ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
春休み編、第一話。
ギリギリ間に合いましたね。
アンケートの結果は多分、次くらいから反映されることになるかな?と。
よろしくお願いいたします。
それでは、どうぞ。
―――◇―――
「退学する!?」
「はい」
「「「…!?」」」
驚きのあまり、大きな声を上げてしまった坂上に対して撫子は落ち着き払った様子だった。
場所が職員室なだけあり、周囲の教師もギョッとした目を向ける。この学校に限らず、生徒から退学という単語が出ることが事態が異常であり、またそれを言ったのが教師からの評価が非常に高い西園寺撫子だったことも拍車をかけたのだろう。
「ちょ、ちょっとこっちに来なさい!」
「…?はい」
普段から龍園に振り回され慣れている坂上も、これには慌てて彼女を半ば強引に併設してある応対用の席まで誘導する。
パーテーションに囲われているだけで、クラス対抗という側面を持つこの学校では内緒話をするには心もとない。だが、それよりも坂上は理由を聞き出す一心で撫子を座らせる。
「か、かけて下さい」
「はい。失礼いたします」
そういってスカートを丁寧に直しながら、音を立てない様に座る撫子。そんな落ち着き払った様子に覚悟を決めているのかと、何があったのかと不安に駆られつつ、絞り出すように理由を問いただす。
「ふう…、それで、西園寺さん。…退学する、とはどういう意味かな?」
「…はい?ええと、言葉通りの意味でしたが…。…?」
「こ、言葉っどおり?」
キョトンと首を傾げる撫子に、坂上は震える手でメガネの位置を直す。一体なにが彼女を追い詰めてしまったのか、新しいクラスに馴染めなかったのか、それともやはり、龍園からなにか無理強いをされて嫌気が差したのか?そんな思いが脳内を占めていき、チラチラと視線を撫子へと戻す。
普段通りだ。先日の特別試験を終えて、なにやらAクラスの綾小路を様付けで呼んだ一幕は記憶に新しい。その後に生徒達に連れられる彼女は別段、不審な様子は無かった。
事情を聞こうと、坂上は何か知っている様子の真嶋らと問うもどうも要領を得ない。そんな週明け、生徒達は春休みを迎え教師は来年度の用意に出勤をしている。
そんな月曜日に、西園寺は職員室へと訪れた。
―――その手に丁寧にしたためた、
「………」
「あの、坂上先生?どこかお加減が…?」
「………いえ、心配無用です」
こんな時にも優等生然とした彼女に、坂上は怒るに怒れない。…仕方がない。坂上は腹をくくる。姿勢を正すと、真剣な面持ちで撫子に向き直る。
「西園寺、さん」
「はい」
「…事情を、聴かせては貰えないでしょうか?」
「…その、至って私的なことなので、お恥ずかしい限りなのですが…このような些末な事、お忙しい先生方にお話ししてよろしいのでしょうか?」
「勿論です…!先生は、何でも相談に乗りますよ!?」
「………実は」
そう言ってどこか恥ずかしそうに話した内容は、どこか現実離れした話だった。それはクラスに不満がある訳でも、龍園らに如何わしいことをされた訳でも、そして古巣のクラスに引け目があった訳でもなかった。
それは―――
「そ、それではその…綾小路君が…君のこ、ここ、
「はい。先日のお爺様からの手紙に、そう記してありました」
「ううむ…」
どこか浮ついた頭で聞いた内容は、家の決められた婚姻関係。その相手が綾小路君で、撫子に異論はないこと。
そして―――
「
「それは…分かりました。ですが、何故それで、君が退学することになるんです?」
「…私は、清隆様とは争えません」
「………っ!それは…!」
撫子は手を重ねるように合わせて、人形のような表情で目を伏せてそう断言する。
婚約者である綾小路清隆とは争えない。戦えない。このままではクラスの足を引っ張ってしまう。
ゆえにこそ、退学。
全ての責め咎を贖う為に、西園寺撫子は退学しようとしている。
なんとしても、彼女を退学させてはいけない。私欲は当然ある。しかし、それとは別に子供にこんな顔をさせてはいけないという、大人として、教師としての魂がある。
「…このことを、他の、誰かには…相談など」
どこか絞り出すような言葉は、能面のような彼女の表情を変えさせた。
「…っ、それは…その」
「…!…言って…いないのですか」
…ここしかない。坂上は彼女がまだこの学校に未練を持っていること、そしてその一点がこの状況を変える突破口になると確信する。
撫子の予定を聞いた坂上は、直ちに方々に連絡を取る。―――その様子を、見ている周囲に気付くことなく。
「………もしもし、あの…」
―――◇―――
時を置いて、ケヤキモールのカラオケ。その一室で撫子は天井を見ていた。
「………」
「………」
「………あの?」
下手人は、この部屋に撫子を呼び出した龍園翔。丁寧にノックをして、入室後にお辞儀をしようと頭を下げた撫子の腕を掴むやいなや、ソファーへと引き倒した。
薄暗い照明すら遮るように、龍園は撫子へ覆い被さる。以前の教訓*1を生かす為か、しっかりと両腕の自由を奪い下半身も体重をかける。
薄紫と、赤紫の視線が交錯する。
片や疑問を。片や、憤懣を。
悲鳴を上げても許されるような状況でも、撫子は動じない。―――否、動じる
「………?(何故、龍園君は私に覆い被さっているのでしょう)」
そんな純粋で、無知な疑問。何をされるのか見当もつかず、そしてどうすればいいのか分からない。
痺れを切らしたのか、龍園が口を開く。
「…テメエ」
「?」
「チッ…」
龍園としても測りかねていた。この、目の前の女をどうしたら縛り付けておけるのか。どうすれば、自分の手元に置いておけるのか。
龍園はおもむろに撫子の胸元、制服のリボンの辺りをシャツごと掴むと―――乱暴に引きちぎった。
「んっ…!龍園君、なにを…?」
「………フン」
荒々しい力によって抵抗する生地はその役を為さなくなった。薄絹を裂くような音と共に、いくつかのボタンが床に散らばる。窮屈そうに隠れていた蒼色の下着が覗かせ、剥き出しになった首筋からうなじが煽情的に映える。
どんな男でも、あるいは女性でも生唾を飲むような光景にも龍園は一切の逡巡なく、撫子の胸元に手を伸ばす。
目的だったリボンをほどき、彼女の手首に回すと後ろ手に縛りつける。
―――もしも、この部屋に第三者が入って来たとすれば、停学どころでは済まないだろう。そんなリスクすら飲み込んだ上で、龍園は撫子と目を合わせる。
「良いザマだな、撫子」
「………」
「お前の中にあるのは何だ?怒りか?憐れみか?」
「龍園君…?」
「答えろ」
服を破られ、下着を露わにされ、腕を縛られ組み伏されてなお、撫子の表情に敵愾心は毛ほども感じない。
ロクな抵抗すらしない。…いよいよ、
「クク、答えないなら構わねえ。…動くなよ」
「?」
「なあに、愛しの婚約者のピンチに、そいつは駆けつけてくるのかって話さ」
そういって龍園はスマホを向けて、
誰に送って欲しいかと脅迫じみた事を嘯いても、羞恥や恐怖に震える様子もない。舌打ちを一つ漏らすと、改めてスマホでメールを送信する。
「そら、送ってやったぞ」
「…?…そう、ですか…」
「だれに送ったと思う?」
「…龍園君のお知り合いですよね?山田君や…伊吹さんでしょうか?」
「………チッ」
想像と違う反応に、顔を顰める。しかし直後に鳴りだしたスマホを上機嫌に出ると、一言、二言はなしてスピーカーに通話を切り替えた。
「おい、声を聞かせてやれ」
「…はい?あの、もしもし?」
『…撫子か?』
「!清隆様、ですか?」
聞こえた声は撫子の婚約者―――綾小路清隆のものだった。スマホの画面には伊吹とあった為、彼女のスマホから通話をしているらしい。
撫子が珍しく見せた驚きの表情。それを見て手ごたえを感じた龍園は、スマホに向かって朗々と話し出す。
「声は聞こえたな?…全く幸せモンだなあ、綾小路」
『………』
「こんなよだれが出そうな体つきで、そのうえ器量も良い。慕う連中も多い、あの、西園寺撫子の婚約者になるなんて、なあ?…羨ましいぜ?ククク…」
「あの…?龍園く「テメエは黙ってろ」んく…、っ…」
「写真は見たな?綾小路」
『用件はなんだ』
「おいおい、新参とはいえAクラス様にしちゃ随分察しが悪いじゃねえか」
『………』
ここだ。
龍園は電話の向こうの相手に全神経を集中させる。
この後の会話から何としても綾小路の、ひいては撫子のなにが『
感情のままに撫子を庇ってみせるのか、それとも挑発を受流して強かに交渉じみたことをするのか、
どんな答えからでもその傾向を掴んでみせる。
感情か、欲望か、立場や名誉か。ジッと獲物を見定める蛇のように、龍園は綾小路の反応を窺う。
「………」
『………』
「……………チッ」
三者三様、言われた通り静かにしている撫子と電話先で無言の綾小路。痺れを切らせたのは龍園が先だった。
「分かんねえヤツだな、綾小路。こっちには撫子がいる」
『………』
「大切な婚約者様をキズモノにされたくなけりゃ『好きにしろ』…あ゛?」
『好きにしろ、と言ったんだ』
思わず、という様に龍園は眼下に目を向ける。
そこには変わらず…否、異常なほど先ほどと変わらない様子の撫子がいる。今も身動ぎをする際に苦しそうな吐息を漏らす、それだけだ。
「…?…んっ」
「―――」
仮にも貞操の危機に、婚約者から見捨てられたような扱いに別段のショックも受けていない。
…相手も相手だ。これではどちらが人でなしか分からない。二人続けて想定外の結果に、龍園自身も無自覚に気圧されたのかどこか焦燥を滲ませる。
「…テメエ、これは脅しじゃねえ、分かってんのか…?」
『用件はそれだけか?他になければ切るぞ』
「おい待てっ!まだ話は―――」
プツリと通話の切れる音。怒りからミシリとスマホの軋む音に混じり、無情にツー、ツー、と電子音が室内に響く。
残るのは怒りか憤りか、苛つきという形でしか表現できない一人の男。そしてそれを見上げ、従順に言われたことを守る女。
「………クソが」
「………ん」
くしゃりと前髪ごと手のひらで表情を隠し、なんとか一つ切りの呟きで誤魔化す。
龍園の中で渦巻くのは変わらない。どうすればこの女を■■ことが出来るのか、どうかだけ。
しかし目算は外された。撫子が去ろうとする元凶にとって、撫子は守るべき対象では無いのだ。
弱みとはなり得ない。ではなんだ?何があれば縛り付けられる?
「………?」
その思考の暗闇を破るように、何か撫子のうなじ…首筋にキラリと光るものに気がついた。
上品なネックレス…安物のシルバーのギラつきではない。プラチナのチェーンは彼女の黒い髪とよく合い、ペントップにも女性物のリングが通っていた。
「…指輪?…なん「それはっ…」…?」
「あ……」
ハッとした表情で撫子は口を噤む。思わず、という風に口を開いたようだ。龍園はそれを見て、
手を縛られ組み伏せられているからか、その抵抗は弱弱しい。顔を逸らして、しかしゆっくりとつまみ上げられた指輪を眼で追う撫子。
「おいおい…!……ククク、なんだなんだお熱いじゃねえか!」
「っ……「もう喋って良いぞ」…」
「石もこりゃ上物じゃねえか。婚約指輪って奴か?アイツから貰ったって訳だ」
「違いますっ、それは「どれどれ?」あっ…!」
龍園が力任せに引っ張り、ネックレスが千切れる。撫子の頭上で見せびらかす様に眺めたかと思うと、目の前に差し出した。
「返して欲しいか?」
「………返して、下さい」
「クク、どうするか「龍園君っ…!」……はははっ!!」
意気揚々、破顔大笑、そして痛快無比。龍園の態度は、正にそれだ。
上半身を起こし、憂慮に声を荒げる撫子。その
この指輪ひとつがどんな価値があるのか、どんな意味があるのか龍園には分からない。分かっていることはただひとつ。
―――今、自分は、
「まずはしっかりと躾けねえと、なあ?」
「ひゃうっ!…龍園、君…何を…」
テーブルにあった炭酸水を頭上から被せる。しゅわしゅわとした発泡音と共に、透明な液体が撫子の髪を、服を、しっとりと湿らせていく。
濡れ鼠となり、ブルりと身を震わせる姿は煽情的だ。また写真でも撮って送ってやろうか。それとも今度こそ本気で…。
そんなことを考えていた龍園は、ガチャリと開いた扉への反応が一瞬遅れた。
そこに居たのは―――
「え…?」
「あ?なんだ?」
「撫子から離れろ、龍園…!!」
―――Bクラス、神崎隆二だった。
振り被られた拳は龍園に向かい、そして―――
―――◇―――
春休み中の校舎。部活などの用事が無ければ生徒の姿は無くなる時期。
それが更に人気のない特別棟となれば、物音の一つもない静寂が張り詰めている。
そんな特別棟の廊下を綾小路が制服姿で訪れているのには、当然理由があった。
呼び出したのは
「何故、特別棟なんだ?誰か会うならこの部屋でも」
「いいから、必ず向かって。…伝えたわよ」
「おい、まだ行くとは…」
半ば強引に約束を取り付けると、彼女は立ち去っていった。…呼ばれる内容に心当りがないでもない。
仕方なく制服に着替えて寮を出ると、休み中に制服は目を引くのか周囲の視線を感じながら校舎へと向かう。
「…失礼します」
「来たか」
辿り着いた教室には、既に約束の相手がいたようだった。堀北前生徒会長。―――西園寺撫子の才能を見つけ出し、入学間もない4月頃に生徒会へと誘った歴代最高の生徒会長と名高い―――そんな、自分とは接点もない上級生。
彼からの視線で促されて、開けてあるドアを閉めると、振り返りながら用件を聞く。
「それで、一体何の―――」
「ふっ…!」
―――返事は
「っと…!」
「…!」
弾かれたことに驚く様子を浮かべるも、警戒は解かない。綾小路は相手が格闘技の経験者、それも有段者であることを察する。
上半身だけでなく足技を駆使して、遠慮なく綾小路を責め立てる。数週間前の戸塚とは異なる、学校屈指の実力者だろう相手に綾小路は、
「ふっ…!はぁ!」
「………」
呼吸が乱れ、肩を揺らすような無様を見せても綾小路から反撃は無い。
「はぁ…はぁ、どうした。…なぜ反撃しない」
「………」
「ここは特別棟。監視カメラも無い。突然お前に殴り掛かった俺が憎くないのか」
「目的が分からないので、理由から聞かせて下さいよ」
「………言わずとも分かるだろう、
「…そうか」
その一言に綾小路の疑問は氷解する。堀北前生徒会長、彼が心配していたのは自分の婚約者のことだったのだと。
そうと判れば綾小路に迷いはない。
一歩踏み出し、警戒を与えた所で踵を変える。教室の隅、その
「っ待て!橘…、かはっ…!?」
「堀北君…!?…きゃっ」
「………」
隠れて撮影をしていた生徒―――橘茜を護るために飛び出した、無警戒な脇腹を全力で蹴り飛ばす。ミシリと、人体に強い負荷を与える感触。その辺の机を巻き込んで転倒し、力なく崩れ落ちる様は、素人目に見ても無事ではない。
「痛…!離してっ…はなしな…あぁっ!」
「………」
慌てて駆け寄ろうとする橘の腕を万力のような力で握れば、その手からは撮影に使ってたスマホが手放される。
地面に落ちる直前に綾小路が受け止め、スマホに保存されていたデータを全削除する。念を推すように中のmicroSDカードを砕き、本体も握力任せに握りつぶして操作不能にする。
「………ぐ、」
「堀北君…?堀北君っ!、しっかりして下さい…!」
警戒はしつつも外していた視線を戻せば、地に伏す男と、声をかけ寄り添う女の姿。
二人のそんな愁嘆場は、まるでドラマのワンシーンのようだ。…しかし此処にいるのはいきなり後輩を殴り掛かろうと襲った先輩と、その様子を撮影して助けなかった共犯者だけ。
その事実は綾小路の胸ポケットに入ったペン型カメラが保証するだろう。…卒業まで秒読みの3年生。それも、Aクラスとしてバラ色の人生を送るのが約束されている二人が―――
「おい」
「ひっ…」
―――どうして■■な人生を送るコイツ等が、こんな凶行に及んだのか。
綾小路の中には、そんな疑問だけが燻っていた。
「………」
読了、ありがとうございます。
今回、割と伏線を散りばめたり回収したりと忙しない回でした。
お気付きになってくれてたりすると嬉しかったり。
感想、高評価がお力になっています。
アンケートも回答ありがとうございます。
誤字脱字、修正いつも助かっております。
最近は界隈も賑わっていて何より!よう実2年生編のアニメ化も楽しみです!
それでは次回も、お楽しみにお待ちください!
この春休み編で1年生編は〆となります。皆さんが今作で最も面白かったパートを教えて下さい!人気の傾向を2年生編でも生かせれば幸いです!
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4月~入学編~
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5月~クラス間 闘争開始編~
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7月~暴力事件 学校裁判編~
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幕間
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特別試験編~無人島試験~
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特別試験編~船上試験~
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IF編
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夏休み編
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体育祭編
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ペーパーシャッフル編
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冬休み編
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混合合宿編
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2月〜バレンタイン編〜
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3月〜クラス内投票編〜
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選抜種目試験編