ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
書きたいところだけ書いた感じです。
撫子オルタ√、とでも。
ちなみに彼女の全設定はDクラスに入学したこと以外、
タイトルの通り【ネタバレ】を知ったことしか相違点はないです。
優しい撫子さんは居ません。
とってもドライです。本作のイメージの彼女を崩したくない方は、ブラウザバックお願いします。
読まなくても本編には何の影響もない、本当にただの番外編です。
それでも構わない方だけ、どうぞ。
―――◇―――
きっかけは、ただの話し声。
私に気遣ってのこと…と、耳触りの良い言葉を重ねていましたが、許すことは出来なかった。認めることを心が拒んだ。
その時ほど私の耳の良さを恨み、呪う事はないでしょう。…本当に一度、鼓膜を破ろうとして羽交い絞めにされたのも仕方ありません。
事実を理解して、理解して、理解した私は―――喪心、したらしい。
記憶はある。でもそれが、私の行ったことなのか我ながら自覚がない。
アレの事はもう気持ちが悪くて視界にも入れたくない。殺すつもりはなくても、生きていて欲しいとも思わない。
もう私が望んでいるのは、ただ一つだけ。…その一つだけの為に、私はこんな鳥籠のような場所に来たのだから。
だから―――
―――〇―――
Side.綾小路清隆
5月某日、指導室の前の廊下にて。
ため息交じりに捨て台詞を残した堀北を見送ると、同じように残された相手に視線を落とす。
長い黒髪に、
「なにか?」
「………いや、なんだ。お互い面倒なのに巻き込まれたなあ、と」
「左様ですか」
彼女と見つめ合ったのは、コレが二度目だった。
一度は入学式の日に。そして今日、担任の茶柱に呼び出されたこの場で。会話したのはこれが初めてだが、なんというか冷たい。だが、先ほどの堀北やHRでの茶柱とは違った熱というべきか、名状しがたい雰囲気だった。
…まるで、あの部屋の連中みたいな―――。いや、考えすぎだな。
何を話したら良いのか、首を傾げていると彼女は既に目の前に居ない。…どうやら帰ったようだ。俺はその反応に、先ほどよりも深いため息を吐く。…さよなら、俺の平穏な学生生活。
・◇・
西園寺の事は、あまり詳しくない。
Dクラスの女子生徒で、かなりの美少女だという事。
小テストで満点を取り、学校のSシステムについて素早く理解し、利用していた事。
そして、
…多分、クラスの他の連中も詳しくないだろう。何故なら彼女は、入学式のその日を入れてまだ
5月1日の朝のHRで茶柱にSシステムが公表された日。…西園寺が実はSシステムを理解していた事を皆の前で暴露されても、何の反応も示さなかった。激昂する山内や、Dクラスの真実を聞いた幸村が声を荒げ、高円寺が場を乱して、平田や櫛田が取り成している最中でもどこ吹く風と聞き逃している。
唯一、反応を示したのは女子のカースト上位の軽井沢が指摘したときの一幕だけだ。
「ちょっと!西園寺さん!」
「なにか?」
「な、…なにかって、その、また明日から来ないつもりなの…!?」
「はい」
詰問するような態度の軽井沢に、一歩も動じない西園寺。逆に、質問した側の方が周囲に助けを求める様に視線を惑わせる。
クラス中の責めるような視線もものともせず、熱を感じない冷たい眼差しで軽井沢を見据えている。
「そ、その…。これ以上、自分勝手なことをしないでくれない!?」
「具体的には?」
「え?えっと…」
キョロキョロする軽井沢の代わりに、前に出たのは取り巻きの篠原だ。腰に手を当てて、彼女を威嚇するように声を上げる。
「あ、アンタがずる休みしたからクラスのポイントが減ったんじゃない!」
「そ、そうだよね…ずっといなかったし…」
「そ…そうだっ!俺達だけじゃない、西園寺ちゃんもずっとサボってたぞ!」
同調するように声を上げるのは篠原の友人の佐藤に、男子は池、山内らが続く。その声にも視線を向けず、ジッと軽井沢のみを見る西園寺にクラスの声は徐々に小さくなっていく。
それを面白くないのは、勝気な篠原だ。無視されたと思ったのか、西園寺の肩でも掴もうと手を伸ばした。その様子に平田が動き出すが、それよりも先に西園寺がその手をパシ、と弾く。
「っ、なにするのよ!」
「軽井沢?さん。貴方は私の質問に答えていません」
「え…?」
「ちょっと、無視しな「具体的には?と聞きました」…アンタ!」
手を払った事に、顔を赤くする篠原。今度は顔目掛けて手を振りかぶる。それに小さく悲鳴を上げる周囲と、後ろからその腕を抑える平田。教室は小さい混乱を呈している。
「っ!アンタ、無視するんじゃないわよっ!!」
「お、落ち着いて篠原さん。…軽井沢さん、クラスポイントの件でしょ?」
「そ、そう…。これ以上勝手に休んだら、クラスのポイントが0のままになっちゃうんでしょ?」
「減りません」
「な…え?…なんで?」
「単位を購入しました」
「は…?」
「なっ!」
単位を買った。端的に西園寺はそう言ってのけた。その言葉に、クラスの時が一瞬止まる。その空気を破ったのは、いままでニヤニヤと趨勢を見守っていた高円寺だ。
笑い声と、拍手まで送りながら出来の良い見世物をみた外国人のようなリアクションをしている。
「ハハハハハハッ!!流石だねえ、撫子嬢」
「
「ふふっ…いやなに、昔とは
「そうですか」
二人には面識があったのか、どこか勝手知ったるという様子だ。なおも笑い声を漏らす高円寺と、無表情でそれを見ている西園寺。
「―――ちなみにどの位買ったんだね?」
「3年生の学期末。卒業分まで購入しました」
「ハハハハハハッ!そうかそうか。では、君はもう学校には来ないのかね?」
「テストの日と、出席を求められた日は登校します」
「なるほどねぇ…いや、回答に感謝するよ」
「では」
「ああ、アデュー」
そうして西園寺はクラスを立ち去った。その後のクラスは、より一層深い混乱…いや、混迷模様だった。去った西園寺に陰口を叩く篠原。罵倒に口角泡を飛ばす幸村。それを収めようとする櫛田と平田。
クラスに、西園寺撫子という存在が深く刻み込まれた瞬間だった。
・◇・
そうしてその後の放課後、俺は校内放送で呼び出された。茶柱に給湯室に押し込まれると、そこには西園寺の姿があった。どうやら彼女も呼び出されたらしい。…無言が、痛いぞ。
その後、茶柱からの脅迫じみた呼び出しに応えて抗議をしていると、その矛先は西園寺にも向いた。
「そういえば、ここにもっと優秀な生徒がいたんだった。…なあ、西園寺」
「茶柱先生、本日のご用向きは?」
「担任として、一度も授業に出ない生徒を心配するのは当然のことだろう?」
「左様ですか」
皮肉を込めた言葉にも温度のない返事。それにフンと鼻を鳴らす不良教師は、西園寺に続けて指摘を続ける。その内容は成績やSシステム、単位の購入についてだった。ひとつひとつ丁寧に答えるも、その方法については何一つ真似が出来ない手法だった。
曰く、通学路の監視カメラや教員と上級生とクラス毎の雰囲気の違いから理解したこと。
曰く、
曰く、曰く、曰く…。
…いや、無理だろ。いったいどうしたら、一日で学校のシステムを見抜ける?いったい何をしたら、現金と同じように使えるポイントを、入学して間もない生徒に無償で譲ってくれるんだ?
「…ハァ、本当の事を話すつもりはないのか?」
「話しています」
「………」
「………」
「―――いったいどこの世界に、一ヵ月で
「なっ…!?」
数百万…。言い方的に、100万どころでないんだろうな…。10万ポイント毎月貰っても、十ヵ月分以上。一体どうやって集めたんだ?
騙し取ったのか、それとも…なんだ、ええと。
「ふん…
「っ先生、それは…!」
「…………」
思わず、という風に声を荒げる堀北。…すまん、正直俺も同じことを思った。だが、口にした茶柱先生も本気では言っていないのだろう。HRでの皮肉気な表情に笑みを浮かべている。そしてその冗談を聞いた西園寺からは、
「―――」
―――表情が抜け落ちていた。
「っひ…!」
「…、………」
「………」
先ほどまでも無表情だったが、今度は目から光が消えている。それでも茶柱からは瞬き一つせずに、目を逸らさないでいる。
思わず悲鳴を零す堀北と、二の句が継げないでいる茶柱。…恐らく口の動きからして、「冗談だ」とでも続けようとしたのだろう。開けた口からは、言葉ひとつ漏れだす事もない。…その理由を、恐らくこの場で俺だけが理解できた。
―――これは
「話は終わりですか?」
「…ぁ、………、」
口をもごつかせる茶柱。俺達は勿論、西園寺自身も口を開かない。痛いほどの沈黙は、着信を知らせた茶柱のスマホによって断ち切られた。
「こ、この、後は会議がある。…行って良い」
「失礼します」
「………し、失礼します」
「………」
もはや慇懃無礼にも感じる程、丁寧にお辞儀をして退室する西園寺。俺と堀北もそれに続くと、退出した先で呼び止められる。
声をかけたのは堀北だ。…さっきのを聞いてまだ声をかけられるのは、凄い胆力だな。
俺は断り文句を言い、西園寺は無言を貫く。沈黙に耐えられなかったのか、捨て台詞と共に堀北は立ち去るとその場には俺と西園寺の二人だけが残された。
こうして、俺はAクラスを目指す為に暗躍することとなる。
………ちなみに次に西園寺と会ったのは、当然と言えば当然だが赤点で退学となる期末テスト当日のことだった。クラスメイトの視線も物ともせず、また過去問が無いにも関わらず、彼女は全教科満点だった。
そして、1年の終わりにあいつはAクラスになった。俺も、堀北も茶柱も、クラスの全員の思惑を裏切る形で。
―――〇―――
Side.堀北 鈴音
彼女―――西園寺撫子さんは、Dクラスでも特異な存在だ。喧嘩っ早く問題を起こす須藤君や、唯我独尊な高円寺君とも違う。孤立…いいえ、孤高かしら?
そもそも学校に来ていないから、交友関係も分からないし普段もどこに居るのか分からない。…5月には期末テストの際に、教師役として協力を要請したのだけれど一度として部屋から出た事は無かった。クラスメイトの話でも、目撃した人はいないみたいだった。
そんな彼女だけれど、能力は他の追随を許さぬほど高い。テストでは全教科満点。特別試験も、体育祭でも必ずと言って良いほど結果を残している。…生徒会の、兄さんからの勧誘を蹴ったそうだけど、それも当然と言えるほど、彼女は優れていた。
この前の夏休みの試験でも、そうだった。
・◇・
夏休みに唐突に始まった特別試験。彼女とは同室だったけれど、ほとんど部屋に居た私と違って彼女は姿を見せなかった。改めて島について試験の説明がされると、彼女はフラッと姿を消していた。
やむを得ず彼女を除いた皆で方針の相談や、リーダーの決定、拠点となる場所の決定。それらを決めて午後の夕暮れ時、彼女は戻って来た。
「あ、西園寺さん!」
「…今までどこに行っていたのかしら?」
「島を回っていました」
相変わらずの表情で、そして端的に言葉を返す彼女に周囲のボルテージもまた上がっていく。篠原さんなんかは特に顕著ね。…以前の教室での事、まだ根に持っているのでしょう。
「ちょっと!勝手な行動はしないでよっ!」
「この試験のてーまは自由。皆様が何かをするも自由。私が何をするも、自由。…違いますか?」
「なっ…!アンタねえっ!」
「待って、篠原さん。…西園寺さん、島を回って、何をしていたのかな?」
平田君が間に入って、場を取り成そうとする。西園寺さんはそれに応えるように、ジャージのポケットから3枚のカードを取り出して、私に差し出した。
それぞれに名前が刻印された―――
「こちらを集めていました」
「な…」
「それって…!リーダーの!?」
「ハァ!?なんでアンタが持ってるのよ!!」
騒つくクラスメイト達の渦中で、無言のままでいる西園寺さん。恐る恐るそれを受け取ると、間違いなく自分が持つのと同じリーダーのカードだった。間違いない。
「シラナミチヒロ…、イブキミオ、ニシカワリョウコ…これって」
「他のクラスの物です。利用するのも、しないのもお任せします。…私はこれで試験から失礼しますが、よろしいですね?」
「な…、ちょっとそんな勝手が許される訳ないでしょ!?」
「それにどうやって!?まさか盗んだの!?」
言うだけいって、立ち去ろうとする西園寺さん。その手を遮るように、拠点に居た皆が周りを取り囲む。
口々に不満や、批難するような罵倒や態度を示すクラスメイト達。それに対する西園寺さんの対応は―――無視だった。
何も言わない、何もしない。ただそこに居るだけの彼女に、クラス中の言葉による
茶柱先生が来ると、一端の矛を収めて皆が散開した。
「では点呼を始める。まず「茶柱先生、先に申し上げたいことがあります」―――なんだ、西園寺」
「私はこの試験をりたいあ致します」
「ふむ。理由は?」
「体調不良です。何か問題ありますか?」
「フン…問題は無いが、「ちょっとアンタ!なに勝手に決めてるのよ!」―――だそうだが?」
「それに応えねばならない理由が、茶柱先生にあるのですか?」
「まさか。…だが、担任としては、そうだな。生徒同士の不和をそのままにしておくのはどうかと思っただけだとも」
…いきなり茶柱先生にリタイアを告げた。予想できなかった訳じゃないけど、まさか満座の前でするだなんて。案の定、クラス中のヘイトを受ける西園寺さん。篠原さんを筆頭に、女子たちの視線も厳しい。
それを面白がっているのは茶柱先生だ。…この人もどこか、西園寺さんを疎ましく思っているのかもしれないけど、これじゃあ余計にクラスの雰囲気が悪くなる。
こんな序盤でつまずくなんて…。そう思っていると、西園寺さんはポケットからまた何かを取り出した。
「………なんだ、それは?」
「ぼいすれこーだー、です。Cクラスから預かりました」
「な、なんでそんなものアンタが持ってるのよ!」
「再生します」
まだ騒いでいる篠原さん。…いいえ、よく見れば一部の生徒の顔色が悪い。さっき散々、口々に零していた罵倒を、不満を、その機会は備に録音していたのだから。
案の定、音声を聞いた茶柱先生の表情は一変し周りで囲んでいた面々の表情も曇る。
「…成る程、よく分かった。リタイアだったな西園寺。受理しよう。そのボイスレコーダーは「私が責任を持って保管します」…そうか」
「失礼します」
「………」
苦虫を嚙み潰したような茶柱先生。…顔色を悪くした面々も道を開け、西園寺さんが船に去ろうとするのを見送ろうとする。でも、その背中に平田君が声をかけた。
「待って欲しい、西園寺さん!」
「なんですか平田君」
「…ええと、その」
「未だなにか?」
「何故、独りであろうとするんだい?」
「興味がないので」
「きょう、み…?」
悩む素振りすらなく、西園寺さんはそう言い残すと船へと消えて行った。
その結果、Dクラスは紆余曲折あったものの1位の成績で結果を残すことが出来た。その頃からだろうか、クラスの皆も西園寺さんの実力に口を挟まなくなったのは。
・◇・
そしてその後の船上試験でも、西園寺さんは圧倒的な活躍をみせた。
配置されたのは龍グループ。クラスのリーダーが集うグループに、西園寺さんは時間ギリギリに入室をした。
「ククク、やっときたなあ。島の試験では好き勝手出来たみたいだが、どうやったんだ?西園寺」
「………」
「おいおい、遅れて来たのに無視かよ。寂しいじゃねえか、なあ?葛城」
「何故、俺に話を振るんだ」
「お前だって知りたいんじゃねえか?どうやって、底辺のDクラスが俺達を
「それは………」
「………」「………」
Cクラス、龍園君にさっそくとばかりに声をかけられた西園寺さん。ただその話題は私達Dクラスにもタイムリーな内容だった。
私も平田君、櫛田さんだって知りたいことだった。
チラリと観察すると、Bクラスの神崎君も会話に注視していて室内の話題は西園寺さんの行動に集約されつつあった。
しかし、時間は皆に平等に過ぎるもの。アナウンスが流れると龍園君も舌打ちをして、一端はなしを切る。その後は櫛田さんが話し合いに水を向けて、各々のクラスが自己紹介をする。Aクラス、Bクラス、Cクラス。最後にDクラスとなって西園寺さんも名乗ると、再び話題は試験についてとなる。口火を切ったのは、Aクラス。葛城君からだ。
「俺達の提案をするのは、一切の話し合いの放棄。優待者の逃げ切りを許し、全てのクラスにデメリットなく試験を終える作戦を提案する」
「おいおいおい、ビビってんのか?葛城」
「なんとでも言え」
「―――」
「―――」
会話の応酬で、私もAクラスの作戦に反対の理由を述べる。Bクラスも、そしてCクラスも反対し、Aクラスは穴熊を決め込み腕を組む。膠着をみせる会議の場は、その場にそぐわないスマホの着信音によって中断された。
「あ?誰のスマホだ?」
「私です。失礼します」
「………?」
「………」
電話を取ったのは西園寺さんだった。部屋の皆の視線を集めながら、スマホに耳を当てる。…いったい誰が?Dクラスの誰かとは思えないけれど…。
「チッ…こういう場ならマナーモードが基本だろ」
「…はい、そうですか。分かりました、ええ…」
「フン、どんだけ見た目が良くてもDクラスは常識が―――あ?」
「?」
このポカンとした表情の龍園君。その視線の先には、スマホを操作する西園寺さんの姿があった。…え?まだ通話しているわよね?…じゃあ、その
疑問を口にする間もなく、再びスマホから通知音がする。今度は一つではない。複数―――この部屋のスマホ全員分が鳴っている!
「っ、まさか!」
「おいおい…!」
スマホにはメールが届いている。内容は予想の通り。
【龍グループの優待者が指名されました、以降、龍グループの話し合いは不要となります、他のグループの邪魔にならない様―――】
「ククク、やりやがったなぁ、西園寺…!」
「では失礼します」
「っ、待ちなさい…!!」
伸ばした手は空を切り、彼女は扉の向こうへと消えていく。追いかけることも考えた。しかしそれよりも先に、私達にはやらなければ行けないことがある。
この場の収束、クラスへの説明、西園寺さんの扱い。
「っ、(いつか必ず…!)」
―――追いついてみせる。
そう、その時に私は無謀にもそう思い、信じていたのだ。…とっくに、手遅れだったのに。
――――――〇――――――
Side.櫛田 桔梗
気に食わない。
『―――聞いてよ櫛田さん、西園寺さんて本当にムカつかない?』『あんな言い方しなくてもいいよね?』『ホント、お高く―――』
気に食わない、気に食わない、気に食わない。
『―――ねえ櫛田さん、西園寺さんのことなんだけど』『おい桔梗、もっと役に立つ情報はねえのか?西園寺の弱点とか、よぉ…?』『櫛田さん、撫子さんの事をもっと詳しく教えて貰いたいんですが―――』
気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない!!!
『―――ねえ、西園寺さん。たまには一緒に、』
『失礼します』
気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない―――!!
アイツの全てが気に食わない。出会った時からそうだった。
顔も、スタイルも、頭の良さも、その全部が私よりも上だった。友達も居ないと思ったのに、妙に人気がある。アイツの連絡先が欲しいだとか、好きなものが知りたいとか、ホントホント、目障りなヤツッ!!
…5月の時は、最初のテストの時。満点を取ってたから教師役で勉強会に呼ぼうとした時も居留守を使ったのかガン無視されるし、それ以降も全然見かけない。学校に来る義務が無いからって、私の友達たちの誰からも目撃情報がないなんて、一体どこに居るのよ。
…そのせいで、無駄に偉そうな堀北からはため息をついて見下されるし…サイアク。最悪最悪最悪っ!!
本当にきらい、キライ、嫌い…!っそれなのにっ…!
『"―――私が私であるためには、過去を知る人は全部いなくなってもらわないと困るんだよ"』
「…なんで」
「………」
―――よりによってコイツなんかに私の秘密を知られるなんてっ…!!
目の前で再生されているのは、体育祭の舞台裏。私が、
キャパを超えた私は、無様に飛び掛かって西園寺に避けられ地面に転がる。その後も何度も腕を振って、髪を振り乱して必死に手を伸ばすけど、掠めもしない。
「…寄越せっ!っ返せええぇっ!!」
「………」
「ふぅ、ふっー…!!っはぁ、はぁっ!!」
なんども飛び掛かって、恫喝してもコイツは顔色一つ変えずにこっちを見下ろしてる。もう冬で、寒い筈なのに不愉快な汗が伝う感じがする。髪もべたべたと顔に張り付いていて、気持ち悪い。
息が切れて、肩を揺らしてもう睨んで声を出す事しか出来ない。…惨めだった。最悪だった。もう終わりだった。
こいつは、きっと私の事なんてムシケラと同じようにしか思ってない。クラスの裏切り者の私を、目障りになった私のことを、きっと退学にするんだろう。
「はぁ…はぁ…!」
「………」
「う、ぅううぅううううゔゔゔっ…!!」
もうどうでも良い。ボロボロと悔し涙も出て、わんわんと感情的に泣く。どうせ最後だからと、秘密を全部コイツにぶつけてやった。クラスメイトも、先輩も、友達もなにも関係ない。
今までみんなの
振り切れた心のタガは、もう簡単には直らない。小学生みたいに目の前のコイツの事も散々にこき下ろした。
なんだその胸。顔。なんでお前なんかが私と同い年でしかも同じ学校に居るんだよ。
「…満足しましたか?」
「っ…なによ…しゃべれんのアンタ?声帯腐ってるのかと思ってたよ」
声はガラガラだった。さんざ叫んで、泣いてりゃこうなるって。
もう投げやりに返事を返していると、こっちにスマホを投げ渡される。
「っ、何の真似?」
「欲しがっていたので、渡しました。…落ち着いた今なら構わないでしょう」
「誰のせいよ…!!」
諦めていたが、それはそれ。余計なアプリが入っていない分、直ぐに動画のファイルは見つかった。
完全削除をして、念のためクラウドや送信履歴などが残っていないかもチェックする。…大丈夫みたい。
「すぅ…はぁっ…!!」
「………」
思わず、という風に重い深呼吸をしてしまう。命からがら、最後の最後で助かった。
これで、これ、で――――
『ピッ―――返せええぇっ!』
「は…?」
「手間が省けましたね」
『ピ、ピ、―――ふざけんなよ!堀北も!龍園も!馬鹿にしやがって!クラスの連中も馬鹿ばっかりだ!!』
「お、あ…あああああああああぁぁああぁ!!」
今度こそ、終わった。
もう私は、コイツに逆らえない。私しか、私にしか言ってない連中の秘密を何個も話してしまっている。
コイツも退学させる?…そうだ、それしかない。でも―――
「私は
「…あ、あは、あはは、ははっはははは…!」
膝から崩れ落ちる。ボロボロと涙も、鼻水もぐしゃぐしゃと溢れて、全部台無しだ。
そんな不愉快な事すら、もう気を回す気力が沸かない。
―――もう残りの学園生活、私は…コイツの家畜として過ごすしかないんだ。
・◇・
そうして私はコイツの駒になった。…でも、コイツはなにも言ってこなかった。いや、正確には一言だけの命令がメッセージアプリで届いてた。
―――『気が付いた事を知らせる様に』
たったそれだけ。
その日から私は「今日は誰に会ってどういう話をした」だの、「Dクラスの軽井沢さんが平田君と別れた」、「王美雨、みーちゃんが平田君の事が好き」だとかそういう事を。
都度、『了解』と返事が返ってくるので無視されている訳じゃないんだろうけど。なんていうか、その度に許されたような、認められて、評価された時みたいな安堵を感じる。
・
・・
その後のペーパーシャッフル試験も、混合合宿も一年最後の試験でも、コイツは他に何も言ってこなかったし、なにもしなかった。
ただ出席を求められた日に出席して、それでもテストも試験も全部満点。もうクラスの連中も、西園寺のことは別枠として認識してたように思う。(もちろん、裏では女子にぐずぐずに悪口を言われてたけど)
…そういえば、混合合宿では2日目には居なくなってた。Aクラスが大半のグループに入ったと思ったら、急にいなくなって、学校はそれに対して別にペナルティも与えずなあなあになってて。
まあ例の退学者が出た件で有耶無耶になってたけど、なんかそれまで宿舎の空気がピリピリしてたのを覚えてる。廊下に先生も常にウロウロしてたし、脱走でもしたのかって噂になってた。
そんなアイツがDクラスを去ったのは、1年最後特別試験の前の日だった。
きっかけは多分、学校が急にやった退学投票試験のせいだ。アレのせいで、Dクラスはバラバラになった。
退学者が学年で出ていないからって理由で起きた理不尽な試験。人気者の私は全く怖くなかったけど、女子から嫌われてる山内とか池、須藤。それに好き勝手する高円寺と西園寺撫子。その辺が退学筆頭だった。
でも、試験当日までDクラスには緩い空気が漂ってたんだ。理由は茶柱先生が、
『退学を無効にするには2000万ポイントが必要だ。
なんて意味深な言葉を吐いたから。その結果、あれよこれよという間にDクラスは西園寺に投票する空気になっていった。投票の前日に、堀北が山内がAクラスと内通した裏切り者で、綾小路を退学にしようとしていると告発。
他にも平田が豹変して自分に投票しろだの言っていたのに、当日に処刑台に上ったのは1票差で西園寺だった。
「38票で最下位は西園寺撫子、お前だ」
「…そうですか」
…38票。私も投票の事をメッセージで聞いたら『好きにどうぞ』と言われたから批判票に入れたけど、ほぼ全票じゃん。
それでもアイツは茶柱先生にそう宣告されても普段通り。むしろ、クラスの連中が次第に騒めきだす。いや、最初に大声で喜びだした山内はずっとうるさかったけど。その後、スマホを弄っている西園寺に平田が2000万ポイントを使わないのかと聞くと、その日初めて西園寺は感情らしい感情を浮かべて、不思議そうに「誰がそのような事を?」と聞いてた。
「え?…それは、茶柱先生が…」
「…はぁ。そういうことですか…」
露骨にため息を吐いた西園寺は、持っているポイントの画面をクラスに見えるように向ける。そこには、『17,110,231』という2000万には少し届かないぐらいの、それでも大金が表示されてた。
それに慌てたのは聞いた平田自身。そうだよね?退学者を出さない為に彼女に投票したのに、実際は2000万は持ってなくてこのままじゃ西園寺は退学になる。
私は櫛田桔梗というキャラクター的に、平田はいつもの偽善で、堀北はなんだろ?打算かな。他にも何人かの生徒でポイントを出し合って西園寺を救おうって流れになった。でも、ここで余計な事を言った奴がいた。…そう、
「へへ…おいおい退学になるなんて、可哀そうだなあ!撫子ちゃん」
「………」
「無視すんなよ!」
自分の退学が無くなったのが嬉しいのかったのか、普段は澄ましている西園寺が退学の危機に面してるのが嬉しいのか、馬鹿は饒舌に話し出す。『ポイントが欲しかったらお願いしろ』、『体を好きにさせろ』、そんなことを言い出しやがった。…言い方はもっとキモかったけど。
もちろん、女子はドン引きだったし茶柱も注意した。だけど、そんな程度で止まるならもっと頭使って発言してると思う。
「………」
ただそんな中でも、西園寺は無言でスマホを弄っていた。それに気を悪くしたのは篠原だ。無視されてると思ったのか、ポイントを貰いたいなら頭を下げろと言った。私や平田が収めようとしても、便乗した馬鹿どもがギャーギャー話すせいで全然届かない。謝罪コールをするやつすら居た。…茶柱も担任だろ、止めろよ。
クラスの雰囲気は最悪だ。そう思ったら突如、ガタリと西園寺が席を立った。
「な、なによ…謝る気になったの!?」
「篠原さんっ…!」
「へ、へへ。ほら、ポイントが欲しかったらお「茶柱先生」…おい!」
無視された馬鹿が声を上げても、西園寺はまるで聞こえていないように茶柱にスマホを向ける。そこには、先ほどのポイントの画面がある。
「…馬鹿な」
「退学を無効にして頂きます。よろしいですね?」
茶柱だけじゃない。クラス中が驚いていた。金額が増えている。それも2000万どころじゃない。
『47,110,231』ポイント。
突然、降って沸いたように増えた3000万ポイント。それに一番最初に声を上げたのは、最も頭のキャパが狭い馬鹿だった。
「は、はああああ!!?ど、どうやって、誰からもらったんだよ!?」
「………振込しました。では、失礼します」
「無視するんじゃねえよ!」
退学を取り消して、教室を出ようとした西園寺に手を伸ばす馬鹿。流石に暴力は不味いと思ったのか、4月よりマシになった
「西園寺さん、すまなかった。そして、ありがとう」
「…?何の謝罪と、何の感謝ですか?」
「え?それは…僕は、君を救えなかった。でも君は、君のおかげでDクラスは退学者を出さなくよかったそれの…」
最後はふっと消えるような声色だった。依然として平田の顔色は悪い。過去のトラウマでも踏んだのか、ずっとおかしな様子だったが、マシになったのだろうか。それに対して西園寺は立ち去るのかと思ったら、ジッと平田を見つめている。
「退学者が、出ない?」
「え?あ、あぁ!そうだ。…僕たちのクラスは、万全の体制で学年末の試験に挑める。みんな君に、感謝しているよ」
「…?
「え?」「は?」
は?…いけない、思わず口に出た。でもどういう事?退学者は出てないでしょ?そう思って聞こうしたけど、アイツはもう帰っていた。その後、相変わらずキモい山内はAクラスの坂柳の名前を呼んで教室を出ていくし、西園寺に謝罪コールをしていた奴らはバツが悪いようでそそくさと教室を出ていく。
私も、その日は疲れたからすぐに帰って眠った。
土曜日の試験のあと、一日休みを挿んで、月曜日の登校日。
仲の良いオトモダチと教室に足を運んで、それで、―――西園寺の言葉の意味が分かった。
…
「え…?どういうこと?」
「おはよ…え?これは…」
徐々に当校している生徒が増えるにつれて、混乱は大きくなる。いや、良く見ると騒ぎはウチのクラスだけじゃない。隣のCクラスも、もっと奥のクラスからも騒ぐ声が廊下に響いてる。
須藤、池、山内、外村の席がない。情報を集めようと他のクラスのグループチャットを見ると、Cクラスはもっと悲惨で龍園を含む10人以上の席が無くなっているらしい。
混乱もそのままに、HRの予鈴が鳴る。…でも、来てる生徒の数が机の数より少ない。…綾小路が居ないんだ。
いつもは厭わしく思う担任の登場を、今か今かを待っていると扉の開く音と共に見知らぬスーツの男が入ってきた。
「はい、皆さん席について下さい」
「え…?」「誰?」
「あ、あの…茶柱先生は「席につけ、と言いましたよ?3度目はありません」…っ!」
有無を言わせぬ口調に、全員が慌てて席につく。起立、礼、着席。普段通りの工程で、いつもとは違うHRが始まった。
男の名前は月城といって、理事長代理らしい。胡散臭い笑みで自己紹介をすると、なんといきなり茶柱がクビになった事が知らされた。
「クビって…!?そんな、いきなりあり得るんですか?」
「最近はむしろ、教師の方が生徒より社会的立場は弱い風潮がありますからねえ。仔細は話せませんが、彼女は職権乱用である生徒に退学を盾に脅して良からぬことをしていた事実が認定されました」
「そんな…」
そんな奴には見えなかったけど、とりあえず心配そうな
朝からいなくなっていた連中を心配してたのは、間違いなく平田洋介だけだろうケド。そんな平田から4人の事を聞かれた月城は思い出したように、掌にポンと手をついて「あぁ、そういえば」と話し出す。
「えーと、すまない。名前は何だったか覚えていないが、まあ退学したからかまわないかな。…彼らは盗撮で退学になったよ」
「盗撮!?」「はぁ!?」
「なんでもプールの女子更衣室に改造ラジコンでカメラを運んで盗撮したようだ。まあ普通に犯罪行為だね」
「そんな…!」
マジかよ最低だな。…てか、西園寺の言っていたのはコレのことだったのか。結局、結果だけみたら山内は退学してる。もし、昨日の騒動がこの大量の退学に繋がったのなら、本当に茶柱は余計な一言で自分の首を絞めたことになる。
「代理とはいえ理事として心が痛いよ。まさか1年最後の試験直前に十数名の退学者が出るとはいやはや、例年より退学者が出ないと聞いて優秀と思っていたんですがねえ」
「は…!?じゅ、十数人!?」
ざわつくクラスを尻目に、理事長代理とやらはクラスを去っていった。…結局、退学者を出したのはAとBクラス以外の2クラス。停学を入れるならAクラスも入って、清廉潔白なのはBクラスだけだったみたい。
DとCはクラスポイントが0どころかマイナスまで振り切っていて、Aクラスも停学がいっぱい出ていてBクラス落ちした。
…後は生徒会長。この時期に新旧合わせて退学って何やったのよ。まあ堀北がむちゃくちゃ落ち込んでたからいいけど。
この騒動の中心であろう西園寺は結局試験の前日も登校はせず、いっそのこと次の試験の司令塔として選択して負けて、退学をさせようなんて過激な発言も出る始末だった。
そして試験当日。アイツは登校した。
こっちのDと
意気消沈した堀北は見ていて楽しかったけど、泣き叫ぶ女子を慰めるのは面倒だった。控えめに言って、地獄絵図。
次の日には綾小路君が復学すると女子たちに詰められ、それを監視カメラで見ていた教員からイジメ判定を受けて停学になってた。その時点のクラスのポイントが、こう。
A:一之瀬クラス870ポイント
B:坂柳クラス601ポイント
C:元、龍園クラス▲899ポイント
D:私達のクラス▲133ポイント
…もう私達Dクラスに再起の芽はない。誰がどう見ても分かる。
私にできるのは、可哀そうなDクラスの皆を慰めて、他のクラスの皆からはちやほやされる櫛田桔梗を続けることくらいだ。それでも。
『今日は1年の七瀬って女子生徒が綾小路に接触してた。八神って奴、私は知らないんだけど後輩面してキモい後は…』
それでも私は、今日もアイツにメッセージを送る。
・
・・
・・・
『了解』
「っふぅ…」
このメッセージが、私を縛る限り。
―――◇―――
Side.西園寺 撫子
「………あ、あの、西園寺さん」
「黙って下さい」
「ひゃいっ」
そう言ってビクリと身体を強張らせる、…?誰でしたか、まあいいでしょう。桃色の長髪の彼女をベッドで抱きしめる。私も、同衾している彼女も一糸まとわぬ姿で過ごす。それが、彼女に…いや、この部屋に来る相手に命じたルールだからだ。
部屋は適温で保たれているので、風邪をひくようなことはない。
「すぅ…」
「ん…ゃ…ぅ…」
「…、黙れと、言いましたが?」
「あう…ごめんな「3度目です」…っ」
彼女の乳房を軽く口吸うと、決まって身悶えして喘ぎを零す。それを咎めると、余計に意識を強め余計に感じてしまう。それは、人体のメカニズムだ。そうして耳を、唇を、首筋を、うなじと順に指を這わせる。
そうして彼女が
「きゃっ…」
「寝ます。…これ以上、鳴かないで下さいね」
「…っ」
返事はない。だが頷くのを気配で感じた。目を瞑り、彼女の心音を感じる様に頭を預ける。徐々に遠くなっていく意識に、私は漸く眠りにつくことができたのを
「………」
「………っ」
身体は動かない。何も見えない。でも、耳だけは聞こえる。私の息遣い、彼女の息遣い、心音。もし、物音ひとつ立てば私の身体は目を覚まして辛いだけの現実を生きることになる。…このつかの間の逃避だけが、私の苦しみを癒してくれている。
だから私は、今日もこうして彼女を抱いて寝る。もう、慣れてしまったのだ。
・◇・
こんな体になったのは、
その瞬間、世界全てがひっくり返ったような気持ちになった。今まで受けていた全ての思いが、感情が気持ち悪い。腹立たしい。そんなものを許容していた自分を殺したい程、憎たらしく思う。激怒し、祖父に掴み掛かった。殺意すら込めて恫喝しようと、それでも祖父は首を縦に振らなかった。
それから私は、人に触れられなくなった。潔癖症に近いのだと思う。特に異性がダメだ。会話をするだけで気持ちが悪い。だが、そうしたら今度は不眠症に罹患した。通常なら睡眠導入剤やら試すのだろうが、私は薬を
効きすぎてしまうのだ。まさか医療用麻酔で半年以上昏睡するだなんて、誰が思っただろう。その結果が、アレな訳ですが。
自分でも調べてみた結果、心臓の音と人肌の温度が最も効果的だった。
…お笑い草だ。人を遠ざけた結果、独りでは生きていけない身体になるなんて。
そんな私を憐れんだのか、嘲笑っていたのかは知らない。だがある日、私は祖父に呼び出され望みを叶える変わりにある条件を出される。
それが、【高度育成高等学校をAクラスで卒業する】という事。
意味も理由も分からなかったが、そうすれば父の居場所を教えるというなら、なんでも構わない。
最初の配属はDクラス。そしてクラス替えはないという担任の説明に、意味を察する。
そうと判ったら先立つものを集める。ポイントと、
「いらっしゃいませ~なにかお探しですか?」
「―――はい。少し下着をみたいのですが…お手伝いをして貰っても?」
「ええ、お任せください。何色の下着が…」
どうすれば、人の目を引くことが出来るか。魅力的に見えるか、欲望を覚えさせるか、庇護をさせられるか、私はもう既に、そして充分すぎるほど理解していた。
目の前で制服のリボンを解き、ボタンをゆっくり外す。恥じらうように表情を朱に染め、止めようとする手を絡め捕り私の左胸に重ねる。…気持ち悪い。
「…あ、あぁ!あぁ、あ、の…あの、あのあの…!」
「下着を選ぶのは始めてで…何色が似合うと思いますか?」
「――――っ!!」
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
気持ち悪いけど、男よりはマシだ。店の店員、警備のスタッフ、学校の事務員、生徒、そして教師。
少しずつ、学校のルールを紐解いていく。少しずつ、私の根を校内にも校外にも張っていく。
そうしてポイントの有効性と、2000万でのクラス移行が出来ることを理解する。
そうして一月も経つ頃には、おおよその目途が立った。
私の持つのは
後は、作った枝の連中にもエサやりを忘れずに無駄な時間を過ごすだけ。倦怠感を覚えるほどつまらない消化試合。
学校も試験日だけは出て、それ以外は篭絡した彼女を使い、従業員用のホテルやラウンジで過ごした。自室は…休むには騒がしすぎる。担任はこちらを利用するつもりのようでしたが、無視です。
…あぁ、そういえば幼馴染とでもいうのでしょうか?高円寺君と神崎君も居るとは思いませんでした。いずれもほどほどの距離を保ってくれる殿方で助かります。
でも、いいえ。結果的には良しとしましたが、退学者を出す試験で集られるとは思いませんでした。
お金で友人は買えないそうですが、友人でお金は貰えるのですね。
まさか1年生の末で
生徒会長の暴行、新たな会長の女性への性的暴行。同級生らの脅迫に窃盗に暴行に盗撮と、本当にこの学校は将来の日本を担う人材を育む学校なのでしょうか?
ですが、もうほぼ詰みでしょう。あの承認欲求の権化の心臓を掴んでいるし、目障りな元担任は排除した。
新たな担任となった養護教諭は直ぐに私に溺れた。新しいクラスメイトも、融資をした私に負い目がある以上は安泰でしょう。
強いていうなら実力の圧倒的な高円寺君と、底の知れない綾小路君、彼らが暴れる事態にならなければそれでいい。
今のクラスも、ポイントも枝や彼女たちも、どうなっても構いません。
最後に、私がAクラスで卒業出来ていれば、それで良い。
だから、もう少しだけ―――待っていてください。
「…お父様」
「……?」
彼女が首を傾げるのを感じる。身動ぎでもしたのだろうか、意識が覚醒する。
…あぁ、不自由な身体が腹立たしい。
また始まる。面倒で退屈な生活が。
早く、早く早く早く、
私を、解放して。
はい、読了ありがとうございました。
ちなみに後は消化試合。綾小路君は茶柱先生が退学になって手を抜き出すし、
5人退学+停学多数でDクラスは戦力激減。Cクラスはほぼ壊滅。元Aクラスは停学ラッシュでポイント激減&坂柳の影響激減。
もしここから巻き返しがあっても、撫子オルタさんはポイントを使って卒業前にAクラスに行くので全然気にしていないです。
もちろんAクラスで卒業後に撫子オルタさんが父親のところにいっても幸せには成れません。
仕方ないね。やっぱり本編がナンバーワン。
読了、ありがとうございました。
他クラス視点、要ります?
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いる(ゆっくり作ります)
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いらない(本編優先)