ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ   作:エカテリーナ

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お待たせしました。

ここから場面は特別試験に戻ります。
追記しながら進めていきますので、多分次は金曜目安くらいにお待ちください。

それでは、どうぞ。




⑥:Shall we dance ?

―――〇―――

Side.椎名 ひより

 

 

今週末は特別試験。…そんな時でも、私は構わず図書室に来ていた。普段なら、撫子お姉様と共に過ごそうとしましたが生憎と忌引きで今は実家に戻っているそうです。

 

最近の私は自分でも思いますが、かなり充実していると思います。

尊敬する撫子お姉様と同じ教室で過ごせて、趣味の合う友人も居る。今日はその友人…綾小路君にお勧めする本も捜しに来ています。

 

本は良い。新たな出会いを探すのも良いですが、以前に読んだ名作のある一章、一節がふと読み返したくなる。

懐かしさがより味わい深いスパイスとなって、以前より深く感動を覚えたり、気が付かなかった伏線や意図に気が付く。

記憶よりもつまらなく感じても、それはそれで良いんです。全部が全部、面白くて感動的で胸が熱くなる…そんなものの方がつまらない。

だから私は推理小説(ミステリー)夢物語(ファンタジー)、純文学も楽しんでいる。それがハッピーエンドでも、悲恋であっても、私の心を満たしてくれることは変わりない。

 

 

「あの、椎名さん」

 

「…?佐倉さん、珍しいですね…ここで会うなんて」

 

 

集中していたのか、呆けていたのか。声をかけられて初めて誰かが居たのに気が付きます。そこに居たのは長髪を二つに結った女子生徒…佐倉愛理さんでした。

なんでも雑誌に載るほどの美少女然とした彼女との接点は、撫子お姉様がきっかけ。

会う内にお互い、あまり騒がしいのは好んでいない事やお姉様をお慕いしている共通点が有って、あとは彼女は撮影が得意で撫子お姉様のお写真などを同志*1経由で何度も拝見しています。

 

そんな彼女が、撫子お姉様が居ないのに図書館に来るという事は、私に用が有っての事でしょう。

私が先を促すと、何度か言い淀んでいましたが意を決したのか口を開きます。

 

 

「あの、椎名さんにお願いがあって…」

 

「…?これは…」

 

「これを渡して欲しいんです………きよ、っ…綾小路君に」

 

 

そう言った彼女の表情には、覚えがある。

見た訳でもなければ、聞いた訳でもない。私の頭の中にしかない登場人物のもの。

 

ちょうど彼に勧めようとしていた群像劇を題材にした小説。

その中に登場するヒロインの一人で、主人公を傷付けてしまった彼女と、目の前の佐倉さんがどこか重なる。

 

―――結論として私は、その手紙を預かることにしました。いつまでに渡してとも言われなかったのもそうですが、どこか放っておけない雰囲気を佐倉さんが纏っていたからかもしれません。

 

預かった便箋をしおり代わりに本に挟んで、いつ渡そうかと思案気に過ごす。

その日のあとの読書はどうしてか、頭に文章が入って来ない。二人の間に何があったのか。元はと言えば同じクラスメイト同士ですし、なにも不思議ではありません。

 

この不思議な気持ちも、綾小路君に会えばきっと分かる気がした。

 

 


 

 

―――〇―――

Side.綾小路 清隆

 

 

あれからホテルを後にした俺の端末には二人からの連絡が来ていた。一夏からは4月からよろしくという旨を彼女らしく絵文字を入り乱れた内容と、翼は見送りに行けなかった謝罪と行為はともかく心は許していないという形だけの拒絶が。

 

二人には来年度からの()()()()な事で多くの手を借りることになる。しっかりと分からせ続けなくてはならないだろう。…というか未だ入学前なのに、連絡がつく端末を二人が持っている事に疑問を覚えていると、見覚えのある校舎が視界に入る。

 

なんとか登校時間には間に合ったようだが、通学路を歩く生徒を尻目に車で校舎に辿り着くのはどこか優越感より背徳感を覚えるな。真っ直ぐ職員室へ忌引きの件の書類や報告を終え、教室に向かう。

 

 

「おはよう」

 

「あ、ああ。おはよう」「うん…」

 

 

既に教室に居た何人かにあいさつをして席につく。しばらくすると葛城が登校してきた。試験前に休んだことを責められるかと思ったが、身内に不幸があったことを心配された。…こういう所が周囲の連中の信頼を集める所以なんだろうな。

 

 

「念の為、真嶋先生に確認をしておいた。リーダーが体調不良で欠席した場合、代わりの生徒が立候補すればリーダーの変更を認める、と」

 

「………」

 

「もちろん、強要はしない。…俺も冷静に考え直した。先週のリーダーを決める一件はどう応えても角が立つ類のものだ。お前も今までのクラスならともかく、知り合って間もない俺達に賭けて退学というリスクを負うことはないだろう」

 

「…確かにな」

 

 

全てではないが、半分程度は善意での提案だろうな。もし不甲斐ない結果で退学したとしても、元クラスメイトが2000万ポイントで救済するかもしれない。…つまり、裏切り(そういう)行為を()()しているんだろう。それよりもリスクを考慮しても葛城本人や坂柳あたりがリーダーをした方がポテンシャルを十全に発揮できる、と。そして、あくまでも善意は()()程度。もう半分には自分がリーダーとなりクラスを導きたい欲が見え隠れしている。

 

 

「なら「だがそれは、リーダーを俺に任せた坂柳に失礼じゃないか?」……な」

 

「違うか?」

 

 

出鼻を挫くように席を立ち葛城と目を合わせる。視線を逸らさないでいると、一触即発の雰囲気に周囲も動揺が隠せないようだ。いや、橋本だったか?ヤツは面白そうに趨勢をみているな。

 

 

「それに一度は引き受けた役目なんだ。しっかり果たすさ」

 

「…随分と自信があるようだな」

 

「それなりにな。それに…」

 

「それに?」

 

 

チラリと教室のドアに視線を向ける。意図せずも葛城とは半ば険悪な関係となってしまった。なら、もう一つの派閥とはそれなりに友好的にしたいものだ。早速とばかりに後輩から()()()ノウハウを発揮することにした。

 

 

「男なら、女性の期待には応えたいと思っただけだ」

 

「…いいだろう。まずは、お手並み拝見するとしよう」

 

 

葛城の後ろの連中の敵意、周囲の好奇の視線。そして教室の外で入口で立ち止まっている気配を感じながら、俺は試験の先行きについて思いを寄せるのだった。

 

 

「……お、おはようございます。綾小路君」

 

「…?おはよう、坂柳」

 

 

………やはり、最初からは上手くいかないのかもな。予鈴直前に教室へと入って来た坂柳の余所余所しさ。俺は後輩への文句を、心のメモに残すのだった。

 

 


 

 

時間は飛んで放課後。昼休みに食堂に行くと()クラスメイトの数人が声をかけたそうにしていたが、偶然みつけた椎名…いや、ひより(本人から下の名前でと言われたので)を誘って共通()の話題で盛り上がれば諦めたようだった。

 

ひよりと改めて連絡先を交換してから、俺は坂柳から受け取った競技とそれぞれの生徒の得意分野のリストを流し読みする。

 

・現代文テスト【的場、島崎、西川…】

・数学テスト【森重、司城、石田…】

・社会テスト【里中、杉尾、塚地、…】

・英語テスト【谷原、福山、六角、中島、…】

・囲碁【選択予定なし】

・大縄飛び【選択予定なし】

・バレーボール【選択予定なし】

・ドッジボール【選択予定なし】

・フラッシュ暗算【葛城、田宮】

・チェス 【坂柳】

 

それぞれの競技の横に名前がある。それが競技における戦力ということだろうか。テストは合計点を競いつつ参加人数も多めに設定されている。

 

 

「…テストの横に名前が多いな」

 

「はい。勝てる競技を選ぶのが()()()ですから」

 

「………人数を多く必要とする運動能力を選択しないのは、Cクラスを攪乱する為か?」

 

「っ…流石、よく見抜きましたね」

 

「…?どういう意味?」

 

 

試験対策として考えられるのは、大きく分けてふたつ。長所を伸ばすか、短所を補うか。勉強が苦手な奴は運動系の競技を練習しようとして、テスト勉強を疎かにする。その辺の説明をする坂柳を尻目に、俺は古巣の連中の顔を脳裏に浮かべ試験について思い浮かべる。

幸村や堀北、平田たちと…他にも英語あたりは王美雨がいる。そのフルメンバーと当たれば負ける可能性はあるが、そうなれば他のテストはこちらの勝利は揺らがないだろう。

それは対戦相手の堀北たちも重々承知しているのか、参加競技はそれぞれの特技を生かせる種目が多く取り入れられている。

 

 

・英語

・バスケット

・弓道

・水泳

・社交ダンス

・テニス

・卓球

・サッカー

・ピアノ

・じゃんけん

 

 

英語は王、そして部活競技では須藤、三宅、水泳は…小野寺か。社交ダンス…高円寺?まさかな。誰が、どの競技に出るのかなんとなく察しがついてしまう事に苦笑する。番狂わせがあるとすればクイズとじゃんけんが採用された場合だろうが、()()()()()()だろうな。

それにチェスやフラッシュ暗算などの個人技を除いて、テストなど総合点や数で圧倒する俺達に対してCクラスはほぼ特化型だ。どの競技も最高値で勝負をつけるように設定されている。

水泳は一着を取った生徒、弓道もピアノもそうだ。最高点を取ったクラスの勝利。バスケぐらいか?団体戦が必須となるが一年でレギュラーの席を射止めた須藤が居る以上、正面切っては厳しいかもな。

 

 

「いかがでしょう?作戦は思いつきましたか?」

 

「………そうだな」

 

 

ポイントで借りた多目的教室。部屋には部活で使うのだろうかピアノや美術で使うような額縁、液剤、他にも雑多に保管されている一室。俺の目の前には机に肘をつき小首を傾げている坂柳。…どこかこちらを試すような視線に少しだけ焦がれる様な熱を覚えたが、何故だ?

周囲には彼女の取り巻きである神室や鬼頭、後は山村…?だったか。それ以外にも遠巻きにチラホラ生徒が集まっている。全員が坂柳の手足なんだろうな。視線に気が付いたのか、坂柳は周囲をチラリと見て微笑む。

 

 

「…ふふ、周りの皆さんの事は気になさらず。…この試験、私たちは綾小路君に全面的に協力しますので」

 

「………そうか」

 

「「「………」」」

 

 

集まる時間を分けたり、別の教室も借りてそれらしい雰囲気で話し合いをさせているそうだ。今日以外にも他のクラスの教室前に人を配置したり、放課後に4,5人のグループをいくつか作りカラオケやカフェに送り込むなど攪乱の為の人員を割いているらしい。情報戦においても一枚も二枚も上をいっている。それならばクラス内の事は心配いらない。坂柳の助言通りに人を差配していけば問題ないだろう。それよりも問題は、

 

 

「Cクラスの競技のいくつかは、誰が出るのか予想が着く」

 

「オトモダチの事情にはお詳しいのですね。…ああいえ、()、でしたね。」

 

「それなりに、な。つまり相手の必勝種目を最低ひとつ。出来ればふたつ勝利すれば後は地力の高い俺達が勝つだろう」

 

「………」

 

「…ふん」

 

 

どこか重くなった雰囲気を無視して考えを纏める。応えた通り問題は、対戦相手が指定した競技だ。こちらと違い、Cクラスの種目は司令塔(リーダー)の介入を大幅に認めている。戦力が枯渇した際、カバーする目的があるんだろうが堀北が可能な限り手を回して来ると考える。すなわち、俺のすることはそれに備えるということ。

 

 

「とりあえず坂柳、クラスの連中への指示出しはそのまま頼んでいいか?」

 

「!…ええ、もちろんです」

 

「それで…アンタは何をするの?」

 

「……Cクラスの種目の練習…だな」

 

「は?」「………」

 

「ふふっ」

 

 

ポカン…とした表情を浮かべる神室。他にも訝し気な表情を浮かべる周囲に、何故か坂柳からフォローが入る。内容は俺の意図したものとほとんど同じ。お互いの10種目から5種目が選ばれ合計7種目が採用される。仮にお互いの種目が3種目ずつ選ばれ勝利すれば3対3。最後に勝ったクラスの勝利となる。

 

仮に相手の種目で2つ以上勝てれば運が悪く2対5で相手クラスの種目に偏ってもこちらの勝利となる。

 

俺の提案はクラスの勝利を信じた上で、その不足を埋める為の手だと言える。そんな感じのことを坂柳が上手く話してくれた。反応は納得と怪訝さで半々といったところだろう。特に目の前の神室からは『本当にこいつそこまで考えてるの?』的な視線が突き刺さっている。

 

 

「―――という訳です。皆さん、分かりましたか?」

 

「なるほどな…」

 

「………」

 

「ふん…どうだか」

 

「では、綾小路君。どうしますか?弓道や水泳、バスケットボールは練習場所を借りたり他にも準備があるので日を改めた方が良いと思います」

 

「確かにな」

 

「手近なもので言えば英語やピアノ、社交ダンスに………チェス、あたりでしょうか?」

 

 

相づちを返しながら考える。()()あったのでポイントに困っては居ない。今すぐ場所を借りることも可能だろうが坂柳の言う準備とは練習相手の用意のことだろう。そうなるとこの場でやれて、ここにいる連中と出来る種目に限定されるだろう。

坂柳も同じなのかいくつか候補を挙げる。厄介ごとに巻き込まれると思ったのか、その様子を不満げに見ている神室に対して少しだけ加虐心が込み上げて来る。…いやこれも、特別試験の勝利の為。俺は席を立つと、神室の前に立って身長差を確かめる為に視線を上下させる。

 

長髪にサイドテール、髪留めまでしてこだわりがあるようだ。しっかり手入れが届いてる艶のある髪に、腕組みをしてる為に強調されている魅力的なスタイル。油断なくこちらを見据える目付きは威圧を与えるかもしれないが間違いなく美少女といえる存在だろう。癖のある坂柳の付き人のような地位にいる以上、実力も兼ね備えている筈だ。

 

現に品定めするような俺に不快感を露わにしている。…鋭いな。視線はなるべく特定の部位に留めないように意識していたんだが。

 

 

「………なに?」

 

「神室、お前はこっちのクラス選抜種目に自信があるモノを挙げてなかったよな?」

 

「だからなんなの?」

 

「社交ダンスの相手をしてくれ」

 

「「は?」」

 

 

…何故か坂柳も驚きの声を上げたが、神室のポカンとした表情にどこか胸がすく。そしてそれは説得を重ねる上で徐々に強くなった。

呆れる顔が徐々に強張り、終いには真っ赤にして否定して来る始末。…なるほどな、褒める一辺倒でもダメなようだ。それにどうやら、一夏という強烈なキャラクターが俺の異性へのアプローチに悪影響を与えている気がしてならない。

 

…まあ今は気にしないでおこう。それよりも目の前の神室を説得しなくては。

 

 

「だからっ!なんで他の連中もいる前で練習しないといけないのよ!」

 

「実際の本番はカメラか何かでお互いのクラスで見るだろうし、採点をする教師や対戦相手のクラスの目もある。その時に実力を発揮できなければ無意味だろう。…それより、やったことがないという言い訳がないが経験豊富なのか?」

 

「経験はっ…!あるけど、その言い方はやめて。…それと、私以外も練習するのよね?」

 

「!」

 

「勿論だ。…山村、頼めるか」

 

「え…!?」

 

「え…」

 

 

その後の時間は、何度も足を(強く)踏んで来る神室や緊張から動きがぎこちない山村たちと社交ダンスの練習をした。…坂柳?いや、お前は足が悪いだろう。無理をしないでくれ。お前とは…そうか、分かった。後でチェスの相手でも…準備が良いな。

 

用意があるならこの後に頼む。…二人きりで?ああ、構わない。

 

 

―――〇―――

Side.堀北 鈴音

 

 

試験の開始もうほとんど時間がない。私たちは焦りを覚えながらも、試験に向けて準備を重ねていた。

テスト対策に向けて勉強を重ねる幸村君を中心にした面々、バスケ、弓道、水泳と突出した戦力を生かせるように須藤君や三宅君たちと一緒に練習をする人。その中で私は櫛田さんや軽井沢さんに助けて貰いながら皆に指示を飛ばしたり、個人ではネットのオンライン対戦で囲碁やチェスを練習していた。

 

 

「「はあ…」」

 

 

ここのところ、癖のようになってしまったため息。それも今日は隣の席の松下さんとタイミングが被って倍は重苦しい。…せっかく時間制で借りた学校のパソコンを使える貴重な機会なのに、どこか漫然と費やしてしまっている。

 

 

『鈴音、お前のペースで良い。立ち上がり、再び前に進んで行け』

 

 

この前の休みに、試験を前にした兄さんと一緒に食事をして、最後にそう助言をされた。それでもどこか不安が拭えずにいて、いや…現実逃避はやめよう。やはり私は引きずってしまっている。綾小路君がクラスを去ったことを。どうにかそれを回避できたんじゃないかと、未だに考えて続けているのだと。

 

 

『俺も全力で力になってやっからよ…司令塔、頼むぜ』

 

『テストの教師係はこっちで担当する。堀北は全体の指揮を取ってくれ』

 

『平田君は…ちょっと今はダメかも。こっちは任せてっ!』

 

『ごめん、堀北さん。…本当にゴメン…』

 

 

我武者羅に部活や練習に励む須藤君や、いつもより協力的に、勉強に前のめりになっている幸村君はまだ()()…と思う。あれからクラス中から敵視されるようになってしまった篠原さんや、無気力になってしまった平田君は本当に不味い。女子の中心は軽井沢さんだったけれど、その理由には人気の高かった平田君の存在がある。…いや、あった。

 

だから今は女子生徒の大半が実力を発揮できないでいる。櫛田さんが何とか盛り上げようと頑張ってくれてはいて、須藤君も激を飛ばしてはいる。それでも、あと一手。どうしても足りない。このままで良いのか、もっと出来ることがあるんじゃないか、考えてやまない。

 

『綾小路君が居てくれれば』と、あの試験が終わったその日から、何度もそう思う。

女々しくも、今やBクラスに居る彼の姿をすれ違う度に目で追ってしまっている。

彼と親しかった佐倉さんや長谷部さんたちに、再び関係を築いてほしいと内密にはいえ指示まで出している。

殊更に、端末から連絡先などのデータが消えてしまった*2のが悔やまれる。それさえなければ、…なければ、なんて。

 

 

「っ」

 

「堀北さん…?」

 

 

気が付けば目の前の画面には『持ち時間切れ:敗北』の文字。隣の松下さんからも怪訝な表情を向けられる。心配してくれる彼女に詫びて、今日は先に帰ることにした。

メッセージのグループに来ている各々の活動内容に目を通して、下駄箱に向かう。学校中が期末の試験間際であまり誰かとすれ違わないのが今だけは救いだった。

 

 

「あっ…!?」

 

「っと…」

 

 

端末を見ながらだったのが災いして、誰かとぶつかってしまった。…何をしているのかしら、私は。普段なら信じられないほど気が抜けてしまっている。転びかけたところ、背中を支えて貰っている。慌てて目の前の相手に詫びる。

 

 

「すいません、前をみ…綾小路、君?」

 

「どうした、堀北?心ここにあらずといった様子だが」

 

「………」

 

「堀北?」

 

 

…どうしたらいいのかしら、とっさに言葉が出ない。謝ろうにも、以前の教室ではそれを理由にため息までつかれてしまった。そうこうしている内に、自分がどんな姿勢で固まっているのか気が付く。

 

 

「ご、ごめんなさい。…すぐ退くから」

 

「ああ」

 

「ん…」

 

 

結局、安っぽい謝罪になってしまった…。悪い空気に自己嫌悪していると流れから一緒に帰ること流れになって、これ幸いと思っていたけど…沈黙が痛い。

いや、お互いに次の試験で退学をかけて争う訳で…殺伐としてしかるべき、なのよね。悶々としていると気が付けば寮のエレベーター。留めてくれていた彼に慌てて飛び乗った。

 

二人きりの密室。ずっと痛い沈黙の中、四階を押した綾小路君に続いて、私も自分の部屋の階を押そうと手を伸ばすと、その手を取られる。

 

 

「え…あの、綾小路君?」

 

「何か話したいように感じた。…違うか?」

 

「それは…ええ、そうだけれど」

 

「なら少し、話すか?」

 

「えっと…その…「嫌なら構わない」………あっ」

 

 

そういって手を離される。どこか突き放されたような態度に、抵抗する気持ちより残念に感じる気持ちが強くなっていく。気のせいか、こっちを見る目もどこか以前とは違うように思う。クラスが違うからか、それとも気にしすぎなのかも。

沈黙のまま、ゆっくりとエレベーターは上がっていく。あっという間に男子エリアの四階に辿り着いて、電子音と共に扉が開く。彼が出て、私が残る。閉まりかけた扉に思わず手をかざそうとしたら、察したのか綾小路君が手を差し出してくる。

 

 

「………っ」

 

「どうする?」

 

「………行くわ」

 

 

きっと、強がりもあった。でもそれ以上に、綾小路君と話し合いたかった気持ちが勝った。

だから…その、()()はあった。…あった筈。ええ、予定外のことは多分にあったけれど、これはこれで、遠慮なく彼と戦える。

 

それにもし彼が退学になったなら、今度こそ馬車馬のように使ってあげるわ。

だから、そう、覚悟することね、綾小路君。絶対、負けないから。

 

 

*1
親衛隊

*2
⑥:予定調和の双六




読了、ありがとうございます。

おそらく次回から試験パート。
お楽しみにお待ちください。

追記:山村さんの名前に多数誤りがございましたので、修正しております。
山村さんファンの方、申し訳ございません。
ご報告いただきまして、ありがとうございます。

2年生編について、アンケートです。やりたい要所の場面だけやって更新を早くするか、ちゃんと順序立ててやるべきか、どっちが良いでしょうか、皆様!

  • 更新優先、2年生編は要所を書いて投稿。
  • ストーリー優先、順番に巻順に進める。
  • if番外編とかもみたい?
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