ルメーネはゾルディック家の依頼二つを僅か八日で無傷のまま終わらせた。
その働きにシルバとゼノも感心、更に三件の仕事をやらせてみるとそれを僅か五日で完遂してみせる。
そのうち二件はアイジエン大陸とジャポンでの仕事、移動時間を加味しても早すぎる仕事だった。
『流石に戻っていいかな? ヘルメスが五件もタダ仕事するのは良くないんだよ』
「そうだな……良くやってくれた。帰ってきてくれ、高待遇で迎え入れる」
『かはは、それはありがたい。私も連続五件は疲れたからねゆっくりと休ませてもらうよ』
そう言い、ルメーネは電話を切る。
「あやつがここまで仕事が早いとは、良いものを掘り出したなシルバや」
「奴と初めてやり合った時から分かっていた。あの依頼は今でも割に合わない……だがキルアを預けるのには丁度いい人材を見つけたと思えば悪くなかった」
「うむ、試験中に知り合っておるからキルアも親しみやすいじゃろ」
シルバとの連絡を終えたルメーネはその翌日にはパドキア共和国に戻っていた。そこからはマイペースにご飯を食べながら夕暮れ前に試しの門までやってきた。
「お、やってるやってる」
「ルメーネ‼︎」
「随分とかかったな」
「すぐ戻るって言ってた割には十日以上経ってたから気になってたけど、無事でなによりだ」
「かはは、そう簡単にはやられないよ。一つ終わらせたら追加されて五件もやってきたのさ」
軽く笑うルメーネ。しかし五件も、という事はそれだけ殺しもやってきた事実にクラピカとレオリオは少し恐怖した。
「それだけ人を殺したの?」
「……依頼される人間にはされるだけの理由があるのさ。例え善人でもね」
「俺には分からないよ」
ゴンの問いに少し顔を歪める彼女はゴンの「分からない」に安堵していた。彼には分からなくていいから。
「ま、その話は抜きにしてどこまで開けれるようになったのか見せてよ」
話題を変えようと彼らの現状を尋ねるとレオリオが任せろと言わんばかりに扉を押す。
すると一の門がすんなりと開いた。
「え、もう開けれるようになったの⁉︎ レオリオやるね……想定外だったよ」
「レオリオさんは十日で開けれるようになったんですよ、成長が早い」
「もう少しあれば二の門もいけそうだ!」
ルメーネは素直に驚いていた。全員が三週間で一の門を開けれれば良いくらいに思っていたら既にレオリオは二の門に挑戦していたから。
そしてゴンとクラピカも完全にとはいかなくても扉を押し開いているのを見て余計な心配をしていたと反省した。
「あと少しで来れそうか、屋敷の方で待っているからね。三人ともこのまま頑張れ」
「おう!」
「任せろ」
「うん‼︎」
ルメーネはゾルディック家へ向けて進む。
道は前回ゴトーと共に行った際に覚えていたので迷う事なく、洞窟の入り口まで到着した。
「お帰りなさいませ、ヘルメス様」
「どうもゴトーさん」
「旦那様から言伝を預かっております。“数日はゾルディック家の中で待機してくれ”と」
「了解、部屋の方に行ってもいいかな」
「ご案内させていただきます」
それから数日はシルバ達に仕事の報告や食事、そして日課の鍛錬を行う日々が続く。
事が動いたのは最初にゾルディック家に入り込んだ日から二十日目であった。
その日、ルメーネはゾルディック家の地下にある広い鍛錬場にて修行していた。暴れるのはできないので瞑想と腹式呼吸をしながら【纏】と【練】をしているだけであるが。
「…………どなた?」
振り返った先にいたのはゼノ。
「お前さんが随分といいオーラを放っておったからな、来てしまったわ」
「あらら、見てても面白くないですよ」
「よく言うわ。お前さんの鍛え方を見てて思い出したわい、ラウロンのやつをな」
「師範を?」
ラウロンの名前に反応を示したルメーネを見てゼノは、やはりかと少し笑む。
ラウロンとは数十年前に世界最強の格闘家と称賛された男。アイザック=ネテロとも戦った経験があり結果は時間切れによる引き分け。
ゼノもまた依頼により戦闘経験があるが依頼主を、ラウロンとは一切関係ない暗殺者に始末された事による契約終了で勝敗つかずだった。
「あやつには苦労させられたわ。まさか海を走って逃げる男は初めて見たものでな」
「師範……」
「今も健在か?」
「いえ、もうこの世にはいませんよ。病気になってからずっと治療せず私の修行だけをつけていたせいで……ね」
「つまり今のお前さんには奴の武術、技術その全てが詰まっておるか。どうじゃ、少しばかりワシと遊ぶのは」
ゼノの提案は彼女に刺激を与えた、世界最高峰の暗殺者の一人であるゼノとの組み手。
それを乗り越えた先にあるものを彼女は掴みたくその提案を了承した。
「それじゃあ、構えるかね」
腰を深く落として構えるルメーネ、殺しや戦いの時とは違う闘いの構えだ。
拳は握らず組みにも行ける柔の姿をゼノは深く観察している。
「(ふむ……組みに殴打に脚技までどこからでも攻めれる構えじゃな。隙もない、奴の弟子なだけはある)」
「じゃあ、行くよ!」
先に動くのはルメーネ。まずは試しと正面からゼノに前蹴りを放つ、がゼノは蹴りへの動作に合わせるかのように上体を逸らし回避。
更に足首を掴もうとするが、蹴りから踵落としに切り替えられ咄嗟に腕を交差してガード。
ずんと衝撃が響き地面には僅かながらヒビが入っていた。
「普通なら防御なんて間に合わないんだけどな」
「そりゃワシが普通ではないという事じゃな」
「かはは、おっしゃる通り」
「次はこちらから行くぞ」
「いらっしゃ……‼︎」
言い終わる前に彼女の死角からの抜き手がくるも瞬時に反応し躱す。
が既にゼノはいない、狙いを察した彼女は後ろに跳ぶ。するとゼノの手刀が先程までルメーネがいた箇所に叩き込まれた。
「かっかっか、反応がいいな」
「そりゃどうも!」
そこからはお互いが突きを蹴りを拳を振るい戦うも、防御にも長けた二人はまともに攻撃を受ける事なく周りだけが被害を受ける。
そして熱くなった二人は“念”を解放した。
それから十分間、一手一手が相手を殺す気で打ち合うも状況はほぼ変わらず。一つ違うのは。
「……ふぅ」
「ふむ、体力の差が出てきおったな」
僅かながらルメーネの方が体力を消費している事だ。世界最高峰の武術を叩き込まれた彼女であっても戦闘経験豊富のゼノには消耗させられている。
「かはは、鍛錬不足って師範に怒られちゃうよ。ねぇゼノさん」
「なんじゃ」
「これを最後にしたいんだけどいいかな。最後くらいはちょっと本気でいくから」
「ほう、本気を見せてくれると」
「当主様にも見せていない本気の技、今の自分が貴方にどこまで喰らいつけるか試したい」
「面白い事を言いおる……いいじゃろう。お前さんの本気とやら見せてもらおうか」
「……ありがとう」
了承を得たルメーネは最後の準備に取り掛かる。相手が待ってくれるのを存分に活かす為に、待ってくれた相手を負かす為に。
しっかりと呼吸を整えていた。
「(さて何が来るか……)」
「これが最後の一呼吸……これが終わったら行きますから、お覚悟をしてくださいな」
先程とは違う、拳を深く握る構えをとったルメーネは最後の深呼吸を行った。
そしてゼノは彼女の異質さに驚く。
「(まさか【絶】じゃと……? 間違いなく全身からオーラは出ていない、しかしこの嫌な気配は一体…………ッ⁉︎)」
常に警戒は怠っていなかった。
自分の人生の半分も生きていない小娘、小童などと油断をしていた事はない。
むしろ自身の息子シルバが殺すには惜しいと思わせ、割に合わない仕事と言わせた彼女の事はかなり評価していた。
そんな彼女を相手に油断もせず、本気で構えていたゼノはルメーネ=マーキュリーを見失い、直後に己の右脇腹に重い一撃を食らってしまった。
「(驚いたわ……まさかワシが捉えられんスピードで攻撃してくるか! 面白い‼︎)」
「…………」
思わぬ一撃を食らったゼノは冷静に蹴りの衝撃を活かし、距離を離す。
しかしゼノは察する。ルメーネは既に自分の背後に回っていると、それを回避するには時間が足りないという事も。
「(咄嗟の【堅】で防げたがこれは難しい……恐らく彼奴が呼吸を整えたのはそれだけ神経を使う技。そして今、一切の呼吸をしとらんという事から“無呼吸の間だけ身体能力を遥かに高める能力”と見たが…………対応が追いつかなければ意味がないか)」
とはいえゼノは歴戦の暗殺者。念に至り念を極めた男は彼女の最速の攻撃に対応し始めた。
「……予測を立ててもガードが手一杯か」
自身の戦闘経験から次の攻撃を予測し、その箇所をガード。それはルメーネの攻撃と噛み合い、流れを変えつつあった。
「(私の高速すら追いつくの……本当にゾルディックは化け物揃い‼︎ それでも、私だって負けてはいないよ‼︎‼︎)」
ゼノの正面から向かう最速の拳と蹴り。天突、水月、曲骨と呼ばれる人体の急所を正確に打ち抜いた。
しかし手応えが弱い、完璧に捉えたはずの打撃が死んでいるのを感じた彼女は血の気が失せる。
ゼノから伸びる龍のオーラ、【
ダメージを受けるも彼女は止まらない。
「(直撃しているが……タフじゃな)」
「(かはは、最高〜)」
「ゼ、ゼノ様‼︎」
「「‼︎」」
最速と至高の組み手は執事の一声で終了する事になる。ルメーネは自分の技がある程度、ゼノに通用した事が自信に繋がっていた。
ゼノはこのままやっていればお互い多少の怪我をする事になっていたかもしれない、とルメーネを高く評価していた。
だが二人はそれ以上に思う事が一つだけある。出来るなら決着をつけたかった、と。
「なんじゃ、面白いところだったと言うのに」
「申し訳ございません! 実はシルバ様からキルア様を部屋までお連れしてくれと申し付けられまして」
「ふむ、キルをか。分かった……すまんがお遊びは終わりのようじゃ」
「(……此奴はまだ極までは至っておらん。が、経験を積めば天賦から極まですぐに到達するじゃろうな……本当に面白い娘じゃ)」
「はいはーい、私も楽しかったですよ。ゼノさんありがとうございました」
ゼノが去ってから数分、ルメーネは全身疲労で動けずにいた。
あのゼノを多少なり追い詰めた彼女の切り札、それは自分の師であるラオロンから授けられた奥義の改良型。
その名は【
ルメーネの持つオーラを彼女の肉体に閉じ込めて細胞や筋肉、反射神経に運動能力を活性化し数倍以上の身体能力を得る。
オーラを身体に閉じ込めている為、【絶】に非常に近い状態になり【凝】をしてもそのスピードを捉える事は非常に困難。
彼女の切り札ではあるが発動できる程の相手がいない為、未だ発展途上の能力であり伸び代は計り知れない。
ちなみに師範であるラウロンはこの状態を維持して、ネテロと数時間戦っていた。
「しんどー……久しぶりに使ったから筋肉痛になるかなぁ。今度兄貴に会ったら稽古つけてもらおうかなぁ」
その後、ゆっくりと疲れた身体に鞭を打ち彼女は泊まっている部屋まで戻っていった。
お疲れ様でした。今回は以上になります。
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【
使用者 ルメーネ=マーキュリー 強化系能力+α
→彼女の持つオーラを全て身体中に閉じ込めて、様々な身体能力を通常時の何倍以上に強化する能力。肉体への疲労はかなりのもの。
→実は肉体の内側でも【練】を使用可能であり、【硬】と【堅】を発動して攻撃力と防御力を上げることも出来る。
→ちなみに身体能力を最大から少しだけ落とす事で【千変万化】と組み合わせる事ができ、その状態が今のヘルメスの本気の姿。
→未だ発展途上の能力。
能力名の由来はゼノとネテロの一瞬千撃、時間の流れを越えるような闘いを繰り広げる二人を見た事から名づけた。
ルメーネの【呼応内頸】は途中からゼノに対処されてしまいましたが、それはこれが組み手の為で本気でやりあえばまた違う結果になっていると思います。
後、ゼノが強すぎる為。