仮面ライダー:RE   作:大荒鷲

1 / 54
どうもお久し振りです。
1ヶ月ぶりの更新となりますが、今回は最新話ではなく。

気が付いたらなんと早いもので本作を書き始めてから今日でなんと2年になります……と書くと言ったらカッコいいんだけど、予想以上の難航っぷりで進捗は遅々として進まず、未だに作品の顔たる仮面ライダーすらまだ登場してない始末…(作風上中々出せない&敢えて焦らしてるってのもあるんですが)。
だからって訳でもないんですが、2周年記念、そして読んでくれた方々への感謝も込めて特別編を投稿します。性質上最初に読んでも良し、途中から読んでも良し、最新話投稿分からも繋がります。

相変わらず妙に長いですが……と無駄に長い前置きはこのくらいにしておいて、それではドウゾ!!


CHAPTER-Ex:『REcirculation』

Is this True Beginnings, or Unexplored Points?

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM19:48】

 渋谷。

 日本最大の繁華街であり、流行の先端が発信される不夜の街。その中にあって最も人の波が交錯するのが宮益坂から道玄坂に至る東西通り、渋谷駅西口駅前から渋谷公園通りに至る南北通りが交わり、そこから更に北西方向に渋谷センター街のストリートが直結した五叉路――所謂《渋谷スクランブル交差点》。

 1回の信号で実に1000人以上もの人間が行き交う上に、そうでなくとも南東側のハチ公広場やそこから更に南に設置されたモヤイ像には待ち合わせ等で更に大勢がたむろしているし、南西側の渋谷駅前ビルや北西部に位置するQFRONTは常に客足が絶える事はない。

 

 「世界一混み合う交差点」の称号は伊達や酔狂でもなんでもなく、深夜だろうが早朝だろうが人の群れが途絶える事はほぼない――故に。その交差点の中心で動きもせずにただただ俯いて、佇んでいる者がいれば否が応でも人目を引く。

 

 ちょうど連休入りの週末という事もあって誰もが浮足立っていた。とっくに夏季休暇に突入している学生達のみならず、仕事帰りのサラリーマン達も、そんな群衆が秩序立って行き交う光景が物珍しい訪日観光客達も。だからそんな中にあってその人物の異様さはまるで水面に落とされた墨滴のように、周囲に希釈されながらも確かにその存在を主張していた。

 痩せぎすの体躯に伸び放題の髪。ひょろりと高い背に薄い胸元は男性だと分かるが、華美さのカケラもない薄汚れた身なりは凡そこの場に似つかわしくない。男は交差点の真ん中で何をするでもなく空を仰いでいた。

 

 交差点を行く人々はそんな男に奇異な目を向ける事はあってもそれ以上は気に留める事もなく、逆に器用に男を避けて進んでいく。この街にはどうせ色んな人間がいる、わざわざ関りあいになる必要もない――そんな心境だ。

 だがいくら歩行者の天下であったとしてもそれは信号が青である間だけ。信号が点滅を始めると共に歩行者達はサッと潮が引くように対岸へと避難していく……がそれでも依然男はそこに居座り続けていた。

 

「おい、アンタ……こんなトコにいっと危ないぞ?」

 

 流石に見兼ねたのか、一人の大学生くらいの青年が男の肩を掴む。どうせ前後不覚になった酔っぱらいかなんかだろう、正直この手合いとは関わり合いになりたくはないが放っておいても目覚めが悪い――本当にただそれだけのつもりだった。

 

「………」

 

 男がユラリと青年の方を振り向いた。白髪交じりになった長い髪の奥には不健康そうな程にやつれた顔、そこから微かに除く瞳はどこまでも昏く、虚無的だ。さながら幽鬼のようなその面相に青年は思わず背筋が粟立つ。コイツはなんだ……?そう思った刹那、男の口元がグニャ、と歪んだ笑みに変わった。

 

「――《スペリオル》の祝福を……」

 

 男は低い声で確かにそう呟いた。スペリオル……?意味不明のその言葉を反芻するより先に、男の目が血のような赤色に染まり、顎が二つに裂けた。まるで内側から何かが飛び出すように全身が膨張し、男の額を突き破ってなにやら長い一対の触角のようなモノが生えてきて――それが青年が見た最後の景色だった。

 

 次の瞬間、男の手――異様に伸びて鉤爪状に変形した異形の――が空気を裂いて振り上げられ、青年の首を刎ね飛ばした。青年に自分の死を知覚する暇が与えられなかった事はただポカンとした表情のまま、永遠に固定された首を見れば明らかだ。首が地面に落ちると同時に……漸く己が既に事切れている事を理解したように首筋から鮮血を噴きながら、彼の体は崩れ落ちた。

 

 青年の遺骸をもう興味もなさそうに睥睨するその姿はもう男のモノではない。両の掌はまるで指が二本ずつ融合したかのように三本の長い指とを鉤爪を備えた形状に変異しており、腕も通常の1.5倍近いサイズに伸びている。痩身長躯は男の印象まんまだが、しかし破けた服の下の皮膚はまるで瑪瑙色の甲殻となっており、最早人間のモノではない。まばらに散らばった発疹のような痣も含めて如何にも毒々しい。

 なにより形状が最も顕著なのはその頭部――。青年が今際に見た額から突き破って伸びた一対の触角は周囲を探るように不気味に蠕動し、その下では赤く染まった昆虫の如き複眼が閃く。更に口元はまるでハサミムシのような大アゴ状に変化し、それを上下合わせてさながら4つの牙の如くカチカチと打ち鳴らしていた。

 

 バケモノ……誰かがそう呟くのが聞こえた。それを合図に漸く異常事態に気付いた群衆から悲鳴が飛び出す。悲鳴は更なる恐怖と混乱の狼煙となり、週末のスクランブル交差点を呑み込みだした。まるでそんな絶叫を浴びるかのようにバケモノは身を震わせて、異形の口元を大きく開いて吠えた。

 

 その場に居合わせた人々は恐慌に駆られ、我先にと勝手な方向に逃げ出し、人垣に呑まれて事態を把握出来なかった人々は逆に何が起こっているのかも分からないまま、パニックに陥った群衆に圧し潰される。つい先刻までの秩序などどこかに行ってしまったかのような混乱状態……まるでそれを糧とするかのようにバケモノは交差点の真ん中から飛び出した。狙われたのは立ち往生した群衆ではない、突然の事態に信号付近で呆然としていた路線バスの方だ。

 突然こちらに襲い掛かってきた異形の姿に運転手は慌ててハンドルを切って避けようとしたが時既に遅し、バケモノの巨躯は前面の窓を破壊し、バスの運転席に雪崩れ込んできた。車内はパニックに包まれ、運転手も滅茶苦茶に車体を操作しながらなんとかバケモノを振り落とそうとしたが無駄な抵抗だった。バケモノは爪を無慈悲に突き出し、運転手の両眼を抉り潰した。焼け付く様な痛みに彼は絶叫しながら――最早体が何をしているのかすら分からない――アクセルを押し込み、ハンドルを回す。

 完全にコントロールを失ったバスはそのまま高欄を粉砕し、渋谷駅前ビル前の歩道に乗り上げ――そのままそこに居合わせた多くの人々を跳ね飛ばしながら、最後にはまるで力尽きるかのように横転した。車内で散々振り回された乗客とバスに轢かれ、車体の下敷きになった群衆の悲鳴と怒号が飛び交った。

 そして次の瞬間。燃料タンクが破壊されたのか、とにかく漏れ出たガソリンに火の手が付き、車体は大きく炎上した。生きたまま炎に焼かれた人影が紅蓮の光の奥に見えた。

 

 しかし悪夢は終わらない。炎を突き破るようにこの惨事を引き起こしたバケモノが飛び出し、未だ混乱の最中にある群衆に襲い掛かったからだ。猶も拡大する炎が行く手を阻み、それを嘲うかのようにバケモノは鉤爪を閃かせ、次々にエモノと見なした者達を屠っていく。

 

 先刻までの光景は消え失せ、最早渋谷は完全に獰猛な捕食者の猟場と化していた。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM19:54】

 絶えず世の中にアンテナを張り巡らせておく事は重要だ、というのは自分の師匠の言葉。今の世の中はまさにSNSというリアルタイムであらゆる情報に瞬時にアクセスできるツールがあるんだから、一長一短はあれど基本的には便利なモノだ。

 特に大きな出来事があると、それは本当に光の如き速さで拡散される。

 

成澤(なるさわ)!!」

 

 一之瀬真琴(いちのせまこと)は自分のスマートフォンを掲げながら、今まさに愛車に跨ろうしている後輩に声を張り上げた。後輩――成澤哲也(てつや)は怪訝な表情でこちらを振り返る。

 

「なんスkか、そんな血相変えて?」

「これ見て。今ツブッタ―に流れてきた」

 

 TL(タイムライン)に表示されたのは渋谷を移した動画。確かにいつも無駄に人垣で溢れかえってる街だが、今日限りは明らかに様子が違う。血相を変えて悲鳴や怒号を上げながら方々に逃げ惑う人の群れ、背後の方で巻き上がる炎と思しき赤い光、何より――カメラが明らかに中心に映しているソレは、人でも獣でもない異形。

 

 怪人、としか形容しようのないナニカ。

 

「これって……」

「そう。たぶん()()()のアリ男とおんなじヤツよね?」

 

 この間の、どころか下手すれば半年以上前に世間を散々騒がせた半魚人擬きとかモスマンとか……とにかくあの類の生命体共。ヤツ等がまた現れたという事だ。

 取材を終えて後は社に戻るだけ、という所だったが真琴としては一刻も早く現場に行って確かめて来いと記者魂が騒ぐわけだが……如何せん移動手段が専ら車か公共交通なので機動力ではバイクに乗る哲也には劣る。

 

「分かりました。俺先に行って様子を撮ってきます!」

「お願い。でもくれぐれも無茶はしないでよ?」

 

 意外に察しの良い後輩は真琴の意図を汲んでくれた。半年前の件を経て少しばかり頼もしくなった彼の事を頼もしく思うと共に無理を押し付けて申し訳ないとも思い……矛盾した感情を抱えながら意気揚々と走り出した哲也を見送った。

 

 くれぐれも、は本当に念押しだ。あの男はすぐに気負って無謀な行動に出る事があるから……。真琴もまた愛車のエンジンを掛けて走り出すが、哲也の後姿は既に見えなくなっていた。同時にハンズフリー状態にした携帯から電話を掛ける。

 

「もしもし編集長?これから渋谷に向かいます、アニクに確度の高い情報を集めて送るように頼んでください――」

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【同時刻】

 哲也はバイクのスロットルを上げて外苑西通りを疾走する。行き交う車の列を縫うようにして猶も速度を上げる。急いでいるのもあるし、そうでもしないと真琴さんは振り切れないしな……独り言ちながらメーター部分に秘匿されていた小型モニターを展開しつつ、ヘルメットに内蔵されたインカムを起動させた。

 

「こちら哲也。《ファントムメナス》どうぞ」

〈こちら《F・M》。今どの辺りを走ってんのオーヴァー?〉

〈ふざけてる場合ですか!〉

 

 どこか冗談めいた受け答えをした女性の声に、別の少女の声がツッコミを入れる。哲也は苦笑しながら腕のスマートウォッチ型の機器に目をやった。“感知”の反応を即座に受信出来るというコイツの性能に嘘偽りはないようだ、お陰でSNSの情報よりも遥かに速く、奴らの存在に気が付く事が出来る……。なんだか真琴の事を騙しているようでその罪悪感が拭えないのは事実だが……。

 

 今は余計な事は考えない――そう決意するように更にエンジンを吹かす。

 

「ただいま外苑西通りを南下中、そっちは?」

〈グッドタイミング!ウチらはいつも通り、代々木公園内に“出現”するからそこで合流しよう〉

「OK、準備頼む!!」

 

 おうよ、と女は勇ましく答えて通信を切った。それと同時にモニターに合流地点までの最短ルートが自動で表示される。本当に全く便利な機能だよな、と意気込みながら哲也は更に車体を加速させた。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【同時刻】

「準備完了アーンド偽装解除、《ファントムメナス》発進!」

「なんでそんなウキウキしてるんですか!?」

 

 少女の抗議を無視して、女――藤田恵麻(ふじたえま)は構わず《ファントムメナス》……と呼ばれているウォークスルーバンを発進させた。ハンドル握ると少しハイになるタチだという自覚はあるけれど、まぁ仕方ない、発進とか出動ってシチュエーションは漢の浪漫なのだ……アタシ女だけど。

 

 対して助手席に座る少女――山城柚月(やましろゆづき)は相も変わらずの不機嫌顔で憤然と腕を組んでいる。まぁ分からなくもないんだけどサ……根が真面目な柚月はこういうノリにはとことん付き合ってくれない。殊にあの怪物――《ヴェルノム》絡みとなるとなると尚更で、たぶん内心で「真面目にやれ」って思うんだろうなぁ……。

 

 でもこっちはこっちで、これから否が応でもいくつかの法律違反をせにゃならんのだから、少しくらいの緊張ほぐしは許してくれたって良いだろう。勿論そんな事はよく分かってるから柚月も必要以上に止めたりしない訳で。むしろ最近は少しばかり突っ込みにキレが出てきた気がする。

 

〈情報拾ったよ。詳細な画像とか送るから分析をお願い〉

 

 再び通信。柚月が持っているタブレットに(はら)アニクの顔が表示される。流石仕事が早い、と舌を巻く暇もなく、柚月はそれを同じくらいかなりの速さで分析していく。

 

「データなし……だけど多分“カミキリモドキ”だと思います」

 

 僅か数秒で柚月はそう結論付けたようだ。彼女が見ている映像の中には人が怪物に変化する瞬間をきっちり捉えたものまである。

 

「ソイツは《イノセント》の中毒者かなんか?」

「いえ…多分《リヒテッド》絡み」

 

 チェッ、そりゃ却って厄介だね、と恵麻は毒づいた。中毒者の方なら“フェーズ1”がせいぜいだし、中身も所詮ただのチンピラだ。でも《リヒテッド》が放った変異体なら……“フェーズ2”に達してる可能性もあるし、何より狂信者という輩はこの世のどんな敵よりも厄介だ。

 

「その情報、哲也に送ったげて」

「はい。それと(くすのき)さん、念のためフリーズユニットを用意してください」

〈かしこまりました〉

 

 柚月がマイクを使って車両の後ろに呼び掛ける。間髪入れずに丁寧だがどこか温度を感じさせない楠の返答が返ってくる。合流地点まであと200メートル、接触まで残り――6分といった所か。恵麻は車体のディスプレイをなるべく目立たない柄に変更し直す。 

 後は待つのみ、臨戦態勢はバッチリ――あ、そう言えばひとつ忘れてた。

 

「ドローンユニットも射出。バイクにも積んどいてね?」

〈かしこまりました〉

 

 さっきと寸分違わぬトーンで楠が応じる。なんやかんやでアリバイ確保のためにもコレは欠かせない。アタシ等にはあんまし関係ないんだけどね。

 

「またやるんですかアレ?」

 

 隣の柚月は案の定呆れ顔だ。まぁハイテク使ってる割にはやる事がやたら()()()()()()し無理もない。ジト目でこちらを見つめる柚月を尻目に恵麻は素っ気なく答えた。

 

 

「仕方ないさ、向こうはそれも仕事だもの」

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM19:56】

〈警視庁より入電。渋谷スクランブル交差点付近にて《ヴェルノム》と思しき不明生物現出との報あり。至急特殊災害対策班に出動を要請、繰り返す――〉

 

 世間がどんなに週末だ、連休だと浮かれていようが警察には関係ない……とはいえ流石にウチみたいな奇特な部署ならその限りでもなく。突如予告もなく気怠い空気の分駐所内に響き渡った無機質な声が場を凍り付かせる。遅めの夕食にありつこうとしていた犬山舜(いぬやましゅん)佐渡廉太郎(さわたりれんたろう)の若い二人は心底不満そうだ。

 

「あ~~もうっ……!俺、ラーメンだぞ伸びちまうだろ」

「なんかいつも俺がいる時に来ませんかこのコール……」

 

 ブツクサ言いながらも二人は脱いでいた制服の上着に袖を通し始める。動作が如何にも鈍く、デスクの上に置かれたラーメンと天津飯に未練タラタラなのが明白だ。

 

「ボケッとすんな、行くぞお前ら!成澤もな」

 

 そんな後輩二人に喝を入れるのは鳶勝(とびまさる)。機動隊上がりの大柄を活かして彼らを威圧しながら、既に臨戦を終えている成澤拓務(ひろむ)拓務の方を振り返り、ニヤリと笑った。言わずもがな、後輩の気を引き締めつつ、逆に張り詰めっ放しのこちらには気負うなよ、と気遣ってくれる察しの良い相棒に感謝しつつ、拓務は部屋を出る準備をした。

 

「特災班、了解。回線は警視庁、並びに渋谷署に固定」

 

 この部屋の主――照原清一郎(てるはらせいいちろう)警視正の応答が行動開始の合図だ。本来なら警備企画課長という肩書にこの部署は酷く不釣り合いに見える――実際他の部署からはそう見られているだろうし――が心なしかその姿は以前より活き活きとしているように見える。

 

「現場の指揮権移譲と装備の調達は深町(ふかまち)女史に任せてあるから。君達は可及的速やかに現着して、撃滅のための作戦立案…。現場指揮は……成澤君に一任する。任せたよ?」

「はっ……」

 

 深町(あの女)が来ているのか……答礼しながら拓務は内心で溜息を吐いた。大方この間の“アリ男”の事件の顛末を聞いてアメリカからトンボ返りする羽目になったのだろう。同情すれば良いのかまた引っ掻き回してくれそうだと嘆息すれば良いのか……微妙な感慨が湧き上がってくる。

 

「それと女史から言伝……《例のアイツ》が出てきた場合は対処はこちらに任せる事、だそうね」

 

 ……やはりそっちが向こうの本命か。通常個体の《ヴェルノム》の処分はこちらに任せて、その隙に十中八九出て来るであろう()()の捕獲を目論む、という訳だ。向こうの事情も承知だがやはり食えない女だな、と思う。

 

「分かりました。鋭意努力いたします……」

 

 正直アイツらにしゃしゃり出てこられるのは気乗りしない事もあって、拓務は敢えて“便利な回答”で応じるとこれ以上は構ってられんとばかりに部屋を後にした。残された照原が「…相変わらずだねぇ」と肩を竦めていたがこの際気にしない事にする。

 

 一同はそのまま地下の車庫に向かった。このエリアは公務用の車輌と署員の私用車でエリアが分かれているが、ソイツが鎮座しているのは公用エリアでもかなり隅の方に、極力人目に付かないように、とでも言うかのように配置してある。

 

 まぁそれも分からないではない。なにせ警察お馴染みの白黒(パンダ)色に塗装されてはいるものの、どう見たってその武骨な車体は場違いとしか形容しようがなく。目敏い者が見ればこれは本来自衛隊で運用されている高機動車をベースにしたメガクルーザーだと分かるだろう。今回やいつぞやのような有事に備えて特災班に特別に支給されているが、如何せんその威圧感から臨場するだけで徒に市民の不安を煽る、と他のセクトからは陰口を叩かれている。

 だがそんな事は拓務にはどうでも良い事だ。むしろ《ヴェルノム》とやり合うならこれでも少々心許ないとさえ感じる。

 

「急げ、敵に関する情報は順次送られてくるし、装備は向こうで受領できる。俺達の役割は……」

「一刻も早く現着する事、だろ?そう急かしなさんなっての……」

 

 運転席に防弾ベストと拳銃という最低限の装備だけを身に着けた鳶が、助手席には拓務が乗り込む。犬山と佐渡は後部座席だ。照原と回線が繋がるのを待たずして、メガクルーザーの巨体が走り出す。

 

 拓務は渋谷署の方に固定された回線を取った。

 

「特災101から渋谷署。現在出動要請を受け、スクランブル交差点に向け走行中。状況はどうなっていますか」

〈こちら渋谷署105。現在スクランブル交差点内にてかい――《ヴェルノム》と交戦中。拳銃はほぼ効果なく、体内より激性の体液を噴射する。既に被害甚大……!〉

 

 向こうから返ってきた声は恐らく現場からのものだろうか…既に悲鳴に近い叫びだ。以前臨海副都心で起きた怪物騒ぎとその後の事件以降、未確認不明生物――コードは《ヴェルノム》――に対する案件は警察が担う事になったが未だにデータの蓄積は不十分で十分に対処出来ているとは言えない。この間のアリ男はかなり弱めの個体だったが、それでも“アイツ”の横槍があってやっと、という有様……とつい余計な事を考えそうになった拓務は首を振って雑念を追い出した。

 

 今優先すべきは目前の怪物だ。そう警察としての使命を以て己を鼓舞させる……が時々やはり拓務自身分からなくなることがある。

 

 俺が追っているのは《ヴェルノム》なのか。

 

 

 それとも……あの“仮面男”の方なのか、と……。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM20:01】

「ドローンユニット全機射出完了。目的地到達まで凡そ300セカンド」

 

 淡々と報告してるけど、言動の端々に微妙にトゲがあるのはまぁいつもの事だ。この少女(柚月)は基本的にいつも機嫌が悪い――フリしてる。こうして出撃の直前は割と。

 

 まぁ無理もないケド。いくらこちらが万全を期していても《ヴェルノム》との戦いはいつだって命懸けだ、戦いに赴く方だって大変だが送り出す方も決して気楽にとはいかない。現に()()()は――いやアタシまでネガティブな事考えるのは良くない。

 

〈サンキュー。さぁて…こちらも行きますかね…〉

「呑気に構えないで。既に警察の方に結構な被害が出てるみたいですからね、難敵ですよ?」

〈わぁってる〉

 

 これから出撃する当人も極めて気楽な調子だが……これも一緒だ。張り詰めた気を悟られないように敢えて強がる柚月と、こういう時は無理して明るく振る舞うアイツは存外似たようなタイプなのかも知れない。そんな事柚月に言ったら顔真っ赤にして否定するに決まってるんだが。

 

「既に交差点周辺はフィンガーアベニュー辺りで封鎖されてて、民間車両の立ち入りは制限されてるみたいです。そこ以外も警察車両がウロチョロしてますから……このまま代々木公園を突っ切って公園通りを強行突破するのが一番早道です」

〈あいよ。俺が出たら《ファントムメナス》は井の頭通に出て、撤退ルートを確保してくれ。多分…俺が出てきたらアイツ等全力で追いかけて来るからな〉

「あら、そうですか。人気者はお辛いですね」

〈そんな人気者は御免だよ……〉

 

 2人がウダウダ言い合ってるうちに《ファントムメナス》後部の扉が開く。普通のウォークスルーバンなら調理スペースや貨物室になってる筈のこのユニットは、しかしてこの特殊車両においては複数の装備を格納する“武器庫”だ。そしてここが展開するという事は、自分達の組織の象徴が出撃する瞬間を意味する。

 

 後部扉が完全に開き切ると今度は地面に接地するようにスロープが伸びて来る。これで出撃準備は完了だ。それに呼応するかのように人通りのない夜闇を穿つように一筋の光が背部ユニットに灯った。《ファントムメナス》内部に収納されたバイクのヘッドライトだ。

 

 恵麻たちの方からは見えないが、それは一見して“普通じゃない”と分かる程に異形のマシンだ。車体全体は鈍く輝く銀色、車体ベースこそよくあるオンロードバイクだが、フロントフォーク両端には小型の機銃が物々しく光り、後部のマフラーは大きく飛び出たものが3対、計6本備わっている。

 

 それに跨る乗り手(ライダー)も普通ではない。暗がりでその姿は判然としないが、ライトの照り返しを受けるそのヘルメットはまるで骨のように白い。

 

 乗り手がハンドルのスロットルを捻るとそれに呼応し、まるで獣が覚醒するかのようにバイクのエンジンが雄叫びを上げる。全ての準備は整った、それを宣言するように隣の席に座る柚月が叫んだ。

 

「進路クリア……《エースワン》、Ready,Steady……」

 

 

〈――Go……!!〉

 

 

 最後の言葉はこの先戦場に赴く戦士が引き継いだ。同時にバイクを固定していた拘束具が解除され、銀色のバイクが漆黒の闇の帳に躍り出る。僅かに灯った街灯に銀色の車体と白い装甲を妖しく煌めかせながら、仮面の戦士が静寂を斬り裂いて駆け抜けた。

 

 代々木公園を北側と南側に分断する公園通りに掛かる歩道橋に強引に乗り上げ、そのまま陸上競技場を横切り、ケヤキ通りを突っ切る。途中カメラを構えた報道陣がこちらの姿を認めるなり、ギョッとした表情を浮かべていたが、まぁ無理もない……が騒ぎになるのは御免だ、とばかりにバイクは更に加速する。

 

 そのまま通りに飛び出したバイクは公園通りをそのまま疾風のような速さで駆け抜けていった。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM20:06】

 渋谷はまさに戦場と化していた。各所から上がった火の手は未だ消火の目処が立たず、巻き込まれケガをした市民の搬送すら未だに出来ていない。動ける市民は手近な建物や地下に避難させ、そこらに停まっていた車やバス、パトカーでバリケードを拵えて、あのバケモノを封じ込めておくので精一杯だ。

 巡査は毒づきたいのを堪えて胸元の無線機に向かって状況を報告した。向こうも相も変わらず、「持ちこたえてくれ」「今特災班が急行中」とそれだけだ。なるべく早く来てくれ……と巡査は胸中に絶叫した。

 

 現在巡査は戦いに巻き込まれてタイヤを破損し、交差点の真ん中で動けなくなって立ち往生しているバスの中にいた。逃げ遅れた市民を救助しようと飛び込んだ良いが、怪物に目を付けられた結果、他の民間人共々このバスの中に籠っているしかなくなってしまったのだ。外では他の警察隊が必死に怪物の足止めをしようとしている。

 

 だがそれにしたってただの時間稼ぎに過ぎない。既に所轄からの応援は来ているが、正直焼け石に水だ。自分達が装備する程度の拳銃では怪物は倒せない。

 

 怪物――いつしか《ヴェルノム》と呼ばれるようになった――がどこから来たのか……誰も詳しい事は知らない。少なくともあの《新宿事変》の日以来、散発的に各所で目撃情報が飛び交うようになり、それから半年ほど前に臨海副都心で起きた事件により一気に世間にその存在を認知されるようになった。

 

 分かっている事は非常に少ない。少なくとも拳銃程度では死なない程に強靭な体を持つという事。体内のどこかに何かしら人を死に至らしめる強力な“毒”を持つ事。そして――ある日突然人が変異するという事。

 

 今回もそうだった。巡査は交差点前の交番に詰めていたからその瞬間をハッキリと見ていた。いつも雑踏の往来が絶えないスクランブル交差点において赤信号になっても道の真ん中に佇んでいる不審な男がいると思ったら、瞬く間にその姿があの怪物へと変わったのだ。

 俄かには信じがたい光景だが思えば臨海副都心の折にも、先日池袋で発生した騒ぎの時も大勢の人間がその瞬間を目撃している。アレが元は人だったモノなのか、それとも人に化けていたモノが正体を現したのか……それは分からない。

 

 なにより確実な事がもうひとつ――ヤツらは人間を襲うという事。しかも喰らうでもなく、さしずめ通り魔のように手当たり次第に。

 

 その行動原理はあまりに本能的で暴力的だ。アレがなんらかの異星体なのか突然変異なのかは分からないが、対話も捕獲も選択肢に入らない。上層部も基本的に出現に際しては“駆除”の命令しか出さない。

 

 だがそれにしたって――この戦力差は理不尽すぎる……!

 

 怪物はこちらの武器を全く受け付けない癖にジェルラミンの盾等は意に介さないレベルの攻撃力を持ち、速さも膂力も全てがこちらを上回っている。マトモに戦ったところで勝てる見込みはゼロに等しい。

 特災とやらはまだかよ……。このままでは自分達は全滅し、怪物もバリケードを突破し、やがてこの場にいる民間人に襲い掛かるだろう。自分が死ぬ事はこの制服に袖を通した時からずっと覚悟してきたが、警察官として市民をむざむざ虐殺される事は耐え難い。

 

 だがそんな彼の願いも虚しく。遂に《ヴェルノム》が自身を足止めしていた全ての警官隊を蹴散らし、フロントガラス目掛けて右腕を振るった。たったそれだけでバスと外界を隔てていた境界が呆気なく破壊され、ガラスが砕ける歪な音が車内に木霊した。

 人々から悲鳴が上がり、怪物はまるでそれすらも呑み下すかのように吠えた。巡査は腰に下げたリボルバーを咄嗟に抜いて、《ヴェルノム》の頭部目掛けて躊躇わずに発砲した。一発二発……六発……放たれた弾は全て怪物の頭部に命中したが、僅かに額の辺りに擦り傷程度の傷を負わせただけで全く効果はなかった。そんな抵抗を嘲うかのように《ヴェルノム》が二対の鋏のような顎を打ち鳴らす。

 

「――助けて……」

 

 不意に後ろから、か細い声が聞こえた。乗客の中にいた幼い少女の声だ。だが既に銃に弾はなく、巡査1人の力では怪物に対抗する手段もない。

 

 こんなところで……巡査は悔しさに歯噛みし、だがそんな心境も斟酌する気もなく。《ヴェルノム》は内部に侵入しようと窓枠に手を掛けた。それが示すものは絶対的な死……。

 

 だが。

 

 何かが怪物の唸り声とも周囲の喧騒とも違う、異音が…微かに聞こえた。最初は乏しかったその音は徐々に、徐々に迫って来る。別の獣の咆哮……?いや、これはバイクのエンジン音だ。

 

 音を聞きつけたのか、《ヴェルノム》が巡査から顔を背け、怪訝そうに視線を転じた――次の瞬間、快音と共に飛び出した影が横合いから怪物に体当たりし、その巨体を吹き飛ばした。

 

「――今のうちだ、みんな逃げて下さい!」

 

 正直ナニが起きたのかは分からないがこれは好機だ、と巡査は判断し、咄嗟に扉の開閉レバーを引くと後方に蹲っていた乗客たちに向かって叫んだ。その言葉を合図にして全員が一斉に乗降口の方から外に飛び出す。全員が無事に降りたのを確認し、巡査も最後に続いていく。

 

「――キシャアァァァァァァァ!!」

 

 だが耳障りな声が後方から聞こえてきたと思ったら立ち上がった怪物が逃げるな、と言わんばかりに叫びながら猶も追い縋って来ている。そう簡単には逃がしてくれないつもりらしい。

 

「――ちょぉっと待ったぁ!!」

 

 転瞬。どこか軽妙な調子の声が聞こえてきたと思ったら、再び先程怪物を吹き飛ばした――銀色のバイク……?が駆け抜けてきた。バイクは前輪を持ち上げた、所謂ウィリー走行の態勢を取ると突進の勢いのまま、《ヴェルノム》の胴体にまた体当たりを掛けた。

 怪物が苦悶の呻き声を漏らしたがそのバイクの乗り手は追撃の手を緩めない。またもウィリーの態勢で突進を仕掛けたと思ったら、後輪を着いたまま車体を回転させ、その勢いのまま怪物を前輪部で殴打した。

 

「お前は……!?」

 

 火の手と街の明かりが乗り手の姿をハッキリと照らし出す。その姿に巡査は絶句した。

 

 炎の照り返しを受けて輝く白いヘルメットと各部に装着された白いプロテクター。それと対を為す漆黒のアンダースーツに腰の辺りに付けられたベルトのような機具の中央は赤い光を発している。ヘルメットは目に当たる部分が髑髏の眼窩のように闇色の複眼が備わっており……その姿はさしずめ死神か屍人か。

 

「《スカルマン》……」

 

 巡査は呟いた。1年半前、新宿に突如出現し、凡そ1年近くに渡って東京中で無差別テロを引き起こし、まるで夢幻の如く消え去ってしまった稀代の犯罪者……!よく見ると額部分には以前はなかった一対の細い角が生えているし、露出していた口元も牙のような形状のマスクに覆われている。細部のフォルムもだいぶ異なるが、だがアイツの他にこんな酔狂な恰好する奴が果たしているだろうか。

 

 池袋の事件の時に姿を現したと聞いてはいたがどうやら本当だったようだ。

 

「貴様なぜ……」

 

「早く逃げな。《ヴェルノム(コイツ)》の相手は俺がする」

 

 巡査が問い質そうとすると眼前の髑髏男はそれを遮って、挙句にそう言ってみせた。巡査は声を詰まらせた。思わずなんの権限があってそんな事を指図されねばならんのか、という反発が頭を擡げたが、よく考えれば自分の後ろには怪物の戦いに巻き込まれた人々がいる。警察官として今最優先ですべきことは彼らを安全な場所に送り届ける事ではないか……僅かな逡巡の後、巡査は市民を先導して走り出した。

 

 これで貸しひとつ、等とは思うなよ……そうしながらも背後の髑髏男に向かって巡査は内心で吐き捨てた。

 間もなく特災班も到着するし、警察隊だって応援はまだいる。そうなれば今日という今日こそその不遜な仮面を剥がして、手錠を掛けてやる……と殉職した幾多もの同僚の顔を思い浮かべながら巡査は戦意を燃やした。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM20:07】

 やれやれ嫌われたモンだよね……。明らかに敵意に近い表情を浮かべて去って行く警官の背中を見ながら――はマスクの中で小さく溜息を吐いた。こちとら《スカルマン》じゃあないし、そう名乗ったつもりも無いんだけどな……。

 でも……まぁ無理もないよ、とは思う。こんな格好明らかに常人がする筈もないし、このスーツ――《エースワン》システムが意図的にあの骸骨仮面にデザインを寄せている所があるのも事実。それに今は《エースワン》以外自分を示す名がないのも確か。

 よってウカウカしてたら犯罪者扱いで警察に追われるのは目に見えてる。間もなく特災――即ち“あの人”が来るであろう事も確実だから、悠長に戦ってる暇はない。

 

「……だからさっさと…片付ける……!!」

 

 そう呟きながら俺は腰に装着されたベルト、《エースドライバーⅡ》の右サイドに備わったグリップをバイクのハンドルのように捻った。

 

〈Medium…Activate…〉

 

 無機質な合成ボイスがそう告げると共に《エースワン》の黒い瞳に真紅の輝きが灯る。それと同時に俺の全身にも沸騰するように熱が駆け抜ける。それは俺の体に強い負荷を掛けるが、同時に常人を遥かに凌駕する力をもたらしてくれる。膂力も速度も反射神経も……俺の全てが一段階跳ね上がるようなそんな感覚。

 勿論このブーストもただで使える訳ではない、()()()()()よりもだいぶマシになったとはいえ、依然としてこれを使う事はなかなかにしんどい。さっさと終わらせたい、と思うのはそう言う事情もあっての事なのだ。

 

 跳ね飛ばされて地面に転がっていた怪物――柚月の分析(アナライズ)によればコードは《カミキリヴェルノム》といった所か――が立ち上がる。ソイツは俺の方を無視して往生際悪く逃げようとする一団を狙っているようだった。赤い複眼をギラギラと煌めいている。いくら《ヴェルノム》は狙った獲物に固執する上に“同類”と戦うのは好まないと言っても二度も吹っ飛ばされて猶も無視とは、しつこいと言うモンだぞ……と俺は毒づいた。

 

「お前の相手はぁ――俺だっつーの!派手にメーワク掛けてんじゃねぇっっ!!」

 

 俺はバイクの座席から立ち上がるとそれを足場にして一気に《カミキリヴェルノム》に文字通り飛び掛かった。こっちを眼中に入れていなかったその迂闊な横顔に拳打を叩き込む。怪物の外骨格がひしゃげたようにひび割れ、ふわりと浮き上がる。俺はその隙を逃さず、拳をハンマーの要領で叩き下ろした。衝撃でアスファルトが抉れ、怪物の頭部が半ば沈み込む。

 そこまでやって漸く《カミキリヴェルノム》はこちらを認識したようだ。怒りに染まった唸り声を上げながら顎を目一杯開き、両の爪と大顎を打ち鳴らしながら俺の方に迫る。俺は左手を《ヴェルノム》の脇腹に叩きこむと即座にベルト右側のグリップを掴み、一気に引き抜いた。

 

〈Medium…Activate…VANISHING SLASH…!〉

 

 するとグリップの先端から溶けた鉄のような赫灼(かくしゃく)色の刃が形成された。剣という程長くはないが、軍用ナイフのような凶悪な刃先は見た目通りの熱量を以て怪物の左胸を容易く貫いた。

 分析ではそこには確かに《ヴェルノム》の心臓とも言うべき、コアがある筈だ。確かにそこを刺し貫いた手応えに俺は勝利を確信した――と思ったが。

 

「ジャアァァァァァァァァァアァァァァッッッ!!」

 

 怪物はあろう事か嘲るような叫び声を上げながら構わず、鉤爪を振り下ろした。俺は寸でのところでそれを回避したが、僅かに胸部プロテクターを掠めて、火花を散らせる。

 嘘だろ…確かにコアを貫いた筈だ……。俺は手元のナイフに目を向けたが、その状態に思わず仮面の奥の目を見開いた。その刀身は焼け爛れたかのようにボロボロに腐食していた。

 

「……マジかよ…」

 

 《エースワン》の標準装備であるこの武器――ヴァニシングエッジの刀身は形状記憶セラミックを主成分とする高分子化合物によって瞬時に形成させる。分子同士の干渉が引き起こす数千度の熱量と超振動によって驚異的な切断力を発揮する「最強の矛」だ。通常兵器はまるで寄せ付けない《ヴェルノム》の皮膚だって容易く切り裂くし、生半可な合金では破壊する事すら叶わない。それが何かの攻撃を受けた訳でもないのにここまで破壊される事などあっただろうか……。

 そんな事を考えてる唐突に首元に搭載された骨伝導スピーカーに通信が割り込んできた。

 

〈ナニやってるんです!?最初に言ったでしょ、アイツの体液は強酸の性質を帯びてるんです、迂闊に触れたらヤケドじゃすみませんよ!〉

 

 《ファントムメナス》の助手席からこちらの状況を分析している筈の柚月の声だ。怒ったような心配しているような呆れているような…とにかくなんか複雑な情動の混ざり合った声。俺は思わず「え、そんな事言ったけ?」と間抜けな返事を返してしまった。

 

〈言 い ま し た ! !〉

 

 耳元――いや厳密には首の骨を通してか――に彼女の怒号が響き渡り、俺は思わず肩を竦めた。確かに出撃前にそんな事念押しされた気がする……《カミキリヴェルノム》の“毒”は体内に流れる血液そのものであり、迂闊に傷をつけるな……とかなんとか。

 

 《ヴェルノム》と呼ばれる怪物は戦う上でかなり厄介だ。元が人間であるという抵抗感もあれば、人体の器用さを受け継ぎ、それでいて超人的な膂力に機動力。痛みや畏れといった生物なら当然持ち合わせる防衛本能を殆ど持ち合わせず、ただひたすらに攻撃と増殖のみを至上命題とする行動原理。《エースワン》の武器と鎧を以てしても命懸けである事に変わりはない。

 

 中でも《ヴェルノム》の最大の特徴たる“毒”は猶更。それがコイツ等の武器にして増殖のための手段だ。奴らの体内で精製される特殊な物質をなんらかの方法で人体に注入する事が《ヴェルノム》の最も優先すべき行動体系らしい。

 “毒”を流し込まれた人間は体がそれに適合しなければ灰のように体が分解され、死亡する。適合すれば遺伝子レベルでの肉体を改造させられ、新たな《ヴェルノム》となり……いずれにせよ人としてはその時点で死を迎える。そうやってこの異形の生命体は己の生息領域を拡大させるのだ。

 “毒”の注入法は様々。種によって針だったり、体毛そのものが微細な分泌器だったり、牙や爪を介してだったりするが……コイツはどうやら体内に抱えてるタイプらしい。

 

「……って事は斬ったりしたらヤバいって事なんじゃねえの!?」

〈だからそう説明したでしょうっ!!〉

 

 俺は思わずマスクを抱えて絶叫。それに柚月が実にノリ良くツッコミを入れてくれる。

 

〈マルチプルナックルを使って下さい、フリーズキャニスターも!〉

 

 あ、コレか。俺はベルト帯の右部に取り付けられた装備を取り出した。メリケンサックを大型化させたような見た目のソレは名前の通り、拳に装着する事でパンチ力を強化・拡張するアイテムだ。普段ならボンバーなりボルトなりの攻撃的なキャニスターユニットを装填させるところだが、今回はそうは行かないと来た。

 

 そのための装備も準備済みという訳か……。俺はあの少女の周到さに舌を巻きながらナックルに新装備のキャニスターを装填した。

 

 そんな事をしている間に痺れを切らしたように《カミキリヴェルノム》がこちらに迫って来た。振り下ろされた鉤爪を最小限の動きで回避し、カウンターの要領で胴体に右拳を叩き込む。

 

 瞬間、打ち付けたナックルから破裂音と共に衝撃波が飛び出し、怪物を再度吹き飛ばした。銃弾を浴びても傷ひとつ受けなかった怪物の外殻には亀甲上の複雑な亀裂が入っている。

 

 これが《エースワン》の拡張装備のひとつ、マルチプルナックルの性能だ。「本体」たるベルト(ドライバー)によって齎された身体能力、身を守る鎧であると同時にそれを適切にアシストする強化スーツ。それにプラスしてより円滑に戦闘をこなすために用意されているのがこうした拡張装備群。このナックルは単純に拳打の威力を上昇させるのみならず、キャニスターと呼ばれる特殊な追加装備を装填する事で爆発や電撃を打撃に付随させる事も出来る。

 

「……成程。それで“フリーズ”って訳か…」

 

 地面に倒れ伏した《カミキリヴェルノム》を眺めながら俺は俺はヒュウ、と口笛を吹かす。硬い奴の外殻には先程のナックルの一撃を受けた事でひしゃげたように円状の亀裂が走っていた。本来ならこの怪物はそこから噴き出した猛毒の体液を以て自分を傷つけた者に対して反撃するのだろうが、生憎な事にその傷口は霜に覆われたように白化しており、それが毒液の漏出を防いでいるようだ。

 

 打撃に氷結効果をプラスする。《ヴェルノム》といえど冷気には弱いから理にかなった装備だし、コイツには効果てきめんなようだ。

 

 《ヴェルノム》が苦し気に呻いた。その様子からどうやらこの個体はフェーズで言うと1.5相当なのだろうという事が分かる。

 

 “毒”を注入されたからといって全ての人間が《ヴェルノム》化する訳ではないのと同じように、変異後もどのような運命が待ち受けているのかは……それはまさしく「神のみぞ知る」領域の話。

 具体的には変異後に完全に人としての理性を喪失し、元に戻る事も出来ずに増殖本能のまま暴れ回るのがフェーズ1。主に適合率の低かった者達の末路だ。殆どゾンビに近い。

 フェーズ2と呼ばれる領域に達すると変身後も人としての知性や判断力を保っていられるし、元の姿とを自在に行き来する事が出来る。

 

 それで恐らくコイツは両者の中間に位置する状態……即ち人としての意識とバケモノの本能がせめぎ合っている状態だ。覚醒し立ての頃はそんな状態に陥るヤツがよくいる。普段は衝動のままに暴れていても、ふとしたショックで人の意識が目覚めたりする、極めて不安定な状態だ。

 

 さてどうしたモンかね……と俺は逡巡した。

 

 フェーズ1ならもう助けようがない。自分が誰なのかも永遠に思い出せず、ただ“毒”を撒き散らすだけの存在だ。一方フェーズ2に至って(正気を保ったまま)こんな街のど真ん中で騒ぎを起こすようなタイプは大抵強い排撃衝動の持ち主だ。説得に応じて止まるようなら苦労はしない。

 だが……アイツがまだかろうじて人としての理性を手放せていないなら……なんとかして救い出せる手立てがまだあるのではないか…?少々荒っぽい方法になるが、気絶させた上で連行する事が出来れば……。

 

 ――否。

 だが結論として頭に浮かんだのはその無情な一文字だけだった。そんな事は出来ない、と。

 

 柚月の事前の分析で分かっていた事だ。コイツは村の生き残りでもないし、この間の奴みたいに《イノセント》の中毒者という訳でもない。自発的に変身した事からもまず間違いなく――使命のためなら命をも(なげう)つ狂信の徒だ。説得には応じないだろう。

 

「――チクショウ…」

〈……?テ――〉

 

 俺は軽く舌を打った。インカムの向こうでそんな気配を察したらしい柚月が何か声を掛けようとしたみたいだが、彼女もその気持ちが分かるのか…敢えて言葉を呑み込んだ。

 

〈気負わないで。命取りになりますよ〉

 

 代わりに一言、そう告げる。傷口にそっと被せるように、痛みを呑み下すように。年下の癖にどうもあの少女には敵わないな……と俺は息を吐いた。ついでにお前が言うなよとかもっと可愛い言い方ないのか、とか軽口のひとつも叩いてみようかと思ったが…後で絶対ぶっ飛ばされるのでやめておく。

 

「――さて……行きますかね…」

 

 俺は改めてマルチプルナックルを握りしめる。《ヴェルノム》は怒り狂ったように遮二無二鉤爪を振り回して、飛び掛かって来た。

 

「遅いよっ!」

 

 だがそんなやけっぱちな攻撃が当たる筈もなく。俺はひらりとその一撃を躱すとガラ空きの背中に蹴りを叩き込んだ。大きくよろめいてたたらを踏む怪物に追加でナックルの一撃を叩き込む。今度は右肩だ。

 

「グギャアァァ……!」

 

 《カミキリヴェルノム》が悲鳴を上げた。先程よりも出力を増大させて打ち込んだ拳打は間違いなく、肩の骨を粉砕した筈だ。いくら《ヴェルノム》の肉体が常人を超越していてもその構造は人間と相違ない、骨を砕けばその部位は動かせなくなるし、眼を潰せば視覚には頼れなくなる。

 無論それだけでは終わらない。肩周辺はナックルから放たれた冷気によって既に凍り付いているが、その面積は徐々に増大し、今は既に上腕の方まで広がっている。その感触に戸惑いを隠せない《カミキリヴェルノム》は、しかし猶も食い下がるようにこちらに向かってくる。

 

 通常《ヴェルノム》の痛覚はかなり鈍磨している、が人の意識を保っていられるフェーズ2の状態だと流石にダメージがどの程度のものか認識出来るらしい。一方で1.5相当では認識は出来ても怪物としての本能が優先され、防御や撤退を選択肢に入れられない……らしい。ある意味人にも純粋な怪物にもなれない憐れで虚しい存在だ。

 だが今の俺にそんな境遇に同情する事はあってもそれを理由に手加減したり見逃す選択肢はない。右手を動かせなくなった事で怪物の動きは明らかに精彩を欠いており、隙だらけだ。俺は敢えて右手側に回り込み、再びベルトのスロットルを捻った。

 

〈High…Activate…〉

 

 更にベルトの中央部が輝きを増し、同時に腕や体の側面部に走ったラインが白熱の光を纏って全身が昂る。俺は漲る力を御しながら怪物の右手に向かって回し蹴りを放った。その渾身の一撃は、骨をも砕く、なんてレベルでは済まず、凍結によって脆くなっていた肩口から二の腕にかけてをあっさりと粉砕した。

 

「ギャアアアアァァァァァァァァッッッ!!!」

 

 《ヴェルノム》が肩口を抑えて悲鳴を上げた。怪物の咆哮というよりかは大分人間らしいその声に一瞬体が竦みそうになったが、ここで手を抜いてコイツを取り逃がす訳にはいかない、俺は全力で心を奮い立たせて、今度は左肩口の辺りに拳を叩き込んだ。そうして左手すらも凍り付かせ、防御手段を完全に奪い取る。

 

 そこから先はもう一方的な流れだった。俺は次から次へと《ヴェルノム》の体に拳を打ち込んでいく。頭部、胴、鳩尾、背中……氷結と衝撃が怪物の動きを鈍らせ、外殻を砕き、左手を吹き飛ばし、着実に武器を奪っていく。怪物の最大の強みである毒が溢れ出す事もない、フリーズナックルから放たれた氷結波が体液すら凍らせ、漏出を妨げているのだ。自分で使っておいてなんだが、とんでもない威力だな、と俺は密かに戦慄した。

 

 流石に分が悪いと判断したのか――要は人としての恐怖心が《ヴェルノム》の本能を上回ったのか――《カミキリヴェルノム》は踵を返して逃げようとしたが、既に氷結による意識低下や筋肉の硬直により、碌に動く事も叶わないようだ。もう決着だな、と判断した俺はベルトに手を伸ばす。

 

〈Ultimate…Activate…。VANISHING END…!〉

 

 最大解放。スロットルを4回捻る事によって《エースワン》の最後のリミッターが解除された状態だ。それを象徴するかのように複眼やエネルギーラインが更に眩く輝くと共に全身のアーマーの隙間から蒸気が噴き出した。更に首元から胸部(コンバーターラング)に掛けて、他にも手足の装甲に赤熱化するかのように赤い光が漏れ出す。

 

「うおぉぉぉぉ……!!」

 

 俺は猛りながらも小さく呻き声を漏らした。当然これ程の出力を解放すれば俺への負担もバカにはならない。現モデルは旧型から改良されて、緩和されてはいるがそれでも気休めレベルだし、万一の事態に備えて20秒で強制解除されるようになっている。まさしく諸刃の剣……俺はナックルをきつく握りしめながら走り出した。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM20:11】

「――なんっ……!?」

 因みにその光景を漸く市民を避難させ、現場に戻ってきた巡査は見ていた。最初は自分の目を疑った。

 

 戻ってきた時にはもう殆ど決着はついたも同然、怪物は両腕も無く、外殻もボロボロになっており、何故か各所は霜が張り付いたようになっていた。不利を悟ったのか《ヴェルノム》は逃走を図ろうとしたようだが、《スカルマン》擬きは逃がすつもりはないとばかりにベルトを操作した。その瞬間ヤツの全身が一際強く輝き出し、周囲の景色が歪む程の熱量が放出され始めたのが見えた。まさか爆発する気じゃあなかろうな……と戦慄したのも束の間。骸骨男は怪物に向かって走りだした。

 

 それが驚くべき光景だった。正しくはその速度……まるで瞬間移動でもしたかのような、到底人という種の力では到達し得ないような……“神速”としか形容出来ない速さ。骸骨男は一瞬で《ヴェルノム》の懐に潜り込むと、凄まじいまでの勢いで右拳を繰り出し、怪物の胸を殴りつけた。

 まさに電撃的な、としか形容出来ないアッパーカット。言葉にすれば至極単純だが、それだけで《ヴェルノム》の巨体がふわりと、まるで木の葉のように吹き飛ぶ様に巡査は我知らず全身を粟立たせた。

 

「……アイツ…以前よりも強くなってる……?」

 

 巡査の知る《スカルマン》は今まで相対した犯罪者の中でも群を抜いて手ごわい相手だった。市内だろうが形振り構わず銃や爆弾を使用してくる点もそうだが、身体能力も相当なモノだった事はよく覚えている。それこそ武器を全て封じた上で特殊部隊をけしかけたとしてもそれらを全て真正面から返り討ちにして突破されるくらいには。

 

 集団制圧においては無敵に近い警察の戦術がまるで通用しない、それほどの隔絶した強さ。

 

 だがあの新しい《スカルマン》のそれは最早人間という種の領域すら超越しているように思えた。そうでなければ俺達が集団で挑んでもまるで歯が立たなかったあの怪物を5分も掛からず制圧してしまえる事などあるだろうか。

 

 あんな奴に勝てるのかよ……。

 

 闇夜の中で煌々と輝くその姿に巡査が抱いた感情は紛れもない恐怖だった。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM20:11】

「……コレで決まり…っと」

 

 アッパーを受けて10メートル近く上空に吹き飛んだ《カミキリヴェルノム》を眺めながら俺は今度は両の足に力を込める。それの意気に応えるように体の両脇を走る2本のラインの輝きは次第に足先に集約されていく。

 そうして力が最大まで“溜まった”と思った瞬間、俺は垂直跳びの要領で一気に地面を蹴りつける。たったそれだけの動作でアスファルトが砕け、地面が陥没する。

 

 跳躍しながら俺はナックルを捨て、ベルトに刺さったバニシングエッジを再度引き抜いた。フリーズはあの厄介な体液の漏出を防ぎつつ、確実にダメージを与えていくための装備。今ヤツの左胸は先程の一撃で大きく抉られ、コアが露出している。そこを確実に破壊すればコイツは完全に沈黙する……!

 こちらと目が合った怪物が最期の抵抗と言わんばかりに口を開いて威嚇の声を発する。が、俺は構わずに灼けた刀身を怪物の左胸に突き刺した。心臓のような器官が一瞬明滅したかと思ったが、すぐにそれは火の消えた炉心の如く、輝きを失い機能停止した。

 

 コアを貫かれた《ヴェルノム》は猶も凍り付いた体をビクンと震わせが、それも一瞬の事。断末魔のような微かな呻き声を上げたかと思うと……その体は徐々に細かい粒子のような灰に分解され、風に流されていきやがて完全に消え去った。

 これが《ヴェルノム》の運命(さだめ)だ……。“毒”に適合し怪物としての偽りの生を得ても、コアを破壊され、二度目の死を迎えればやはり同じように灰となって遺体も遺さず消え去ってしまう。さしずめ塵から生まれた人(アダム)が原初の姿に還っていくかのような……。

 

 果たしてそれは神の救いなのか、はたまた罰なのか……。それは誰にも分からない。

 

「――っといけね……!」

 

 感慨に浸ってる場合じゃあなかった。被害を最小限に抑えるために空中に飛び出したは良いが、元より《エースワン》に空中で自在に態勢を整えたり、もっと言えば空を飛んだりする機能なんぞ備わっていない。つまり今の俺は無防備も良い所、という訳で……。

 

「……ゲッ!?」

 

 そんな事を思いながら下を見た俺は思わず変な声を上げていた。先程まで俺が激闘を繰り広げていた街には既に複数のパトカーが集合し、赤い光を辺り一面に撒き散らしている。おまけにその喧騒の中心にいるのは……警察車両と呼ぶには明らかにゴツ過ぎる装甲車両、と来たもんだ。明らかに“あの人”だ…と俺は背筋が冷えるのを感じた。

 

「行動速すぎるぞケーサツ…!!」

 

 このままじゃあ間違いなく降りて来るところを待ち伏せされて袋叩きに遭うのはめに見えている。強制的に自由落下してその衝撃波で蹴散らすか、とも思ったがそんな事すれば確実に良くて怪我人続出、悪けりゃ死人が出る……。俺としてはなるべく穏当に済ませたい所なので、ここは――。

 

「――逃げるに如かずって事よねぇっ!」

 

 そうなりゃ途端にやる事が増えて来る。俺は溜息を吐きながら左腕に付けた左腕に付けた時計型のデバイスを操作した。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM20:13】

「逃がすなっ!第一隊は上空を狙え、第二隊は落下してきたところを取り押さえるんだ!」

 

 上空の《スカルマン》擬きに向かって特殊部隊の隊長が叫んだ。さぁて今度はどう出る……?と拓務はその様子を眺めながら内心で呟いた。

 

 拓務達が現場に駆け付けた時には既に戦いはあらかた終わっていた。無線によりあの池袋に現れた《スカルマン》擬きが案の定今回も出てきた事は聞いていたが、それにしたって警官隊ですらあれほど手こずった相手をあっさり仕留めてしまう辺り、恐るべし……と思う。

 

 池袋の件といい、ひとまず害悪にしかならない怪物を撃退してくれた事実はある。が、それを理由に明らかに非合法な強力な武器を操り、街中で暴走&乱闘騒ぎを起こし、怪物、即ち元人間を殺傷した。そんなヤツをみすみす見逃す程警察はお人好しではない。

 

「悪く思うなよ……」

 

 新しい《スカルマン》の目的は分からない。だが池袋といい今回といい、少なくともアイツは先代と違って無関係な市民を巻き込んだり、同僚を殺したりはしていない。他にもいろんな理由があって、拓務はアイツは先代とは同一犯ではないと睨んでいる。先代のしでかした事も含めて逮捕という選択肢しか出せないのは些か心苦しいが、これも市民の安寧のためだ。

 

 しかし目的はあくまで逮捕、拘束だ。それが日本警察の良い所であり悪い所だと拓務は思う訳だが……とにかく射殺も已む無し、というのは本当に最後になってから。まずは威嚇射撃により態勢を崩し、着地した所をスタンスティックとシールド、更にネットランチャーまで携えた拘束特化の部隊により速やかに抑える。布陣は完璧だ、とあの部隊長は宣っているが……。

 

 果たしてそう上手く行くかね……。幾度となく煮え湯を飲まされてきた身としてはそう思わざるを得ないのだが……。そう考えた次の瞬間……背後でエンジンのアイドリング音が聞こえた。

 

 振り返ると、先程あの《スカルマン》擬きが現場に来ていた際に乗っていたバイクだった。逃走を阻止するために後輪に輪留めを噛ませて動けなくしておいた筈だ。エンジンの掛け方は不明だったのでそのままにしておかざるを得なかったのだが……何故かそれが今になって突然起動した……?

 

「マズイ、離れろっ!」

 

 拓務が咄嗟にイヤな予感がしてそう叫んだのと、マシンがいきなり後部6基の排気筒から火焔のようなエネルギーを猛烈に噴射し始めた。

 

 その勢いに負けて張り付いていた3名の警察官がマシンから撥ね飛ばされた。マシンはそれを合図にするかのように、自力で態勢を立て直し、なんと金属製の輪留めを破壊してそのまま走り出した。

 

 搭乗者もなしに、だ。信じがたい光景に止める事も忘れて唖然としていた一同だったが、いち早く正気に返った拓務は更にイヤな予感を察知して上空を見上げた。

 

 見ると空中で態勢を立て直したらしい《スカルマン》擬きは走り出したバイクに何やら銃のようなデバイスを向けていた。それは確か池袋に現れた時も使用していたツールだ、何に使うものなのか拓務は知っている。

 

「おい、アイツを止めろ!」

 

 呆然と走り抜けていくバイクを見ていた銃撃部隊に向かって拓務は叫んだ。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【同時刻】

 咄嗟に自分のバイク――《シャドウレイダー》を自動走行(オートクルーズ)モードにしたのは正解だった。バイクは既に警官隊が抑えようとしていたようだがそんなチャチな拘束で動けなくなる程ヤワなマシンではない。《シャドウレイダー》は既に警官隊の一団を突破し、道玄坂通りを文化村通りに向けて走り出していた。

 

 おし、計算通り。ガッツポーズしたいのを堪えながら俺は右腰の方からもう一つのツールを取り出した。一見すると拳銃のようだが厳密には違う。“先代”と違って俺は銃は使わないのがポリシーなんでね。

 

「おい、アイツを止めろ!」

 

 喧騒に湧く地上からそんな声が聞こえた。“あの人”――成澤拓務の声だとすぐに分かった。流石の勘の良さだが、些か遅いと思う。俺はバイクの後部に向けて銃型デバイスを向けるとトリガーを引いた。

 

 それと同時に銃口の部分から先端に鉤状のフックが付いたワイヤーが射出された。名付けてアンカーシューター、強靭なワイヤーを発射して相手を捕縛したり、足場のない所を移動したりする際に使用する《エースワン》の補助装備だ。

 アンカーがしっかりマシンに引っ掛かった事を確認した俺は一気にワイヤーを巻き取る。それに引き寄せられて俺はマシンの方まであっという間に戻る事が出来た。かなり乱暴な手だが他に手がないんだ、仕方ない。

 

「待て!逃げるな……!」

 

 背後で拓務が叫ぶのが聞こえた。それとほぼ同じくして銃撃音が一斉に響き出す。ヤバい、と思った俺は敢えて後ろは見ずにマシンを加速させるとそのままの勢いのまま、文化村通りに一気に雪崩れ込んだ。

 日頃から路肩に停車している事の多い上に、今は案の定怪物騒ぎのせいで乗り棄てられた車が大量に転がっている。ここを縫っていけば早々追ってこれる奴はいない。

 俺は首筋のインカムを起動させた。

 

「もしもし、今どこにいる!?」

〈こちら《ファントムメナス》。現在第一共同ビル向かいの駐車場にいますよ、どうぞ?〉

「了解、放送センターの横で合流しよう」

 

 俺は柚月の返事は待たずに通信を切った。後ろにばかり気を取られていたせいで気が付かなかった、《シャドウレイダー》の進路上140メートル先。H&Mビルの陰から2台のパトカーが飛び出し、道を塞ぐように立ちはだかった。

 

「止まれ!止まらんと撃つぞ!」

 

 車から降りてきた警官達が車両を盾にしつつ、こちらにリボルバーを向ける。それが脅しでもなんでもない事はこの前に否が応でも味わった――というか半年以上前から我が国の警察はとっくに容赦は失くしていると思う。それだけこの仮面が持つ意味は重い。

 

 でも……!俺は構わずバイクのハンドルを握りしめた。こっちにだって譲れないモノくらいある。《ヴェルノム》以外は誰も殺さない、と固く誓ったのは確かだがこんな所で掴まってやる気も毛頭ない。

 

 だからさ、悪いけど――。

 

「力づくで押し通るっ!!」

 

 直後。俺の声に応じるように三機のドローンが《シャドウレイダー》の周囲にいきなり“出現”し、警官達が動揺したのが目に見えた。それもそうだろう、コイツ等は戦闘サポートを目的に普段は特殊な光学迷彩で姿を隠しているから、警官の目線からだと突然マルチコプターが出現したように見える筈だ。警官隊は《エースワン》の方を撃つべきか、ドローンを先に撃ち落すべきかで判断が数瞬遅れた。その隙に三機のマルチコプター――《バグズ》は攻撃態勢に入るべく、彼らに一気に接近していた。

 

 とは言っても別に殺傷能力の高い武器は持たせていない――そんなつもりもないし。三機のドローンは警官隊の上に陣取るとそのまま粘性の高い特殊な煙を発射した。なんだ、毒ガスか!?と警官達の間に動揺が広がったが何のことはない、単なる目眩まし用の煙幕だ。なんの攻撃力もないが、著しく停滞しやすい性質を持つので一時的な足止めには十分だ。

 

 バイクは更に加速し、俺はウィリー走行の態勢で車体を持ち上げた。それと同時に後部の排気筒から一気に内包されたニトロを解放する。結果それまでの比ではない加速力とパワーを得た《シャドウレイダー》がふわりと浮き上がった。これ程の大きさのバイクがバッタのように跳躍したのだ、煙幕の隙間からこちらを捉えた警官が唖然とした顔を向けている。

 俺は仮面の奥の口元をニヤリと曲げるとそのまま緩やかに車体を着地させ、また走り出した。

 

「さらばだぁ明智君!……なんつってな」

 

 やや古い捨て台詞を吐きながら異形の車輌は第二夢通りの方に流れ込んでいった。

 

 その後、各地に検問が敷かれ、異形のフォルムのバイクの捜索が懸命に行われたが結局見つかる事はなかった。唯一《スカルマン》擬きが現場を離脱する直前、不審なウォークスルーバン――どこかの清掃会社のロゴが描かれていた――が井の頭通りの駐車場を出て来る所がカメラに確認されたため、何か関連があるかも知れないとこちらも捜査対象になったようだが、不審な事にこの車もその後どこの監視カメラやLシステムを利用して引っ掛からなかったそうだ。

 

 

 結局今回“も”《スカルマン》達は幽霊か煙の如く消え去ってしまった。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM20:56】

 都内某所。どこかのガレージ。

 

「はぁぁ~~~つっかれたぁ……」

 

 恵麻は《ファントムメナス》からひらりと着地すると大きく伸びをした。それだけで強張った体が適度に解れる気がしてなんだか気持ち良い。

 

「まだ休むには早いですよ。《エースワン》と《ファントムメナス》の修理と整備。回収したデータも分析しないといけないし、ドローンとか装備の方も補充しておかないと。のんびりしてる暇なんてありません」

 

 しかして柚月と来たら淡々とそんな事を宣いだす。いい加減にしなよ、と恵麻は少女の首根っこを後ろからホールドした。

 

「そんなカタい事ばっか言うんじゃあないの、ちっとは街を守った余韻に浸らせなさいっての」

 

 そう言いながら少女の黒い髪をガシガシと撫でると柚月は照れてるんだか鬱陶しがってるんだか微妙な表情をして恵麻から逃れようとする。

 

「やめて下さい。いつまた敵が仕掛けて来るかも分からないんです、私にはそんな事してる時間は――」

「良いじゃない。終わった時くらい休んだって」

 

 不意によく通る澄んだ声がガレージ内に弾んだ。見ると両手にポットとカップをふたつ持った女性がこちらに歩いて来た。ややウェーブの掛かった長い髪、ふっくらした頬に湛えた柔和な笑み……九條梗華(くじょうきょうか)だ。

 

「お疲れ様。少し落ち着いた方が良いよ」

 

 そう言いながら彼女はポットに入った液体をカップに注いで恵麻たちに渡してくれる。ハーブティーかなんかだろう。暑い時期だがひと仕事終えた後だとありがたい……。恵麻は受け取って適度に温いそれを一気に飲み干した。

 

「っぷはぁ~……五臓六腑に沁みるわぁ~~」

「そんなお酒じゃないんだから…」

 

 梗華が可笑しそうに喉を鳴らした。そんな風な表情されると同性のアタシでも思わず見惚れそうになるんだから、相変わらず不思議な雰囲気の人。同い年だよね確か……そんなこっちの心境には気付かず、梗華はパソコンに向き合っている柚月にもカップを渡そうとしていた。

 

「柚月ちゃんも。いつまでも根詰めてないで休める時にはちゃんと休みなさい。ほらお茶でも飲んで気を落ち着かせる!」

 

 梗華は頬を膨らませながら、柚月にお茶の入ったカップを渡そうとし、一方柚月は「いえいえお気遣い結構です……」とかブツクサ言いながらあくまで目の前の仕事に没頭しようとしていた。しかしてバレバレだけど額にしっかり「ハーブティーニガテ!」と大書してあるゾ、と……。

 

 しばしの攻防の末、根負けしたのは柚月の方だった。諦めたようにパソコンを閉じて溜息を吐く。

 

「分かりました、今は休みます……。恵麻もさっさと寝て下さい…」

 

 露骨に()()()()()()()()()()を固辞しながらどこかに立ち去っていく。そんな華奢な背中に梗華が叫んだ。

 

「ちゃんとシャワー浴びたら髪乾かすんだよ。あと寝る前には歯を磨いてね」

「わ た し は 子どもですかっっ!!」

 

 真っ赤になった顔を振り向かせて抗議の声を上げる柚月。そんな彼女の様子を恵麻と梗華は苦笑しながら見送り……結果ますます気を悪くした柚月は憤然とした足取りでガレージを立ち去って行った。

 

「相変わらずマジメちゃんだね……」

「でもだいぶマシにはなったよ。前はもっと気ぃ張って怖かったし」

 

 それはアンタもだろう……。恵麻は思ったけど口には出さなかった。この半年で確かに柚月は少し表情が豊かになった気がするし、梗華もどこかで纏わりついていた哀惜のようなオーラが抜けてきたと思う。結局は時間が全てなのか……。戦いはこれからも続くんだろうけど……出来ればこうして少しばかり平和を噛みしめて、ヒーローごっこに興じたと一息吐くこの瞬間はどうか続いて欲しい……と。アタシは思わずにはいられない。

 

 ふと。梗華が振り返った。

 

「そう言えば。アイツは?」

 

 “アイツ”…ね。梗華の口からそんな言葉が出るとなんだか可笑しい気分になる。でもまぁ確かに彼女がそんなぞんざいは呼び方する相手なんて確かにアイツくらいだろう。

 

「本業に戻った。多分これからクッソ忙しくなる……とか井浦新みたいな喋り方で言ってたよ」

「大変だなぁ仕事持ちは……」

「仕方ないさ、二足の草鞋は高くつくってね…」

 

 そんな勝手な事を言い合いながら梗華達は小さく笑い合った。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM21:02】

「流石にあらかた終わってるかぁ……」

 

 漸く一帯の現場封鎖が解かれたのが21時もとっくに回った頃。それでもあんな騒ぎがあったとあっては流石にこの不夜の街も静かなモノだ。これはコレで貴重な光景かも知れないが生憎とそんな事に興奮する程、真琴は呑気ではない。

 

 真琴が渋谷区近くに着いた時はとかく徹底的な検問が敷かれており、車どころか歩行者や自転車すら立ち往生している有様であった。流れて来る情報によれば怪物は《スカルマン》――厳密には少し前に現れた二世が倒してしまい、警察は決死の網も虚しく逃げられてしまった……とまぁよく聞く話。これに関しては毎度の事ながら《スカルマン》一味が狡猾すぎる、というだけであって警察が無能とは言えないだろう。

 

 特に先日から現れた二代目は直接的な殺生は全くと言って良い程行わず、追手に対しても撹乱や妨害のみに留めるなどかなり徹底している。そんな――有体に言えば――甘いやり方で逃げ果せてるんだから、相当なモノだとは思う。

 

 先代もそうだったけどますますその行動目的が分からなくなっているな…と思う。それはあの怪物の件にしてもそう。

 あれの正体については少なくとも市民には何の情報も出ていない。何を聞いても「現在調査中」の一点張りだ。

 

 そして二代目が現れるのは決まってあの怪物が出現した時だ。そしてテロを起こすでも警官と戦うでもなく怪物を退治したらさっさと消えてしまう。

 世間では「《スカルマン》再来」の見出しにばかり注目しているようだが真琴としてはそこが実に気になる。市民の生活を脅かす怪物を狩る正義のヒーローに転身した?なんてそんなバカげた筋書きではないだろう、怪物と髑髏男の間に何が繋がりがある筈だ、と真琴は確信している。もしかしたらあの二代目が先代の姿を踏襲している事にも何か理由があるのかも知れない。即ち散々世間を騒がせては忽然と消えてしまったあの稀代の犯罪者の足取りにも繋がるかも知れないのだ。

 

 そんな事を考えていた真琴はふと、群衆の中に知っている顔を見つけた。よれよれになったトレンチコート姿にやや猫背気味の姿勢。一見すると風采の上がらない壮年の男、といった雰囲気だがその目は油断なく周囲を探っている。

 

立木(たちぎ)さん」

 

 後ろから声を掛けると男性――立木正尚(まさなお)はやや大仰そうに体を震わせてこちらを振り返る。本当に驚いたのかそれともただの芝居か……どっちでも良いけどなんだか食えない人、って印象がする。成澤も言ってたけどなんかの海外ドラマにこんな刑事がいたわよね、と。

 

「おぉっと……これは偶然…。確かレイニージャーナルの記者さんでしたな?」

「一之瀬です。そちらこそこんな所でなにをやってらっしゃるんですか?」

 

 問題はそこ。この男はこう見えてベテランの刑事なのだ。但し所属は()()()()()()()()()。管轄も違ければ、部署も違う。本来ならこんな場所にいる理由はない筈だ。

 

「あれ?おやっさんじゃない、ナニやってんすか!?」

 

 バツが悪そうに頬を掻く老刑事に真琴が更に話かけようとした直後、些か呑気な声が真琴の背後から聞こえた。振り返ると人の波をなんとか押しのけながらこっちに向かってくる長身の男……成澤哲也が。今の今までどこに行ってたんだか…と真琴は溜息を吐いた。

 

「よぉ、哲也。偶然じゃあねえかこんなトコロで」

 

 これ幸いとばかりに立木は哲也の方に嘘っぽいくらい明るい声を出して寄っていく。哲也は呆れたようなジト目で「いや、グーゼンでこんな所にいないでしょ……」と辛辣なツッコミを入れる。

 

 立木は哲也がかつて浅草でやんちゃしていた時期に世話になったのだという……ウチに就職したのも彼の斡旋。そんな立木という男、非行や家出案件の少年を見つける直感が異様に働くらしく、何かを嗅ぎつけると管轄外だろうがなんだろうが平気で出現するんだとか。

 

「ちょっとな……《イノセント》の売人がこの辺りにも出るようになったらしい。この前の池袋、と来て今回の、だろ?なぁんか胸騒ぎがしてな……」

「あぁ、それで……」

 

 真琴と哲也が揃って頷いた。確かにそれなら生安の立木が気にしているのも分かる。

 

 《イノセント》、というのはその名とは裏腹に今東京の一部地域で、特に若年層を中心に広まっている脱法ドラッグだ。幸福作用が強く、長続きする上に価格も安く、更に依存性も低いとウソみたいな喧伝で客を増やしているらしい。「いつでもやめられる」というお決まりの文句も添えて。

 

 当然警察や麻取がこんなモノ放っておく筈もなく、関係部署が必死で取り締まりや注意喚起に当たっているようだが……如何せん前述の謳い文句の影響で使用に対する罪悪感が乏しかったり、ドロップ型から粉末型、ドリンク型にシガレット型と思いつく限りの形式で売られているようでなかなか断定しづらいようなのだ。

 

 そう言えばこの間池袋で怪物騒ぎがあった際に変異を起こした男、というのはどこかの半グレ組織の一員、おまけに《イノセント》の販売係兼重度の中毒者だったと言われている。

 

 《イノセント》にはただならぬ噂がある。一定量以上を服用した人間はまるで獣になったかのように人が変わり、気性が荒くなり……最終的には怪物に変異してしまう、というモノだ。

 無論本来ならそんなバカな、と一蹴されそうな話だが事実人が怪物に変わっていく様を半年の間で何度か見せられた身としてはそんな事もあるかも、とすら思えて来る。

 

 ゾッとしないわね……と真琴は肩の肌を粟立たせた。一方哲也はスクランブル交差点の方に佇む警官達の方を見て、少しばかり苦い顔をしていた。

 

「どうしたんだよ、カメムシが口に飛び込んだみたいな顔して?」

「どんな喩えっすか……。ちょっとね…」

 

 目立たないように人影に隠れながらある一点を指す哲也。それを見て真琴と立木もなんとなく納得した。黒いサングラスを掛けたキャリア組と思しき女性と話す、神経質そうな面立ち。特災、の文字とロゴがペイントされた防弾ベストを着ている男の顔は知っていた。

 

「アンタのお兄さんが来てる訳ね」

「兄じゃなくて従兄、です……まぁどっちにせよ向こうも俺なんかに会いたくはないでしょ…」

 

 あの人――成澤拓務とは殆ど数えるくらいしか会った事ないがあんまり哲也との仲は良くないらしい。あんまり詳しい事は聞いてないが、それもあって哲也もあまり自分からは会いに行こうとはしない。何やら剣呑な雰囲気で話し合ってる状況は非常に気になるが、私も大概警察関係者には嫌われている自身があるので、強硬取材に行っても追い返されるのが関の山、だろう……。

 

「アンタ、現場の写真とか押さえた?」

「バッチリです。戦いの一部始終しっかり撮影しましたんで」

「ならば良し。ここはひとまず離脱しましょうか」

 

 哲也は胸に下げた一眼レフを自身ありげに構えてサムズアップする。ここはひとつその頑張りに免じて今日の所は引き上げるとしよう。真琴達は立木に挨拶だけして人混みの中を抜けていった。

 

 ……とはいえこの後編集長に報告したりなんだりしなきゃならない、と思うとそれはそれで憂鬱なのだけれど。おんなじことを考えながら二人は苦笑した。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【同時刻】

「じゃあ……《リヒテッド》とハッキリ名乗ったんですね?」

「ええ、力の入った犯行予告状だったわよ。読む?」

「いいえ、どうせウチの悪口ばっかりビッシリ書き連ねてるんでしょう……」

 

 ご明察、とルージュを引いた唇を曲げてマリア・深町・ルーデンスは言った。半年ぶりに会ったというのに相変わらずイヤな女……拓務は嘆息した。

 

 この女はこう見えてCIAの関係者であり、日本の公安にも太いパイプを持っている。ソイツが久々にやってきたという時点でイヤな予感はしていたが……当たって欲しくない事ほどヒットするのは余程日頃の行いが悪いと見られているのか……。《リヒテッド》……もう一度その名を呟く。

 

 2000年代の初頭に都内で爆弾テロを起こした狂気の宗教団体《白零會》。解散命令の後に組織はいくつかの組織に分裂した筈だが……その中で信者数も規模も小さく、公安のマークが甘かったあの組織が宣戦布告してくるとは……。しかも()()()()()を用いて…拓務は未だに混乱から回復しないスクランブル交差点を眺めながらそう思った。

 

 予告状に依れば今回の怪物騒ぎは彼らが引き起こした、らしい。信者の中に自在に怪物の力を引き出せる者がおり、それを都内に解き放ったと書いてあったとの事で。嘘ではないだろう、というのがマリアの見立てで拓務も同感だった。一般には知られてない筈の《ヴェルノム》というコードを奴らは知っており、その“増殖”のためのプロセスすらハッキリと書いてあったそうだ。

 

 要求はひとつ。公安による監視を解除し、宗教法人としての組織を復活させる事のみ。それが認められなければ今後も《ヴェルノム》によるバイオテロを引き起こす、とあった。

 

 日本政府が要求に応じる事はあり得ない。なれば今後も怪物達によるこのような惨劇が繰り返される、という事だ。

 

 《スカルマン》という脅威がいなくなった途端にコレか……。戦いは際限なく広がっていく。なれば自分達警察官も市民を守るためには今以上に強くなって行かねばならない、という事だ。そしてそれは恐らくあの怪物退治の髑髏男も同様に……。

 

 力ばかりが無限に膨れ上がっていく今の状況に、果たして未来はあるだろうか……。それはいずれ闇のようにこの街を、否、この国を呑み込んでしまうのではないかと…拓務は背筋が微かに震えるのを知覚した。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

A.D.2018/08/10/Fri PM21:14】

 存在しない者達が集いし場所。

 夏だというのにこの部屋の空気はいつも張り詰めていて時々凍えそうだ、と感じる事がある。それは対面で(かしず)く男も同様なのか……渋谷スクランブル交差点での一件を――使者として赴いたユウゴは戦死、新たに“覚醒”に至った人間はいない、と――そう報告した男の声はこの距離でも分かるくらいに震えていた。

 

 いや、それは関係ないのか。どちらかというと自分の傍らの座す“御方”への畏れの念なのだろうか…と女――ここではカサネ、と呼ばれている――は思った。

 

「……そうか。ユウゴは死んだのだな…」

 

 傍らの彼が報告を噛みしめるようにゆっくりと呟いた。この静かな声を聞くだけでカサネは辺りの空気がじんわりと暖かくなるような気がするのだが……目前の男はそうは思わないらしい。何故かより一層怯えたように体を震わせ、「も、申し訳ありませんっ!」とみっともなく頭を垂れて蹲う姿勢を取った。

 

「八千様のご期待に沿う事も叶わず、まこと不甲斐ない限りでございます!かくなる上は明後日にも次の使者を――」

「よせ」

 

 男の情けない言い訳の口上を、しかし彼――ここでは尊師・八千餐誡で通っている――が遮った。酷薄ではない、むしろ穏やかでさえあった。

 

「よく戦った者に責を負わすな。ユウゴは教義に殉じ、その魂は《スペリオル》の御許へと還った……ならばそれで良いではないか。静かに冥福を祈ってやれ、徒に後を追う必要もない」

 

 慈悲深い御言葉、とカサネは感じ入るが、男の方はと言えば「有難き御言葉」等と宣ってはいるが感銘を受けているというより単に首の皮が繋がって良かった、程度の感慨しか抱いていないようだ。全くどこの世界にも不信人者はいるものだ、とカサネはうんざりした。

 男は猶もペラペラとよく回る舌でナニカ捲し立てていたが、もう聞く気にもなれない。それは尊師も同じようだった。彼が小さく息を吐いたのをカサネは聞き逃さず、すかさず男に退室するように命じた。男は不服そうだったが、尊師に睨まれている事にそこで漸く気が付くと、まるで尻尾を巻くように退散した。

 

 後にはまた静寂と冷えた空気だけが残る。尊師はこれまで堪えていた分を漏らすように大きく溜息を吐いた。

 

「また“家族”を逝かせちまった……俺が不甲斐ないばかりに…」

 

 座椅子に体を投げ出し、悔恨に呻くその姿は先程の尊師としての振舞いとは乖離しているように見える。だがカサネは知っている、こちらがあくまで本来の彼だ。

 

「差し出がましいですが……やはりやめた方が良いのではないでしょうか?今ならまだ引き返す事だって……」

 

 いくら側付きの立場だからと言っても本来なら尊師の決断に異を唱える等少し前の《リヒテッド》ならあり得ない事だっただろう。それも自分のように縋れるモノを探してここに行きつくしかなかったような人間なら猶更だ。

 

 だが言わずにはいられなかった。八千餐誡などではない、本来の彼を知る者としては。

 

 学があるとは言えないカサネだって国に対して自分達の存在を公的に認めさせることが今更難しい事くらい分かる。確かに公安の目から逃れ、堂々と自分達の立場を誇る事が出来たのなら……そんなに嬉しい事はないだろう。でもだからこそ思ってしまう……そんな事を自分達――この世界から逸れた異形の者達が願って良いのだろうか、と。

 

「……心配するな」

 

 そんなカサネの不安を見透かしたように彼がそうっと頬に優しく触れる。冷たく荒れた掌なのにそうして触れられると心の中にぼんやりと火が灯り、その暖かさが満ちてくるような気がする。その掌にそっと自分のものを重ねる事で、彼にもそれを返せれば良いのに……。

 

「もう二度と誰にも君達を虐げさせない。そんな場所を作ってみせるから……もう少しだけ信じてくれ…」

 

 例え自分のやっている事で地獄に堕ちたとしても……。その目の奥の悲壮な色をカサネは見逃さなかった。目を逸らしてはいけない、それが出来るのはここには自分しかいないから……。その痩せた両頬を自分の掌で包んだ。

 

 尊師……と思わず言いかけて口を噤んだ。自分とこうして二人でいる時は八千餐誡ではない、その役目を背負わせるべきではない……。

 

「分かりました健輔(けんすけ)さま…。カサネは…どこまでも貴方と共にあります」

 

 その額にそっと口づけた。その感触に酔うように、同時に罪悪に震えるように彼――土枝(つちえだ)健輔はそっと眦から涙を溢した。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM21:20】

〈こちら現在渋谷上空の様子です。華の金曜日が突然の惨劇に見舞われました。まだ詳しい情報は上がってきていませんが、どうやら騒ぎの大元である不明生物は無事駆除されたようです。――ここで現場と繋がっております……〉

 

 NPO法人《わんねす。》が所有する仮オフィスのラウンジ。職員もボランティアスタッフも果ては訪れたホームレスの人たちまでニュース映像を固唾を呑んで見守っていた。

 

 さっきからどこの局を回してもテレビはこればかり回している。しかも内容は決まってセンセーショナルな見出しで、不安を煽りつつ、肝心な所はボカしてばかり。いくらなんでも視聴者をなんだと思ってるんだと飯島菜穂(いいじまなほ)は呆れかえる。

 

 本来なら今日、菜穂の働くこのNPO法人に取材が来ることになっていたらしいが、渋谷の方で事件が起きたとかでお流れになった。緊急性を要するなら仕方がない、と思うくらいの分別はあるがこうも中身のないニュースばかり見せつけられると所詮私たちの存在なんてその程度にしか思われていないのか、と八つ当たりもしたくなった。

 

 夏休みを使って菜穂はここにボランティアに来ていた。自分で志望しての事だ。当然父母からは大反対されたが、《スカルマン》も既に出没しなくなって久しい、という事でなんとか許可してもらったと思ったら、先日の池袋。あれ以降携帯は見ていないけど、多分メールや電話が山ほど来てるのだろうな、と思うと申し訳なさが先立つ。とは言えその一件でボランティアの大半が帰ってしまったから自分までいなくなるわけにはいかない、と言い聞かせながらなんとか日々の仕事をこなしている感じだ。

 

 ボランティアの内容は主にホームレスの支援。生活相談とかは専門の人達がやってくれるから菜穂たちの仕事は主に炊き出しや支援物資の配布と管理……まぁそれでも中々にハードだ。志がなければやってはいられない。

 

〈情報によりますと…目撃者は一様に「《スカルマン》を見た」そう語っています。果たして今回の惨劇もまた《スカルマン》の仕業なのでしょうか?その目的は一体なんなのでしょうか……〉

 

 不意に。小さな舌打ちの音が聞こえた。敢えて見なくても分かってる。どうせ志田椎子(しだしいこ)さん、ウチのボランティアスタッフの一人だろう。舌の鳴らし方に独特の癖があるから慣れればそれで分かる。

 

「アレは《スカルマン》なんかじゃないわ……」

 

 吐き捨てるようにそう言うと彼女はどこかに行ってしまった。これ以上ニュース映像など見たくないと言わんばかり。そんな態度もよくある事なので皆今更何も言わない。自分と同じ数少ない残留組だが、どこか何を考えているのか読めない人で、何かに異様に執着しているようにも見える。菜穂は正直ニガテだった。

 

「……すかる…まん…?」

 

 そんな風に思っているとテレビの前に座る背中が虚ろな声を上げた。何かを感じ取ったようにその声は震えていた。

 

「どうしました、ヤマシタさん。何か思い出したんですか?」

 

 ここには職員も支援者も何かと訳ありが多いと思うが、この人はその中でも思いっきり特異だ。ちょうど菜穂がここで働くようになってから見つかった事もあり、よく覚えている。

 

 高齢者の多いホームレスの中にあって彼はかなり若い――恐らく20代前半か半ばくらい。なんでも河川敷で傷を負って倒れていたそうで、おまけに所持品もなく、過去の記憶も全て失っているのだという。それで気が付いたらホームレスの輪の中に混じっていたそうだ。唯一覚えているのは「ヤマシタミキオ」という自分のモノとも知れない名前だけ。

 

 菜穂はテレビを消した。これ以上タメになる話が出て来るとも思えないし、何よりヤマシタは《スカルマン》の名を聞くとまるで何かを思い出すように苦しみ悶えだすのだ。記憶を取り戻せるならそれに越したことはないが、それにしたってもっとゆっくりで良いと思う。

 

 しかしながら時折苦しみの最中にありながらも、その無垢な瞳が何かを感じ取ったように危険に、凶暴に閃くことがある事は……敢えて考えないようにした。

 

 光の消えた画面を名残惜しそうに見つめるその横顔はこの場に似つかわしくない程整っていて……何故だかそこから目を逸らしたくなかったし、それが消えてしまうのはイヤだとも思うのだ。

 

 

☣☣☣☣☣☣☣

 

 

【A.D.2018/08/10/Fri PM21:49】

「だからね、この辺とかよく撮れてると思いません?ここまでクッキリした写真とか絶対他の会社は持ってませんって、つまりウチの独占!」

 

 ヤニ臭い社長室の中。得意げに印刷した写真を見せてはしゃぎまくる哲也に対して部屋の主であるレイニージャーナルの社長、陣内実篤(じんのうちさねあつ)は今宵も不機嫌そうにシケモクをくゆらせている。まぁでもここまで熱弁振るわれて、カミナリを落とさないのはそれなりに出来栄えには満足してるのかも知れない。

 

 実際真琴の目から見ても哲也の撮ってきた《スカルマン》と怪物の戦いを記録した写真はなかなか良い出来栄えだと思う。怪物も髑髏男も少なくともかなり詳細にその姿が分かる。

 

 やがて陣内が仰々しく、憤然と副流煙の混じった鼻息を発射した。どうやら採用、という事らしい。

 

「よ~し、最速でニュースを上げるぞ。見出しはこうだ……『怪奇・ドクロ男、再来!!』『都民は恐怖に眠れぬ一夜』……一之瀬、その線で記事書けっ!」

「…了解です」

「いや、ちょっと待ってくださいよっ!?」

 

 気分がノってきた時の癖でいつの間にか記事の方向性まできめ出している陣内。真琴が気のない返事を返すのと哲也が不服そうに噛みついたのはほぼ同時だった。

 

「それじゃエ……この《スカルマン》が悪者みたいじゃないですか!見て下さいよ、この映像。明らかに警官を庇ってますよ、襲おうとしてるのは怪物の方です!むしろコイツは前のとは違うんだって事をもっと全面的にアp――」

「ええい鬱陶しい!!」

 

 よせば良いのにやたらと暑苦しく意義を唱える新米に業を煮やした陣内は机の上にあったスライム型クッションを顔面目掛けて放り投げた。クッションは見事哲也にクリーンヒットし、同時に跳ね返って投げた張本人にも返ってきた。それで両者暫し沈黙したがなんとか陣内の方が復帰は早かった。頭を抱えながら、呻いてる哲也に向かって怒鳴る。

 

「お前、コイツが正義のヒーローだとでも思ってんのか!考えてもみろ、正しい事をしているなら何故顔を隠す?マスクで己を偽るのは疚しい事があるからだっ!!表面的なトコばかり見てないでもっと裏を見ろ、と言っとるだろうが!だからおま――」

 

 『――えはいつまで経っても半人前なんだ!』とでも続けようとしたのだろう多分。しかして直後けたたましいブザーが社長室内に響き渡り、その音に仰天した陣内はカエルが潰れたような変な声を上げて椅子ごとひっくり返ってしまった。

 

 毎度お馴染みのお叱りブザー。社員用オフィスの方を向くとパーティションの向こうに座った副社長兼奥方が微笑みながら、「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と柔らかく、しかし有無を言わさない口調で告げるのだった。人の事言えるかい、と思ったがこの際突っ込まないでおく。

 

 数十秒後。陣内はヨロヨロ立ち上がると微かな力を振り絞って哲也を睨みつける。

 

「と…とにかく方針は変わらん。メディアが不法な自警団擬き(ヴィジランテ)を持ち上げるなんぞあってはならん事だからな。お前もこんなにクッキリした写真撮ってこれるならドクロ男二世の犯罪の証拠でも見つけて来い」

「ああもぉぉっ!編集長の分からず屋ぁっ……!!」

 

 世にも情けない悲鳴を上げる哲也の事を無視して真琴は社長室を後にした。まだまだ夜は長くなりそうだ。

 

 




イメージED:[Alexandros]‐閃光
https://www.youtube.com/watch?v=xfG6L9I7N8I

という訳で、特別編でした。もうちょっとコンパクトにまとめるつもりだったのにやっぱり無駄に長くなってしまうのでした。

「怪人が出現して、市民を脅かし、それを仮面のヒーローが退治する。」筋書きにすると単純ですが、ただでさえこの限られた尺の中に主要な登場人物を全員出し、アクションも盛り込んで、今後の展望も提示する……なかなか無茶なノルマを自ら課しただけあって、単発の外伝ながらかなり情報量の多い作品に仕上がったと思います。

本編の方ですが、少しばかり執筆ペースを取り戻しつつ、進めております……なるべく早くは復活するつもりですので既に読んでおられる方は読み返してみたり(クソウザ)、今回で興味を持ってくださった方はこれを機に読んで頂けると嬉しいです(クソウザ2)。

Xでもなんでも感想等いただけましたらモチベーションが上がって復活が早まるかもしれません(クソウザ3)。
何はともあれ今後も気長にお付き合いいただけましたら、と思います。それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。