ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ   作:エカテリーナ

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お待たせしました。
100話目、そして話の根幹に触れる内容となります。

※※※

この話には鬱要素、不快な表現などが多分に含まれます。
気分が優れなくなった方、設定が耐えがたい方はブラウザバックをお願いいたします。

※※※

………本当によろしいですか?
念の為、内容を柔らかくしたものをあとがきに記載しますので
そちらを読めば続きに関しては矛盾なく楽しめると思います。
以上、よろしくお願いいたします。








……………それでは、どうぞ。


⑤:地獄と天国

―――〇―――

Side.綾小路 清隆

 

 

時間は進み、黒塗りの…なんという車種かは分からないが、革張りのシートが高級そうな車に背中を預けネクタイを緩める。学校に帰る頃には夜になっているだろう。ルームミラーに沈んでいく夕日に目を細めながら、俺は大和氏の言っていた言葉を思い返す。

 

 

『西園寺の血は呪われている』

 

 

そんなオカルト染みた話から始まったのは、西園寺という家の成り立ちだった。途中に茶を頼み、茶菓子が来て昼飯を相伴に預かる(食事中にする話では決してなかったが…)位には時間がかかった内容は、やはりなんとも現実味のないもので。

 

 

内容は要約すれば―――旧華族とやらの古い歴史を持つ西園寺家が、なんやかんや有って興隆を極めた。そんな折、()()によってこれまた歴史ある祈祷の大家だったか、神主のどうだかを蔑ろにしたところ急激にその血は衰退することになる。()()()()()()()()()()そうだ。

 

正確には違う。外の血を、受け入れなくなった。流産、死産、不妊に病死。そうして西園寺の家は血を絶やさぬために、決して外には漏らせぬ近親相姦(ひみつ)を抱える事となった。

しかし生まれる子は女児ばかりで、親族からの男を引き入れてもその数は減るばかりだったらしい。

 

―――大和氏が、西園寺の家に待望の男児が生まれるまでは。

 

 

『事実、俺が生まれた時の喜びようはそれは大層なものだったらしいぞ』

 

 

カラカラと嗤う大和氏はその後、精通をした日の夜には自分を生んだ母*1と契った*2そうだ。その次は伯母*3とも交わり、親戚の女性と幾度も交わり、果ては()()()()()()()()()()()とも、初潮が来たその日に契りを交わした。

 

 

この時点で俺は受け取った家系図を二度見、三度見していた。聞けば大和氏の妻*4は伯母との娘であり、その間の子は撫子の父親*5で、その妻*6は大和氏の実母との娘。

…地獄か?撫子より上の世代が全員大和氏と肉体関係を持っていて、かつ親子関係まで?

 

だが大和氏も自分の子である西園寺子規という()()が生まれてから、きちんと科学的にも調べることに。分かる範囲では、西園寺の女性は遺伝的に子を成し辛いこと。そして男児であった為か、大和氏はその法則に当てはまらず結果的に子供を作ることが出来た…()()()

 

 

らしいなんてあやふやな言葉を使ったのは、その説明をした後の大和氏から言われた説明に衝撃を受けたからだ。

なんでも大和氏はそれから、自分の母親や従妹、実の子にすら様々な男性と()()()子を成すように命令したという。

 

 

『結局上手く行かなくてな。…幾度も()()()()させたが、子を成せぬばかりか心身を病んだ者も出る始末よ』

 

「………」

 

 

不甲斐ないと吐き捨てられた言葉の裏で、撫子の身内の多くが鬼籍に入った理由を知る。

自分の望まぬ性交を、何度もすれば当然とも思う。噂を真に受ければ、女系家族なのだから尚更だ。

 

しかし、大和氏に言わせれば自分も同じことをしたのだし、お互い様だと。

 

だがそこで誤算が起きた。男児である西園寺子規…撫子の父親(当然、籍だけだろうが)が家出騒動を起こしたということだ。家出の理由は、大和氏への反抗。身内までもが協力したそれに大和氏が折れるまで数年、彼は当時10歳にも拘わらず追手を振り切り続けた。

 

その後に紆余曲折があって、ようやく子規氏は許しを得て薫子さん(撫子の母親)と結婚を果たす。当然近親ながら、二人の間には確かな絆があったようで、その時までは大和氏も頭を悩ませながらも我が子の我儘を許容していたそうだ。―――二人の間に、子が出来ないと判るまでは。

 

1年。そして2年と年を重ねる内に待望は失望へ、期待は焦りへと変わっていく。その間も撫子の母親は石女(うまずめ)*7、出来損ないと酷く責められ続けたそうだ。

 

 

そして、ある日。ストレスに病んだ撫子の母親が言い出したことなのか、あるいは大和氏の気紛れだったのか。実の親子二人は一夜を過ごし―――()()()()()()()

 

 

『ひひっ…』

 

「………」

 

 

その事実がどう作用したのかは、特に語られることは無かった。その後の事だけ言うのなら、父親の子規氏は家を半ば出る形で医学を志すに至り、母親は撫子と引き換えに身罷(みまか)*8こととなった。

 

生まれた撫子はすくすくと育ち、聡明に従順に、そして次代の母体として期待される中、徹底的に教育(ちょうせい)された。『亡き母親のようだ』と呟いた乳母には暇を出し、『親を殺した忌み子』と陰で囁いた使用人は即日、家を追い出されたらしい。

 

その成果が学校での彼女の様子…まさに無菌室で育まれた撫子は純真無垢なまま―――家の秘密(こと)をなにも知らず―――初潮(そのとき)を迎える。撫子が中学生の頃だったそうだ。

大和氏としてはその日にでも()()()()としていたが、それまで音沙汰も無かった子規氏が突然、彼女を屋敷から連れ出してしまったのだ。当然、大和氏は激怒。直ぐにでも取り戻そうとした。

 

だがここで大和氏、子規氏ともに誤算が発生する。屋敷から連れ出した撫子には軽い睡眠導入剤が使われ、一時的に意識が奪われた。…だが当の撫子は、全く目を覚まさなかった。彼女は非常に薬が()()()()()体質だった。

 

以降、彼女は半年に渡りそのまま入院生活となる。これには両者ともに困り果て、彼女が目覚めるまで一端、矛を収めることになる。

 

・・

 

まるで童話のように、いつ目が覚めるとも分からぬ白雪姫となった撫子。

その入院に際し、大和氏は西園寺の手の及んだ病院への入院を手配する。

そして撫子の主治医として子規氏があたることとなった。

 

反目しあっていた親子のもと、手厚い治療と看護の結果、それが実を結んだのか撫子は意識を取り戻し―――そこで、

 

 

『そこで、撫子が()()()()()()ことが明らかになったのよ』

 

『………子規氏は、子供が作れなかったのでは?』

 

『ひひっ…!』

 

『…?』

 

『滑稽よな。子規のやつめ、子飼いに娘を()()()にされて、腹が膨らむまで気がつかなんだっ!』

 

 

そこで、撫子の体質が明らかになった。

 

彼女は()()()()()()()子を成せて、かつ他人よりも子を身籠りやすい体質である、と。

 

…その()()()とやらも子供が出来ないと高をくくっていたんだろうか。いや、どちらにせよ杜撰な管理体制で撫子から目を離した子規氏が軽挙だったんだろうな。

 

 

『目を覚ました撫子は夢現が定かになるまで時を要した。…まあ、直視するには酷な話よな』

 

『…そうですね』

 

子規(アレ)がその後にしていた夫婦(めおと)真似事(ままごと)も、撫子の為と言っていたが所詮はお為ごかし。己が傷心を慰める為の方便にすぎぬわ、下らん』

 

 

愉快そうに嗤ったと思えば吐き捨てるように言い捨てる。本当に子規氏の事が気に食わなかったみたいだ。その原因となった不埒な輩の話は終ぞなかったが、どうせロクな目にはあっていないだろう。

 

そこから大和氏は上機嫌に、

〝いかにして子規氏が撫子への()()を黙っているようにと懇願したか〟を語ってみせた。

 

かつての愛した女性の忘れ形見を守ることも出来ず、挙句の果てに目を離したすきに傷つけられる始末。

どれだけその事を悔やんだのだろう。そしてどれだけ、その秘密を隠す為に身を削ったのだろう。

 

子規氏は撫子に、永遠に『自分は父親だ』と名乗る機会を失うこととなる。己を仮初めの婚約者として撫子を扱い、自らの血を引かない我が子(撫子)の心を護る一心で生きたのだろう。

 

そしてその秘密は、本人が死ぬまで護られ通した訳だ。…()()()()、は。

 

 

『まあ結局、奴は誰一人として種を残せなんだ。何も残す事なく果てるとは、親不孝にも程がある。そうは、思わないか?』

 

『………さあ、どうでしょう』

 

『すまないね。君も父親とは…ひひっ』

 

『………』

 

『まあ、死に際に撫子を私の名前で坂柳さんの所に逃がされたのは予想外と言えばそうだが、その約定もアレが死んだ以上、所詮は口約束よ』

 

 

…まさか、撫子はこのまま家に閉じ込めるつもりか?そう思ったら顔に出したつもりはなかったが、大和氏から否定される。

政治がらみのゴタゴタは勝手にやっていて欲しいものだが、撫子――西園寺の家の力を欲する政治家は、俺の父親以外にも数多あるようで。

 

そういった意味でも、リスクを避けるために政府直下の学校に居る現状は都合がいいようだ。…言葉の陰には『つまり俺でなくとも』というような色を感じたが。今はこれで十分だ。

 

 

『今日は会えて善かった、また会おうぞ』

 

『…こちらこそ、これからもよろしくお願いします』

 

 

その後、上機嫌に嗤う大和氏に別れを告げる。初めての顔見せはどうやら上手くいったようだが、気が重い。

帰り際には土産の代わりなのか―――『撫子(アレ)の事は、君に任せよう』…などと、ありがたくもないお言葉に加え、撫子宛ての手紙を預かるのだった。

 


 

車が目的地に止まったことを契機に、意識を現実へと戻す。しかしそこは朝に出発した学校ではなく、どこかのホテルの駐車場だった。運転手兼、学校の監視員である職員によると今日はここに泊まるようにと指示を受ける。俺は受け取ったルームキーを手にエントランスに入り、ホテルのスタッフに案内されるままエレベーターで()()()へと案内された。

 

 

「どうぞ、綾小路様。お休みなさいませ」

 

「…どうも」

 

 

恭しく礼をするスタッフにお礼を言って部屋に入ると、薄暗い部屋には直ぐ明かりが灯る。そこは学校の寮の部屋どころか、以前の豪華客船の部屋すら比べられない広さや豪華さに気が付く。映画やドラマに登場するような、金持ちが止まるスイートルームとはこういう部屋なんだろうと感動していると、あることに気が付きピタリと足を止める。

 

油断なく、ゆっくりと入口からは死角となっている―――ベッドルームだろう、そこに目を向ける。

 

 

「誰だ」

 

「……っ」「………」

 

 

息遣い。一つは普通の、そしてもう一つは訓練しているように息を殺しているのが分かる。刃物を警戒し、ジャケットを脱いで腕にかけ襲撃に備える。二人は隠れるつもりは無かったのか、俺の声に従い少女たちが姿を見せる。

 

 

「あはっ、流石ですね、()()()()

 

「………」

 

「………」

 

「え~?無視ですか?それがず~っと退屈なのを我慢して、待っていた後輩への仕打ちなんですかぁ?ひっど~いっ!」

 

「………後輩、か」

 

 

マシンガントーク気味な少女―――赤髪をツインテールで結った、美少女といって過言ではない彼女―――の言う先輩、そして後輩という言葉に確信する。もう一人の金髪の少女は兎も角、こいつは確かに俺の()()なんだろう。

 

 

()()()だ?」

 

「―――あはっ」

 

「っ…」

 

 

心底嬉しそうに、その実どこか泣きそうな表情で笑う少女と、反面、こちらを警戒するようにキッと睨みつけて来る少女。

この二人がなぜ部屋に居たのか、そしてどうしてそんな()()をしているのか、父親(あいつ)の意向なのか、それ以外の思惑なのか。疑問を解消するためには俺は、質問を続ける他ない。

 

 

5()()()、ですよ。綾小路…清隆、先輩」

 

「そうか。…それでお前は「天沢一夏」…」

 

 

遮られた言葉はどこか熱が籠っていて、初めて出会うはずなのにその瞳には焦がれるような光が爛々と輝いている。

 

 

「一夏、って…呼んで下さい?先輩っ」

 

「…天沢。それでお前は、お前達は何の用で此処にいる」

 

「え~、ツレナイですね、そんなんじゃ教えてあげませんっ!ね、七瀬ちゃん」

 

「あ、天沢さん…私は、別に…」

 

 

七瀬と言われた少女の背中に回り、こちらを揶揄うように女子特有の距離感で触れ合っている。一方、絡まれた側の七瀬は俺に向ける敵意は隠さないのに、天沢へはどこか困惑したような態度をみせている。その様子から、二人は知り合って間もないのかもしれない。

 

 

「はぁ…」

 

「………むっ」

 

 

ため息をついてジャケットを高級そうなソファーに放ると、天沢は頬を膨らませて怒ったような表情で距離を詰めてくる。指で胸元をつつくような仕草で文句をちくちくと言って、少し…いや、かなり面倒だ。まるで付き合いたてのカップルのようなそれをジッと見続けているとようやく満足したのか、腕を組みながら不満げに文句を言ってくる。

 

 

「もう先輩ったら、もっと女の子の扱いとか、ちょっとは褒めるとかさあ…」

 

「そんなことはどうでも良い。本題に入れ」

 

「…はぁ。もう、分かりました。…はいコレ」

 

「…これは?」

 

 

そういって(何故か胸元から)差し出した手紙には蝋でしっかりと封をしてある。中を取り出し読めば内容には目の前の二人の事が書いてあった。

 

天沢一夏。来年のAクラスの新入生にして、ホワイトルームの5期生。同期にBクラスへと編入予定の八神拓也がおり、付き合いは長いこと、()()()()()、それが彼女の弱点となるということ。

 

そしてもう一人の少女、七瀬翼。彼女には俺達のような特別な生い立ちは無いものの、俺をこの学校に送り込んだ松尾の一人息子、栄一郎と幼馴染であることが記されている。チラリと七瀬に視線を向けると、相変わらずこちらを敵視している。何故、こちらにそんな視線を向けるのか。その理由は読み進めた先にあった。

 

―――松尾は父、綾小路篤臣の怒りを買い焼身自殺に追い込まれている。その煽りを受けて、息子の栄一郎も日々の生活に暗い影を落としている、と。この七瀬翼という少女に、誰が何を吹き込んだのかは想像に難くない。彼女についても天沢と同じく、その栄一郎とやらの存在を利用しろとまで書かれているんだ。

 

 

「………はあ」

 

「「………」」

 

 

思わず今日何度目かのため息をつく。どうやら、俺だけじゃない。目の前の二人もともすれば、関係する多くの人間すら大人連中の政治()()()の駒として人生を振り回されている訳か。

 

 

俺は読み終えた手紙を部屋に備え付けのライターで焼却処分すると、改めて二人に向き合う。ニヤニヤとしている天沢と、ギュッと腕を組んで身を守る七瀬。二人の態度は正反対だが、手紙の内容が示す事実は等しく一つだ。―――すなわち、この二人を利用(つか)えということなのだろう。

 

 

「そ・れ・でぇ…先輩、先輩っ♪」

 

「なんだ」

 

「どっちから、()()()しますかっ?」

 

「…」

 

「っ…!」

 

 

しなを作って上目遣いをする天沢と、カッと顔を赤くする七瀬。想像していなかった訳じゃないが、やはりそういうことか。俺は天沢と無言で目を合わせると、焦れた様子でこちらを揶揄う…いや、挑発するように言葉を重ねる。

 

 

「もう、先輩のエッチっ!ず~っと()()の下、気にしちゃってたんですよね~?見たいですか?見たいですよねっ?」

 

「…それを見る為に、お前から目を離すのは恐ろしいな」

 

「きゃっ!そんな…目を逸らせないなんて、情熱的っ。すっごいの履いてるんで、楽しみにしてて下さいねっ!」

 

「………」

 

 

ひらりとスカートの端をつまみ、誘惑するようにはためかせる。よほど自信があるのか、それとも何かを隠す為か?その視線から逃れるように、天沢は身を翻して七瀬の傍に身を寄せた。

 

 

「あ~!またその…『うわ…なんだコイツは…』みたいな眼してる~いけないんだ~。…あ、それとも先に七瀬ちゃんから頂いちゃいますか?」

 

「ちょ、天沢さんっ!?」

 

「実際、コレに着替える時にお風呂頂いちゃったんですけど…あ、後で一緒に入りましょうね!で、七瀬ちゃんスタイルすっごい良いんですよぉ~。ほらっ、このお胸も、もっともっと繊細な所も、好きにしちゃって良いんですよぉ?先輩っ!」

 

 

七瀬の後ろに回り胸を鷲掴みにした天沢と、それに抵抗しようとしてコチラの視線に気が付きロクに抵抗が出来ない七瀬。二人の格好は一つ年下の少女たちがするには相応しくない、露出が多く女性の性を強調するデザインのものだった。

 

紫色のパーティドレス…しかし胸元がかなり開けれており、更に下半身を守るスカートはかなり短く、ほんの少したくし上げたら中を覗かせるだろうそれを着こなす天沢に、水色のナイトドレス…靴下や髪留め、身に着ける装飾品まで瞳の色に合わせ、魅力的なスタイルが非常に映えている。

 

 

「天沢さん、ちょっと…やめて下さいっ。未だ私は…!」

 

「ねえせんぱ~い。さっきの手紙の中身、当ててあげましょうか?」

 

「言ってみろ」

 

「ズバリ…私たちの弱み」

 

「っ!?」

 

「………」

 

 

正解。流石、あの部屋で教育を受けただけはある。

 

その言葉に、抵抗していた七瀬は身体をビクリと強張らせる。天沢も笑みはそのままだが、どこか諦観を浮かべたような、かつて俺に敗れた同期生のような…そんな色を眼に宿している。逆に怯えの色を滲ませたのは七瀬だ。先ほどまでの敵対的な態度が弱り、生唾を飲んでこちらの一挙手一投足に注意を向けている。

 

 

「ぶっちゃけていうなら、私たちは()()()()なんですよ、先輩の西園寺撫子(ホンメイ)の為の」

 

「………」

 

「先輩はこれから、あの超ド級悩殺ボディ黒髪ロングの、可愛くてちょー美人で現代で絶滅危惧種の大和撫子なんて一粒で二度も三度もオイシイ西園寺撫子様を、()()()て、自分の()()にしなきゃいけない。それは当然、理解してますよね?」

 

「…あ、ああ」

 

「で、その為には絶対に女性経験(エッチ)もしないとでしょ?…でもまあ、仮にどんなに性格悪くてもあのおっぱいなら男の大半は悦ぶんでしょうけどっ!」

 

 

あー妬ましいと、冗談なのか本心なのか愚痴を言いながら、天沢は俺の手を引いてベッドルームへと進んでいく。…というか、どんな呼び方だ。何一つ間違っていないのは兎も角、撫子は性格はおしとやかな大和撫子そのものだぞ。

 

そんなことを思いつつ、手を引く天沢を警戒したままでいると部屋の明かりを落とされる。ほんのりと目の前の相手が見える程度の明るさ。そこから伸びて来る天沢の手が、俺のワイシャツへとかかる。

 

 

「だから…これから先輩には、私と七瀬ちゃんを自分の()()にして貰います」

 

「………」

 

 

しゅるりとネクタイが解かれる。解放された首元に、背伸びをした天沢が顔を埋める。シャンプーか、それとも香水だろうか。どこか花の香のする後輩は、ジッと上目遣いのままに言葉を重ねる。

 

 

「私は…まあ、イージーモードです。貴重な後輩美少女ポジションにして…先輩のこと、とっても尊敬してますからっ」

 

「………」

 

「でもでも~?七瀬ちゃんは、いきなり超ベリーハードモードです。なんたって、好きな人が「天沢さんっ!?」あ~内緒だった?ごめんごめん、…まあ、そういうわけで、今夜と、明日いっぱいで先輩は私と七瀬ちゃんをドロドロに蕩かして、メロメロにしないといけません。…淡い憧れや、恋心なんて塗りつぶすくらいに、ぐちゃぐちゃに」

 

「天沢さんっ!」

 

 

俺は天沢の言葉を遮った七瀬に目を向ける。手紙にもあった、松尾の息子の事だろう。彼女の中にも葛藤があったのだろう。その選択の果てに、この場所に来たのか、それとも雰囲気に流されただけなのか。俺はそれを知りたかった。

 

 

「まあほら?撫子様に好きな人とがが居ても、『俺が寝取ってやる』…ぐらい言って貰わないと困るっていうか……先輩?」

 

「七瀬はどう思ってるんだ」

 

「え?どう、って…なんの」

 

「天沢は分かる。だがお前はどうなんだ?…何故、こんなところにいる」

 

「それは…」

 

 

まだなにかのたまう天沢を無視して、七瀬に向き合う。どんな事情があったとしても、コイツと栄一郎とやらは()()だ。ホワイトルーム生(おれ達)とは違う。その程度の距離感なら見捨てるなり、もし身を削ってでも助けになってやりたいなら他にいくらでも手はあるだろう。

 

俺に直接的に「助けてほしい」と言うのも手だし、ここまで敵視する意味が分からない。少しだけ訪れた静寂を茶化すように、天沢が俺の胸板にしなだれかかって囁く。

 

 

 

「…先輩、鬼畜過ぎないですか?それを聞くのはなんていうか、()()ってヤツじゃないですか?」

 

「黙っていろ」

 

「…はぁ~い、黙って脱ぎ脱ぎさせま~す」

 

「おい」

 

 

ボタンに手をかけてくる天沢の手を抑えると、その手を自分の胸元に抱き込む様にしてこちらを挑発してくる。腕を解こうと肩に手をかけるとそれをひょいっ、と避けてむしろ掴んだ掌を自分の胸に押し当ててきた。

 

 

「んっ…せんぱぁい、大胆っ」

 

「っ…!」

 

「お前…それで、七瀬。別に強制はしない。もしお前に不利益があるなら俺から「平気ですっ!」…いや、別に「結構です!」…」

 

 

顔を真っ赤にしながら、七瀬は目の前のキングサイズのベッドに仰向けで寝転がる。高級なクッションは音を立てることなく彼女の身体を受け止め、暗闇でも白いシーツとの対比で彼女の赤い頬が良く映える。

 

七瀬のあまりの勢いに、クスクスと笑いながら天沢もベッドへと乗ってその隣に腰かける。二人の美少女が、緊張と興奮に満ちた表情で自分を見上げている。かたやそれを受け入れるように。かたや、それに抗うように。俺もここまで年下の異性に覚悟を決められて、逃げる訳にはいかないだろう。

 

 

「最後に確認する。…本当に構わないんだな?」

 

「いつでも大丈夫で~す」

 

「だ、大丈夫ですっ!でも、その…あなたを好きになるつもりはありませんからっ!」

 

「やんっ、七瀬ちゃんそんな…身体だけの関係なんてそっちの方がエッチな響きじゃない?」

 

「そ、そんなつもりはっ!」

 

「え~?だってこれから先輩に抱かれながら、『○○さん、ごめんなさい…でも、心はあなたの事を…』って思いながらアンアン鳴かされちゃうって考えると…やば、興奮してきた」

 

「わ、わーっ!あ、天沢さんっ!貴女なにを言ってるんですかっ!」

 

 

冗談交じりにじゃれつく天沢に、七瀬も肩の力が少しは抜けたようだった。きっと七瀬は俺を受け入れつつも、心の中での一番は思い人に捧げるのだろう。そして天沢は揶揄いつつも、内心見下して挑発してきているのだ。

 

 

何時までもマウントを取らせていてはコイツの言う自分(オレ)のモノにするなんて夢のまた夢だろう。余裕をぶっている後輩の意表を突く為に、俺は天沢に覆い被さるようになると抵抗できないように両手を束ねて押さえつける。

 

 

「きゃっ、…せん、ぱい?」

 

「随分と余裕だが、ホワイトルームで性教育なんてカリキュラムが追加されたのか?」

 

「え、と。…そ、そうだって言ったら先輩は「嘘だな」ひゃんっ!」

 

 

意識をしていなかった脇腹への刺激に、声を漏らす天沢。半分ブラフだったが、あの施設はあくまで天才を作る為の箱庭だ。すなわち、脱落した同期や先輩たちならともかく後輩のコイツがそんな経験を積むような可能性は低いだろう。声を抑えようとしても、両手は使えない。悔し気に見上げる天沢を見下ろすように、覆い被さる。

 

 

「あ…」

 

「………」

 

 

去年までの俺なら分からなかったと思う。だが一年間、あの部屋では学べなかった学校での様々な人間との経験と時間が俺には蓄積されている。

目の前の天沢が、ただ強がっているだけの少女だと、そう確信付けた。

 

 

「あ、あはは…情熱的ですね、先輩。ちょっとエッチな本とかの読みすぎなんじゃないで、んっ…!」

 

「そういうお前は経験豊富そうだな。余裕があるようにみえるぞ」

 

「っ、…あう…」

 

 

余計ばかり囁く唇は、徐々に窄んでいく。幸い七瀬は大人しく見ていてくれるので、遠慮なく天沢の余裕をはぎ取っていく。徐々に抵抗らしい抵抗もなく、言葉も険が取れ懇願するようなものへと変わっていく。

 

ドレスの肩紐を直す余裕もないほど着崩して、肩で息をしている。煽情的な天沢に俺もそろそろ()()()なってきた。ゴクリと生唾を飲んだ七瀬の前で、ソレを解放する。

 

 

「え…ええっ…!?」

 

「…おっ…きい…」

 

「………」

 

 

やはり、同世代より大きいのか。以前の混合合宿でも風呂場で言われたが、あの時と違い今は用途に合わせて大きくなってる。丁寧に天沢のドレスも、その下に見える深紅の下着もゆっくりと視線を這わせ最後に彼女の黄玉色の瞳と目を合わせる。

 

 

「………いいか、()()

 

「あっ…」

 

 

せめてもの誠意として、彼女の望んだ通りの名前で呼ぶ。驚く彼女には悪いが、今この時に至って俺も昂っているのを自覚する。ダメだと言われても、きっと止めることは出来ないかもしれない。

 

 

「あう………」

 

 

だが、それならそれでいい。相手(エモノ)はもう一人いることだしな。ちらりと視線を七瀬に向けると、気の毒なほど肩を揺らしている。だが、その心配はどうやら必要ないようだった。

 

 

「………えっと」

 

「ああ」

 

「その…ほんとの、本当は……初めて、で」

 

「…ああ」

 

「………や、優しくして下さいっ」

 

「……善処しよう」

 

 

―――その言葉を皮切りに、俺は天沢と七瀬を貪った。

 

 

・・

 

 

ホテルに着いたのが土曜の夜。そしてこの部屋から嬌声が収まったのが…日曜の夕方。

…実に丸一日近く、俺は我を忘れて二人と行為(セックス)に耽っていたのか。

 

荒い呼吸を繰り返す二人を尻目に、ルームサービスを適当に頼む。…初めてのやりとりで内心緊張したが支払いなどはその場ではなく安心した。

部屋の来客を告げる通知にドアを開ければ、そこにホテルマンはおらず料理が乗ったワゴンカートがあるのみ。…教育が徹底されているんだろうか。

 

二人を起こして、身支度を整えた後に食事を取る。二人の様子は対極的で、ニヤニヤと笑いながら谷間を見せつけ、素肌にシーツを巻いただけという格好の一夏。

顔を赤くして俯き、腰を庇う様に…正座を崩した座り方*9。シーツだけは心細かったのか、備え付けのバスローブを羽織っている翼。

 

お互いに恥ずかしさを越える経験を得て、心身の距離は縮まったように思う。小休止にはピロートークというのだろうか、感想(ブリーフィング)を重ねていたがそれとは別物に感じる。

食事を終え、シャワーを浴び(湿り気を帯びた髪は殊更に煽情的だった)疲れから誰ともなく寝室のベッドへと入り―――第、何ラウンドかは、もう分からないが―――()()を、再開するのだった。

 

 

「ん…せんぱぁい、こんなに()()、撫子様に告げ口しちゃいますよ?…きゃぅっ!」

 

 

最後まで蠱惑的な一夏は徹底的に上下関係を叩きこんだ。言葉でも、身体でもどちらが主人でどちらが飼い犬なのか。終始からかうような態度は崩さなかったが、それはいわゆる『誘い受け』というものらしい。

一夏本人に()()()混じりに説明させてからは、挑発は期待の裏返しだと理解した。ホワイトルーム生だけあって体力は翼より圧倒的にあり、様々な体位やシチュエーションで()()を重ねた。

 

彼女は行為の最中でも言葉を交わすことに飢えていた。正解を返せば甘え、不正解ならからかう。随分と女性への言葉選びを上達させられた。

 

 

「…あ、綾小路先輩、私は…それでも、……んっ」

 

 

翼…七瀬の拒絶は常に罪悪感が混じるものだった。名前呼びも行為の最中は許しても、普段は苗字で呼ぶように徹底するほどだ。

 

それでも身体は正直というか、徹底的に攻め続ければ仮面は徐々に剝がれていった。一度決壊すれば気絶するまで乱れて、目を覚ませばそれを悔やむ。一度冷めれば罪悪感と共に見せかけだけの拒絶を繰り替えす。たった1日と少しの間に何度も繰り返したそれは、一夏じゃないがもうそういうプレイか何かじゃないかと思ったほどだ。今では名前で呼べば身体を震わせ期待に頬を赤らめるようになった。

 

彼女は常に心を守ろうとしていた。それを宥めすかし、時に挑発して時に慰めた。徐々に俺へと心を許そうとして、それを留めようとする二心に揺れる翼はとても興味深かった。

 

 

「…時間か」

 

「「……」」

 

 

時計を見れば。月曜日の早朝といったところ。二人には一度火がつけば俺に懇願するように教育(しつけ)を施した。時間切れとなった頃には二人とも腰砕けになっていたが、入学後にはまた続きをすると言えば、口はともかく目には怯えではなく期待が宿っていた。

 

二人の献身に応えるためにも、まずは目先の特別試験を乗り越えることとしよう。

…それはそれとして、まずはシャワーでも浴びるか。

 

 

その後、汗を流すだけの予定が乱入して来た一夏や、甲斐甲斐しく服を着せようと身を寄せて来た翼のせいで時間ギリギリになってしまった。

 

俺は聞こえていないだろう二人に別れを告げて、部屋を去るのだった。

 

*1
詩乃

*2
性交の意

*3
母の実姉

*4
華子

*5
子規

*6
薫子

*7
子を産めない女性への蔑称

*8
死ぬの意

*9
女の子座り。ぺたん座りとも




読了、ありがとうございました。

読むのを中断、注視した方へ、あらすじを箇条書きで書いておきます。

・撫子ちゃん家は呪い的な雰囲気で女の子ばっかり産まれるし血縁以外じゃ子供を作れなくなってたよ。
・そして撫子ちゃんのお爺さん、大和さんが生まれてからはガンガン産ませる為に色々したよ。
・撫子の子供、紗雪さんの父親は撫子の父親…ではなく、その時の仕事の部下だったよ。当然、無許可不同意だよ。
・それを誤魔化す為に、撫子パパは「自分が婚約者だよ!子供も自分との子だよ」って撫子に刷り込んでいたよ。撫子はその頃ぽわぽわしてて記憶が定かじゃなかったよ。
・その為に頑張って撫子パパも子作りを何度も何度もさせられてたけど、この前死んだよ。
・綾小路君は帰りがけにホテルに行くと、天沢と七瀬が居て色々と女性について詳しく勉強したよ。校外学習だね。






※※※
以下、読了後のネタバレになります。







■撫子の事後の記憶について。
撫子は睡眠導入剤の服用した結果、当時の人間関係についてふわふわとしか覚えていません。
(※RTAの設定的には、死んだキャラや退場キャラについては認識が希薄になるのと同義)

■出産や性交について
知識はありますし、出産に際して自分が身籠ったことも理解はしていますが相手や子供の事については必要以上に気にしていません。
(※お家の命令や血を繋ぎ子を成すことが絶対という教育が為されてますので、大和氏が「産め」と言えば唯々諾々と従います)

■西園寺 子規(撫子の戸籍上の父親)について
家出の理由は自分と同世代の薫子(撫子の実の母親)や親世代、分家の従妹などが近親相姦を繰り返す家に嫌気が出したのが一番。
そこで家の外の常識を携えて出戻った為、撫子へのお勤め(近親での子作り)を許せず誘拐まがいの方法で連れ出した常識人。

■二年生編の二人について
当然、綾小路パパからの気遣い(感謝はされない)です。二人とも二年生編で登場予定ですが、最初から綾小路の味方として入学します。



以上となります。

以降はいろんな意味でタガが外れた綾小路君のパーフェクト試験対策が始まりますので、
お楽しみにお待ちください。

2年生編について、アンケートです。やりたい要所の場面だけやって更新を早くするか、ちゃんと順序立ててやるべきか、どっちが良いでしょうか、皆様!

  • 更新優先、2年生編は要所を書いて投稿。
  • ストーリー優先、順番に巻順に進める。
  • if番外編とかもみたい?
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