ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
今回で説明パートは終わり。
よろしくお願いいたします。
それでは、どうぞ。
―――〇―――
Side.茶柱 佐枝
「反対ですっ!!」
「「………」」
理事長室で真嶋先生の怒号が響く。この場に居るのは私と真嶋先生、さらに後ろに坂上先生と知恵。そして今の部屋の主でもある月城理事長代理がいつも通りの胡散臭い笑みを浮かべている。
「まあまあ…真嶋先生。まずは落ち着いて下さい」
「………」
この場に来たのは学年末に迫る特別試験。その内容への抗議が目的だ。試験で使われる問題を確認すると、明らかに問題が一年生向けではない。そこに端を発した真嶋を先頭に、担任総出で理事長室に赴いた訳だが…。
「真嶋先生、ちょっと…」
「…っ!!…失礼しました」
これでは話が進まない。私も心情的には真嶋寄りだがひとまずは肩に手を置いて、落ち着くように促す。キッと強く視線を振られるが、我に返ってくれた。その様子を見て月城が口を開く。
「さて、それで話を戻しますが、次の試験で使う学力テストはこちらで用意した、高校での出題範囲を
「ですがっ…!習ってもいない、明らかに解けもしない問題を生徒に出題するなど、公平の観点から考えて適切とは「それですよ」っ…!?」
「その習っていないとか…そして公平だとか、ソレのなにが問題なんです?」
「なにを…」
「習ってないなら自分で学べば良い。社会に出てから、必ず上司や先輩が正しいことを教えてくれますか?公平でないことなんて、それこそいくらでも沸いてくる。
教師であるあなた方が過保護に過ぎるから、社会に出た雛のような卒業生は『学生気分で仕事をするな』と理不尽な罵倒を浴びる」
「………」
それは確かに、一つの側面ではある。だが今は次の試験で使われる試験問題についての話じゃなかったのか?私たちが一読した問題は、普段の倍の量が問題に記載されていた。とてもじゃないが、試験時間である60分で解き切れるとは思えない量。それも下は中学生レベル、上は大学入試かそれ以上の問題が並んでいた。
「特に最近の若者は理不尽に耐えることが出来ず、酷く脆い。それは教職につくあなた達が最も実感しているのでは?」
「………それは」
「このテコ入れは言わば、愛の鞭なのですよ。それにこれは期末試験のテストでもない。つまり結果が直接その生徒の退学に繋がることはない。ほら、十分に生徒への配慮もしています。一体何が不満なのですか?」
唯一の救いは、テストが200点満点。そして、学習範囲外の設問はテストの後半に並んでいる事か。成績優秀な生徒なら、前半で十分に点数を得ることが出来るだろう。それ故に、後半部分はボーナスポイント的な評価対象だと私は理解した。
だが、そうまでしてこのイレギュラーをねじ込む意図が分からない。それも、このタイミングで。私は真嶋の横に歩を進め、月城へと質問をする。
「月城理事長代理、私からもよろしいでしょうか」
「なんでしょうか、茶柱先生」
「この…試験範囲外からの出題。初めての試みとなるので諸手を上げてとは行きませんが、私個人としては面白いとは思います」
「茶柱っ」
「ですが何故、今なのですか?」
「ふむ…」
私の疑問に、月城はギッと背もたれに体重を掛けながら、表情を変えずにこちらを見るだけ。…本来なら、こうした新たな試みは来年度に新入生が入ってからでも遅くはない。最初の期末試験あたりで情報を仄めかし、生徒へ警鐘を鳴らす。それで十分、目的は果たされるだろう。
おそらく真嶋も不意打ちのような形で出題されて、自分の生徒たちのポテンシャルが発揮されないかを危惧しているんだろうな。なにせ通例通り、今年の学年末の特別試験でも退学者が出るからだ。
「先ほど、試験の結果がその生徒の退学、影響は出ないと仰いましたね?」
「言いましたね」
「ですが、それは試験を受けた生徒
「それを跳ね除けるのも実力の内では?」
「かもしれません。…ですが、重ねて言いますが彼らは未だ1年生です。一試験の結果として退学者が出るのならともかく、学校の不意打ちによってそうなったと生徒が感じたら…」
「なるほど、学校への不信感。信用の失墜、果ては試験へのボイコットなどの学級運営に支障が出ると?」
「………そうです」
こちらの暗に伝えたい、言いにくい事実を、なんの後ろめたさも無く明言していく。レスポンスの早さから、事前に予想していたのか?だとすると、「もしもそうなったら好きなだけ停学退学させろ」なんて言われたらお手上げだ。私は首筋に冷や汗が伝うのを感じながら、月城の反応を待つ。
「―――では、こうしましょう。今回の試験、司令塔を変更…いえ、増強する事で帳尻を合わせます」
「…!司令塔の、役割を変えると?」
時計の秒針が半周ほど回る時間の後、月城は背もたれから身体を起こして決定を告げた。しかし、司令塔のルール変更?後ろで坂上先生が驚きの声を上げて、月城はそれに応える。
「ええそうです。確かに茶柱先生の言う通り、責任を取るのが集団の長の役割ですがそれが理不尽によって
「………」
「ですので試験の報酬として、1勝毎に司令塔の生徒には10万、試験にクラスが勝利すれば100万ポイントを与えることにします」
「報酬を増やす…と」
「ええ。後は…試験で勝利をした生徒達にも1万ポイントを付与することとします。やる気のない生徒もこれで試験に前のめりになることでしょう」
⋯確かに、目先の報酬というのは悪くない。クラスに非協力的な高円寺を筆頭に、先の特別試験で綾小路を失った連中も多少は前向きに試験へ挑むことができるだろう。
「他には…そう、司令塔が試験に干渉できる範囲を大幅に広げましょう。学力試験なら指定した生徒の代わりに参加、競技なら同じように代理で出場…あたりですかね?そこまで出来るようにすれば退学しても自身の責任と受け止めて不満は出ないでしょう」
「………」
「これでもまだ不安ですか?…仕方ありませんね」
依然として厳しい表情を浮かべる真嶋に、月城はどこかワザとらしく手を叩いて続ける。
「では、もしも特別試験を全勝すればプロテクトポイントも付与することとしましょう」
「なっ…プロテクトポイントを、ですか?」
「そうです。…まあ退学のかかった重い試験。そんな一方的な結果にはならないでしょうが…もし出来たとなれば、そんな優秀な生徒はしっかりと保護しなければなりません。…違いますか?」
「「「………」」」
満足そうに頷く月城を見ながら私は…いや、私達はそれぞれ脳内で計算をしていく。『果たして自分のクラスの生徒ならどうか?』と。
正直、私のクラスでは絶対の信頼が出来る生徒は居ない。だが先のクラス内投票では2000万を上回るポイントがクラスにあるのが確認できている。表情を暗くした平田がそのまま保管しているようだが、クラスの生徒が取り戻そうとしている様子はない。それを使えば、最悪の事態は回避できるか?
「………」
「………」
チラリと横顔を覗き見ると、真嶋も表情が硬い。素の実力が発揮できれば勝率は高いにしろ、なで…西園寺がクラスから抜けて日も浅い。対戦相手のクラスによっては厳しい、そんなところだろうか。
「茶柱先生、真嶋先生も、それでよろしいですね?…では、下がって結構ですよ」
「「「…」」」
月城から退室を促され、私達は揃って部屋を後にする。…果たしてこの決定が、生徒達にとって吉と出るか凶と出るか。今の私では、生徒を信じる事しか出来ない。…願わくば、私のように後悔だけは抱いて欲しくないものだ。
―――その後、学校から試験にルールや報酬面の追加がアナウンスされる。
結果的にこの変更がクラス
―――〇―――
Side.坂上 数馬
先日の理事長室での抗議から一夜明けて、生徒達にも試験に追加報酬のアナウンスを行いました。内容は、以下の二つ。
・クラス勝利時の司令塔への報酬の増加
・司令塔の役割の強化
それを伝えた後に、龍園が思案気な表情を浮かべていたのは気になりましたが…その放課後に私は石崎君に空き教室に呼び出される。龍園からの指示かと思っていると、彼の姿はなく。代わりに―――
「………」
「坂上先生っ」「坂上センセー」
「…はい、なんですか?」
「えっと、種目として料理って…出来ますか?」
一之瀬帆波さん。現Aクラスのリーダーと、その親しい女子生徒達が居て、何故か私に試験の内容を相談して来ている。…それにしてもその内容が、明らかに学校の試験らしくないのはどういうつもりでしょうか…。
「………料理?」
「はいっ!作った料理を生徒達で食べ合って、美味しかった方が勝ちってルールで!」
「あ、それ良い!」「えー料理OKならお菓子作りは?」
「…おそらく可能でしょうが、採点に生徒達が関わるのは難しいかと」
「「「えええっ!!」」」
女三人寄れば姦しいとは言いますが、この場にはそれ以上に女子生徒が居る。抗議の声を上げる彼女たちを一之瀬さんが宥めてくれますが、何故Aクラスの生徒がこの場に?対戦相手の私達のクラスの生徒もちらほら見えますが、Aクラスの方が人数は多くいる様子。彼女達はその後も競技というよりもどこかレクリエーションのような種目を提案しては、私に実現可能かを確認する。
…本当、なぜ私に?星之宮先生はなにを?…え?試験の為の準備…?そんな話は…。
「坂上先生、もしかしてその…聞いてないんですか?」
「…なんの話です?」
「えっと…龍園君と私たちのクラスって、次の試験についても協力しようってなってて…」
「は…!?」
呆然として石崎君たちに振り返れば、気まずそうに認めてきました。周知された報酬の強化…プロテクトポイントを得る為とはいえ、
「(龍園っ!!貴様という奴は、何故、報連相を、しないんだっ!!)」
「さ、坂上先生…大丈夫ですか?」
なんとかため息を一つと、メガネの汚れをふき取るだけの時間をかけて落ち着きを取り戻します。どこか申し訳なさそうな一之瀬さん達に詫びると、改めて彼女の差し出した競技の一覧を受け取ります。
・コスプレ撮影対決
・腕相撲
・柔道
・社交ダンス
・ポッキーゲ
・握手会?
・料理対決
・王様ゲーム
・愛してるゲーム
・20の質問ゲーム
・〇〇しないと出れない
「………」
………前半は良い。ですが後半は、どう見てもテレビのバラエティや合コンか何かの遊びのような内容です。料理対決は先ほどの反対から消されてますが、最後のしないと出れないとは?…よく分かりませんが、他の競技もどういうルールなのか分からないものばかり。
こちらが眉間に皺を作っているのを知ってか知らずか、一之瀬さんはこちらに問題作成について質問を重ねてきます。社交ダンスで相手のクラス生徒を指名できるか、腕相撲は対戦相手を選択できるように設定できるか等。それらに答えていくと、ブラフでなく本気で勝負を捨てているようにも感じられます。
「あと2つ…あ、3つか。考えないといけなくて…」
「…じゅ、柔道とは…随分フィジカルな競技を選ばれるんですね。反対は無かったんですか?」
「え?だって、皆も合法的に撫子と密着できるかもって大賛成でしたよ?」
「⋯男子生徒と競うこともあるのでは?」
「?⋯選手は
「(あっ…)…そ、そうですか」
西園寺撫子さん…こんなところでも彼女の影響があるとは予想もしていませんでした。もしも上首尾に話が纏まっているなら、今回の試験でCクラスに返り咲くことも十分ありえます。
私は思案気な一之瀬さんに、過去に学校であった対話を必要とする試験や使える個室などの施設、設備を提示して教室を去ります。決して逃げる訳ではありません。だから石崎君、そんな目で私を見ない様に。
…メイド喫茶なんて、どう試験に落とし込むのか判断に迷った訳ではありません。いいですね?
―――〇―――
Side.星之宮 知恵
特別試験まで一週間を切った頃、私は理事長室で目の前の男の電話が終えるのをただ待っていた。呼んでおいて待たせるなんてと思うけれど、この後に訪れるろくでもない話を聞きたくなくて、少しでも長く電話が続いて欲しいとも思ってしまう。
「そうですか…分かりました、ええ。二人にはそのように。……はい、失礼します」
「………」
「ふう、お待たせしました」
「…はい」
別に待っていない。そんな言葉を吞み込んで、私は無感情に月城の言葉を待つ。…今までのやり取りから、どうせろくでもない話なのは分かり切っている。
もう私にはこの男の言った、「自分の役割が終わったら後任が来る」という本当か嘘か分からない話を信じて待つしか、もう。
「では、さっそく本題に入りましょう。…西園寺撫子さん」
「っ…」
「彼女の様子を逐一、報告して頂きたい」
その名前が出ただけで、身構えてしまう。予想通りの発言に固唾を飲んでいると、冗談めかして「もちろん如何わしい意味ではありませんよ?」なんて被せてくる。
なんとか呼吸を整えて、その理由を聞くべきか迷う。すると内心を見透かしたのか、月城の方から饒舌に話し出した。
「詳しいことはコチラに纏めておきましたが、まあ…いわゆる
「それは…どういう…」
「おや?理解は必要ありません。貴女はただこれから…そう、存分に
「な…なにをっ」
ギュッと身を強張らせる。何を言われたのか、ハッキリと理解したから。学校側…少なくとも目の前の男は、私が撫子ちゃんにしたことを把握している。
それに仮にも学校側のトップが一生徒を軽視する発言。私は、私だけはそれに異を唱えられない。生徒を
月城が机に滑らせて促した資料。それにおずおずと目を通すと、暖房が効いているはずの部屋でも体に震えを感じる。そこに書いてあったのは、大人の事情で、子供の
「既に彼の担任だった茶柱先生には伝わっています。真嶋先生にも。…ああ、本人には未だですが、相手の彼には―――」
「なん…ですか、これは…」
「言ったでしょう?大人の事情ですよ。とはいえ親は子の幸福を願うもの。迂遠的ではありますが、これも二人の為ですとも。星之宮先生には是非に―――大人として、教師の本分を全うして頂きたい」
「え…」
絶句する私に、月城はいくつかの資料を引き出しから取り出して、机にバサリと広げてみせる。見覚えのある…いや、ありすぎる表紙。今年も何度も目にしたそこには確かに【特別試験】の文字と
―――来年の特別試験の内容がそこにはあった。
「こ…れ、は…」
「どうぞ、活用して下さい。当然ながら流出は厳禁で、発覚した場合は…分かりますね?」
「………なにが、目的なんですか?」
「目的?」
脅すなら、撫子ちゃんと私の関係をつつけばいい。それだけでいいのに、来年の試験内容を教えるなんてどう考えても異常だ。変わらない月城の表情に焦燥感を覚える。
十数秒、時計の音だけが聞こえる沈黙をギィ、と椅子にもたれ掛かる音が破る。
「たった今言った通りですよ?西園寺さんがAクラスになるのを阻止して欲しい。それだけです」
「………」
「信用して頂けないようですねえ。…ですが、私の目的と貴女の目的は競合しない。違いますか?」
「私の目的?いったい何の「Aクラスでの卒業」…っ!」
その言葉に、一切の反論も疑問も無くなる。そうだ、私は教え子たちがAクラスで卒業することを願っている。
何も間違っていない。
もしそれと並べる何かがあるなら、それは佐枝ちゃんと、撫子ちゃんの―――
「それが、貴女たちこの学校の教師の本懐であり、宿願であり、最終的な目的。そうではないですか?」
「っ………」
机を指で叩く音に、ビクリと肩を揺らす。目の前には文字通り、禁断の果実がある。手に取ったら、口にしたらもう私は取り返しがつかないだろう。もしもバレたら…生徒達も、撫子ちゃんにも軽蔑されるかもしれない。
「今や貴女のクラスはAクラス。素晴らしい結果です。こんなものがなくともそれを保てるというのなら、手に取らずとも結構です。ですが…この先、確実に勝てますか?西園寺さんに」
「それは…あの子たちなら、きっと「断言できない時点で、察しているんじゃないですか?」…」
「今は良いでしょう。西園寺さんはDクラスとなり、貴女のAクラスとは倍以上のポイントの開きがある。しかし、今後もそうであり続ける確証がありますか?保険はいくらあっても良い。そうではありませんか?」
どんなに言葉を重ねても、これは毒だと本能が警鐘を鳴らす。目の前の男の手を取ったら、きっと私は後悔する。今までの生活を送る事は出来なくなる。今までと同じ顔して、みんなと過ごす事は出来なくなる。でも、
「それにこれは、貴女の教え子と、西園寺さんを護る為でもあるんですよ?」
「護…る?」
「そうですとも。貴女のAクラスが今の2年生と同じ一強体制になれば…つまり、
「あっ…」
「ほら、どうでしょう?私達の
でも、その毒が私の耳から脳に沁み込んで、ガクガクと揺らしてきた。『護る』…甘美な、そして崇高な
撫子ちゃんを護る。護る為に………仕方ない。
「………」
「ではよろしくお願いします」
仕方ない…よね。撫子ちゃんを…護るため。これは、仕方ないことなんだから。
…ごめんなさい。みんな…ごめんなさい。
読了、ありがとうございました。
今回で説明パートは終わり。長くなってしまい申し訳ございません。
次回から話は進む為、そちらを本日19:00に更新させていただきます。
それでは今暫し、お待ちください。
よろしくお願いいたします。
2年生編について、アンケートです。やりたい要所の場面だけやって更新を早くするか、ちゃんと順序立ててやるべきか、どっちが良いでしょうか、皆様!
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更新優先、2年生編は要所を書いて投稿。
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ストーリー優先、順番に巻順に進める。
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if番外編とかもみたい?