「これなあに?」
「ハサイから貰った、ハルのお給料…お金だよ。開けてごらん?」
「うん。…わぁ…いっぱいある!」
ミドネの面倒を幽霊に一任した翌日、今日は配達する物が無いという事でハルの休みの日だ。
ハサイから折角貰ったのだ。ハルが頑張った証として、好きに使わせてあげるのがいいだろう。
「…今日は一緒に出かけようか」
「いいの!?」
「うん。出歩くくらいなら、前ほど騒がれないはずだから」
「やったー!」
奉仕活動以外でハルが外出するのは、私を探してくれた日以来だ。
害はなく、一生懸命頑張るハルに対しての評価は最底辺から腫れ物くらいには落ち着いた。
勿論、表立ってそれを出してくる者は居ない。ハサイの存在があるからだ。
だが訓練を受けた人間ならまだしも、只の一般人が恐怖や嫌悪を完全に押さえつけるのは不可能だ。
ある程度他人の見る目があれば、すぐ見抜けるだろう。
「どこか行きたい場所ある?」
「うんとね…おかしやさん!」
「分かった。確か東区の方にあったはずだから行こっか」
「うん!」
鞄を持って部屋から出る。万が一を考えてハルが転んだ時用の包帯と…仕込みナイフを忍ばせて。
使わないといいなぁと思いつつ、教団本部から出掛けた。
◇
「お、終わりましたぁ〜窓拭き」
「お疲れ様です。じゃあ次はドブ掃除ですので早速準備してください」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!やだ!やだ!やりたくない!!!」
「うるせぇ働け」
今日は月一のドブ掃除の日。聖都全体のドブを綺麗にする必要がある。
流石にこう言う住む人間全てが関係してる物に関しては教団が全部やる訳では無い。あくまで割り振った場所だけを行い、他は近くの人々に任せる形だ。
つまり中央区に本部を構える我々はこの辺のドブをスコップで浚わなければいけないのだ。
なので毎日グータラしてるコレもついでなのでやらせる事にする。
「どうせやる事無いのでしょう。働かざる者食うべからずと言う言葉があるのを最近聞きました。いい言葉ですよね。例え善人でも、キチンと働かなければ食事にありつく権利はないと言う事です。勿論例外はありますが…少なくとも貴方は健康体ですので例外に当てはまりません」
「いやいやいや!私今力失ってますから!本来のミドちゃんじゃないですから!あと2回くらい変身残してますから!」
「そうですか。2回も変身できるならその内1つを真人間にする事も出来ますよね。今日から貴方は変わるのです。さぁいつまでも床にしがみついて無いで立ちなさい」
「ほぁぁぁぁぁぁ!!!やぁぁぁぁだぁぁぁぁドブ浚いなんて汚い事したく無いですぅぅぅ!!!」
「やらないともっと汚くなるんですから仕方ないでしょう」
「可愛い私がやっちゃダメな仕事です!私に合う仕事はそう!受付でニコニコしてるだけの受付嬢とかそんな感じのやつです!」
「この世界にいる全ての受付嬢に謝罪しなさい」
世の中を舐め腐ったアホの首根っこを掴んで引きずる。
駄々をこね続けるのを無視して廊下を歩いていると、教団員から呼び止められた。
「ハサイ様、少々お時間いただけませんか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「ちょ、大丈夫じゃない!大丈夫じゃない!締まってる!締まってます!私の細い首が綺麗に締まってます!落ちる!落ちちゃう!」
五月蝿い声をスルーしながら応対する。随分と困惑している顔だ。
何があったのだろう。
「ギルドの方から高レベル冒険者パーティが聖都に訪れました。対応はどういたしますか?」
「え、ギルド?なんで?」
「さぁ…冒険者への勧誘とかでは無いようですが…」
「いやそりゃそうでしょ。高レベル冒険者パーティ出してまでやる事じゃないです」
…また面倒な事が起きそうだ。ただでさえ【支配者】でめんどくさいのに。
私、全然シルさんとハルさんへの償い出来てないんですけど。
「…まぁ放置は出来ませんね。でもドブ浚いのが優先です。ちょっと待ってて貰えるようお願いできますか?後で私自身が迎えに行きます」
「関所で待機させる…と言うことで?」
「はい。まさかギルドとあろう物が聖都でなんかやらかすとは思えませんけど状況が状況ですから。コレから力を奪える存在がいる以上、警戒を怠る訳にはいきません」
「承知いたしました。そのように」
「お願いします。ほら、キリキリ歩きなさい」
「引きずってる人が言うセリフじゃ無いですぅぅぅ!!!」
この前雨降ったから多分しっかり汚いだろう。頑張らなければ。
◇
「今日は天気いいね」
「うん!おひさまでてくれてよかった!」
ハルと2人で並んで道を歩く。この大陸で1番繁栄してる国なだけあって、道はしっかりと舗装されている。とても歩きやすい。
通行の邪魔にならないよう、道の端を歩いている。
だがハルが大きいのもあってやっぱり目立つ。シャドービーストな時点で今更だが。
すれ違う人々が私達から視線を外す。…仕方のない事だ。まだ奉仕活動は始めたばかり。
そんなすぐにハルを受け入れてくれる筈など無いのだ。
だが、それでも、違うんだと叫びたい。
ハルは危険な存在じゃない。優しくて、あったかくて、誰かの為に行動出来る人なんだ。
例え種族が脅威度最大のシャドービーストだとしても、例えその風貌が恐ろしく、凶悪でも。
彼の心は春の陽だまりのようなんだって─。
「シル?まえみないとあぶないよ」
「あ」
そんな考え事をしてたら、飲食店の置き看板にぶつかりそうになった。
ギリギリの所で、ハルに引っ張られて事なきを得た。
「ご、ごめんハル。考え事してた」
「かんがえごと?おしえて?」
「…ハルは怖くないんだよってどうやったら聖都の人達に分かって貰えるかなって。どうにか出来ないかなって。そう、思っちゃって」
こんなに天気が良いのに、心に影が降りる。
いけない。折角の自由日なのだ。
振り払うように頭を軽く振る。そしたら─
「えい!」
「ちょ!?」
突然ハルに抱えられた。所謂横抱きだ。
「ハ、ハル!?いきなり何をs」
「だってシル。ずっとしたみてるからあぶないよ。これならあぶなくないよ!」
「いやそれはそうだけども!つ、次からは大丈夫だから─」
「それにこれなら、シルのかお!みえるから!」
「〜〜〜!!!」
ハ、ハルって前世5歳だよね?子供だよね?
今は違うとしても、その、何というか。
「おかしやさんあっちだよね!はやくいこ!」
「わわ!ま、待ってハル!流石に恥ずかしいから!」
結局そのまま、私は横抱きされっぱなしで数十分進むことになった。
◇
「ふぅ…今日も今日とてヤニが美味いねぇ」
趣味でやっているダガシ屋で、誰もいない時にヤニを吸う。
これが無いと生きてるって感じがしないよ。
「どうせ大して客なんざ来ないからね。楽なもんだ」
他の国で見かけたダガシ。こいつに心を奪われたアタシはコネを最大限駆使してこの店を開く事に成功した。
ただ残念ながらこの国の人間はあまりダガシに興味を示さない。
いや、単純に知らないんだろうね。割と最近出てきた物だし。
「ジャリガキ共が昼過ぎくるだろうし、それまで酒でも飲もうかね」
そんな風に考えていると外から話し声が聞こえてきた。
若い女の声とガキの声だ。
「だがしや?ねぇシル、ここにはいってもいい?」
「いいよ。いいけどまず私をおろして…もう本当に大丈夫だから…」
「…もしかして、だっこいやだった?」
「嫌じゃない!嫌じゃないけど人前でしないで!」
「うーん?わかった!」
…随分と騒がしいね。しかも会話内容がダガシより甘い。
付き合いたてのバカップルかい?
「おじゃましまーす!」
「は、入ります…」
入ってきた2人を見て流石にアタシは固まった。
1人は英雄【銀狼】。圧倒的超越者。この国を管理する
そしてもう1人がこの前回状で回ってきた、【銀狼】に付き従うシャドービースト。まさかアタシの店に来るとは。
まぁあいつが大丈夫とほざいてるなら、それは大丈夫なのだろう。
別に忌避感を覚える事もない。生い先短いババアだから死んだ所でだ。
「…いらっしゃい。あまり騒ぐんじゃないよジャリガキ共。こちとら二日酔いなんだ」
「は、はい。すいません」
「ごめんなさい。しずかにするね…」
「…ふん」
さて、一応念の為だ。見定めるとするかね。
こいつらがどんな存在なのかを─。