砂漠の従者   作:ひみつ

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王女と従者

 

 幾許かの月日が過ぎたある日の事。雨の降らない茹だる様な暑さが続いていたのもあり、ラムセスとビビは風通しの良い日陰に座り込んで談笑していた。

 

「暑くて死にそう」

「まだ慣れてないの? これからが本番なのに」

「……まぢ?」

「まぢまぢ」

「マジかー」

 

 本を読みながらも気だるそうな声を上げたラムセスが、読みかけの本を開いたまま顔に載せて寝転ぶ。

 その表紙に書かれている文字すらビビには理解する事は出来ない。そんな博識さを表に出して高慢にならないのも、彼女にとっては好印象であった。

 

「その本って何が書いてあるの?」

「ビビの成長日記」

「……絶対嘘でしょ」

「ほんとほんと。昨日テラコッタさんから内緒でケーキを貰ったって書いてある」

「な、なんで知ってるのよ!」

「あ、ちなみにこれは海軍戦闘術指南書」

「そこで言う!?」

 

 さらっとラムセスが静かに答えれば、驚いた顔を浮かべたビビ。良く見てみれば確かに何処か見た事のあるような絵柄が描かれており、それが海軍のマークだとすれば間違いないだろう。

 

「……ま、まぁ良いわ。でもそう言うのって普通ならアラバスタに無いんじゃないの?」

「そうだね。アラバスタには海軍がいないし……更に言えば極秘って書いてあるから本来は此処にあるものじゃないね。見るからに古いから何か事情があるかも。例えば──コブラさんが元海軍とか」

「背中に正義って書いてるパパは確かに面白いけど有り得ないでしょ。……て言うかラムセスは武術に興味無いんじゃなかった?」

「武術が合わないだけで興味はあるよ。書かれてる理論は為になるから」

 

 そう言って上体を起こしたラムセスは、再びペラペラとページを捲って本を読み出す。覗き込むように隣に座ってビビは読もうとするも、文字は目で追えても内容がまるで頭の中に入って来なかった。

 

「……面白い?」

「面白い」

「……何が?」

「ビビが全然理解出来ないって顔で見てくるとことか」

「私じゃなくて本!」

「……うーん、知らない事を知るのって楽しいよ?」

「……変なの」

「辛辣だなぁ」

 

 ケラケラと笑いながらも読み進めていくラムセス。その横顔をビビは静かに見つめている。

 浅黒い肌で均整の取れた顔立ち。クリっとした瞳と爪楊枝でも乗りそうな長いまつ毛。本人曰く、容姿だけが取り柄と言われていた母から受け継いだもの──との事であったが、ビビはその彫刻の如く整った顔立ちが気に入っていた。

 

 そんな視線が気になったのだろう。ラムセスは読んでいた本を閉じてビビへと視線を送る。至近距離で重なり合う視線と視線。

 

「……そんなに見つめてどうしたの?」

「……ラムセスってさ」

「うん」

 

 そんな状況下でビビが見つめながら口を開いた。

 

「女の子の服とか似合いそうだよね」

「そんな事言われても着ないよ」

「王女様の言う事はー?」

「ぜったーい! ──ま、着ないけどね」

「ケチ!」

 

 恋のこの字も理解出来ていない少女にそんなロマンスの欠片もある訳が無い。馬鹿みたいにはしゃいで疲れて眠る──ただその日々だけで充実しているのだから。

 

「じゃあビビが男の子の服着てみたらどう?」

「絶対似合わないわ」

「……いやでも相当な暴れん──」

「何か言った?」

「イエナニモ」

 

 そんな下らない会話を続けていた時であった。

 

「お、おい! 待て!」

 

 門番を勤めていた兵士の声が響き渡る。何事かと二人が顔を上げるも、即座に思考を開始したラムセスの行動は早かった。

 門兵が声を上げて静止の命令をするとなれば、侵入者が来たのは明白。そうとなればビビの身に危険が迫る可能性もある──と身構えたが、その直後に聞こえてきたのは少年の声であった。

 

「おれは、王に会う、んだッ!」

 

 その数秒後、アラバスタ特有の民族衣装に身を包んだ少年が宮殿中心部に向かって走っていく姿を視認する。危険性は皆無だと理解出来たラムセスは安堵の様子を浮かべるも、面白い物を見つけたようにビビは即座に立ち上がった。

 

「ほら、ラムセス! 行くよ!」

「え? お腹はいっぱいだよ」

「ご飯はついさっき食べたから行く訳無いわよ!」

「……やっぱり?」

「分かってる癖に。……王女様の言う事はー?」

「たまーに聞いてあげるよ」

「今がその時! ごーごー!」

 

 ビビに引っ張られながら、渋々と言った様子でラムセスは歩き出す。少年が見せた必死の形相からは、とても面白い内容とは思えない。

 だが放置しておいてもビビが一人で向かうだけだと理解しているラムセス故に、抵抗を諦めたのだった。

 

 

 

 

「村は枯れました。どうして助けてくれなかったんだよ!?」

 

 途中で合流したカルーを引き連れて、ビビとラムセスが玉座の間の近くまで行くと、少年の叫ぶ声が響き渡った。

 聞き耳を立てて話を聞いてみれば、その少年──コーザの住む町には雨が降らず、干ばつの被害が発生したとの事。

 砂漠の国として君臨するアラバスタでは起こりうる被害の為、国としてもその対応と補助は習わし通りに行われている。

 

 だがコーザ曰く、王はどんな事も出来るって父から教わったと憤慨していた。つまるところ、雨を降らす、降らさないのも全て王の裁量なのだと。

 

「……神様じゃないんだから、雨なんて降らせられる訳ないじゃない」

「うーん、まぁダンスパウダーを使えば出来ない事も無いけど……」

「え、出来るの!?」

「でもそんな事したら今度は他の町が干ばつの被害に遭うだけ。それに今は世界的に所持と使用が禁止されてるからね」

「意味無いじゃない……」

「そ、ただ出来るだけ」

 

 雲を急激に成長させて雨を降らせるダンスパウダー。それ故に本来降るべき国の雨雲が消え去ってしまうと言うデメリットが生じてしまう。戦争の引き金になりうると世界政府が禁じたのも当然である。

 

 そんなラムセスの知識に驚きつつも、王の不手際と言わんばかりのコーザの態度には、ビビは怒り心頭のようであった。

 

 その後、少年の父と名乗るふくよかな男性、トトが現れて謝罪し続けるも、コーザの態度が変わる事は無い。村を想う気持ちが強過ぎるが為にやり場の無い怒りが募っている。それを理解するコブラは大人の対応をし続けた。

 

 ラムセスもコブラと同様、コーザの思いを理解している。していた上で少年を浅はかだと思いつつ、コブラ王の器の大きさに感銘を受けていた。

 だがビビは違う。まだ小さい王女にはそこまでの思慮深さを備えられていない。不機嫌な表情を隠そうともせず、足先を揺らしながら苛立ちを露わにしていた。

 

 言った所で感情を制御出来る筈も無い──そう、ラムセスが静かに見守る決意をした所である。

 

「──村のみんなの気持ちが分かるもんか!」

 

 コーザが大きな声と共に玉座の間から飛び出した。涙を流して目を腫らし、一目散に出口へと走っていく。二人の姿に目もくれず、視線を下げたまま目の前を通り過ぎようとした──その時。

 

「なによっ、泣き虫!」

 

 苛立ちを我慢出来なかったビビが悪態を吐いた。流石にそこまでするとはラムセスも思わなかったのだろう、少しばかり目を見開いてビビの横顔を見つめるものの、彼女はコーザから視線を外そうとはしない。

 

「何だチビ、お前……!」

 

 売り言葉に買い言葉。涙を拭いながら足を止めたコーザが、怒り心頭の様子でビビへと近付いた。

 四歳と言う年齢差は子供にとって非常に大きい。更に男女の体格差を踏まえればその差は歴然である。

 

「なによっ!」

「何だよ!」

 

 睨み合ったままお互いに一歩も譲ろうとしない。只でさえ興奮気味のコーザとなれば、次に出る行動が如何に短絡的な物になるのかは容易く想像出来よう。

 

「このっ!」

 

 拳を構えたコーザがビビを殴ろうとする──が、ラムセスが静観に徹するのもそこまでだった。

 

「う、わ──」

 

 ラムセスがコーザの腕を掴んで力を加えると、まるで魔法に掛けられたように空中で一回転する。重心を崩したコーザが転んで尻もちを着けば、漸くしてラムセスとコーザの視線が合った。

 

「止めておいた方が良い。君が相手にしてるのはこの国の王女だ。最悪の場合、死罪になるよ」

「──ッ! でもこの女が!」

「だとしても、だよ。迷惑がかかるのは君だけじゃない。お父さんの方こそ責任が問われる」

「……くっ」

「村の為を思って王様に懇願するのは分かるよ。でもコブラさんも人であり父なんだ。あんな言い方をされて、近くで聞いていたビビが怒りたくなるのは、君でも分かるよね?」

 

 年下の少年に腕力で負けて真っ直ぐな正論をぶつけられてしまっては、コーザに返せる言葉などある筈も無い。

 ただただ歯痒い思いをしながらも、僅かながら冷静さを取り戻したコーザを見て、ラムセスはビビへと視線を送った。

 

「良くやったわ、ラムセス。トドメの一撃を──」

「はい、承りました」

「痛っ!」

 

 明瞭な返事をしたラムセスは、ビビの頭頂部へと手刀を振り下ろした。遠慮の無い一撃はビビの脳内を揺らす程の衝撃。ぐわんぐわんと揺れる頭を必死に抑える彼女であるも、余りの痛みに涙目になっている。

 

「お、おま……相手は王女なんだろ!?」

「俺は無敵バリア持ちだから大丈夫なの」

「いったーい! なんで私を叩くの!?」

「……あのね」

 

 顎が外れんばかりに驚いているコーザを尻目に、ラムセスはビビと対面して視線を合わせる。少女の潤んだ瞳に少しの罪悪感を感じながらも、ラムセスは静かに語り出した。

 

「コーザが自分の町を思って言ってたのは分かってたよね?」

「……うん」

「ビビが将来、アラバスタを背負う立場になった時──口は悪くとも泣きながら助けを乞う民を馬鹿にするの?」

「……しない」

「なら王女としてやるべき事は分かるよね?」

 

 口の悪い傲慢なチビがこんなにもしおらしく従ってる──そんな光景が半ば信じられないコーザであるも、ビビは自身の非を真摯に受け止めており、真っ直ぐにコーザを見つめている。そして──

 

「ごめんなさい」

 

 素直に頭を下げて謝った。

 

「……俺も悪かった」

 

 そんな態度を見て完全に我に返ったのであろう。目を逸らしたものの、コーザも小さな声で謝罪の言葉を口にする。

 そんな二人の様子を見て満足そうなラムセスはウンウンと頷いていた。

 

「よし、じゃあ仲直りの握手!」

『ぜったいやだ!』

「もともと仲良くなんてないから!」

「誰がこんな生意気なチビ助と!」

『なにっ!?』

 

 友好な関係を築く為にラムセスが流れで握手を促したものの、二人は断固として拒否。それどころか罵り合いを始める程の似たもの同士である。

 

「仲良しだね」

『仲良しじゃない!』

「息もピッタリ」

『真似するな!』

「……本当に初対面? 隠れて練習でもしてきたの?」

『する訳ない!』

 

 気の合うとは正にこの事。余りにも声が重なり合う為か、ニヤニヤと笑いながらラムセスは揶揄を繰り返す。

 そんな言葉が気に食わなかったのだろう。ビビが必死な形相で顔を真っ赤にしながら言い放つ。

 

「わ、私がもっと仲良くしたいのはラムセスだけだもん!」

 

 ──廊下を静寂が包み込んだ。

 

 ビビの大声が全員の耳に伝われば、警備に当たっていた兵士達は驚きの顔を見せており、コーザとラムセスも呆気に取られている。

 

「……あー、その。ありがと」

「──ッ! い、いや、その、ち、ちがくて!」

「思わず言っちゃっただけだもんね、大丈夫」

「そ、そう! そうなの!」

 

 昂る感情故の失言。その事を重々に理解しながらも照れを隠しきれていないラムセスであるも、それ以上にパニックで挙動不審になってしまっているビビがいた。

 微笑ましい少年少女のやり取りである──が、それを一大事と捉える人間もいる。

 

「ラムセス。ちょっと良いかね?」

 

 がっしりとした大人の両手がラムセスの肩をしっかりと掴む。何事かとラムセスが振り返れば、そこには満面の笑みのコブラがいた。

 

 コブラの背後、その少し遠くにはイガラムとトトの姿が見えている。

 何時から見られていたのだろう──そんな事を考えつつも、ラムセスには最早選択肢は無い。子供達の場を引き裂くように、コブラに引き摺られていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でまた来たの? 今日は暇だから一日ラムセスと一緒に過ごそうと思ったのに」

「別に良いだろ、俺だってラムセスに会いに来たんだよ!」

「っふ……はいはい、喧嘩しないの」

 

 コーザとの出会いから数日が経過した頃、彼は未だに宮殿へと顔を出していた。コブラからトトへ何か大きな話があるようで、その為の打ち合わせの都度、彼は訪れている。

 あれから冷静になったコーザはラムセスと言う人物を甚く気に入ったようであり、自身の有する子供の集まり──砂砂団を紹介しようとしていた。

 

「ラムセス、町に来てくれよ! 会わせたい仲間がいるんだ!」

「だから駄目だって。俺は王宮の人間だからビビの御守り(おもり)をしないと」

「そうよ。ラムセスは私の護衛係なの! 町には行きたいけど!」

「……御守り(おもり)と護衛は違うだろ」

 

 しかしながらラムセスの意志は徹底して動きはしない。八歳にして自身の立場を重く受け止めており、砂砂団は彼の心を揺さぶる決定打にならなかった。

 そんなラムセスを誇りに思っているのだろう。ビビは胸を張って優越感に浸っている。……コーザからの横槍が無ければ、だが。

 

「……王女様の言う事はー?」

「なぁ、この王女も一緒で良いからさ、町に遊びに来てくれよ!」

「それこそ駄目だよ。ビビの身に危険が迫るのは俺個人としても許容出来ない」

「王女様の! 言う事は!」

「絶対! ……だけどビビも我儘言わないの。俺がもう少し大人になったらコブラさんと話をするから」

『ぶー! ぶー!』

「やっぱ仲良しじゃん……ふぅ」

 

 決して揺るがないラムセスを説得出来る筈も無く、ビビとコーザは口を合わせて非難を顕にする。

 ビビとて決して町に出られない訳では無い。コブラの視察時や非番となった時のイガラムやペル、そしてチャカの都合が合えば出掛ける時もあるのだ。

 だが彼等にも家庭がある上に国王側近となれば基本的に休暇など存在しない。年に四回も町に行ければ良い方だろう。

 

 その事を理解してるからこそのラムセスの折半案。だが今を生きるビビ、そしてコーザには不満しか無いようだった。

 

「じゃあイガラムさんには話を通しておくからさ、此処に砂砂団を呼ぶのはどう? 宮殿の中は駄目でも、入口の庭園なら広いし十分遊べるでしょ」

「! 天才か!」

「天才だよ」

「じゃあ私の町に行きたい気持ちはどうするのよ?」

「砂砂団の皆から入場料って事で、玩具とかお菓子持ってきて貰えば良いんじゃない? それなら街に行っても怒られて買えない物が手に入るでしょ」

「! 天才だわ!」

「天才だよ」

 

 ラムセスの提案に感銘を受けたビビとコーザ。キラキラとした視線を向けられるもラムセスは気にも留めず、視線を合わせようともしない。

 何故ならば──

 

「……ねえ、さっきから何やってるの?」

「ふぅ……え? 見ての通り筋トレ」

 

 体に重りを着けた状態で高所に掴まり、片手で懸垂をしていたからである。

 

「変人ね」

「変人だな」

「辛辣だなぁ」

 

 大して傷付いた様子の無いラムセスは、騒がしい少年少女をBGMにして筋トレを続けるのだった。

 

 

 そして三日後。

 早々にイガラムへと話をしておいたラムセスのお陰もあり、コーザ率いる砂砂団が宮殿の庭園へと集まっている。国王への謁見、そして十数名と言う人数を束ねる素質を加味すれば、コーザのリーダーシップが如何なるものが理解出来るだろう。

 

「皆に紹介したい友達がいる!」

 

 コーザが声を上げるだけで、周りの少年少女達が大声で騒ぎ出す。微笑ましく見つめる兵士達と悲鳴にも似た雑音。カンカン照りの暑さの中、鬱陶しさを感じつつもラムセスとビビは皆の前へと躍り出た。

 

「俺はラムセス。この宮殿に住んでて……今はこの王女様のお世話係みたいなものかな。宜しく」

「もぐ……わふぁしはおふじょのふぃふぃ。……んぐっ……ほろふぃくね!」

「お菓子は後にしなさい」

「……んっ。早く食べないと取り上げられちゃうかもでしょ!」

「食い意地張りすぎでは?」

 

 口の中にお菓子、そして両手にもお菓子。そんなビビに対して咎める口調をするラムセスであるも、聞く耳など持つ筈も無かった。

 派手に口の周りを汚してるビビをハンカチで拭いてやりながら、ラムセスは周囲を見渡す。

 王女と言う枠でしかビビを見た事の無い庶民。そんな彼等が直に見た王女はこの姿。表情を顰めて隣同士で顔を見合せているのも当然であった。

 

「ビビ、ドン引きされてるよ」

「……王女様に対して何たる不敬!」

「人様に対して不敬なのはビビだけどね。ちなみに兵士も皆見てるから」

「ッ! ……コホン。私はネフェルタリ・ビビ。この国の王女様よ。……さっきのは町の文化についてあまり詳しくなくて、それで色々学ぼうとしてたの。宜しくね」

「誰に似て口が上手くなったのやら」

「お前だよお前」

 

 コーザからの丁寧な突っ込みに満足そうに頷くラムセス。失態を取り戻すべくお姫様モードになったビビは学んだ立ち振る舞いを存分に生かし、淑女として皆の注目を集めていた。

 容姿を含めて美しい所作。これが王女と言わんばかりのオーラを放つ。

 女子からは羨望を、男子からは熱烈な視線を浴びながら、ビビは言い放つ。

 

「おやつの時間だわ」

「それでな、ラムセスが凄い奴なんだよ! 喧嘩は強いし頭も良いし!」

「天才だからね」

「おやつ──」

「是非とも砂砂団の副団長をやって貰いたいんだけど、皆どうだ!?」

「あ、それは遠慮しとくよ。町が復旧したら離れ離れになるし」

 

 これ以上王族の威厳を潰す訳には──と、ビビの言葉を潰すようにコーザが言葉を被せば、流石に不満なのか段々とビビの頬が膨らみ始めて赤く染まり出す。

 そんなビビを他所にラムセスも会話をしている為、余計に彼女の怒りが溜まっていた。

 

「はい飴上げるから」

「! ありがと!」

「チョロ──」

「ん?」

「──ロロロ……」

「……え?」

「……誤魔化せてんのかそれ」

 

 飴を渡す、ただそれだけで機嫌の直ったビビ。余りにも効果的過ぎて思わず本音がでてしまったラムセスであるも、首の皮一枚で助かったと一息吐く。尤も、隣で聞いていたコーザには突っ込まれていたが。

 

「なぁリーダー。ラムセスって人の事褒めてたけど、リーダーとどっちが強いの?」

「んな……そ、それは……」

 

 子供とは純粋であるが故に残酷な生き物である。誰が喧嘩で一番強いか──それは男子にとってリーダーの素質であると共に憧れそのもの。

 だがコーザは即答出来ずにいた。実際に喧嘩した事は無くても、一手で勝てないと言う事実は理解している。それを認めていても口に出すか否か──その葛藤に悩まされている時だった。

 

「コーザの方が強いよ。流石は君達のリーダーだね」

 

 感情の起伏もないままに淡々と、平然と嘘を吐いたラムセス。それがコーザのリーダーとしての面子を守る為だけに言ったのは、コーザとて即座に理解出来た。

 

「おー、さすがリーダー! カッケー!」

 

 キラキラとした羨望の眼差しを浴びながら賞賛されているコーザに否定する勇気は無い。ちらりと当の本人に視線を送っても、ラムセスはまるで気にした様子はしていなかった。

 

 ただ純粋に、そんなラムセスの姿が格好良いと思ってしまった──そんな風に捉えてしまうのもコーザが優しい性格の少年であったからなのかもしれない。

 そんな光景をどこか誇らしげに、そして少し不満気な様子でビビは見つめていた。

 

 

 

 楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行き、日が沈み出した頃には、コーザ率いる砂砂団は帰って行く。

 散らかったゴミを淡々と片付けるラムセスと、何処か寂しそうな表情を浮かべるビビ。そんな少年に向かって、少女は声を掛けた。

 

「ねえ、どうして嘘を吐いたの?」

 

 唐突の投げ掛け。何が──と聞かずともラムセスは理解していた。

 ビビとしては自身の従者と呼べるラムセスが強い人でいて欲しいしそんな風に見てもらいたい。同時にコーザのリーダーとしての立場を理解している。

 

 どちらを選んでも複雑な気持ちであったが、その選択をしたのはラムセス。故の問い掛けであり、その意図を汲み取る事はラムセスにとって造作も無い事だった。

 

「それが彼等にとって最善の選択肢だったからね」

「……でも悔しくないの?」

「別に。俺は名誉の為に鍛えてる訳じゃないし」

「じゃあ何の為なの?」

 

 ビビから投げ掛けられる純粋な疑問。男の子にとって強さがステータス以外であると言うのならば、相応の理由が無ければ鍛えたりはしないだろう。

 

 決して他意などは無かった。──だからこそ、その言葉に対してビビは動揺を隠せなかったのだろう。

 

「イガラムさんとテラコッタさんと……」

「……二人の為にわざわざ?」

「後はビビの為にかな」

「──っ、そ、そうなんだ」

 

 不意の言葉に心臓の高鳴りを感じざるを得なかったビビ。徐々に頬が熱を帯びていく事さえ感じ取れる程の心拍数。

 見向きもしないままに言葉を掛けたラムセスへと、ちらりと視線を送るも彼が気付く事は無い。

 

 ──ドキドキ。

 

 それは痛いくらいの心臓の高鳴りだった。

 

「──あぁもう!」

「ど、どうした?」

「なんでもない!」

 

 その意味を知るにはまだビビは幼過ぎた。その日の夜は夜中になるまで寝付けなかったと言う。

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