不死者の王と召喚少女   作:ナザリックの一般メイド

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2023 3/20
20:32


魔王

 

 

「不覚……」

「まぁ、誰しも向き不向きあるさ……と言うかまだ気持ち悪いのか?」

 

 ファルトラ市のはずれ、人食いの森近くの川。

 口から吐しゃ物を撒き散らしたレムは川の水で口を漱いでいる。

 どうやらレムは酔いやすい体質らしい。

 これがレムだけなのか、豹人族全員こうなのかアインズは少し興味がわくが、自重し聞き出すのはやめておく。

 

「ま、まぁ切り替えていこう、どうだ?」

「まだちょっと気持ち悪いですが……大丈夫です」

 

 迷惑かけました、とレムが立ち上がる。

 これについては急に飛ばしたアインズにも責任があると、軽く頭を下げる。

 

「──そうだ! 水浴びしない?」

 

 シェラがぱん、と手を鳴らし、提案する。

 

「それにほら、レムちょっと臭いし」

「んなっ!」

 

 シェラが遠慮なく、女性にとっての禁句を軽く言う。

 確かにレムはちょっと汚物を口から出したので臭うかもしれないが、遠慮なく言うのはどうだろうかとアインズは思う。

 

 

「く、臭くあり……いや、臭いかも……」

「そこは否定しようか」

 

 ガクン、と両手を川辺におきレムが項垂れる、

 実際に先ほどまで吐しゃ物を撒き散らしていたからか、ある程度自覚があるのだろう。

 

「まぁ、いいんじゃないか?」

 

 切り替えるようにアインズが言うが早いか、シェラが突然上を脱ぐ。

 上半身裸、ユグドラシルではそもそも不可能な、できたところで存在しないモノ(乳首)を視認したアインズは、沈静化で精神が落ち着かされる。

 すぐさま隣のセルシオを掴み180度回転し、シェラを視界から外す。

 

「急にどうした?」

 

 極めて冷静にシェラの突然の行動に問いかける。

 それに対しシェラはきょとんと、分かっていないかのように言う。

 

「いや、服を着ていたら水浴びできないじゃん」

 

 と。

 

「いや、その……恥ずかしくないのか?」

「……そういうのは、気にしても見ないのがマナーです」

 

 と、なら仕方ないかとアインズは思うが、それでもと……というか永遠の童貞(ブツがない)なアインズには刺激が強い光景だろう。

 レムも脱ごうと、布ずれの音が聞こえた時、アインズに思念が伝わる。

 ここ最近、特に戦う用事がないときは常に魔法で呼び出し続けていたアンデッドからの思念だ。

 即座に振り向き、驚愕するレムを無視し川の向こう側を直視する。

 

「シェラ! 下がれ! レム、召喚獣を出せ!」

 

 これまでになくアインズが怒鳴る。

 その姿にシェラは直ぐ動き、服を掴んで後ろに跳躍する。

 セルシオは弓を構え、アインズが向いている方に矢をつがえる。

 

「ど、どうしたのですかアインズ!」

「直ぐにわかる──<魔法の矢>(マジック・アロー)

 

 脱ごうとした服を元に戻しながらレムがアインズに問う。

 アインズはそれを横目に指先から魔法の矢を放ち、川向こうの岩に着弾する。

 十の矢が放たれ、岩が粉々になると同時に、人影が飛び出す。

 斜めに跳躍し、川に落ちる。

 水しぶきを槍で吹き飛ばし、相手が見える。

 

 小柄な、レムよりは大きい程度の姿。

 褐色の肌には所々鱗が生えているのが異形であることを示している。

 しかし銀の髪と金色の瞳が異質な美を醸し出す者。

 以前ウルグ橋砦に攻め入り、アインズに敗北した魔族──エデルガルドだ。

 

「魔族……!」

 

 直ぐにレムがクリスタルを取り出し召喚獣を呼び出す。

 呼び出されたのは巨大な蛇型の召喚獣だ。

 名をマダラスネイクといい、黒い鱗に覆われた巨大な蛇そのものの召喚獣で、相手を拘束するスキルを有する。

 

 エデルガルドは召喚獣を見るや否や、槍を放り投げる。

 まるでゴミでも捨てるかのように後ろに投げ、岩があったところにカラカラと音を鳴らし落下する。

 

「戦う気は──ない、話しが、したい」

「ふむ、それを信じるとでも?」

 

 アインズがアイテムボックスから杖を取り出し、構える。

 出したのはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン──それのレプリカだ。

 外見とエフェクトだけ同じの、能力強化も精霊の召喚もできない代物だが、エデルガルドには十分だったのか一歩後ずさる。

 

「……魔王さまのー魂、感じた」

 

 アインズの台詞を無視し、エデルガルドが指をさす。

 その先は──レムだ。

 正確に、レム・ガレウを指している。

 

「レムが魔王とでも?」

 

 何を言っているんだ、という風にアインズが魔法を放とうとするが、レムにとっては効果覿面だ。

 顔が青ざめ、がくがくと震えだしている。

 まるで親に見捨てられた幼子のように、召喚獣の維持もできなくなったのかマダラスネイクがクリスタルに戻っている。

 

「レムに何したの!」

 

 シェラが叫び、レムに駆け寄る。

 それをしり目に、アインズが魔法を放つ。

 

<火球>(ファイヤーボール)!」

 

 アインズの杖の先からバスケットボール程度の炎の塊が生まれ、エデルガルドに向かって直進する。

 それをエデルガルドは防ぐでも避けるでもなくただ受ける。

 エデルガルドに炎が着弾すると同時に炎が爆発的に広がり、エデルガルドを包み込む。

 

「レム! 大丈夫か!」

 

 アインズがほぼ無意識化に無詠唱化した転移魔法を唱え、レムの真ん前に転移する。

 それを見たレムが狼狽えるのを見て、アインズは沈静化が発動し、考える。

 

(レムには精神系に対するマジックアイテムを渡している、それを突破できる程のスキルか? 

 エデルガルドは物理系の戦士の筈、精神操作系のスキルを持ってるとは考えにくい──)

 

 

 アインズの思考を遮るように、エデルガルドの声が響く。

 

「戦う気──ない!」

 

 両手を上げ、エデルガルドが吠える。

 褐色の肌が炎で焦げ、火傷ができている。

 流石は魔族といったところか、アインズの魔法を受けても多少のダメージですんでいる。

 

 それを見たレムが、息を整える。

 待つこと数分、長い呼吸の後、ゆっくりとレムが立ち上がる。

 

「もう、大丈夫です」

「レム……」

「もう、大丈夫なのか?」

 

 アインズが声をかけるが、レムは少しすっきりした顔で答える。

 

「大丈夫です……これ以上隠すのは、無理そうですね」

 

 諦めたように、レムの表情が曇る。

 

「……私から魔王の魂を感じたと、いいましたね」

「……気配をー、感じた、だけ……確証は、ない」

 

 

 レムが真っ直ぐとエデルガルドを見つめる、対話する。

 

「正解です……私には、魔王が封じられています」

 

 その言葉にエデルガルドは歓喜し、シェラ、セルシオ──そしてアインズは驚愕する。

 片手で腹を撫でながら、レムは説明する。

 母からこの封印を受け継いだこと。

 封印をどうにかできないかと冒険者となって戦ってきたこと。

 それを聞いたシェラがレムに抱き着く。

 

「レム~!」

 

 顔からは涙と鼻水が流れ、少々汚いが、レムはそれを気にせず受け止める。

「シェラ……私が、怖くないのですか」

「怖くなんかないよ! 魔王が封じられていたって、レムはレムだもん!」

 

 その言葉にレムの眼から涙が零れる。

 

「私もだ、レム──例え魔王が封じられていようが、レムはレムだ……そのことに変わりはない」

 

 ちらりと、アインズが横目にセルシオに問う。

 

「セルシオ……お前はどうだ?」

「シェラ様の言う通りです、レム殿であることに変わりはない」

 

 弓を収めていたセルシオはそういう。

 その顔には恐怖や嫌悪等はなく、本当にそう思っているようだ。

 

(魔王が封じられている──ゲームだとよくある設定だが、現実として考えると……クソだな)

 

 ペロロンチーノさん当たりなら「むしろ興奮する」とでもいいそうだなとアインズは考える。

 

「それで、エデルガルド……だったか? 何しに来た? レムを殺しにでも来たか?」

「いったようにー、戦う気、ない……その気なら、私一人でー、きてない」

「ほう、ならば何の用だ? このまま何もなく逃げられるとでも?」

 

 アインズが絶望のオーラを出し、エデルガルドを威嚇する。

 絶望のオーラにレム達は恐怖し、竦むが、エデルガルドは逆に一歩前に出る。

 

「魔王さまのー封印、を解きたい」

「封印を解くだと?」

 

(そんなことが可能──いや、魔族ならその知識もあるということか)

 

 さてどうするかと、アインズは思案する。

 封印を解けば、魔王が復活する。

 結果としてレムは魔王の封印という役目から解放されるが、その復活した魔王をアインズが倒せるかわからない。

 レイドボス級ならばSoAOG*1とマジックアイテムフル行使で勝てるかもしれない。

 

 

 けれどワールドエネミー級となれば不可能だ。

 

「アインズ……」

 

 か細い声。

 100レベルの、人外の力を持っていなければ聞こえないような──空耳とも思える声。

 それを聞いて、アインズが少し大げさにため息をつく。

 本来呼吸など不要なアインズが、だ。

 

「いいだろうエデルガルド──お前の誘いに乗ってやる」

 

「アインズ?!」

 

「しかしアインズ殿、如何にあなたとはいえ──」

 

 シェラとセルシオ、両方がアインズに詰め寄る。

 魔王とは人族不倶戴天の敵。

 

 

「私は──アインズ・ウール・ゴウン! ならばこの名にかけて、敗北はあり得ない!」

*1
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン

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