ようこそ(勘違い)大和撫子の学校生活へ 作:エカテリーナ
本日2話目の投稿になります。
今回より新たな試験が始まります。
撫子の存在で各リーダーがどう動くのか、ご期待ください。
それでは、どうぞ。
―――〇―――
あなたが何も言わなくても、私だけは分かってる。
あなたが何もしなくとも、私だけは知っている。
あなたが誰と居たとしても、私だけは信じてる。
でも、だからこそ―――
『ねえ、撫子。これ、みんなで内緒で
『…もう、仕方ありませんね…』
『やった!私がつけてあげるねっ!』
『ありがとう…?…これ、高かったんじゃないの?』
『ぜんぜん平気だよ!!』
『そ、(それは…高かったのでは…)そう…』
―――私は、あなたをもっと、もっともっともっと、ずっと一緒に、
―――◇―――
Side.西園寺 撫子
つい先日とは違う教室、違うクラスメイト。様々な変化に置いて行かれないよう、意識して普段通りを保つ。
こんな私に信頼を、期待を向けてくれる皆様の為に。
私は、西園寺撫子は日々を続けていく。
ふとした時に自分に自信がなくなってしまっても、誰かの瞳に写る姿を見れば元通り。
―――ほら、そこには皆様が必要としている私がいる。
・
先の試験が終わってすぐ、次のHRに特別試験の内容が発表されました。
本来なら有栖や真澄…葛城君たちと一緒に挑むはずだった試験。生徒会の一員として、通例となるソレについては良く承知している。
「それでは、今年度最後試験―――学年末試験の説明を始めます」
「「「………!!」」」
「クク…」
「………」
そう、学年を問わずにその年の締めくくりとなる試験は、
坂上先生の声に、皆さん反応は違えど集中を向けています。龍園君も普段通りせせら笑うような態度ですが、坂上先生がほわいとぼーどに貼る四角い紙?のようなものを油断なく見つめている。
「今回の試験…選抜種目試験にあたり、君たちにはいくつか決めて貰う事がある」
「決めて貰うこと…ですか?」
「そうです。丁度いい、石崎君。なにか自信のある特技や競技はありますか?何でも構いません」
「え?…えーっと」
チラリと龍園君やこちらを見る石崎君ですが、龍園君が何も言わない以上は問題ないのでしょう。私もコクリと頷き返すと、慌てて先生に向き直って応えた。
「け、喧嘩…じゃなくて、腕っぷしなら、自信あります!」
「…なるほど、では…ボクシングや空手ということよろしいですね?」
「あ、はいっ、それで!」
そういって眼鏡の位置を直しつつ、10枚の白紙には空手、そしてボクシングと書かれた。残るは8つ。続いて坂上先生はルールについて石崎君に確認します。1対1、ポイント制、同点の場合は、時間切れはと事細かに内容を検めると再び私達に向き直ります。
「―――では、こうして2つの競技が決定されました。残るは8つ。これも君たちに全て決めて貰い、対戦するクラスと合わせて20の種目が用意されます」
「に、20回もやるんですかっ!?」
「安心して下さい。実際の試験の時にはお互いに5つに競技を絞ります。これを、本命競技としましょうか」
「…」
坂上先生の説明は続き、纏めるとこうなるようです。
『学期末特別試験 選抜種目試験』
・お互いのクラスが用意した5つずつの種目から抽選して決定。
・全7戦して、4勝以上したクラスが勝利となり報酬として100ポイントを得る。
・一勝毎に30ポイントが相手のクラスに移動される。つまり勝敗がついても7戦は行う。
・競技に参加した生徒は原則、以降の競技には参加できない。ただし全体参加、クラス全員が競技に一度以上参加した場合、二週目の参加は自由とする。
仮に5勝2敗なら相手のクラスから150ポイント引く60ポイントで90ポイント、勝利の100ポイントで190ポイントが入ることに。最大で310ポイントを得られ、その差が縮まるならBクラスも完全に射程内になる。
ごくりと息を呑む皆さんに、坂上先生は司令塔についての説明を始めました。
「そしてクラスで1名、司令塔を決めて貰います」
「司令塔?…なんかリーダーみたいな…」
「その認識で間違いありませんよ。司令塔は決まった競技へどの生徒を参加させるか、その他に競技への協力や手出しが可能な、この試験において非常に重要なポジジョンとなるでしょう。当然、その責任も重大です」
「責任…」
「ええ。…負けたクラスの司令塔は、退学となります」
「「「…」」」
負けたクラスの司令塔は退学処分。これには皆さんもしん…と凍り付きます。ですが、その空気を振り払ったのは当然リーダーである彼でした。
「坂上、対戦するクラスはどうやって決めるんだ」
「敬語を使いなさい、龍園。今日の放課後までに司令塔を決定してもらい、4クラスで公平に抽選を行う予定です」
「なるほどな」
「他に、質問はありますか?」
「俺はねえが…クク、撫子」
「…!」
言葉はなく、視線だけをこちらに向ける龍園君。…少々驚きましたが、ジッとこちらを見据える赤紫色と見つめ合います。含むところはない、自然な色。なら、気にしなくともよいのでしょうか。
私は坂上先生に視線を向け、挙手をして質問の許しを請います。
「ゴホン、…どうぞ、西園寺さん」
「ありがとうございます。…では、敗退したクラスの退学者が出た時について、詳しく教えて下さい。該当クラスへの罰則と、救う為のポイントはいかほどでしょうか?」
「…罰則は、ありません。退学が既に大きなクラスへのペナルティですし、救う際のポイントも普段と同じ、2000万ポイントです」
「かしこまりました。後は…そうですね」
クラスメイトが1名多いDクラス。他のクラスよりも多い人員をどう活かすか。競技の時間や会場、当日の欠席や体調不良などイレギュラーの対応。
出来る限り不測の事態を取り除こうと質問を重ねていると、龍園君がクツクツと喉を鳴らしながら手を叩いて質問を遮ります。
「っ、龍園君…なにか?」
「クク、随分と献身的…いや、
「…?」
「………」
表面上は上機嫌で、笑みすら浮かべている。それでも瞳の奥には猜疑の揺らめきがある。彼の勘気に触れてしまったのでしょうか?それとも…。
「…差し出がましいこと…でしたか?」
「なあに、結構な事さ。もうお前は俺らのクラスの一員なんだ。古巣の連中が相手で、手抜きをしないならな?」
「…それは」
「ちょ、ちょっと龍園」
「必要な事だ。分かっているな?撫子」
「………………はい、かしこまりました」
思わず、震える手を抱きすくめる。こんな体たらく、有栖に遠慮なくと言ったのに私の覚悟が足りていなかった。それを彼は見透かして、釘を刺して下さったのでしょうか。
その後は龍園君からは何もありませんでした。…いえ、放課後に席を立つと得意な競技について聞かれましたので、手慰みにと習った芸事を伝えました。やはりどこか、訝し気な様子。
流石に未だ、大きな信は置いては貰えない。…仕方ありません、よね。私はかぶりを振って、生徒会室へと歩を進めるのでした。
―――〇―――
Side.龍園 翔
撫子を見送った後の教室で、俺は金田や伊吹らと試験について話を詰めるつもりだった。今回の試験、司令塔に退学というリスクがある以上は絶対の自信があるリーダーか、捨て駒。またはプロテクトポイント持ちの生徒にやらせるのが正着だろうな。
学校側も退学回避前提で好き勝手されちゃ困るって訳だ。さっさとこの手の特別待遇は使わせるつもりだろう。それにしても、撫子に聞いた奴の得意な種目ってのが期待以上…いや、ここまでくれば嘘を疑うレベルで突出してやがる。
『昔取った杵柄…いえ、ええと習っていた芸事では茶道華道、日本舞踊、あとは―――』
聞けば、出るわ出るわ習い事の数々。その内半分は聞いた事しかねえ。マジで
「…ヤバいだろ、アイツ」
「え、ええ…。少々、予想外でしたね」
「………完全に信用はするな。話半分にしておけ」
もちろん、実力については確認をする必要がある訳だが、まずは俺達Dクラスの戦略について煮詰めねえとな。
「聞け、お前ら」
「はい!」
「…なに」
「はい、龍園氏」
「今回の試験における俺らの指定する競技だが、基本的に
俺が伝えると、金田は広げたノートに、思いつく限り競技を箇条書きにする。伊吹は直ぐに意図を理解したのかため息をつきやがるが、石崎も半分も読めば納得を浮かべる。
・ボクシング、
・空手、柔道、…
・総合格闘技、レスリング
・英語テスト
・騎馬戦
・綱引き
・茶道、生け花、………
本命はほぼフィジカル全振りの競技で、かつ試合は1対1の勝ち抜き戦にするつもりだ。英語テストは最高得点を出したクラスの勝ちにすればアルベルトが居る以上、こちらに分がある。大縄跳びと綱引きは負けが込んだ際に人数を使い切って選択を2週目に回る役割もある。そこまで言って、連中を見渡す。
石崎やアルベルトは納得したのか頷き、金田や伊吹は何か言いたげだったから目で促す。
「競技は納得したけど…どのクラスとやるの?」
「フン…。金田も同じか?」
「追加で、もう1つあります。司令塔は誰にする予定でしょうか?」
「え?…龍園さんじゃないのか?」
「………」
石崎の馬鹿は素で言ってやがるんだろうが、金田は裏の意味も込めて言ってんな。…司令塔は退学のリスクを伴う。つまり、あえて撫子を司令塔にして古巣のBクラスを狙う手もある。
『自分たちが勝てば西園寺撫子が退学になる』…精神攻撃として考えねえ訳じゃない。だが、それも対戦相手を選ぶことが出来たらの話。今日の司令塔としての集まりには俺が行き、当日に不意打ちしてやるのも悪くねえ。
俺は連中に解散を告げると、適当に昼飯を食いに一人で教室を出る。しかしその道中、俺は予想外の相手に声をかけられることになった。
「やっほー、龍園君。一緒に、お昼なんてどうかな?」
「………ククク、良いぜ?周りの雑魚は一緒じゃなくていいのか?」
「にゃはは…それは、ちょっと…龍園君に悪いかなって」
「あ?」
「え?…だって、ご飯の味とか分からなくなったら悪いでしょ?」
「…言うじゃねえか」
Aクラスのリーダー、一之瀬帆波。そしてその取り巻き連中に囲まれて、俺は
せいぜい油断してろ。最後に勝つのは、俺だ。
…おい、その唐揚げを一つ寄越せ。…あ?撫子が作った?知ってるから言ってんだよ。
―――〇―――
Side.松下 千秋
その日のHRは、殊更クラスの雰囲気が暗かった。そういうのも、ほんの少し前に行った特別試験―――クラス内投票のせい。
私の当初の計画では、綾小路君とはそこそこの関係を維持して協力が出来れば良かった。いくら優秀といっても、所詮は私と同じDクラスというレッテルを張られたクラスメイト。本命扱いは出来なかった。
それでも、クラスの中では突出した実力を発揮していて、それでも高円寺君のように扱いきれない存在ではない。そんな絶妙なポジションに彼はいた。
だから私は多少のリスクを冒しても、彼に取り入ろうと行動に移ったんだから。
「………はぁ…」
だからそのリスクが身を焦がしたのは、言ってしまえば自業自得ともいえる。でも、その起点となってしまったのは一緒のグループに居た佐藤さんであり、その話を聞いていた軽井沢さんでもある。私に責任がないのかと言えば違うけれど、二人がもっと思慮深い行動をとっていたら…なんて、所詮は結果論に過ぎないのかな。
クラス内投票で、最も批判票を集めた綾小路君を全力で庇えば…いや、私じゃ無理かな?クラス中のポイントをかき集められた自信は無い。クラスの中心だった平田君(あの豹変には驚いたけど)や堀北さん、櫛田さん…ギリ、軽井沢さんが発起人となれば違った結果になった筈。それも、反論をねじ伏せて綾小路君をもっと大切に思える人が居てくれれば…違う結果になったんじゃないかな。
「か、軽井沢さん…その」
「…ごめんだけど、また今度にしてくれない?」
「あ…ごめん」
気が付けば、HRは終わっていたようだ。佐藤さんと軽井沢さんの会話を聞き流していると、教壇には堀北さんの姿があった。つい先ほど説明された学期末の最終試験について方針を決めようとしているみたい。それぞれが得意な…これなら負けないって競技を考えてきて欲しいと伝える中、いつもよりも険しい表情で須藤君が声を上げる。
「堀北…悪いけど聞いて良いか?」
「須藤君?」
「…綾小路の件だ」
「………それは」
「…なんで、アイツがいきなりBクラスになったんだ?」
「「「…」」」
「俺の頭じゃ分かんねえ。茶柱に聞いても教えてくれなかった。…でも、それって変だろ」
「…須藤君、それは「2000万ポイントだったよな?クラス移動に必要なプライベートポイントは、よ」…」
普段じゃ信じられない、分かりやすいくらい堀北さんに好意を向けてる須藤君が…その堀北さんの言葉を遮ってまで続ける。
「いくら綾小路の奴が運動が上手くても、頭が回っても2000万なんて簡単に貯められる訳ねえ。…なら、後はクラス移動のチケットが使われたって事だろ?」
「………ええ、そうなる…わね」
「俺も少しはフラついて調べてみたけどよ、綾小路が行ったBクラスは戸塚の奴が退学になって、西園寺がDクラスに移動してた」
「…須藤君」
「あの試験で退学になったのは綾小路と戸塚の二人だけで、後の2クラスは退学を取り消してた。…なら、俺が思いついたのは一つだけだ」
声には少しずつ熱が籠っていくようで、みんな須藤君の声に耳を傾けていた。4月の頃だったらきっと机を蹴ったりもっと感情的になっていたと思う。それを自制して、自然と周囲へ伝播させる話し方が出来ている彼は凄く成長したんだろう。だから、それを手助けしてくれていた綾小路君がクラスを去ったことに、もしかしたら一番ショックを受けていたのかもしれない。
「誰かが、綾小路をこのクラスから追い出しやがったんじゃねえのか…!?」
「………それは、推論に過ぎないわ。証拠もない。それにもし、クラスの誰かが「ああ、どんな理由にしろ退学が無しになったんだ。最悪って訳じゃねえ」…なら、これ以上の犯人捜しに意味はあるのかしら?Bクラスの誰かが綾小路君を招いたのかもしれない。違う?」
「たしかに俺も誰が使ったのか、どのクラスがなんて確証はねえ。…だけどよ、俺は元々、綾小路が退学に…批判票を集めた事にも納得してねえ」
「…な、なんで私たちを睨むのよ…!」
「………っ」
須藤君の視線に狼狽するのは、篠原さんやその周辺。綾小路君を標的に試験の票を集めた一派だ。…でもあそこまで票が固まったのなら、きっとクラスの中心人物である堀北さんとか平田君も黙認してたんじゃないかな?私も軽井沢さんにそう言われて入れたクチだし。
その後は堀北さんからいくつかの推論が挙げられた。
先の二つ…須藤君の言う通りに誰かが綾小路君をクラスから排除した可能性と、Bクラスの誰かに招かれた可能性。
そして最後はちょっとありえないと思ったけれど、彼自身の意志でクラスを去ったというもの。
当然、それを否定する声は直ぐ上がった。幸村君たち…綾小路君と仲の良いグループからだ。
「おい堀北、それは…どういう意味なんだ」
「きよぽんが自分で…って、意味わかんないんだけど」
「そもそも、クラス内投票で清隆は批判票一位だった。移動チケットを使う事は出来ないんじゃないか?」
「………その通りよ幸村君。でも、綾小路君本人には不可能でもそれを誰かに頼んだとしたら、どうかしら?」
「なんだと?それは…いや…」
考え込む幸村君。その後に続いた堀北さんの話は移動チケットを手にした生徒が綾小路君に頼まれてBクラスへと移動した可能性だった。だけど、結局それ以上の発展や意見はなかった。
自分の意志だったとしたら、なんで一番上のAクラスじゃなくてBクラスだったのか。体育祭の時に仲良くなった生徒に勧誘でもされたのかも?
その後は宿題のように得意な競技や種目を考えておくように周知されて、話し合いは終わった。クラスの雰囲気はギスギスしていたけど、最後に手を叩いて注目を集めた堀北さんの「試験が無事に終わるまでは、全ての不満や思いは飲み込んで欲しい」の一声に須藤君や幸村君たちも矛を収めることにしたみたい。
「い、行こっ!」
「し、篠原さん、待って…」
「………」
篠原さんたちはクラスの視線から逃げるようにクラスから早足に立ち去って、他の生徒もどこか憂鬱そうに授業の開始を待っているようにみえる。…ほんの少し前、あんな試験が起こるまでこのクラスは活気に満ちていたのに。
平田君の優しい表情も、
須藤君のはつらつとした声も、
軽井沢さん達の明るい声も。
それが、綾小路君と共に失われてしまった。
まだクラスの半分も気がついていないけれど、大きな、本当に大きな損失だったと後悔に尽きない。
「はあ…」
上り調子だった筈の私たちのクラス。その行く末に影が差して来ているのを察しても、私には何をすべきかまるで思いつかない。
思わず吐き出してしまったため息は、誰にも聞かれる事なく溶けた。
読了ありがとうございました。
次回の投稿は明日、19:00を予定しております。
その次も19:00予定です。
お楽しみにお待ち下さいませ。
2年生編について、アンケートです。やりたい要所の場面だけやって更新を早くするか、ちゃんと順序立ててやるべきか、どっちが良いでしょうか、皆様!
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更新優先、2年生編は要所を書いて投稿。
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ストーリー優先、順番に巻順に進める。
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