「特訓って…何でそんなこと」
「出来ないよりかは出来る方がいいだろ」
「えぇ…でも教えるったってどうやって。俺たち影移動なんざ使えませんよ」
「あぁそうだな。だが俺は影移動は転移魔法と似ていると考えてる」
「転移魔法と?」
俺は近くの木に近づき、日光が塞がれて出来ている影を指差す。
「話によると影移動っつーのは影から影に移動する力だ」
「そうですね、距離も基本関係無いらしいですよ」
「そんでもって転移魔法そのものには距離自体に制約はない」
「まぁ魔法ですからイメージが足りないとダメですけどね」
「こうして並べると共通点が見えてこないか?」
「共通点?」
「きょーつーてんってなに?」
「同じところがあるってことっすよハルさん」
俺は今指差してる影から他の影に指を移す。
「影から影に移動する。自分の現在地から自分の行きたい所に行く。そしてお互い距離も制約自体は無い。つまり、影移動もイメージで出来てるんじゃないのか?」
「影移動は魔法ってことすか?」
「恐らくだがな」
「でも確か…シャドービーストって…」
「ああ。お前も知っての通り、魔法っつーのは魔精に生命力を注ぎ込んで破裂させる事で発現する。相手に破裂した魔精をぶつけるイメージだな。だが魔法に耐性がある奴は魔精に嫌われているから手元に来ず、魔法が使えない。シャドービーストも同じだ。攻撃魔法全般に対して耐性があるからな」
「じゃあ魔法使えないんじゃ無いです?寄ってこないんですよね?」
「そうだな。だが寄ってこないんならこちらからよればいいだろ」
「…え?」
呆気にとられるツブローを尻目に持論を続ける。
「魔精って言っても同じ生命体だ。しかも知能も無く本能で動いている。生命力を食う。耐性があるやつから逃げる。こんくらいか」
「だが魔精自体に戦闘力は無いし速いやつなら追いつけるだろう。それこそシャドービースト程の身体能力があればな」
「てことは…もしかして影の場所に漂ってる魔精を無理やり使ってるという事ですか!?」
「影移動する場所の魔精に生命力を叩き込み、魔法として発動しているってことだ」
「はえ〜。確かにそれなら耐性持ちでも魔法使えますね…あれ?影の中って魔精いるんすか?」
「いや、移動そのものに魔法は使わないのさ」
「え?」
「魔法を使うのは
後頭部を軽く掻きながら続ける。
「じゃあなんでハルが出来ないんだよって話なんだが…ハル。お前気づいたら森に居たんだよな?」
「? うん。めがさめたらもりだった」
「影の中に入った事は?」
「ないよ」
「…もしかして、ハルさんは影の中から生まれていない…?!だから影の中に入るイメージが足りなくて影移動の際に使う魔法が使えない!」
「ああ、俺の結論はそれだ」
俺は今度はハルに指を指す。
「つまりだハル!影移動はお前のイメージが足りさえすれば、もう出来るんだよ!」
「いめーじ?」
「つまりイメトレっすね!…でも影に入るイメトレってなんすか?」
「決まってんだろ!気合いだよ!」
「根性論になっちゃった…さっきまであんなにインテリだったのに…」
「うるさい!それしか無いんだよ!魔法だって基本気合い次第で何とかなるんだよ!」
ツブローのツッコミに返しているとハルは少し困ったように
「でも…ぼく、かげいどーいらないよ?」
「あん?なんでだよ」
「ぼく、けんかやだ。けんかつよくなりたくない…。よくわからないけど、かげいどーってけんかつよくなるのでしょ?…やだ」
…こいつホントにシャドービーストなのか?生まれてくる種族完全に間違えてるだろ。
俺はハルの背中をポンと軽く叩きながら、なるべく優しい口調で言う。
「影移動は別に喧嘩が強くなるもんじゃねぇよ。これはお前が何かあった時に逃げるもんだ」
「にげる?」
「ああ、お前自体の性格はハッキリ言って善性の極みだがそんなの他の連中にはわからないからな。お前に恐れを抱いて逃げる奴や、逆にお前を倒そうと攻撃してくる奴も居るだろう。そんな時に影移動覚えていれば逃げれるだろ?これはお前が痛い思いしなくていいようにする為、覚えなきゃいけないものだ」
「かげいどーできれば、いたくない?」
「まぁ現状、人族側に影に入ったシャドービーストに攻撃出来る方法ありませんからね。だから討伐数も少ないみたいですけど」
「うーん…」
渋るハル。どうやらこいつは現状に満足しすぎて、自分から何かを変えようとするのは嫌なみたいだな。…逃避行で満足って、どんだけだよ。
仕方ないので、あまり使いたくなかった方法を取ることにした。
「…影移動覚えればシルとやらも喜ぶぞ」
「シルが?」
「そりゃそうだ。どんな奴かは知らんがお前を守りながら一緒に行動してる奴だぞ。お前が安全に逃げる手段覚えればそりゃ喜ぶ」
「シルがよろこぶ…」
「何だったら褒めてくれるかもな。偉いぞって」
「ほんと!?」
「ああ、ホントだホント」
「シルにほめてほしい!ぼく、かげいどーする!」
「おう、じゃあ練習するぞ」
「うん!」
…まぁ、嘘にはならんだろ。実際多少なりて喜ぶはずだ。
そう思いつつ早速やるかと思ったらツブローが耳打ちしてきた。
「あの…兄貴。何でそこまでハルさんに肩入れするんすか?いや俺も別にハルさんが嫌いなわけじゃ無いっすけど」
「…自分でもよくわかってない。何でこんなことしてんだろうな、俺。ただな─」
やる気満々なハルを見つめつつ、呟く。
「あいつが唯の世界の敵として討伐されるのは…見たくない」
「…そうですね。俺も見たくないっす」
「そうか、奇遇だな」
「そっすね」
2人して軽く笑う。こんな所も俺たちは似ているらしい。
「ツルパゲ!ツブロー!はやくれんしゅー、やろ!」
「おう、やるか」
「頑張りましょうねハルさん」
「うん!」
◇
買い出しし始めて1時間。中々必要品が多いせいか、まだ買い物は終わらなそうだ。この町の店は場所が離れてるせいもあって、時間がかかる。
「次は…包帯買わないと」
そう呟きながら歩き続ける。この町は結構な人が居て、少し混雑している。
「…ハルに会いたい…」
本心が漏れ出た。たった1時間離れただけでハルに会いたいしハルの声を聴きたい。…これだけ見るとだいぶアレな感じがする。
だが仕方ないと思う。ここ暫くずっと一緒に居たから完全に慣れてしまったのだ。決してハルに依存してると言う事はない。きっと。多分。
情けない自己弁護を心の中でしていると─。
「あ、あの!」
「!?」
背後から声をかけられた。間違いなく、私に向けられたもの。
この町は国からは離れている。私がハルと逃げている事は末端の町にはまだ伝わっていないと思っていたし、フードで顔も隠していたが…。
警戒しながら振り返る。そこにはいかにも旅商人と言った感じの風貌の私より少し年下の男性が写っていた。
…どこが見たような?どこだっただろうか…思い出せない。
私が反応に困っていると彼の方から切り出してきた。
「す、すいません。さっき少しだけ顔が見えたんですけど…【銀狼】シルさんですよね?」
「…だとしたら、なに?」
「あ、ま、待ってください!ぼ、僕のこと覚えていませんか?以前盗賊団から助けていただいたカシムです!」
「盗賊団から…あぁ、もしかしてあの時の」
数ヶ月前、1000人越えの大規模な盗賊団の討伐依頼を受けた時に監禁されていた商人が居た。それが彼だった。
「あの時は本当にお世話になりました!」
「別に…依頼だったから感謝なんていらないよ」
「そ、そんな事ないです!あれだけの盗賊団を瞬殺!比喩ではなくホントに瞬殺!あの時はホント感激しました!」
そう言うと彼は自分の商品の方を漁り始める。
「以前お買い上げ頂いた味噌の方はどうでした?」
「うん、よかったよ。美味しかった」
「そうですか!中々に珍しいものでしたので入荷に苦労したので…。あ、一応また入荷してますがどうですか?」
「なら、いくつか買おうかな」
「ええ、ありがとうございます!」
彼から味噌をいくつか購入する。ハルも喜んでいたし、また鍋でも作ろうか。
代金を払い終わった後も彼は荷物を漁りながら
「それと…シルさん。確か常に寒さに襲われていると言ってらっしゃいましたよね」
「あぁ…言ったっけ。覚えてない。ごめん」
「そうですか…あ、いえ良いんです!それでそのお、お礼として何かしたいと思いまして…」
そう言うと彼は桐箱を取り出した。開けるとそこにはポーションが測っていた。
「これは私が高名な治療師に頼み込んで作ってもらった耐性ポーションです」
「耐性ポーション…」
耐性ポーションはその名の通り、耐性を得ることが出来るポーションだ。効果は永続。とんでもない破格の効果を得られるのと引き換えに値段がとんでもないことになっている。具体的にはこの前受けたエンシェントドラゴン討伐でようやく賄えるくらい。
「一応その方には借りを作っていたのでそれを返してもらう形で作成してもらいました」
ポーションを私に差し出してくる。
「耐性ポーションの内容は寒冷…これならシルさんを襲い続ける寒さも治るはずです!」
「…耐性ポーションに寒冷耐性が得られるものは無かったはずだけど…」
「はい!なので世界にこれ一本しかないんです!あの時救っていただいたお礼、ここで返させてください!」
何故か顔を赤くしてカシムは私にポーションを渡そうとしてくる。
なので私は─。
「ごめん。いらない」
「…え?」
「寒さ治ったから」
「え、えぇ!?な、治ったんですか!?」
「うん、完璧に治った。もうちっとも寒くない」
「そ、それは…いえ、よかったです!本当に!」
少しショックを受けたような様子をした後、ポーションを仕舞い始める。
「そ、それで…原因は分かりましたか?」
「寒さの原因?うん、分かったよ」
「え!分かったんですか!?」
「私はずっと体質的な問題と思ってたんだけど…違ったんだ。私は孤独に震えてただけだった。ずっと」
「孤独…あ、あの…と言う事は今は…」
孤独に震えていた時を思い出す。寒くて寒くて仕方なくて─
でもハルと出会って、彼の暖かさで寒く無くなって─
だから─。
「うん。大切な人が居るから、ちっとも寒くないよ」
笑顔でそう言った。
その後カシムは何故か膝を地につけて項垂れていた。体調が悪いのか聞いても違うらしい。味噌も買ったし買い出しを続けるために彼と別れる。
…大丈夫だろうか。彼。
BSS(僕が先に好きだったのに)ってこうですかわかりません