ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ   作:エカテリーナ

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お待たせしました。
明日は新刊販売日、待ち遠しいですね。
(販売までに投稿が間に合ってよかったです)

本作も特別試験編はここで終了、
次回は春休み編となります。

そこまでお待たせしないように執筆しますね。
それでは、どうぞ。


⑨:勝利、宣戦布告、そして。

―――〇―――

Side.坂柳 有栖

 

 

普段はクラスの教壇がある場所、そこに鎮座するモニターに私たちは釘付けとなっている。最終種目はフラッシュ暗算。表示された数字を暗算して答えるシンプルにして得手不得手がはっきりと表れる種目です。

最初はゆっくりと3桁の数字が流れ、後半に近づくにつれて徐々に速度を増していく。7問目からはついに桁が増えいく。…自信があった葛城君も顔色を変えていましたね。

最後には6桁の数字が高速で点滅している。出来る訳ない、無理だと小さく声が聞こえる。そんな不安をかき消すように、モニターの向こうでは相手のCクラスは元より、隣の席で固まっている葛城君すら置き去りに綾小路君は迷わず答えを記していく。

 

『42304895』

 

迷わずに示された答え。クラス中から声が失われ、しん…と言葉が失われた教室にモニターから結果を示す声が響く。

 

 

『―――最も正解をしたのはBクラス、綾小路清隆。Bクラスの勝利』

 

「っしゃあ!」

 

「やった…!」

 

「………ふふっ」

 

 

【回答結果】

 

堀北 鈴音:〇〇〇〇〇〇〇〇××

松下 千秋:〇〇〇〇〇〇〇×××

葛城 康平:〇〇〇〇〇〇〇〇××

綾小路清隆:〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 

 

結果は、彼の全問正解。感嘆の息を吐く方もいました。

周囲の歓喜に染まらない程度に頬を緩め、彼の得た結果を脳裏で計算する。

 

 

・・

 

 

この試験では1勝毎に30クラスポイントを対戦クラスから奪え、そして勝利の報酬として追加100クラスポイントが与えられる。

 

試験前のクラスポイントは、こう。

 

 


 

Aクラス:985ポイント

Bクラス:656ポイント

Cクラス:362ポイント

Dクラス:357ポイント

 


 

私たちは310ポイントが加わり、966ポイント。

対してCクラスは210ポイントを失い152ポイント。

 

ほぼないでしょうが撫子さんや龍園君たちが大敗しない限り、おそらく堀北さんたちはDクラスに逆戻り。ふふ…ご愁傷様です。

また特別報酬についても悪くない。全勝した綾小路君はプロテクトポイントを得て退学に対して耐性を得た。試験に参加した私たちも報酬としてそこそこのポイントを獲得しました。

まさに最良といっても良い結果ではないでしょうか。

 

後はAクラスの一之瀬さんがどれくらいの結果を出すのか…その一点に尽きますが、それは後ほど。そんな事より今はこのクラスを勝利に導いた功労者を労うとしましょうか。喜びを露わにする皆さんをよそに、私は彼へと電話を掛けるとその声も途切れます。

 

 

「お疲れ様です、綾小路君」

 

『…坂柳か、なんだ』

 

「「「…!」」」

 

「いえ、ふふ…」

 

 

通話をスピーカーへと替えながら、思わず笑みが零れる。どう扱ったら良いのか分からない部外者のような彼が、圧倒的な成果を持ち帰った。その結果を軽視する愚か者はこのクラスにはもう居ない。及び腰の皆さんに先行し、綾小路君へ労いの言葉を続ける。

 

 

「試験の勝利、おめでとうございます、綾小路君。…完勝とは、御見それしました」

 

『…ああ、そっちもな』

 

「いいえ、私なんてたった1勝に貢献しただけ。ピアノにバスケットボール、英語に最後のフラッシュ暗算を勝利に導いた綾小路君の活躍を持ってすれば微々たるものですよ」

 

『………俺だけの力じゃないさ』

 

 

ひらひらと謙遜して、賛辞を受け取らない彼にクスリと笑うと周囲を見回す。バツの悪そうに視線を逸らす方、認めるように頷き返す方、不満を露わにする方。その全てをしかと覚えながら私は彼に言い募る。

 

 

「もちろん、団体競技は一人きりで勝てるものではありません。…しかし、バスケットボールなどは綾小路君の力が無ければ厳しい勝負だったのも事実です」

 

『………』

 

「もちろん、私だけではありません。他の皆さんも綾小路君の実力を高く認めています。…ねえ?真澄さん」

 

「なんで私?…まあ、多少はね」

 

「そうですか。…橋本君?あなたはどうですか?」

 

「俺か?…俺は別に最初から信じてたぜ?それに」

 

「それに?」

 

「アレだけ容赦なく元クラスメイトを倒せるなら大歓迎ってもんだぜ?()()、さ」

 

「「「…」」」

 

 

意図を汲むように続けた言葉に、今度こそクラスの皆さんは息を呑む。…そう、この試験はいわば()()()だった。元々の所属クラスを一方的に捻じ伏せた綾小路君を、裏切り者や部外者と呼ぶものはもう居ない。真澄さんたちはもとより、葛城君すら、それは認めることでしょう。

 

なにせこれで、Cクラスのリーダー格の一人、堀北さんの退学が決定したのですから。

…まあ十中八九、2000万ポイントで退学を阻止をするのでしょうけれど、私たちとしてはそれを消費させたのは殊更大きい。

 

 

「本日は慰労会…是非とも綾小路君にも参加して欲しいと思いますが、ご都合はいかがでしょうか?」

 

『…悪いが今日はこの後、予定がある』

 

「あら、そうなのですか?…では、春休みにでも個人的にお祝いさせて下さい」

 

『ああ、悪い。…気が向いたらな』

 

「ええ、是非」

 

 

周囲の騒めきもそのままに、通話は切れる。

私は真嶋先生が試験の結果を告げるまで、余韻に浸るような心地で春休みの予定を考えているのでした。

 

ーーーだから、私がそれを知ったのは春休みになってから。

あの方のことを教えられて、私がどちらを選ぶべきなのか。贅沢な悩みでもあり、残酷な選択でもある。

 

胸が、心が千々に乱される。きっと、今までの私ではいられない、そんな予感を覚える年が始まろうとしていた。

 

―――〇―――

Side.綾小路 清隆

 

 

「あ、綾小路君…その」

 

「なんだ堀北」

 

 

試験を終えて、堀北と共に廊下に出ると夕日が廊下に差している。…隣の教室では一之瀬たちは未だ試験中のようだ。邪魔にならない様に壁に寄りかかっていると堀北に声をかけられる。

 

いつもより真剣な眼差し。夕日のせいか、それとも別の理由か顔が赤くみえる。…堀北に相談されて、平田を立ち直らせたのは賭けの()()()。この試験で、どちらのクラスが勝っても退学者を救う…そんな保険をかけた上での、個人的な賭け。

 

当然、Bクラスが新参の俺を救うためにポイントを費やす訳がない。

俺が退学となれば、Cクラスからのポイントと引き換えに『今後の特別試験で密かに助力するように』と堀北と密約を結んでいた。

…だが、結果は俺たちのBクラスの圧勝。当然、堀北は2000万ポイントを使って退学を取り消した。残すは賭けの履行だけ。ジッと堀北を見つめると、根負けしたように逸らされる。

 

 

「賭けは俺の勝ちだな」

 

「あ…それは」

 

「お前は俺にクラスの助力を頼んだ。…前払いとして、俺は平田を立ち直らせた」

 

「…っ!そう、ね…」

 

 

まあ俺も堀北に()()()を貰った手前、平田の件は済んだ話だ。それは良い。だが敗者は勝者に従わなければならない。それが何時の時代も変わらない、絶対のルールだ。

 

 

「………っん…」

 

「………」

 

 

覚悟を決めたのか、目を瞑って身構える堀北。…何をされるのか、多少の知識はあるようだな。先日聞いた時は経験はないという話だったし、今日までに下調べを済ませていたなら。

 

 

「…(それはそれで、心をくすぐられるな)」

 

「…っ…ちょっと、綾小路君…!」

 

「なんだ、堀北」

 

「…は、早く済ませてっ…」

 

「………?」

 

 

…前言撤回。コイツの知識はもっと浅かったようだな。特別棟にカメラは無いとはいえ、隣室で試験をやっている廊下で済ませたらスリルどころか自殺行為だ。顔を真っ赤にして身を震わせている堀北の肩に手を置くと、面白いほどビクリと肩を浮かせる。

怯えを孕んでこちらを見上げる瞳は潤んでいて、普段の凛とした堀北らしさは見る影もない。逃げられない様にゆっくりと壁に追い詰めて、壁に腕を伸ばせば短く悲鳴を上げる。

 

 

「きゃっ…」

 

「…随分と可愛らしい声を出すんだな」

 

「…っ!」

 

 

そう耳元で囁けば、目も口をギュッと閉じて拒絶の色を濃くする。

 

もう少しからかっても良かったが、椅子から立つ音が聞こえる。あちらの試験も終わったようだし、この場は切り上げることにするか。

 

 

「…期待を裏切るようで悪いが、堀北」

 

「…っ…?…」

 

「続きはまた、俺の部屋でじっくりしよう」

 

「………え…?…な、なぁ!?」

 

「―――あれ?綾小路君?それに…堀北さん?」

 

 

ガラリと開いたドア。一之瀬が不思議そうにこちらを見る頃には俺は堀北と距離を取っている。未だに顔が赤い堀北だが、夕日や試験に負けたことからそう不審に思われることはない筈だ。

続くように西園寺…撫子も出て来た。その後ろからは茶柱と真嶋。一之瀬が世間話をするように試験の結果を口にしたことで、俺も真相に辿り着く。どうやらこの試験も龍園と密約を結んだとみて間違いないようだ。

 

俺達とは違い勝利を切り売りする方針は、これまで龍園が行ってきた手法に類似している。結果として一之瀬のAクラスは210ポイントを失い775ポイント。Aクラスとなって直ぐにBクラスへと降格することになる。

…その割には落ち込んでいる様子は全くないが。

 

一方、龍園や撫子のDクラスも310ポイントを得て667ポイントでCクラスへの復帰が叶う。つまり1学年終わりで、全てのクラスの結果は、こうなる。

 


 

A・一之瀬クラス775ポイント→Bクラスに降格

B・坂 柳クラス966ポイント→Aクラスに昇格

C・堀 北クラス152ポイント→Dクラスに降格

D・龍 園クラス667ポイント→Cクラスに昇格

 


 

―――奇しくも、全てのクラスの順位が入学時と同じ順に戻ることとなる。内包するポイントや人員に違いはあれど、それがこの試験の結果、俺たちの一年の成果となる。

 

 

「…なるほど、じゃあそっちは綾小路君がプロテクトポイントを手に入れた訳だねっ!」

 

「そっちは西園寺がプロテクトポイント持ちになったんだな」

 

「はい。…?…鈴音、大丈夫?」

 

「え、…あ…はい、お姉様。大丈夫です、大丈夫ですから…」

 

「そ、そう?」

 

 

そうこうしている内に、俺達の試験をしていた教室からも坂上先生、星之宮先生が出て来た。廊下に4クラスの司令塔と、担任たちが揃う。…予定より早いが、もうこの場で構わないかもな。俺は解散を指示する真嶋の言葉を遮るようにして、その場の衆目を集める。

 

 

「…なんだ、綾小路」

 

「いえ、個人的なお話しなんですが、少しこの場を借りて西園寺に伝えたいことがあります」

 

「「?」」

 

「!」

 

「おい、綾小路…お前」

 

 

反応はバラバラだったが、何を話すつもりなのか気が付いた茶柱と真嶋が顔色を変える。だが俺はそれを無視して手紙を取り出し、西園寺に渡す。

首を傾げる一之瀬をよそに、撫子も不思議そうにそれを開く。

 

 

「撫子に?」

 

「私…ですか?」

 

「………」

 

「…いったい何の話です?わざわざ私たちがこの場にいる必要があるとでも?」

 

 

開かれた手紙に一之瀬や堀北が目を向けるも、直ぐに根を上げる。…チラッと見えた文字は草書体*1で書かれていたから、仕方ないかもしれない。

古文の担当でも連れてこなければ解読は出来ないだろうそれは、西園寺大和氏から撫子へ宛てたものだ。

 

内容については俺も知らないが、別れ際に渡された事から推測は出来る。パチパチと瞬きをしたと思えば、上品に手で口を隠した上で「まあ…」と小さく驚きの声を零す。

 

 

「おい、綾小路…あの手紙はまさか…」

 

「西園寺大和氏からのものです」

 

「っ、お前…!」

 

 

詰め寄ってくる真嶋には適当に対応して、撫子の様子を注視する。…予想はしていたが、所詮は撫子にとって婚約者(コレ)は大した問題じゃないんだろうな。読み終わったのか、手紙を丁寧に畳むとこちらに向き直る。

 

 

「申し訳ございません、お待たせいたしました。…お手紙、拝見いたしました。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ。…それで、お前はどうする?」

 

「…どうする、とは…?」

 

 

キョトンとする撫子を、内心で憐れむ。…いや、これは失礼だな。当人が不幸に思っていないなら、それは不幸ではない。ため息をなんとか誤魔化して、手を差し出す。まるで握手をするように、それを見るこの場の全員に理解をさせる為に。

 

 

「何でもない。じゃあ、これからよろしく頼む、()()

 

「「は?」」

 

「え…」

 

「―――」

 

「はい。こちらこそ、不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします。―――()()()

 

 

凍り付く周囲を置き去りにして、俺たちは親の都合の良い駒…婚約者として、手と手を取り合う。

濡羽色の長髪、淡い紫の瞳、高校生離れしたスタイル。才色兼備、眉目秀麗といった言葉が薄っぺらく思うほどの美貌。

 

俺たちホワイトルーム生が天才を作るために集められた被験体(モルモット)だとすれば、

撫子は理想的な女性として教育(そだて)られ、洗脳(そだて)られ、調教(そだて)られたのだろう。

 

 

「ちょっと撫子(にゃでこ)っ!?き、き、清隆様ってどういうこと…!?」

 

「ひゃん、帆波…!?お、落ち着いて…」

 

「………綾小路、君…?」

 

「いったい…どういう…?」

 

「「「………」」」

 

 

こうして俺の、俺達の本当の実力至上主義が幕を開けた。残る二年で、きっと答えが出るのだろう。

あの男の計画通り、Aクラスで卒業し、予定調和のように撫子をモノにするのか、

俺を予想を超え、俺を葬る存在によって、全ての計画を破綻させるのか。

 

 

「………(それとも、この撫子(天才)なら、あるいは)」

 

「…?清隆様?」

 

 

不思議そうな撫子の顔を見ながら、俺は少しだけ未来の事に思いをはせた。

…決して、撫子の腕に抱き着きながらこっちを睨んでいる堀北から目を逸らしている訳ではない。

 

 

・・

 


 

―――〇―――

Side.月城常成

 

 

「………流石、あの方のご子息ですね」

 

 

今回の試験、彼の実力を発揮できる舞台を整えたのは事実ですが不正やそういった類いの工作はしていません。

坂柳さんのコレまでの試験へのアプローチから、彼女はここぞという場面で見せびらかすように強力な生徒を使いたがる。…子供らしくて微笑ましいですね。

司令塔まで任せるかは半分賭けでしたが、期待通りの結果となりましたね。

 

試験結果を見届け、声をかけようと特別棟に辿り着くとどうやら生徒間で揉めている様子。

廊下の角で潜んで内容を伺うに、西園寺撫子さんの件をあの場の面々には公にしたようですね。

 

ならばこれは彼の計画の一端であるはず。私の手助けは不要でしょう。

踵を返して、私は送信予定となっていた学校運営名義のメールを送信する。

 

宛先は二人とその担任。内容は、今回の特別試験の司令塔となったお二人へのボーナスだ。

それぞれ5()0()0()()()()()()。ただプライベートポイントとは異なり、使用は自由でも譲渡や合算での使用は教師立ち会いのもとでしか出来ない特例的なポイントーーーたしかS*2ポイント?でしたか。

学校側のイレギュラー決裁として、不測の事態や慰謝料のような形で送られるクローズドなポイント。高額なため、影響を与える可能性があるので公開はされない云々と言いつつ、要するに口止めの意味を持つ。

これで彼や彼女は居るだけで500万ポイントの価値が生まれる。

 

クラスが異なる二人の関係が広まっての排斥や批難は、これで防ぐことが出来るでしょうか。…まあその危険があるのはどちらかといえば西園寺さんのクラスと、彼女()()でしょうがね。

 

 

「ああ、忙しい…」

 

 

本当に忙しい。念には念を入れるあの方の考えには同意しますが、これ以上は過剰にも思える。

新1年生達へ伝える【綾小路清隆、及び西園寺撫子への特別試験】の草案に頭を悩ませ、私は生徒会室へと足を向けるのでした。

 

*1
くずし字の一種。文字を簡略化して書く為、解読は困難。

*2
Secret、秘密の意




読了、ありがとうございます。

ちなみに綾小路君が負けた場合、Bクラスはなんと2000万ポイントを捻出できないため大ピンチとなります。
混合合宿での出費が尾を引いてる感じですね。

堀北さん達のクラスが2000万消費した訳ですが、それでもまだ一之瀬クラスに借金中である為、
なんなら4クラスで最も坂柳クラスが金欠まであります。


次回は長くなった本作の現状とかまとめで書きたいですが、
新刊が楽しみで眠れないですね。

感想、高評価またお待ちしております。
ありがとうございました。

2年生編について、アンケートです。やりたい要所の場面だけやって更新を早くするか、ちゃんと順序立ててやるべきか、どっちが良いでしょうか、皆様!

  • 更新優先、2年生編は要所を書いて投稿。
  • ストーリー優先、順番に巻順に進める。
  • if番外編とかもみたい?
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