Muv-Luv Condition-Red of human   作:ガン=カタ

7 / 8
♯6 凶運

 

 

 

 

 

 

Muv-Luv Condition-Red of human

 

 

 

 

 

ユウヤ・ブリッジス、男。

日と米のハーフ。

米軍に所属。

 

手元にある資料を捲っていくが、こんな紙切れで人間の性質が理解出来れば苦労はない。そんなもので人間と言う個体を理解できるのなら、わざわざ上司が現場で人間関係に気を使うことなんてなくなるだろう。

適当に資料を放り投げ、俺も俺でサッサと飯を食うべくPXに向う。

 

弐型のテストパイロットとして選ばれたのは米軍のエースくん。

恐らく、タリサ辺りから熱烈な――それはもう頭が痛くなるような歓迎を受けることになるだろう事は想像に難くない。

未だ見ぬ若き猛者に同情するね、俺は。

 

「おう。元気か、野朗共」

 

「よぅ、少佐ぁ~!」

 

「うぃっす」

 

「相変わらずね、貴方」

 

PXに到着するなり、アルゴスメンバーが俺を出迎えた。

調教などしていなくとも、いつの間にか"待て"と"お座り"を覚えているとは見所がある。

上官として鼻が高いよ。

 

……まぁ、嘘だけど。

 

コイツ等はどうせ、今日来る予定の米軍エースとソ連との広報任務のことでも聞きに来たのでしょうね!

ハハッ、俺って人気ねぇなオイ!!

 

「名前も、出身も、大抵はお前等の所にも行った情報通りだ。

 何を気にしているのか知らないが、"スツーカの悪魔"じゃないんだから力を抜け」

 

「例えが酷すぎるぜ、少佐!

あの存在自体が出鱈目なおっさんが引き合いじゃ何も信じられなくなるぜ!!」

 

ヴァレリオの一声に、一瞬だけ頭の隅っこに情景を思い浮かべた。

あの"悪魔"は制空権を握っていたからこそ、あんな出鱈目な戦果を叩き出したのだ。

光線級が登場した今は過去の遺物となり、大人しく閣下の指揮下に入っているだろう。

過去のデータを漁っていた時、スツーカの悪魔は光線が飛び交う上空を曲芸飛びで楽しそうに、狂った様に飛行していたと記載されていたが、気のせいだろう、きっと。

 

「そうかねぇ……」

 

「そうだって!タリサ、お前からも何か言ってやれよ!」

 

「――なぁ少佐」

 

ヴァレリオは1人でギャーギャー喚き立て、ステラはそんな彼を無視して優雅に紅茶を嗜んでいる、

そんな時。タリサは1人、再度確認する様に此方へ視線を向けてきた。

 

「別に、ソ連の速度に合わせる必要なんてねぇよな?」

 

その問い掛けに思わず、俺は眩暈を覚えた。

このチビっ子は、どうにも獰猛というか好戦的というか、人に合わせることを知らない。

俺の部下はどうしてこう頭のネジが吹き飛んだヤツばかりなのだろうか。

真っ当な人間は居ないのだろうか?

いや、居る筈がない。

 

"類は友を呼ぶ"

 

きっと、コイツ等が騒ぐ所為で変人は集まって来るのだろう。

 

「まぁ良いさ。痛感させてやれ、力の差ってヤツを」

 

「Yeah!!」

 

勢い良く、向けられていた俺の手を叩くタリサは意気揚々と言う具合にPXを後にした。

今からACTVの整備でもするのだろう。

この後に控えている広報任務の為だ、今は彼女の好きにやらせてやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

日本人に与えられた格納庫内では、向かい合う様に2機の戦術機が鎮座していた。

全身を山吹色に塗装された、日本の斯衛だけに許された機体――武御雷。

そして、今回の演習で初の実機機動を行う可能性のある試作品――不知火・F 型装甲。

静かに作業を行っている武御雷の班よりも、不知火側の班は幾分も騒々しい。

それも当然だ。

つい先日、今回の広報任務で不知火・F型装甲を使用する事を伝えられたのだから。

整備班達は怒涛の勢いでF型の整備を始め、今に至る訳だ。

 

そして、そんな不知火側の整備を静かに見詰める女性――篁唯依。

彼女は何よりも、今回の広報任務のことを考えていた。

 

ソ連と合同で行う広報任務、此方からはF-15‐ACTV、相手側はSu-37UBが出撃する。

両者共々、直接見るのは初めての機体だ。

どの様な性能を持ち、どの様な技術を使用しているのか是非とも解析したい。

 

「作業を急ピッチで進めて。保険とはいえ、有り得ないことなんてありませんから」

 

そして――私の目の前で、不知火・F型装甲も急ピッチで整備が進められていく。

藤代中尉号令の下、整備班達が1つになって1つの機体を一所懸命に作り上げていく。

上官の部下達に対する絶対的な"信頼"

部下達の上官に対する忠実な"忠義心"

この2つがなければ、決して成り立たない程の立派な作業だ。

 

私の武御雷の整備班達も優秀な人材の筈だが――この人達には、まだまだ及ばない。

 

「ケーブルの配属が……よし、接続しろ!」

 

「了解……っと、機動しますよ!!」

 

「うん、機動確認! 偉いぞ~」

 

男だから女だからなんて差別も無く、お互いを1人の職人として認識し、信頼する。

 

「凄い……」

 

思わず息を呑む程、その作業は完璧で、一切の妥協も無駄も無かった。

汗に塗れ様とも、指を傷付けようとも、オイルを被ろうとも、不満を漏らすことなど無い。

彼等はお互いを信頼している。

そして何よりも、彼等はこの機体に乗る男――剣崎龍二を誰よりも愛していた。

 

「急ピッチだが、手ぇ抜くなよ! この機体には少佐が――」

 

「かしらぁっ、手が止まってます!!」

 

「ッるせぇ! 中身はどうだ!?」

 

「完璧ですよ、かしら! あとは装甲さえ付ければ、いつでも機動出来ます!!」

 

「――潰されたくなきゃ退きやがれ!! お待ちかね、装甲様の登場だ!!」

 

クレーンによって運ばれたブラックの装甲が、ゆっくりと中身のむき出しになった不知火へと運ばれてきた。

その巨大な装甲をたった2人だけで固定し、次々に装備させて行く。

急ピッチで進めただけある。かなりの速度で、その全貌が明らかになってきていた。

 

「――お疲れ様、休憩にしましょう!」

 

藤代中尉の一言により、各々がその場へ倒れ込んで行く。

漸く終わったと言う疲労感と、急ピッチながらもやり遂げた達成感。

――格納庫に黒の不知火が登場した瞬間、その2つも相成って辺りから喝采が沸いた。

 

 

 

 

 

此方から参加する衛士はタリサとヴァレリオ。

それに、緊急時の保険として試作段階のF型装甲の不知火が1機。

 

対してソ連側だが――紅の姉妹などと言う大層な2つ名を持った衛士が相手だそうだ。

随分と戦場には似合わない2つ名持ちだ。

姉妹って言うことは、2機なのだろうか。

 

いや――ソ連には確か複座式のチェルミナートルという機体があった筈だ。

ということは、だ。

珍しい複座式の戦術機で、人外な機動でも見せてくれるということだろう。

アラスカに来てから、何から何まで悪いような気がしてしまう。

わざわざ、見せ付ける為に技術力を披露して貰えるなんて思いもしなかったからだ。

 

「……良い国だな」

 

「えぇ、良い国ですね。最高です、此処は」

 

「まだ見ぬ新しい戦術機と概念。確かに、楽しみではあります」

 

そんな俺が現在待機している場所は、タリサとヴァレリオの飛行が見える様に滑走路脇にジープを止め、藤代中尉と篁中尉を連れて待機していた。

本来なら俺は管制室に居た方が良いのだが、どうせタリサは俺の言葉を聞くはずがない。それに、あぁ見えても彼女は分を弁えている筈だ。

 

――挑発されなければ、それが大前提だが。

 

「おっ、ACTVが飛びましたね」

 

そうこうしている内にACTVが大空へと飛び立って行く。

対峙するのでは無く、第三者の視点からACTVの機動を見るのは初めてだった。

不謹慎だが、俺も興奮している。

 

「――速い」

 

「あっ、篁中尉はACTVの動きを見るのは初めてですね。凄いですよね、アレは。

 背中のハンガー取っ払って追加ブースターを付けるなんてBETA戦じゃ正気の沙汰とは思えませんが、対人に関しては最高レベルです」

 

確かに、BETA相手では速度よりも何よりもまずは弾薬だ。

弾薬が無ければ、本当に何も出来ない。

ただ奴等の前をハエの様に飛び回り、撃ち殺されるだけの的以外の役目は皆無と言える。

機動性よりも弾薬、俊敏性よりも弾薬、兎に角まずは弾薬。

俺が任官して、今まで戦場で戦って来て心の底から思ったことでもある。

 

「サルのように飛び回りますね。あぁ言う民族でしたっけ、彼女」

 

「タリサ・マナンダル少尉のことでしょうか……?」

 

「民族どうこう言うつもりはないですが、流石に人間離れし過ぎじゃないですかね」

 

「黙って見ろ、取り敢えず」

 

藤代の言葉になんとなく嫌な予感を感じ、それを宥めて空を見詰める。

空を切り裂く様に突き進むタリサのACTV。

堂々としているその姿は、まるで大空を支配する鷲であらんと主張する様に駆け回ってい

る。

 

「……空の支配者、か」

 

丁度、俺がその言葉を吐き出した時――

視界の隅に紫色の閃光が奔るのが見えた気がした。

 

 

 

 

 

「リュウジ、きづかない……」

 

リュウジにあいたいっておもったら、ホントにあえたのに。

わたしだけみえてもしょうがないのに。リュウジは、きづいてくれない。

 

「イーニァ、任務に戻りましょう?」

 

「ダメ、リュウジのところにいきたい……」

 

「でもね、イーニァ。コレは任務で――」

 

リュウジ、どうしたらきづいてくれるのかな?

 

 

 

 

 

剣崎龍二、男性。階級少佐。

出身国:日本

現年齢:28[部隊入隊当初は14]

身体情報:身長184cm/体重74kg 

適正結果:歴代最高記録、適正結果S(暫定)

所属部隊:XFJ計画補佐兼ALICE計画開発衛士

・総合戦跡

出撃回数160回

被撃墜回数7回

戦闘による負傷3回

・戦果

光線級約870体

重光線級約250体

要撃級約1800体

突撃級約5400体

戦車級約2100体

要塞級約25体

兵士級不明

闘士級不明

総計敵撃破数約10445体[実際はこの数値を大きく上回ると思われる]

 

家族構成:

母 剣崎千代美大尉【戦死】

妹 剣崎久留巳少尉【戦死】

父 剣崎剛【中将】

 

 

このデータが、剣崎龍二という男の全てだった。

出撃回数は160回――つまり、10年の間で160回以上BEATと殺し合いをしているのだ。

その数はけして少なくはない。

尚且つ、その状況下で無事に生還しているというのが、異常とも言える戦果だった。

英雄と言う言葉が相応しい実績を残す男であることは間違いない。

だが――それだけでは、イーニァがあの男を気にする理由が分からない。

 

他の衛士達と何が違い、何故彼だけを特別に扱うのか。

何故、先ほどのアラスカの衛士共ではダメで、彼ならば良いのか。

私は、それが知りたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程からヴァレリオと並んで飛行するタリサだが、少し挙動が荒いように見える。

推測だが、どうせソ連の連中に何か言われたのだろう。

短気なアイツのことだ、前を飛んでいるチェルミナートルを撃ちたくて、気を抑えられないと言ったところだろうか。

 

ただのハネムーンが死の旅路になるとは此方も聞いていない。

知っていたなら、最初からこんな場所で奴等の遊覧飛行など見ているものか。

あのバカを営巣にでもブチ込んで、報告書の山と格闘していた方が数倍マシだ。

 

「――ッ、ACTVがチェルミナートルをロックした……ッ!」

 

「コレは、広報任務の筈ではッ!?」

 

千枝の絶叫を後ろに聞きながら、神を恨みたくなる。

 

あぁ神よ

何故、私を見捨てるのだろう

私が貴方に何をした

何を奪った

一方的に奪うのが貴方の役目ならば、それは賊徒と何ら変わらないじゃないか!

 

 

「ったく。人に迷惑かけることに関してだけは一丁前だな」

 

ジープのハンドルを切り、ユーコン基地へと直行する。

このままでは、タリサがそれこそナパーム弾の勢いで辺りを焼け野原にしかねない。

 

あのバカを止めるには、同じ舞台に立たなきゃ話にすらならないだろう。

 

だったら、やることは決まっているはずだ。

 

――本調子では無いとは言え、"相棒"に一仕事して貰わなきゃならないかも知れない。

 

 




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