仮面ライダー:RE   作:大荒鷲

34 / 54
今週でCHAPTER-2は終了となります。


CHAPTER-2:『REvengerⅡ』‐⑪

 あかつき村を擁する県への風評被害はかなりのモノでナンバープレート狩りや生産物の締出しすらまだ生温いレベルであり、酷い時には少しでも《黒禍熱》への感染の疑いがあると判断された人間への強烈なバッシングや同県から越してきた人間に対してモノを売るな、公共機関への利用を禁じろ等と要求する中世の村八分さながらの異常事態が各所で勃発した。

 連休が明け、漸く編入や転居の手続きが済み、哲也は正式に叔父夫婦の元で暮らし、こちらの学校に転入する事になった。担任の教師はまだ理解のある人で(いたずら)に哲也の経緯を触れて回るような愚は犯さなかったが全員が全員、そうであった訳ではない。中にはクソな大人もいたもので露骨に哲也を遠ざけ、邪険に扱う者もいたしそれが生徒の中に伝染すれば彼らはそれに乗っかって哲也を排斥した。自分も自分でそんな奴らに媚びへつらうつもりなど毛頭なく、そんな奴らは拳を振り下ろして黙らせてやった。クソ教師は殴られた奴らを庇い、哲也だけを一方的に糾弾した、もうそんな奴とは話し合う気にも理解を求めるのも全てどうでも良くなりやっぱり拳骨で病院送りにしてやった。

 

 何かに変わりたくて、確かな自分が欲しくて覚えた空手の技で人を傷つけた。

 

 そこに達成感はなく虚しさと息苦しさが増していくばかりだった。

 

 その後の人生の事は何度も回想し、その度に考え続けた。やはり俺が間違っていたのだろうか、ならどうすればあの時もっと上手く立ち回れたのだろう。俺がほんの一時耐え忍ぶ事が出来たのならば、異なる道に進む選択肢もあったのだろうか、もしその道を選んでいたのなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…と。

 全ては考えても詮無き事だ、いずれにせよ大元は正体不明の事故に起因するものであり、それの原因や真相が結局村と共に埋もれてしまった事を思えば最早誰が悪かった、何がまずかった等で済む話ではなく、結局仕方のない事だと割り切って全てを後ろに追いやってでも前に進んでいくしかないのだと――そう思っていた。

 

 だが目の前にいる琥月とかいう男は「自分があかつき村事件を引き起こした」、とそう言った。それが哲也の心を千々に搔き乱した。

 

 この男は何を言っている…?村を滅ぼした…?ならあの事件はただの実験中の事故等ではなく、人為的、しかも意図的に引き起こされたものだと言うのか…?いやそれともこいつが事件を隠蔽して、生存者はいないと偽り、村にいた人達の人生を狂わせたという事か…?

 

 目の前の男が何を言っているのか哲也には分からなかった。だが一つだけ確かなのは眼前の老人に対してかつてない程峻烈な怒りを覚えた、という事だけだ。男の瞳に浮かぶ寂寥にどれほどの艱難と辛苦が刻まれているのかは知らない、言っている事自体殆ど理解してない自覚こそあったが、それで冷静になれる程、あの事件は哲也にとって軽いモノではないのだ。

 男が齢にして70代には届いていそうな老人だという事実も忘れて哲也はその小奇麗な和服の首元に左手を伸ばして掴みかかった。同時に右の拳を堅く握りしめ、振りかざす。

 

「儂を殴るか…。ふふ…それも良かろう…その権利が君にはある…」

 

 琥月は畏れるでも怯むでもなく、厳かな声でそう呟いた。まるでそうされる事が当然と受け止めているかのようなその態度に余計に腹が立った。

 こんな風に眉ひとつ動かさず、大勢の人の運命を狂わせておいて、開き直る気か。俺なんて確かにちっぽけな虫けらかも知れないが意地のひとつくらいある、こんな事しても死んだ皆の命には到底足りないがそのお偉そうなツラに一発叩き込んでやる…!

 

 冷たい程の怒りに駆られて老人目掛けて構えた拳はしかし繰り出される前に柔らかい肉の熱に包まれて止められた。「哲也、やめて…!」梗華の必死な声が耳朶を打ち、暖かい掌の熱が急速に怒りを霧散させていく。

 

「…でも…コイツは…!」

「分かってる…。でもまずは話を聞いて…一緒に幹斗を止めてぇ…!」

 

 今にも泣きだしそうな声と共に拳を受け止めた体温が更に熱くなった気がした。その手を振りほどく事など出来る筈もなく、哲也はゆっくりと拳から力を抜いた。それでも行き場のなくなった感情がどうにかなるわけでもなく、気の抜けた身体は依然(おこり)のように震えている。それを察したのか梗華が哲也の首に縋りついて後ろから抱きしめた。そんな哲也達の様子を老人はどこか慈しむような、だが酷く哀し気な目で見ていた。

 

「済まないな…儂のしでかした事で結果的に君達の運命を狂わせてしまった…。その上でこんな事を頼むのも甚だおこがましいが…どうか力を貸してはくれんかの…」

 

 その声には確かな悔恨と根深い絶望を纏って、湿った響きと共に胸に刺さった。行き場を失くした怒りを今更どうにか処理できる筈もなく、哲也は半ば自棄になって琥月を睨みつけながら「何をすれば良いんだよ…」そう呟いた。

 

「あ奴は今儂を殺すという妄執に取り憑かれておる。そのためならどんな犠牲も厭わない程にな…。それでも…アレにせめてもの理性が…人らしい心が残っておるなら…儂はそこに賭けてみたい」

 

 そう信じたからこそこの二人をここに招き入れた。琥月はそう告げると梗華と柚月の方を一瞥した。梗華は気まずそうに目を伏せ、柚月は相変わらずの剣呑な目つきで琥月と目を合わせようとせず、明後日の方を向いている。哲也はどういう事だ?と梗華に問い掛けた。

 梗華はやや息苦しそうに唇を噛みながらゆっくりと口を開いた。

 

「…あの後、私達はずっと村に閉じ込められてた…何年も何年も…。そんな時間ばっかりが過ぎて…ある時私達はもう全員廃棄処分されそうになった…。もう研究の価値無しだって…」

 

 なんだそれは…!?あかつき村は患者の治療のために封鎖されたのではなかったのか…?なのに梗華の言葉からはそんな響きは欠片も感じ取れなかった。あの封鎖が医療目的でなかったのだとしたら…それでは初めっから助ける気などなかったかのようではないか…。

 あまりに衝撃的過ぎる言葉が脳髄を震わせた。何を言っているんだ…と声を出そうとしても喉がカラカラに乾いて殆ど吐き出される事すらなかった。廃棄処分…?研究の価値…?そんなモノに使うような言葉を人が人に向けて言ったと言うのか…。

 

「そんな時《ラスプーチン》とか名乗る人達が現れて私達を買い取るとか言った。あの人は幹斗に琥月さんが村を滅ぼして、お父さんを殺した、日本中が私達を見捨てたんだってそう教えたわ…。それで幹斗は全部に復讐するってそう言って《スカルマン》になった…」

「それがアイツが戦う理由か…?」

 

 二日前幹斗と再会した時にアイツが言った言葉を思い出す。父親は殺され、村は半ば見捨てられるような形で封鎖された事、アイツはそれに対する怒りと憎悪をぶちまけた。柚月はそれをバカな事だと言って諫めたが幹斗はそれを受け流してこの老人への警告とも取れる言葉を残して去って行った。

 その時の事を思い出したのか柚月が漸く口を開いた。

 

「わたしは兄さんを止めたかった…こんなバカな事はやめて欲しいって…。でもわたし達は兄さんへの人質として自由に動けなくて…。10ヵ月前に漸く隙をついて脱出出来たんです。…そこで琥月(この人)に保護された…」

「私も少し前にやっと脱出して柚月ちゃんに合流できた…。逃げる時…(さとし)おじさんが助けてくれたの…」

「……ッッ!親父が…!?」

 

 その言葉に今度こそ哲也は頭を思いっきりぶん殴られたような衝撃を覚えた。成澤慧――親父が…生きてる…?その言葉に耳を疑うと同時に何故そこに思い至らなかったのか、という己の迂闊さを呪った。幹斗や柚月だって生きていたのだ、親父が死んでなかったとしても何ら不思議ではない筈ではないか…。

 それと同時に幹斗を《スカルマン》に仕立て上げた《ラスプーチン》とかいう奴は何者でそもそも琥月は何故梗華達をいち早く保護する事が出来たのか…という疑問が頭を擡げてきた。この老人もそうだがあかつき村事件に関わっている奴らも只者ではないのではないか。

 

「なら…親父達は一体どこにいるんだ…?っていうかその《ラスプーチン》とかいうのはどこの何者なんだよ…!」

「…個人の名ではないよ…勿論正規の名でもないし、会員名簿もなければ決まった名も存在しない。ただ儂ら(神樂)に成り代わろうとしているだけの…古い時代を継ぐ事しか知らない愚か者の集いじゃよ…」

 

 《ラスプーチン》?《カグラ》?立て続けに意味の分からない言葉が飛び交い、哲也は一瞬呆けたがその口ぶりから要するに何らかの組織なのか、という結論に至った。そして二つの組織は抗争状態にあり、互いの動向を探り合っている…とそう言う事だろうか。というかそこまで考えて《神樂》という言葉には聞き覚えがあった事を思い出した。

 

「《神樂》…って…あんなモン都市伝説だろ…?」

 

 そうだった、前にネット上に存在する陰謀論の類の取材を行った時にそんな言葉を聞いた気がする。現代の陰謀論、都市伝説においてはマイナーな部類ながら“闇の政府(ディープステート)”だとか“世界征服を目論む悪の秘密結社(ショッカー)”だとか果ては“黒い幽霊団(ブラックゴースト)”だとかの王道なモノとよく似た存在だったと思う。要するに『この世を裏から牛耳る秘密結社』の類という奴だ。ただこれらと比べると噂の存在が割と昔から存在し、尚且つ日本のみで囁かれている、という点が印象に残ったのは確かだが、この手のネタに例に漏れず荒唐無稽が過ぎるのもあって今の今まで忘れていたのだ。

 

 それがこの目の前の琥月劉生とかいう男だというのか…?

 

「ふふ…都市伝説か…言い得て妙じゃな…いやむしろ影というべきか…。光の裏には必ず影が存在しているように…儂らの存在もそうして許容されてきた、という訳だよ…」

「意味が分かんねぇぞ…」

 

 確かに眼前のこの老人が裏社会の首領だと言われたら信じてしまいそうになるくらいの雰囲気は宿している。だがだからと言って今時そんなモンが存在します、等と言われてはいそうですかと易々と信じる程こっちだって単純ではない。挙句の果てにその後釜を狙う同じような存在と来られれば最早往年のヤクザ映画の世界で信じ切れる内容ではない。実は意外と矍鑠(かくしゃく)として見えるこの老人も実は過度な認知バイアスでも抱えてるだけなんじゃないかと失礼千万な事を思い始めた。

 そんな事を思っていたらこちらの思考を読んだかのように柚月が口を開いた。

 

「信じられないかもだけど本当の事です…。ついでに言えばイカレてもいないですよ、この人もわたし達も…」

「最もそれが正常な反応だとは思うがの…。だがどうか今は信じて欲しい…あ奴を止めるためには…今はこう言うより他はない…」

 

 依然として老人に対する疑念が晴れた訳ではなく、むしろそのままだったがひとまず余計な矛は収めるべきと思った。ひとまずこの老人も真剣に幹斗の事を憂えばこそこう言っているのだと、それだけは確かなようだという事は実感できたからだ。

 そう思い至った瞬間、哲也は琥月とかいう老人が何をしようとしているのか確信が持てた。先程柚月は自分達を幹斗に対する人質だと言い、同時に親父達も密かに生き残っているらしい。そうなると導き出される答えは一つだ。

 

「…つまり…俺達で村の皆を助ければ良い…。そういう事だな…?」

 

 柚月と梗華はずっと村にいたと言った。逃がしてくれたのは親父だとも。だとするならまだ他にも生き残っている村民達がいるという事だ。彼らが《スカルマン》として活動する幹斗への人質になっているならこっちで助けに行けば良い。確証はないがそれで多少なりともアイツが冷静になる可能性に掛けるしかないという事か。

 柚月がハッキリと頷いた。子どもの頃はどちらかというと内向的で意思表示に乏しい娘だという印象だったが今の表情は大きく違う。確かな決意と使命感を得た人間の顔だ。確かにコイツも変わったんだなと思い、哲也は琥月の方に向き直り、「やるよ、やってやる」そう宣言した。

 

 正直この男の事をハッキリと信用した訳ではないし、まだあかつき村事件の真相の全てを聞いてもいない。胡散臭いかと言われればかなり胡散臭い相手だが今は親父や他の皆の安否が最優先だ、と己に言い聞かせる。なら相手がなんだって契約してやるさ…!

 

 琥月もそんな哲也の心境を感じ取ったようだ。今はそれで良い、と満足げに微笑むと部屋に備え付けられてるモニターを開いた。映ったのはちょうど夕方の時間帯のニュースでそこで改めてもうとっくにそんな時間だったのかという事を遅まきながら実感した。だがその画面に映された映像に哲也はまたも絶句した。

 どうやら動画投稿サイトに配信された映像をニュースで流しているらしい。妙に映像が粗く、船の上で撮影してるからかやたらと揺らめいている映像の主はなんと幹斗だった。《スカルマン》としての姿でも警察隊と闘っていた時のバッタ怪人の姿でもない。正真正銘自分の良く知る山城幹斗としての姿がそこに映っていた。

 映像の中で幹斗はあかつき村事件は終わっていない、その当事者たる自分達はこうして帰ってきたと告げた。合間に《ヴェルノム》とかいう謎の言葉を挟んでいたが、その内容は概ね世間に対する宣戦布告のそれだ。

 

『宣告してやる。《スカルマン》最後の大舞台だ、3日後始まりの地でもう一度花火を上げる。止められるものなら――止めてみな…!以上、配信終わりっ!』

 

 言いたいだけ言い放つとそこで映像は暗転した。そこでニュースはスタジオの風景に移り、アナウンサーや専門家と思しき人間のコメントに切り替わった。何やら小難しい事を喧々諤々しているが直前のインパクトが激しすぎて内容は全く頭に入ってこなかった。その様子を見ながら琥月が深々と溜息を吐く。梗華もどこか悲しそうに顔を伏せ、柚月は憤怒とも焦燥ともつかない生硬い瞳を画面に注いでいた。

 

「ご覧の通りじゃ、あまり猶予はない…急がねばな…」

 

 暫し重たい沈黙が流れた部屋の空気を切り裂くように琥月はそう言った。哲也は少女達の顔をそれぞれ一度ずつ一瞥すると再びスタジオのモニターに大写しになった幹斗を睨みつけた。以前病院で殴り掛かった時のような峻烈な怒りは不思議と湧いてこなかった。代わりに感じた感覚はどこか挑発的な笑みを浮かべた口角は悔しい事にやはり自分の知る幹斗という少年そのものだ、という事だった。

 どこか斜に構えたモノの見方をして世間を達観して捉えている、人と関わる事が割と苦手で、でも人と関わらずにはいられない。どこまでも不器用で面倒臭く出来ているが自分の知る山城幹斗だ。あの時敢えて最初の拳を甘んじて受け、今はこうして自分が不利になると分かっていても世間全てに宣告しようとする。その真意を自分は何となく理解できるのだ。

 

 俺を止めに来いよ、テツヤ、ユヅキ…!その瞳はハッキリとそう告げていた。

 

「……上等だ…。ナニする気か知らねえけど…これ以上お前に罪は重ねさせねぇよっ…!」

 

 親父も皆も俺達が救う。アイツの後ろにいる()()()()()()いう奴らも出てくるようならぶっ潰す。全部片づけたら梗華と柚月の前に引きずり出してキッチリ詫び入れさせてやる。確かに俺だって真っ当な人生歩んできた人間じゃない、幼馴染のよしみを含んでいてもお前の気持ちだって多少なりとも理解出来ると思ってる。だから正義とか平和のためとかそんな偉そうな大義名分は掲げない、親友がバカな事をしたら全力で止める、これ以上柚月や梗華を悲しませない…それだけの事だ。

 

だから――

 

「――お前こそ待ってろよ、大バカ野郎…!」

 

 血が滲むくらい握り込んだ掌の痛みが逆に冷静さを呼び起こしてくれる気がして哲也はそう低く呟いた。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

〈前々から要望されていた(スカルマン)用の新装備だ。より正確には君達(ヴェルノム)の潜在能力をより発揮しやすくするためのモノだがね…〉

 

 男――《ラスプーチン》がカートに取り付けられたモニター越しにそう言った。直にこちらと対面している男は特に何も感じた風もなく、淡々と運んできたスーツケースをデスクの上に置いた。

 

 剣呑なやり取りから一晩明けてみればこうして計画に必要な装備を手下(信者)を通じて届けてくれる。利害さえ一致するならばどこまでもこちらの希望を通してはくれるという点においてはコイツはスポンサーとしては100点だよな、と幹斗は思った。最も相手は自分達を首輪で以て飼い慣らす実験動物としか見ておらず、俺も俺の目的のためにコイツを利用しているだけ。そういう意味ではパートナーには決してなり得ない関係だ。

 だが今はそんな事をいくら考えても詮無い事だ、とそれ以上の思考は打ち切り、幹斗は恭しく差し出されたスーツケースを受け取ると中身を検めた。案の定中に入っていたのは綺麗に折り畳まれた革製のスーツに各種プロテクター――山城幹斗を《スカルマン》たらしめる装備群だ。だがこれまで使ってきたモノとは細部のデザインが変更されており、そういう意味ではお色直し用の新装備と言って良い。

 

 別に一昨日まで使っていたモノが壊れたから新調した訳ではない。以前から幹斗の《バッタヴェルノム》としての特性をより活かしやすい装備の開発が進められており、たまたまそれがロールアウトしたのが今のタイミングだっただけの事だ。

 幹斗は一新されたスーツを取り出してしげしげと眺める。プロテクターもより軽量化と頑丈さを両立させるべく洗練されたフォルムに変わっているし、《スカルマン》の象徴たる骸骨のマスクも一層禍々しい姿になっている。だがそれ以上に特徴的なのは新たに追加されたベルト状のユニットだ。以前も腰に装備帯は付けていたがあれとは明らかに異なるものだ。

 

 色はメタリックな黒色、両脇にはダイアルのような機構も取り付けられた事で従来品より大型化したそれのバックル中央部分には円形状のユニットが設けられているが、今はシャッターで覆われている。より小型にされ、シンプルな形状をしているが、どことなくアイツ――《エースゼロ》のモノに似ている、そう思った。

 

〈“活性因子強制増幅機構《ヴェノムドライバー》”だ…。君の《ヴェルノム》としての能力を120%発揮させる事が出来る筈だ…試してみるかね…?〉

 

 試してみる、というのは要するにガロ同様に完全に怪物化した村の誰かを当て馬にして検証するという事だろう。分かってて言う男の挑発を幹斗は「いらん」とだけ素っ気なく返した。

 

「性能はアテにしているよ、ポンコツ品を掴ませても損するのはそっちだからな…。それよりも例のアイツの件は…?」

〈つれないな、良いプレゼンの機会だと言うのに…。まぁ良いだろう、今データを送る〉

 

 男がそう言うと共に幹斗の端末にファイルが送られてきた。何かの設計データとそれに纏わる基礎理論らしい、と幹斗はそれに目を通す。だが皆まで読み進める間でもなくそれがお目当てのモノである事はハッキリと分かった。

 

 全身を纏うように配置された金属のプロテクターに特徴的な十字型のバイザー。ベルト状のユニットこそなかったがそこに映されていた設計データは明らかにあの《エースゼロ》に酷似していたのだ。

 

 この数日で二度も対峙したアレの出自が気になった事もあって男に調査を任せていたのだ。借りを作るようで真に腹立たしいがそういう捜査関係の事は公的には死人の時分では限界がある、コイツに任せた方が色々と確実だ。

 

〈とうに廃れたものだからね、私も失念していた。…まさかGユニット…幻の拡張兵士構想の遺物がこんな所でお目見えとは…正直驚いたよ〉

 

 Gユニット…平成の初め頃に局地戦における「最強の兵士」として自衛隊での運用が検討されたパワードスーツだ。だが制御系統のAIの稚拙さ、駆動源となるバッテリー等の諸問題が解決しなかった挙句にもっと上の方で降りかかってきた横槍によって敢え無く頓挫したらしい。結局一度も日の目を見る事無く、凍結された、レポートにはそう纏められていた。

 

「だがアイツはもっと高性能だったぜ?20年以上前の骨董品ってレベルじゃない」

 

 確かにGユニットは常人の何倍ものマンパワーを装着者に与え、全身を覆うその鎧は優れた耐弾性能を発揮した。民間への転用を前提としないだけあって、だいぶ前のパワードスーツとしては現行品以上の性能があったと言えるが、それにしたって《ヴェルノム》に対抗出来る程のレベルではないだろう。それはレポート上に記されたの性能諸元からもしっかりと窺える。

 Gユニットの最大の難点は稼働時間の短さにあった。背部にバッテリーが備えられており、こちらも当時としてはかなりの出力と容量を持つ最新技術だったのだが、それを以てしても通常稼働で1時間が限度、全力での戦闘オペレーティングは10分に満たない、という限界があったのだ。技術者はこれから改良していけば良い、と息巻いていたようだがバッテリーの性能を上げようとすると必然的に大型化、重量化し運動性の低下を招く。それを回避するためにはより高出力の動力源が必要になり…と際限なく発生するスパイラルを振り払う事は出来なかったようだ。つまり本来のGユニットの性能では《ヴェルノム》には到底及ばない上にまともに稼働する事すら敵わない筈。技術進歩にしても明らかにオーバースペックだ。

 

 という事はつまり…。

 

 それらの諸問題を一気に解決するモノがあるのだとしたら…。たった一つあるのだ、幹斗にはそれの心当たりが。

 

〈つまり…奴も例の力の片割れ…即ち“天の石”を持っている…そういう事さ〉

 

 やはりな。男の言葉に幹斗はニヤリとした。そうでなければあの尋常でないパワーは説明がつかない。つまりある意味ではアイツも俺達(ヴェルノム)のご同類って訳だ。

 

〈恐らくあの腰についているベルトが力の源だろう。どうあれ技術の行きつく先は結局同じ…それが対となる二つの石が齎すものだとすればいっそ粋と言っても良いくらいだ〉

 

 面白い事でも言っているつもりなのだろう、愉快そうに笑う男を冷めた思いで見ながら、一方で幹斗もまた軽い興奮を覚えていた。これで奴らが――《神樂》の連中が“天の石”を持っている事に確信が持てたからだ。自分達の人生を狂わせ、今もなお命を狙う奴らの元にそれがあるという事には運命的なモノを感じずにはいられない。なんにせよそれを仇を打った上で奪い取るというオマケが増えたのは喜ばしい事ではないか、いや“天の石”と自分達の持つ“地の石”――その両方を手中に収めるという事はある意味ではもっと重要な事柄かも知れない。

 

 初めて己の進んでいる道に未来が見えた気がした。しかしながらそこにはどうしたって自分の居場所はないのだろう、それだけは確かに分かった。

 

 光明が見え始めても頭に浮かんでくるのは、アイツの先には必ず《神樂》の根源がいるという事。恐らくまた騒ぎを起こせば必ず現れる筈、そうなったら今度こそ徹底的に叩きのめした上で俺達が味わった以上の絶望と恐怖をその身に刻み込んでやろうじゃあないか…という昏くて冷たい復讐心と戦いへの渇望、それだけだったからだ。

 衝動のまま幹斗は新しいスーツとマスクを纏う。最後に腰に付けたヴェノムドライバーを起動させると一気に全身に熱のような強烈な拍動が駆け抜けていき、激しい闘争心と破壊衝動が脳を支配する。その瞬間山城幹斗という存在が曖昧になり、《スカルマン》としてのもう一人の自分が出現するのだ。幹斗はそれを「変身」と呼んだ。この不条理には似合いの言葉だ。

 

 その時だけ確かに己の空虚さが埋まる気がするのだ。戦い、命のやり取りをすれば自分がまだ生きてると実感できる。復讐に身をやつせば己が身にまだ存在価値があるように思える。そうすれば()()()()()()()()()()()()()父が認めてくれるかも知れない。そういう子どもじみた欲求。過去に縋るばかりで最早帰る場所も失くし、愛する者達を失望させた半端者に元より未来など用意されている筈もない。

 

〈やはり君にはその姿が似合うな。いずれにせよ次の働きには期待させてもらうよ…その末に君の本懐が果たされん事もね…?〉

 

 薄ら寒い男の発言を無視して幹斗は通信を切った。後に残されたのは底冷えするような部屋の昏さと何も映さないディスプレイに投影された《スカルマン》としての自分の姿。ぼんやりと浮かぶその姿はさながら幽鬼のようで無機質な髑髏の仮面と併せていよいよ己の正体を呑み込んでいくかのように思えた。

 

 果たして俺は全てを遂げた先に何を見るのだろう。全ては茫漠とした膜の中にあって何の答えも見えては来なかった。

 




という訳で長かったCHAPTER-2もこれで終了です。次回からは新章になりますがここまでくるととりあえず《スカルマン》編も折り返しになると思います。

なるべく早めに投稿ペースを保てるように努力しますので、引き続き楽しんで頂けたなら幸いです。

…ていうか仮面ライダーのタイトルつけてる癖に出て来ないわ、スカルマンも最後にしか登場しないわ、怪人(つーか怪獣)ばっかりだわでこの作品はマジでナニ目指してるんだと自分でも思います。でもこれがRE流なので。

それでは新章でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。