「おいおいおい、死んだわ俺」
「ほう、死亡フラグですか…大したものですね」
「何言ってんだお前ら」
喫茶店で駄弁っていたら唐突にコピーニキと願いの杖ニキがそんな事を言い始めた。
「いやほら、こうやって穏やかな時間を過ごすって完全にフラグじゃん?この後地獄みたいな展開があるんだろ?俺は詳しいんだ」
「日常編の次はシリアスって相場が決まっとるからな。メリハリってやつや」
「不安になる事言うなよ…それに別に穏やかな時間って言っても俺ら暇な訳じゃ無いけど」
イッチを手助けする為に聖都に滞在し始めてそろそろ1週間が経とうとしている。
この1週間、俺たちはイッチの奉仕活動のアフターケアを始め教団から出されている依頼をこなす毎日を送っている。
これでも冒険者な為、依頼をこなすのはルーチンになってるので割とありがたかった。
「特定ニキはいいよなぁ〜高レベル冒険者だから大体の依頼なんとかなって。レベルで言うと90だっけ?」
「転生者の中で1番高いんやないか?ワイ50やぞ」
「…一応言っておくがこれでも冒険者としてもう8年経ってるからな?別にチートで無双とかもやってないし出来ないし…。そもそもレベルなんてただの目安だろ。依頼受ける為の」
「え、そうなの?」
「ああ、コピーニキはまだ冒険者じゃなかったなそう言えば。レベルっつーのはギルドの方が登録してる冒険者の強さの指標でな。依頼を受ける際には自分のレベル以上の依頼は受けれないようなっとるんや。主に冒険者保護の為にな」
「保護?」
「最近転生したコピーニキは知らないだろうが…この世界、どっちかと言うと魔物側が優勢なんだよ。圧倒的な繁殖力、人間には無い特殊で凶悪な能力、なのに別種族同士で相性のいい魔物と手を組むほどの頭の良さ。これだけ揃ってれば基本内ゲバやってる人族なんて目じゃ無いな。ギルドはただでさえ少ない戦力を減らしたくないんだろ」
「…それでも滅びてないって事は…」
「ああ、英雄のおかげさ。比喩抜きでな」
英雄はやばい。頭おかしい。気が狂ってるなんて良く言われてるが、実際問題英雄が居なかったら人族なんてとっくの昔に絶滅しているだろう。それほど、英雄は強い。
魔物達も馬鹿じゃ無いどころか賢い。英雄がいる以上無理に攻めれば瞬時に滅ぼされる。それが分かっているから、今のような冷戦のような状態になっている。
「まぁ…人類に貢献してるのって英雄の半分もいないけど…」
「半分いないの!?」
「【光帝】【聖人】【慈愛】【銀狼】…大体この4人だけや。【終戦】は…ちょっと微妙やな。他は全部好き勝手やってるって話や」
「…改めて考えると英雄の中でも【聖人】以外良識派が揃ってるからマシな方ではあるか」
「他が酷すぎるてマシに見えるだけやけどな!」
「…1番マトモな英雄って誰?」
「【慈愛】。コイツの感性が1番理解できる」
「【銀狼】は違うのか?」
「お前1週間前なんで聖都に来たのか忘れたんか?フツーに脅迫されたから出頭したんやぞ。ワイら探す為に周辺国皆殺しにするなんて普通言わんわ。おかしいやろ」
「そうだった…」
「ま、まぁほら。【銀狼】はイッチを守るので余裕が無かったのが原因だから…落ち着いた今では充分話せる相手だろ」
「話せる相手ではあるけどひたすら他人のイチャイチャ見せられるのも中々の拷問やと思うんがどうや?」
「うん。まぁ…こういうのは漫画とかだけだと思ってたけど本当にブラックコーヒー飲みたくなるな…」
「男って見た目じゃ無いんだなぁ」
「いやぁあれはギャップもあるやろ。凶悪なツラ構えからの純粋無垢!あれにやられたんや。間違いない」
「…男3人で恋バナみたいな話するの最高に虚しいからやめようぜ。ツラくなる」
「いや特定ニキの嫁はそこにおるやろ」
「ちょっと待って!まだ潤滑油買ってない!」
「スレのはただのボケだ。マトモに受け取るな。単純に転生したてで弱いから助けに行っただけだ」
「俺とは遊びだったの!?」
「何も起きてないわアホンダラ」
くだらない雑談。くだらない時間。…だけど、悪くないひと時。
転生者同士のやり取りなんて、殆ど無かったのに不思議なものだ。
今まで建てられたスレも、転生したての奴が少し質問するくらいで終わっていた。
別に態々、転生者同士で馴れ合いたい訳では無かった。
でも。それでも。
少し、寂しいものを感じていた。
そういう意味では不謹慎かもしれないが───。
「イッチのおかげ、かもな」
ギャーギャー騒ぐ2人を尻目に、紅茶を飲みほした。
…あっっっつ!!!!!
◇
ギルド本部。今オレ達はパーティ全員で応接室に待機している。
と言うのもギルドの方からの手紙で来たのだが。
「絶対ろくでもねぇ話だろこれ…」
「ちょっとタートル!あんまそう言うの表に出さないでよ!」
「否定はしないのな」
「それは…その…」
「ぜ、前回が前回だからね…」
カニーの言う通り、前回【銀狼】捜索の任務をギルドから受けたオレ達は散々な目にあって敗走した。
まさかの捜索対象にボコボコにされるというオチで。
相手が英雄とは言え、失敗した以上もう直接任務を回される事は無いと思っていたのだが…。
そんな風に思考に耽っていると入り口のドアが開く。
入ってくるのは2人。
ギルドマスターとその付き人、フルアーマーを着たカンスト冒険者ワロスナイトだった。
2人がオレ達の座っているソファーの反対の方に座る。
「まずは呼び出しに応じてくださりありがとうございます。お怪我の方はもう大丈夫ですか?」
「ええ、【銀狼】はあの時オレ達を殺す事も出来たはず。なのにしなかった以上、かなり手加減してくれました。タートルの財布への致命傷で済みましたよ」
「そうだな!致命傷だな!もう助からないし何だったら鍛冶屋が「え、もう壊したの…?」って感じになっちまって、あっちの信用下がって売り上げ下げちまったしな!!!」
「ワロタwww2次被害デカすぎwww」
「わろとる場合じゃ無いけどな」
軽いジョークから入ったらタートルに泣きが入った。ごめんて。
「それで?今回は何の用?私たちも暇じゃ無いんだけど」
「ちょ、ホタルちゃん…!」
「止めないでよカニー。暇じゃ無いのギルドの所為なんだから」
ホタルの言い方はあれだが事実だ。
今ギルドの方から受けることが出来る依頼は全て高レベル冒険者向けのもの。だが高レベル冒険者の数はハッキリ言って少ない。
精々冒険者全体の1割程度だ。
そして、その1割に負担が増え続けている。
負担が多いのなら受けなければいいとなりそうだが、そうなると危険生物が放置される。
その結果死ぬのは罪の無い民だ。高レベル冒険者は基本的には実力は勿論、人格も重視される。
人格者な高レベル冒険者が、それを見捨てると言う事は出来ない。
…自分の事を人格者なんて自称するのもおかしな話だが、現にオレ達は西へ東へと行ったり来たり。依頼漬けの毎日だ。
今日、本部に来る前にも中規模の魔物の群れを討伐して来たところだ。
ぶっちゃけ飯食って寝たい。
こんな状態になったのはギルドが後進育成をしなかったから。そんな話が出るくらいには不満が出ている。
ギルドの方も何とかしようと英雄の中で唯一の冒険者である【銀狼】に教育の依頼をしようとしていたみたいだ。
まぁ結果としては【銀狼】はシャドービーストを守って一緒に逃げていったが。
「…お忙しい中、本当に申し訳ありません。ですが貴方達にしか頼めない依頼なのです」
「ワイらにしか頼めない?」
「それってどんな依頼だよ」
ギルド長はとてもバツが悪そうに─。
「【銀狼】が聖都に滞在していると言う情報が入りました。何とかしてギルド本部に連れて来て欲しいんです」
そう言った。なので。
「無理です」
「無理だ」
「無理よ」
「無理や」
「無理ですぅ…」
「いやwww無理っしょwww」
「即答!?てかワロスナイト!オメーこっち側だろ!そっちに便乗すんな!」
速攻で拒否させてもらった。やってられるか。
「お願い!もう貴方達しか居ないの!他の高レベル冒険者はダメだったし!唯一高レベル冒険者の中でソロの魔法戦士で融通が効く人が居たけど連絡取れなくなったし!私たち行ってもそもそもあそこギルドの人間入れてくれるか分からないし!マジでお願いします!」
「ふむ…ワイに死ねと言うんじゃな!」
「大丈夫!きっと手加減してくれた以上今回もしてくれる!」
「ボコられるの確定かよ」
「…そもそもオレ達は一度、彼女の逆鱗に触れてしまっている。そんなオレ達が行ったら余計刺激してしまうだけだろう」
「そうよ。無理して行かないでもいいでしょ。後進教育なら引き受けてもいいわよ」
「それなら楽ですもんね…」
「ごめんwwwそうも言ってられないんだわwww」
ワロスナイトはそう言うと手紙をオレに渡してきた。
…走り書きされた文字にはこう書かれていた。
「大規模な魔物の群れが進軍中…!?」