Muv-Luv Condition-Red of human 作:ガン=カタ
ジープから飛び降り、基地の格納庫まで全力疾走で走る。
後ろから藤代の制止の声が聞こえた気もしたが、そんなことはどうだって良い。
今は兎に角あのバカとヴァレリオを止めて、説教して、風呂に入って、寝る!!
道中、凄まじい速度で走る俺を見てどれだけの人が此方を振り向いた事だろうか。
なんか凄い気持ち良くなって来た、速いってすごい!!!
「F型は!」
「整備は何時でも完璧です。後は、少佐の号令1つでコイツは飛べますぜ」
「いい仕事だ、愛してるぜ」
日本からF型整備の為に連れて来られた整備班の連中は、皆が皆嬉しそうに笑っていた。
公の場で、自分達が汗水流して作った最高の機体が大暴れする。
シチュエーションとしては確かに、鳥肌物だろう。
整備班の中でも若い男に、来ていた作業服を放り投げた。
それを受け取ると、鼓舞する様に綺麗な敬礼を返して来る。
本当に素敵な仲間に恵まれたものだ。
冗談抜きで、こいつらに最高のフライトを見せてやらなくちゃバチが当たるだろう。
作業服の下から現れた強化装備がパチンッと身体に密着し、気持ちが引き締まる。
コレから出て行く先は、腐っても戦場だ。
スイッチを切り替え、飄々とした態度を完全に消す。
「実戦だ、新しくなったF型装甲の!」
興奮気味に語る数人の整備班達。
主の登場を今か今かと待つF型を見上げ、拳を握り締める。
――実機での戦闘介入、なんて甘美な響きだろう。
本当に、アラスカは俺の人生において良い刺激になってくれる場所だ。
お誂え向きな、こんな素敵なアクシデントまで用意してくれるなどもう感無量だろう。
「俺の雄姿を見逃すんじゃねえぞ、テメェら」
Muv-Luv Condition-Red of human
急加速、急降下、急停止。
戦術機でコレを行うには、人体に掛かる負担があまりにも大き過ぎる。
それを克服しようにも、その為だけに設計書を弄っていては埒が明かない。
ならば――耐え得る人材を育成してしまうのはどうだろうか
そんな、正気すら疑うような答えを出した人間がいた。
"速い"機体など幾らでも作れる。人のことを省みない、安全性の欠如した欠陥品。
ただ、それに乗れる人材が居ないだけのことなのだから。
ならば訓練すれば良い。
凄まじいGに耐え得る衛士を1から作れば良い。
その成果である俺だからこそ、今でも尚此処に居る。
新たな技術を身に付けて、新たな機体を手に入れて、漸くスタートラインに立てた。
だからあとは、周りの奴等が付いて来られない程の速度で駆け抜ければ良いはずなんだ。
――生まれた時から、俺はスピードに狂うことを強いられていた。
耳を蝕む、空気を切り裂き鳴り響く跳躍ユニットの音色。
その音と共に身体が軋むたびに、生きている実感が胸の奥底からわき上がって来るようだ。
楽しい。嬉しい。
漸く、ACTVの後部にピッタリと張り付くチェルミナートルを視認出来る距離まで来た。
そこら辺の衛士とは比べ物に成らない程の、良い腕だ。
《腕が良かろうが――》
0からの100。
スタートダッシュから急激に掛かるGすらアドレナリン沸騰の為の刺激に代えて、F型が空で吠えた。
跳躍ユニットに火が灯った瞬間、爆発とも取れる爆音と共に、全身を激痛が駆け抜ける。
《絶対に逃がさねえっ……!》
ACTVの後ろにへばり付くチェルミナートルの後方を、同じ様にマークした。
此方へ気付こうが気付くまいが、何ら結果は変わらない。
ヤツを逃がすつもりはない、この2機は必ず止めて見せる。
《聞こえるか、イーダル1。聞こえるか、イーダル1!
貴様は予定ルートから大きく外れている! イーダル1、直ちにコースを戻せ!!》
《――》
通信の回線をイーダル1にあわせ、スピーカに向けて叫んだ。
それでも、返ってくるのは沈黙のみ。
チッ……コレだから国のイザコザってヤツは面倒くせぇ。犬も食いやしねぇよ。
《アルゴス2、聞こえるか? つぅか聞け!サッサと予定ルートに戻れ!》
《何だよ! アタシとコイツの勝負だぞ、邪魔だ!!》
イーダル1を諦め、タリサへと回線を繋げたが、コイツも人の話を聞いちゃいない。
コレで優秀じゃないのなら、すぐさま撃ち落されて終わりだろうに。
何処の軍も人材不足だから、こんな下らないことで優秀な人材が失われるのは痛いのだ。
にしても――くだらねぇ、ガキの喧嘩じゃあるまいし。
《テメェ等、予定ルートから大きく外れやがって……ッ!!
今から運ばれて来る荷物が吹き飛んだら責任取れるのか!? 責任!!》
《ハッ、上等だよ!サッサとコイツとの追いかけっこ終わらしてやる!!》
《やってみろ、ウスノロ!》
《うるせぇ、オタンコナス!》
ギャーギャーと喚き立てるタリサとの通信を強制的に切断し、
今は滑走路を滑って来るのであろう荷物の安全確保が最優先事項だ。
最悪なことに、今日来訪予定なのだ。
例の、ユウヤ・ブリッジスくんが。
《CP、便の到着までの時間は?》
『もう間も無くです、少佐』
《了解した。やつらが介入しそうになった時は、此方側も落とすつもりでやらせて貰う。
それだけ伝えておいて欲しいけど、お願い出来るかい?》
『了解しました』
《あぁ、それともう1つ。定期便の方に回線を繋いで欲しい》
『分かりました。直ぐに行いますので、少々お待ち下さい』
あと数分もすれば滑走路に定期便のご到着という訳だ。
いや、しかし、申し訳ないことをした。
アメリカからの長旅で疲れているだろうに、初日から、地獄絵図を見せられるとはね。
《えぇ~……ユーコン基地に所属している剣崎龍二少佐だ。調子はどうだ?》
滑走路へ降りる直前のことだ。
定期便の隣を戦術機が――コイツは、日本製のTYPE-94か?――並走して来た。
それに乗っているのは日本人か。こりゃユウヤのヤツ、不機嫌だろうなぁ。
「こ、此方は特に異常なしですが。しかし少佐、予定の演習コースは此方では――」
《いや、ちょっと厄介事があってね。直ぐに着陸の態勢に入ってくれると助かる》
「いえ、しかし……了解しました」
その機長の言葉に満足した様に、TYPE-94は定期便の傍を離れて行った。
「すげぇな、あのTYPE-94。コッチにピッタリくっ付いて来やがったぜ?」
「アレくらい、誰にだって出来る」
「またまた。お前の日本嫌いは治らねぇなぁ~」
「……っるせぇ」
相変わらず、ユウヤのヤツは日本人が話しに絡むと口調が荒むな。
まっ、無理もねぇっちゃ無理もねぇことかも知れねぇけど。
――にしてもあのTYPE-94……見たこともねぇフレームの形式だったな。
改修機か?
そんな中、機体が大きく揺れやがる。
何だ、なんて声を出す程の時間も与えずにユウヤはサッサと機長室へ向って行きやがった。
「こ、後方から2機の戦術機が接近!」
「――いや、3機だ!まさか……このままじゃ直撃コースだぞ!?」
機長達からは焦りの声が上がるが、ユウヤは特に焦ることも無く滑走路を睨み付けている。
計算中、か?このまま後ろから来る2機を回避する為にどうすべきか考えているわけだ。
「――高度を下げろ、ぶつかるぞ!」
ユウヤは高度を上げようと考えていた機長の言葉とは反対に、高度を下げる為にレバーを思い切り下げる。ガガガッ、と嫌な音が何度か機内に響いたが何とか無事に着地に成功。
――そして、発砲音。
「「「「ッ!?」」」」
思わず機内に居た俺達が身構える程の近場での音だ。
何が起きたのか、何故そんな音が出ていたのか、その時は全く分からなかった。
その後、TYPE-94が2機の戦術機の高次元戦闘に介入。
何とか説得して事なきを得たらしい。
いやぁ……任官初日から凄ぇ見世物だったな、ありゃ。
《イーダル1、アルゴス2に"警告"する。それ以上、戦闘行為を続行する場合――》
無視、だな。
いや、タリサの場合は攻撃を回避する事に全神経を使ってやがる。
コレ以上続ければ、お互いに無傷じゃ済まないだろう。
さて、どうすべきか。
撃墜、が1番楽な方法だが"ソ連側"もトラブルが無いに越したことはない訳だ。
こりゃ話し合いで解決しろ、というのは却下したい気分だ。
バカ2人を止める程の話術も、あの戦闘に介入する程の技術もない俺にとっては超が付く程の難関だし、難しいとかの問題の前に、無理だろう。
《イーダル1、此方はユーコン基地所属の剣崎龍二少佐だ!
直ちに戦闘行動を停止しろ、其方がそれ以上暴れまわるつもりなら此方も相応の――》
《――》
一瞬で、撃鉄が叩き起こされる。
カッとなった頭を冷やしたいが、それよりも今は目の前で"格下"が良い様にしているのが、気に入らん。
操縦桿を握る両手に、ありったけの力がこもった。
《――リュウジ》
《えっ!?》
だが、怒りに任せてフットペダルを踏み込もうとしたそのとき。
間抜けな声を出してしまう程、有り得ない事実が目の前に現れたのだ。
何処からともなく聞こえた回線から、有り得ない何かが俺の思考を揺さぶった。
無論、戦闘は続行している。
此方の様子など露も知らず、チェルミナートルは此方へ反転。
手に持っていた突撃砲が此方を狙っていた。
反応が、僅かに遅れる。
バンッ、と乾いた音共に放たれた弾丸を、寸前のところで回避する。
大きく錐揉み回転するように空中でバレルロールし、先程の銃撃に流石に慄く──
ついに、撃ってきやがった。
だが、そんな瞬間でも、あまりのことに俺は悪態を吐く事すら忘れていた。
一瞬の油断が招いたバカな出来事だと自分でも自覚している。
それでも、あの時俺は確かにイーニァの声を聞いた筈だ。
それだけは、確かなんだ。
《答えてくれッ!! きみは、あのときのッ!?》
此方の問いを無視するように、チェルミナートルは踵を返した。
交戦の意思は無い、そう言うかの様に。
俺の必死の叫びは決して届かない回線へと、永遠とも取れる時間、続いていた。
結果として、東西共に実戦データが採取出来たと言うことで今回の件は不問にされた。
上の連中はそれで良いのだろうが、発砲された挙句に、筋を痛めた少佐にとっては最悪の結果なことだろう。
忌々しいと言わんばかりに煙草を吸っている。
いつものあの人からすれば、結構珍しい光景だ。
「お疲れ様です、少佐」
「労いか? 嫌味か?」
「お好きな方を」
「……はぁぁぁぁぁ」
呆れた、と言わんばかりの盛大な溜息。
ごめんなさいね。
私ってコレが素だからどうしても人を見下している様に見られちゃうの。
でも、私と彼の付き合いもそれなりの時間になる。
彼もそろそろ、"私"の性格が分かって来る頃合じゃないかしら?
「ACTVは無事に基地に帰還しましたよ」
「聞いた。チッ……」
憎々しいと言わんばかりに呟くと、煙草の火を掌で一気に揉み消した。
――相当、苛々が溜まっているのだろう。
「……確かめることが出来た」
「え?」
「紅の姉妹とは、近いうちに決着をつける」
……本気だ。
この人が此処まで怒るとなると――そこには、何かしらの理由があるのだろう。
まぁ、でも、その前に――
「それよりも病室、抜け出しましたね?」
「……何のことだか」
「篁中尉が怒っていましたよ。軽症とはいえ、病人が動き回るとは何事だ!って」
「げぇっ」
先の戦闘で、無理なバレルロールで身体の筋を少し痛めた少佐は、念の為に病院に担ぎ込まれる事となっていた。
対して、本人はそのこと自体をそれほど重要視はしておらず、病人であると言う認識なんて全くもって皆無である。
それでも、篁中尉の名前が出ると悪戯がばれた子供の様に首を竦ませて、女の子1人にビクビクするなんて、普段からは想像も出来ないほど弱々しい一面を見せる。
――まっ、今回は自業自得。
たっぷり絞られることが良い勉強になるでしょうしね。
一部修正
※龍二撃墜 → 回避 に変更
6/30 文言修正