本年も「仮面ライダー:RE」をよろしくお願いいたします。
でもまだ「スカルマン」
「…だからっ…!怪物を見たんだよ、それがその女と男を食ったんだ…!そしたら《スカルマン》が現れて…」
生まれて初めて取り調べと言うものを受ける――実際は取り調べじゃなくて単なる事情徴収らしいが、少なくとも健輔は最初そう思った。少なくとも取調室――と言うのかはよく分からないが、ドラマなんかによく出てくる薄暗い部屋だ――に連れていかれて、強面の若手から「洗いざらい吐かんかいオラァッ!」とか凄まれて、後ろでベテランと思しき老刑事が穏やかに宥めて…みたいな事にはなってない。単に病室であれこれ事情を聴かれているだけだ。え、勿論カツ丼なんかは出ないのは知ってたよ、あれはフィクションの産物だ…。
因みに今目の前にいる刑事は二人とも男で、ここはやはりと言うかベテランと若手の組み合わせ。但し年配の方は妙に派手な顔したスキンヘッドの大男、若い方は眼鏡を掛けた妙にチャラそうな優男のコンビで――こいつらホントに刑事か…?
「怪物ねぇ…じゃあその怪物は一体どんな姿をしていたの?」
「暗くてよく覚えてねえけど…とにかく体の半分女で、もう半分が蜘蛛みたいな、変な形になったバケモノだよ…あんな人間いるわけねぇって…!」
自分が口下手なのは自覚しているが、それにしたってもっと上手い説明は出来ないのだろうか…目の前の刑事は見るからに不審げな顔をしながらメモを取っている。
どうでも良いが、このスキンヘッドなんでオネエっぽい口調なんだろう、おまけに妙に様になってるんだから不思議だ。そんな事が気になるのも今日だけで嫌と言う程この話をしてきて、いい加減ウンザリしてるからだ。
記憶が確かなら昨日の深夜、健輔はたまたま散歩に出た所で突如正体不明の怪物に遭遇し、その後更に《スカルマン》にまで出くわした。危うくそいつらに殺されかけた所を、今度はまたも正体不明の鎧武者とも忍者ともつかない人影が目の前に現れて…とその先で記憶がない。どうやらそこで気を失ったらしい、気が付いたら既に今いる病室に収容されており、この病院の目の前で倒れていた、と医師から説明された。
どうやら仕事場の方は昨日発生した火災と焼け跡から見つかった遺体の調査で完全に封鎖されているらしく、当分は休業せざるを得ないらしい。健輔も軽い脳震盪を起こしてると言われたので一日くらい入院して様子を見るよう言われた。入院する金なんかねぇよ!と抗議したくなったが、珍しく会社が負担すると言ってきた。たぶん警察にあれこれ探られるのを恐れたのだろう。
しかしながら、実際に事件を目撃してるとあっては警察も放っておく事は出来ないのだろう、意識が戻ってからというもの、事件現場で何を見た、何故あの時間あそこにいた、被害者はどんな感じだった、といった感じに任意と言う名目で証言を取らされているという事で今に至る。
ただ言わせて貰うなら健輔は警察は嫌いだ、苦手と言った方がより正確か。高校時代に散々ヤンチャしていた時期にしたってアイツらの大半は自分達をろくでなしだと決めつけて、何かある度に疑りの目を向けてくるのが気に入らなかった。健輔が唯一信頼してたのが度々世話になった生活安全課の立木というロートル刑事だ。そう言えば彼は今どうしてるんだろう…。
とは言いつつも、「怪物に襲われました、そいつが犯人です」なんて証言する奴を信じろなんてのも土台無理な話かも知れない。何しろ健輔自身が未だに信じられないのだから。
でも確かこういう場で嘘を言ったりすると後で偽証罪とかの罪に問われたりするんじゃなかったけか…?と思うからこそなるべく見たまんまを話している訳だ。怪物は《スカルマン》に使役されてたと思うと言う事、奴からは《ガロ》と呼ばれていた事、《スカルマン》の声の感触は若い男に聞こえた事…。本日何度も話した事を一通り伝える。スキンヘッドの男はどこか考え込むような表情で手帳に目をやっていたのに対して眼鏡の若手刑事はどこか疑わし気な目でこちらを睨んでいた。
これってもしかしたら心の片隅で俺があの男女を殺したんじゃないかとか疑ってたりしてな…。しばらく気詰まりな時間は続くらしい。
・・・・・・・・・
「だぁからねぇ、私は反対だったのよあんな訳の分からない公園作るのは!昔は野鳥も時には狸なんかも来たのよあの森には…。大体近頃の若い人は自然を愛するって心が足りないのよ――!」
60代くらいの婦人の話を聞きながら、表向きはウンウンと頷きながらも真琴は内心「ダァメだこりゃ」と即刻このバカげた時間を投げ出したい心境であった。
昨夜の都の杜公園爆破事件の目撃者と語る女性のインタビューを受けて早1時間近く、しょっちゅう脱線したり明らかに偏向した無関係な話題を繰り出しまくる女性の軌道を修正するのは実に神経が擦り切れる。無理矢理話題を誘導して、こちらの望む話を聞き出そうとするのは真琴の主義ではないが、それにしたってこれはもうその域を超えている。
因みに陣内が寄越した
とりあえず女性の証言を要約するとこうだ。昨夜都の杜公園上空で巨大な轟音と共に辺り一面が昼間になったような特大の花火みたいな光があがったそうだ。その数分前には線香花火みたいな赤い光が少し灯ったらしい。その後に公園に火の手が上がり、気が付いたら一気に広がった火事に慌てて避難した所、転んで頭を打ってしまい、不本意ながら1日だけ検査入院する羽目になったらしい――ここまで聞き出すのにかなり苦労したが、それがここまでの経緯。
で、本題はここからで…
「で、その時あなたは《スカルマン》とは違う人影を目撃したんですよね?」
そういう話題だ。女性はもともとウチのWEBニュースの読者だったらしい。この年でよくもまぁこんな場末のモバイルニュースなんか読むよ、と陣内が聞いたら怒り千万で怒鳴り込んできそうな感想を思わないでもなかったが、とにかく避難の最中に妙なモノを目撃したらしい女性はウチに情報を提供してきた訳だ。
「そうなのよ、あれは絶対にあのすかるなんたらじゃないわよ、ありゃ忍者よ絶対!なのに警察ったら私の話なんかまるで信じちゃくれないんだから…!全く近頃の公僕は一体何を考え――」
真琴は溜息を吐いた。その後も何度か女性を宥めすかして、聞き出した話による女性が見たというのはお馴染みの骸骨マスクではなく、人を抱えて家々の屋根を八艘飛びのように飛び回る人影だったという。なんでも細身の鎧のようなものを纏った忍者みたいな人影だったらしい。一応写真も撮ってるらしいが生憎と夜闇に紛れて全く分からない。
「あとね!空を見たら満月の中に途轍もなくでっかい鳥が見えたのよ、あれは間違いなくゼウスが化けた大鷹に違いないわ――」
またも脱線して最早三流怪奇小説みたいな証言をしだす女性の話題を正す気力ももうなく真琴は人前でなければ脱力して椅子にもたれかかりたい衝動に駆られたが、流石にそこは最低限度の理性と記者魂で乗り切った。これじゃあ編集長に怒鳴られる事請け合いね、と嘆息しながら、ようやく女性の話から解放されたのは正午を40分ほど回った所だった。
「今度は忍者みたいなコスプレ男かぁ…模倣犯だと思います?」
とりあえず女性が泊まっていた病室を後にして、カフェ棟に続く廊下の最中。哲也がそう問い掛けてきた。ひたすらボーっとしてたようで要所はちゃんと聞いていたらしい。それに対しては真琴も今の時点では何とも言えず「さあ?」と返すしかなかった。
これまでも《スカルマン》の模倣犯は何度か出現してるがいずれもハロウィンコスプレ用のゴムマスクとか自分でドクロのペイントを施すとか、どちらかと言うと《スカルマン》というアイコンそのものへのフォロワーと言う側面が強かった。正直模倣犯の心理すらいまいち理解出来ないのに何故忍者?と思わないでもない。
もしかしたら模倣犯でもフォロワーでもなく、全く別の思惑があるのかも知れない…それが何なのかはいまいち分からないけど。
「それに…あの事も気になりますね…」
「あの事って?」
珍しく神妙な顔つきで何か考え事をしている風な表情の哲也。ちょっとはいつもの直情っぷりが戻ってきたじゃない、と思いながらそう尋ね返すと彼は口元に手を当て少し考え込んでからふっと口を開いた。
「いや、とんでもなくデカい鳥も見たとか言ってましたよね…あれひょっとしたら巷を騒がす怪物の正体なんじゃ――」
「バカ!」
珍しく思案顔と思ったらそんな事考えてたのか!真琴は持ってた手帳で後輩の頭を思いっきりはたいた。当の本人は頭をさすりながら「何するんですか!」と抗議の声を上げている。
「だって新宿事変の後くらいから変な怪物の目撃談ってあったじゃないですか!今回のだってそれかも――」
「バカバカしい、そんなのいるわけないでしょう!」
「これでも真剣に調べたんですよ、日本最大の鳥はオオワシで、それでも2メートルくらいだって。そんなデカい鳥日本にはいませんよ!」
「分かんないじゃない、ミナミジサイチョウとかペットの外来種が逃げ出した可能性だってあるでしょうが!」
「…ミナミ…?なんすかそれ…」
あっという間に喧々諤々。因みにミナミジサイチョウってのはサバンナに生息してる大型の鳥、確か少し前にペットとして飼育されてた個体が逃げたとかで大騒動になったらしい。
更に因みにな事を言うと怪物と言うのは《スカルマン》が現れてから、度々巷で噂になっている半ば都市伝説染みた話だ。なんでも《スカルマン》には彼の命令に忠実に従う三人のしもべが存在し、暗躍の陰で人を襲い、食らっているという。なんでも正体は蛾人間だとかチュパカブラだとか、真面目に調べても昔よくあったオカルト話に毛が生えたレベルの与太だと判断するより他なかった。バベル二世かっての!
「とにかく!怪物の事は放っときなさい!『謎の家出娘』のがよほどマシだわ…」
「なんでそうやって決めつけるんですか!いつも俺に言ってるでしょ、『先入観を捨てて物事を見ろ』って。怪物事件だって一緒かも知れないでしょ…!」
散々調べまくった挙句にそう判断したのよ!とここが病院である事も忘れて反駁しかけた刹那、「嘘なんか言ってねえよ!」と自分達にも負けず劣らずの大声が廊下に響き、真琴は思わず眉をひそめながら、声のした方を視線を飛ばす。
「俺はやってねぇよ!犯人は蜘蛛みたいなバケモノなんだよ、なんで信じてくれねぇんだよ…!」
「あ~、ハイハイ誰もそんな事言ってないでしょ?」
病室の前だった。部屋の前で入院着の男が二人の背広姿の男に食らいついている。二人の男は片方がスキンヘッドの大柄、もう片方は眼鏡を掛けたチャラ男風だ。なにやら鬱陶しそうに掴みかかる男を振り払おうとしている。どう見ても穏やかな雰囲気じゃないし、第一堅気にも見えない。
関わり合いになるべきかしら、と逡巡していると何を思ったか哲也がパッと飛び出して行って「まぁまぁここは病院ですから」とか言いながら仲裁に入りだした。こういう時の行動はホントに早いんだから、と感心すべきなのか呆れるべきなのか、真琴はホウッと息を吐いた。とは言ってもアイツが入っていったんじゃヤブヘビだわ、とここは気が進まないがこっちも間に入るべきだろうと思って、駆け寄ろうとする。すると不意にスキンヘッドの方がこちらを見咎め、次いで哲也の方にも視線をやると再び真琴の方を指差し、「ああっ!」と大声を上げた。
「アナタ達、レイニーナントカの記者ね!またワテクシ達の邪魔をする気かしら⁉」
…なんでかこっちを知ってるらしい。こんな知り合い居たかしら、てかなんでオネエ口調なのよ…と頭を回していると哲也も哲也で「え…誰…?」と素直すぎるリアクションを溢していた。
「
「野方にこんなオカマいたかな…って警察ぅ⁉」
「何よその反応は!あとオカマいうなぁっ!」
案の定話が更にややこしくなっている。真琴は溜息を吐きながら、気が付いたら掴み合いの言い争いに発展しているスキンヘッドと哲也の間に割って入り、両者を引き離した。因みにスキンヘッドの方は眼鏡の男がなんとか抑えている。
「いい加減にしなさいよこのバカ!」
「ここ病院ですよ!ホラもう帰りましょうって…」
流石に周囲の患者や看護師からの視線が痛いのか、恐縮しきりといった感じでオカマ刑事を連行していくチャラ男風。スキンヘッドは納得いかないのか腕を振り上げながら「覚えてなさいよォッ!」と叫んだ。
「アンタらの名前絶対に忘れないからねぇ、一之瀬真琴!それから…え~と…ナルオカテツロォォォォォォ!!!!」
「成澤哲也だぁぁっ!早速忘れてんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
去って行く二人に負けず劣らずの大声で叫び返す哲也。静かにしなさいバカ!と一括して空手チョップを打ち込んで黙らせたが、居たたまれない事に変わりはない。奇異なモノでも見るような周囲の視線が痛く、早急にこの場を立ち去るべしと理性が告げているが、ふと視線を転じると先程刑事二人に組み付いていた青年が呆然とした表情でこちらを見ていた。その視線は真琴を経て哲也に達すると確信に満ちたように見開かれ、それに気づいて目線を絡ませた哲也の顔もやがて同じ色に染まった。
「哲也って…もしかして…てっちゃんか…⁉」
「ツッチー…?ツッチーか⁉」
驚愕の表情も一瞬、両者の声はすぐに懐かしい者と再会したような喜色を含んだものに変わった。
「え…何?知り合い?」
思いがけずはしゃぐ両者に真琴は困惑の声をあげた。
青年の名は土枝健輔というそうだ。職業は――何と言うか人材派遣会社に籍を置く日雇いの肉体労働者、らしい。今は例の事件のあった都の杜公園の改修作業に住み込みで従事しているようで哲也とは高校時代の同級生だそうだ。長い間会っていなかった上になんか複雑な事情があるらしいが、まあ第三者が立ち入るのは野暮というモノだ。
日焼けした顔立ちに坊主に剃った頭は如何にも外作業従事者といった感じだが、対して荒れた掌や不健康そうに扱けた頬からはあまり健康的な生活は遅れていないらしい、と分かる。
病棟で散々騒ぎまくってしまった事もあってか、あの辺りに居座るのも居心地が悪かった。そういう事もあって今真琴達は病院各階に設置されているラウンジの一角に腰かけていた。哲也が買ってきた缶コーヒーで喉を湿らせながら、どこか所在なさげにオロオロしている青年を見る。
さっさと会社に引き上げるでもなく、こんな所にまだ残ってる理由は外でもない、青年が昨夜の事件の目撃者だと言うからだ。しかも本人の弁によるとかなり奇異な出来事に遭遇したそうで、それを信じてくれない警察に疑われているのではないか、と気が気ではないらしい。
「じゃあ、君は昨夜《スカルマン》を目撃したって事で良いんだよね?」
真琴はICレコーダーを起動しながら、健輔に尋ねる。健輔はどこか自信なさげに「まぁ…それだけじゃねぇって言うか…」と言葉を濁しがちだ。どうやら話しても信じて貰えるかかなり自信がないらしい。真琴はひとまずフッと息を吐くと、健輔の肩をさするようにそっと叩いた。
「大丈夫よ、私は無闇に笑ったり疑ったりはしないから。とりあえず何があったのか話してみて?」
話しにくいならウチの見習いにでも良いけど?と付け足すと健輔はようやくホっとしたように薄っすらとした笑顔を浮かべた。
土枝健輔の主張は大筋でこんな感じだ。公園内で発見された二名は半人半蜘蛛のような姿をした奇妙な怪物によって殺されたのだという事、そいつに襲われそうになった時突然《スカルマン》が現れた事、その後今度は《スカルマン》に殺されそうになった所、それとは別の謎の仮面をつけた人影が現れて、その後意識を失った事、そして気付いたらこの病院の前に倒れていたらしい、という事だった。
「…やっぱ信じられねぇよなぁ…」
以上の証言を照らし合わせた上で口元にペンを当てて、考え事をしていた真琴の表情を見てか、健輔が弱気になったように言った。隣で哲也が真琴さん、と小声で二の腕の辺りを軽く突いた。
「…ツッチーは嘘を吐くような奴じゃないです。確かに奇妙な事件かも知れないけど…」
まぁ不安になるのも無理はない。実際さっきまで真琴自身が「怪物なんている筈ない」と哲也に言い放ってたのだから。というかそこで余計な援護射撃出すから、取材対象が余計不安になるんでしょうが、と思わないでもない。
なので真琴は鬱陶しい後輩の事は「少し黙ってなさい」と強烈なデコピンを食らわせて口を封じ、その上で俯いている健輔に向けて口を開いた。
「…個人的にはもう少し確証が欲しいとは思う…。でも私は貴方の言う事信じるわ。」
その言葉に健輔はハッと顔を上げた。真琴が怪物なんて信じない、と言ってるのは一重にピンボケ写真に曖昧な証言、ブームの時だけ集中的に目撃と相成って後は影も形も現さない、怪しさしかないような報道姿勢のせいだ。頭ごなしに否定はしないし、検証する価値くらいはあると思う事は多々ある。ただこの手のオカルト話というのはどうにも「検証は罪だ」と言わんばかりの似非科学者や妄信主義者ばかりが大半を占めている所がどうにも気に食わない。
実際少し話してみて思ったのは、主観が混じって申し訳ないが、土枝健輔という青年の目は嘘を言ってない正直な目だと感じた、という事だ。そういう所は確かに今隣で額を抑えて悶えている後輩と同じタイプだろう。
「真琴さん…なんかやけに優しいですね…」
「私はいつも優しいわよ!」
ようやく顔を上げたと思ったら失礼な事をほざく哲也の顔面に裏拳を叩き込み、真琴はラウンジのテーブルの上にいくらかのメモ紙を広げた。健輔と顔を痛そうにさする哲也がなんだなんだ、という風情でそれを覗き込んだ。
「さっきのあの女性の証言も纏めてみたのよ、その上で健輔君の証言はあの人の話と矛盾しないわ。」
そう、例のご婦人が言うには昨夜、事件現場から逃走する忍者みたいな人影は人を抱えていたように見えた、と言う。で、あるならば恐らく健輔をこの病院に運んだのがその忍者男である可能性が高い。それに加えて月明かりに浮かぶ巨大な怪物の姿。もし健輔が蜘蛛のようなバケモノに遭遇したのだとすれば、半人半鳥の怪生物とかが今更出てきても驚かない。
その旨を話すと横で哲也が「さっき怪物なんかいない、とか言った癖に…」と何処か不満げにぼやいていた。信用できる証言は信用するだけよ、と屁理屈の多い後輩の鼻頭をノック式ボールペンを弾いて黙らせた。
「それに貴方、《スカルマン》を直接見たんでしょ?だったらどんな些細な事でも良い、何か覚えてる事ない?声とか体格とか…」
もしかしたら警察にもとっくに話してる事かも知れないが、この情報はかなり重大だ。《スカルマン》に直接襲撃された人間、もしくは奴に相対した警察官等は現時点で多くが死亡しており、僅かな生き残りも重傷を負っていたり、はっきりした印象を持ってない、という事がとにかく多いのだ。
でも証言を信じるなら、この土枝健輔という青年は間近で《スカルマン》に遭遇し、あまつさえ声を聞き、生存したのだ。もしかしたら今後《スカルマン》の正体に迫る上で大きな手掛かりになるかも知れない。
「え~と…体格はよく分からないけど、俺より少し大きいくらいかな…。声は…なんかくぐもったような独特の声だった…ボイスチェンジャーかなんか使ってんじゃないかな…でも、たぶん若い男の声だよ…ていうかなんか不思議と知ってる声だなと思ったけど…」
健輔の証言を聞きながら、真琴はさして新しい情報は手に入りづらいか、と僅かに落胆した。健輔が悪いわけではない、やはり《スカルマン》は早々尻尾を掴ませてはくれないらしい。
「他に何か気になった事は…?例えばその例の怪物は《スカルマン》が操ってたって事で良いのよね?」
これも都市伝説的に囁かれてた根も葉もない噂だが、健輔の見た話ではそういう風に見えたらしい。だとするならこれまでただの風聞・ゴシップと見なしてた情報を一部洗い直しする必要が出て来るかも知れない。
「…ですね…俺にはそう見えました…」
しかし健輔の声もあまり確信ありげではない。混乱してたのでよく覚えてないとの事だ。しかし暫し考え込んでいた健輔が途中で急に大事な事を思い出したように顔を上げた。
「――そう言えば!あの髑髏野郎、怪物の事を《ガロ》って呼んでました!そしたら急にあの怪物が大人しくなって――」
《ガロ》?
不可思議な響きに真琴が思わず首を傾げると不意に床に何かが転がるような硬い音がした。
いきなり何よ?と思って音のした脚元を見下ろすとコーヒー缶が床に転がり、中身を溢れさせていた。そこから視線を転ずるとまるで金縛りにあったかのように呆然とした表情を作っている哲也がいた。どうやら彼が落としたらしいと分かるが、心なしか表情が青い。
「ちょっと?どうしたのよアンタ?」
目の前で手を振ってみても微妙に反応が薄い。埒が明かないので軽く頭頂に握った拳を振り下ろした所でようやく正気に返ったらしい。「痛てぇっ!」と大袈裟な声を上げてうずくまる。
「ナニ黄昏てんのよ?大丈夫?」
「大丈夫?と聞くんなら殴らないで下さい!」
頭を抑えながらも抗議の声を上げるその姿はまごう事なきいつもの彼だ。とりあえず叫べるんなら問題ないわね、と思うが今朝会った時と言い、どうにもいつもの彼らしくない。
「今朝からなんか変よ?体調とか大丈夫?」
「…まあちょっと変な事思い出しちゃって…」
頭をさすりながらそう答えるが、なんとなく確かにいつもの精細さに欠ける。いつもなら仕事中にボケッとするな、とか激の一つでも飛ばす所だが、今の哲也を見てるとどうもそんな気分になれない。色々不安になってる健輔も含めて、ここは何か気分転換した方が良いかな、と思った所、キュルルルと小さく腹がなったのを感じた。
時計を見やると今の時刻はとっくに1時を30分回ろうとしている。昼食にしても遅すぎる時間だ。真琴は溜息を吐くと、哲也と健輔の肩をそれぞれ叩き――哲也の方がやや荒っぽい叩き方だったが――提案してみる事にした。
「ねぇ?時間も時間だし…続きはお昼でも食べながらにしない?この際だから奢るわよ?」
微妙に沈んでいた二人の顔に明るさが刺す。特に哲也はともかく健輔の方はその提案にどこか抗いがたいような顔をしていた。まぁ取材対象者に奢って良いのかどうかはよく分からないんだけど、この際別に良いだろう。健輔の生活事情を考えるとあまり食に恵まれているとは思えないし。
そうと決まれば善は急げと先人は言った。確かこの病院の1階には結構立派な食堂が付いていた筈だと思い出し、三人はいそいそとラウンジを後にした。
「流石真琴さん、気前良いですね、ツッチー喜んでますよ?」
「調子に乗るんじゃない、アンタは自腹よ」
とか言いながら自分が一番嬉しそうにしている現金な後輩の胸辺りに肘鉄を食らわせるながら、真琴達は早速エレベーターホールに向かっていった。
キリが良いので今回はここまで。
次回辺りでもう少し話が動くと思いますが、正直会話と説明の多いパートなので話が進んでるようで進んでないような…
も少ししたら結構衝撃的な展開になると思ってます。気長にお付き合いください。