影の獣in 5歳   作:水道館

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掲示板要素少なめ。


宝物

四つ葉のクローバーを貰ってから3日経過した。

既に怪我は完治している。調子も悪くない。むしろいい方だ。

だと言うのに私はまだ彼の棲家に留まっていた。

 

「ぼうけんしゃってなにするの?」

「他の人からのお願いをお金や物を貰う代わりにやる仕事だよ」

「ぼうけんはしないの?」

「昔はシンプルに未開拓の場所に行くってのもあったらしいけど…世界の殆どが判明してからはもう見なくなったね」

「うーん…おしごとだけなのやだ」

「まぁ自分がやりたい物だけやるって事も出来るから、そこは自分次第かな」

 

彼と話すのが1日の大半だ。この数日で分かった事だが彼はこの世界に関して殆ど知らない。前に子供みたいなんて言ったが知能に関しては本当に子供のそれだ。そのおかげか私のどんな話にも食い付いてくる。

話題には事欠かなかった。

 

「シルはなんでぼうけんしゃなの?」

「…別に。何となくだよ。適性もあったしね。」

「てきせい?」

「冒険者に向いているって事だよ」

「へー!シルすごいね!」

 

彼は3日前に私が渡したブレスレットを常に付けている。よほど気に入ったのか、よく眺めては気分良さそうにしていた。 

 

「ぼくもぼうけんしゃなろうかな」

「…どうして?仕事だけは嫌なんじゃないの?」

「だってシルとおそろいだもん」

「……」

 

…本当に彼は私の調子を狂わせる。この感覚は何なんだろうか。

不快ではない。決して。

 

「…でも冒険者ってギルドに登録しないといけないから…」

「とーろくすればいいんじゃないの?」

「シャドービーストの貴方じゃ認めて貰えないよ。いくらなんでも」

「そっかぁ…けちんぼ」

「ケチ…フフッ そうかも。ギルドはケチな所あるから、あながち間違いじゃないね」

 

魔物達の国でも冒険者の様な職業はあると聞いた事があるけど眉唾物だ。実際に行ったことが無いのに、彼に教えるのは躊躇われた。

変な期待をさせたく無かったのだ。

 

「あ、きょうはシルなにたべたい?」

「昨日取ってきてくれた山菜食べようか。下処理もう終わってるし」

「そのままたべるの?」

「まさか 汁物にするよ」

 

そう言いながら料理の準備をする。誰かの分も料理するなんて今まで無かったけど、もう慣れたものだ。

準備をしていると彼が徐に立ち上がった。

 

「ならまたさかなとってくるね!こんどはべつの!」

「もしかして足りない?結構な量作れるけど…」

「ううん、でもシルいっぱいたべればけがもはやくなおるよ!」

「…そっか。じゃあお願いしようかな」

「いってきまーす!」

 

そう言って棲家を出る彼を見送る。無防備な後ろ姿を眺め、私は何もしなかった。

 

彼を待つ間、読み歩いていた本を開く。思えばだいぶ前に買ったのに依頼ばかりで読む時間が無く全然進んで無かった。

幸か不幸か、彼が居ない時間に時間を潰せるので悪くない。

 

本に挟んだ栞を手に取り眺める。そこには彼から貰ったクローバーが入っていた。四つ葉のクローバーを透明な栞の隙間に挟んだだけの簡易な物。

 

「……」

 

鏡が無くても分かる。私は今笑っているのだろう。

私のための贈り物──遠い幼い時の記憶で貰った時が最後だったのが今こうして私の手にある。

 

まさかそれがシャドービーストから貰うなんて夢にも思わなかったけど…

 

本に視線を戻して読み始める。内容は所謂冒険譚─未知の場所に行き、様々な物や人と出会う話。買った理由はほんの気まぐれだったが…結構面白い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

954 : システム

 

 

 

 LIVEを開始します 対象は>1 全方向モード

 

 

 

955 : 名無しの転生者

 おーこれがLIVEか

 

956 : 名無しの転生者

 まるで自分がそこに居るような感覚

 

957 : 名無しの転生者

 目が後ろにもあるみたいに見えてなんか気持ち悪いな…

 

958 : 名無しの転生者

 全方位カバー出来るのは良いことではある

 

959 : 名無しの転生者

 ところでイッチこれ何してんの

 

960 : 名無しの転生者

 さぁ…

 

961 : 名無しの転生者

 食糧探しでは?

 

962 : 名無しの転生者

 林檎無かったっけ

 

963 : 名無しの転生者

 3食林檎とか地獄かな?

 

964 : 名無しの転生者

 Apple厨でも耐えれないぞ

 

965 : 名無しの転生者

 別にAppleユーザーは林檎好きな訳じゃねーよ

 

966 : 名無しの転生者

 Androidも機械食ってるわけじゃないしな

 

967 : 名無しの転生者

 張り合う必要あった?

 

968 : 名無しの転生者

 無い(確信)

 

969 : 名無しの転生者

 アホかな?

 

970 : 名無しの転生者

 川か

 

971 : 名無しの転生者

 魚取りに来たのね

 

972 : 名無しの転生者

 動物性タンパク質を取るのは良いことだ。

 

973 : 名無しの転生者

 美味しいからな!

 

974 : 名無しの転生者

 イッチ取るの上手いな

 

975 : 名無しの転生者

 掬うように取ってるな

 

976 : 名無しの転生者

 釣りなんて出来ないしな

 

977 : 名無しの転生者

 熊がシャケ取ってるみたい

 

978 : 名無しの転生者

 草 分かるけども

 

979 : 名無しの転生者

 イッチ…そろそろ次スレ立ててくれー

 

980 : 名無しの転生者

 そもそも建て方知ってんの?

 

981 : 名無しの転生者

 知ってるでしょ じゃなきゃここ無いじゃん

 

982 : 名無しの転生者

 いや最初のスレは確か自動で建てられるよ ワイはそうだった。

 

983 : 名無しの転生者

 …そういやそうだな

 

984 : 名無しの転生者

 建て方は転生する際聞いてたしな 疑問に思わなかった

 

985 : 名無しの転生者

 …イッチ事故って転生してるから説明聞いてないよな?

 

986 : 名無しの転生者

 あ…

 

987 : 名無しの転生者

 そうじゃん…

 

988 : 名無しの転生者

 …あれ?やばい?

 

989 : 名無しの転生者

 次の定期報告は!?

 

990 : 名無しの転生者

 ゆ、夕方…

 

991 : 名無しの転生者

 おい待て!イッチになんか近づいてるぞ!

 

992 : 名無しの転生者

 嘘だろこんな時に!

 

993 : 名無しの転生者

 イッチ!スレ建てはスレを建てるぞ〜って強く念じればいいから!

 あとなんか近づいてるから気をつけて!

 

994 : 名無しの転生者

 見てないだろうから言っても意味ない!

 

995 : 名無しの転生者

 おい待て…これ冒険者だ!!!

 しかも5人!?

 

996 : 名無しの転生者

 まずい!イッチ頼む逃げてくれ!

 

997 : 名無しの転生者

 ダメだ魚取りに夢中だ!

 

998 : 名無しの転生者

 もしかしてこいつら【銀狼】探しに来たんじゃね!?

 ずっと行方不明だったから!

 

999 : 名無しの転生者

 てことは高レベル冒険者じゃん!?

 

1000 : 名無しの転生者

 頼むイッチ!どうか無事で居てくれ…!

 

1001 : システム

 このスレッドは上限に達しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本に集中していると轟音が鳴った。周りの木々を揺らすほどの物。

近くで衝撃魔法が使われた影響だ。

そしてそれは─彼が向かった川の方角からだった。

 

「─!!!」

 

武器を装備して全力で駆け出す。先程の衝撃魔法で倒れた倒木が私の目の前を塞ぐ。

 

知ったことではないとそのまま加速する。倒木は私の突進で木っ端微塵になった。だがぶつかった衝撃で速度が少し落ちる。ほんの一瞬遅くなっただけなのに、私は自身の焦りを止められなかった。

 

駆けて、駆けて、駆け抜けて、川の近くに出る。

周りをぐるりと見渡すと上流の方に彼が居た。

 

 

5人の冒険者に攻撃を受けている彼が。

 

 

 

 

「──」

 

 

 

眩暈がする。すぐに振り払い、彼を助けようと走り出そうとした瞬間─。

 

 

(…何で助けようとしてるんだ?)

 

彼はシャドービースト。人族からも魔物からも敵とされるまさしく世界の敵のような存在。影から憎しみと共に生まれる生きとし生けるものの命を脅かす獣。何故助ける必要があるのか。

 

そうだ。助ける必要なんて無い。見たところ冒険者達はかなりの高レベルだ。無傷は無理でもキチンと戦えば影移動が出来ない彼くらいなら討伐出来るだろう。

 

1週間近く行方不明になっていた私を探しにギルドから派遣された者達の可能性が高い。この辺りは強力な魔物が多いからだ。高レベルなのも頷けた。

 

なら私は彼らを援護して一緒に帰還するべきだ。いくら彼が敵意の無いシャドービーストだからと言ってこの先どうなるか分からない。

今のうちに芽は摘んでおくべきだ。

 

なのに私は、私の足は動かなかった。

 

(…あれ?)

 

戦いを遠目で眺めているとおかしな事に気がついた。

 

(なんで…反撃しないの?)

 

彼は全くと言って良いほど、冒険者に攻撃をしていなかった。相手の攻撃を防ぐために右手で弾くくらい。まるで()()()()()()()()()

 

(…左手を庇っている?)

 

何故左手を庇っているのか。冒険者達に既に攻撃を受けたからだろうか。それにしては庇い方が妙だ。何せ手首の部分を守るようにして──。

 

…手首を守る?

 

彼が手首を守るのに気がついた私は、彼の左手首に見えるものがあった。

それは私が渡したブレスレット。彼のクローバーのお礼に渡した物。

 

冒険者達の怒号が鳴り響く。でも内容はまるで入ってこない。

───でも、彼がブレスレットを守りながら呟いた言葉は何故か聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめて…!たからものなんだ…!たいせつにするんだ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動かなかった足が動いていた。もう、止まる気配は、無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【銀狼】が行方不明になって早1週間。オレ達は銀狼捜索の依頼をギルドから受けていた。エンシェントドラゴン討伐に行ったのが最後という事で依頼場所の樹海に来ていた。

 

そんな時に川で何故か魚を取っているシャドービーストを発見した。

もしや【銀狼】はシャドービーストに…?

兎に角今はこの世界の敵を討伐する事に専念しなければならなかった。

 

「カニー!支援魔法を!」

「イカルガ前に出過ぎだよ! 《ウェイクアップ》!!!」

 

移動速度を上げる支援魔法をカニーから受け取る。

盾持ちのタートルと共にシャドービーストに肉薄する。

 

「おいイカルガ!このシャドービースト妙だぞ!」

「分かっている!だか攻めない理由にはならん!」

 

戦闘開始からずっとシャドービーストは反撃をしてこなかった。

それどころか逃げようとする始末。初めて会った特殊な個体に面喰らいながらも連携で追い詰める。

 

「インパクト!」

 

ホタルの得意な衝撃魔法がシャドービーストに命中する。

シャドービーストは数メートル吹き飛びながらも立っていた。

 

「えぇ…割とモロに当たったと思うんだけど…」

「タフだなぁあいつ」

 

ホタルがショックを受けつつタートルが呑気に感想を述べる。

シャドービーストは数メートル離れたのをチャンスと見たのか逃げ出そうとする。

 

「亀甲縛り!!!」

 

トパスの得意な拘束魔法がシャドービーストの足を縛り上げる。

よほど硬いのか、シャドービーストの贅力でも解けなかった。

 

「どうよこのワイの魔法!これは有能」

「魔法の名前なんとかしろ馬鹿!」

「これで優秀なのホント訳わかんない」

「ええやろ別に!魔法名くらい趣味に走らせろ!」

 

軽口を叩きながらもオレ達はシャドービーストを追撃する。

機動力を奪っているからか面白いように攻撃が当たるようになる。

 

「うぐ…っ!」

 

シャドービーストがうめき声を上げた。効いているという事だ。

 

「よし!これは行けるで!勝ったな!風呂入ってくる」

「馬鹿なこと言ってねーでオメーは腕の方も拘束しろ!」

「ちょい待てや!今度こそ亀甲縛りにする為に魔力練り上げてるから!」

「しなくていいわ!」

「アンタ何しに来たのよ!?」

「亀甲縛りしに来た!」

「「「帰れ!」」」

「ひどい!」

 

攻撃を続けてはいるが急所への攻撃は防がれる。何故か左腕を庇っているが…負傷しているのだろうか。だとしたら好都合だ。

 

このまま終わらせる─その時

 

 

「やめて…!たからものなんだ…!たいせつにするんだ…!」

 

シャドービーストがハッキリと言葉を話した。今までに無かった事に驚くと次の瞬間─。

 

「ガハッ!?」

「きょぺ!?」

「だぱんぷ!?」

 

後衛の3人の悲鳴がほぼ同時に聞こえた。

 

「はぁ!?一体何が─おべぇふぁ!?」

「タートル!?」

 

タートルの鎧が砕け散りながら空中にくの字になって吹き飛ばされる。

シャドービーストは何もしていない。だとしたら一体何が─。

 

オレの仲間を地に伏せさせたソレはオレの方にとんでもない速度で突っ込んでくる。時間にして1秒も経っていない。防御は間に合わなかった。

 

せめて敵の姿を─と目線だけ新たな敵に向けるとそこには…。

 

 

怒りに満ちた顔をしている【銀狼】の姿があった。

 

 

あぁ…オレ達は彼女の逆鱗に触れたんだな。

そう思いながらオレは地面に落ちていった。




冒険者達の名前は寿司食いながら考えました。
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