砂漠の従者   作:ひみつ

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諸事情の前書きを削除。

ヒナ可愛いよね。





約束と帰国

 

 ──いつも隣にいる人がいない。

 

 未だ終わらない世界会議(レヴェリー)。そんな喪失感を味わっているのはビビだけではない。従者と呼べるラムセスもまた、ビビがいない事への寂しさを痛感していた。

 

「あら、ヒナ意外。ラムセスでもそんな顔するのね」

 

 憂いを帯びた表情を浮かべてパンゲア城のある方を眺めていたラムセス。そんな様子が年相応で可愛らしく思えたのだろう。ヒナはクスリと笑みを浮かべていた。

 

「ビビがいないからね」

「王女様に随分とご執着なのね。私じゃ物足りないのかしら」

「だって俺の会話についてこれるのはビビだけだから」

「……そっちの話?」

「ヒナさん……と遊ぶのも楽しいけど」

「なによその間は」

 

 聖地マリージョアに着いて三日目となれば、船旅も含めればそれなりの期間を共にしてる事となる。特にこの三日間は付きっきりの関係。ヒナとラムセスは他愛も無い会話をするのも日常となっていた。

 

「ねえヒナさん、世界会議(レヴェリー)って何の会議をしてるんですか?」

「色々よ色々。議長は持ち回りだけど、それぞれの国に問題はたくさんあるの。議題は尽きないわよ」

「今日の晩御飯とかですか?」

「話を聞いてたのかしら?」

「革命家ドラゴンとか怖いですもんね」

「……どこでその話を聞いたのよ」

 

 さも当然のように話題の人を取り上げたラムセスであるも、雑談していた海兵の話に耳を立てていただけである。

 

「ヒナさんヒナさん」

「今度は何?」

「悪魔の実の能力って極稀に覚醒するんですよね。ヒナさんのオリオリの実って覚醒したらどうなるんですか?」

「……? どういう事?」

「あっ」

「その察したみたいな反応はやめなさい。地味に傷つくわ」

 

 ふと悪魔の実について、ガープの本に書かれていたのを思い出し、ヒナへと問い掛けたラムセス。だがその覚醒と言うのはヒナには聞き慣れない用語であり、海軍内部でも知られていない情報である事が窺えた。

 

「うーん、書いてあった事を要約すれば、能力を極めた先にある新たな性質らしいんですけど」

「……確かに一部の将官や海賊は能力を超越したような力を持ってたわね」

超人(パラミシア)系は周囲に自分の能力を与えられるらしいですよ」

「……なら触れた相手が鉄錠に?」

「即死技怖い」

 

 人智を超えた島規模の超常現象を引き起こす能力者は、過去に幾度と存在していた。それがもし覚醒と言う意味合いを持つならば──とヒナはその超越した能力にも納得する。

 だが自身はその域にはまだ到達していない。答えたのも飽くまで想像の範疇に過ぎなかった。

 

「でも能力者って良いですよね、便利だし強いし」

「海軍でも将官クラスになる人は殆どが能力者よ」

「と言う事は悪魔の実を沢山確保してるんですか?」

「そうね。海賊が密売用として持ってるのを取り上げる事が多いのよ」

「……一個だけ頂戴?」

「駄目よ、ヒナ駄目。ダメ絶対」

「こう、晩御飯の付け合わせにちょこっと」

「見た目は果物でもデザートじゃないの」

 

 一人の少年として能力者への憧れがあるのだろう、キラキラした目線でヒナを見つめていたものの、その思いは一蹴される。

 それでも尚、ラムセスの諦めない視線にヒナは嘆息しつつ、悪魔の実について語った。

 

「……あのね、悪魔の実が幾らで取引されてるか知ってる? 一億ベリーよ?」

「えっ!?」

「子供だから知らなかったのでしょうけど、とても希少なのよ」

「ペルさんとチャカさんで2億ベリー!?」

「何の話よ?」

「ペルさんなんてビビを乗せて飛んでるとこしか見た事ないのに一億ベリー……」

「だから何の話よ?」

 

 その思考の切り替えの速さは流石ラムセスと言うべきか。だがアラバスタに疎いヒナには理解不能の内容であり、ついていける筈も無い。

 

「そんな二人に勝てる俺が0ベリーだなんておかしくないですか!?」

「お買い得ね、買うわよ」

「品切れ中です」

 

 そんな会話で一日を浪費する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 流石に昨日一日を無駄にしたとラムセスは少しばかり反省した。だからこそ今日と言う日を大切に過ごす為にも彼は行動している。

 

「ねえヒナさん」

「何よ? 見ての通り忙しいの。ヒナ多忙」

 

 ラムセスが辿り着いた先はヒナの自室。当たり前のように侵入していたものの、海兵にとっては踏み入る事の出来ない禁忌の花園。少年であるが故に許される行為。

 とは言え歩く姿を見送っていた海兵が目を見開いていたのはラムセスの知る所では無かった。

 

「ねえヒナさん」

「……だから何よ?」

「ねえヒナさん」

「だから何よ!?」

「だってこっち見てくれないし」

「……あのね」

 

 ヒナがやっていたのは溜まっていた書類関係の雑務。片手間に話をしていたものの、しつこいラムセスに話し掛けられてペンを置いた。その表情は実に迷惑そうなものであったが、ラムセスは気にせず話し掛ける。

 

「仕事、手伝うよ?」

「子供の、しかも部外者に任せられる事なんて無いわよ。書類の書式も知らないでしょ?」

「大丈夫大丈夫。一部の記入とサインしていくだけの簡単なやつだよね。見本を見たら後はヒナさんの筆跡を真似るだけだし任せて下さい」

「……本当に出来そうなのが何とも言えないわね」

「ほらほら、貸して貸して」

 

 そう言って強引にペンと白紙を手にして、ラムセスはヒナの書く様子をじっと見つめる。琥珀の瞳から視線を受けて何ともやりにくい状況であるも、ヒナがサラサラと書類を一つ終わらせてラムセスへと見せた。

 

「こんな感じだけど……本当に良いのよ?」

「……ん、覚えた。これでどう?」

 

 そう言って白紙にラムセスが文字を書き綴れば、そこにはヒナの書く字体瓜二つのものが描かれていた。

 そこまでの再現性を期待してなかったのか、文字を見た際には驚きの余り、僅かながらヒナの動きが静止する。

 

「……ヒナ感心。これなら問題無さそうね」

「そうそう、バレなきゃ良いんですよ」

「……じゃあお願い出来るかしら?」

「後で頼みを聞いて下さいね」

「仕方ないわね」

「悪魔の実──」

「駄目よ」

 

 そう言って二人で書類の処理を淡々と終わらせていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、なんで手伝おうと思ったの?」

「だって暇とは言え、ずっと俺に構ってるせいで仕事が溜まってたんだよね。流石に申し訳無いって言うか」

「……馬鹿ね。こう言うのは大人に任せておくものよ」

「でもこの筆跡をマスターしたら悪い事に使えそうだし」

「おい」

「この書類も熟読すれば意外と悪さが出来そうで」

「止めなさい」

 

 

 

 

 

 

 

「……仕事が早いわね。私と変わらないじゃない。やっぱり海軍に入らないかしら?」

「え、ヒナさんがアラバスタに!?」

「逆よ」

「でも俺はビビの従者だから無理かな」

「そ。ヒナ残念」

「それは海軍として? ヒナさん個人として?」

「どっちもよ」

「あ、これ間違ってますよ」

「……不覚ね。ヒナ不覚」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日かかる筈だった書類整理も二人がかりとなれば半日程度で完了する。多少の雑談はあれど集中して作業をし続ければ、相応の疲労は蓄積されていた。

 ゴキッと首を鳴らしたヒナが無意識に一服しようと煙草を取りだして咥えた──が、火を付けない。

 

「吸っても良いですよ」

「禁煙中なのよ。ヒナ禁煙」

「スモおじさんと同じくらい吸ってそうなのに」

「……スモーカー君と一緒にしないで頂戴」

「同期なのに?」

「同期関係ないでしょ?」

 

 あんな四六時中葉巻を咥えてる男と一緒にされるのは癪だったのだろう──若干の苛立ちを露わにしながら否定するヒナ。だが過剰な反応は何処か意識してる証左なのだろう。

 

「そう言えばあれからスモーカーさん来ませんね」

「そうね。外には出てるみたいだけど……ラムセスに負けてから体力作りと能力の鍛錬をしてるらしいわ」

「見に行っても?」

「止めてあげなさい。結構傷付いたらしいから」

「だから行きたかったのに」

「だから止めたのよ」

 

 ふとスモーカーの事が気になって問い掛けたラムセス。ヒナは意外にもスモーカーの行動を把握しており、その事実をラムセスへと伝えた。

 逆にそこまで詳しいのも怪しいと思い、思わずラムセスは口にしてしまう。

 

「ヒナさんってスモーカーさんと付き合い長いんですか?」

「……そうね、なんだかんだ入隊当時からずっと続いてる腐れ縁よ」

「て事はもしかして?」

「何よ?」

「男女の関係──」

「は?」

 

 だがその関係を探ろうとものならば、返ってきたのは酷く冷たい視線と言葉である。

 

「ひえっ」

「何だって?」

「……ち、ちょっとトイレに行ってきますね」

「待ちなさ──」

 

 そんな空気に耐えられる筈も無く、ヒナの静止の言葉を振り切ったラムセスは剃を多用して逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「──みたいな事がありまして」

「だからって俺の所に来るのはおかしいだろうが。話の流れで行くなってなってんだろ」

 

 そんなこんなでラムセスが逃亡した先はトイレでは無く──幾つかの船を越えた先に停泊していた、スモーカーの軍船であった。

 

 位置を知らないラムセスがここまで真っ直ぐ向かうのは難しかったものの、ふと出会った眼鏡を掛けた海軍のお姉さん。全力で愛想の良い顔を浮かべてスモーカーの知人を装えば、その女性の案内で簡単に連れてきて貰えたのだ。

 

「……あのトロ女が」

「酷い言い草ですね。ヒナさんに言いますよ?」

「そっちじゃねえ! たしぎだ!」

「……ヒナさんの下着?」

「た、し、ぎ、だっ!」

 

 スモーカーの煙に体を巻かれて身動きの取れないラムセスであるも、ニコニコとした笑みは崩す事は無かった。

 

「それで、ヒナさんと男女の関係は?」

「あるわけねェだろ。そんな事を聞く為にわざわざ来たのか?」

「知りたい事を知る性分なので仕方がないんですよね」

「……なんで俺がこんな奴に」

 

 極めて下らない理由で自分の元に来た少年に溜息を零すも、稽古を付けると言って負けた事実。スモーカーにとっては収まらない苛立ちとなっていた。

 それは自分自身の不甲斐なさと言う形で。

 

「ヒナさん美人なのに放置してて良いんですか?」

「知るかよ。貰い手なら幾らでもいるだろ」

「居ないからあの歳で男気が──ねえ、電伝虫向けないで下さい」

「……冗談だ。だったらお前が貰ってやれよ」

「それもちょっと……」

「じゃあお前が首を突っ込むんじゃねェ」

 

 全くもってその通り。返す言葉が無いラムセスである。

 

「用が済んだならとっとと帰れよ」

「──スモーカーさん。お茶を持ってきました!」

「あ、ありがとう。お姉さん」

「お茶なんて持ってきてんじゃねえよ! お前も受け取るな!」

「いえいえ、お気遣い無く」

「使い方違ェよ!」

 

 いつの間にか煙から抜け出していたラムセスが、部屋に入ってきた女性──たしぎから湯呑みを受け取って一服し始める。

 まさか怒られるとは思ってなかったのだろう。たしぎも慌てて頭を下げて部屋から出て行くも、ラムセスは居座ったままだった。

 

「……まだ何か用があるのかよ?」

 

「ねえ、スモーカーさん。七武海ってどう思いますか?」

 

 ──空気が変わる。

 

 何事かとスモーカーが困惑したものの、それはニコニコと浮かべていたラムセスの笑みが意味深なものへと切り替わった為であった。

 その質問の意図を理解出来ずに見つめるスモーカー。だが向けられたその瞳がまるで真意を見極めるように、捉え続けている。

 

「……海軍の俺が言う台詞じゃねえが、七武海だろうが海賊はどこまで行っても海賊だ。政府に従う奴等な訳がねえ」

「流石です。スモーカーさんならそう答えてくれると思ってました。では少しだけ話をしませんか──」

 

 誰も聞く事の無い秘密。その会話は絶え間無く続き、日が暮れ、夜になっても尚、ラムセスとスモーカーの対談は止まる事は無かった。

 その終止符は、ラムセスの心配をして探しに来たヒナによって打たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 世界会議(レヴェリー)の五日目。

 結局昨日は書類仕事とスモーカーとの対談で終わってしまい、ラムセスは酷く反省していた。スモーカーとの対談は実に有意義だったものの、本来の目的である約束をまだ取り付けていないのだから。

 

「まさかスモーカー君から、ラムセスを手放すな。アイツを中心にアラバスタが変わるかもしれん──なんて言われるなんて。随分と気に入られたのね。……一体何を話してきたの?」

「えーっと……確かトロ女とヒナさんの下着は使い方が違うとかなんとか言ってましたよ」

「最ッ低ね」

「突然言い出すから俺もビックリしました。スモーカーさんってむっつりなのかもしれませんね」

 

 取り敢えず誤魔化す為にも本当にあった事を節々のみ適当に伝えるラムセス。流石に下着云々言われては根掘り葉掘り聞きたくないのだろう。ヒナはドン引きして不愉快な顔を見せた。ある意味話題から遠ざける事には成功する。

 その後の被害は考えるまでも無いが。

 

「そう言えばヒナさん。昨日の約束なんですけど」

「悪魔の実は駄目よ?」

「それも欲しいんですが。……七武海の一人、クロコダイルの海軍に於ける評価とその功績。──例えば何年にどんな海賊を捕らえたとか情報があれば欲しいです。出来れば過去二十年程の」

「……流石にその量は準備出来ないわよ、ヒナ無理」

「でもヒナさん優しいから」

「しないわよ」

「ヒナさん美人で優しくてかっこいいから」

「……明日の夜まで待ちなさい」

 

 なんだかんだ言いつつしっかりと準備してくれる辺り、やはり真面目で律儀な性格が義理に反したく無いのだろう。仕方ないと言わんばかりの嘆息をしながら部下へと指示を出していた。

 

「……それで、クロコダイルについて調べてどうするの? ヒナ困惑」

「うーん、多分十年もしない内に分かると思いますよ。勘ですけど」

「勘なんて当てにならないわよ」

「あははは、じゃあ当てたらお手伝いお願いしますね」

「一体何をやらされるのよ……」

「大丈夫大丈夫。ヒナさんにとっても大事な事だから」

 

 そんな軽い口約束をしながら、クロコダイルの話題は軽く流して有耶無耶にする。

 

 ──そんな時であった。

 

 ふとドタドタと子供が走るような音が響き渡る。何事かとヒナが動きを止めていたものの、その音はラムセスにとって馴染みのあるものだった。

 

 バタンと大きな音を立てて扉から入って来たのはラムセスの予想通りであるビビ。まだ世界会議(レヴェリー)の最中である今日。居る筈も無い来客である。

 

 ビビは一目散にラムセスの元へと駆け抜ければその勢いのまま抱き着いた。身長差がある為か顔を胸元へと埋めて形となっており、その表情は見えない。

 

「あら、お熱いわね。でも……どうしたの?」

 

 その質問にビビが答える事は無い。ただ静かにずっと引っ付いたまま沈黙している。

 余りにも不可解な状況に口を開こうとしたヒナがラムセスの顔をちらりと見た時──その表情に驚愕した。

 

 憤怒、悲哀、疑念──入り乱れた負の感情を隠そうともしない顔を浮かべていたのだから。

 この五日間見た事の無い表情。と言うよりもヒナにとってラムセスとは、余裕のある笑みか真剣な表情くらいしか見せない少年だったのだから無理も無い。

 

 そしてラムセスには全てが視えていた。駆け寄ってくるビビの赤く腫れた瞼と瞳。そしてほんの──言われても気付かない程度に掌の後が残る頬。

 

「……ラムセ──」

「イガラムさん。誰ですか?」

 

 ヒナが声を掛けるよりも早く、扉の前で立ち尽くしていた保護者たるイガラムへと声を掛けるラムセス。いつもの余裕など無い声色。ただただ無機質な瞳がイガラムを捉えていた。

 

「……ラムセスよ。お前が知って──」

「誰かと聞いてるんです。答えて下さい」

「……ドラム王国のワポル国王だ」

「……一体何なのよ?」

 

 まるで理解出来ないヒナを置いてけぼりのまま、ラムセスは言葉を失う。正確には喋る事を止める程に脳をフル活用していた為であった。

 ドラム王国と言う国、位置、土地柄、国土、兵士──様々な情報が頭の中を飛び交うもまだ幼いラムセスには出来る事は一つも無い。

 

 余りにも歯痒い──そんな思いを胸に抱きながらもビビを抱きしめ返せば、ポツリと少女が口を開いた。

 

「……あのね、ラムセスに言われた通りにね。色んなお姫様と仲良くしてきたの。毎日沢山お話してね、友達も出来て……」

「もう良い。もう良いんだよ、ビビ」

「ラムセスに会えないのは寂しかったけど、でも頑張ったんだよ? ……そしたらそのワポルって人に突然殴られて。……お父さんの事をダメ国王だなんて、言うの……!」

「……なんて事なの……!?」

 

 悔しい感情を隠しきれないまま、ビビは涙を流して小さく語る。そこに来て漸く事の顛末を理解したヒナは驚愕の表情を見せていた。

 国王と姫。王族とは国の象徴そのもの。つまりそれは国と国が対峙する事を示している。戦争の切っ掛けとしては余りに十分過ぎる出来事。

 

 海軍としてもそんな些細な火種で戦火を生み出すなど見過ごせる筈は無い。

 

「……でも私は耐えたんだよ。自分から謝って。凄いでしょ?」

「うん、そうだね」

「……でもね、あの時ラムセスがいたらって思っちゃって。……それでね、その……」

 

 だが戦争の火種は燃え盛る事無く消え去った。小さき姫君の勇気ある行動に。

 だがそれでもビビは言葉に詰まっていた。恐らく、彼女の悲哀とはその先にこそ原因があったのだ。

 

「……ずっと考えてたら、なんでラムセスが居ないのって思っちゃって。……ふと考えた時にラムセスの、せいにしちゃったの……! ごめんね、お互い頑張ろうって言ったのに……!」

「…………」

「ラ、ラムセスは悪くないのに、わ、私は……! ラムセスがいないせいだなんて……!」

 

 全てを語り終えた心優しい王女は声を上げて泣き出す。イガラムもヒナもラムセスも掛ける言葉が見つからなかった。根本にはワポルに原因があろうとも、その言葉を投げ掛けた事でビビの自責の念が晴れない。

 

 例えどんな状況であったとしても、自身を一番に思ってくれる存在のせいにしてしまった事を嘆いているのだから。

 

「……ヒナさん」

「何?」

「ドラム王国についても情報を貰って良い?」

「……悪い事には使わないって約束出来る?」

「うん、大丈夫」

「約束よ、ヒナ約束」

 

 互いを思い互いの為に行動する──そんなビビとラムセスの絆を、何処か眩しそうにヒナは見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして波乱万丈な世界会議(レヴェリー)は幕を閉じる。疲れ果てたコブラ王を労りながらも、ヒナ率いる海軍によってネフェルタリ家一行はアラバスタへの帰路を辿っていた。

 

 そして海上での二人はと言うと。

 

「王女様の言う事はー?」

「ぜったーい!」

「王女様の耳はー?」

「ヒナのみみー!」

「ちょっと、二日前の私の心配返してくれる?」

 

 騒がしいほどに声を上げて騒いでいた。そんな姿は流石に予測できなかったのだろう。妙に疲れた様子でヒナは言葉を漏らす。

 

「この一週間随分とご迷惑を掛けたようで」

「気にしないで良いわ。この一週間が有意義だったのは私も一緒だもの」

「ほう、ラムセスが何か?」

「それはもう色々と。とんでもない子だわ」

 

 イガラムと社交辞令の会話を交わしつつ、ヒナは再びラムセスとビビへと視線を移した。

 

「そうだ、この前ヒナさんと遊んだやつを試そうよ」

「どんな遊びなの?」

「まずビビが俺の胸元を、さわさわーって撫で──」

「止めなさい!」

「痛っ!」

 

 要領良く説明をしようとしたラムセスの頭頂部へと即座にヒナの拳が振り下ろされた。

 最早手加減などする関係でも無かったのだろう。純粋に痛そうな表情を浮かべてラムセスは蹲っている。

 

「ちょっと、何するの!?」

 

 そんなラムセスを大事そうに抱えるのはビビ。本来なら守るべき姫が従者である男を守るのは珍妙な光景であった。

 そんな関係だからこそラムセスも本気でビビの為に行動するのだろう──そうヒナは瞬時に理解する。

 

「ビビ王女」

「……何よ?」

「ラムセスをちゃんと捕まえてなさいよ。皆欲しがってるようだから」

「誰にもあげないわよ!」

「……一家に一台ラムセスくんだからね。ヒナ人気」

「ヒナは私よ」

 

 そう言ったヒナの口元には笑みが浮かんでいたのだった。

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