ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
遅くなり申し訳ございません。
ちなみに今回の結末は日和った訳ではなく、当初の予定通りです。
そんな彼の幸運も、おそらく次には…。いえ、何でもありません。
それでは、どうぞ。
Side.西園寺 撫子
混合合宿の八日目、試験本番となりました。
私たちは今までの練習通りの結果を出して、恙無く試験を熟して行きました。
「…どう?千尋。まだ痛むかしら?」
「………お姉様」
問題が起きたのは、駅伝でのこと。最終日は男女全員が試験を行う関係から、駅伝も何組か分かれて行う運びでした。
私たちが駅伝をしたのは、他のすべての試験が終わった後のこと。その途中、Bクラスの千尋…白波千尋さんが転倒、怪我をしてゴールすることが出来なくなってしまいました。
私やひより、愛理は沈痛な表情で謝る責任者、帆波に仕方がないことだと謝罪を受け入れました。そうして全ての試験が終わり、帰りの身支度を整る私たち。
後は結果発表を残すところで、私は一緒に試験に挑んだBクラスの方に「白波さんのお見舞いに行って欲しい」と声をかけられました。
快諾を返すとベッドで休む彼女を見舞いに行きます。痛んだ足を摩ってあげると、どこか辛そうな表情の千尋が目に入ります。
…後ろめたさ、でしょうか?なにかを隠している?…発汗も、少し。緊張をしている?何故でしょう?
じいっと視線を合わせようとすると、慌てたように逸らされます。
「…っ」
「千尋…?……皆様、少しだけ二人きりにして貰えますか?」
何か内密なお話があるのだと思い、人払いをすると彼女からは諦観…そして、覚悟した色を秘めた目で私に向き治りました。
―――そうして語られたのは多くはありませんでしたが、言えることはこれは事故ではなく、故意に負った怪我だということ。
彼女の独りよがりな献身…いえ、むしろ
「…軽蔑…しましたか?」
「やはりわざと、なんですね?」
「ええ。事情は話せません。…ですがあの時、あの場面で私が怪我をして駅伝を完了させない事に意味があったんです」
「…危険な考えです。万一、ぼーだーを下回ったら」
「そこは自信がありました。…坂柳さんが責任者に立候補
「…それを、何故、私に?」
「………お姉様だけには、知っていて、欲しかったから」
「………」
「なんて、冗談です。…わっ」
表情を取り繕う千尋をぎゅっと抱きしめます。…彼女の言う通り、少しだけ意外ではありました。ありましたが、充分にルールに沿った判断ではあるのです。
ただこうまで効率度外視で行動に移すとは、私が想定できなかっただけのこと。なら咎めるのではなく、その実行力に素直に拍手を送るべきですっ。
「千尋、良いのです」
「お、おね、お姉、ひゃまっ…!」
「貴女の献身は、確かに他の方からは理解しがたいかもしれません。…ですが、クラスを思う気持ちはきっと皆様と一緒です」
「はわ、はわわわわっ」
「だから千尋、そんなに自分を責めないで?…いつも…そう、くーるで、皆を陰から支えていた、率先して動いていた貴女を責める子たちは居ないと思う」
「はっ、はっ、はっ」
「だからそんなに恐れないで、もっと自信を…あら?…千尋?」
「きゅう…」
返事が無い。思わず抱きしめていた彼女を見ると、とても安心した表情で眠っている。きっと、疲れていたのですね。帰宅までの間、少しでも休んでもらえると良いのですが…。
私は彼女をベッドに横たえて毛布をかけていると、控えめなノックが外から聞こえます。返事をするとそこには私のクラスの山村さんと、Bクラスの…たしか帆波と仲が良い方だったよな?
「あっ、西園寺さん…」
「ごきげんよう、どうしたのですか?」
「ええっと、…そ「丁度、試験の結果発表が終わりました。それで、撫子先生に伝言を預かって来ましたっ」…」
「そう…なの?ありがとうございます。教えて頂けますか?」
顔色の悪い山村さんに変わり、Bクラスのこの方が言うには試験の結果、私の所属する帆波のグループは3位だったこと、1年生で試験のボーダーを下回った所は無かったこと、そして他のグループの順位を聞いて相槌を打つ。
そこまでは想定済みでしたが、なんとAクラスの男子から試験の失格者が出てしまったということ。流石にそれには慌てて、グラウンドに行くべきかと思いました。
…ですが、今も私の手を握る千尋を放ってはおけません。
「…という訳です。これ、撫子先生の学生証です。葛城君が今ポイントを集めているみたいなので、出来れば協力して欲しいって言ってました!だよね?山村さん」
「あ、はい。…でもそ「あと帆波ちゃんが、もし戸塚君とかを助けなくても良いなら断って!って言ってました」…あ…」
「帆波ったら…もう」
被せ気味でしたが、山村さんも頷き返してきます。戸塚君、そして杉尾君の退学阻止。莫大なポイントがクラス側でもプライベートポイントでもかかるでしょう。…ですが、辞めたくない仲間がいて私たちにはそれを助ける手段がある。それに聞くところによれば、
…なら、私が迷う必要はありませんね。私は端末を操作して、150万と少しのポイントを全て有栖へと(葛城君の端末への送金はやり方が分からなかったです)送金します。それを見ていたお二人は、どこか少し驚いた表情をしていました。…?
「はい、今送りました。…二人とも、ごめんなさい?私はもう少し千尋についていてあげたいのだけれど…」
「そ、それは…少しだ「分かったっ!じゃあ坂柳さん達には私たちから伝えておくね!行こう、山村さんっ」あっ…」
そうして医務室を去るお二人を見送る。
「………」
おそらく、お二人を救えば私たちのクラスは帆波のクラスに抜かれるでしょう。しかし、有栖はきっと諦めない。葛城君も、Bクラスの後塵を拝すのを良しとはしない筈です。
…足りない分のポイントは帆波たちが立て替えるとも聞いている。だから直ぐではない筈です。
苦楽を共にし、いつも助けてくれた皆様に恩を返す為にも…。私は。
「………」
「………」
…そう、思いを新たにする私ですが、千尋?起きていますよね?…もう少しこのまま?…もう、仕方ありませんね。あと少しだけですよ?
―――〇―――
Side.橋本
特別試験が終わった。俺達Aクラスからすれば、二人も退学者を出した散々な試験だった訳だが、まあコラテラルダメージって奴かもな。
正直なところ、客観的に見て戸塚や杉尾は別にAクラスで能力がある連中じゃあない。今回で退学によるペナルティはデカいが、まあ今回男女共に俺らが1位。400以上のポイントが入る。
それが半分になるってのは痛いが、まあそれはいい。…が、それはあくまでAクラスとして盤石であれば、だ。
「帆波ちゃん、ただいま!撫子先生もオッケーだって!」
「おつかいありがとう!…こっちでも、振り込みは確認したよ。ね?坂柳さん」
「………ええ、確かに」
「坂柳…」
だから目の前の一幕は、俺からしても
姫さんに退学者の事をいの一番に伝えたのは俺だが、その時はそこまで重く捉えちゃいなかった。
葛城を
「しかし、Bクラスの一之瀬さんが何故ポイントを?こちらに不利益な契約を求めないかと、私はクラスを代表して警鐘を鳴らしているのです」
「ぜ~んぜん?ただの善意だけど、坂柳さんは信用できないかな?…ちょっと悲しいなあ?撫子だったら…」
「っ」
姫さんも頑張っているみたいだが、旗色は悪そうだ。
クラスメイトが退学するかしないかの瀬戸際。ここで手を突っぱねるのは出来ない。今後のクラスのリーダーとして立つ瀬がなくなるしな。
「撫子なら、直ぐに信じてくれるのに…。あ、撫子ちゃんならまずこんな状況にはならないかもねっ!」
「…そう、かもしれんな」
「………っ!」
憔悴した葛城はそのままの意味で受け止めたようだが、姫さんからすれば実力不足を皮肉られた形だ。ひくりと眉が動いたのは気のせいじゃないだろうな。
「ん~じゃあ信用できないみたいだから、一つだけ条件を付けて良い?」
「条件?…やはり」
それ見た事かと眦を釣り上げる姫さん。一之瀬はけろっとした表情で続ける。
「別にそっちから何かして欲しいとかじゃなくて、これからBクラス…あ、変わるかな?ゴメンね?私たちのクラスの生徒にそっちから話しかけないで欲しいの」
「…今回の試験のように、協力が必要となる試験でもそれを遵守しろと?それでは…」
「違う違う!試験の時は仕方ないよ。それ以外の学校とか休みの日とかにそっちから話しかけたり嫌がらせをしないでってこと」
「…どういうことだ。俺達のクラスが、そんな幼稚な事をするように見えるのか?」
怒気を強める葛城。…まあ当然だな。他の連中も少し表情が険しくなっている。…まあクラスが変わるってことはもうみんな気が付いてるんだろうな。
その上、お前らは「龍園クラス並みの民度」…みたいに言われれば、そりゃあ不機嫌にもなる。
一之瀬からの返事は、ピシッと一言。
「
「…それは」
「それにさ、葛城君。Aクラスってただでさえ排他的じゃない?撫子ちゃん以外、クラスの外での友好関係って精々部活ぐらいだし。なんなら、
耳が痛い話だ。思わず失笑するのを、手で口元を隠して誤魔化す。…それにしても一之瀬のヤツ、ここまで強い発言が出来る奴だったか?不味ったな。これからはもう少し積極的に探ってみるか。
「っ…!」
「そんな彼が退学しそうになってるのを、忍びなくて、
「………分かった。…俺は同意する」
「葛城君っ…!?」
一之瀬の正論に、ガックリと肩を落とした葛城は意気消沈。驚く姫さんを尻目に、とっとと契約に同意をしてしまう。
おい、即答かよ。…もうちょっとは考えるだの、相談だのを姫さんとするべきじゃないのか?それすら考えられないほどバグってるのか?
その返事にうんうんと頷いた一之瀬は、改めて姫さんに向き直る。
「おっけー。…で、坂柳さんはどう?」
「くっ…」
「…」
予想だにしていなかった、重い決断だ。俺は悩む姫さんを尻目に、一歩引いた立場から考えることにする。
まずは断った場合。
ポイントは減らず、Aクラスの地位はそのままとなる。…だが俺達のポイントは無くとも、最悪は葛城が単独でBクラスと契約するかもしれない。そんなことを許せば、もう姫さんはクラスのリーダーとしての未来はない。
葛城、坂柳。この二人がAクラスの指導者だった。その2人が折れれば、未来はない。…あとは撫子ちゃん次第だが、病み上がりの彼女に縋るのは違う意味で揉めそうだ。結局、泥沼になる。
次に契約した場合。
ポイントは実質無利子で借りることになる訳だが、クラスメイト2名の退学は阻止できる。
葛城はお友達を救えて、姫さんはクラスの連中の支持を得られる。
失うものはAクラスの地位と、一時のプライドってところか?
その後、数分の沈黙を保つ姫さんに一之瀬は小さくため息を吐いて催促をしてきた。
「ねえ、どうするの?撫子からは同意とポイント送金して貰ってるし、さっき言ってたじゃない?"助けられたら助ける"、"クラスポイントは取り返せても生徒は戻ってこない"ってさ!」
「…っ……分かりました、要求を呑みます」
おおう…凄い煽ってくるな。…いや、当然か?クラスの意思統一がこうも取れていないのは俺達とDクラスぐらいだろうしな。
まあこうも弱みを突かれる経験ってか、攻撃される側に慣れてないんだな、俺達は。今までの試験じゃそんなに、…ああ、そうか。
―――今も、前の試験の時も、撫子ちゃんが居なかったんだったな。
「要求を呑むって…別にこっちはそんなに重大なお願いしてる訳じゃないんだけど?」
「っ…あなたは…!!」
「っ坂柳…!すまない。ポイントについてはありがたく借り受ける。…返済についても、最優先して返済しよう」
「うんうん、よろしくね~」
結局、契約は無事締結。俺達のクラスからは4000万ポイント*1と600クラスポイントが消し飛んだ。
戻って来た杉尾と戸塚は泣きながら頭を下げて来たが、そいつらを見る連中の眼はかなり冷ややかだった。
上級生たちのところも同じく盛り上がっていたみたいだが、俺達はそれ所じゃなかったしな。詳しくは他のクラスの連中に聞くことにしよう。
・
その後の帰りのバスの空気は、地獄だった。
杉尾はまあ…乗車の前に謝罪行脚をしてたし、クラスの仲が良い連中に慰められていたから良いとして*2。
戸塚は案の定というか、葛城に「守れなくてすまなかった」と謝られると、「葛城さんのせいじゃないです!」だとよ。いや、普段のお前の態度が原因だからな?
そもそも葛城…100歩譲って、男子を仕切ってた立場のお前が謝るのは筋だがヤツの態度を矯正してないのはお前の怠慢だろうがよ。
周囲は舌打ちをしたり、睨みつけたり、関わりたくないと目も合わせない等、バラバラな様子だった。
ま、撫子ちゃんが帰って来た時はそれも戻ったけどな。耳当ても外してて、お疲れ様と言って回る様子はほんとクラスの清涼剤だったぜ。流石に戸塚や杉尾に声をかけようとしたら周りに止められ、首を傾げていたら真澄ちゃんに「あんたは気にしなくて良いから寝てな」と言われる。
…実際つかれたのか、すぐに真澄ちゃんの肩に頭を預けていた。
撫子ちゃんの寝顔を見ていると、ようやく帰って来たスマホにメッセージが届いている。
『皆さん、試験はお疲れ様でした。今後について、私たちBクラスが再びAクラスになる為の話し合いをしたいと―――』
内容は姫さんから、クラスの全員に。断られるとは露ほどにも思っていない自信に満ちた文章に、直ぐに返信が続く。
俺も了解とだけ返すと、もう一つの届いたメッセージを開く。
『お前はどうする?』
「………へえ」
たったそれだけ、一行だけの文章。捨てアドレスなのか名前すら匿名のそれは、龍園からのいつもの連絡方法だった。
訝し気な表情の臨席の奴になんでもないとだけ告げると、俺は返信を打つ。
『これまで通りに仲良くしようぜ?』
『蝙蝠野郎め。好きにしろ』
―――これで良い。
落ち目とは言っても、基礎能力は断トツの俺達。
Aクラスになったとはいえ、他のクラスの為にポイントも吐き出す甘ちゃんの一之瀬たち。
僅差とはいえ、最底辺のDクラスになった龍園。
同じく僅差で昇級、しかし一部では優秀な連中を抱えるCクラスの堀北、平田。
俺は、最後に俺がAクラスで…勝者で卒業すれば、それで良いんだからな。
―――〇―――
Side.―――
「ふむ…では、結局退学した生徒は居なかったのですね?」
『―――、――』
「はい、よく分かりました。…これはやはり、テコ入れが必要でしょうねえ」
『―――?』
「ああ、気になさらずに。詳細は後日お知らせしますよ。…ええ、では」
一人
――――――
1年生―クラスポイント推移
Aクラス→Bクラス*3
665ポイント
Bクラス→Aクラス*4
988ポイント
Cクラス→Dクラス
376ポイント
Dクラス→Cクラス*5
386ポイント
――――――
教職員…それも学年主任以上には、ほぼ全ての情報が開示されている。当然、その情報を悪用すれば懲戒案件となりますがそんなものは使い方次第です。
私はこの学校に入学する理由となった生徒達の成績や簡単なプロフィール、担任の評価や友人たちとのやりとりを一読する。
「…おや、彼女は随分と人気者みたいですねえ」
実質の上司のご子息は入学時からは徐々に友人を増やしている様子ですが、当初から膨大な…学年でも1、2を争うほどの交友関係を築いている。
特にクラス移動の為の契約など、前代未聞だと立ち会った担任教師たちは言っていました。
…クラス移動。あぁ、それは良いかもしれませんね。
来月にねじ込む特別試験。彼らにも、もっと相応しいクラスがあるでしょうし、いい機会になるでしょう。
読了、ありがとうございます。
これにて混合合宿は終了。
次回にバレンタインと小噺を挟んで、
追加試験編に。
実はずっと書きたかったシーンがあるので楽しみです。
ご期待ください。
本作もついにアニメで言う3期に突入しました。また募集なのですが、番外編や幕間、別作品扱いでも書きたいネタはたくさんあるのですが、どれが需要高いか教えてください!
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本編番外編、他クラス編など
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本編幕間、キャラとの絡みなど
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別作品番外編、R指定の作品など
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本編優先、とりあえず1年生完結まで