もしも中原ミズキが某スパイ映画みたいな超有能リコリスだったら   作:那珂テクス

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EP1. 中原ミズキの受難

 武装した男たちが、音もなく整然と進んでいく。

 彼らが目指すのは、日本最大の電波塔の制御室。強襲先が他国であれば倍の工作員を要したが、ここは日本だ。

 戦場で生まれ育った彼らにとって、目標の制圧は5人で十分すぎた。

 監視カメラの死角をつき、あるいは破壊しつつ移動し、予定通り制御室前に到着する。

「待て」

 扉を蹴り開けようとした1人を、別の1人が止める。見れば扉の隙間から、人影が行き来しているのが分かった。

 警備員の待ち伏せに違いない。

 男たちは頷き合い、扉の正面に立つ1人が小銃を構えた。

 

 ガガガガガガガガガ!!

 

 轟音と共に大量の弾幕が撃ち出され、マズルフラッシュが薄暗い通用口を照らし出す。

 室内から音がしないことを確認した男は、今度こそ蜂の巣になった扉を蹴り開けた。

「な──!?」

 制御室に侵入した男たちが目撃したのは、ボロボロになって活動停止した扇風機と、その背後に設置された懐中電灯だった。

 扉の隙間から見えたものは、首を振る扇風機の影だったのだ。

(嵌められた──!)

 先頭の男がそれを理解した瞬間、ガッ!

 後頭部を衝撃が襲い、男は即座に気を失った。

「ジョン!」

 後続の男が咄嗟に呼びかける。

 その直後、4人は物陰から飛び出したものを見て驚愕した。

 女だ。

 それも鍛えられた兵士などではなく、年端も行かない少女。

 その身に纏った()()()なブレザーとスカートが、女子高生としての身分を主張している。

 だがその一方で、右手に握られたG-18Cが、男たちの脳内で五月蝿いほどに警鐘を鳴らしていた。

「お前は一体──ッ」

 叫びつつ向けられた銃口は、しかし少女を捉えられない。

 少女は姿勢を低く保ったまま男の1人に急接近し、懐に入るや否や、その顎を目がけて引き金を引いた。

 

 バンッ!

 

「ぐっ……」

 耐え難い苦痛が男の意識を刈り取る。が、赤い華が咲くことはない。どうやら銃弾はゴム製のようだ。

 少女はそのまま倒れ行く男の胸ぐらを掴み、残り3人からの射線を防ぎつつ順番にゴム弾を撃ち込んだ。

 そして――

「クソッ……何者だ」

 ──接敵からものの30秒で、5人の大男が地に伏した。

 たった1人の女子高生によって。

 唯一意識が残っていた1人は、そんな不可能を可能にした少女が、独り言のように毒づくのを聞いた。

 

「っさいわね! テロリスト風情に名乗るわけないでしょ、このクソが!」

 

 見た目よりもずっと口が悪かった。

「さっさと更生して良い男になりなさい。そしたら億が一くらいの確率で名乗るかもしれないわよ」

 お前は何を言っているんだ。

 全身の痛みと疲労で薄れゆく意識の中、少女の赤い眼鏡と亜麻色のロングヘアーが、やけに脳裏に焼き付いていた。

 

  ◇

 

 その日、DA東京支部はパニックに陥っていた。

 テロや危険分子を事前に排除する極秘任務。その要であるAIラジアータが、何者かによってクラックされてしまったのだ。

 制御を奪われていたのはごくわずかな時間だったが、その一瞬があまりにも致命的だ。日本どころか世界でもトップレベルのセキュリティを突破したクラッカーにとって、機密情報を抜き取るには十分すぎたに違いない。

「……やってくれるな」

 椅子に深く腰掛けたまま、楠木司令が独り言ちる。その声は平時の無機質さを装っているようで、わずかな焦燥が滲んでいた。

「秘匿七番を用意しろ。今すぐにだ」

 指示を飛ばした楠木に、すかさず携帯端末が手渡される。彼女はよどみなく端末のロックを解除し、たった1つしか登録されていない番号に発信した。

 コールが3回流れ終わり、目的の相手に繋がる。

「仕事だ、七番」

『元・七番よ! 仕事なら今やってるでしょ』

「たった今、ラジアータがクラックされた」

 一瞬の沈黙が流れる。

 次に電話口から届いた声は、凍てつく刃のような鋭さを秘めていた。

『下手人は?』

「不明だ。少なくともウィザード級の凄腕であることは違いないが……」

 一度言葉を区切った楠木は、周囲の人間に聞かれないように声を潜めた。

「恐らく、ウォールナットだ」

『ウォールナット……確かネット黎明期から活動してる古株だったわね。独力でクラッキングされたの? それともネズミが?』

「まだ何とも言えん。いずれにせよ、お前がやるべきことは1つだ。探し出して殺せ」

『はい出ました~DAの十八番、サーチ・アンド・デストロイ! まずは経緯とか経路とか抜き取った情報とか把握しろっての!』

「その上で殺せ、と言った。分かりきったことを説明させるな」

『たっは~! 司令官のくせに口にしていないことを「察しろ」ってか! そんなだから誰彼構わず反感買われんのよ、いい加減気づきな~?』

 捲し立てるような皮肉に次いで、ノイズが混じるほど大袈裟なため息が聞こえてくる。

 10年前は毎度のように青筋を立てていた楠木だが、今やこの程度では微塵も動じない。むしろ薄ら笑いすら浮かんでくる。

 何故なら()()()の舌の回りが良い時は、必ず依頼が受理されると決まっているからだ。

「聡明な部下を持てて嬉しい限りだよ。報酬を楽しみにしておくといい」

『元・部下だっての! ──あ~~~クソがッ! 金ととびっきりの酒を準備しときなさいよね! あと男!』

 ブチッという音を最後に通話が終わる。

「ああ……頼んだぞ、中原ミズキ」

 ──その日、何人かの職員がパニックのせいか、満足げな笑みを浮かべる楠木司令を幻視したという。

 

 

 




中原ミズキが最高に好き。

オリジナル設定の詳細は次回以降に!
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