ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
混合合宿も佳境。今回は独自展開強め。
皆様の予想通りだったかどうか、感想楽しみにしております。
それではどうぞ!
―――〇―――
Side.坂柳 有栖
「…………はぁ」
「ちょっと、そんな大きなため息しないでよ。…気持ちは分かるけど」
二日目の昼。私たちは昼食を頂いて暫しの憩い時間を過ごしていました。
夕食では男子生徒たちも一緒に食事をとりますが、昼は男女別。即ち周囲には同グループだったり同じクラスの女子生徒しかおりません。事実、私の正面には神室さんが居て、一席空けて周囲にもAクラスの皆様が座っています。
ため息をついた理由は、この場に居ない男子の側にあります。…もしもの話ではありますが、クラスを100%掌握していれば、問題はありませんでした。
しかし今は未だ万全ではありません。先の試験*1後、撫子さんの件で少なからず減ったとはいえ、葛城君派の生徒は男女問わずにいます。
「………あの、坂柳さん。お手紙、二人に渡して来ました」
「…っ、ありがとうございます、山村さん」
戻って来た山村さんにお礼を言うと、これからの事に思考を向けていく。
今の私たちクラスポイントが、この通り。
Aクラス1049ポイント
Bクラス927ポイント
Cクラス392ポイント
Dクラス281ポイント
この試験でBクラスが勝利すれば、おそらく順位は逆転する。…いや、もう手遅れかもしれないですね。昨日の夜に男子の方から得た情報では、葛城君の失態で2名が小グループ入り出来ず試験の初っ端でリタイアした。
監督する教員に聞くと、試験終了時に200ポイントの減点は確定済み。ただ彼らを救済することも出来るそうですが、必要となるのは2000万と300クラスポイント。それを支払えば仮に男女共に1位を取ってもAクラスの地位は陥落する。
どうするべきか?―――考えるまでのない、論外だ。
葛城君を妄信する戸塚君はこの試験どころか、機会があれば退学にさせるつもりでした。他クラスからのヘイトを集める役割として飼うつもりでしたが…存外、持たなかったようですね。ふふっ。
後は杉尾君は元は葛城君の、そして今は彼の派閥ということはありません。日和見主義である彼は、別に惜しくはありません。
ここだけ考えれば、私たちAクラスは窮地にある。しかし、これは好機でもある。この試験を機に、完全にAクラスを完全掌握する。
Aクラスの推定プライベートポイントは…ざっと、4000万強といったところ。その全てを吐き出せば退学者を二人とも救うことが出来ますが、私たちは勿論、撫子さんを愛するあの方々*2も支払うことはありえません。
そうすると、葛城君がいくらかき集めても1000…いえ、1200か、1300ほどでしょう。…もしも私たちに頭を下げるのなら、足りない
―――撫子さんの憂いを絶つ良い機会です。葛城君には存分に自分の無力を噛み締めて貰う事にしましょう。
・
思えばこの混合合宿試験。私の目論見は、思い通りに進んでいった。
撫子さんを利用して、戸塚君を一年生の共通の敵に仕立て上げた。
撫子さんの功績を使って、Dクラスに交渉しペナルティを最小にすべく私を含めたグループを構成した。
撫子さんの名前を使って、主力を目当ての上級生たちとめぐり合わせ、大グループを結成した。
『―――女子、1位は3-Aのグループです。続いて…』
その発表に、私たちAクラスは沸く。私も声を上げることはしなかったですが、グッと込み上げる歓喜を全身で堪能していました。
私たちAクラスの主力たるグループ*3の大グループが1位となった。私のグループは予定通りであるものの最下位でしたがボーダークリアしました。減点も、得られる最高報酬に比べれれば微々たるもの。予想外というか、幸いにも男子は葛城君のグループが1位を取った模様です。
ようやく私たちAクラスはこれまでの特別試験*4で初めて、最高の結果を掴んだことを意味する。
私は初老の男性…この試験の責任者の方が話す、ボーダーを割ってしまったグループの話を聞き流しながらこの後のことに思考を向ける。
現在、加算されるクラスポイントの推移を計算する。どのクラスが何人、どこのグループに所属しているかはこの試験を通して把握済みです。男子はBクラスが、女子はDクラスが2位を取ったはず。それを計算すると、おそらくこうなる。
Aクラス+416ポイント
Bクラス+61ポイント
Cクラス▲16ポイント
Dクラス+105ポイント
あまり大きなマイナスがついていないのは意外ですね。圧勝に見えるAクラスも、ここから2名の失格で200ポイントが減る。
現在のクラスポイントにこれらを計算すると…
Aクラス1049→1465→1265ポイント
Bクラス927 →988ポイント
Cクラス392 →376ポイント
Dクラス281 →386ポイント
…。
……あぁ、やはり。そこまで上手くは…完璧には、行かないものですね。
男子の組、2位がBクラス主力でなければ最高でしたが、仕方ありません。ここから1名を救うとなれば、減少後のクラスポイントは965。つまり、僅差とはいえ私たちはBクラス落ちとなる。
半ば覚悟をしていた分、過度なショックはありません。むしろ、撫子さんが入院をした時のようにクラスの意志を完全に纏める良い機会です。
「坂柳、話がある」
「…葛城君。ええ、なんでしょうか?」
ニコリと、笑みすら浮かべて声をかけて来た葛城君に向き直る。それに申し訳のないような、悔しさを込めた彼の告解を私は優しく受け入れる。試験で1位を勝ち取った事実など、彼にはなんの慰めにもなっていない。
予定通りの謝罪。予測通りの提案。そして次に彼が口にすることも、私の思い通りのソレでした。
「―――
「…まあ、そんなことになっていたなんて」
深く、深く頭を下げる彼に、少しわざとらしいくらいに驚いたような態度で返す。一息で味わうには勿体ない。3年生たちの喧噪をBGMに、私はひとつずつ、ひとつずつ葛城君に追及を重ねる。
何故?どうして?と。その度に彼は自分の無力を思い知る。至らなさを悔いる。そうしてやっと、彼や彼のお友達は思い知るでしょう。…いったい誰が、このクラスの支配者に相応しいのかを。
「………坂柳」
「はぁ。…仕方ありませんね」
葛城君の懺悔が途切れたのを皮切りに、私は彼の提案を受け入れることを伝える。ハッと頭を上げ、驚きと感謝を向ける葛城君に嗜虐心を覚える。そう、彼にはまだ、まだまだ絶望して貰わなければ。
「葛城君、そちらは何ポイント用意できるのですか?」
「…全部で1343万、ポイントだ。既に戸塚と杉尾のポイントは含んでいる」
「まあ…、そうですか。ですがそれでは、二人を救うにはとても足りませんね」
「分かっている。…だが、俺やお前たちの派閥以外の奴らは戸塚の、…弥彦の救済には1ポイントも出さないと言っている」
「………なるほど?」
当然でしょうねと、口から漏れそうになるのを自然に誤魔化す。つまり、もう一人である杉尾君を助けるのには他の方々も賛成しているのですか。少々意外です。…が、想定の範囲内です。
葛城君にその他の方々は何ポイント出せるのかと聞くと、500万ポイントほどという。
「頼む、坂柳。これからの支給されるプライベートポイントや、試験で得たポイントはお前達への返済に充てる。どうか残りの2200万ポイントを貸して貰いたい」
「………」
随分と調子の良いことだ。一人分ですら自前で用意が効かないというのに、半分以上を政敵の私から集ろうなど。遠巻きながら理解する。彼らが500万ほどしか出さないのも、戸塚君をこの機に排除する為でしょう。事実、まるで分かっているな?とばかりに私に視線を向けてきています。
もちろん、彼らの支持を失う訳にはいけません。私は努めて申し訳ない表情で葛城君に応える。
「大変申し訳ございませんが、葛城君。私たちが用意できるのは1200万ポイントが精々です」
「…っな、なんだと…?」
「私もクラスメイトが退学するのは悲しいです。クラスポイントは後から取り戻せば良いですが、生徒はそうはいきませんから」
「…ありえない」
実際はクラスに損害ばかり与える生徒に300ポイントなんて論外です。杉尾君を救うのも半ば自分の陣営や他のクラスメイトへのポーズに過ぎない。相当に優秀な…それこそ、替えの利かない私や撫子さんならともかく、彼らが一人で300クラスポイントも稼げる訳はない。
「非常に残念ですが、葛城君…」
「待て…待て、坂柳!今回の試験、お前は責任者になったと聞いた!」
「…それが?」
「お前ほどのものが、保険もなしに退学の危険がある責任者になる筈がない!」
「………」
「つまりはある筈だ!少なくとも2000万ポイント…いや、それ以上のポイントが!」
鋭い。…いや、事前に思いついていたのでしょうか?それとも誰かが教えた?葛城君は土壇場で気が付くというより、事前に予測していたとみるべきでしょう。
確かに私たちが全面協力すればポイントは充足する。しかしそれは、これから先の試験で他のクラスに水をあけられるでしょう。試験の対策に、他クラスへの牽制。いくらでも用途は思いつく。それだけ、ポイントで出来ることは多い。
「…それは買いかぶりですよ。葛城君」
「なんだと…!?」
だからこそ、ポイントは渡せない。そして葛城君たちにも余計なポイントは残して欲しくない。怒気を強める葛城君を嘲笑うように、私は彼に決断を迫る。
「今回の試験、私は全身全霊を尽くしました。…結果は、ええ。奮いませんでしたが。無事に退学のボーダーは上回ることが出来ました。皆様のお力の賜物です。だから、私たちの用意できるのは1200万ポイントが限界なんですよ」
「………っ馬鹿な…」
「ポイントがあれば、もちろん救います。ええ、救うに決まっていますとも。当然のことですが、私たちも悲しいのですよ?…悲しくない訳がないじゃないですか。確かに
「っ、まさか…!」
「救えれば絶対に救っています。…本当に、残念です」
「………っ!!」
流石に気が付いたのでしょう。私に、
この場に広がる、諦めに近い雰囲気。クラスの皆様の心情はしっかり掴み、後は鉈を振り下ろすだけ。…ですが私は優しいので、その役目は葛城君に任せようと思います。
「ねえ葛城君?逆に考えましょう。
「…だが…俺はっ」
葛藤をする葛城君を見下ろして、私は胸のすく思いだった。
これで漸く、…ようやく?
そうだ。撫子さんもお元気になった。
ようやくこれから、彼女と一緒に遊べる。
彼女に私のクラスを見て貰いましょう。私の作戦を、戦略を。まずはAクラスへと返り咲いて、あぁ、またお菓子作りを教わって、一緒に作っても良いかもしれません。今度はお返しに、私がチェスを教えて差し上げたら、一緒に楽しめるのでしょうか。それから、それから―――
全て目論見通り、計画通り、最高の結果を得ることができた。ある一点を除いて。そう、これは、この結果は…。
「―――ねえ、葛城君」
「っ…!?」
「?」
―――そのポイント、私たちが出そうか?
―――〇―――
Side.一之瀬 帆波
久しぶりの撫子ちゃんとのお話し。
久しぶりの撫子ちゃんとのお風呂。
久しぶりの撫子ちゃんとの―――。
「ん、ぁぅ…」
「…?…っふぅ。撫子ちゃん、なんかもう…
「ええと、はい。知恵先生からは、元より、徐々に収まるものだと聞いておりました」
「そっか…ちょっと寂しいかも」
「帆波…」
二人だけの部屋。胸元をはだけた撫子に抱き着いてぼやくと、少し困った顔をしながら、私の頭を撫でてくれる。それに悪戯したくて、うなじとか脇腹をくすぐると可愛い反応を返してくれる。
二人きりの時間を堪能していると、控えめなノックに返事をする。入って来たのは担任の星之宮先生だった。
実はこの時間は、星之宮先生のおかげで設けられたボーナスタイムだった。
ちょっと強引に撫子の調子が悪そうって噓をついて、二人きりにして貰っていた。撫子は困った表情をしていたけど、最後には頷いてくれた。…先生、最近、少し暗いけどなんかあったのかな?
「先生」
「帆波ちゃん、それに撫子ちゃんも…そろそろ戻れる?」
「はい、かしこまりました」
「え~。…もうですか?」
この愛おしい時間が過ぎるのはあっという間。前…じゃなかった。
胸から母乳を出す為だって、正当な理由があれば、どんなことをしても受け入れてくれた。だからこそ、
誰よりも優秀で、完璧で、とっても聡明な撫子は、悪意に無防備だ。
「それじゃあ、出来るだけ早く戻ること。いいわね?」
「はい」
「は~い」
だからAクラスの戸塚あんな奴にいい様に言われちゃうんだ。
勿論、そこが隙だらけで守ってあげたくなるし、素直な撫子は大好きだ。…だから、良いよね?もう、我慢しなくても。
身なりを整えて、立ち上がろうとした撫子。その袖を掴むと、不思議そうにこちらに視線を向けてくる。
「…ねえ、撫子」
「なんですか?帆波」
「ウチに…Bクラスに、来ない?」
「………それは」
「いいじゃん、来てよ」
「帆波…」
困り顔。それは私のお願いよりも、Aクラスの事が大切ってことなのかな?
ちりちりとした、焦がれる様な嫉妬が溢れてくる。表情には出さないつもりだったけれど、気付かれちゃったかな?姿勢をこっちに向けて、膝立ちのまま私の頭を優しく抱いてくれる。
「…ごめんなさい、帆波。貴女の思いは嬉しいわ。…本当よ?」
「うん」
「それでも、私はAクラスの生徒なの。…皆様に迷惑をかけてしまった。心配させてしまったの」
「…うん」
―――そんな訳ない。アイツらは撫子が居ない間も、無意味で無価値な対立を続けてた。結果はあの惨敗。思わず失笑してしまった。葛城君も、坂柳さんもなにも変わらない。ただ撫子を、この子のことを利用しつくしてAクラスで卒業することしか考えていない。
抱きしめられて表情を隠せているからか、酷い顔をしてると思う。私の頭の中はとても撫子には言えない罵詈雑言が浮かんでいる。
それでも撫子の言葉に返事が出来たのは、我ながら成長だと思う。…入学する前には、絶対に想像もしなかった。
「だから、帆波。…貴女のお誘いに頷くことは出来ない」
「そっかあ…」
「…ごめんなさい」
「…それじゃあ、仕方ないよね」
パッと身体を話すと、悲しそうな表情の撫子に笑いかける。その後は、いつも通りの一之瀬帆波として言葉を重ねる。
「ねえ撫子ちゃん、…私のこと、好き?」
「?…ええ、大好きよ、帆波」
「~~~っそっか!なら、良いや!ゴメン、さっきのなしでっ!」
「帆波?」
思わず舞い上がってしまうほど、嬉しかった。顔が真っ赤になって、体温が上がっているのが分かる。クラスが違っても、撫子は私の事を大好きだと言ってくれた。だから、もう問題はない。
私は撫子ちゃんの手を取って、皆のところに戻る。その後は一緒に試験の為の授業を受けて、お昼を食べて、お夕飯を食べて、一緒にお風呂を入って。
「おやすみっ、撫子ちゃん!」
「…おやすみなさい、帆波」
楽しかった。嬉しかった。撫子と相思相愛だと確かめ合って、これが二人きりだったら、次の日は絶対に
そうして、皆が寝静まった頃。私はひとり部屋を出る。
向かうのは本館の体育館の裏。誰の気配も無く、密会にはうってつけの立地。…きっと、学校側もそれを考慮してか先生たちの巡回もまるでなかった。
寒空の下、待つこと数分。私は訪れた相手に挨拶もそこそこに、本題を告げる。
とっても驚かれて、理由も聞かれたけれど答えは変わらない。私は撫子を愛していて、撫子も私の事が大好きだと言ってくれたのだから。だから、
「そういう訳で、
「………いいだろう」
苦虫を嚙み潰したような表情の南雲会長。…でも、貴方に拒否権はない。私は無理難題をしているつもりはないし、彼の目的を邪魔するつもりもない。ただ、男子の大グループの順位でBクラスを2位につけて欲しいと頼んだだけ。代わりに私は、
そうすれば目論見通りに
「それにしても、帆波。…まさかお前が気付くなんてな」
「?」
約束を取り付けて立ち去る私に、南雲会長が声をかけて来る。その表情は、どこか楽し気だった。
「俺の目的が堀北先輩じゃなく、そのクラスメイトの橘茜だってことを。…何故わかったんだ?」
「それは…」
答えようとして、止めた。不服そうな南雲会長には、「また今度、答え合わせをしましょう」と言って立ち去る。次は声をかけられなかった。
プライドの高い南雲会長なら、きっと自分で答えを見つけて鼻を明かそうとする。…辿り着けるだろうか?それにもし辿り着いたなら、私と答え合わせなんて悠長なことが出来るのかな?
私は部屋に戻る最中、窓ガラス越しに雲の切れ間から月明りが差しているのに気が付く。…鋭い三日月、下弦の月だった。
ふっとして窓ガラスを見る。
「………ふふっ」
同じような月が、私の顔にも。
読了、ありがとうございました。
おそらく次回で混合合宿も終了。
Xでのアンケートも、回答頂いた方、ありがとうございました。
期待に応えられるよう、内容は本作なりに練り込んで作成いたします。
次回もお楽しみに!
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本作もついにアニメで言う3期に突入しました。また募集なのですが、番外編や幕間、別作品扱いでも書きたいネタはたくさんあるのですが、どれが需要高いか教えてください!
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