影の獣in 5歳   作:水道館

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部屋

「よいしょ…よいしょ…」

「ハル、無理してない?」

「ううん!へいき!」

「そっか。今日も頑張ろうね」

「うん!がんばる!」

 

【支配者】が来てから2日経過した。

【支配者】から力を奪ったと言う存在は、現状場所も不明な為対応が出来ないという事で取り敢えず放置することに決まった。

支配の力は自分より弱い相手にしか使えない。英雄から力を奪う程の存在がそんな力を持つ。かなり危険に思えるが英雄の中ではド貧弱に位置する【支配者】に不意打ちしないといけない時点で、私やハサイが手も足も出ないと言うことは無いだろう。

 

変に捜索して戦力をバラけさせるよりは聖都に篭って2ヶ月稼いだ方がいいと言うことになった。

一応、ハサイが聖都への出入りを厳しくするらしい。露骨に怪しいのは入ってから無いだろう。

 

ひとまず私がやる事は、ハルのイメージ改善とハルとの日常を過ごす事だった。

 

今日の配達する予定の物資を整理するハル。

影移動で簡単に移動できる為、教団倉庫から地図で場所を確認してからそのまま運ぶ形になる。

その為にもどこに何を運ぶか。予め分けておく必要がある。

この作業自体は既に3回目。ハルも結構慣れてきた。

半分は私がやっているけど…その内必要無くなるだろう。

 

「わけるのできた!」

「うん。よく出来たね。じゃあ早速やっていこうか。最初は…聖都正門の詰所…私達が聖都に入る時に通った門だよ」

「ならわかる!いってきます!」

 

そう言って荷物を持って影移動で運ぶハル。

影の中には自分自身が触ったものなら引き摺り込む事が出来、さらに自由に移動させる事ができる。これを生かして荷物を全部引き摺り込んだ後に移動し、移動先で全て取り出すと言う事が可能だ。

転移魔法は身に付けてるものが限界である以上、この運搬能力は破格だろう。

 

『最初は反感が強い。それは仕方がないでおじゃる。だがハルには武器がある。それが影移動じゃ。何でも影移動は自分で触ったものならどれだけでも運ぶ事ができる。ならばこれを全力で使いまくって聖都の流通を劇的に向上させるのでおじゃる!』

『それがハルのイメージ改善に役立つの?』

『人間と言うものは、自身の利益になってくれるものに対してずっと敵愾心を持つのは難しい。単純に疑うと言う事は精神的にしんどいからな。そして流通を劇的に向上させる。とても便利になると言う事じゃ』

『と言う事は…』

『そう!人間一度便利になった後に元に戻るのはほぼ不可能!一時的ならまだしも、ずっとは無理じゃ!一度とんでもない快適に身を置かれてしまえば「楽」を覚える。「楽」を覚えた人間はずっと楽しようとする。そしてその「楽」を取り上げられそうになれば…』 

『取り上げようとする相手に反発する…!』

『そしてその反発した者たちはそのままハルを擁護する方向に走る!つまり味方が増えるという事でおじゃる!』

 

ハルの影移動で物をいくらでも収納できることが分からなければ、不可能な事だった。シャドービーストが人を引き摺り込んだ事例を覚えていたのが役に立った。

まぁそこから推察したのはツルパゲだったが…。

 

「ただいま!」

「おかえり」

 

そうこうしてるとハルがもう戻ってきた。一度行った場所だったのと、運搬自体手慣れてきたのもあって早いものだ。

 

「つぎはどこ?」

「次は…南区の孤児院だよ。行ったこと無いね」

「じゃあシルもくる?」

「うん。案内するから私も入れて?」

「わかった!じゃあてつなごう?」

「勿論」

 

荷物を全部影に収納した後にハルと手を繋ぐ。

そのまま近くの影に飛び込んだ。

 

影の中は不思議な空間だ。自由に動ける水中のような感覚がする。

入るのはこれで10回目くらいだが、少し慣れてきた。

 

「じゃあいこ!」

「うん。ゆっくりでいいからね」

「はーい!」

 

ハルも思いっきり体を動かせるからか、楽しそうだ。

今まで歩くくらいしかさせてあげれなかったのが悔やまれる。

…でも、ハル自身は笑顔だ。あまり悔やんでいても仕方ない。

今のハルが笑っているなら、それでいい。

 

「みなみくってどっち?」

「ここが聖都の真ん中だから、地図で言えば下の方だよ」

「した…じめん?」

「フフ…違うよ。後で勉強しようね」

「はーい…」

「こーら。露骨に嫌そうな顔しないで」

「だってー」

「しょうがないなぁ…頑張ったらご褒美あげるから。それじゃダメ?」

「ごほうび?!なになに!?」

「お仕事終わったら教えてあげるね」

「はーい!」

 

散々泣き喚いたあの日から、私とハルはずっと笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハサイさん!お願いがあります!」

「何ですか」

「部屋が狭いのでもう少しいい部屋くだぁぁぁぁぁぁぁ!!??!?」

 

ふざけたことを抜かしたので足のつま先を踏む。

潰さないように加減してるので問題ない。

潰れても回復魔法で治せばいいし。

 

「ぉぉぉぉぉ…」

「別に生活するのには何の問題もないでしょう?我慢してください」

「そんな!今までもっといい部屋住んでたのに!」

「…一応聞きますがどんな部屋ですか」

「訪れた国で一番高い宿のスイートルーム!」

「そんなものはこの聖都には無いので諦めてください」

 

【支配者】に背中を向けて立ち去ろうとしたらシスター服のスカートを掴まれた。

 

「伸びるからやめてほしいんですけど」

「冷たい!前から言おうと思ってましたけど、ハサイさん私に対して冷たすぎます!例えるなら真冬の朝に顔を洗おうと水を汲みに行った時にベットから降りた時の床くらい冷たいです!」

「最高に分かりそうで分からない例えありがとうございます。今は春ですからこのまま床に這いつくばっても大丈夫ですよね」

「ゆるして!ゆるして!やさしくして!」

 

何と言うめんどくささ。こんなタイプの人間と関わることなんて無かったからどうすれば正解か分からない。

 

「他の教団員の部屋と同じじゃないですか。何が不満なんです」

「いや狭いですって!ホントに寝るだけの部屋ですよあんなの!」

「あんなのって言わないでください。私は満足してるので」

「え、ハサイさんもあの部屋なの…?」

「?当たり前じゃないですか。部屋に金使うより善人の為に使った方が良いに決まってます」

「えぇ…」

 

マジかよこいつみたいな目で見られた。こっちだって同じなんですけど。

 

「じゃあシルさん!シルさんと相部屋でいいんで来賓用の部屋がいいです!」

「ダメです」

「なんでシルさんと私で対応違うんです!?」

「シルさんは私が聖都に招いたんです。歓待するのは当たり前でしょう?一方貴方は勝手にピンチになって勝手に転がり込んで来たのを保護してあげてるんです。これは差別ではなく区別です」

「そんなぁぁぁ…じゃ、じゃあシルさんに許可貰えば流石にいいですよね!?」

「いや絶対許可出ませんよ。あの人連れが居るんですけどべったりですから。お互いに。新婚よりくっついてるんじゃ無いですかね」

「シルさん彼氏居たんです!?」

「彼氏…彼氏?家族?兄弟?…うーん何だろう。そんなので表現出来ないくらいの存在…?多分お互いにそんな感じで想ってるんじゃないですか?」

「重くないですか?その感情」

 

それは同意するがあれでもマシになったのだ。

依存では無く超特大級の好意に変わっただけヨシとしよう。

…依存してた時よりベタベタしてるけど、気にしない気にしない。

 

「やだぁぁぁへやかえてぇぇぇ」

「うーん善人では決して無いしかと言って悪人かと言われると微妙だし…犯罪はやってないし…」

 

一応いい部屋というか家はあるのだ。あるのだが…。

言うか迷っていると廊下から声が聞こえてきた。

 

「あー久しぶりにレッツゴー陰陽師聴きたいな」

「いきなりなんだよ…しかもネタが古い」

「でもほら、ここ異世界だろ?魑魅魍魎たくさん居るじゃん。すぐに呼べって矢部野彦麿も言ってただろ」

「矢部野彦麿も異世界から呼ばれても困るだろ」

 

…魑魅魍魎?すぐに呼べ?…マロ…マロってマロさん?

もしかして…

 

「…分かりました。部屋の方、何とかなるかもしれません」

「本当ですか!?」

「部屋というより家ですけど…」

「家ですか!?え、いいんです!?やったー!荷造りしないと!」

 

小躍りして喜ぶ【支配者】。そのまま部屋を出て行ってしまった。

…まだ家の問題教えてなかったのだが。まぁ明日でいいか。

それも解決できそうだし。さっきの言葉に嘘はなかったのだから。

 

「私は見えないんですけどねぇ…幽霊」

 

アンデットなら見えるはずなのだが、不思議なものだ。

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