影の獣in 5歳   作:水道館

21 / 45
ちょっと長め。次で逃避行編は終わりです。


勧誘

「さて、改めまして自己紹介を。英雄なんて呼ばれているハサイです。二つ名は【聖人】。でもこの二つ名で呼ばれるの好きじゃないんで名前で読んでください」

 

ハルが泣き止んでハサイの頭を消しとばした後、私たちは座りながらお互いの素性を明かす事にした。

 

「シル…。【銀狼】って呼ばれてる」

「ハルだよ。よろしくね」

「ツルパゲだ…元冒険者だ」

「ツブローっす。兄貴と同じく元冒険者っすよ」

 

全員が軽く自己紹介をした後、取り敢えず私はハサイに聞かなければならないことがあった。

 

「ハサイ、私への周辺国家の扱いについて軽く言ってたよね。詳しく教えて」

「いいですよ。と言ってもさっき言ったのが割と全部ではあるんですがね」

 

そう言ってハサイは前の胴体の懐から紙を取り出す。どうやら書類のようだ。

投げ渡された書類を受け取り目を通す。

 

「これウチの教団に回ってきた情報です。内容はシルさんがハルさんを連れて失踪したってのとそれに対する周辺国家の対応。なんでも【城塞都市ギラテル】が様子見に回った事で、他の国もそっちに流れたって言う話です」

「…ギラテルってもっと過激だったと思うんだけど」

「私もそう思ってました。ただ何でも辺境伯の鶴の一声で様子見に落ち着いたらしいですよ。中々に優秀な人ですね。主に脳筋の手綱を引くと言うことに関して」

「ふーん…」

 

何にせよ追手の心配をしなくて済むのは楽でいい。

負けないとは言え万が一を考えれば、避けられる戦闘は避けるべきだ。

 

「一応聞くけどよ。ハルとアンタは今逃げている…いや、追ってくる奴が居ないのに逃げるってのも変だな。まぁ兎に角安全な場所探してんだろ?ハルが家探してるとか言ってたからな」

「…そうだね。私とハルが2人で平穏に暮らせる場所を探している」

「…それ、かなり難しい気がするんすけど…何か考えはあるんです?」

「リラネシアに行こうかなと思ってるけど…」

「え?リラネシア行くんですか?辞めた方いいですよ」

 

ハサイが自分の髪先を弄りながら口を挟んでくる。

 

「大方、魔物と人族が共存してる国だからって事で行こうとしたんでしょうけど…あそこの魔物って何十年もかけて信用と信頼を築き上げたからこそ共存できてるんですよ。そんな所に絶賛皆殺しヒャッハーしてる種族のハルさんが行ったって受け入れてもらえる訳無いでしょ。まぁシルさんが居るから刃向かってくる連中を全部屈服させるなら話は別ですが…そんなのリラネシアじゃなくてもいいのでは?」

 

…反論が出来ない。ハサイの言う通りだった。

ハルと一緒に居たからか、シャドービーストに対する認識が甘くなっていたかもしれない。

 

「…なら、他の場所探すよ。最悪大陸渡ってでも…」

「他の大陸ってここ以上に魔物に苛烈ですよ?なんせ私ら英雄が居ない所のが多いですからね。その分被害が出て身内が殺されてしまった者も多い。そんな所に行くんです?」

「…まぁ、オススメはしねぇな。大陸わざわざ渡るくらいならこっちで秘境でも探して引きこもった方が安全だろうよ」

「…」

「シル…だいじょうぶ…?」

 

ハルが私を心配してくる。…恐らく酷い顔をしているのだろう。

分かっていただろう。ハルが世界の敵だなんて事は。

それを分かった上で私は彼と共に居ると決めたんだ。

例えその先が苦難の道だとしても、必ず、ハルを悲しませないと。

決意を新たにする。元々リラネシアに関しては疑っていた所はあった。

無駄な時間をかけなくて済んで良かったと考えよう。

 

「まぁ否定だけして対案出さないのはアレですので…私の提案、聞いてみませんか?」

 

ハサイが立ち上がって笑顔で言う。

…提案?

 

「何?提案って」

「ふっふっふ…実はさっきから考えていた事なんです」

「さっきってどっからだ?」

「枝毛探してた時」

「数十秒前なんすけど、それって思いつきって言いません?」

「そうともいいます!」

「そうとしか言わねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ簡単な話ですよ。ウチ(聖都)来ませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗に整頓された執務室。今日も今日とてギルドマスターの私は─。

 

 

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁんもうやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

発狂していた。

 

「ちょwwwうるさっwwwご近所迷惑なんだがwww」

「オメーの草の方が煩いわよワロスナイト!」

 

ヘラヘラ笑い続ける部下に怒鳴りつける。こいつマジいい加減にしろや。

 

「そんな発狂しようとこの大量に届いてる各国からの追及のお手紙は減りませんよギルドマスターwwwドンマイwww」

「オメーも手伝えよ!このクソみたいにあるコピペの如く同じような文章しか書いてない手紙の返信をよぉ!?」

「無理wwwだって相手側がギルマス指定だしwww」

「きょええええええええええ!!!!!!!!」

「また壊れたwwwもう粉微塵じゃんwww」

 

クソが!どいつもこいつも何でおんなじ文章なのよ!?

おかしいでしょ!書き出しまで全部同じとかオメーら口裏合わせただろ!

 

「こっちが1番しんどいのにぃ…」

「【銀狼】離脱は痛いですねぇwww高難易度依頼を相場の価格で受けてくれてた唯一の英雄ですしwww」

「わざわざ高レベル冒険者に頼み込んで捜索までして貰ったのに!!!」

「結果逆にボコられて本人はシャドービーストと仲良く失踪wwwワロタwww」

「笑えるかぁ!!!芝刈り機でドタマ割くぞ!」

「ちょwww暴力反対www平和的解決キボンヌwww」

 

軽くワロスナイトと取っ組み合いをした後疲れたので諦める。

 

「ハァ…ハァ…どうしようマジで…超高難易度依頼もどんどん溜まってきてるのに…」

「なんか最近ドンドン依頼の難易度上がっていきますよねwww魔物の侵攻自体は少ないのに点々と狂ったような強さの魔物が出てきて困りますわwww【銀狼】が受けたエンシェントドラゴン討伐だって、本来水精の樹海にいる訳無いのに居ましたからねwww」

「マジどっから湧いたのよアレ…おかしいでしょ…」

「木の股から生まれたんじゃ無いんすか?www」

 

逆に難易度が低めの依頼は殆ど無いと言っていいほど枯渇している。そのせいで高レベル冒険者と低レベル冒険者の格差が酷くなっている。

 

依頼が無いから経験を積めない。経験を積めないから強くなれない。強くなれないから依頼が無い。その一方で既に高レベルに至っている者は溢れるほど依頼がある。これでは格差は広がる一方だ。

 

「だからこそ…だからこそ【銀狼】に低レベル冒険者の指導をしてもらおうと思ってたのに…」

「にしてはガンガン討伐依頼渡してましたけど?www」

「本人の要望蹴って機嫌損ねられたく無かったのよ!ある程度落ち着いたら言うつもりだったの!それなのに…それなのに!」

 

立ち上がって髪をかきむしりながら慟哭する。

 

「どうしてシャドービーストなんか助けて一緒に失踪するのよぉぉぉ!?」

「さぁ?wwwそんなの本人しか知らないっしょwww」

 

マジで意味わからん。【銀狼】普通にシャドービースト討伐した事あるじゃん!なんで殺さないで助けて一緒に逃げるの!?洗脳!?洗脳された!?

 

「あwww俺分かったかもwww」

「何がよ」

「【銀狼】がシャドービーストと失踪した理由www」

「マジで!?」

 

こいつ鋭い所あるからバカに出来ない。伊達に草生やしてる訳じゃ無いわね!…いやこれは普通に伊達だったわ。

 

「【銀狼】がシャドービーストと失踪した理由は…www」

「理由は…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャドービーストに惚れて駆け落ちした!これでファイナルアンサーwww」

「死ねカス!」

 

私は馬鹿の顔面に万年筆を突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー助かりました。まさかお二人が私の追っている盗賊団のアジト知ってるなんて」

「遭難してる時に寝ぐらにいい感じの洞窟があったんだがな、人の気配がめちゃめちゃあったから避けたんだ。今考えるとあそこに大勢いるって盗賊団以外居ないよなって思ってよ」

「まさかあの遭難が役に立つなんて思わなかったっす」

 

2人に案内されて、目当ての盗賊団のアジトを目指す。

にしてもこのスキンヘッドの男、ツルパゲさんは優秀だ。ツブローさんも鋭い所があるので見所がある。

 

「にしてもホント、貴方らなんで盗賊団なんてものになったんですか。お金が無いと言ってもやりようは他にあったでしょう。特にツルパゲさんは優秀な人材なんですから」

「…アンタは知らないかもしれんがな、今冒険者っつーのは一部を除いて信用が地に落ちているんだ」

「信用が?何故ですか?」

 

聞いた事ない話に意識が傾く。聖都では冒険者は居ない為、知る由が無かった話だ。

 

「俺も聞いた話になるが何でもアクアニスタで冒険者が王族殺したなんて話が出てな。ギルドが必死こいて調査してもそんな証拠は出なかったんだが、インパクトのある話は回るのが早い、あっという間に冒険者は王族殺しのレッテル貼られちまったよ」

「そのせいで元冒険者なんて雇ってくれる場所無いんすよ…。別に話を仕事側が信じてる訳じゃ無いんすけど体裁が悪くなるからって…」

「何ですって?酷い話ですね」

 

つまり彼ら2人は全く悪く無いのに苦しむ羽目になってしまったと言う事になる。

当然、盗賊団になるのは許せないが既に辞めた今、私の心には手助けしたいと言う思いだけだった。

 

「んー。お二人今無職ですよね?」

「…まぁ、そうだな」

「盗賊団辞めましたからね。盗賊団を仕事と言っていいかは怪しいですけど」

「なら、私に雇われませんか?」

「「え?」」

 

先導していた彼らの足が止まる。私は人差し指を上に立てながら笑いかける。

 

「実は今、聖都では教師が不足してまして」

「教師が?」

「はい。前に教育関連の改革をしたのですが…教師がゴミしか居なかったんです。生徒のことを考えず保身ばかりの人に物を教える人間としては終わってるのばかりでした。取り敢えず罪まみれだったので殺したんですけど…そしたら教師の数が減り過ぎてしまって」

 

アハハと軽く笑う。何故か少し距離を取られた。なんで?

 

「とまぁそう言うことで、教師を探しているんです。そこで貴方たちです」

「…あのよ、自分で言うのも何だが俺ら教師って面じゃないぞ」

「そこらのチンピラみたいな見た目っすよ。自分で言うことじゃ無いけど」

「見た目なんて関係ないです。大事なのは中身…そう、善性です。貴方たちには罪が見えません。更にハルさんというシャドービーストと出会っても決して迫害せず、友好を築きました。人間として文句無しです」

「それに関しては俺らじゃなくてハルが特別なだけだぞ」

「いいえ、ハルさんが特別なだけだったら、貴方たちはハルさんに影移動を教えていないはずです」

 

彼らに手を差し出し、握手を求める。

 

「そんな貴方たちだからこそ、教師となって子どもたちに教えを説いてもらいたいのです。いかがですか?」

「…それが理由か?」

「それと…職のない貴方たちを助けたいという考えもあります」

「…でも俺らが教師っすか…あんま自信ないというか…」

「あ、そうだ。大事なこと忘れてました」

 

懐から勧誘の為に作っといた書類を取り出し、2人に渡す。

 

「こちらお給料とか休みとか…所謂待遇の書類です。良ければ目を通してください」

「…兄貴、目がおかしいのかな。給料が凄いんすけど」

「ああ、安心しろ。俺も見えてる」

「これ…高レベル冒険者が受ける長期依頼といい勝負してるっすよね」

「あぁ…してるな」

「どうですか?私自身あまり教師に詳しくないので相場とか分からなくて…取り敢えずこれくらいかなと思ったんですけど」

 

2人の様子を伺う。俯いて震えていたと思ったら顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「これからよろしくお願いします」

「精一杯頑張るっす」

「それはよかった!これからよろしくお願いしますね?」

 

今日は本当にいい日だ。シルさんとは会えるし教師のスカウトは出来るし。

やはり日頃の行いが良いのだろう。

 

「と、着いた。ここだ」

「お、ありがとうございます」

 

話していたらアジトに着いていた。確かに複数の気配を感じるし何だったら多くの罪が見える。

 

「じゃあお二人はここで待っててください。すぐ戻るので」

「分かった。必要無いだろうが気をつけろよ」

「ご武運を祈るっす」

「どうもどうも」

 

2人と別れて洞窟の中に1人で進んでいく。

ある程度進むと灯りが見えて来た。

 

「!!!おいてめぇ!ここをどk」

 

ゴミがいたので消しておく。

奥にはもっと居るようだ。

 

「しっかし…参りましたね」

 

ハルさんとシルさん。

悩ましい問題だ。どうしたものか。

 

「お、おい見張りはなn」

「な、なんだこn」

 

2人がどんな出会いをしたのかは知らない。それはあの2人だけの物だろう。いや、それは今はいい。問題は()()()()()

あの人は前に出会った時からとても強くなった。それはアレほどの厚着が無くなってる以上、恐らくトラウマの克服…と思われる。

 

自身を襲い続けるトラウマをハルさんとの出会いによって克服した。

ここだけ聞けば良いことだ。ここだけならば。

 

「や、やめt」

「たすk」

 

だがシルさんはトラウマから解放された代わりに別のものに縛られた…いや、自分から縛りつけた。それがハルさんだ。

ハルさんはシルさんを好いている。誰から見てもそうだろう。

だがシルさんは違う。あれは()()だ。

 

自分を救い上げてくれたハルさんへの強い依存。

彼が少しでも離れると恐怖を感じる。

彼が無事ならば他はどうでも良い。

何よりも彼がいれば良い。

 

一見お互いが好き合っているなら問題ないようにも見えなくもない。

だがハルさんはシルさんに依存はしていない。

シルさんの事は誰よりも好きなのだろう。だがあくまで好きで止まっている。

この違いはいずれ、決定的な歪みを生む。

 

その歪みがどんなものかまでは分からない。だが良い物ではないだろう。だからこそ、私は2人を聖都に招待した。

 

言ってしまえばシルさんは余裕が無いのだ。シャドービーストと言う種族のせいで世界の敵になってしまったハルさんを守るため、常に気を張っている。安らぐのはハルさんと共に団欒する時だけ。そんなのでは依存もするだろう。

 

だから2人に必要なのは「余裕」だ。気を抜いても問題ない場所。それが必要なのだ。

聖都ならば私がルールだ。私が良いと言えばそれは通る。

ハルさんとシルさんを聖都に置いて、余裕を持たせる。

これが2人に対しての最善─。

 

「だと思うんですけどねぇ…」

 

赤いシミだけが残った洞窟で1人ぼやく。

ぶっちゃけこういうのは得意ではないのだが…。

 

「まぁ、何とかやってみますか」

 

どっちにしろ、やらないと言う選択肢は無かった。

何故なら─。

 

 

 

 

 

「善なるものには救いを─。」

 

それが、私の役目なのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。