ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
また英語は雰囲気のため、不自然なところはスルーして頂けると幸いです。
それでは、どうぞ。
―――〇―――
Side.神室 真澄
特別試験も6回戦が終わって、次で最後。正直なところ、私は坂柳がなんであれだけ入れ込んでいるのか分からなかった。わざわざ揶揄うような態度で社交ダンスの相手をさせられたり、でも試験の為って割り切ろうとしてたら呼ばれたのは初回のそれっきりだったり。
…ムカつく奴、というのが本音だった。まあ橋本よりはマシだけど。でも、ここまでの結果を見ればどこか認めてしまっている。私だけじゃない。他のヤツも、きっと。
「お疲れ様です皆さん。…鬼頭君、真澄さんも。いかがでした?」
「…」
「…」
チェスに勝利した坂柳がようやく戻って来た。特別棟は遠いとはいえ、こんなに移動に時間かかる?どっか寄り道でもしてたのかも。坂柳は自分の勝利を誇るでもなく、バスケで無事に勝利をした私たちに自慢げに語り掛けて来る。まるで、自分の男…いや、おもちゃ?それを見せびらかす、年相応な姿だった。
「………まあ、凄いんじゃない」
「ふふっ…当然です」
先ほどのアイツと、須藤の一幕が鮮明に浮かんで思わず悪態をついた。けど、私もアイツが…綾小路がヤバいのは良く分かった。素直に認められなくとも、実力は本当だった。
・
・・
アイツはほぼ全部の試験で出場して、勝利に貢献してみせた。現代文と数学のテスト、それに練習の時は適当に鍵盤を何度か触る程度だったピアノも完璧。
大一番の4戦目、チェスでは坂柳と途中で交代しての圧勝。結果的に4-0でCクラスに完勝した。
クラスの連中…ううん、私も半信半疑だったというか、ほとんどが当初綾小路のことを見下していた。なにせ元々Dクラス。テストの成績も平均か少し上くらいで、交代で戻って来たヤツも散々に言っていた。
坂柳はそれを止めることもなく、冷ややかな目で連中を見ていたのが印象的で、…それが揃って閉口するまで、そんなに時間はかからなかった。
テストの結果発表。合計点を競うテストで、相手は警戒に値しない生徒を選出してきた。勝ちは間違いない以上、どこか緊張感に欠けて私はモニターを見ていた。
■Cクラス
43点、35点、50点、61点、49点、66点、39点、97点
《合計:440点》
■Bクラス
98点、90点、91点、85点、92点、88点、99点、
―――
《合計点:843点》
「―――は?」
「…ふふっ」
ポカン…と呆然となる。いつもは癇に障る坂柳の声にも反応できずにいると、その混乱はクラス中に波及していくようで、口々に驚きや不正、疑いを漏らしていた。
試験監督の先生に注意をされていったんは落ち着くも、テストを受けて来た連中が戻って次の種目の生徒が行くとみんな興味を抑えられなかった。
「な、なあ…どうなってんだよ」
「それよりも200点って、どういうこと…!?」
「簡単な問題だったの?たくさん問題が出たとか?」
「いや、実は…」
「………」
先生に注意されない程度の声にクラスが耳を澄ませる。私も聞いていると、テストの問題数は普段と同じだったらしい。なんなら配点も多くて、部分点も認められる緩い方式。得意科目でもあって余裕で解いていたみたいだけど―――後半の問題を見て、
いつも通りに読解力や文法に関する問題を解いていたところ、突然に後半は難易度が跳ね上がった。膨大な文字数を求める論述問題、二つの難題の意図と目的を明確にする比較分析問題、…最後の方なんて、専門的な用語が多すぎて読むことは出来ても意味が分からない問題ばかり出題されたそうだ。
…でもそうなると、当然すぐに疑問が沸きあがってくる。
「で、でも…なんで綾小路君は…」
「200点って…満点ってこと、だよね?」
「それが解けたってことは…」
「考えられるのは、不正を行ったか、事前に問題を知っていた、あるいは…いや、それは」
「…でも」
「………」
なんで綾小路がそんな高難度のテストで満点を取れたかって、そういうこと。なんかの裏技が無かったなら、そんだけの実力があって、それを隠していたってことになる。
その疑問に答える様に、目の前のモニターでは誰もが知っているあの曲、『エリーゼのために』を淀みなく、そして完璧に演奏してみせた。
素人の私には分からなかったけど、昨日今日練習しただけの付け焼刃とかじゃなかったと思う。
「えっ…えぇ…!?」
「なんで…すごい…上手…」
「…素敵……」
その後も課題曲をいくつか引いた頃には、対戦していた女子も、クラスで聞いていた大体のやつらも固まっていた。…勘違いじゃなければ、その何人かは恋でもしたんじゃないかってくらいトロンとした目だった。
その後の数学のテスト。幸村に平田、櫛田とか勉強が出来る連中が出てきて、明らかに勝ちに来た面子だ。
93、87、90、90、クラスの連中も点数が出る度に、ゴクリと息を呑む音が聞こえるほど緊張が張り詰める。
…そして最後の点数。それぞれ交代した司令塔の堀北と綾小路の点数が最後に発表される。堀北は…97点、こっちのクラスの誰よりも高い点数を叩き出した。でも、その後の綾小路の点数はさっきの焼き増しのように
■Cクラス
93点、90点、81点、92点、97点
《合計453点》
■Bクラス
87点、90点、93点、85点―――
《合計555点》
「っ!マジかよ!?」
「また、満点なんて…」
「…」
誰一人として100点に及ばない中での、200点満点。
繰り返された綾小路の実力に驚く周囲より、私は合計点とか、モニター越しのCクラスの奴らが顔色を悪くしているのに目がいく。
…これ、綾小路じゃなければ負けてたんじゃないの?帰って来た奴は頭を抱えて「複素関数ってなんだよ…」とかなんとか積分がどうとか、ぶつぶつ言っていたけど坂柳に言わせれば大学レベルの問題らしくて驚いた。
なんで綾小路が大学レベルの問題で満点を取れたのかって、疑問をなんとかしたくても答えを知っていそうな坂柳はチェスの為に教室を出て行ってしまった。
この種目は坂柳の得意な競技だったけど、アイツはそれでも交代を申し出た。
活躍の場を奪われて怒ってないかヒヤヒヤしたけど、恭しく席を譲った坂柳は、どこか上機嫌にみえた。
………なんで変わられて上機嫌なのかって思ったけど、すぐに気がついた。
あの試合に勝ったら…アイツは、
『チェックメイト』
『………っ』
『そこまで、Bクラスの勝利』
「………勝ったな」
「………そうね」
呆けたように、橋本の呟きに返事を返す。
あっけなく、アイツは勝ってみせた。持ち時間なんてなにも使ってない、反射で駒を動かしているような適当さで、どんどん堀北の顔色がどんどん悪くなっていく。それでも一切手を緩めずに、アイツは駒を動かして
・
・・
その後の5戦目…ダメ押しのクラスポイントを得る為のバスケットボールでもアイツは後半で出場して来た。
バスケ部レギュラーの須藤が居るCクラスに押され気味だったから役に立つのかと思っていたら、最初は突っ立っていただけ。
須藤に3回はシュートを決められた頃には鬼頭がついに切れた。胸倉を掴みかかって橋本に止められてたけど、私も心情的には鬼頭寄りだった。なんで交代したのかって。…あいつが動き出すまでは。
『行かせ…、っな!?』
『…』
『速っ…止めろ!』
体育祭の時から走るのは早いのかって思ってたけど、なんていうか全部の動きが淀みない。気持ち悪いくらい早くて、正確で、まるで一人だけ倍速で動いてるみたいだった。
『待て、綾小っ、クソが!』
『………』
『え?…あれっ!?』
相手とすれ違った時には気が付けばボールを取っていて、シュートを決めに来た須藤よりも高く跳んでそれを止めてみせた。…最終クォーターなんて、全部アイツがゴールを決めてた。3ポイントゴールどころじゃない。スローインされてまだコートの中央ぐらいからロングシュートを決めてた。
『はあ、はあっ…!綾小路、お前!こんな、…動けたのかよ…!』
『………みたいだな』
…最終的なスコアボードは大差で、最後まで食らいついてた須藤が可愛そうになるほどだった。こっちが汗まみれになっているのにケロリとした態度で帰って、これまたCクラスの競技である英語で中国の留学生っていう王を圧倒していた。
『Can you tell me about yourself? *1』
『At first, thank you for giving me the opportunity to speak with you*2』
『え…!?』
『I am dedicated to studying and preparing for exams at this school, and I am striving to be a supportive classmate to everyone.*3』
前半で既にクラスの負けが決まったからか、それとも緊張が理由かもしれないけど泣きそうな顔でガチガチになっている王を横目に、淡々とした態度で試験官との英語での会話を熟していった。
「流暢さと一貫性」、「語彙力」、「文法の正確さ」、「発音」となんとかの採点基準から計算した結果は圧巻の満点。これには胡乱気にアイツを見ていた連中も黙るしかなかった。
…途中で自由人の高円寺がバトンタッチして会話をしていたみたいだけど、試験官じゃなくて綾小路になにか英語以外の言葉で話しかけていて注意されてたっけ。
6戦目の顛末を聞いた坂柳も上機嫌でうんうんと頷いていて、周囲から向けられる興味や関心をあえて素っ気なくしているみたい。でも、珍しい。コイツがこんなに子供っぽいっていうか…自分を見せるなんて。
『第7戦:フラッシュ暗算』
「おや、最後はこちらの選んだ種目になりましたか」
「…みたいね」
もう勝ちが決まったからか、クラスは喜色満面な連中が大半だった。一部の油断してないヤツとか何考えてるか分かんないヤツ以外は、この後の打ち上げの話をしている連中もいる。
競技に呼ばれたのは葛城ともう一人、…いや、直ぐに帰って来た。綾小路が代わりに出るみたい。それになにか文句を言うヤツなんて、誰も居ない。
『綾小路が出れるなら勝つだろう』…そんな、どこか形のない信頼が私たちの間に芽生えていた。
…それにしたって、随分と上機嫌ね、坂柳。…まあ何でもいいけど。
―――〇―――
Side.櫛田 桔梗
『チェックメイト』
『っ…』
目の前のモニターが堀北の、私たちCクラスの敗北を告げた。
「そんな…堀北さん」
「チクショウ…」
「………っ」
皆も悔しそうにしたり、悲しんでいるみたいだけど私はそれどころじゃなかった。
どっちにしろ堀北は2000万ポイントで救済される。それはいい。問題は、綾小路君だ。
さっきの数学の試験の時に顔を合わせたけど、少し前に比べて明らかに様子が違ってた。
ぬぼーってして何を考えているか分からない表情はいつも通りだけど、
『………』
『………っ』
『…?櫛田さん、平気かい?』
『だ、大丈夫…ちょっと緊張してるだけだから』
その時は誤魔化したけど、私は多分、この学校で…少なくともこの学年では相手の態度を見抜く力がずば抜けている自信がある。
皆の櫛田桔梗ちゃんをやる上でもそうだし、恋愛相談とか女子トーク、果ては告白をされることも数えきれないほど経験してきてる。
だから、今の綾小路君が以前と違うのがはっきりと判った。
あの眼は、男が女を…
入学した頃…もう退学しちゃったけど池とか山内が露骨だっただけで、他の男子も私とか撫子ちゃんが急接近すればドキドキしてしまうもの。顔を赤くするとかなら微笑ましいけど、陰でチラチラ見るだけのヤツの脳内ではどうなってるのか考えるのも気持ち悪い。
我の強い龍園君とかはオープンで隠してないけど、平田君や神崎君とかは態度に出しているのを見た事ない。紳士なのか、もしかしたら
それで綾小路君だけど、なんていうんだろ…
漠然としてるけど、なんていうか本能的な…何をされるか分かんないっていうか…襲われそう?なんか違う気がするけど、一番しっくりくるのがそういう感じだった。
数学のテストの採点されている特に、それとなく綾小路君に視線を向けたら自分のクラスの…えっと、山村さんとか、堀北の奴にも同じ視線を向けていたのが分かった。
…恨まれるなら分かる。前の試験で、私たちCクラスは綾小路君を犠牲にした。だからもっと、不の感情が籠っていたならともかく、そんな態度は少しも表に出していない。
『………』
『………っ』
そんな綾小路君の変化はともかく、望みをかけたテストもまさかの満点を叩き出されたせいで圧倒的に敗北した。
手応えもあったのに、負け。肩を落として席を立ち廊下に出ると綾小路君から声をかけられる。
『櫛田。…ちょっと良いか』
『え?…うん、どうしたのかな?』
『…?』
不思議がる周囲から隠れるように耳打ちをするジェスチャー。元は同じクラスとはいえ、今は試験の対戦相手。あんまり長引くと疑われたり噂になると計算していると、いきなり切り出される。
『放課後、時間を作って欲しい』
『え?あの?』
『西園寺の事だ』
『っ…!?』
『彼女の今後に関係する話だ。…興味がないなら、構わないが』
その言葉に、私はカッとなるのを自覚する。私を蔑ろにするようで、あの子を蔑ろにする綾小路に腹が立った。
あの子の名前を出すなら、私が引くことはない。心配してくれる平田君や幸村君を誤魔化ながら、放課後に約束をしていた友達にキャンセルの連絡を入れる。
―――実はこの時に、どこか予想はしていた。
多分、私が一番初めに、気が付いていたと思う。
クラスに充満した噂、教師による裏付け、突然の忌引き…外出、そして今日の撫子に関する話し合い。
嫌な予感ほど当たるっていうか、なんというか。
『―――という訳だ。櫛田には、力になって欲しいから明かした』
『…それ、本気で…、私が協力すると…本気で思ってるの?』
『どちらでも構わない。俺に損はない。…だが、撫子はどうかな?』
『………っ!最低、だよっ…!綾小路君っ…』
そうして、私は話を聞いた。…本当、サイテー。
読了ありがとうございました。
次回は週末を目安に投稿予定。
あと1〜2話になるかなと。最新巻の試し読みして期待が大ですので、
それまでにはなんとか。
お楽しみにお待ち下さい。
2年生編について、アンケートです。やりたい要所の場面だけやって更新を早くするか、ちゃんと順序立ててやるべきか、どっちが良いでしょうか、皆様!
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更新優先、2年生編は要所を書いて投稿。
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ストーリー優先、順番に巻順に進める。
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if番外編とかもみたい?