世の中には不思議な事がいっぱいある。
実際にそんな不思議に出会う人間は極僅かだろうけど、僕はそんな極僅かな側の人間だったようだ。
とは言っても、僕が何か特別な人間だとか言うつもりはない。
例えるなら散歩していたら隕石が降ってきて直撃しちゃったとか、拾った宝くじが一等当たっちゃったとか、特に猫とか助けてないのに転生トラックに轢かれちゃったとか、そんな『だれでも良かった』が偶々自分だっただけだろう。
多分、自分があるトレーディングカードゲームをやっていて、偶々このカードが入ったパックを買った。
ただそんな事が原因で、いま自分はこんな事になっているのだろう。
まぁ、それはいい。
しようと思って出来るような体験ではないのだし、騒いだところで事態が好転するわけでもない。
いくら珍しいと言っても、不思議なことを目撃するくらいなら大抵の人間は一度は経験があるだろう。
もちろん自分にもそれくらいならあった。
例えば、実家の道場を継ぐ予定の兄さんが人外のお嫁さんを連れてきたり(見た目幼女だった。一応、人間換算しても兄さんより年上らしい)。
双子の姉が元魔法少女でダン=イルワ帝国という別世界の侵略者と戦ってたり(今でもたまに後輩を助けにいっていたりする)。
幼馴染のお兄さんが飼っていた金魚が美少女になって恩返しに来たりとか(よく商店街で出会う)。
よく行く喫茶店のマスターが手から気功波みたいなのを出して大岩を粉々にしていたのを目撃してしまった事もあったな(そのせいで某格闘ゲームの波動なんたらを練習していた時期がある。もちろん出来なかったが)。
……案外世の中には不思議なことが多いのかもしれない。
それだけ目撃していれば耐性の一つくらいついていたのだろう。
だからまぁ──
「やっと会えた! あなたが私のパートナーね!」
とあるカードゲームのキャラクターが実体化して喋っているくらいなら、落ち着いていられるのだ。
幻装世記TCG。
今、世界で最もプレイされているトレーディングカードゲームだ。
世界のカードゲーム人口の約七割がプレイしていると言われており、カードゲームに全く興味のない一般人でもその名前くらいは知っている人は多い。
アニメや電子ゲームは言うまでも無く、関連のキャラクター商品も多大な人気を博していて、その経済効果は日本の国家予算さえも上回ると言われている。
先日は世界大会の様子が全世界で生中継され、現世界チャンプが数多の挑戦者を降して二度目のチャンプ防衛を果たしていた。
最初の構築済みデッキが発売したのがだいたい四年くらい前。
今のように大々的に人気が出たのは約二年前と言ったところだ。
一説にはこれほど人気が出たのは実は日本を陰で牛耳っている秘密結社の総帥が惚れ込んで、そうなるように仕向けたかららしいなんて噂もある。
まぁ、眉唾物だとおもうけど。
それはとりあえず置いておくとして、僕がこの幻装世記TCGに出会ったのは発売してすぐの事だった。
もっとも、その頃は無名だったこのカードゲームを手に取った理由は、構築済みデッキのイラストが好みだったからと言うコレクション的な意味合いだった。
実際そのころはカードを眺めているだけで満足していたのだけれど、中学一年の夏に幼馴染の小柄な方のお姉さん(自分には先のお兄さんを含めて幼馴染が三人いる)もこのカードゲームをやっていると知って、僕もやり始めた。
ルールを覚え、デッキを組む楽しさを知って、コンボを決めた時の爽快感を知って、他のプレーヤーと戦う時の昂りを知って、お互いに全力を出し合って勝った時の喜びを知った。
それから幼馴染のお兄さんもやるようになって、今では自分もそれなりに名の知れたプレイヤーだ。
今年の全日本大会ではベスト16に入る成果を出している。
もっとも、幼馴染のお兄さんはベスト8、小柄な方のお姉さんに至っては世界チャンピオンだったりするのだが。
そして今僕の目の前にいるのが、一年くらい前に発売されたブースターパックの看板ユニットの一つ。
『闇夜を照らす月神─月詠兎(つくよみうさぎ)─』
月の兎をモチーフとした少女の姿のユニットなのだが、絵師さんの影響かカードの種類ごとにスタイルや見かけ年齢がばらばらだったりする。
パートナーユニットと言う種類のカードであり強い事は強いのだが、レベル0と言う立ち位置上採用されるにはライバルも多く、今ではほとんど見ない。
発売当時は「月詠兎」シリーズの上級ユニットにレベルアップする場合は採用しておきたいカードだったが、後のブースターパックで登場した『新月の降臨祭‐月詠兎‐』に取って変わられてしまった。
流石に緩やかにとはいえインフレするカードゲームの宿命からは逃れられなかったようだ。
「月詠兎」デッキ自体は今でも結構強いんだけどね。
「苦節一年……誰の手にもとってもらえず、後から来た子達が次々にパートナーを見つけていく中で、ずっと待ち続けて……ようやく……ようやく私にも……」
第一声の後、カードの上に立つ月詠兎がそんな事を言った。
そして目尻に涙を浮かべ、どこかへ祈るように手を顔の前で組んでいる。
ふと気になってカードのパックが入っていた箱の側面を見てみる。
……初回生産分って書いてあった。
発売して一年も経つのに初回生産分が残っているのも気になるが(けっこう売れているので不良在庫と言う訳ではない筈だ)、そうなるとこの子は一年もの間、暗いパックの中で待ち続けていたのだろうか。
想像してみて身震いがした。
パートナーと言うのは、カードプレイヤーと「パートナー」ユニットの関係と言う事だろう。
カードから見ればプレイヤーがパートナーになる訳だし。
なにやら僕がパートナーである事が確定しているようだが、元々「月詠兎」デッキは作るつもりは無かったんだよなぁ。
とは言え、これだけ喜んでいるのを見ると、作らないのも何だか悪い気がしてくる訳で。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私は月詠兎。ツキって呼んでね」
あ、どうも。僕は秋穂といいます。
そしてツキから差し出される右手。
多分握手を求めているんだろうけど、カードの上にいるツキの身長は10cmちょっとである。
普通に握手は無理なので、とりあえず右手を近づけてみる。
ツキの手が僕の中指に触れて、そのまま腕を上下させた。
とりあえず握手成立らしい。
ちなみに手の感触はしっかりあった。
「アキホ。これであなたは
は?
何だそれ?
ツキから聞いた話によると、ツキのような実体化できるカードは他にもそれなりに居るらしい。
ツキ達は対戦をするごとにサモンエナジーなるものを溜める力を持っていて、それを一定以上溜めると、それと引き換えにツキ達を作り出した存在から願いを叶えて貰えるそうだ。
願いを叶えてもらうのに必要なサモンエナジーの量は願いの影響力によって変わるらしく、溜まるサモンエナジーの量も対戦の内容(魅せる戦い方をすると溜まりやすいとのこと)や相手が誰であるかとか、どれだけの人が見ていたかによって変わるらしい。
そして、サモンエナジーを沢山溜めると、願いとは別に
それを聞いて僕が思ったことは……
何か胡散臭い。
……であった。
サモンエナジーって何だから始まって、ツキ達を作り出した存在って何者だとか、何故そんな事をするのかとか、
そもそもツキの話を鵜呑みにしていいのかと言う事も在る(嘘は言っていないみたいだが、それが
とは言え、色々不思議な話を見て来た身としては一概に否定できるものでも無く……
「ねえ、ツキ。ツキを作った存在と言うのは一体何者だい?」
とりあえず少しでも情報を得ようとツキに聞いてみる。
正直神秘系な回答だったり具体性の薄い回答が来るんだろうなとあんまり期待して無かったのだが……
「それはもちろんヒサガミコーポレーション決まってるじゃない」
物凄くリアルな答えが返ってきました。
ちなみにヒサガミコーポレーションは幻装世記TCGを製作・販売している会社の名前だ。
「あ、でも正確に言うと作ったのは開発部門で願いを叶えるのはカスタマーサービス部門だけどね」
まぁ、どっちもヒサガミコーポレーションには変わりないよね。
「じゃぁ、なんでヒサガミコーポレーションはプレイヤーの願いを叶えてくれるんだ? そもそもサモンエナジーってなんだ?」
「願いを叶えるのは宣伝広告料だって」
しかもサモンエナジーは単にポイントカードに入っているポイントみたいなもので、別に何らかのエネルギーとかが溜まっているわけじゃ無いらしい。
「
「全国大会のシード権獲得大会。賞金も出るよ」
……なんだろう、この「ちがう、そうじゃない」感は。
回答を疑っている訳じゃ無く、回答そのものが何か思ってたのと違うと言うか……あぁ、どう表現していいか分からない。
もやもやすると言うかやきもきすると言うか……
「これからよろしくね。アキホ」
だが、そう言ったツキの笑顔に、そんな事はどうでも良くなった。
尚、世界チャンピオンであるところの幼馴染の小柄な方のお姉さんにメールで聞いてみたところ、おめでとうの言葉と共に「ツキの説明は事実」と言う返信がありました。
……本当なんだ。
カードゲーム好きとしては挑戦してみない訳にはいかないなと思って始めたカードゲーム小説。
現実世界路線とファンタジー召喚路線で迷った挙句、どちらも中途半端になってお蔵入りになった。
《幻装世記TCG》の評価を教えてください。
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続きが読みたい。
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連載されれば読む。
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特に興味を惹かれない。
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正直面白くなかった。