砂漠の従者   作:ひみつ

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Q.何故ロビンちゃんの出番が多いんですか?

A.作者がビビの次に好きだからです。(真顔)





利害と協力

 

 これは深々と更けていった夜の出来事。

 砂漠の夜は凍てつくような風が吹いており、昼間とは正反対の凍えるような寒さだった。

 そんなアラバスタの港町、ナノハナ。その一角に建つ豪華絢爛とは言えない、何処にでもあるような宿。観光客が宿泊する為だけの場所にラムセスとロビンはいた。

 

 元々予約をしていなかったせいもあり、ダブルベッドの部屋しか空きが無かったものの、ラムセスは淡々と手続きを済ませて鍵を受け取る。

 

 面識は無いに等しい二人が肩を並べて廊下を歩く。なんとも言えない緊張感をロビンは見せていたものの、ラムセスは相も変わらずと言った様子であった。

 早々に部屋に辿り着くも、話し合う前に汗の滲んだ肌と纏わり付く砂を落としたいと言う事で、先にラムセスがシャワーを浴び、次いでロビンも身体を洗い流す事となる。

 

「……どうしてこうなったの?」

 

 そして今、ロビンは暖かいシャワーを全身に浴びながら、一人思案していた。一体どこで選択肢を間違えてしまったのか、と。

 だがその呟きに答える声は無い。一糸纏わぬ姿に晒すこの密室の空間。水の音が響き渡るばかりで周りの音すら遮断している──の筈だった。

 

「そりゃあお姉さんがホイホイついてくるから……」

「……聞き耳立てないで貰えるかしら?」

「え、中に入って聞けって事なの?」

「違うわよ」

「お邪魔しま──」

「止めなさい!」

 

 振り返って人影が見えた瞬間、バタンと大きな音を立てて、ハナハナの実の能力で生えた腕で外への扉を押さえる。元々開けるつもりも無かったラムセスであるも、小さく不満げな声を上げて遠くへ離れて行った。

 

「……まるで娼婦の気分ね」

 

 名前も身元も分からない詳細不詳の男と一夜を共に過ごす。能力を用いた暗殺や強盗──闇に身を落として何でもして来たロビンであっても、それは不思議な感覚であった。

 

 

 

 

 

 

 濡れた髪をタオルで包み、真っ白なガウンを身に纏う。艶やかさを仄かに漂わせながら、ロビンは浴室から出てきた。

 そんな彼女の視界に最初に映ったのは、三つ指をついて正座していたラムセスの姿だった。

 

「……なんの真似?」

「不束者ですが宜しくお願いします」

「…………」

「初めてだから……優しくしてね?」

「それは私が言う台詞よ」

「じゃあ代わりますか」

「結構よ」

「代わりましょう」

「嫌よ」

 

 冷たくあしらっても決して折れない鋼の精神を持つラムセスであるも、諦めた様子で窓際へと立って凭れ掛かる。

 取り敢えず立ったままでいるのも可笑しいと判断したロビンはベッドの端に腰掛けて足を組んだ。

 すると長く伸びた脚を伝うように、ちらりとガウンの裾が崩れる。冷静を装いながら元に戻してコホンと咳払いをし、ロビンは早急に話を切り出した。

 

「それで、私を納得させられる程の口説き文句はあるのかしら?」

「俺となら命が助かる、じゃ駄目ですか?」

「……私は歴史の本文(ポーネグリフ)が読めると言うのなら命だって賭ける覚悟はある。……クロコダイルが危険人物なのを理解してても、目的は合致してる以上、あの絶大な力で私の目標は達成されるのよ。それを超える魅力が今の貴方からは感じられない」

「成程、命が惜しくないと。……うーん、ちょっと待って下さいね」

 

 ──トントントン。

 

 指先が窓の縁を高速で叩きながら、ラムセスは夜空を見上げた。輝く星屑が闇を彩る世界。広大な世界にある無限の可能性を探るようにして、星々を見つめ続けている。

 

「……使うか? いや……い。……組織? ヒナさ……かないな……」

 

 ブツブツと呟きながらも、ラムセスの視線は空を直視したまま揺らがなかった。その思考は考古学者であるロビンでさえ計り知れないだろう。

 

 ロビンに期待するのはただ一つ。会話で見えた鬼才の片鱗が、クロコダイルを上回る策を出せるかどうか。それだけ。

 

 数分後。最後にトン、と叩いて視線を下ろしたラムセス。一度目を閉じて思惟した後、煌びやかに光る琥珀の瞳がロビンを貫いた。

 

「ではこうしましょう。お姉さんはクロコダイルを裏切る必要はありません。いつもと変わらずに仕事して貰えばそれで良いです」

「……それで貴方になんの得があるのかしら?」

「ただ一つだけ。クロコダイルが俺の存在を疑った際に、危険は無い──そう、気が付かない振りをして貰えれば」

「……へえ、それだけでいいの?」

「はい。勿論、お姉さんに危険が迫るようなら何時でも裏切って貰って構いません。でも気が付かない振りさえして貰えれば、歴史の本文(ポーネグリフ)へ案内します」

「へえ、貴方とクロコダイル、どっちに転んでも歴史の本文(ポーネグリフ)へと辿り着けると。随分と魅力的な提案ね」

 

 クロコダイルが失敗する──あの男に限ってそんな事は無いとロビンは思うものの、万が一と言う可能性は否めない。目の前にいる少年ですら気が付いているとなれば、疑っている人物も間違い無くいる筈なのだから。

 その際の保険としての提案。更には何時でもキャンセル可能な上、危険性の極めて低い簡単な仕事。本当に案内してくれるかどうかは定かでは無いが──それでも尚、ロビンの心を擽るには十分だった。

 

「このまま予定通りに事が回るのであれば……そう遠くない未来、またお姉さんに会うと思います。その時に俺の頭脳がクロコダイルの知略を上回ると思うのであれば、もう少し力を貸して貰えたら嬉しいですけどね」

「……ふふ、分かったわ。じゃあ見せてもらうわよ」

「……脱げ、と?」

「それは見せなくていいわ」

「脱がなくて良い、と?」

「それを聞き直す必要は無いわよね?」

 

 この男がどこまでの未来を見通して話しているかなど、ロビンには微塵も理解は出来ない。だがクロコダイルを前にした後でもこの揺らがない自信。未来視のような瞳で見た世界から論理的に道を作り出す知能。

 ほんの僅かでも可能性があるならば──と期待させられてしまう。

 

「では協力者としてお願いしますね」

「ええ。仮、だけれど」

 

 そう言ってラムセスがロビンの元へと近付いて、右手を差し出した。即ち、友好を示す為の握手を求めての行動である。

 対するロビンも呼応するようにと右手を差し出しながらも脚を組み替えた。

 

 するとどうだろうか。ラムセスの視線が妙に下へ下がっている。その視線の先をロビンが辿れば──少しガウンの裾がズレた自身の脚だった。

 

「見えそう」

「…………」

「ああ! また目の前で脚を組み替えないで! 思春期には刺激的過ぎる!」

「ガン見しながら言う台詞? ……貴方って頭が良いのか馬鹿なのかどっちなの?」

「そう思わせるのも作戦の内なんですよ」

「つまり馬鹿なのね」

「うーん、辛辣」

 

 その答えはラムセス以外に分かる者は居ないだろう。

 互いに手を取って握り返す。運命共同体──とは大袈裟なものの、お互いに誰にも話す訳にはいかない秘密の関係。

 

「……それで結局、貴方は何者なの?」

「俺はラーメン。麺類さ……」

「…………」

「ま、俺の口から語らずともいずれ分かりますよ。楽しみにしてて下さい」

 

 ケラケラと笑いながら、軽薄な態度はいつまでも消える事は無い。──その筈だった。

 

「なら、どうしてクロコダイルを倒そうと?」

 

 その言葉を皮切りにピタリとラムセスの笑みが静止する。

 

 重く息苦しい空気に入れ替わったのかと思う程の重圧。それが目の前の少年から放たれているのは目で見ずとも分かった。

 口を開くのも躊躇う空間の中で、少年は感情を殺した声で小さく呟く。

 

「この国に──王女に危害を加える奴は許せないので」

 

 それは強い、狂気にも似た憤怒であった。顔を歪ませており、握手したままの手が痛い程に握り締められている。

 それが彼にとって逆鱗なのだと否応にもロビンは理解出来る。──自身に於けるオハラを穢す行為であるように。

 

「なんて、冗談ですけど」

「……悪い人じゃないのは理解したわ」

「良かったらもう一回足を組み替えませんか?」

「良い人でも無さそうね」

「見たい訳じゃないんです。見えそうなのが良いんです」

「……それは理解し難いわ」

 

 そんな空気も瞬時に霧散する事となる。どこまでが本気なのか理解出来ない言葉を並べつつも、その怒りだけは本物──それは今のロビンでも理解出来た唯一だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──え、帰らないんですか?」

「こんな寒い中帰れって言うの? 酷い男ね」

「俺には心に決めた人がいるんですよ」

「散々セクハラした人の言葉?」

「返す言葉が無い。くそ、クロコダイルの策略か……」

「全て貴方の責任よ」

 

 そのままお互いに質問を重ねていけば、何時間にも渡って話し込んでいた。既に日も跨いでおり、窓の外も灯りが消えて暗闇が広がっている。

 だとしても、まだ心許せる相手とは言えないロビンが此処に残るのは、ラムセスとしても予想外だったようだった。

 

「でもお互い信用ならない利害関係ですよ?」

「そうね。でも信頼と言う意味ならクロコダイルよりはマシよ」

「まさかの好感度最高とは……」

「強いて言うなら下の下ね」

「後は上がっていくだけか……頂点を掴むしかねえな……」

「……ポジティブ過ぎるわ」

 

 座っていた体勢のまま、ロビンはベッドへと倒れ込む。ぼふんと小さな音を立ててその身が沈み込むのを、ラムセスは見つめていた。

 

「ふふ、こうして意味の無い会話をするのなんて、十年以上無かったからつい楽しくて。……迷惑掛けたなら帰るわ」

「……ま、一人ぼっちになる気持ちは分かるから良いけど」

「今夜は寝かさねえぜ? だったわよね」

「……じゃあ仕方ないですね」

 

 諦めたように呟いたラムセスも同じようにしてベッドに腰掛け、その身を布団の上へと倒す。見上げた天井をふと見つめてポツリと呟いた。

 

「天井のシミを数えてる間に終わらせてね」

「何もしないわよ」

 

 その言葉に大した意味は無い。

 

「私が本当に世界を滅ぼす古代兵器を呼び起こそうとしていたら──その時はどうするのかしら?」

「んー、どうでも良いですね。目的はアラバスタに害を成す者を滅ぼす事だから。そう言う大事は政府や海軍が対応すれば良いかなって」

「……意外。世界を滅ぼすって言うのに割り切るのね」

「何でもかんでも一人で守ろうとすると綻びが出ますから。役割分担ですよ。皆の為にボケを担当するように」

「私は頼んでないわ」

 

 飽くまで手の届く範囲だけを守る──それがラムセスにとってアラバスタ王国だったと言うだけの事。その才が無ければアルバーナ宮殿、そしてビビへと対象が縮まっていくだけの話なのだ。

 

「貴方、旅人名乗ってるけど絶対アラバスタの人間よね?」

「……まさか心を?」

「見ていれば分かる事じゃない」

「余り見つめられると恥ずかしい……」

「脚を凝視してた貴方が言えるのかしら……」

 

 時折確信を突く癖に何処までも巫山戯た態度を崩さないラムセスに、ロビンは少しばかり嘆息する。

 

「そう言うお姉さんはオハラ出身なんですよね?」

「……そうよ」

「やっぱり触れられたくないんですか?」

「滅びた故郷について触れられたい人がいると思う?」

「でも聞いちゃうけど。なんで世界の禁忌を侵してまで歴史の本文(ポーネグリフ)の解読をオハラはしてたんですか?」

 

 ──答えられなかった。

 そんな事を考えた事も無い。オハラの生き残りとして歴史の本文(ポーネグリフ)の解読をするのが使命だと思っている、ただそれだけ。

 そしてまだ幼かった当時のロビンに、考古学者の目的など分かる筈も無い。

 

 強いて考えられるのは知的好奇心。考古学者としての矜恃が命を賭けても尚、知ろうとした結果。その結果で無関係な市民を巻き込んで島が消え去った──それだけ。

 

 そんな思考に感情を乱されているロビン。いつの間にか横顔を見ていたラムセスは、慌てた様子で言葉を紡いだ。

 

「あぁ、ごめんなさい。深い意味は無いので。知的好奇心は俺も強いし、十分理解は出来ます。でも命を賭けて臨むのはどう言う心境なんだろうって」

「……最初は些細な好奇心からかもね。それが抜け出せない深みとなって何時しか一線を越えてしまう。戦争も破滅も、始まりが些細な事なんて幾らでもあるもの」

「……成程、そうかもしれませんね」

 

 世界と、そして多くの所属した組織が滅んできた過去を思い出し、世界が如何に不安定な上で成り立っているのか、ロビンはよく理解している。

 理不尽極まりない。歴史の本文(ポーネグリフ)の解読から始まった自業自得とは言え、オハラそのものを消し去る世界政府のやり方を目の当たりにしてるのだから。

 ──だとしても、ロビンのすべき事は変わらない。

 

「私はオハラの生き残りとして──世界に点在する歴史の本文(ポーネグリフ)を解読する。喩えどんな手を使ってもね」

「……成程。やっぱり(・・・・)お姉さんって根は悪い人じゃなさそうですね」

「あら、そんな事は無いわよ」

 

 何とも裏のありそうな笑みを浮かべたロビンに対し、ラムセスは質問を投げかけた。

 

「特技は?」

「暗殺」

「気づかずに殺してくれるなんて優しい……」

「頭は大丈夫なのかしら?」

「頭の心配までしてくれるなんて!」

「もうそういう事で良いわよ」

「なんでも許してくれるなんてロビンちゃん優しい! なんて心が広くて素敵なんだ!」

「言い過ぎよ! やっぱり否定させて!」

 

 そして同時にロビンも理解する。真横にいるこの少年はニコ・ロビンと言う本質を見極めていたのだろうと。

 オハラの生き残りである悪魔の子や賞金首としてのニコ・ロビンにはまるで興味の示さない。極めて稀有な存在。

 真っ当な人として生きるのを諦めていたロビン。久しく感じられなかった平穏だからこそ、この空気に嫌悪感を抱かなかったのだろう。

 

「ねえ質問なのだけど」

「はいどうぞ」

「徹底して敵視するクロコダイルと私は何が違うのかしら?」

「どんな情報でも最終的に判断するのは、この瞳で見た時なので。嬉々として国を崩壊させようとするクロコダイルに対して、お姉さんは今を必死にもがいてるのが分かるから」

「……ふふふ、余裕のある女を見せてるつもりなんだけれど」

「うーん、俺も最初はそう思ったから問答無用で利用する気満々だったんですよ。でも良く見るとプルプル震えた子犬みたいなので」

「こ、子犬は言い過ぎじゃないかしら……」

 

 情報を元に為人(ひととなり)を考察するラムセスであるも、最終的な判断は第三者の言葉以上にその目で見た事実なのだと語る。

 とは言え子犬と例えられたのは不満だったのだろう。少しばかり困惑するロビンの姿が窺えた。

 

「……でもそうね。貴方の事、少しは気に入ったわ」

「ついに好感度天元突破か……長かったな……」

「下の中よ」

「なら一週間後には上の上では?」

「毎晩顔を合わせろと……?」

 

 何もかもが馬鹿馬鹿しい──今夜ばかりはそんな風にさえも思ってしまう。

 

「そう言えばクロコダイルは放置してて良いんですか? レインベースに戻らないといけないとかありそうなものですけど」

「今更心配するの? あの男は私の能力以外に興味が無いわ。必要あれば呼び出すだけの関係よ」

「……へえ」

「意味深に呟かないで貰える?」

「そりゃあ意味がありますから、ね!」

 

 語尾を上げると共にラムセスの身体が跳ねて飛び起き、床へと立ち上がった。それと同時にロビンも上体を起こせば──ラムセスの視線が下を向いていた。

 

「見えそう」

「……言っておくけど、使えないようなら即座に関係を切るわよ。飽くまで目的は歴史の本文(ポーネグリフ)。それを忘れないで」

「でも見えそうだし」

「関係ないでしょ!?」

「思春期男子を弄んでる癖に!」

「普段からしてるみたいな言い方は止めなさい!」

 

 ほんのりと頬を赤く染めながら、乱れたガウンの裾を直したロビンが抗議の視線を向ける。緊張感の無いラムセスの雰囲気は変わらず、ケラケラと笑いながら声を出した。

 

「安心して下さい。凡そ俺の予定通りには行くと思いますので。お姉さんも乞うご期待ですよ」

「……ねえ、そのお姉さんと敬語を止めない?」

「……お姉ちゃん派でしたか。ごめんなさい。では今後はそのようなプレイで──」

「そうじゃなくて。協力者なんだから対等であるべきじゃない? そもそも貴方の性格で敬語なのも違和感あるわ」

「……仕方ないなぁ、ロビンちゃんは」

「え、ちゃん付け?」

 

 年下にちゃん付けされるのは少しばかり抵抗があったものの、言っても聞かなさそうな少年に諦めた様子でロビンは受け入れる。

 

「……まぁ良いわ。それで貴方の名前は?」

「ラ……」

「ラーメンはもうお腹いっぱいよ」

「…………」

「…………」

「ロビンちゃん、眠くなってきたよ」

「露骨に話を逸らさないでくれる?」

 

 結局、二人は朝まで喋り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 早朝。早々にチェックアウトを終え、まだ肌寒い風が吹き抜ける大地へに立つラムセスとニコ・ロビン。

 

「昨晩はお楽しみでしたね」

「ある意味ね……」

「まさかあんな……」

「どの事よ」

 

 二人はポツポツと喋りながらも差し込みつつある太陽の光を浴びて目を細めていた。眠気で頭が回らない中でもそれぞれには為すべき事がある──そう言わんとばかりに歩き出した。

 

「……移動手段は?」

「あるから大丈夫よ。貴方はどうなの?」

「……あ。オアシスに置いたままだった」

「……死んでるんじゃないかしら?」

「賢い子だから大丈夫。うん、きっと。たぶん」

「食べられてないと良いけど」

「治安悪すぎでは?」

 

 完全に思考から抜け落ちていたのだろう。少しばかり慌てた様子を見せるラムセス。そんな彼が珍しくて面白かったのか、ロビンはクスリと笑を零した。

 他に寄り道もせずに淡々と街の外れまで歩いて行けば、そこには巨大な水陸両用ガメ──バンクが待機している。

 それはロビンがレインベースからナノハナに来る為に利用した移動手段であった。

 

「じゃあ行くわね」

「行ってらー」

「…………」

「何?」

「こうして見てたらただの少年なのに不思議って思っただけよ」

「天才は人に理解されないものだからね」

「……また会えるのを楽しみにしてるわ」

「ん、その時はよろー」

 

 最後まで緩い態度を崩す事は無かったラムセスは、ヒラヒラと手を振りながらロビンを見送る。

 無駄に過ごした二年を取り返す所か、最善手とも言える協力者を手に入れた結果にラムセスは思わずガッツポーズを決めていた。

 とは言え大事なのはこれから。自身の歩むべき道を確固たるものとする為、多くの段取りをしていかねば、直ぐにでも関係を絶たれてしまうだろう。

 

 悩み、俯きながら踵を返してラムセスは歩く。牛歩のような速度で数歩を歩けば、通行人とぶつかってしまい反射的に謝った。

 

「あぁ、ごめんなさい」

 

 女性特有の柔らかい感触。若干の煙草の匂いが気になったものの、不快な匂いでは無かった。

 目を合わせようと顔を動かした瞬間──その相手から強く抱き締められる。

 

「……え、えーっと……」

 

 困惑を隠しきれないラムセスが声を漏らすも、相手はその力を一層込めただけ。そんな長年会えなかった恋人がするような抱擁を受ける相手などいる筈も無い。まるで状況が分からなかった。

 

 だが次いで聞こえてくるその声が、誰による行為なのか瞬時に理解出来てしまった。

 

禁縛(ロック)

「……あ」

 

 声を漏らしたが時すでに遅し。目にも止まらない速さで、ラムセスの身体は鉄錠で雁字搦めとされてしまっており、芋虫のような動きでしか身動きが出来ない状態へとなってしまっていた。

 

 そこまで来ればもう顔を見なくても分かってしまう。

 

「ヒ、ヒナさん。お久しぶりですね」

 

 動揺と眠気で回らない思考。それでも尚、ラムセスが第一に気にするのは、ヒナにニコ・ロビンと言う存在がバレたかどうかだけであった。

 

 ちらりとヒナの顔を窺えば、端正な顔がピクピクと歪んで震えている。まさに怒り心頭と称するに相応しい姿。何処かの煙男が見れば鬼と言うだろう。

 

「久しぶりね、ラムセス。昨晩は帰ってこないからどうしたのかしらと心配してたのよ……まさか女遊びに出てたなんてね」

 

 ──良かった、女がニコ・ロビンだとはバレてはいないようだ。

 

 そうとなれば、後はラムセスが覚悟を決めるだけである。

 

「だってヒナさんが相手してくれないので」

 

 自暴自棄の滅茶苦茶な理論であった。

 

「……分かったわ。じゃあ今から相手してあげるわね」

「……あ、いや、やっぱ大丈夫──」

「出航までに時間はあるから。訓練場(・・・)で楽しみましょう。ヒナ戦闘」

「あ、そんな、拘束したままだなんて──せめて、せめてカルーだけでも!」

 

 お姫様抱っこで運ばれるラムセスを海兵達は大人しく見守るしか無い。

 敬礼してるだけで助けもしない非情な海兵を恨みながら、ラムセスは数時間後、ボロボロになって開放されたのだった。

 






あれ……ビビは……?
と言う事で次はビビがメインです。

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