ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ   作:エカテリーナ

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本日、二回目の更新となります。
今回から撫子実家パートです。
あまり長くはしない予定ですが、ここまで長かった本作の根幹に触れていきます。
どうぞ、お楽しみにしていて下さい。


④:『Give me the lady, please.』

―――〇―――

 

Side.真嶋 智也

 

 

金曜の夕方。生徒達は週末の休みを迎え晴れやかな気持ちで下校するが、教師である俺達はそうもいかない。特に今は、特別試験の準備期間だからだ。

学年末の試験の告示から一週間。全てのクラスから試験に使われる十種目が提出された。俺のクラスはテスト等の地力の高さを生かすものや、自信のある生徒の希望だろうか?チェス、フラッシュ暗算、囲碁が提出されている。

 

対する相手のクラス…Cクラスはフィジカルを生かせるバスケットボール、弓道や水泳などが目を引く。勝敗は4勝先取したクラスになる以上、運も絡む試験だ。今はBクラスとなったが最も優秀とされた教え子たちを信じる気持ちは他の先生方には負けていないと自負している。

 

唯一の懸念…心配は、最近クラスへと編入した生徒。目の前で無機質な雰囲気でいる綾小路の存在だ。先ほど学校に連絡があり、校内放送で呼び出した。その理由を伝えても、綾小路に驚く様子はない。

 

 

「忌引き…ですか」

 

「ああ。お前の父親…親御さんから、学校に連絡があり受理した」

 

「………」

 

 

どこか険のある言い方になってしまった。内心で割り切ろうとしたものの、先日茶柱と一緒にみた()()の件がどうしても尾を引いてしまっている。

綾小路がそれを察しているのかどうなのか、数瞬の間を持っても特に反応はない。…いや、少しはこう…誰が亡くなったとか気にならないのか?やはり茶柱がいうように、綾小路の親子の関係は冷え切っているんだろうか。

 

 

「ついては週明けの月曜日までは忌引きとなる。休む際のペナルティは発生しない」

 

「そうですか。…で、俺はどうしたらいいんですか?」

 

「ん…あとは、明日の朝8時に校舎の裏口に来るように。学校側の車で移動して貰う。服装については親御さんが用意しているそうだから、制服でも私服でも構わない…筈だ」

 

「分かりました」

 

 

そう言って職員室を去る綾小路を見送る。最後まで特に感情らしいものを見せなかったが、ヤツの異常さは先のクラス内投票試験の後に垣間見えた。

戸塚の退学、西園寺の移動に阿鼻叫喚となった俺のクラス。そこで鳴った端末に、安堵を覚えたのは俺だけは無かった筈だ。しかし、結果は西園寺の再移動ではなく綾小路の退学阻止とクラスへの編入。憤慨する生徒達をどう諫めようかと思っていたところに、奴は月城理事長代理と共にやって来た。…制服に()()()()()()

 

途端にクラス中が冷や水を浴びせたように静まり返った。聞けば暴れた戸塚から身を守る為やむを得ず…というものの、全く動揺の見られない姿にその日は誰一人として声をかけられなかった。

 

次の日以降は坂柳や葛城など、クラスの主要陣は距離を詰めようとしたり人柄を確かめようとしていたようだが…。

 

 

「お疲れ様です、真嶋先生」

 

「…坂上先生」

 

 

息抜きをしようとコーヒーでも飲もうかと考えていると坂上先生から声をかけられる。西園寺の移動先のクラスを担任する彼だが、問題児である龍園の後始末や手続きに忙殺されている様子も散見される苦労人だ。

ただ最近は顔色も良く、現に今も缶コーヒーを差し入れるほど余裕を持っているようだった。「どうぞ」という言葉に甘えてフタを開け、一気に煽る。

 

 

「ふう…」

 

「お疲れの様子ですね」

 

「ええ。生徒のクラス移動なんて、担任になってから初めての事ですから。…どう接するべきか、少し迷っているのかもしれません」

 

「私もです」

 

 

今年度は教師となって、初めての経験が多い年だった。それもこの試験を終えればひと段落つくだろう。そう思いながら坂上先生と雑談をしていると、ふと気になった事を口にする。

 

 

「…そういえば坂上先生、西園寺のことですが」

 

「真嶋先生()ですか。…ああいえ、元とはいえ担任。心配するのも至極当然ですね」

 

「…私()?」

 

 

クラスが変わり、環境の変化に慣れたのかを心配するも既に他の先生方…茶柱か星之宮あたりだろうか?俺の呟きには気付かなかったようで、眼鏡の位置を直しながら続ける。

しかしその内容は俺の想像する内容ではなく、彼女が今日の午前中に学校を離れたということだった。

 

 

「不謹慎ですが、コレが来週ではなくて良かったですよ。試験当日に忌引きで休むだなんて、本人もクラスの皆も望むところではないでしょうし」

 

「…忌引き?」

 

「本人にもヒアリングしましたが、あまり知らない相手ということで別段ショックを受けている様子は無かったです。後は…」

 

「はい?あの、坂上先生…なんの話ですか?」

 

「…え?茶柱先生からも確認されたので、てっきり周知されたのかと。ご存じではなかったんですか?彼女の、身内に不幸があったらしく。…既に手続きは終えましたので、今頃はご実家に向かっている頃です」

 

「なんですって…!?」

 

 

思わず席を立つ。驚く坂上先生をそのままに、俺は職員室を飛び出す。ただの偶然ならいい。だが、綾小路と西園寺。この二人の事情から楽観視など出来はしない。

俺は事情を知っているだろう人間…月城理事長代理のいる部屋へと向かう。ノックをすると在室していたのか直ぐに返事があり、そこには月城と茶柱の姿があった。

 

 

「茶柱…?」

 

「真嶋先生…」

 

「おや、真嶋先生まで。一体どうされました?そんなに慌てた様子で」

 

 

いつもの胡散臭い表情。どこか、こちらの焦燥を知っているのではないかと勘繰ってしまいそうになる。俺は一呼吸分だけ息をついて、この場に来た理由を告げる。

 

 

「月城理事長代理。…単刀直入にお伺いします」

 

「なんでしょう」

 

「本日、2名の生徒が忌引きで一時的に学校を離れる予定となりました」

 

「………」

 

「そうでしたか。…それが?」

 

 

茶柱に疑問や動揺はない。もしかすると同じ用事だったのやもしれない。対する月城はギイ、と背もたれを軋ませながら先を促す。

 

 

「その2名は、西園寺撫子。そして、綾小路清隆です」

 

「………」

 

「なにか、ご存じでは?」

 

 

確信すら持った問い掛けに、月城は返事なく、ニヤリと嗤った。

 

 

 

 

―――◇―――

Side.西園寺 撫子

 

―――さあ、最後にお別れをしてあげて下さいまし。

 

「…はい」

 

 

お世話になった女中の方に案内されたのは、お線香の香りや蠟燭の灯が揺蕩う離れの一室。母屋から離されている理由は分かりませんが、ここに来た理由でもある。たとえ()()()()()()()()()()()()、身内の不幸を偲ぶのに殊更理由は要りません。私は新たなお線香に火をともして、両の手を合わせる。

 

 

「………」

 

 

どうか安らかにお休みください。…そう、心中で願うと眼前にある棺に目を見やる。顔には深く皺が刻まれ、まだ中年に差し掛かるほどなのに酷く疲れ切った印象を受ける。やせ細った体躯を痛ましく思い、再び故人を偲ぶ。

生前にお会いできなかったことは残念ですが、せめて名前は覚えて差し上げたい。…ですが何故か、戒名やこの方の名前をのようなものがありません。そのことを尋ねる私に、どこか気まずそうに御祖父様が準備をしている最中だと誤魔化され(噓をつかれ)ました。

 

…??

そう、でしたか。であれば、仕方ありませんね。

 

忌引きは5日間の予定。心苦しいですが、戻るのは試験の始まる3日前。龍園君たちにも事情を告げて一時帰宅をしています。やむを得ないとはいえ、なんらかの形でお詫びをしなくてはいけません。私は内心でそう考えていると、眼前の廊下を曲がって来た方に道を譲り、頭を下げます。

 

 

「………」

 

「………?」

 

 

何故かいらした方の一人が足を止める。…普段なら、何事も無く通り過ぎるはず。立ち止まった相手に疑問を覚えますがこちらから頭を上げる訳にもいきません。どうしたものかと思っていると、頭上から聞き覚えのある声に驚きます。

 

 

「西園寺、か?」

 

「…綾小路、君?」

 

「あ、ああ…」

 

 

制服ではなく、黒いスーツ姿。髪型も整えていて、ふぉーまるな出で立ちに驚いていると彼もこちらを見てどこか目を彷徨わせている。

 

 

「その…何故、ここに?」

 

「…いや、父親の都合で、な。法事と聞いていた」

 

「まあ…そうだったのですね」

 

「………」

 

 

その後に一言、二言と会話をすると彼は案内に従い離れへと進んでいった。…まさか自宅で綾小路君に会うだなんて。粗相はなかったでしょうか?どこかこちらの様子を訝し気に見ていたような…。

 

「撫子様、そろそろ…」

 

「あ、はい…」

 

 

そんな疑問もそこそこに、私は応対や諸事の対応へと取り掛かるのでした。

 

 

―――〇―――

Side.綾小路 清隆

 

 

「君が、綾小路清隆か」

 

「…はい」

 

 

通された部屋、まるで時代劇の殿様が座っているような広さの場所で俺はその男と出会った。

年嵩は50か、60程だろうか。鍛え抜かれた肉体からは生気が漲っていて、顎髭を撫でつつも眼光は鋭くこちらを見据えている。

 

まさか…これはドラマでよくある『娘さんを僕にください』という場面なのだろうか。いや、喪中にこれは無いだろうな。

内心の葛藤をよそに、老人は口を開く。

 

 

「篤臣君から聞いてはいるが、君はどの程度知っている?…ああ、自己紹介が未だだったな。私が撫子の祖父という事になっている、西園寺大和だ。名前自体は、手紙を送って知っていたか?」

 

「はい。聞いています」

 

 

…この老人が、西園寺…いや、もう紛らわしいな。撫子の祖父―――大和氏、か。…祖父という事になっている?どういうことだ?俺の疑問に得心がいったのか、意地悪そうにニヤニヤとしながらこちらを手招きする。近くに来いということだろうか?俺は距離を詰めると、大和氏は高そうな和柄の箱から茶封筒を取り出してこちらに投げ渡してきた。

 

 

「その反応を見るに、私の家のことは知らないようだ」

 

「…すいません」

 

「いや、君に責任はない。周囲が漏らす訳もない、か…ふむ、まあ善い。これを」

 

「拝見します」

 

 

そういって取り出した書類は、戸籍というものだろうか。見たのは初めてだが、撫子の名前がある。ざっと見た家族構成は、以下の通り。

 

氏名:西園寺撫子(なでこ)

 


曾祖父:西園寺出雲(いずも) 曾祖母:西園寺詩乃(うたの)

 

祖父:西園寺大和(やまと) 祖母:西園寺華子(はなこ)

 

父:西園寺子規(しき) 母:西園寺薫子(かおるこ)


 

 

………ほとんどの名前に線が引かれている。撫子と…大和氏以外が亡くなっているのか?既に親が亡くなっているのは手紙にも触れていたことだし、そもそもこの場に来たのは俺と婚約関係にある撫子の()()が亡くなったのが理由だが…。

今さらではあるが、俺は行き掛けに受け取った香典を渡してお悔やみをと定型文を伝えた。すると、どこか面白いものがあったのか大和氏はクツクツと嗤っていた。何か無礼があったかと不安になったが、そうではないようだ。

 

 

「先ほど撫子には会ったか?」

 

「…ええ、廊下ですれ違いました」

 

「どんな様子だった?」

 

「………」

 

 

黒地に…あれは何の花かは分からないが、紫と青の花びらが散らされた着物を着ていた。薄く化粧をしており着物の帯も髪留めもかなり高そうに見えた。撫子の態度も相まって、柄にもなく緊張してしまうほど色気があった。素肌を見せるのとは無縁の服装なのに、どこか吸い寄せられるような、そんな魅力が先ほどの撫子にはあった。

 …いや、違う。そうじゃない。丁寧さはあったが、撫子はまったく―――

 

 

「…()()()()でした」

 

「ひひっ…」

 

「………」

 

「すまないな。そうかそうか、アレは普段通りだったか!」

 

 

ひとしきり笑った後に、大和氏はもう一枚の書類…いや、写真か?それを取り出す。そこに写っていたのは幼い頃の撫子と、数人の女性たち。そして今とほとんど変わらない…髭の長さくらいか?大和氏が写っている集合写真だった。

 

 

「これは?」

 

「家族写真だ。…さて、今度はどうかな?」

 

「………」

 

 

これも不自然さは…いや、これは………。さきほど手を合わせて来た男性が、いない。

 

 

「…西園寺さん、何故…あなた以外の男性が写っていないのですか?」

 

「…ひひっ、ひひひ!」

 

 

特徴的な嗤いを、今度は隠そうともしない。喉を引きつらせるような声と共に、こちらを見る視線には嘲るような色すら感じる。ひとしきり肩を揺らした後に大和氏が三度、投げ渡した紙面を受け取り再び目を走らせる。

 …?これは、家系図か?一番下には西園寺紗雪とあり、その上には撫子の名前がある。…これは。

 

 

「撫子さんには、子供がいるんですか?」

 

「ああ、その通りだ。婚約者としては衝撃もあろうが、許せ」

 

「………いえ。お相手は誰なんですか?」

 

「ん?さっき手を合わせて来たのだろう()()よ」

 

「………?」

 

 

…実の父親と、ということか?近親相姦?…古い家ならありえるのか?しかし、道中にすれ違った撫子の表情からは親しい身内を失った悲壮感はなかった。憎んでいる相手だったとしても、普段通りの理由にはならない。…それなら、いったいどうなっている?

考えを巡らせていると、こちらの反応の無さがツボにハマったのかまた特徴的な嗤い声。今度は手をヒラヒラと動かして、近くに来いとばかりに手招きをしてくる。

 

 

「ここからの話は身内だけの密事(ひめごと)よ。義理とはいえ君は私の息子となるのだ、聞く権利がある」

 

「…はあ、それはどうも」

 

「とはいえ、君の父親…篤臣君はあくまで他人。()()()、隠し事をするのが心苦しいなら…」

 

 

試すような…しかし確信めいた問いかけ。…おそらく俺と父親の関係も知っているのだろう。俺が否は無いと首肯すると、噛み殺すような笑いと共に大和氏は耳元へ囁いた。

 

 

「実はな…撫子の子供…紗雪の親は…。………」

 

「………?」

 

 

耳を傾けるも、肝心な所で言いよどむ大和氏。思わず顔を向ければ顎に手を置きなにか思案気だ。しかし考えを纏めたのか、わざとらしい内緒話の体をやめて一言。

 

 

「―――いや、紗雪以外の、だな。既に遠行*1したものが大半だが、撫子とその母、父、またさらにその母親まで、全て私の()()だ」

 

「…………………………………………………は…?」

 

 

―――そうして俺は撫子の、そして西園寺家の成り立ちを聞くのだった。

*1
死ぬの意




読了、ありがとうございます。
次回で実家パートは終了の予定。

次回は番外if編を除き丁度100話目。
記念であると共に、非常に陰鬱な内容となっております。
冒頭でも触れる予定ですが、閲覧にはご注意をお願いすると思いますが、よろしくお願いいたします。

それでは次回も、お楽しみにお待ちください。

2年生編について、アンケートです。やりたい要所の場面だけやって更新を早くするか、ちゃんと順序立ててやるべきか、どっちが良いでしょうか、皆様!

  • 更新優先、2年生編は要所を書いて投稿。
  • ストーリー優先、順番に巻順に進める。
  • if番外編とかもみたい?
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