ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ   作:エカテリーナ

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更新お待たせしました!
今回は、割と原作改変が入ります。最後の最後なんですが、多分察して頂けるかと。
まあ理由は追々ということで、一つ。

それでは夏休み編、堀北学・綾小路清隆・???視点で、どうぞ!!
…堀北鈴音?彼女は、うん、体育祭でいっぱい出すから許して許して…。




⑤:『ラブレター、再び』『超弩級』『禁煙失敗』

夏休みも残り僅か。生徒会の役員達は、来期の活動の為に集まり、書類の処理や簡単な会議を行っていた。

副会長の南雲や、つい先日に正式に生徒会入りをした一之瀬は外回りを。残ってこの場にいるのは、3年生や2年生の一部女子。そして撫子だ。

何時もなら、彼女の周りには世話を焼こうとする女子や、関心を得ようと話しかける男子が取り巻いている。ただ今日は、少し様子が違う。

 

 

「ふぅ………」

 

「「「…」」」

 

 

意図しての事ではないだろうが、憂鬱な溜息。静かにペンを動かす音だけが響く生徒会室に、その声は割と大きく聞こえる。

西園寺撫子の表情が暗い。心配した上級生―――橘や他の3年役員―――が、声をかけるも平気そうな顔で返す。そのため、誰も深入りはしない。

どうやらなにか心配事でもある様子だ。特に口出しはしなかったものの、会長の堀北学も当然気付いている。…その証拠に、彼も無言でスマホを取り出した。

開くのは初期からインストールされているチャットアプリだ。生徒会の3年グループのチャットをチラリと見ると、それぞれが西園寺の様子について言及している。

 

 

『撫子ちゃん、どうしたんでしょう?今日はよくため息を吐いているような』

 

『んー。私さっき来たけど、なんかあったの?誰か来てた?』

 

『特になかったけど、午前中はなにもなかったよ?いつも通りだったと思う』

 

『あ…、同級生の一之瀬が居たからじゃないか?仲が良いから、心配させない様にとか』

 

『撫子ちゃんならありえる!…どうしたんだろ』

 

『心配だね…』

 

『そうだな、俺先輩として助けてやりたいと思うが』

 

『でも試験絡みだと、あんまり口を出すのも不味いんじゃ…』

 

『それはそうだけど…』

 

「………」

 

 

チャットの内容は撫子を心配するもので、学自身も確かにと思う所もある。…気付けば生徒会役員(撫子以外)全員が視線を交わし、頷き合う姿がそこにはあった。

 

 

ん゛ん…、…西園寺」

 

「あ…はい、堀北会長。…どうかなさいましたか?」

 

「単刀直入に聞くが…何があった?」

 

「ぇ…あの、いいえ、特には…なにも」

 

「………誤魔化さなくていい。それに皆、気が付いているぞ」

 

「なっ……え…?えぇ…!?」

 

 

撫子は普段よりも動揺を露わに、素直な反応でキョロキョロと周囲を見渡す。周囲はそれを微笑ましく見たり、ニヤリと笑いながら頷き返したりと各々頼れる先輩ムーブを取り始める。咳ばらいして眼鏡を直す学も、未来の生徒会長(候補)兼、可愛い後輩に頼られるのも悪くないと思っていた。…決して、以前の妹との仲を回復して貰った借りがある、とかだけではない。

 

元より多くは無かった業務をいい所で切り上げると、生徒会の面々は撫子の相談(はなし)を聞こうと動き出す。

お茶を用意するもの、近くに椅子を移動させるもの、身を正すもの。それに観念したのか、不安げな表情で撫子は悩みを打ち明けた。

 

その内容は―――正直、一年のこの時期にしては()()内容だった。否、早熟というべきか。

歴代の中でも高水準なAクラスゆえの課題。…すなわち、クラス()()の悩みだ。

 

 

「―――成る程、話は分かった。…つまり西園寺は、龍園の話を聞いて、揺らいでいる訳か」

 

「揺らぐ…。はい、そう…、なのかもしれません」

 

 

撫子の言葉を聞いて、学はそう結論付ける。それに撫子も頷き返し、今日に何度目かの儚げな表情を浮かべていた。

 

他の生徒会役員は腕を組んで思案気になったり、言葉を返そうとして、口を噤んでしまったり。…助言したいのは山々だが、出来ない。その理由は全員が理解をしている。

―――生徒会には同学年の一之瀬も居る。迂闊な発言は依怙贔屓(えこひいき)や肩入れとなってしまう。ともすれば、公平である筈のクラス間の競争に余計なノイズが混じってしまうだろう。

 

………()()()()()()()()なら、喜んで介入しそうな話題ではあるが。

 

閑話休題。

 

「………」

 

「………ふむ」

 

「「「…」」」

 

 

図らずも、生徒会室の全員の期待の籠った視線を浴びた学。しかし、彼も伊達に歴代最高の生徒会長とは言われていない男。落ち着き払った態度で席を立ち、撫子を伴って隣室―――生徒会用の備品倉庫へ彼女を連れていく。

 

少しだけ埃っぽい個室に二人きりとなったが、艶っぽい雰囲気ではない。目も合わせていない二人だが、方や叱られる前の子供のような緊張を。方や、教え子への言葉を吟味する教師のような沈黙を。

…口火を切ったのは、教師側()だ。

 

 

「…ふぅ」

 

「………」

 

「…西園寺」

 

「は、…はいっ」

 

「―――お前は、お前自身は―――どうしたい?」

 

 

絶妙に間を外した後に、視線と声に力を込めながら後輩に問いかける。それは、決して答えではない。慰めでもなく、激励でもない。だがそれでも、後輩の憂いを絶つ為の威力(カリスマ)を秘めた問い掛けだった。

 

 

「…私、自身」

 

「そうだ。…答えは所詮、自分の中にしかない」

 

「………」

 

「…これは独り言だが、」

 

「?」

 

 

わざとらしくそういう学に、俯いていた撫子ははた、と視線を向ける。そうして語られたのは、これまで歩んできた学自身とクラスの歩みの歴史だ。

 

初めての特別試験で一喜一憂した事。初めてクラスに退学者が出た時の事。

 

自分が殊更に仲の良いクラスメイトを作らなかった事。それでもクラスメイトは自分を信じてくれている事。

 

クラス内で争う試験があった事、犠牲者を出してしまった事。

 

自分たちのクラスメイトを救うため行動した事、他のクラスの生徒が退学になるのを理解した上で攻撃をした事。

 

―――そうした結果に今の堀北学があり、今のAクラスが出来た事。決して、順風満帆な学校生活ではなかったのだ。1年からAクラスを維持し続けた学ですらそう思うのだから、一年の撫子にはこんな所で俯いて欲しくない。

そんな学の不器用な()()()は、きちんと撫子に伝わっていた。

 

 

「会長。…ありがとうございました」

 

「…何のことだ」

 

「…!ふふっ…いいえ、なんでも。ただ…そう、突然。…突然、普段の感謝を伝えたくなっただけです」

 

「そうか。…別段、普段なにか感謝される事をした覚えはないが、…受け取ろう」

 

「はいっ♪」

 

 

話が終わった頃には、部屋には夕日が差し込む時間になっていた。もう撫子の表情には、隣室に来た時の緊張はない。夕日が差し込み、窓際に立つ学の()()()()()()()事にも気が付くくらいには彼の顔を見ることが出来ていた。

 

 

「私は…やっぱり、皆様と()()在りたいと思います」

 

「………困難な道だな。俺でも無理だった」

 

「えぇ。でも、()()()()皆様には卒業後も、退()()()も進路があります」

 

「っそれは…」

 

「ふふっ。…少し、意地が悪かったですね、申し訳ありません」

 

 

撫子の言葉にヒヤリとした学だったが、本人に気にした気配はない。むしろ明け透けに話し、特に気にしていない様子の撫子に、学の方が動揺する程だ。

その後に続けた撫子は、未来の話をする。退学にしろ、卒業にしろ、この学校での出会いと関係が断絶する事はない。長い永い人生の、一つのステージでお別れをするだけなのだと、彼女は透き通るような笑顔で告げる。

 

―――それは、ある意味で献身と慈悲に溢れていて、ある意味で冷徹で残酷だ。

堀北学は本当の意味で理解する。西園寺撫子はこの学校からの卒業や退学に関心が極めて()()なのだと。

 

だから卒業と、退学を等価に扱える。自分の退学と、誰かの退学を天秤に乗せられる。

 

…自分には無理だ。進路の事、親の事、妹の事。あらゆるしがらみや将来への不安が、彼を一時の気持ちで道を踏み外す事を許さない。

 

果たして自分とのこの会談が彼女にとっての福音だったのか、凶報だったのか。

…それが分かる頃にはきっと、自分は卒業しているのだろう。ならばそれまでの間、自分が彼女をしっかりと見守ればいい。そう学は結論をつけると、彼女の肩に手を置き目を合わせる。

 

 

「西園寺」

 

「はい」

 

「…お前には、いずれ生徒会長になって貰いたいと思っている」

 

「…わ、わたしなぞに過分な評価、ありがとうございます。でも…あぅっ、」

 

 

謙遜を返した撫子に、学は軽くデコピンをした。()()()()()()()意趣返しだった。

 

 

「お前は、俺の信頼に値する後輩だ。…わたし()()、などと言うな」

 

「…!…ありがとう、ございます………」

 

「その為に、お前にはこれからも皆の規範となっていって欲しい」

 

「私が…」

 

「そうだ。お前でなくてはダメなんだ。…分かるな?」

 

「その、意味は…はい」

 

 

その後も懇々と撫子にお説教(はなし)を続ける学。少しでも、撫子にこの学校への未練を残してほしい。楽しんで欲しい。健やかに過ごしてほしい。…その一心で語り掛ける学は気が付かない。

 

 

「悩んでも、立ち止まっても良い。…お前は、お前がやりたいようにすればいい」

 

「…会長…分かりました。…少しずつ、えっと。…頑張りますね♪」

 

「ふっ…期待しているぞ」

 

「はいっ!」

 

 

一之瀬や櫛田(友人たち)1対1(サシ)での異性との接触を避けろと言われている撫子が、学に肩に手を置かれて向き合う状況(シチュエーション)に無警戒で居る理由にも。

 

二人が備品倉庫にいる最中に南雲や一之瀬が生徒会室に戻って来て、事情を聴いている事にも。(一之瀬の眼からハイライトが消えたことも)

 

()()()女子の役員が高速でスマホ操作をしている事も、それを見て南雲副会長が胃のあたりを抑えていることにも。

 

 

 

※この後、生徒会室に戻るとめちゃめちゃ視線が突き刺さった。

何故か、副会長が生徒会長に胃薬を渡していた。会長は首を傾げていた。

 

 

――――――――――――

Side.綾小路

 

普段は競技用として利用される大プール施設。夏休みの思い出とやらで駆り出された俺だったが、確かに眼福だと思う光景がそこにはあった。

そう、目の前にはまるで―――天国のような光景が広がっていた。

 

 

「撫子ちゃん、いっくよ~、それっ」

 

「…っはい、…鈴音!」

 

「…ハァッ!!」

 

「くっ…、麻子ちゃん!」

 

「任せてっ、千尋ちゃんっ!」

 

「…よい、しょっ!帆波ちゃん!」

 

 

1年生でも屈指の美少女たちが、水着姿でバレーボールをしている。(一人を除き)真剣な表情でボールを追い、惜しげもなく健康的な身体をプールに舞わせている。

それ審判役として残された俺が満喫しているのだが、間違いなく周囲から完全に浮いている。近くには女子だけだ。()()()()()()()男子連中の姿は既に無い。

…若干、刺すような視線を背中に感じる。が、気が付かないフリをして役割を全うすることにする。Bクラスの一之瀬が打った鋭いレシーブを、堀北が横っ飛びでブロックしボールが高く上がった。目で追いかけると、天井から鋭い人工光に目が眩む。

思わず顔を顰め、掌で光を遮りながら俺は今日の始まりからを思い出すのだった。

 

 

・◇・

 

 

夏休みの終盤、俺は船上で仲良くなったグループ(通称きよぽんグループ:命名、波瑠加)で遊びに行く予定を立てていた。

なんでも3日間限定で、大きいプール施設が解放されるらしくそこに遊びに行こうというものだった。俺と明人に予定はなく、運動への不安があった啓誠も体力をつける為に参加を表明。夏休み最後のイベントとして楽しみにしていた。

 

 

「いやー今日も暑いね!」

 

「まだカラッとしていてよかったな」

 

「うん。早くプールに入りたいね」

 

「確かにな」

 

「水分補給は喉が渇く前にしておけよ」

 

「そんな事より男子共!私たちに言う事があるでしょ!」

 

「は、波瑠加ちゃん…」

 

「はいはい、似合ってるぞー」

 

「うわ興味()っ…」

 

 

愛理と波瑠加に限らず、クラスの女子は得たポイントを使って水着や私服を選んだりとショッピングに勤しんでいた。それを着る機会としても、今回のプール開放は渡りに船だったのだろう。

 

寮の一階で合流してプールに向かう。全員が私服だったが、この中だとやはり群を抜いて愛理に視線が向けられていた。グラビアアイドルとしての経験(キャリア)や、夏の流行カラーに合わせた私服を着こなしていていた。(波瑠加がべた褒めしており、男どもは全自動頷き機となっていた)

 

プールに到着すると、そこそこの盛況具合だった。更衣室で別れ、俺は素早くラッシュガードに着替えると更衣室を出る。初めて来た施設だが、大きいプールが三か所ある。何故か仮設テントのようなものも立てられ、屋台で軽食や飲み物を販売している。

販売しているのは2年、3年の先輩たちの様で、ちらほらと覗いている1年生たちも散見した。

 

様子を見ていると明人と啓誠が。そして遅れる事2,3分。貧乏揺すりを始めた啓誠を宥めていると、波瑠加の明るい声がかかる。

 

 

「おまたせっ」

 

「どう、かな?」

 

「………二人とも似合ってるぞ」

 

「……お、おいおい…」

 

「…は、派手じゃないか?」

 

 

二人が選んだ水着は、かなり大胆なビキニタイプのものだった。波瑠加は白い()のビキニタイプの水着で、学年でも屈指のスタイルをより魅力的に主張していた。一緒に来た愛理も、これまた負けていない。

桃色の生地に白いフリルの装飾をあしらえていて、浅葱色の上着をふわりと肩に羽織っている。何とか返事をした俺と啓誠、明人だったが二人は準備体操もそこそこに、先に泳いでくるといってプールに足を向けていった。

 

残されたのは俺と波瑠加、愛理の三人。なんとも言えない雰囲気を防ぐ為に、出来るだけ二人の()()()()()()して会話のキャッチボールを試みる。

 

 

「…あいつら内心、プールを楽しみにしていたんだな」

 

「あはは…。ね、ねえ愛理、やっぱり少し攻め過ぎじゃないかな?()()…」

 

「そう…かな?ゴメンね、波瑠加ちゃんに似合うと思って…」

 

「いやいやいや!、全然いいよ、可愛いし。でもなんていうか、ホラ、男子共の目線が結構…ね?」

 

「うん、それは確かに。…ねえ、ぁゃ…ん゛ん、清隆君っ!」

 

「…なんだ?」

 

()()()()見て、私と波瑠加ちゃん、どうかな?」

 

「愛理!?」

 

 

そういって愛理は波瑠加の背中に回ると、抱き着く様に腕を伸ばす。波瑠加の大きな胸の下あたりをギュッと抱きしめると、余計に胸か強調される様になり目に毒だ。あわあわと羞恥に顔を赤くする波瑠加と、どこか悪戯をするように笑う愛理。

 

正直、かなり()()()。俺も健康な男子な訳で、普段の競泳水着とは違う、見せる為の水着というか、そんなものを着たグラビアアイドルの愛理や学年トップクラスのスタイルの波瑠加だ。ジッと視線を向けない様に集中して気が気じゃない。

 

それを機敏に感じ取ったのか、サッと胸を庇うようにする波瑠加と、逆に手を後ろに回して前傾姿勢気味になる愛理。

普段の様子とはまるで真逆で、少しおかしく感じる。そのおかげか、なんとか平常心で応えることが出来た。

 

 

「二人とも綺麗だ。とても、()()()に見えるな」

 

「ふふ…他には?」

 

「…う゛ぅ~」

 

 

まさかの追撃(おかわり)。顔を赤くする波瑠加に思わず同情してしまう。

 

 

「勘弁してくれ。…あと、勘弁してやれ」

 

「仕方ない、かな?…もう、波瑠加ちゃん、今日は私に合わせてくれるって言ってたでしょ?」

 

「そ、そうだけどさ…恥ずかしいよ」

 

「慣れろって訳じゃないけど、…そう、余裕を持つと違うよ?」

 

「余裕?」

 

 

なんでも、愛理曰く自分が客観的にどれくらい視線を集めるかを理解すると、ある一定のラインまでは羞恥心の様なものを抑えられるらしい。グラビアアイドル時代に取った杵柄かと聞くも、どうやら習得したのは最近との事だ。

 

 

「今日は綾小路君も、明人君も啓誠君も居るからナンパだって来ないだろうし、大丈夫だよっ」

 

「そう、そうだよね、…よし、きよぽんっ!オッス!」

 

「…オッス」

 

 

波瑠加の中でどういった心境の変化があったのか、少し空元気のような態度だったが、どうやら持ち直したようだ。

その後は準備体操をしっかりして、戻って来た二人とも合流してプールを楽しむのだった。

 

最初は水の冷たさに歓声を上げつつ、流れるプールを漂ったり、潜水を誰が一番長く出来るか競争した。その後はレンタルしたビーチボールをポスポスと投げ合ったり、浮き輪に乗って揺られたりと水遊びを満喫しているとチラホラと同じ学年の連中とも顔を合わせた。

 

基本的に声をかける程度で別れて行ったが時には上級生の男子(ナンパ)や池、山内(須藤は部活で来なかったらしい)のような連中が「一緒に遊ばないか?」と声をかけて来たが、愛理から「今日はこのメンバーで遊ぶ約束をしてるからゴメンね?」と言われ撃沈。

 

…なんというか、本当に逞しくなったな、愛理。

 

昼食に海の家を模したようなテントで焼きそばとラムネを購入して食べていると、なんと大天使櫛田エルと遭遇した。彼女も友達に誘われて来ていたみたいだった。

 

 

「キョーちゃんオッスオッス!」

 

「あ、波瑠加ちゃん!すごい可愛い水着だねっ!大胆、って感じ!」

 

「あ、ありがとう~!」

 

「わわっ」

 

 

ウソ泣きをしながらガバッと抱き着く波瑠加。それを抱きとめる櫛田に、なんだなんだと店内の視線が集まっている。どうやら(水着の価値観で)味方をしてくれる女子を発見して気が逸ったようだ。

 

その後にクラスメイトの王美雨(櫛田曰くみーちゃん)や井の頭心とも自己紹介をして、割と大きめのグループで行動する事に。当初は(若干空気を読めずに)理由を聞いた啓誠。しかし櫛田から、両手を掴みながら頼まれてあえなく撃沈。

 

平たくいうとナンパ避けだ。女子だけだとナンパが多いことを理由に助けて欲しいと言われ、断れる男子(一部除き)は居ない。明人もOKを返してくれて、3人はホッとしていた。

 

午後からは別のプールを見に行こうと話が纏まり、8人で話しながら進んでいく。こういう時に()()のが櫛田だ。的確に興味を引く話題、話に入っていない相手に話を振って、グループ全体の雰囲気を活性化させていく。

 

5月から思っていたが、特別試験を通してより洗練されているように感じる。何が櫛田を成長させたのか思案していると、先頭を歩いてる啓誠たちの足が止まっている。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、空いている方のプールに来たんだが…」

 

「なんか女子率高くない?」

 

 

波瑠加がそう零す通り、他のプールより空いているが特別なにか修繕中だったり、照明が悪いなんて事もない。にも拘らず、見渡す限り周囲には女子生徒しかおらず居心地が些か悪い。

周囲からもチラチラと視線を受けるが、別に女性専用エリアなどの規制は無い様子だ。

 

 

「ん~?なんだろう、ちょっと聞いてくるね?」

 

「あ、桔梗ちゃんっ」

 

「行っちゃった…でも、あんな自然に上級生の人に声をかけられるって凄いね」

 

「そうだな。…もしも暗黙の了解なんかで男子禁制なら、俺達がいるのは不味いかもしれないしな」

 

「マジか…そんなことあるのか」

 

 

啓誠と明人が慄いていると、上級生にお礼を言った櫛田が小走りで戻ってくる。俺達は身の安全の為にも、櫛田の元へ耳を傾ける。

 

 

「みんなただいま!」

 

「おかえり~キョーちゃん、なんだって?」

 

「あ、えっと~別に男子禁止って訳じゃないんだけど…」

 

「…ないんだけど?」

 

「その、()()()()別のプールに行ったらしいの…」

 

「なんだそりゃ」

 

 

思わず皆の頭上に疑問符が浮かぶ。櫛田もモゴモゴと口を噤んでいるが、少し顔が赤い。それに質問をしようとすると、目的のプール、その近くからここ最近よく聞く声が届いた。

 

 

「―――櫛田さん!」

 

「え…?堀北さん?」

 

 

そこに居たのはクラスメイト、堀北鈴音だった。彼女も濃紺のビキニタイプの水着を着ていて、小走りでこちらに来る頃には汗かプールの水かが肌を伝っている。

本来なら色っぽさを感じる状況(シチュエーション)なのだろうが、鬼気迫るような表情の彼女に疑問の方が先行する。

 

 

「本当にちょうどいい所に居たわ、櫛田さん。私と一緒に来て欲しいの、今すぐに…!」

 

「ほ、堀北さん?落ち着いて…?」

 

「ちょっと!いったい急になんなの…?」

 

 

グイグイと櫛田の腕を掴んで連れて行こうとする堀北に、最初に嚙みついたのは波瑠加だ。だがまあ理由もなく櫛田の同意もなく連れて行こうとすればそうなるだろう。

他の面々も言葉にはしなくとも、堀北を非難する眼差しを向けている。その様に頭が冷めたのか、目を閉じて深呼吸をする堀北。落ち着いた様子で櫛田と波瑠加に謝罪をすると、緊張していた雰囲気も緩んだ。

 

 

「…まあ、謝ったならいいよ。堀北さん、ちゃんと落ち着いた?」

 

「えぇ、本当にごめんなさい。…でも、櫛田さんの力が必要なのは確かなの。理由を説明させてもらえるかしら?」

 

「………うん、(多分分かった気がするけど)教えてくれる?」

 

「それは―――」

 

 

堀北が口を開くその間際、堀北の背後から手を振っている存在に気が付く。()()()()()()()()。そうか、そういうことか堀北…!

 

幸い、二人は気が付いていない。堀北が説明をしている今しか脱出のチャンスは無い。俺はバレないように啓誠と明人の二人の肩を叩き、こちらを振り向かせる。

 

 

「二人とも、決して振り返らずに聞いてくれ」

 

「?」

 

「なんだ…?」

 

「…西園寺が来てる………」

 

 

その言葉に、ポカンとした二人を攻める事は出来ない。「何言ってんだコイツ」みたいな表情を浮かべるのも分かる。だが、ヤバい。俺は理解した。なんで、このプールで男子生徒が誰も居ないのか。

 

連中は自主的に居なくなったと言っていたがその通りだ。とてもじゃないが、この場には居られない。俺は俺と二人の()()()()()を防ぐ為に、行動しなくてはいけない。

 

 

「―――実はさっき、西園寺さんに会ったの、Bクラスの一之瀬さんと一緒に―――」

 

「―――撫子ちゃんが来てるの?でもなんで―――」

 

 

同じタイミングで堀北が口にした西園寺の名前に、二人は理解の色を眼に宿す。…いや、理解度50%だ。二人はその危険性を理解していない。

 

 

「西園寺?Aクラスのか?」

 

「どこに居るんだ?」

 

「振り向くな…!いいか、このまま真っ直ぐ、さっきのプールに戻るぞ。そうすれば…」

 

―――皆様~…!

 

「―――」

 

 

……………………………()()()()

 

プールサイドに響く、遠くとも届く透き通った声。当然、全員の視線がそちらに向かう。

 

 

「皆様っ、ごきげんようです♪」

 

「………な、な、な…撫子、ちゃん…?」

 

「はい、先日ぶりですね、桔梗」

 

 

驚き固まる櫛田に、普段と同じように挨拶をする西園寺。各々の水着を褒めたり、跳ねた髪を直したりと普段通りの彼女だが、当然ここはプール。その恰好は普段通りではなく、水着姿だ。

 

彼女の見た目は一言で言うと、夏っぽい恰好だった。麦わら帽子をかぶり、サングラスをかけて薄手の上着(アウター)を羽織っている。ここまでは問題ない。問題は水着だった。

 

デカい。

 

胸が、

 

デカい。

 

…思わずフリーズしてしまった。いや、それくらいインパクトが強かった。(てかめっちゃ揺れてた)

元々、制服や私服の上からでも自己主張をしていた胸が、今や紫のビキニの薄布1枚と心許ない紐のみで支えられている。上半身に思わず目が向くも、ウェストには()()()がしっかりと見えて、下半身の布面積の少なさから驚異的な()()()を発揮している。覚悟してみた俺(何なら無人島試験の時も、近い服装だったのを見た)は兎も角、無警戒で見てしまった二人を横目で見る。

 

 

「……な゛………ぁ、ぁ…!」

 

「…………う、お…………!」

 

 

不味い、ダメそうだ…!二人とも高円寺のようなブーメランパンツの変質者スタイルではないが、このままでは()()()()を抑えられなくなる可能性が高い。どうにかしなくては。

 

そう思っていると、事態は更にプールサイドから上がって来たBクラス…一之瀬達が合流して動いていく。

 

 

「ねぇ、堀北さん。…今日は私達、撫子と遊ぶ約束をしていたんだけど。…()()()()()()()()

 

「あら、そうだったの?でも私も撫子お姉様と相談する事があるの。…()()()()()だから、空気を読んでくれないかしら?」

 

「あの、二人とも?」

 

「「………」」

 

 

二人とも笑顔だ。だが、なんというか圧が強い。その後も堀北と一之瀬の二人は西園寺がどっちと行動するかで揉めていたが、西園寺自身の「皆でバレーをしませんか?」という発言に講和。後、チーム分けで再び開戦。19回の引き分けの後、じゃんけんに勝利して渾身のガッツポーズを決める堀北と、地に伏して地面を叩く一之瀬の姿があった。

 

その後はいつの間にかカメラを構えている愛理に驚いたり、身長があるという理由で審判を任されたり、いつの間にか啓誠と明人が居なくなっていたりした。

…まあ俺も今、プールから上がることは出来ないから役割を得たのは九死に一生だった訳だが。

 

そして試合は進み、お互い1セットを取った3セット目。一之瀬の鋭いレシーブを櫛田が取り切れず、Bクラスがマッチポイントとなる。

 

 

「14-13、一之瀬チーム、マッチポイントだ」

 

「くっ…!」

 

「ごめん、二人とも!」

 

「いえ、まだ大丈夫ですっ!」

 

 

真剣に悔しがる堀北だが、櫛田を責めたりはしない。それどころかポン、と櫛田の肩を叩いていた。されていた櫛田も眼を丸くしていたし、それを見て西園寺はクスクスと笑っていた。

 

 

「二人とも、あと1点!行くよ!」

 

「オッケー!」「はいっ!」

 

 

逆にマッチポイントを取り、あと1点で勝利が決まるBクラスは喜色の声を交わしながらも集中している。

次のゲームをBクラスが取ればゲームは終わる。周囲のギャラリーからの応援や歓声を受けながら、堀北は綺麗なサーブを決めた。

Bクラスの白波…一之瀬が千尋ちゃんと呼ぶ生徒が颯爽とボールを上げて、一之瀬に繋げる。これまでのゲームでの一之瀬のレシーブでの得点率は高く、最も警戒をされている。…だからこそ、最後の一撃に限り()()()()をする事が出来る。

 

プールに水しぶきを上げる様に身を上げて、レシーブを叩きこもうとする一之瀬。それを防ごうと前に出る堀北と櫛田。後方には西園寺がスタンバイしている。そして一之瀬の掌がボールに―――触れずに、その手は空を切る。

 

 

「ーーーなっ、」「えっ…?」

 

「っ、麻子ちゃん!」「うん!」

 

 

ボールを防ごうと同じように上がっていた二人は反応できない。一之瀬の陰に隠れるようにしていたポニーテールの女子、網倉麻子がポス、と軽くネット向こうにボールをはじく。ボールは弧を描く様に堀北たちのコートに向かい、ポチャリと水面に波紋を作る。

 

 

「13-15、ゲームセットだ。一之瀬チームの勝―――」

 

「「「わあぁ!!」」」

 

 

結果を告げる声よりも大きな歓声が上がり、遮られる。Bクラスの観戦していたクラスメイトとも抱き合って喜ぶ一之瀬たち。一方の堀北サイドも、負けた事は負けたが、西園寺と同じチームでバレーが出来て嬉しかったのだろう。満更でもなさそうだ。

 

 

「ごめんなさい、撫子お姉様…負けてしまったわ…」

 

「いいえ、鈴音。そんな顔をしないで?私もとても楽しかったわ。…ね?桔梗」

 

「うん、負けちゃったけど…でも、撫子ちゃんと一緒のチームでバレーが出来て楽しかったよ!

よ!またしたいね!」

 

「!…えぇ、そうね…」

 

 

その後は西園寺主導で夕飯に行こうという流れになり、争っていたBクラスもDクラスも矛を収めることとなった。俺は遠慮しようとしたものの、(何故か)一之瀬や西園寺に誘われ、堀北に脇腹を刺されながら同伴する事となった。

 

―――慌ただしくも、思い出に残る夏休みの一幕だった。

 

 

※この後、めちゃめちゃ一緒に写真を撮った!夕飯に行く途中、すれ違う男子生徒達にやたら視線を向けられた!!

…それにしても帰りの更衣室、何故あんなに人が集まっていたんだ?

 

 

――――――――――――

※その後の生徒会室

 

「…堀北会長、これを…」

 

「南雲、…?なんだこれは」

 

「胃薬です」

 

「…?」

 

「胃薬です。(二回目)…必ず必要になるので、どうぞ」

 

「………受け取っておこう…」

 

「頑張ってください…!」

 

「………あぁ…(…なにをだ?)」

 

※堀北学の靴箱に怪文書(ラブレター)が届くまで、あと■日…!

 

――――――――――――

※その後の撫子の部屋

 

「ねえ、撫子。ちょっとお願いがあるんだけど…良い?」

 

「帆波?どうしたのですか?」

 

「今日さ、バレーボールで勝ったでしょ?…ちょっとご褒美が欲しいなって…」

 

「ご褒美…私にできる事なら構いませんが、何が欲しいの?」

 

「…ホント!?じゃ、じゃあ…今日の水着!もう一回ココで着てみて欲しい!」

 

「水着?…そんな事で良いの?」

 

「うんっ!で、でっ!これ、エプロンしてみて…!」

 

「???分かりました、ちょっと待って下さいね?」

 

「~~~~~っ…!!」

 

※この後めちゃめちゃ新■ごっこが捗った!お出迎えからお風呂まで楽しんで、隠し撮りした写真は、Bクラス限定で拡散された!!

 

――――――――――――

※―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

「全く、とんでもない事をしてくれたな、お前達!!」

 

「………!」

 

「―、―!――!」

 

「―!――!――!」

 

「こんなこと、この学校が始まって以来の不祥事だ。…事が事だけに、迂闊に情報開示する事も出来ん」

 

「だが、このままこの3人をペナルティなしで放免することは出来ないぞ」

 

「分かっています。それに私も一人の女性として、彼らのしたことは到底許すことは出来ません」

 

「「「―――!!」」」

 

「あ、佐枝ちゃん、お待たせ~。いや~驚いたよ。まさかこんなのを作れるなんてね」

 

「…知恵、どうだった?」

 

「うん、黒。いや、真っ黒かな。そっちのクラスの堀北さん始め、櫛田さん、佐倉さん、他11名。ウチのクラスの一之瀬さん、網倉さん、白波さん、他10名。真嶋君のクラスの西園寺さん、他8名。…他の学年も合わせたら3桁行くか行かないか、ぐらいの被害だね」

 

「はぁ…。今年のクラスは多少違うとは思ったが、それでもお前らの様は不良品は生まれてしまうのだな」

 

「――!!」

 

「―、―――!!!」

 

「…、……、…」

 

「全く、まさか新学期の間際に、こんなことになるとはな。…泣いても喚いても結論は変わらん。お前達の学校生活は此処で終わりだ」

 

「「「――――!!!」」」

 

「これ以上、見苦しいことはするんじゃ「――、―――!!!」ない。…()()()、だと?本当に、救いようのない程、愚かだな。引き渡しまでお前達は隔離する。…警備の方、後はよろしくお願いします」

 

「はい」「ほら、さっさと来い!」

 

 

……

 

………

 

「ハァ…」

 

「佐枝ちゃん、お疲れ様。…今日はもう帰ろう?手続きは私がやっておくから、ね?ね?」

 

「俺も手を貸そう。…お前は、今日は休め」

 

「………すまない」

 

「うん、まあ気持ちは分かるけど…って、佐枝ちゃんっ!?」

 

「お、おい、大丈夫か…?

 

「………本当に、すまない、ウチのバカ共が」ブツブツ…

 

「ああもうっ、余計な事は考えない!ほら、帰った帰った!シャワー浴びて、ビール飲んで、寝ちゃいなさい!…もう、私のキャラじゃないでしょ…、コレ…

 

「…(…重症だな…。まあ気持ちは分かるが…)」

 

 

……

 

………

 

カチッ、シュボッ…

 

「…(すまない、撫子。今日だけ、今日だけだから)…ゴホ、ゲホッ…!」

 

「………、…………不味い………」ボロボロ…

 

 

※この後、めちゃめちゃ落ち込んだ。

 

 

 

 

 




読了、ありがとうございました。
果たして彼らとは誰なのか…そして、被害とは一体…!?(棒読み)


最近、ツイッターを始めたりAIイラストを編集したりで執筆が楽しくなってきています。
出来るだけペースを上げたいと思いますが、気長にお待ち抱けると幸いです。


また気長に、お待ちくださいませ。

ちょっとマンネリ気味なので、番外編の相談です。カッコの中のは、曇らせ度です。Aが激重、Dがギャグくらいに思って下さい。また作成スピードはゆっくり目かもしれませんので、よろしくお願いします!

  • Aクラス別ルート(B)
  • Bクラス別ルート(C)
  • Cクラスルート(B)
  • Dクラス別ルート(A)
  • 教師編(A)
  • 人外編(?)
  • 女装男の娘編(D)
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