちゃうみたい」
「あー、まぁシャドービーストですからねぇ。普通だったら討伐軍組まれてもおかしくないっすよ」
「お前も大変だな。逃亡生活なんてよ。楽しくねぇだろ?」
「ううん?シルといっしょだからたのしいよ!」
「ハハハ!そのシルさんって人の事大好きなんすね!」
「うん!シルだいすき!」
ずっと2人でしか会話しなかったせいなのか、どうやら俺たちは人恋しかったようだ。会話が結構弾む。まぁ人恋しいって言っても相手人じゃないけど。
「それで?そのシルとやらはどこに何しに行ってんだよ」
「ここのちかくにね。まちがあるんだって。そこでかいものするんだって」
「ほーん町ねー…町!?」
ハルを二度見して聞き返す。あまりにも自然だったから流しそうになった。
「あんの!?町!どこに!?」
「えーっと…わかんない」
「あーこりゃ変に動くよりそのシルさんって人が帰ってくるの待った方いいっすね。町への道教えてもらいましょうよ」
「ああ、そうだな。遭難が何とかなりそうでよかったぜ」
「そうなんってなに?」
「あー迷子っすよ迷子。俺たち2人していい歳して迷子になってたんすよ」
「まいご?たいへん。だいじょうぶ?」
「ああ、もう大丈夫だ。一気に大丈夫になったから」
「そっか!よかったね!」
「おう」
「ハルさんのおかげっすね!」
「ぼくのおかげ?」
「ああ、ありがとよ」
「? んふふ、どういたしまして」
そういう事なら待たせてもらおうと思いつつふと気になった事を聞く。
「そういやお前って影移動とか使えんのか?」
「かげいどー?」
「シャドービーストの能力っすね。影から影にいくらでも転移できるって言うトンデモ能力」
「魔法使わないで出来るんだからずりぃよなぁ」
「わかんない」
「あん?」
「やりかたわかんない」
「え…マジかよ。親とか仲間とかから教えてもらわないのか?シャドービーストの文化知らねぇけど」
そう言うとハルは少し顔を俯かせて
「…ぼく、おとうさんとおかあさんしらない」
「は?知らない?」
「うん。おきたらもりでひとりだったの。だれもいなかったの」
「…ハルさん」
「でも、シルがきてくれたからもうさびしくないよ!」
「…そうか。変なこと聞いて悪かったな」
舐めていた飴を自分の気の回らなさに苛立ち噛み砕く。
その後、俺は立ち上がってハルの方を向いた。
「おいハル。お前も立ちな」
「兄貴。どうしたんすか急に」
「お前も立てツブロー。これから特訓だ」
「とっくん?」
ハルが首を傾げながら聞いてくる。
俺は準備運動をしながらハルに背を向けたまま言う。
「おう。シルとやらが帰ってくるまでだが、影移動の特訓だ」
ツルパゲ…つるっぱげ
ツブロー…ツーブロック
そのまんま