ニャルラトホテプの信者になりたいなぁと思って書きました

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クトゥルフ神話の知識はTRPGで得たものしか無く、捏造設定も多いです
主人公は女とも男とも学生とも社会人とも解釈出来るようにしているのでお好きな性別、年齢を当て嵌めて下さい


ニャルラトホテプの夢小説

睡眠という行為は安心出来る、見慣れた天井を見ながら、見慣れたベッドの上で、見慣れた毛布を被り目を閉じる。やがて目が覚めて緩慢に目を擦れば見慣れた天井が目に入る、朝の寒気を肌に感じながら見慣れた毛布を剥ぎ、錆びた機械のような体を無理矢理動かして見慣れたベッドから立ち上がる──そういう行為だ、そういう行為の筈だ、そういう行為でなければならないんだ。

しかしながら私が目を開けたのはベッドの上ではなく、体に乗せていた筈の毛布も無く、視界に飛び込んで来たのは知らない天井なんて生易しい物ではなくて、天井すら無い大空だった。

「やあ」

未だに情報を処理出来ていない私の脳をショートさせようとでもしているのだろうか。そんな私の視界には見知らぬ人物が入り、鼓膜には聞き知らぬ声が届いてきた。

「あっ、どうも」

私の脳は余りの異常事態に逆に冷静になってしまったようで、非常識的な状況でなんとも常識的な対応をする。

「あの」

「ここは夢の世界だよ、私は招いた者、名前はニャルラトホテプ、人間じゃなくて神様だよ」

見知らぬ人物、もとい見知らぬ神物のニャルラトホテプは聞きたい事を答えてくれた。

「立ち話ならぬ寝転び話もなんだし、とりあえず座ってくれよ」

ニャルラトホテプ…様を付けた方が良いのだろうか。どうにも目の前の存在からは崇めて付き従いたくなるような、絶対的で圧倒的な何かが伝わってきており、神だと名乗ったのは嘘ではないのだろうと感じさせた。ニャルラトホテプ様が手を差し伸べて私の体を起こしてくれる。空を仰いでいた視界が九十度回ると、二杯のコーヒーが乗ったテーブルと二脚の椅子が目に入った。

私はニャルラトホテプ様に促されて椅子に着く、ふわりと鼻腔に侵入してくるコーヒー豆の香りがとても落ち着いた。コーヒーの湯気越しには、褐色の零れ落ちそうな程豊満な肢体、人間離れした神々しいまでに整った顔、艶やかで吸い込まれそうな漆黒の長髪が見えた。

「ここは君の為に誂えた特別スペースだよ、存分に感謝したまえ」

確かに机や椅子の装飾は私の好きなアンティーク調で、とびきり熱いコーヒーからは私好みの酸味控えめな味がした。

目の前には絶世の美女が、耳には落ち着かせるが何処か威厳のある綺麗な声が、鼻にはコーヒーと控えめ且つ高貴な香水の香りが、手には細くて滑らかな指の絡みつく感触が、舌には全てが私の好みにマッチしたコーヒーの味が、五感全てが幸福で満たされた私には、未知の場所に来た恐怖なんてものは欠片も残っていなかった。

ニャルラトホテプ様はコーヒーを一口啜り、鮮やかな紅色の唇に付いた雫を、湿り気を帯びた薄いピンクの舌で舐めとる。嗚呼、あの妖艶でどこか淫靡な雰囲気を纏っている口で全身を舐られ、咀嚼して貰い、あまつさえ嚥下までしてもらえたのなら、一体どれ程の幸福だろうか。とにかくこの目の前の存在を崇めて、拝んで、叶うのならば奉仕したい。

「それで本題なんだけれどもね」

ニャルラトホテプ様が口の端を悪戯っぽく歪ませる。歪ませても尚その顔はあまりにも整っていて、きっとこの御方をフィルムに納めたのなら、その一枚一枚がどんな名画にも勝る究極の絵になるのだろうと私は妄想する。

「君、私の信者になりなさい」

耳を疑った、私如きが、ニャルラトホテプ様の、信者に。

「なっ、なります!ならせてください!」

突如降り注いだ一生に一度の幸運を絶対離すまいと、私は放られた肉に食いつく猛獣のように身を乗り出して懇願する。

「うん、それは良かった」

ニャルラトホテプ様は椅子から立ち上がり、ゆっくりと私に近付く。出会ってから一度も瞬きをしていない眼球が、乾きを微塵も感じさせぬ瑞々しい真紅色で私をじっと捉える。宝石のような瞳等という陳腐な言葉では到底言い表せない瞳に見られ、魅入られている内に、私の右手が優しく取られる。あろう事か私の無礼な右手が、ニャルラトホテプ様の両手に包み込まれていた。私は余りの驚きに身を捩ろうとした所で、右手から悪寒が走った。

脳にひたすらに冒涜的で、身の毛のよだつ恐ろしい感覚が走る。握られた手から流れているのだとはっきり分かった。生物としての本能が警鐘を鳴らす、今私は、生物が決して触れてはいけない何か、とても強大でおぞましい何かに触れている。時間にしてみればほんの一秒程度だったのだろうが、その一秒が何十年にも感じられた。脳が叩き潰されるような余りの恐怖に、涙が出そうになっていた───のだが、途中からそれが全く苦にならなくなった。自分の中の正気が全て削れきって、混沌の底に突き落とされたような絶望が止んだ。右手から流れてくる感覚自体は変わっていないのだが、そのあまりにも強大な恐怖が、混沌の底が、ひたすらに心地よくて仕方なかった。そこからおよそ五秒程度経過した所で手が離された。

私が名残り惜しく掌を見ると、そこには幾何学的で神秘的な模様が刻まれていた。(ああ、信者になれたんだ)と、直感的に理解した。

ニャルラトホテプ様が満足気な顔を耳元に近付けてくる。

「じゃあね」

その言葉を聞いた瞬間、視界がぐにゃりと歪み、コーヒーと香水の香りが段々と遠のいていった。

 

気付けば見慣れたベッドの上だった。私は目を擦り、まだまだ惰眠を貪りたいと主張する体を無理矢理起こす。だらしのない表情をした顔に冷水を浴びせ、未だに絡みつく眠気を飛ばす為に、あまり好みではない安価なコーヒーを淹れる。

安っぽい豆の香りの中、私は掌の見慣れない模様を愛おしく見つめた。




夢小説というのはダブルミーニングです(下らない駄洒落ですが)
褐色良いですよね、エキゾチックな魅力があります
圧倒的な力を持った人外が優しく上から目線で話し掛けてくるのが好きなのですが、ちょっとリゼロのエキドナっぽくなったかもしれません

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