ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
勢いのままに、続きを書いておりました。
前半、気持ち重め。
後半はギャグです。ただ、しっかり意味も理由もあります。
それではどうぞ。
Side.堀北 学
「ご紹介頂きました、西園寺撫子です。未熟なこの身ですが、これからも南雲新会長を始め先輩の方々に倣い―――」
目の前では、西園寺が突然の副会長への任命に動じずに着任挨拶をしていた。実はリハーサルでこの件は彼女以外には周知されており、いつでもフォローに動ける体制で実行されたサプライズだ。
実際、1年の半ば。新生徒会発足時に1年で副会長になったケースは初だ。イレギュラーな年に全員1年生が生徒会として発足した事例もあったが、それでも2月の終わりだった筈。当時の2年生が大量の退学者を出して生徒会が壊滅した時だけのはず。
記憶を深層に向けていると、昨日の生徒会室での最後の約束を思い出す。生徒会長として最後に、俺が招き入れた後輩への助言。
「―――西園寺、俺と約束をしてくれないか?」
西園寺については気にかけていた。それこそ、生徒会に誘ったその日からだ。
だからこそ、彼女の危うさには気が付いていた。
西園寺撫子は、退学について頓着がない。何故なら彼女の将来は既に既定のレールが引かれ、その通りに進む。…いや、それ以外の生きるすべを知らないというべきか。
「底の浅い同情ではないのか?」…自己問答をしても、絶対に否とはいえなかった。
彼女の能力が高かったことも理由の大部分だが、ともかく、俺はそれをどうにかしたくて誘ったのだ。最初は世間知らずで、それでも高い能力で仕事を熟す彼女の心を育てていくつもりだった。
だがそれは、日々の学校生活で彩りを重ねていく西園寺を見て断念した。新たな友人、新たな出会い、試験や遊び事。そんな些細なことを、まるで幼子の様に喜んで話す彼女をみて俺は、安心してしまったのだ。
同時に、どうしようもなく感じる誇らしさと、それを咎める感情。千々に乱れる心内は、とてもではないが誰に相談できるものではなかった。
生徒会長の俺が言う。
「彼女の心を育んだ学校は、俺が守り続けた伝統の結晶だ。俺は、生徒を導くに足る生徒会長だったのだ」と。
Aクラスである俺が言う。
「彼女は勝手に救われたのだ。烏滸がましい。俺が居ずとも、西園寺は友を見つけ、一人生きていけただろう」と。
…彼女を、異性としてみる俺が言う。
「彼女が欲しい。他の誰も見て欲しくない。ずっと俺の横にいて欲しい」
―――
そんな俺がこんなことに悩むなんて、想像だにしなかった。俺は来年には卒業する。それは絶対だ。
だから、この場での約束なんて何の意味もない。自己満足に過ぎない。彼女を縛るだけのただの執着だ。それでも―――
・◇・
「…撫子ちゃん」
「…」
橘の呟きに意識を戻す。…これで俺達の仕事は終わりだ。生徒会の引継ぎもとうに終わっている。唯一、桐山には南雲の事を伝えたがそれは今はいい。
南雲も薄々わかっているのだろう。だから、西園寺を副会長に抜擢した。
「―――最後に、私のような浅学の徒を今日まで導いて下さった先任の生徒会の方々に、深い感謝を」
「!」
「まことに、ありがとうございました。ご多忙とは存じておりますが、どうか私たちの成長を、暖かく見守って頂ければ幸いです」
思わず瞠目しまった。それは隣の橘も、他の面々も一緒だったろう。壇上でこちらに丁寧に、心を込めたと判る態度で感謝を告げられる。
背後で南雲が拍手をすると、堰を切ったように拍手が続く。感極まったのか、泣きだすものもいた。
…冥利に尽きる、というのだろうな。俺ですら動揺を抑え軽く会釈を返すのが精いっぱいだった。
その後、生徒の方へ礼を送った撫子は元の位置ではなくこちらに歩み寄って手を差し出す。
「堀北
「…あぁ」
固まっている訳にもいかない。式の時間は有限だ。俺は周囲の視線に応える意味でも、西園寺の手を取り握手を交わす。再び鳴り響く拍手の音。それにかき消される程度の声で、西園寺は応える。
「
「そうか。…忘れてくれても良いぞ」
「…よろしいのですか?…なら、
「フッ…それは怖いな。なら、前言は撤回しないでおこう」
「はい♪」
反対の手も出して両手で覆うように握手をする西園寺。悪い気はしなかったが、背後に見える南雲の顔に嫉妬の色が見えて切り上げる。
これで、本当に終わりだ。
式が終わる。教室に戻る道中で橘に声をかけられた。内容は先ほどの撫子のことだ。
「かいちょ…んん、堀北君。さっきの撫子ちゃんの約束って何のことですか?」
「あぁ、別に大したことじゃない。ただ―――」
夕暮れの生徒会室。
二人きりの約束。他の誰も知らない、二人だけの秘密。
学校を辞めるなとは言えない。彼女のレールを引いた奴と同じになりたくはないから。
『明日辞める俺がいうのもアレだが、生徒会長は楽しいぞ』
『楽しい…ですか?』
俺と来いとも言えない。社会に出てもいない俺にその資格があるとは思えないから。
『あぁ。他のクラスとも、学年とも接点を持てる。得難い経験も得られる』
『経験…』
だから賭ける。この半年の経験と、これからの西園寺の成長に。
『生徒会長となって、どうだったか、卒業後に感想を教えてくれ』
『それが約束、ですか?』
彼女が成長し自分を持てば、きっと自分の路を選べるだろう。その力はある。
そして、彼女の選択を支持する仲間は間違いなく得られるだろう。この学校なら、必ず。
『そうだ。…約束というよりも宿題、だな』
『ん…少し、考えさせてください』
・
・・
その時はなんと返事をしたんだったか、昨日の事なのにもう思い出せない。
俺も緊張していたのだろうか。だが、結果は了承。
答え合わせはまだまだ先のはなしだが、時間はたっぷりある。俺は生徒会長の座を退いたが、ただの一先輩として彼女を見守ろう。
彼女が成長した姿を見せてくれても、その彼女と妹が切磋琢磨してくれても構わない。
本当に、俺は運がいい。卒業まで、そして卒業した後もこんなに楽しみが出来るとは思わなかった。
「―――ただ、負ける訳にはいかないな」
「堀北君?」
無論、俺も自分を諦めるつもりはない。苛烈になる試験も譲るつもりはない。
後輩に、格好の悪い背中は見せられない。俺は、先輩なのだから。
―――〇―――
Side.撫子
筆記用具がノートに走る音すら聞こえる静謐な図書室。
試験前、学年を問わずに人気な一角を望める本棚に隠れて、私は文庫本を見る振りをして―――監視活動を、行っています。
「………」
「………」
「………」
そう、私は今とある生徒を見張っているのです。
それは、Dクラスの綾小路君。クラスメイト達…愛理もいますね。と勉強をしているのか、図書館の机でノートや教科書を開く表情は真剣な様子で他の方々もたまに視線を交換する程度です。
その後、会話なく集中して勉強するところを見守…ん、見張ること数分。肩を叩く山村さんに頷き返すと、共にその場を離れます。
ここ数日の定位置となった山村さんのお気に入り?の自動販売機の近くで、活動報告を有栖に送ります。
『綾小路君は本日17時まで図書館でクラスメイト達と勉強会をしていた様子です。集中していて、誰とも会っていませんでした』
『了解しました。本日の活動は以上です。あとは行動表のリストを自由に埋めて行ってください』
『かしこまりました』
そう有栖に送ると、待っていてくれた山村さんにお礼を言って別れる。この後、私は映画館に行かなくてはならない。それも、場所を何度か訪ねながら。
…何故、試験の2週間前にこの様なことをしているのか。その答えは先日まで遡ります。私と有栖、葛城君で仮の問題を作成したその日まで。
・◇・
「えっと…あの、撫子さん?」
「…?有栖、どうかしたのかしら?」
「これは…」
「葛城君?」
その日は作った問題を持ち寄って、クラスの皆様に解いて貰う約束の日。
※もちろん、難度は真嶋先生にチェックは頂いています。
今は実際にテストを解いて貰っていますが、問題を見た二人の顔色が少し怪訝そうでした。
その後、回答用紙を集めると採点と共に集計を行います。
結果は…。
有栖:平均77.2点
葛城:平均81.0点
私:平均95.1点
有栖のテストが一番、難しかった様ですね。それを祝うと、二人はなにか含むような表情を浮かべています。
…?皆様からも、どこか訝し気な視線を向けられます。
「あの、皆様?どうかしたのですか?…?真澄?」
「…撫子、あの問題は真剣に作ったの?」
「…?ええ、しっかり、難しい問題を作ったつもり…だけれど?」
「………えぇ…?」
「…!撫子さん、少々よろしいですか?」
どうも反応が良くない。どうしたのかと首を傾げていると、有栖がテストを二つ並べてそれぞれの問題を指さします。
「…私の作ったこの問題と、葛城君のこの問題。どちらが難しいと思いますか?」
「?そうね…葛城君のもの、だと思うけれど」
「「…」」
「え?え?…有栖のは答えがマイナス4で、葛城君のはX=12分のルート…」
そういって答えを伝えると、二人は固まって、橋本君は引きつった笑みを、藍は乾いた笑いを零します。その様子におろおろしていると、後ろの真澄から声がかかります。
「は?撫子アンタ、暗算でこれ解けんの?」
「え…?は、はい」
「………。あ~、はい、はいはい、だからアンタの問題、やたら記述が多かったり途中式が多かったのね」
「??」
・◇・
その後は気を取り直した有栖からの指示で、私は勉強会の時間以外は彼女の指示で活動することになりました。…ふふ、リーダーとして張り切っているいて、微笑ましく感じてしまいました。
こほん…。それで、内容は一見ごっこ遊びの様です。…ですが、曰く十重二十重に策謀を盛り込んでいるとのこと。
逆にこちらに接触があった場合は、速やかにぼいすれこーだーを起動して情報を有栖に届けます。有栖から受け取った行動表には、ええと…。
『同級生の生徒の目につく場所で映画館の場所を聞き、そのまま入場する』
※時間を気にする素振りをすること。
『ダミーの問題集の入った封筒を持って、ケヤキモールの喫茶店に入る』
※ひと目を避ける様に。
など、など。
まるで私が暗躍しているように周囲に見せかけることが重要らしいです。
…これもクラスの為。そう自分に言い聞かせつつも、私にはまだ理解し切れていないこの作戦、どういった結果となるのか、今から楽しみですね♪
ケヤキモールに着くと、試験前だからか同級生の姿はあまり見えない。…いいえ、喫茶店などの勉強スペースのある店内には、他クラスの方々がいるのが分かります。
さて、誰かに道を聞かないと。そう考えていると、後ろから最近よく聞きなれた声がかかりました。
新生徒会長の、雅会長です。お傍には同級生の方々が侍っていて、これから放課後をお過ごしになる様子。
「撫子じゃないか。今は試験前だろ?勉強は良いのか?…まあ、お前の学力なら問題ないだろうが」
「ごきげんよう、雅会長。ご心配いただき、ありがとうございます。…そうですね。油断せぬよう、微力を尽くします」
「あぁ、そうしろよ?せっかく俺が推薦した生徒会の副会長様だ。それが赤点で退学なんてシャレにならないからな」
「はい。…あ、雅会長。おひとつ伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ん?」
その後、雅会長に場所を聞くと「デートか?」とからかわれたので上手に誤魔化して、少しだけ急ぎ足で映画館に入場します。
事前に券の買い方は初めてで迷ってしまいましたが、最前列の壁際の場所を告げて入館する。
上映が始まり暗くなったら、出来るだけキョロキョロしながら過ごす。これも有栖の指示があったことです。
…ですが、初めて大きなすくりーんで上映される映画に、少しだけ集中してしまいお仕事を忘れかけたのはナイショです。
※このあとめちゃめちゃ映画を観た!
時折、プライベートでも映画館に足を運ぶようになった!!
――――――
「…なんだったんだろうな」
「ええっと、スパイ活動、的な?」
「いや、あれ西園寺だよな。…伊達眼鏡して、髪型変えただけの」
「…図書委員っぽかったけど、なんていうか…私が言うのもアレだけど、ねえ?」
「…ノーコメントだ」
※あの胸で変装しても、絶対気付かれるだろの顔。
――――――
「……っ!……!!」
※両手を組んで、目を輝かせている。
「………(可愛い…)」
「………(え?なにアレ、抱きしめちゃダメかな?)」
「…(アイツ、なにやってんの?)」
読了ありがとうございました。
感想、アンケートもありがとうございます。
これからもご回答、お待ちしております。
次も出来るだけ早く作ります。
よろしくお楽しみに。
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