《スカルマン》と謎の怪物《ヴェルノム》の戦いに巻き込まれて傷を負った哲也は琥月劉生と名乗る老人の邸宅にて目を覚ます。そこで彼を出迎えたのは同じように死んだと思われていた幼馴染の少女、九條梗華。そして幹斗の妹・山城柚月であった。
同時に琥月は自らを一連の事件の元凶だと白状する。
一方幹斗は臨海副都心にて遂に《ヴェルノム》の存在と自らの正体を警察隊及び世間に向けて暴露し、宣戦布告を仕掛けるのだった。
改めてあかつき村事件の真相を知った哲也は幹斗の暴走を止めるべく、未だ晴れぬ疑惑を抱えながらもどこかに囚われている村の生き残りを開放するために今は琥月を手を組む事を決めたのだった。
タイムリミットは残り三日――。
親父――成澤慧の印象は子ども心に自由闊達とか豪放磊落とかそんな印象だった。とにかく人好きのする豪快な笑みを浮かべていつの間にか人の輪の中に踏み込んでお祭り騒ぎに興じているようなそういう人。色んな職に就くも、どれも合わないと言ってはすぐに辞め、散々日本中を放浪した挙句に旅先で出会った母さんと駆け落ち同然にあかつき村に移住した、なんて漫画みたいな経歴からもそれは明らかだ。だのに元来閉鎖的な村というコミュニティにおいて疎まれも蔑まれもせず、一端の農家として生計を立てている、というのはもう驚異的という他なく余人には終ぞ真似し得ない領域だと思う。
そんな
――だがその前提条件が全部嘘だったとしたら。
あの日あかつき村で発生したのは感染率、致死率ともに異常に高いウイルスによるバイオハザードではない。村の住民は生き延びており、今もどこかに監禁させされている。そして村の生き残りである山城幹斗が《スカルマン》となり、妹の山城柚月と幼馴染の九條梗華は彼を止めるべく奔走している。そして二人の脱走を手引きしたのは他ならぬ親父自身なのだという。
これまた漫画みたいな話だが、これが昨夜哲也が聞いた一連のあらましだ。正直今でも信じられない。
「最初に“
屋敷の離れの一角。世の喧騒も人心の乱れも知らずにスヤスヤと眠り続ける赤子――ミホを抱えながら梗華はそう語った。「で、それを手伝ってくれたのが親父だったと?」話を聞きながら哲也はそう付け足した。梗華がコクリと頷く。
「あの霧が溢れて村を覆った時、パニックになる中で率先して皆を宥めて…閉じ込められても必死で励ましてくれたのが慧おじさんだったの…。おじさんは間違いなく皆の希望だったと思う…」
梗華はそう感慨深げに呟いた。親父らしいな、と哲也も思う。東に病気の子どもあればおぶって病院に運んでいき、北に喧嘩あれば止めに行っていつの間にか喧嘩に混ざっている。畢竟親父はそういう男だ、非常時にあっても及ばずながら皆を勇気づけようとしていた事は想像に難くない。
でもそんな親父であっても幹斗が《スカルマン》になる事は止められなかった。そう言うと梗華も苦しそうに目を伏せた。
「…おじさんも必至で皆を纏めようとしたけど…でもそれが何年も続くと…。その内村の人達も色んな派閥に分かれていった…」
仕方ない話だ。極限状況下においてはどうしても人心は荒れやすく、そこに付け入るように押し入ってくる不安を払拭するために人は群れという単位を作るものだ。無理からぬ話だとは思ったがそれでも慣れ親しんだ村の人達がそんな風に分裂してしまったという話は正直信じたくなかった。
「改めて教えてくれ、あの日村で何があったんだ?」
畢竟行きつくのがそこだ。哲也自身もまだ自分の知る範囲でしかあの事件の事を知らないのだ。知る事は怖い事だと全力で頭が警告を発していたが、知らなきゃ俺は前に進めない。そのためにもここで真実を知らなければならない。そうでなければ皆を救うなんて言えないのだ。
梗華は一度溜息を吐くとそっと腕に抱えたミホをベビーベッドに横たえた。慈しむようにそっと掛布団を被せてやると哲也の方に向き直った。
「私の主観でしか語れないけど…聞いて欲しい。あの日村に何があったのかを…」
これが全ての始まり。同時に《スカルマン》誕生の物語。俺はそれを受け入れなければならない。その重みに哲也はゾクリと背筋が冷えるのを感じた。
・・・・・・・・・
あの日は朝から慌ただしかった――少なくとも
理由は誰あろう
そして翌朝。ミキトの家に電話を掛けてみたらテツヤなんて来てないとなった。そこでうちにも確認が行って(そんな訳ないでしょ、冗談はよして!)そこから本格的に騒ぎになった、明らかに遅すぎます。
村中大捜索の挙句に山狩りまで実施して午前中終わった辺り。昨日道の駅のバス乗り場で見かけた、というニュースが飛び込んできた。早速あたしとおじさん、あとユヅキちゃんの3人で発着場に向かってあれこれ確認した所、どうやらテツヤは昨日の東京行の便に乗っていったらしいと分かった。同時にユヅキちゃんがバスに乗る所を目撃していた事を白状した。
なんでそれを早く言わなかったの?と問い詰めるとユヅキちゃんは『誰にも言わないでって言われたから』としらっと返した。
いくら探しても見つからない筈、テツヤは村にいないのだと分かり、事態は途端に行方不明から単なる当人の自発的な家出でケリがついた。なぁんだそれなら一安心だ、とおじさんは胸を掻いて大笑いした。
いや東京だって何かと物騒だし、田舎者の未成年なんてなんかのカモにされるかも分からない。さっさと向こうに連絡した方が良いと思ったのだが、おじさんも呑気なもので
『なぁにアイツはバカだが帰り道が分からなくなる程バカでもねぇよ。向こうには弟夫婦もいるし、いざとなったらアイツに頼れば大丈夫さ、可愛い子には旅させろ、だろ?』
どうなんだろ、この放任主義?と思わないでもなかったがだからと言ってあたしが代わりに東京に向かってその首根っこをふん捕まえてくる選択肢がある訳でもなく、それ以上は何も言えなかった。無事に帰ってきてよね、そう祈るしかなかった。
どうしても不安になってしまうのはやはり両親の件があるからだろう。10年前あたしの両親は東京都心で白零會のテロに巻き込まれて死んだ。死体は殆ど原型を留めていないとかで会わせて貰えなかった。少し前のクリスマスに会いに来てくれたあの時が最期になるなんてその時は思いもやらず、世界というものはそんな風にあっさり変わってしまうものなのだとその時痛感した。東京はあたしの故郷だけど、今はもうかなり遠い街。テツヤも両親みたいにどこか遠くに行ってしまうような気がする、そんな風に不安になるのも生まれた街を悪者のように感じてしまうのもイヤだった。
この所テツヤとの間に隔たりを感じるようになった。高校生にもなるとお互いの生活や趣味も変わって来るから前みたいに四六時中一緒にいる訳にはいかなくなったのは確かだけど、そういう時間的な話ではなく、もっとこう心の距離、みたいなそういう領域の話だ。
テツヤとミキトはこの村で初めて会った同年代の子どもだった事もあって基本的にいつも一緒にいた。妙に大人びてて難しい本をやたら読んでいるミキトと快活でいつもどこかを走り回っているテツヤという取り合わせは傍目には酷く奇妙な関係に映ったかも知れないが少なくともあたしにとっては二人が一緒にいる事は至極自然な事だった。なんと言うかお互い向いてる方向は違っても心の形がしっかりとハマりこんでいるような、互いの持っているものと持ってないものを尊重し合っているような、そんな関係なのが分かったから。
そこは男の子同士でしか入れない微妙な距離感だと思ったからこそ正直あたしがそこに入って良いのかどうかは迷う事もあったけど、二人の間にいる事は単純に心地よくてついついそこに安住する事を選んだのだ。そんな関係がずっと続くと思っていて高校生になった辺りからだろう。なんだかテツヤがあたし達と距離を置くようになった…気がした。
有体に言えば避けられてる。うん、そういう事だ。具体的には5月の連休が明け始めた時期くらい。これまで絶賛帰宅部だったテツヤが遅ればせながら空手を始めただとか何とかで一緒に行動する機会が減ったからかなぁ、とでも思えれば良かったのだろうが、生憎その裏にあるもっと些細な心の動きを見逃す程浅い付き合いはしておりません。
あたしだけならまだしも――でもないが――ミキトの事も避けてるようであればもうこれは決定的で単純にあたしは困惑した。なんか嫌われるような事でもしたんだろうか、とひとしきり不安になってあれこれ想いを巡らせた挙句に「あたしらアンタに何かしたか!?」と問い詰めに走り出しそうになったが、寸でのところででミキトに止められた。
『アイツにはアイツの世界があるんだよ、やたらに首突っ込むな。大丈夫、答えが出たらアイツは絶対に
なんだかサッパリ分からなかったけどミキトは少なくともそう信じているようだった。その横顔にあるのは強い信頼の色で、やっぱりミキトとテツヤの間には中々立ち入れない領域があるのだという事を久々に痛感させられたモノだった。
良いなぁ男の子って。あたしはそう思ったのだ。
閑話休題。とにかくこんなに皆に心配かけおってからに。帰ってきたら購買のアイスクリーム毎日奢らせたる、なんて意地の悪い事を思っていると不意に腹がきゅるると鳴った。
『なんだ、お腹減ったかい?そりゃあそうだよな朝からずっと捜索しどうしだもんな、よし俺が奢ってやるからなんか食おうぜ!』
大勢の人も近くにいる中で黙っていてくれりゃあ良いものを全く空気も読まず、デリカシーもへったくれもなく慧おじさんがそう言い放つモンだから、あたしとしてはもっと気を遣うとかしてよ、とか言いたくもなったが奢り、という言葉には抗しがたい魅力がある。結局あたしもユヅキちゃんも素直におじさんに御馳走してもらう事になり、道の駅の食堂に入った。
道の駅はあたしにとって馴染みの深い場所。特に元々やってた売り子として出演した動画がやたらと再生されまくったせいでいつの間にか売り子兼
だから近頃は用もなければここに来る機会は減ってたし、気兼ねなく食堂でご飯食べれるなんて事もなかったわけだ。折角なのでとレストランの席に着くと慧おじさんは集まりだした他の村人達にもにこやかに声を掛けながら何か頭を下げていた。会話の内容はよく聞こえなかったけどたぶん『ウチのバカ息子がお騒がせしました』とかなんとか言ってテツヤが東京に行った旨を報告しているんだろう。帰ったらこりゃ村民皆からイジくりまわされる事確定だよね、と思ってあたしはテツヤに少し同情した。
あ、そうだミキトにも電話しなきゃ。そこで漸くそこに思い至り、あたしはしまっていた携帯電話を取り出し、ミキトの携帯番号を選択した。テツヤの居場所が分かったよ。そう報告するつもりだった。今他の男衆と一緒に山狩りの真っ最中の筈だから通じればの話だけど。
ところがそうして電話を掛けた所で違和感に気が付いた。何度掛けてもすぐに切れてしまい、全く繋がる気配がないのだ。最初は単に相手が電波の通じない所にいるからだろう、と思ったがそういう領域ではない。試しにお祖母ちゃんの家にも電話を掛けてみたが全く同じ反応。そこでやっと携帯のアンテナが殆ど立っていない事に気が付いた。どうやら周りも同じ反応らしい、他の村の人達も同じことを言い合っている。
何よ、こんな時に通信障害?と唇を尖らせたその時だった。
空をつんざくように、突如サイレンが鳴り響いた。
『なんだべ一体?』
『“研究所”の方からでねぇか?』
『なんか起きたか?こげなの聞いた事もねえぞ…』
慧おじさんを始め、村の人達も一斉にその音に身を竦ませた。その音は警報というよりまるで空気が悲鳴を上げているように聞こえ、あたしは背筋がゾッとなるのを感じた。突然の事態に周りが混乱する中、慧おじさんが真っ先に道の駅の外に走り出した。様子を確かめに行ったのだろう、他の男衆数人も続き、あたしもユヅキちゃんに『少し待っててね?』そう告げると外に飛び出した。何か胸騒ぎがした。
道の駅の広い駐車場に出れば――というか村のどこにいたって大体は――風変わりな形をした“研究所”はよく見える。矢頭山の一角をくり抜いてそこにはまりこむ様に鎮座するドーム状の構造物はそうでなくともやたらと目立つのだ。やはりこの耳を聾するような異様なサイレンはあそこから響いているらしい。何が起きたんだろう、こんな事初めてだ。
次の瞬間だった、それが起こったのは。
最初に感じたのは地鳴りのような不穏な蠕動、それが大気を、大地を震わせたと思った直後、遥か上に見える“研究所”の丸い屋根が火の手を上げて吹き飛んだ。まるで内に秘めた力を一気に開放するかのような暴力的な光景。あたしだけでなくその場にいた全員が咄嗟に声も出せずにその光景を見守っていた。『まずい…!逃げろぉっ…!』おじさんがそう叫んだのが辛うじて聞こえた。
しかしその直後には一拍遅れて爆風が木々を揺らし、土を巻き上げ、そしてあたし達に襲い掛かってきた。それを知覚するより前におじさんが咄嗟にあたしに覆い被さり、庇ってくれた。鉄のような暴風が家々の屋根を引き裂く勢いで揺るがし、窓がガタガタと鳴動する音に鼓膜が割れそうだった。
永遠にも思える一瞬が過ぎ、顔を上げるとあたしに覆い被さったおじさんが『大丈夫か、ケガはないか!?』そう肩を揺すって叫んでいるのが分かった。少しばかりいかれた聴覚でもなんとかその声を捉えたあたしは自分の身を確認しながら頷いた。
おじさんこそ、そう言うより前におじさんは肩を話すと周りを見渡した。そうして皆さん、無事ですか?と大声で叫ぶと倒れている人達に向かって駆け寄って行ったのだった。流石に村の男衆達もタフだ、すぐに起き上がると音を聞きつけて建物から出てきた女性達に向かって同じように声を上げた。
『“研究所”が爆発した!何が起きたかようけ分からん、今すぐ役場の方に行ってくる!』
『あんだけの爆発だ、山火事が起きるかも知らん。とにかく119番、そいから消防団にも!』
『山狩りに行った衆が心配だ、誰か連絡つくかぁ!』
胴間声を張り上げて方々に走り出していく彼らの様子を眺めながらあたしは漸く“研究所”はどうなった、という所に思い至った。
“研究所”――プロメアセンターという名前があるがあまり呼ばれない――にはミキトのお父さんが勤めている筈だ。他にも常にあそこには100人ばかりの職員が常日頃から詰めているのだ。何が起きたのか正直見当もつかないがあれほどの爆発が起きて果たして無事でいられるだろうか。それだけではない、さっき誰かが言ったように今一部の村民がテツヤ捜索のために山の方に行っているのだ、彼らは――特に同行した筈のミキトは無事だろうか…。
ミキト。山城幹斗。もう一人の幼馴染。テツヤとはもっと前からの親友。ユヅキちゃんのお兄ちゃん。
言葉にするとそんな感じだけど正直あたしの昔からの印象はとにかく生き急いでる奴、そんな感じだった。小難しい本を読み漁っては年齢以上に大人びた口の利き方をする少年を村の人やクラスメイト達は「流石博士の子だ」と羨望の目を持って接したけど、あたしに言わせれば一刻も早く大人になろうと必要以上に背伸びするだけの、普通の子だった。何も特別な事なんてない。
ミキトと博士はあまり折り合いが良くないようだ、となんとなく実感したのは小学校も半ばになる頃辺りからだろうか。いや、というよりもいつも研究所に籠りっきりで碌に子どもと顔を合わせようとしない山城博士とミキトの間ですれ違いが生じているといった方が正確か。元々殆ど面倒を見る事がなく、日々の世話を成澤夫妻に任せっきりになっていたくらいだ。近頃はそれがますます顕著になった気がする。
折しも遠縁の親戚の子を養子として引き取る事になり、彼の元に新しい家族がやってきた、それがユヅキちゃん。でも守るべき存在が出来た事はますますミキトを焦らせたようで以前よりもずっと勉強に没頭する事が多くなった。それはそれで立派な事だと思うけど少しばかり痛々しい、あたしはそう思った。
必要以上に物事を取り繕ったり、多くを語らないからいつも周りに誤解されるし、協調性の欠片もないからあたしかテツヤが“通訳”に入らないと孤立するばっかり。達観しているようで変な所で子どもだから放っておけない。
最も本人もそんな自分に思う所がなかった訳ではないらしい。中学に上がる頃には勉強に苦戦してる子の指導役を買って出たり、生徒会に入って見たりとかして曲がりなりにも周りと関りを持とうと努めるようになった。まあ結果として教えるのが下手だったり口の悪さが災いしていらんトラブルを生んだりと大いなる挫折を味わう羽目になったのだが、そうやって躓いて自分なりに何が一番適切なのかを考えなくちゃ人は成長できない。だからあたしもテツヤも敢えて黙ってその様子を見守っていた。
そんな経験も経たからだろう、高校に上がる頃には何とか人並みかそれより少し低いくらいの水準だったがなんとかクラスメイトとかとコミュニケーションを取れるようになった。相変わらずあたしやテツヤ以外には積極的に関りに行こうとはしなかったがそれでも昔を知るあたしからすれば格段に進歩した、テツヤに言わせれば昔は部屋から連れ出すのも一苦労だったそうだから感慨もひとしおらしい。もう“親”だよね、完全に。
変わったといえば高校に入ってからミキトは俗な言い方をすればモテるようになった。なんでもクラスや学年を超えてファンクラブまで存在するらしい、と風の噂で聞いた。お前は少女漫画の主人公かなんかか!と突っ込みたくもなったが、あたしとしては不安の方が大きかった。
考えてもみたまえ、いくら昔よりマシになったとはいえ、本質的にコミュ障・空気読まない・なかなか心を開かないという三拍子の揃ったアイツに、告白してくる女子に対する気遣いなんて期待出来ると思うかね?無神経な返し方をしたりして相手を傷つけたりしやしないかと内心冷や汗モノだった。
まあ結論から言うとここは杞憂だった。告白されようもんならミキトは本質的に自分がそんな対象で見られる事など考えも及ばなかったようでしどろもどろの挙動不審になりながらも存外誠実にお断りしていた。なんでそんな事知ってるのかというとたまたまその光景を目撃したから。いつも必要以上に大人びて泰然としているアイツのあの様はなかなか可愛くて見応えがあったけど、それ以上にあのミキトがそんな風に人と一端にコミュニケーションを取れるようになったのだと思うと感慨深かった。
その後もそれで済めば良かったんだけど、そうもいかないのが世の中だ。結論から言うとある日突然ミキトに俗な言葉で言うとコクられました――いや厳密にはそういう事ではなく。『彼女のフリしてくれ』そう言われました。
『この所何故か他の女子にやたら告白される。あんまりOKしないモンだから実は男好きなんじゃないかという噂まで流れてきた。いい加減鬱陶しいからほとぼりが冷めるまで協力して欲しい』
どういう意味よ?とあたしが尋ねると返ってきたのはそういう返答。
でも変な話、あたしはミキトを、そしてテツヤの事をどう思ってるんだろう。と考えもなしに安請け合いした後でふとそんな事を思った。どちらもあたしにとっては異性な訳で高校生にもなってくればそういう感情のひとつやふたつ芽生えたって可笑しくはないのではないか、と。結論から言うと分からなかった。たぶんあの日――両親が死んだ日からあたしにとっては二人は不可分の存在なのだ。どっちかが欠ける未来は想像がつかないし、したくもない。だからそういう事には恣意的に目を逸らしていたのかも知れない。
ねぇ?
もしあたしにもっと勇気があったなら。踏み出す事が出来たのなら。
哲也…幹斗…?
・・・・・・・・・
「ちょっと待った!」
放っておけばしょっちゅう脱線しまくる梗華の話を軌道修正させたのはこれで何度目か。そんな中で突如飛び出てきた爆弾発言に哲也は思わず素っ頓狂な声を上げて彼女の話を遮っていた。突然の大声に梗華は大きな瞳を丸くして「何よ一体?」と首を傾げた。
「なんか今変な事言った!ついさっき!」
「え、おじさんが放任主義だって?」
「その後!」
「研究所が爆発した下り?」
「もっと後!幹斗の話!」
やたらと反応の鈍い梗華に「幹斗」の言葉をやたら強調して言うと漸く得心が言ったように「あ~…」と呟きながら握った手を掌に打ち付ける仕草を取った。妙に古臭い動きだが彼女がやると何故か様になる。それから少しばかりバツの悪そうな顔をして哲也から顔を逸らした。
「…言い訳じゃないけど…別に秘密にしたかったわけじゃないの…。ただ…別にストーカーに合ってた訳でもないし、こんな下らない事で君の邪魔したくなかっただけっていうか…」
何やらへどもど言っている彼女の話を聞き流しながら哲也は盛大に溜息を吐いた。なんだったんだろう、つまりなんだ全部は所詮俺の勘違いの独り相撲。なんとなく変わってきた気がする二人の関係性も幹斗へのコンプレックスが見せた幻想かなんかだったって事か?
7年越しに判明したまさかの事実に骨折りなんだか安堵なんだかよく分からない感情が去来してきて、このまま脱力した衝動に駆られたが、まだまだ話は終わってないという理性を総動員させて何とかそれを堪えた。そんな哲也の態度を不審そうに見ていた梗華がやがて口火を切った。
「とりあえず何でもないんだったら続けて良い?」
やたらに脱線させてるのはそっちな気もするけどな、という人の事言えないツッコミはひとまず置いておいて哲也は梗華の方に向き直った。彼女も脱線気味なのは気付いたようで「どこまで話したっけ…」とボヤいていた。
「あぁ…そうか“研究所”の辺りだったよね…。あの後何が起こるか分からんって…役場から村中に学校に避難しろって指示が出たの。でもその直後にアレが起こった…」
そうしてあかつき村は消えた。代わりに《スカルマン》と《ヴェルノム》という新たなモノが生まれたのだ。
という訳で今回から新章です。
の割にやたらと中途半端な幕開けですけど、流石に長いのでここで切ります。
この章、序盤は回想ばっかの後半戦闘ばっか回になりそうなので、ペース配分考えないとぶつ切りばっかりになりかねないのでそこはなんとか注意しながらやっていきます。
いい加減週一ペースも取り戻したいのでここらが勝負所ですね、引き続きお付き合いお願いします。
それではまた次回。