ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ   作:エカテリーナ

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お待たせいたしました。
追加試験編、これにて全てのクラスの結果が浮き彫りとなります。
ネタバラシは次回と次々回にて。

…ちょっと長くなったのはすいません!
それではどうぞ!


④:せんせいのおしごと!

 

Side.真嶋 智也

 

 

ベキッ…!

 

 

「………真嶋先生」

 

「っ!!…すいません」

 

 

既に3本目のボールペンが砕ける音。それを処分して、落ち着こうとインスタントのコーヒーを入れる。普段は要れない角砂糖もガンガン入れて、それが解け切る前に煽る。ガリガリじゃりじゃりと口内の甘味と不快感を飲み干して、再び席につく。

この苛立ちの理由は、当然分かっている。

 

月城常成。―――謹慎となった坂柳理事長の代わりに政府から派遣された、どこか胡散臭い雰囲気の男。

 

月城理事長代理は突然一学年の担任である俺達を集めると、挨拶もそこそこに今年度の一年生から退学者が出なかったことを皮切りに、「学校側の試験の監督能力の不足」「ランダムで行っている特別試験が、今年は特に低難度で集束した」「生徒側の能力や結果を正確に測れず、適切な成長を促せていない」…etc.

つまり纏めると、俺達や学校側の試験運営を痛烈にこき下ろしてきた。…だが、ここまでならまだ俺達の監督不足と不満を飲み込むつもりだった。問題はその後だった。

 

月城は突然、「追加の特別試験を実施する」と告げた。奴の持って来た資料を一読するとそこには、試験は破格の報酬を得る代わりに、必ず生徒から退学者を出す…そんな異色の試験だった。

当然、俺達は抗議の声を上げた。…茶柱はかなり顔色が悪いようだが。以前の試験の()()()()もあるのだろうな。

 

だが来週にも予定している一年最後の特別試験は、本格的にクラス一丸となって戦うクラス対抗戦だ。その直前に退学者や不和を招くこんな試験など…生徒の心を軽視し過ぎている。

 

だが奴は―――「それがどうしましたか?」とバッサリ切り捨てて来た。

 

思わず押し黙る俺達に、奴は()()()()()とやらを伝えて来た。…内容は、言葉にするのも吐き気がする。所詮、大人を自称するクズどもの下らない、縄張り争い、ブランド効果、そして保身。こんなことに生徒を巻き込む代理とはいえ新たな理事長に、俺はこの先の学校運営に不安を覚えずにはいられなかった。

 

 

 

 

結果として、試験を生徒達に伝えた日の下校時刻後。一学年の教師らで集まって試験の結果や結果の想定を話し合ったが…やはり全員、顔色が悪い。当然と言えばそうだが、クラスへの説明は一波乱あったことだろう。

 

…結論として、この試験のキモはクラスの事を第一に考えられる生徒…すなわち、リーダーの存在だ。リーダーが指揮系統をキチンと取り、目的の生徒を首位に押し上げて退学者へチケットを使わせる。これが退学者なしで試験を終える最適解になるだろう。

 

逆に、同数の得票を阻止する名目の他クラスへの推薦票。…これは、使い方によっては劇薬になる。

 

他クラスの推薦票は全部で約120票。ひとつのクラスへ約40票入れれば、その総数は首位を取るのに十分な票数となる。何故なら自力で自分のクラスの生徒へ投票できる最大票数は39票だからだ。

 

―――仮に、ウチのクラスの全ての票を一人の生徒…坂柳に集めたとする。

しかし、もし葛城が龍園や一之瀬のような他のクラスと手を結び40票を得たなら…当然、葛城はクラス首位となり移動チケットを好きに行使できるのだ。

 

そしてこれはウチのクラスに限った話ではない。どのクラスの、誰であってもクラス全員の協力があれば好きなクラスに行けて、好きな生徒を救うことが出来る。…それを操作、計画出来てしまう。とても一年のこのタイミングでしていい試験ではない。

 

…こういう策謀を巡らせる作戦を好むのは坂柳や龍園あたりか。しかし今回の試験にはほとんど工作の時間がなく、自分たちのクラスの和が乱れるのも防がなくてはならない。

 

準備なしで確実に出来そうなのは、一年生の中では一之瀬くらいだろうな。俺はそう思い担任の星之宮に視線を向けると、当の本人はどこか上の空だった。

 

 

「………?」

 

「…知恵、大丈夫か?」

 

「………え?」

 

「星之宮先生?体調が悪いようでしたら…」

 

「あっ……いえ、平気です。続けて下さい」

 

「そう、か…」

 

 

こんな時、いの一番に不謹慎に騒ぐ奴が妙に静かだった。こういう時、現Aクラスの担任だからこそマウントトークを始めると思っていたんが…。

 

他の二人がそれに気を使うも、本人はそれを誤魔化すのも億劫な様子だった。

 

最近のコイツの噂…雰囲気が変わったことには気が付いていた。騒がしさは鳴りを潜めて、酒を飲んでいる様子もない。元々黙っていたら*1美人だ。なんなら最近は、他の先生方から合コンじみた事をセッティング出来ないかと相談されている。

 

そんな知り合いの様子に、腐れ縁である佐枝もどこか心配そうな視線を向けている。

 

…しかし、不調だろうとなかろうと、今は目の前に迫った生徒達への試験の事が優先される。

俺は咳ばらいを一つ零し、当日に起きるだろうトラブル…退学処分の生徒の待機教室や連絡の流れなどを先生らと詰めていくのだった。

 

 

―――〇―――

Side.星之宮 知恵

 

 

「―――という訳で、本当にみんなには急な話でごめんなさい。…それでも、これが学側の…っ。いえ、私たちからあなた達へ挑んでもらう、追加の特別試験になります」

 

 

そう説明した私の表情は、大丈夫だったろうか。生徒達を不安がらせなかっただろうか、それとも…。

 

 

「先生、質問いいですかっ?」

 

「っ…、ええ。一之瀬さんどうぞ?」

 

「んーっと、この試験って…もしかして()()()()()()()()()、予想外に決まったんですか?」

 

「………え?」

 

「…あれっ?…えっと、答えられなかったら大丈夫です、言えたらで構わないのでっ!」

 

 

きっと罵倒や、理不尽を詰る言葉を向けられると思っていた。ううん、そんな曖昧な表現じゃない。この子たちからすれば、当然の主張だと思うし私だったらもっと怒っても可笑しくない。

そういう覚悟を、教師の私達は大なり小なり持ってこの説明をしていた…のに。

 

 

「知恵ちゃん先生、大丈夫?」

「…まだ調子悪いのかな?」

「やっぱりなんかあったのかな?」

 

「………あなたたち…」

 

「大丈夫ですよ、先生っ!私達なら…みんなと一緒に乗り越えられます!…ね、みんなっ!」

 

「委員長っ!」「帆波ちゃん…!」

 

「………っ」

 

 

この子たちは、何一つそんな言葉なく。むしろ私の心配までしてくれている。…私の不調なんて、ただの背任への罪悪感と、恐怖。…それも全部が全部、自業自得のソレだ。みんなに心配して貰うようなことなんて何もないのに、ない…のに。

 

 

 

 

その後のホームルームでは何とか、そう。なんとか(正直泣きそうになった)誤魔化して職員室へと戻った。佐枝ちゃんや、真嶋君も同じようにクラスは大揉めしたみたいで、坂上先生も疲れた顔で帰って来たから似たり寄ったりみたい。私もそんなにひどい顔をしてたのか、他の学年の先生たちにも心配されたのはなんというか…不謹慎だけれど丁度良かった。

 

その後、わざわざ端末への電話で理事長室に呼ばれて月城…理事長代理に呼び出されて伝えられた件。来季の導入予定のアプリのバックアップの…ううん、違う。そうじゃない。

 

―――『あなたのしたことをこちらは把握している』と、あの男はそう伝えてきたのだ。

 

 

「………はぁ」

 

 

職員室に戻る途中で、人気の少ない階段で腰を落とす。こんな時間で、人気もないなら誰に見つかるでもない。ため息を零しても咎められない。

 

でも、この先の選択は他でもない。私が、私自身を咎める選択になるだろう。

 

自分の目的の為に、月城に従うのか。自分の身を護る為に、あの生徒に情報を漏らし続ける?それとも怖気ついてこのまま脅され続ける?…堂々巡りする思考が答えを出す時間も、予鈴は待ってくれない。

 

この後、この試験についての打ち合わせを1学年の先生たちでしなくてはいけない。それが終わったら溜まっている業務を片付けて、それで、それで…。

 

 

「………助けてよ、だれか」

 

 

誰も居ない、夕暮れの廊下。呟いた声には、誰も応えてはくれなかった。

 

 

―――〇―――

Side.茶柱 佐枝

 

 

何回目でも、どんな相手であっても、慣れることはない。退学を伝える瞬間というのは、心が削られるようにじくじくと痛みを訴えて来る。

 

 

「最下位はお前だ。…綾小路」

 

 

しかしそれは、言われた本人が一番辛いのだと、私が、学校側(わたしたち)動揺し(ブレ)てはいけないと心を鬼にして毅然とした態度を取る。生徒の涙を、怨嗟を、悲しみを振り払い沙汰を告げる。例年クラスで起きる一人の悲劇、クラスの悲劇に身構えていると、名を呼ばれた生徒は席を立つ。

 

 

「………」

 

「っ、保護者への説明はこの後に行われる。…退学を阻止する措置が取られない場合―――」

 

 

 

周囲の視線を集めた生徒―――綾小路はしかし、普段と同じような態度のまま、無言でそれを受け入れた。むしろ私の方が驚き、一瞬息を呑む。定型文のような退学の案内を告げて、一呼吸、二呼吸と時を待つ。しかし続けて上がる救済の声はなく、

 

 

「―――おい、お前ら、いい加減にしろよ。

 

 

はたして誰の声だろうかと、そう思う程に呪いと失望を込めた声が平田の口から零れた。

 

 

「え…?」

 

「ひ、平田君…?どうし「黙れ」ヒッ…!」

 

「堀北、軽井沢も…これが最後だ。チケットを早く使え」

 

 

平田の豹変に驚く連中を尻目に、私は奥歯を噛み締めて、努めて無表情を取り繕う。平田洋介の過去については資料で知っている。以前の学校のいじめ問題を、彼がクラス全員を暴力によって支配して鎮圧した。当然、その経緯も、理由も絶望も全てを理解した上で、この学校は彼を入学させている。

 

 

「…忘れたの?例の件*2がある。私ではないわ」

 

「わ、私も違う…!ぜったい、絶対に違う!」

 

「………なら誰でも良い。早くクラス移動チケットを使って綾小路を助けろ…!!」

 

 

故に平田洋介はDクラス。学校一の優等生としての面を持ち、そして暴力的な支配者の面を併せ持った…れっきとした()()()()()なのだから。

 

 

 

 

その後、クラスでの混乱は見るに堪え…いや、担任として、見届けるべき光景だった。優等生としての顔を剥ぎ取り、支配者としての顔でクラスメイトを恫喝する平田に女子の一部は泣いているものもいた。

しかし退学者が出る試験においては、怪我人が出たりクラスポイントが大幅に下がる行為を除きある程度の猶予を与えている。…それが、残された生徒達にとって良くも悪くも糧になればという側面もある。

 

だが今回は、なまじ救済の為の手段が用意されている。それが誰かの手にあり、秘匿されている。

クラスの生徒達も疑心暗鬼となり、雰囲気が重苦しいものとなる。

 

犯人捜しを始めようとした平田に、「投票先を開示させることは認めていない」とそこだけ指摘を入れる。…人でなしを見るような視線を向けられたが、当然だな。

 

 

「全員、僕の端末に持っているポイントを全部振り込め。…もしも後でポイントを残していたら…分かってるな?」

 

「…わ、分かった、振り込む…」

 

「私も…」「………」

 

 

その後に平田はクラスメイトにプライベートポイントを振り込むようにと指示を出した。気の弱い生徒や、綾小路と親しい生徒は直ぐに動いたようだった。…以外なのは、唯我独尊である高円寺ですら「必ず返してくれたまえよ」と言って振り込んだことだった。

 

クラスの担任として、私はそれぞれが何ポイント持っているかを把握しているし調べればどうやって手にしたかも判明する。昨日の時点でクラス全体のポイントは2200万と少しだったはず。

 

そしてその相手が綾小路だったのも大きい。…言いたくはないが、コレが退学した山内などではここまで素直にポイントが集まったか分からない。

この調子なら綾小路の退学は阻止される。私は密かに安堵の息をつくも、どうも雲行きが怪しくなって来た。

 

 

「だから、一言あってもいいんじゃないのっ!?」

 

「私も…!佐藤さんに酷いこと言ったんでしょ?」

 

「ちょ、ちょっとみんな待ってよ!今は…」

 

「いい加減にしろっ、そんな下らない話をしている場合じゃないだろ」

 

「幸村君は黙っててよ!」

 

 

どうにも話は綾小路を糾弾する女子生徒…篠原か。奴が先頭に立って綾小路を非難しているようだ。…内容を搔い摘むに、色恋沙汰か。こんな場面でする話かとも思うが、当事者である佐藤が困惑気味に止めても周囲の女子は素直に聞き入れない。

綾小路と仲の良い生徒や櫛田あたりが間を取り持とうとしても、感情的な篠原たちは止まらない。平田が机を蹴り上げて入金を促すも、周囲が萎縮するだけで篠原は綾小路を謝らせないと気が済まないようだった。

 

 

「早くみんなの前で謝りなさいよ!」

 

「し、篠原さん…」

 

「………」

 

「何とか言ったらどうなのっ!…婚約者が居るなんて嘘までついて、ホント信じられない!」

 

「っ篠原さん!!」

 

「な…なによ、軽井沢さんだって疑ってたじゃない…!」

 

 

慌てたように軽井沢が静止するが、手遅れだ。私も思わず顔をしかめてしまう。事前に聞いていたとはいえこんな所で暴露するとは思っていなかった。

 

 

「………っ」

 

「…婚約者?」

「てか何の話だ?…佐藤と綾小路が?」

「ほら、バレンタインで…」

 

 

何も事情を知らない生徒もなんだなんだと動揺している。綾小路が視線を向けて来たが、私は何も言わずに口を噤むことしか出来ない。

 

 

「………っ(すまない)」

 

「………はぁ」

 

「ちょっと、聞いてるのっ!?」

 

「篠原さん、落ち着いてよ…!」

 

 

―――後になって思う。私は、綾小路が退学の危機に面しているそんな時ですら…西園寺の方を優先してしまっていたのだ。そんな担任として失格の行為をした、…それを謝罪する権利も、機会も、この瞬間にしかなかったというのにな。

 

その後は告白の事までカミングアウトされた佐藤が泣き出したり、それを慰める女子や篠原を詰る生徒たちと収拾がつかなくなっていた。

 

 

「…で、先生。俺は退室してもいいですか?」

 

「綾小路君!?」「清隆っ!」

 

「え…あ、ああ…」

 

「っはぁ!?アンタ、退学したいの!?」

 

 

周囲の呼び止める声を無視し、綾小路は無言のまま教室を出て行く。激怒した平田が暴力を振るうのを須藤に抑えられ、堀北がポイントを集めようと声を上げて、女子は綾小路をクラスから追い出した篠原に無言の批難を向けていた。

 

 

「ちょっと、言い過ぎじゃない?」「うん…もしかして」

 

「っなによ…アンタ達だって…!」

 

「ねえ!それは後にしないと…綾小路君が退学になっちゃうよ…!」

 

「そ、それは…」

 

「………」

 

 

…篠原も、おそらく悪意があっての行動ではない。友人の佐藤が傷ついていて、その原因である綾小路を許せなかった。そんな友情ですら、試験という鉄火場では劇毒となる。

 

自分の行動が一人の生徒を退学させかけたのだと、今さら気が付いたようだ。顔を青くして俯く彼女は、先ほどよりもとても小さく見えた。

その後に落ち着いた平田を須藤が座らせた。席につくと平田に、篠原や便乗した生徒が謝ってポイントを送っていた。肩で息をしていた平田も「謝罪は綾小路君にしろ」と小さく答えて、ようやく混乱が収まったと…そう、思ったのだが。

 

ポイントを集め終わったのか、平田がスマホを差し出すと私はポイントを確認する。…しかし、それを遮るように着信の音が鳴る。

 

 

「…?誰のスマホ?」

 

「……先生?」

 

「なに…?………すまない、少し待て」

 

 

そう言って自分の端末に目を向ける。そして、そこにあった文字を理解し、受け入れるのに私は多少の時間を必要とした。

不審がった生徒に声をかけられて、ハッと視線をある生徒に向ける。

 

彼女と私の目が合うことはなかった。それが良かったのか悪かったのか、私にはわからない。

何故だ。…どうして、こんなことをしたんだ?

 

 

「せ、先生。大丈夫ですか?」

 

「………………ああ、問題ない。それと、平田。すまないがそのポイントは不要だ」

 

「え…?」

 

「綾小路にクラス移動チケットが使用された。―――あいつは、B()()()()()()()()()()()

 

「………は?」

 

 

チケットが使われたと聞いた際の安堵と、このクラスに戻らないという衝撃。

一瞬の静寂の後、爆発するようにクラス中から悲鳴と驚愕の声が上がる。

 

…Cクラスの混乱は、まだ収まらないようだ。

 

―――〇―――

Side.坂上 数馬

 

胃が、痛い…。

私は慣れた手つきで教員用のデスクから錠剤を取り出し、水なしで3、4つ一度に呑み込んだ。常用するのは推奨されていないとは言え、仕方がない。問題行動を起こすのに定評がある我がクラスとはいえ、試験後の今日に更なるトラブルが起こるとは思いませんでした。

 

私は先ほどのクラスでの試験、その後の騒動までの経緯を思い出す。…現実逃避とも言いますが、もう少し…薬が効くまでの少しの間だけ…ぐうっ…!

 

 

 

 

私のクラスは元Cクラス。…今はDクラスですが、リーダーである龍園のポテンシャルが発揮されれば、更に上の…Aクラスだって狙えるはず。

ただ、問題行動の多いクラスである事は認めざるを得ません。先の混合合宿でも予想外の戦略でAクラスから退学者を出し、試験での増額したクラスポイントを台無しにしてみせた。

 

生徒達もフィジカルに自信があるものが多く、後は学力面の自力がつけば申し分ない。…幸い、龍園も私と同じようにその重要性は理解している。西園寺さんとのクラス移動の契約など前代未聞で、他の学年の先生たちも唸るほどだった。

自由で計算外の作戦を立てて実行するカリスマに、申し分ない実力を持った生徒が揃えばAクラスも夢ではない。

 

…そんな矢先、契機となったのは新たな理事長…代理ですが、月城理事長の発案した追加試験のこと。

生徒の退学を前提とした試験、当然のように生徒からの反発が予想されました。…が、それも本当に一瞬のこと。

 

 

「全員、黙れ」

 

「「「………っ」」」

 

「………!」

 

 

大きな声ではない。恫喝した訳でも、暴力をちらつかせた訳でもない。たった一言で、クラスの不満も混乱もピタリと止めてみせた。

 

これが、龍園翔。このクラスの王。

ピシリと空気が張り詰める。思わず息を呑む音すら聞こえるほどの緊張が教室に満ちる。

 

…教師である私ですら、息を呑んで彼を凝視してしまった。その後に先を促されて首位の報酬やルールについて触れた際にも声を上げる生徒を視線一つで黙らせて、ジッと重い静寂をクラスにも齎した。

 

 

「………ククク…」

 

「…、龍園?」

 

 

数分だったと思うが、沈黙を破った彼はいつものように不敵な笑みを浮かべて、スッと立ち上がる。すると教壇に近づいた為、私はその席を彼に譲り見守ることにした。クラス中の視線を集めた彼がドカリと教壇に腰かけると、クラスの生徒達に命令を下した。

 

 

「聞け、お前ら」

 

「「「………」」」

 

「推薦者については金田から送らせる。…が、批判票については俺の指示通りに投票しろ。間違った先に投票したり、他のクラスの連中に情報を漏らしたら…俺が直々に粛清してやる」

 

「「「………」」」

 

「…龍園氏。発言を」

 

「何だ、金田」

 

 

龍園の脅しのような発言も、反抗する声は当然ない。…個人的には私も、やむを得ないとも感じる。ただでさえクラスの不和を招く、場合によっては他のクラスに干渉を許す性質の試験。求められるのは一糸乱れぬ連携に他ならない。

 

続いてクラスの参謀的な金田君が手を上げる。推薦者の件を任せる発言といい、龍園も彼の事は信頼しているようで発言を認める。

 

 

「推薦者については承りました。…そして、批判票については僕としては早めに決定して混乱や不安を防ぐべきだと提案します」

 

「…クク、まあ、だろうな。誰が退学になるのか当日まで分からねえっていうのは怖えよなあ?」

 

「おっしゃる通りです。…その様子を見るに、もう龍園氏の中では決めているのではありませんか?」

 

「「「…っ!?」」」

 

 

金田君が冷や汗を流しながらもそう話すと、動揺がクラス中に走ります。貢献が少ない生徒や、自信のない生徒は震えている。

 

 

「まあな。…が、そんなに怯える必要はねえ。直ぐにわかるさ」

 

「………!」

 

「龍園さん…」

 

「………?」

 

 

そうして一抹の不安を抱えながら、Dクラスは試験当日を迎える。

おそらく、龍園以外の…いいや、龍園も含めて全員が、予想外の結末を迎えた試験。その結果を。

 

 

 

 

試験当日、開始の30分前にはクラスに全員が揃う。静かに沙汰を待つ被告人のように、その表情には緊張が浮かんでいる。私や他の先生方も、今日ばかりは早めに教室で待機していた。最初に立ち上がったのは金田君。龍園に促されると、推薦者に自分の名前を上げる。残りの二人については席順の流れで前後の生徒を指名するように指示を出し、他のクラスへの推薦票は適度に散らして集中させないと説明しました。

 

…つまり、金田君が39票。それ以外の生徒はほとんど2票ずつを得るようですね。

これには反対意見や混乱は見られない。元より、首位として権利を得るのはクラスの主要陣であるべきだ。金田君はその中では文句の出ない貢献をしている。…それに、だ。

 

()()()()()よりも、皆もっと大切な事を聞く為に龍園の言葉を心待ちにしている。…しかし。

 

 

「………」

 

「………っ」

 

「………?」

 

「………あ、あの…龍園さん」

 

「あ?」

 

「えっと…その、ひ…批判票は、誰に?」

 

「…クク、慌てるな。試験開始前には教えてやる。…ああ、俺が指名したヤツ以外は金田と同じように席順に入れろ。…いいか、絶対に間違えるなよ?俺が指名したヤツに批判票を集中させろ」

 

「は、はいっ!」

 

「分かりました…!」

 

「っ………」

 

 

しかし試験の10分前、5分前になっても龍園は口を開かない。ざわつくクラスの視線を無視して、龍園は目を瞑ったままでいる。

 

 

「…ごほん、少し早いですが試験について確認事項を伝えます」

 

「…っ!」

 

「試験開始を告げられたら、一切の発言や端末の操作などを禁止とします。違反した場合、重いペナルティが与えられます。十分、注意して下さい。…呼んだ生徒には、こちらの用意するタブレットに推薦票、そして批判票を入力して貰います。時間制限は設けませんが、明らかな遅延行為が認められるとペナルティを与える可能性があります。…生徒の名前の順番はランダムとなっており、指紋や指の操作位置などで次の生徒へ投票相手が伝わることはありません。試験結果集計後、すみやかに―――」

 

「………」

 

 

事前に伝えてあった通り、試験の説明を繰り返す。言い間違いはないか、伝え損ねたことはないか。自問自答しても恐らく問題はない。

チラリと時計を見ると、試験開始まで2分と少し。クラス中の視線を受けても、龍園は口を開かない。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………っ龍園!どういうつもりだ…!」

 

「ククク…」

 

 

まさか、批判者を伝えないつもりか?それでは予想しない生徒が退学になる可能性がある。生徒達の不安もピークに達しようとしている。彼と折り合いの悪い時任君が声を荒げても、龍園君は答えない。

 

 

「っ、時任君。席について下さい。試験は予定時刻に開始します」

 

「…チッ!」

 

「…(どういうつもり…?)」

 

「龍園さん…」

 

「………りゅ、龍園氏…」

 

「Boss…」

 

 

彼だけでなく、親しい生徒からの困惑した視線を受けても彼は、龍園だけはいつも通り不敵な笑みを浮かべている。

そして試験開始まで1分。…30秒。10秒とすこし前となって、ようやく彼が口を開いた。

 

 

「全員、聞け。批判票を入れるヤツを発表する。…いいか、絶対に間違えるなよ?」

 

「っはい!!」

 

「Yes,Boss!」

 

「…やっとね」

 

「………?」

 

 

クラス中が集中力を持って彼の声を待つ。時計の秒針が頂点を指す、その直前に批判者―――退学となる生徒の名前が告げられた。

 

 

「批判票を入れるヤツの名前は―――()()()。以上だ」

 

「は…?」「え?」

 

「ど、どういう「そ、そこまでっ!試験を始めます」っえ…そんな…!」

 

「私語を止めて下さい!…試験を始めます、順番に…私が呼んだ順に、投票を開始して下さい…」

 

「っ…!」

 

「………っ!」

 

 

…クラスの混乱も分かる。というか、私も一瞬ポカンとしてしまいましたよ。動揺のままに投票をする生徒を見ながら、私は龍園の作戦を吟味してみる。…すると、案外悪くないことに気が付いた。

 

この試験、救うか見捨てるかはともかくとして誰か一人を退学者候補という死刑台に上らせる必要がある。安全圏から言われる「必ず助ける」ほど信用できない言葉はない。

すなわち、絶対的な信用・信頼関係がない私達のクラスにおいて仮にでも退学者候補を出すことは今後の裏切り行為を誘発しかねないリスクを招く。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

チラリとクラスの生徒達を見ると、皆さん訝し気な表情を浮かべつも先ほどより安堵している様子です。自分が退学者にはならないという安心感は、これまでの不安を消し飛ばすほどの安堵と、

 

 

「「「………」」」

 

「………ふん」

 

『自分を犠牲にしてクラスメイトを守った』、すなわちクラスの王への服従を、支配基盤をより強固にさせる。

 

 

その後の結果は言うまでもない。予想通りの結果、そして―――。

 

 

「批判、最下位は龍園君、君だ。…救済については、言うまでもあるまいね?」

 

「当然だ。…おら、2000万ポイントだ。確認しろ」

 

「たしかに。では、Dクラスの追加試験を終了とする」

 

「「「わあああああっ!!」」」

 

 

クラス中の喝采と共に舞い戻った王への感謝と、歓声。…まさか、この理不尽な試験を利用して自分の地位をより盤石にするとは予想もしていなかった。私は邪魔にならないようにと、ひっそりと教室を出る。

 

途中、他のクラスからは声も聞こえましたが、喜色を帯びた声を上げるのはDクラスだけのようです。そのことに満足感を覚えながら、職員室へ辿り着く。

 

ギイ、と音を立てて自分の席につくと端末が鳴る音に気が付く。…こんな時間に珍しいですね。なにか試験で問題でも?そう言った疑問半分にそれを見ると予想通り…そして、()()()の結果が表示されている。

 

 

【―――クラス移動チケットにより、Bクラス西園寺撫子をDクラスへと移動する】

 

「…どういう、ことですっ…!?」

 

 

動揺の声が漏れ、ハッと周囲を見回す。幸い試験が終わったのはDクラスが一番だったようで、他のクラスの先生方は居ない。

私は逸る心を何とか落ち着けて、手を口で隠しながら端末を操作、あるアプリを起動して凝視する。

 

 

「B…Bクラス、…、…さ、…西園寺…、…!こ、これは…!」

 

 

南雲生徒会長の提言から来年度から生徒へ公開される新たな評価アプリ。

OAA…”over all ability”のテストモデルで彼女の名前を見つける。

 

・・

 

――――――

◇西園寺撫子

誕生日: 7月23日

 

【OAA評価-(仮)】

 

学 力  (A+):93

身体能力 (A-):81

機転思考力(A+):91

社会貢献性(A+):96

 

【総合力】(A):90

生徒会、及び茶道部に所属

 

 

・・

 

 

「く、くふっ…くく…!」

 

 

これが、こんな生徒が私のDクラスに…!思わず笑いが零れ出るほど、圧倒的な評価値。まるで夢のよう。圧倒的、棚ぼた…!!しかも、しかも直ぐに使われるハズのカウンターでのチケットも発動していない!…するはずもないでしょう、くく、ははははははっ…!

 

踊り出してしまいそうな僥倖に、思わず席を立つ。…周囲の冷たい視線を咳払いで誤魔化して、平静に…それでも軽やかに、再び自分のクラスへと足を向ける。

 

先日の事前ミーティングでは、クラス移動となった生徒は無効にされない限り即時で移動する手はず。つまり、西園寺さんはもう我がDクラスに来ていても可笑しくない。クラスの席が無くて困っていたらコトです。

…決して、決して一人の生徒を贔屓する訳ではありません。ありませんが、事情が事情です。邪険にされるとは思いませんが、龍園がなにか良からぬことをしていたら担任として大人として、しっかり掣肘を加えねば…!*3

 

 

「…ん?君たち、どうしましたか?」

 

「え?あ、坂上…、先生っ!」

 

「やべ…」

 

 

廊下を曲がり、自分のクラスを目指すとなにやら廊下に男子生徒がぞろぞろと列をなして教室への侵入を阻んでいます。生徒達も「しまった」というような表情を浮かべ、顔を見合わせています。…まったく、試験が終わったとはいえ何をしているのか。新しい学友の西園寺さんに失望されても知りませんよ?

 

 

「ちょ、ちょっとま、待って下さい先生」

 

「なんです、私は教室に用があるので…ほら、退くように」

 

「あ、ちょ、今は…」

 

 

私は口ごもる彼らを退かして教室へと入る。最初に目についたのは、試験を説明した時と同じように行儀悪く教壇に腰かける龍園。

それを周囲の生徒達が遠巻きに壁側で立ち、何故か視線を()に向けている。…?一体何を…は?

 

 

「ちょ、な…おま…な―――」

 

 

…意味のある言葉が出力できなかった。それでも何かを言わねばと絞り出した言葉は断続的で、クラスの誰も私に気がついていない。

 

―――否、みな一同に()()から目を離せないでいた。

 

西園寺撫子。生徒会副会長。

非公式とはいえ、OAAにおける一学年()()()()を得た生徒。

 

学生離れした身体つきに、濡烏色の長髪。

優秀な成績と上品な物腰に教員からの評価も一等高く、病床に伏したと聞いた時は灯が消えたような寂しさを覚えた。

 

そんな彼女が、誰もが慕いいずれは生徒会長にと目される彼女が、

私達教師にまでバレンタインのチョコレートをくれた彼女が、

これからDクラスを導いてくれる、最高の助っ人である彼女が―――

 

 

 

 

「………」

 

 

―――()()()している。

 

 

 

 

誰一人、クラス中の誰もが、廊下からこちらを見る生徒たちも、教師である私すら口を開けずに居た。

もっと騒がしいはずの教室で、その場には似つかわしくない静寂…深閑とした雰囲気は、声を上げることすら罰当たりな、そんな神聖さを纏っていた。

 

しかし、そんな神聖さを穢すのに躊躇しない存在もこの場には一人いたのだ。喉の奥の、その更に奥、腹式呼吸したように大仰さで笑い声を零す龍園に、ようやくクラスの時は解凍される。

 

 

「ク、クク…良いザマだな、撫子」

 

「………」

 

 

「―――」

「………」

 

「…。……」

「――、―――」

 

 

二人の掛け合いに、ようやく熱が、血液が身体を巡るのを感じる。会話こそ耳に入りませんでしたが、私が言う事は決まっている。再び痛みを訴え始めた腹部に手を当てて、渾身の力で叫ぶ。

 

 

「龍園!さ、西園寺さんに何をさせている!」

 

 

―――クラス移動初日から、何をさせてるんだお前はああああぁ!!

 

 

※この後めちゃめちゃ事情を聞いた!

事情の聞き取りをし、なんとかクラスポイントの減少は阻止した!!

 

*1
いつもの騒がしい様子が好きな奴も居るみたいだが

*2
契約

*3
圧倒的贔屓。自覚あり




読了、ありがとうございました!!

そろそろアンケート結果をもとにプロットを組み立ててますが、引き続きご意見などもお待ちしております。
感想・高評価ともに力となっております。最近は面白い作品が新たに投稿されて目移りしてしまいますね!
他のよう実作品もいくつか構想はあるのですが、一先ず本作の1年生編を終えてから。

それでは次回もお待ちください!

さて、学期末特別試験。見たい対戦カードは…?※あえてクラス単位で表記。…組み合わせが少ない?君のような感の良いガキは大好きだよ。

  • Aクラス対Bクラス
  • Aクラス対Cクラス
  • Aクラス対Dクラス
  • Dクラス対Bクラス
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