「お願いします!匿ってください!!!」
「お断りします」
書類にハンコを押す。最近色々あって仕事が溜まってしまった。
早めに終わらせないと少々まずい。
「お願いします!助けてください!!!」
「嫌です」
マロさんも書類仕事ばかりと言っていたし、上の人間は基本的に書類に追われる運命にあるのかもしれない。
だがこれも聖都を正しく運営する為に必要な事。手を抜く訳にはいかない。
まぁほとんどが内容を確認した後にハンコを押すだけなのだが。
「お願いします!私を救ってください!!!」
「やだ」
「どんどん雑になってきてるな…」
「だってあれ30分も繰り返してますからね。誰だって雑になるっすよ」
拒否し続けていると最終的に泣きが入った。
「お願いします〜たすけて〜」
「理由も話さず助けてくれなんて言われてもどうしようもないんですけど」
「たすけてくれるならはなします〜」
「じゃあいいです」
「そんなぁぁぁ〜」
私の足にしがみついて懇願してくる【支配者】。
邪魔すぎる。蹴り飛ばそうかな。書類が汚れるからダメか。
「…なんかドライだね」
「ん?シルさんなんか言いました?」
「いや、てっきり同格…英雄相手には割とフランクだと思ってた。私相手とか、初対面の時からいつもの反応だったから」
「……………気のせいじゃ無いですか?あとシルさんは「善い人」だって知ってるから手を貸してるだけです。この人は違うでしょ」
目線だけ【支配者】の方に向けるとまだ泣いてた。
シルさんとは別の意味で余裕ないなこいつ。
「善い人…?それってどう言う」
「さぁさぁ早く出ていってください。私は貴方の相手をする暇はありません。とっとと聖都から出て行かないとこの世から退場させますよ」
「やめて許して勘弁して!今の私クソ弱いからほんとに死んじゃう!」
「いいんじゃないですか?なんでも」
「よくないですぅぅぅ!!!」
仕方ないので足にしがみつかれたまま立って移動する。
このまま聖都の外に持っていって捨てようそうしよう。
「…ちょっと待って。今弱いって言った?あなた英雄だよね?」
「は、はい。一応」
「もしかして能力特化とか?見た感じ私より年下だから、碌に鍛えてないとかかもしれないけど…今のあなた、下手すればそこの2人に負けるよね?」
「え、まじで?」
「俺らで勝てんの?」
シルさんがツルパゲさん達を指差す。
2人とも元冒険者だからそりゃ一般人よりはずっと強い。
でも別に高レベル冒険者では無い。
そんな2人に負ける英雄…?
「なんだ騙りか」
「騙りじゃないんです!ほんとに【支配者】のミドネなんです!あ、ミドちゃんって呼んでください!」
「カーッ!ペッ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!痰が!痰が顔面に!!!」
あまりにぶりっ子ぶってたせいでついついやってしまった。
しょうがないですよね、ムカつくし。別に善人でも無さそうだし。
「と言うかよく私の前に出てこれましたね貴方。結構な話がこっちにまで回ってきてますよ。やれ国の人間全て支配下に置いたとか、やれ侵攻してきた魔物の大群を支配して気に食わない国にふっかけたとか。今貴方を殺していないのは貴方がやったと言う証拠がないからです。私自分と同格の存在の犯した罪は分からないので。冤罪なんてものはもってのほかですから」
「それってもし私がそれをやってたら殺すって事ですか!?」
「勿論。血霞にしてあげますよ。今の貴方なら楽に出来そうですし」
「いやぁぁぁ!たすけて!たすけて!」
「こっちに助け求められても困るんだが」
「というかハサイさんに助けてもらいに来てませんでしたっけ?」
あっちこっちウロウロしながら懇願する【支配者】。
ハルさんの方がずっと賢いなこれ。
「じゃあこうしましょう。さっき今の私〜とか言いましたよね。つまり貴方が弱くなった原因がありますね?それ教えてください。そしたら助けるのを考えてもいいです」
「それ助けて欲しい理由とほぼおんなじなんですけど…」
「じゃあもう言いなよ。ハサイも…まぁ…問題なければ助けてくれるかもしれない」
「曖昧!」
「ほら、キリキリ話しなさい。つーかなんですかその格好。弱いんだったら装備くらいちゃんとすればいいでしょうに」
「いやこれはファッションで…あ、何でもないです理由言いますだからその拳を握りしめるのやめてください」
◇
あれはそう。今から大体5年前…
私は10歳の時に英雄認定されました。
私は自分より弱い存在を支配して、自由に扱える力を持っています。
その代わり身体能力は他の英雄と比べるとクソ雑魚だったりします。
「雑魚狩りみたいな性能ですね」
「ハサイ、茶々いれないで」
能力ありきで英雄になった私はとにかく死にたくなくて…いや首飛ばされるくらいなら死にませんけど。
取り敢えず私は自分を守る為に戦力を増やすことにしました。
なのでまずは魔物の群れに突撃して全部支配しました。
「一気に物騒になったな」
「身体能力低いのによくやりますね」
「力自体は私が使いたいなーって思うだけで使えるので…」
結構脅威度の高い魔物達だったこともあってだいぶ安心できました。
でも足りない。もっと支配しないと。
そう思った私は何度も同じように魔物の群れに突撃しては支配するを繰り返しました。
「…人族は支配しなかったの?」
「知らない人怖いし…」
「人見知りかよ」
そうやってくうちに私はどんどん調子に乗りました。
どのくらい乗っていたかと言うとスキップする時3m25cm飛ぶ程でした。
「それもうスキップじゃなくて跳躍だろ」
「と言うか何で正確な高さ分かるんですか。わざわざ測ったんです?」
そんな日々を過ごしていたんですが1、2週間くらい前の夜、支配していた魔物を自害させて剥ぎ取った素材を売ったお金で私は豪遊していました。
「おい!目的がすり替わってるぞ!戦力増やすんじゃなかったのかよ!自分で減らしてどうする!」
「魔物相手じゃなかったら邪悪にも程があるね…」
お酒飲みすぎて酔い潰れていた私は背後から迫ってくる謎の影に気付きませんでした!まるで時間が停められたみたいな感じでした。
触れられた瞬間に地面に這いつくばった私は流石に酔いが覚めました。
そのまま下手人の方に視線を移すと…。
そこには私がもう1人いたのです!
「「「「「…は?」」」」」
もう一人の私は謎の力で私の支配の力を奪いました。そして更に私を支配して、私自身の英雄としての力も全て奪っていきました…。
絞りカスになった私に見向きもせず、もう1人の私は去っていきました。
このままでは死ぬ。そう思った私は人目につかないよう徘徊していたのですが…なんと!【聖人】が【銀狼】を保護したとかそんな感じの話を小耳に挟んだのです。
もうこれしかねぇ!助けて貰おう!そう思って聖都に来ました。
つまり!最近流れている【支配者】の悪い話は全部もう1人の私がやっていたのです!
「つまり私は悪くねぇ!」
「何でしょう。そうだとも言えるしそうで無いとも言えるし…」
「英雄の力を奪う…?」
「それかなり不味くねぇか?英雄を超える程の力があるってことだろ!?」
「それで支配の力も取られて…まずいっすよ!」
「そうなんですよ…あと2ヶ月は力戻ってこないんですよね…」
「え?」
「…2ヶ月って…そもそも奪われたのに戻ってくるの?」
「ああ、こんな時のために私は自分の力に対して「力が奪われたら必ず戻る」って命令してたんです。私の支配って言ってしまえばぼんやりしたものでも実行できるので…。ただ、相手が抵抗してるみたいで時間がかかっちゃうんです」
「それでも戻ってくるんですか?」
「だってあっちの支配の力の使い方下手過ぎますから…。流石にずっと使ってきた私の方が上って感じです!」
「…取り敢えず、時間が解決してくれるって話?」
「そうなんです!だから時間を稼ぎたいんです!だから助けてください匿ってください優しくしてください!!!」
私がそうお願いするとハサイさんが軽くため息をしながら私の方を見てくる。
「…事情はわかりました。不意打ちと油断しまくりを加味しても英雄から力を奪う存在は危険過ぎます。支配の力を奪い返すまでに貴方に死んでもらっては困りますから…保護しますよ」
「やったぁぁぁぁぁ!!!怖いお二人のおかげです!ありがとうございます!」
「俺らなんかした?」
「さぁ…?」
あ!大事なこと言うの忘れてた!
「お風呂は1人用のお願いします!」
「そぉい!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!めつぶし!めつぶしはだめですぅぅぅ!!!」