私とレオリオがゴールをしてから数十分、ゴンとクラピカがこちらの方に向かってくるのが見えた。二人とも無事で何より。
そのタイミングでレオリオも目を覚ましたようで何が起きたのか分からないと言った様子であった。どうやらヒソカに殴られた時のことを忘れてしまったらしい。
……私が人殺してる場面を忘れているならそれはそれで都合がいいか。
私はゴン達に内緒にしておこうとアイコンタクトを送り、二人も分かったと返す。
「それにしても何でみんな、建物の外にいるんだろう?」
「中には入れないんだよ」
「キルア‼︎」
「よ」
どうやらゴンとキルアは第一次試験の序盤で仲良くなっていたらしい。少年同士で友達になるのはいい事だ。
そうして見ていると私の方に気がついたようだ。
「へぇ、アンタも余裕そうだね」
「かはは。私がこの程度で落ちてたらヘルメスの名が泣くさね」
そう言いながら携帯を取り出し時刻を確認する。もうすぐ正午、一般人のお昼時である。
それからしばらく談笑しているとサトツが「それでは私は帰ります」と言いながら去っていく。
そして正午を迎えた時に私たちが待機していた門が開いた。
開いた先から聞こえてきたのは地響きのような大きな音。しかし地面は一切揺れていない、何かと思えばそれは門の先にいた二人の男女のどちらかの腹の音のようだった。
男の名は“ブハラ”、もう片方の女は“メンチ”と両者とも“美食ハンター”と名乗った。
記憶によれば美食ハンターは世界中の料理や食材を探求しており未知の味を求める人が多い。また料理人である人も多く、調理術も豊富であったりするらしいが……油断ならない。
冒険するためのスキル、そしてあらゆる場面で
特にメンチと言ったら美食ハンターの中でも指折りのシングルハンター。その功績は非常に素晴らしく、新種の食材の発見などで活躍している。
数ヶ月前に依頼である山に密猟しに行ったことがあるがその時の食材もメンチが第一発見者だったはずだ。
そんな二人から出されたお題は料理。二人の画題に沿った料理を作り合格を貰えば二次試験突破となる。
しかし美食ハンターを満足させる料理となるとこれまた難しいものだ。
……そこにいるヒソカは試験官に殺気飛ばすのやめてくれないかな。少しずつだけどメンチのオーラが乱れてる。
「まずはオレの課題から。課題は“豚の丸焼き”‼︎ 豚の種類は森林公園にいるやつなら自由だよ」
「それじゃ、二次試験始め‼︎」
メンチの合図と共に、私は存在を消してその場から去る。早い者勝ちの勝負なら会話する時間さえも惜しい。
そうして走っていると大きな豚が現れる。普通の豚と違って大きな鼻をした豚だ、確かこの豚の名前はグレイトスタンプ……通称“世界一獰猛な豚”。
ハンター試験に選ばれる時点でまともではないと思っていたが、やはりか。
しかしまぁ……この程度は余裕さね。
猪突猛進と私の方に突っ込んでくるグレイトスタンプを最低限で躱し、横っ腹に掌を叩きつける。そうすると豚は一瞬で意識を失う。
叩きつけた痛みのせいではない、叩かれた衝撃が全身に響いた為にコイツは倒れたのだ。私の暗殺術の一つ、その名は【伝衝】。
人体だろうと凶暴な豚だろうと身体に水分がある時点で衝撃からは逃げられない。
豚を確保した私は【裂拳】で豚の血管を裂き血抜きを行いながら用意された調理場に運ぶ。ブハラはキタキタと喜び、メンチは短時間で仕留めたことに感心しているようだった。
しかし丸焼きか、この巨体となると火を通すのに時間がかかる。それに火で炙るだけではあの食感を出すことが出来ない……どうする。
悩んでも仕方がない為、まずは焼く上で必要のない内臓を取り除く。そして塩胡椒で皮、内側の肉に味付けをしてまずはコンロにセットしてじっくりと火を通す。
その間に中華鍋を複数用意し、油を大量に熱する。これは家鴨の皮を楽しむ調理法だがパリパリの皮を食べていただきたい為。
そうこうしていると他の受験生達もグレイトスタンプを仕留めたようで次々と丸焼きを作り始めた。しかし拘りがないようで内臓を取るどころか血抜きさえしていない……私が拘りすぎなのか?
しかし先に始めた私が遅れをとるわけがない、水分が飛び少しだけ縮んだ豚を確認した私は火を完全に消してから豚に熱々に熱した油をかけて仕上げていく。
そうして私はパリパリに仕上がった豚を大皿に乗せてブハラの前に差し出す。
「私が一番手という事で、どうぞ」
「うっほぉおおお、美味そう‼︎」
「へぇ、火だけじゃなく油で焼くやり方を混ぜたのね」
「その方が楽しめるので。それではパリパリの皮と柔らかいお肉の二つをお楽しみくださ……え?」
気づいた時には、私の作った丸焼きは骨と化していた。いやいや、いくら大食いでも早すぎるでしょ。
「いやぁパリパリの皮も柔らかくてジューシーな肉も美味しかったよ、合格‼︎」
「ど、どうも」
味わっていたのだろうか、ショックを受けたが気にするのはやめておこう。
その後も丸焼きは続き、結果としてブハラは70匹の丸焼きを食べて70人に合格を与えたのであった。
ちなみにゴン達も無事に突破していたので一安心。
「ブハラの試験は甘口ね。でもアタシの試験は辛口よ‼︎ 突破した70人は次の課題を告げるわ。アタシのメニューは……“握り寿司”よ!!!」
握り寿司……か。仕事でジャポンに行ったことがあるから分かるがアレは簡単に作れるものではないぞ⁉︎
寿司といえば魚だが、それは海水魚がメイン。川魚は臭みがあるために生で食べるのは適していない。参ったなぁ。
他者に聞かれないために私はメンチの方に向かいひっそりと質問を行う。
「試験官、質問なんですがシャリと山葵はあります。山葵以外の調味料はありますか?」
「山葵と一緒に後ろの倉庫にあるわ、寿司を知っているのね。楽しみにさせてもらうわ」
「……海ってどっちに行けばあります?」
「いやいやこの森林公園の中だけだから」
無理難題が確定です。
ありがとうございました。
と、諦めるわけにはいかない。
しかしどうするか……川魚なんて出すことすら論外。そしてシャリの握りは大してやったことがないから困りものだ。
まずはネタをどうしようかと思っていたら、レオリオが突然「魚ァ⁉︎ ここは森の中だぞ⁉︎」と大声を上げた。
非常にまずい、このままでは他の面子が川魚をメンチに提出してしまう。この場合は試験官の機嫌が良いうちに突破するのが最善だというのに。
川魚ではないネタで美食ハンターを納得させる寿司……か。許すかどうかはメンチ次第だがやってみるしかない‼︎
あーあ、すっごく気分が悪い。
せっかくどんなキワモノが出てくるのか期待していればシャリの中に生きた魚を突っ込んで出してくるモノばっか‼︎
せめて食べる気にさせるものを寄越せっての、お前らはコレを食いたいと思うんのか!?って話な訳よ。
未知とはいえゲテモノ以下を出されたらさすがのアタシだって我慢できる訳ないでしょ!
せっかく寿司を理解している
そうしていると「ふっふっふ」と自信ありげにやってくる奴がいた。番号は
「どうだ、コレが寿司だろ‼︎」
「やっとそれらしい物が出てきたわね」
294番が出したのは間違いなくシャリの上に魚の切り身を乗せた寿司である。
どれどれ、どんなものかなと寿司を手に取り醤油に身をつけて口の中に放る。
…………うーん、生臭い。
それにシャリの握りがイマイチ、惜しいから合格にしてやりたいけどもう一度作ればよくなるでしょ。
なんて思っていたらこのハゲ、寿司の作り方をバラした挙句、お手軽料理だなんて抜かしやがった‼︎?
ふざけてんのかコイツ‼︎
ただでさえ
「ちょっとメンチ、来たよ。402番」
「あ゛⁉︎」
「えっと……冷めるとまずいので食べてもらえますか?」
まぁせっかく402番が持ってきてくれた寿司を悪くするわけにはいかないか。もしこれでさっきまでの魚が嘆くような奇物を出してきたらぶっ飛ばしてやる。
そう思っていたら出されたのは期待していた生寿司ではなかった。
「ふーん……魚じゃないのね」
「試験官から生寿司の指定はなかったので“肉寿司”にさせてもらいました」
確かに握り寿司の指定はしていたけどその食材は受験者の想像力を試すために指定してなかったわね。まぁいいわ。
ほほう、複数食べてもらえると思っているのね。2貫も用意しているなんて
肉からして豚肉……さっきのグレイトスタンプの肉ね。どれどれ。
食べてみると口に広がったのは岩塩の塩気と炭火の香り、程よい味と香りが口内に広がり肉汁とシャリがほろほろと崩れていく。悪くない。
脂が口の中を支配すると次の手が止まるのだけど、山葵が程よくさっぱりさせてくれているわね。適量を入れている様で感心。
「うん、もう一つもらえるかしら」
「どうぞ」
二つ目を口に入れると先程とはまた違う味わいがする。炭火の香りは変わらないがこちらは果実の汁が少し絞ってあるのと豚肉の下に山葵以外に紫蘇の葉を入れている様でこれまたさっぱりといただけた。
シャリもさっきのと比べればマシではあるし味も悪くはない。工夫も出来ているし合格にしようか……いやここまで出来るなら生寿司も期待できる。
「悪くないわ、でも保留。次は生魚を使用した寿司を作ってきなさい。あんたの分は腹を空かせておくわ」
「分かりました……」
402番は急いで会場から出て行った。やっぱり最初から生寿司は捨てていたわけね。
さーてと、さっきのハゲが漏らしたからそろそろ寿司もどきが沢山やってくるだろうけど……少しはマシなもの作っているんでしょうね‼︎
生魚まで要求されたか……正直キツイ。
不可能ではないにしても、面倒だ。
まずは川に飛び込み魚を獲るが、ここにいる淡水魚は生食に適しているものが少ない。
そんな中からまだ生食に合わせやすい種類を選定して確保した。
厨房に戻って魚を置いたら、倉庫に向かい調味料を取りに向かう。醤油などの調味料を確保して漬けダレを作る。
そして獲ってきた魚の下処理で表面を洗い、血抜きと内臓を取る。それを終えると血合いの部分を洗い水気を切りふり塩を行った。
水気を抜いたら塩を落とすために塩水で洗い戻しもう一度水気を拭き取る。臭みを取る為の下処理は大変だ。
それであっても川魚の臭みは完全に抜けていない可能性が高い、そこで漬けダレに漬け込み臭みを消す。
切り身を筋目に対して直角に切りネタを作成。先ほど作ったばかりの漬けダレに漬ける。
漬け込み時間は短すぎると臭みが残り、長すぎるとタレの味が濃いだけの切り身になってしまうので気をつけないといけない。
その間にシャリを握り、漬けた切り身を乗せて一つ食べてみる。まだ生臭い。
どうやら漬け込みが浅かったようだ、しかしもう一度同じ時間で漬けて食す。先ほどと少しだけアレンジを加えて。
そうしてみると味がマシになるが満足はできない、その為に時間ごとの味変で何十パターンを作成しその中で良かった2種類を決めた。
作った寿司を皿に入れてメンチの所に提出する。どうやら彼女もお腹が限界に近いようで最後の評価になった。
「ふーん……なるほど、漬けか」
「川魚の身は臭みがありますので」
分かっているわね。と言いたげな顔をこちらに向けてくれたので機嫌は悪くないようだ。
食べてくれた結果は何も言わずにただ頷くだけ、しかし顔には不機嫌を思わせる部分がない為少しだけ安心してしまう。
「うん。握りや切り身、臭み消しも頑張っているみたいだしあんたはギリギリの合格で良いわ。そんな訳で私は満腹だから終了〜」
…………え?
ハンター試験 第二次試験 合格者 一名
ここまで読んでいただきありがとうございます。
9話は以上までになります。
よろしければ評価やコメントをお願いします。
作者のやる気に繋がりますので……。
今回は豚の丸焼き→寿司の試験になってます。
ルメーネ自身は料理の腕はメンチ基準で中の下レベル、他はそれよりも下くらいです。
ルメーネは工夫でなんとか合格を取ることができましたが他との差は寿司を知っていた点、工夫しようと試行錯誤し作ったものを出した点です。
さすがに酢飯に生きた魚を突っ込むアレはちょっと……ですね笑
自分達でそれを食いたいと思うかどうかくらい考えた方がいいと思ってました。
【
使用者 ルメーネ(暗殺術の一つ)
・見た目はただの張り手。
・実際は叩きつけた衝撃を生物の持つ水分を伝って攻撃している。
→放出系の念を合わせる事で更なる破壊力を出せる。