ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
本日より本作の更新を再開いたします。
今回は、本編の外の話。
本編は本日の19:00から順に投稿予約をするつもりです。
一応、章の終わりまでは完成してますので手直ししつつの投稿になると思いますが、よろしくお願いします。
それでは、どうぞ。
⓪:だれでもないおとこのはなし。
―――〇―――
とある一室。和室調のそこに明かりはなく、しかし障子から差し込む陽によって昼夜が判断できるだろう。耳をすませば鳥の鳴き声や池を泳ぐ鯉が出す水音。衣擦れの音すら聞き取れるほどの静寂が周囲を満たしていた。
まるで旅館のようにふすまや畳、調度品の品々は憩いを求めた旅行客には一時の現実からの逃避を叶えてくれるだろう。
…だが、
「………」
布団に横たわるその男は、今まさに息を引き取ろうとしていた。
どす黒い隈の刻まれた表情は老人のように枯れ、瞼を閉じることも命を削るほど憔悴し切っている。
不規則な呼吸も徐々に弱まり、誰も看取ることなくこと切れる…そんな間際に、障子が開く。
「…1年振りといったところか。…随分と
「………あ」
入って来た老人に、もはや返事とも取れぬ譫言を返すしか出来ない男。そんな様子を見ても、老人の声には一切の温度も無い。男に聞かせるつもりもないのだろう、空に向けてひとり言を続けていく。
「お前には随分と手を焼かされた。…よく莫迦な子ほど、言うものだが。ううむ…」
「お………、あ…」
「すまなんだ。事ここに至っても、お前を惜しむ気持ちが欠片も湧いてこない」
「…………う…あ…」
「………ああ、そういえば」
男は視線を向けようと首を捻ると、冷たい目の老人と視線が交わる。先の言葉の通り、その視線にはなんの感情も浮かんではおらず、まるで虫けらを見るような色だった。
「お前がアレをなんといたか、鬼島の若造の作った箱庭に逃した件だが…」
「…っ………」
初めて男の表情に変化が生じる。苦悶を浮かべ、緊張を張り付かせる。その様子に老人は、嬉しそうに、甚振るように、男の耳元へと語りかける。
「うむ、間が良かった故な。…
「………っ……が…」
「なに案ずるな。お前との約定、忘れてはおらん。お前の事も、
「………っ!?」
「ん…」
老人の言葉に、息を呑む男の目が見開く。血走り、空を掴むように腕を伸ばしてもその手が老人に届くことは無い。
否、伸ばしたのは老人ではなくその腕に抱いた存在にだろうが…直ぐに脱力して地に落ちる。
「………ぎっ、…が………あ…」
「じぃーちゃっ?」
「おお、よしよし
「きゃっきゃっ」
「……さ、……ぅき…?」
老人は足元で弱弱しくのた打つ男に目もくれず、好々爺もかくやといった態度で幼子…紗雪を抱きあやす。丁寧に切りそろえられた黒髪や赤くぷっくりとした頬、
「……んぅ…?」
「ではな、愚息よ。生きている価値のないお前も、死んで漸く役に立つ。
「………………あ」
紗雪が不思議そうに
不思議そうな表情の紗雪の頭を優しく撫でながら、なんの熱も籠らぬ言葉を吐き捨て部屋を去る。
そうして今際の際。肉親にも看取られることなく、誰でもない男はその生を終えるのだった。
「ああ、私です。坂柳さん」
―――、―――――。
「何の用?…察しは着いていよう、アレの
――――、―――、――――――。
「ああ、弁解は結構。最初から承知はしている故、咎めるつもりはない」
―――――、―――?
「ひひ、いやなに、つい先ほど不肖の愚息が死によってな?」
――――。
「一度アレを
――――、―――!――――――――。
「案ずるな、また
―――――、――――――――――。
「…ふむ、であれば、尚のこと善いな。篤臣の倅も呼ぶように。ではな。…ともすれば手紙が要るか。…誰か、用意を」
読了、ありがとうございます。
いよいよ今回の章で撫子の実家の話が出ます。
予想していただいてた方、そうでない方どちらも
楽しみにしていただいていれば幸いです。
それでは19時より、本編を投稿致します。
新刊の販売までに締められればと思います。