影の獣in 5歳   作:水道館

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支配者

昼過ぎ。そろそろ教団からの物資が届く時間だ。

ウチの孤児院は教団の金で運営している以上、物資も教団が管理している。故にこうして門の前で突っ立ってる訳だが。

 

「…今回の物資内容は何だろうか…」

 

ガキ共が喜びそうな菓子とかあればいいんだが…そんな金、教団にも無いかと諦めがちに鼻で笑う。

清貧は結構だがガキ共くらい好きにやらさせてやりたいものだ。

 

「ねぇねぇ」

「ん?」

 

背後から声をかけられた。ガキの声だ。孤児院のガキが来たのだろう。

振り返ってみると─。

 

 

 

 

「はい!えーっと…ぶっし!もってきたよ!」

 

 

 

そこには化け物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あ…」

「? これだよね?ぶっし!いっぱいあるよ!」

 

遠目からイッチの様子を見る。対面している男は完全に怯えきっている。

 

「こりゃちとダメだったか…?」

「だからワイは反対したんや。無理やって。黙って匿ってた方がいいわ」

「全員で話し合って決めたんだから諦めろ」

「少数派の意見無視するのはどうかと思うで」

「最後まで言ってたのお前1人だけどな」

「願いの杖も反対してたから1人と1本や!」

「何それインテリジェンスウェポンなの?」

 

そんな話をしながら様子を伺っていると男が再起動した。

 

「わ、わかった…わかったから、そこに置いてけ…いや、置いてくれ…」

「うん。ここにおくね」

 

影から大量の荷物を出して並べていくイッチ。

数十秒で全て出し終えた。

 

「これでぜんぶだよ」

「そ、そうか。じゃあもうかえ…大丈夫だ。だからもう、いいぞ」

「うん。じゃあね」

 

影移動で次の場所に移動するイッチ。その後も男の様子を眺めていると緊張の糸が切れたのか四つん這いになり、息を荒くしている。

 

「…さっきからこんなんばっかだな」

「まぁ表立って石投げられないだけマシだと思うで。【聖人】のおかげやな」

「ほぼ脅しに近いけどな」

 

少なくともあの男も、その前の人達もハルに対して真っ向から拒絶はしていない。だが恐怖心は抑えられない。

 

当然ではあった。いくら聖都が善人が殆どだとしても、幾度と無く人族の国を滅ぼしたシャドービーストが目の前にいるのだ。

危害は与えてこないと言われても、「そうなんですね!じゃあ仲良くしましょう!」なんて言うやつは善人じゃなくて危機感が足りない馬鹿なだけだ。

 

「だから少しでも味方増やさないとダメなんだがなぁ…」

「新キャラの2人みたいな?」

「もう新キャラでも無いだろ…。だけど間違いでは無いな。イッチの善性を分かってくれる奴がいるならいいんだが…」

「前途多難って奴やなぁ〜。英雄2人がバックにいるから何とかなってるだけやし」

「…だから俺らも頑張らなきゃいけないだろ」

「ん?」

 

イッチの方を見ながらそう呟く。

 

「結局俺がイッチにしてやれたことなんて、今のところ何も無いんだ」

「特定してたやん」

「特定したからなんだよ。それでイッチが助かったか?見つける速度も遅かったしな」

「ほぼノーヒントだったし気にすんなって。他の連中もあの時はああ言ったけどネタやって。それに何もしてやれてないってワイに一番刺さるんだが?あ、死にたくなってきた」

 

願いの杖ニキが暗い顔をする。…コテハンを付けてないスレ民達も、今回の話し合いの時似たような顔をしていた。

チートをわざわざもらって、酷い目にあってる子供がいるのに何もしてやれない。何が転生者は善人だ。笑わせる。

 

「まぁ死にたくなってる暇なんて無いし…いっちょ気合い入れるか」

 

そう言うと立ち上がって歩き始める願いの杖ニキ。

行き先はさっきの孤児院。

 

「何しに行くんだ?」

「いやそりゃアフターケアやろ。あのまま放置したったら後で何言われるか分かったもんじゃない。これでも前世はカウンセラーやったからな!」

「…もしかして、イッチが配達始めてからずっとやってんのか?」

「当たり前やろ。ようやっと出来ること出来たんや。仕事せなあかんやろ」

 

笑いながらさっきの男のところへ向かう。

…そうだ。確かに今までは碌な手助けをしてやれなかった。

でも、今は違う。

 

「…俺も、行くよ」

「え?足手纏いでは?」

「俺、全部の魔法使えるから精神系魔法も使えるぞ」

「魔剤?ワイ使えんから助かるわ〜。あ、あくまで補助的なレベルで抑えとけよ?」

「当たり前だろ。やり過ぎたら廃人にしちまう」

「いやどんだけレベル高い魔法や。高レベル冒険者こえ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すいません…いやほんといきなり逃げたりして…」

「いや別にそれはあ気にして無いけどよ…」

「まぁチンピラみたいな見た目してるのは自覚してるっす」

 

いきなり逃げた少女に弁明する為に追いかけ、何とか誤解が解けた。

…誤解?いや怖いのは人それぞれなんだから誤解では無いのでは…?

いや、取り敢えずそれは後にして…。

 

「それで…【聖人】の知り合いかなんかか?」

「さっき場所聞いてたっすよね」

「あ、あの…その…知り合いでは無いんです…」

「ん?じゃあ何か依頼とかそんな感じか?」

「でもハサイさんってたまーにしか依頼やらないって言ってましたよ。あとギルドのは拒否してるらしいし」

「あ、ギルドの者では無いので…」

 

そう言う少女の外見は黒のスカートにセーラー服のようなシャツを着たツインテールの人間だ。…こういう服装、なんて言ったか…。

 

「それで【聖人】ハサイの場所なら知ってるし何だったら俺らの雇い主で上司だ。取り継ぐことなら出来るぞ」

「ほ、ホントですか!?お願いします!ほんとお願いします!」

「それで…どちら様っすか?名前分からないと伝えようが無いんで」

 

 

 

 

「あ、【支配者】のミドネです。よろしくお願いします」

 

 

 

「え?」

「い?」

「ゆうです。多分言えば分かってくれると思います…あ!ミドちゃんって呼んでください!」

 

…何で俺らこんな短期間に3人もの英雄にエンカウントするんだ?前世で何かやったのか?

 

「でもよ…」

「そうっすよね」

「ど、どうかしました…?」

「い、いや失礼になるかもしれんが…」

「何でしょう、シルさんやハサイさんと違って…」

 

「「そんなに強そうに感じない」」

 

「アゥ!!!」

 

そう言うと項垂れるミドネ。とんでもなく項垂れている。

地面に付きそうなくらいだ。体柔らかいなこいつ。

 

「あの2人はなんだろう…もう対面した瞬間「あ、終わったわ」って感じなんですけど…ミドネさんはそれが無いんすよね」

「ち、ちがうんです。これには深い訳があるんです…」

「それここで言っていいやつか?」

「ダメかも…」

「…じゃあ取り敢えずハサイのところ連れて行くから、そこで続きにしようや」

「は、はいぃ…」

 

涙目になりながら頷くミドネ。…こいつほんとに英雄か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シル、ただいま!」

「おかえりなさい、ハル」

「ハルさんお帰りなさい。お疲れ様でした〜」

 

ハサイと話し合いをしていたらハルが帰ってきた。

配達を始めて大体2時間ちょっと。かなりの量あったのにもう終わったのか。

 

「早かったですね。何か問題は起きましたか?」

「ううん。だいじょうぶだよ」

「それは重畳。取り敢えず今日はもう無いのでゆっくりしてください」

「おやつ作ったから、手洗いしてきてね」

「おやつ!すぐにてあらいしてくる!」

 

ハルはそう言うとすぐに部屋を出ていった。

それと入れ替わるように入ってくる気配。

 

「どうだった…?」

「うむ。やはり今聖都でハルが平穏なのはハサイの影響が強いだけじゃな。ハルと対面した人間全員が恐怖で限界なのを理性で無理やり耐えていた。そんな所か」

「ハサイに勘違いされたら殺されるからね」

「いや恐怖で叫ぶくらいで差別と見做しませんよ。私を何だと思ってるんですか」

「善キチ」

「え?酷くない?」

「どこぞのめだかのボックスなキャラみたいじゃな…それより、頼んでおいた物は…」

「ああ、はい。これ」

 

マロに手紙を手渡す。書き方の方はよく書いていると言うハサイに聞きながらやったので多分大丈夫な筈だ。

 

「でも本当にこれで大丈夫なの?」

「うむ!英雄に貸し作れるんだったら辺境伯の1人や2人貸してもお釣りが来るでおじゃる!本国の方もこれで納得するであろう」

「ほんとに納得しますかね?貴方がストッパーだったから何とかなってたんじゃないんですか?」

「…いや、流石にあいつらもそこまで馬鹿じゃないじゃろ…そうだよね?」

「私たちに聞かれても答えれないんだけど…」

 

昨日、ハルが物資配達を選んだ後にスレ民達と私で話し合いをした。

内容としてはスレ民達が自分達をハルを守るのに手を貸させて欲しいと言う物。

 

『【銀狼】シルよ。お主がハルを大切に思っておるのを、麻呂達はよく分かっている。だからこそ、麻呂達にも力を貸させて欲しいのだ』

『…貴方達はどうしてそこまでハルを守ろうとしてくれるの?』

『ふむ…どうしてか。大した事では無いが…』

 

 

『手を伸ばせば届くのに、伸ばさない理由はあるまい?』

 

 

『そっか…。分かった』

 

 

『ハルを守る為に、力を貸してください』

 

 

 

 

ハルを守る為、私がただ暴れるのではダメだ。血に濡れた平穏など、彼は決して喜ばない。

彼が心から笑っていられる場所を、私と居るだけで幸せを感じてくれる彼の心を、彼自身を守る為には私1人では無理だ。

 

なら力を貸してもらう。簡単な話だ。だって私以外にもハルを守ろうとしてくれる人達が居るのだから。

この手紙はその1つ。暫く聖都に滞在したいが自国の重鎮であるマロはおいそれと領地を不在には出来ない。

 

なら私を言い訳に使ってもらう。貸しを1つ、マロに対して作る代わりに暫くマロを貸してくれ。そう言う内容だ。

と言ってもこれを決めたのは全部マロ本人だが。

 

『何でもかんでも麻呂に仕事回してくる罰でおじゃる!少しは麻呂のありがたみを思い知れぇ!なんで辺境伯の麻呂に中央の案件回ってくるんじゃ!おかしいだろ!舐めんな!』

 

…まぁ、少々私怨が入っていたかもしれないが。

 

「では麻呂はこれを出してくる。少し外すぞ」

「戻ってきたら少し休みなよ。ずっと動きっぱなしだよ?」

「いや領地の時と比べればマジ天国だから本当に気にせんでいいぞ。麻呂今ウキウキだからね。こんな簡単な仕事だけなら麻呂も幸せなのに」

 

ブツブツ言いながら部屋から出て行った。

…辺境伯って大変なんだな。

 

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