もしも中原ミズキが某スパイ映画みたいな超有能リコリスだったら   作:那珂テクス

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評価が赤い!! ありがとうございます!!

今回のエピソードを書きたくて投稿開始しました。


EP3. 池袋フットチェイス

 左遷されたセカンドリコリスとの邂逅から、約2時間後。

 予定通り1人で池袋駅に到着したミズキは、内心頭を抱えていた。

「……おかしいわね。今日はハロウィンだったかしら」

 ──クマが、いる。

 正確には、クマのような着ぐるみを着た人間が13人。各所に散らばり、こぞってティッシュを配っている。しかもその全員がほぼ同じ身長で、一言も声を発していない。何故駅員はあの不審者たちを放置しているのだろうか。

 奇人変人が集う東京でもまあまあレアな光景に、ミズキは不思議と確信していた。

 

 ウォールナットの仕業だ。

 

 身軽にしろと指示したはずなのに、一体何をしているのだろうか。ひょっとしてバカなのか?

 救助要員のミズキどころか、()()()()()()()()()()()じゃないか。

(19──いや20人か。多いわね)

 その目が捉えるのは、付かず離れずの距離で着ぐるみを監視する男たち。

 胸や尻の膨らみから、間違いなく拳銃を隠し持っていることが分かる。

 全員を一度に相手するとなれば流石のミズキでも骨が折れるが、幸いにも彼らはどの着ぐるみがウォールナットなのか知らないようだ。上手くいけば、実際に手を下すのは2、3人で済むだろう。

 脳内で何通りかの脱出経路をシミュレーションしていると、借りているミカのスマホに着信が入った。

 匿名の表示を確認し、迷いなく通話を繋ぐ。

『着いたぞ』

 変声機越しの声。ウォールナットだ。

 見ればミズキの指定地点に例の着ぐるみが1人いるが、今現在もティッシュを配っている。中にイヤホンでも仕込んでいるのだろうか。

「ちょっと、どういうことよ。駅にクッマ出没してるんだけど」

『リスだ。全員ただのバイトだよ。敵はボクの顔を知らないから、こうした方が都合がいい』

「は? でもあんた、顔が割れてるって」

『言ってないぞ。お前が勝手に勘違いしただけだ』

 このヤロウ。

「……だったらこんな面倒なことしなくても、こっそり合流すればいいでしょ」

『確かめたいことが2つあってな。1つはボクを売ったハッカーの正体だ。ボクの出現情報をわざと深層に流して動向を探ってたんだが、おかげで無事に特定できた』

 平坦な声で告げてくるが、今回の救出作戦が決まったのはたったの2時間前である。移動時間も考慮すると、この男(?)に与えられた猶予は、大学講義1つ分にも満たなかったはずだ。

 たったそれだけの時間で人員を配置し、あまつさえ敵の頭脳を暴くとは。

 底が知れないにも程がある。

「2つ目は?」

『あんたの実力が見たい。ボクはデータ人間だが、データしか信じない愚か者じゃない。だから、あんた自身の伝説を証明してくれ』

「……へぇ」

 桜色の唇から、思わず感嘆の声が漏れる。

 なまじ技術力が極めて高いだけに、ミズキにとってこの用心深さは意外だった。

 ウォールナットほどの実力者になれば、自身の力を過信して必ずどこかで隙が生じる。少なくとも彼女が見てきたのはそういう人間ばかりだった。

 ところが、こいつにはその類の油断がまるで見受けられない。あるいは隙を見せた結果売られてしまったのかもしれないが、その後のリカバリーとしては十二分の対処をしている。

 

 こちらを試すような真似は気に食わないが、今は一肌脱いでおくべきだろう。

 

 まだ対面すらしていないにも関わらず、ウォールナットに対するミズキの評価は「手放したくない傑物」に落ち着きつつあった。

「分かったわ。でも死にたくなければ、ここから先は私の指示に従いなさい。いいわね?」

『了解』

 簡潔な返答。しかしミズキは、平坦な声に秘されたわずかな硬さを察知した。

 ──さて。

 依頼人も怯えているようだし、さっさと終わらせよう。

「バイトに今すぐ解散するよう伝えて。必ず一人きりで、バラバラの方面に。あんた自身は合図を出すまでその場で待機」

 ミズキがそう指示すると、30秒もしない内に着ぐるみたちが動き始めた。

 配っていたティッシュをしまい、各々が歩き出す。その方向は西口、東口、改札などと様々だ。

 一方で、指定地点の着ぐるみはまだ動かない。

(さぁ、どうする?)

 鋭さを増した眼光が、追手たちの行動をつぶさに捉える。

 慌ただしく無線でやり取りをした彼らは、1人か2人ずつに別れて着ぐるみを尾行し始めた。

 中央1改札に残ったのは……1人だ。

 

「行動開始。目の前の人混みに紛れて、改札を背に歩き続けて」

 

 合図によって、最後の着ぐるみが歩き始めた。その後方に追手がつくが、やはり1人きりのようだ。

 目標を追うことに夢中で、少し離れて自身の真横を歩くミズキに気づいていない。

『……はぁ……はぁ……』

 電話口から荒い息遣いが聞こえてくる。

 運動量は皆無に等しいが、被り物の息苦しさと、刺客に命を狙われていることへの緊張が表れているのだろう。

(──!)

 注視していた男が、ポケットから何かを取り出すのが見えた。

 拳銃ではない。注射器だ。

 中身は恐らく、強力な鎮静剤。

 早急に対処しなければ。

「正面の店に入って。すぐ右側にあるドアから出て直進」

 指示を出しつつ、指定した出口に素早く回り込む。

 店に入る瞬間、着ぐるみが後ろを振り返った。その刹那、追手と逃走者の目が合う。

 

 着ぐるみの足が早まる。

 

 男が肉薄する。

 

 もはやほぼゼロ距離になった2人が、出口に迫った瞬間──

 

「ハーイ♡」

「ガッ……!?」

 

 ──反対側から歩いてきたミズキが、すれ違いざまに男の手首を掴み、返し、そのまま注射針を男の体に突き刺した。

 着ぐるみの無事を横目で確認しつつ、男を強引に押し戻す。

 そのまま店内の長椅子に座らされた男は、一瞬で意識を失った。

(まずは1人……チッ)

 即座に反転して歩き始めたミズキは、視界の端で動くものに舌打ちした。

 別の着ぐるみを追いかけていた男が2人、こちらに向かっている。どうやら無線越しに呻き声が聞こえていたらしい。この様子だと、他にも何人か合流してくるだろう。

 再び前を行く着ぐるみに目を向けると、さらにその先に雑貨屋が見えた。

 都合よく、裏への扉が開いている。

「正面の雑貨屋に入って。半開きのドアから裏に入ってすぐ施錠」

 さらに指示を出すと、着ぐるみは即座に雑貨屋へ入店する。

 その姿が裏に消えたのを確認すると、ミズキは店外で立ち止まり周囲を見渡した。

 やはり先ほどの2人組が追いかけてきている。

 しかしミズキにはまだ気づいていないようで、彼女の目の前を素通りして店内に入っていった。

『閉めたぞ。次は?』

「そのまま待機。私も奴らと一緒に別方向から入るわ」

『はぁ!?』

「片を付けるって言ってんのよ」

 ちょうどミズキが伝え終わった時、ドアが開かないことに気づいた2人組が店を出てきた。

 向かって右方向に転換した2人が、近くの職員通用口に向かって行く。その真後ろを尾行するミズキは、さらに別方向からこちらへ向かう2人組に気づいた。

 つまるところ、狭い通用口で4人の追手を無力化しなければならないわけだ。

(上等じゃない)

 先行く男どもが開け放ったドアを抑えつつ、女は獰猛な笑みを浮かべた。

 

  ◇

 

「……マジか……」

 その光景に、ウォールナットはただ瞠目することしかできなかった。

 

 協力者の指示によって逃げこんだ店の裏。程なくして現れた追手が銃を構えた直後、その真後ろから現れた女が、男の銃をはたき落としたのだ。

 反転しつつ壁に叩きつけられた男は、そのまま後ろ首に拳を叩き込まれて呆気なく気絶した。

 突然の事態に呆然としていると、女は若干乱暴な手つきでウォールナットを押しのけてきた。それとほぼ同時に先ほどまでいた地点真横のドアが開かれ、別の男が現れた──それが追手だと理解した時、既に女の掌打によって男は倒れかかっていた。

 女が掌打をきめた直後、その真後ろから3人目の追手が拳銃を突き付けてきた。

 が、女はこれにも即座に対処。

 右回転して振り返りつつ、目にも止まらぬ速さで男の右手を掴んだ。そしてそのまま回転の勢いを利用して逆肘にし、痛みのあまり銃を取り落とさせたのだ。

 その後、復帰しかかっていた2人目に3人目をぶつけ、2人目が体勢を崩している隙に3人目を一本背負い。階下に突き落とされた3人目は、そのまま動かなくなった。

 と、ここに来て追跡者がやっと反撃。ついに復帰した2人目が、女にタックルを食らわせたのだ。

 しかし、これにも女は動じない。

 逆に顔の位置が下がったことを利用し、強烈な膝蹴りをクリーンヒット。意識が朦朧とする男を掴み上げ、最後に駆け付けてきた4人目の射線を遮った。そのまま3人目を肉盾にしつつ4人目の腕に叩きつけ、握力が弱まったところに掌底を放って武装解除。すかさず強烈な右フックで4人目の意識を刈り取った。

 その後、向かってきた3人目を小手返しで階下に投げ飛ばした女は、痛みに悶える彼を拳銃のグリップで思いきり殴りつけた。こうして3人目が意識を失った。

 

 この間、わずか20秒。

 

「──っしゃあ終わり! さっさと行くわよ」

 

 初めて生で見た、その女──中原ミズキの顔は、汗一つ浮かんでいなかった。




元ネタは言わずもがな、みんな大好きな例のシーン。

未だに毎日見るくらいには大好きです。
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