「シ、シル…」
「ハル、大丈夫?ちょっと待っててね」
ハルを安心させる為に一言言った後、ハルに手を出そうとした敵が口を開いた。
「なるほど、貴方が一緒に失踪したというのがあのシャドービーストさんなんですね。名前はハルさん。いい名前ですね。シルさんが付けたんですか?」
「口を開くなと言わなかった?」
掴んだままの頭を握る力を更に強くする。耳に骨が軋む音がする。
「そうは言いましても口を開かないと会話は出来ませんよ。それともシルさんはテレパシー使えるようになったんですか?エスパー?」
「頭悪いの?あなたと会話しないって意味なんだけど」
「それは困りますよ!私シルさんに会いに来たのに!」
「は?」
私に会いに来た?ハサイとは2年前に少し会話した程度だ。
わざわざ会って会話する程の仲では絶対に無い。
「いや知ってます?貴方が失踪してから周辺国家はてんやわんや。やれ裏切ったとか、やれ洗脳されているとか言いたい放題でして。今は取り敢えず様子見に落ち着いてますけどね」
「…それが私に会いに来る理由にはならないけど」
「その情報を聞いた私は取り敢えず本人に真意を聞こうと思いまして。わざわざ聖都から出てきてひーこらばひんばひんと徘徊してたんですよ」
首はペラペラと話し続ける。…やった私が言うのもなんだが、首だけが喋り続けるのは不気味だ。
「プラプラし始めて3日程度で会えたのは運が良かったです。日頃の行いですかね!」
「…私は最悪に運が悪いけど」
「マジですか。お祓いします?やってあげましょうか?」
「あなたじゃなければお願いしたかな」
「なんで!?」
首は本気で驚いていた。何言ってんだこいつ…。
「まぁ半分冗談は置いといて真意ですよ真意。教えてくださいよ。どうしてハルさんと一緒に逃避行してるんですか?」
「…それは」
「随分と薄着になりましたね〜。前は夏だってのにガッツリ着込んでた貴方が。何か関係あるんですか?」
「…」
「沈黙は肯定と取りますね。じゃあひとつだけ答えてください。これに答えてくれれば後はガン無視で構いませんので」
そう言うとハサイは今までの口調から一転して、真剣な声色で問いかけてきた。
「ハルさんがこの世界全てから命を狙われたら、貴方どうします?」
「全て殺す」
即答した。当然だ。ハルと世界全てなんて、天秤にかける気にもなれない。
「うわぁ…食い気味じゃないですか。比喩でも何でもない。貴方は本気でやる。ハッキリ理解しました。答えてくださってありがとうございます」
「それで?ハルに手を出そうとした理由教えてよ。殺さないから答えて。どうせ死なないだろうけど」
「いや別にハルさんを殺そうなんて思ってませんよ。本当です。ただ私ここに来る道中に立ち寄った村で盗賊団討伐の依頼を受けましてね」
「盗賊団?」
「家畜が数十頭盗まれるとかいうものでして。そりゃいかんって事で盗賊団探してたらそこの2人が盗賊団って言うじゃないですか。だから殺そうとしたらハルさんが庇ってしまいまして、なので気絶させようとしたんです」
ハルの後ろに目をやると2人の男がいた。腰を抜かしながらも先程ハサイがハルに手を出そうとしたのをやめろと言っていたのを私は聞いている。
「…ハル。その2人は?」
「え、えっとね。ツルパゲとツブロー…」
「その2人をハルは何で庇ってるの?」
「と、ともだちだから…」
ハルがおずおずと言ったのをきっかけに男2人が話し出した。
「…俺らが遭難して喚いてたらハルが話しかけてきてな」
「軽く話したらまぁ仲良く?なったと言うか何と言うか…」
「ハルと仲良く…?」
私が言う事では無いだろうがシャドービーストであるハルと仲良くなるって…中々に変人な気がする。いや、ハルの善良さが分かっただけかもしれないが。
「ふたりにはかげいどーおしえてもらったの」
「影移動を…!?」
「え、マジですか。出来なかったんです?私てっきり影移動で割り込まれたらやばいから気絶させようとしてたんですけど」
ハルは影移動が出来ない。いや、やり方がわからないと言っていた。
私も影移動に関しては詳しく無いから仕方ないと諦めていたけど…。
「どうやって教えたの?」
「…あくまで自論だが影移動は転移魔法と似ていると思ってる。似てるんだったらイメージで何とかなるんじゃねぇかと思った。ざっくり言えばこうなるな」
「実際はもっと長々と喋ってましたけど長過ぎますからね」
…転移魔法と似ている…?確かに短距離の転移と影移動は似ていると言われればそうかも…。だがそれより気になることがあった。
「じゃあ…何で教えたの?あなた達にメリット無いでしょ」
そう尋ねるとスキンヘッドの男は顔を顰めながら
「…別に。こいつが世界の敵として討伐されるのが嫌だっただけだ。逃げる手段があれば死ぬ確率減るだろ」
そう言った。
「…あなた変わってるね。私が言うことじゃ無いけど」
「まさか【銀狼】様にんなこと言われるとはな」
「何で俺ら忘れてたんすかね。シルって聞いて気づけよって感じっす」
…取り敢えずこの2人は問題無さそうだ。ならまずは─。
「盗賊団…なんだっけあなた達」
「今日なったばっかだけどな」
「何にも盗んで無いですしね」
「じゃあ今すぐに盗賊団辞めるって宣言して。そうすればコレはすぐに諦めるから」
そう言ってハサイを地面から引き抜く。平然としているのを見ると流石に引く。
「え?それでいいのか?」
「?いいですよ。貴方達は罪を冒してませんから。見れば分かります」
「じゃあもしかして…マジで盗賊団名乗ってたから殺しに来たんすか!?」
「? それ以外ありますか?」
「…ハサイは頭おかしいから。そういうものだと思った方が楽だよ」
「え?シンプルに酷くないですか?」
「酷いのはあなたの精神構造だよ」
まるで心外みたいな顔で抗議してくるが知った事では無い。
「…分かった。どうせ向いてないんだしな。盗賊団は廃業だ」
「まぁ…実際やる勇気があったかというと微妙ですしね…」
「あ、そうですか。それは良かった。久しぶりにここまでの善人見ましたからね。殺さなくていいなら殺したく無かったんです」
ハサイが男2人に笑いかける。後ずさる2人。そりゃそうだ。
「…ね、ねぇ…シル…」
「どうしたのハル」
「も、もうはなしてあげて…?」
「…いいの?ハルを叩こうとしてたんだよ」
「でも、もうしないんでしょ?」
「ええ、しませんよ。私嘘は付かないので」
「じゃあだいじょうぶだよ。だからはなしてあげて…」
「…分かった」
ハサイを無造作に投げ捨てる。すると一瞬のうちに欠損していた部分が全部元に戻った。
「いやー再生阻害完璧だと流石に抜け出せませんね。離してくれてありがとうございます」
「ハルが離してって言ったから離しただけだよ」
「ならお礼を言うのはハルさんですね!ありがとうございますハルさん」
「え…う、うん…?」
困惑するハル。…後でハサイの対応教えないと…。
「…英雄って首だけになっても平気なんだな」
「何でしょう本当に人族?」
「一緒にしないで欲しい。ここまでおかしいのはハサイだけだよ」
「まぁ私は何故か再生能力がずば抜けてましてその影響か首だけでも平気なんですよ。回復魔法と併用する事でこれくらいの回復は訳無いです。最悪細胞一つでも残ってれば元に戻れますよ」
「…別の場所に血液でも保存してそうだな」
「よく分かりましたね。幾つもの場所に保管してます。なので私を殺し切るにはそれも含めて細胞全て破壊しないと無理ですね」
「もう考えるの辞めた方いいっすねこれ」
…取り敢えずハサイも何かする気は無いようだ。
私はハルに近づく。
「ハル」
「シ、シル…なに?」
そのままハルを抱きしめる。
「え…?」
「よかった。怪我無くて。無事で。本当によかった…」
買い出し中に聞こえたハルの声。それが無かったら気づかなかったかもしれない。
「ハルに…何かあったのかって思ったら…気が気じゃなくて…」
「もしハルが居なくなったらって思ったら…」
「よかった。よかったよ…」
ハルにしがみ付きながら涙が溢れる。自分で止められない。
…ハサイは私が強くなったなんて言っていたが、そんな事無い。
ハルが居なくなったらなんて思うと、私はこんなに弱い。
「ごめん…なさい。ごめんなさいシル…。また…ぼくシルこまらせて…ぼく…ぼく…」
「ううん、大丈夫だよ。困ってなんか無い。だから泣かないで?」
「ごめんなさい…ごめんなさぁい…」
「うん、うん…」
ハルと抱き合いながら背中を軽く撫で続ける。
彼が泣き止むまでずっと─。
「あはは。あんなシルさん見た事無いです。ハルさん凄いなぁ」
「…あのよ。アンタ少しは空気読むって事覚えた方いいぞ。どう考えてもここは見守る所だろ」
「言うにしても小声っすよね。ガッツリ聞こえる音量で言っちゃってるもんなぁ」
…ハルが泣き止んだらハサイは殴ろう。
私は心に誓った。